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ドイツ・オランダにおける柔軟な働き方
松原 光代,脇坂 明
1.研究の目的
本研究の目的は,ワーク・ライフ・バランス(以下,WLB)の取組が進むオランダとドイツの企業における職場マネジメントや人事管理について,日本企業と比較することを通してわが国のWLB推進への示唆を得ることにある。
日本をはじめ,海外諸国においても少子化や高齢化への対応として従業員のWLB支援の必要性が叫ばれて久しい。しかしながら,日本とEU諸国では企業で働く従業員の働き方に大きな違いがある。武石(2012)によれば,日本と海外4カ国(イギリス,ドイツ,オランダ,スウェーデン)の労働時間や働き方は,海外4カ国では週の労働時間が45時間未満とする労働者が8〜9割程度あるのに対し,日本は6割程度にとどまる。また,働き方についても日本は4カ国に比べてフレックスタイム勤務や在宅勤務などの導入率および利用率が非常に低い。さらには4カ国では始業時間や終業時間の分散が大きいのに対し,日本は同一時間帯に偏る傾向がある。全体として日本は働き方が画一的であるといえる。
こうした背景について,松原(2012)は,西岡(2009)や内閣府経済社会総合研究所(2009)を参考に武石(2012)と同じデータを使い,人事管理の観点から給与と賞与の決定要素の違いを海外4カ国と日本で比較している1)。それによると,日本は職務遂行能力や個人業績を重視する一方,同年代の給与の格差は4カ国に比べて小さく,能力差が明確に付かない傾向がある。さらに,日本とドイツ・イギリスの従業員調査のデータを用いて長期休業者や短時間勤務者が職場に出た場合の職場人員や業務のやり繰りを比較したところ両国では正社員はもとより,非正社員の労働時間,異動,人員増減を現場で駆使したり業務量や業務内容を見直すなど多様な方法を用いているが,日本は正社員の労働時間による調整に偏る傾向がみられた。わが国の人事管理は,柔軟な働き方を可能にする仕組みへ移行していないだけでなく,職場マネジメントにおいても柔軟性が低い。
以上のことを踏まえ,筆者をはじめとする学習院大学の研究チームはWLBと整合的な人事
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管理システムを考察すべく,2012年度に科研費による調査を開始し,2013年度にオランダとドイツの企業(計5社)の協力を得て,企業としてのWLB支援の取組や短時間勤務者等をはじめとするWLB関連制度の利用者を部下に持つ上司に職場マネジメントに関するインタビューを実施した。本稿では,同インタビュー調査を通して以下の点を明らかにする2)。
第一に,両国の企業におけるWLBの取組状況である。具体的には柔軟な働き方に関する制度利用者の多様性を考察する。制度利用者が男女ともに活用され,かつ役職にも偏りがなければ職場のWLB実現度は高いといえる。武石(2012)では,海外4カ国では柔軟な働き方をする労働者が多いことを指摘していたが,本調査においてもそれを確認する。
第二に,キャリアプロセスを従業員(部下)へどこまで明示しているかである。日本企業には,ある職位に就くまでの目安の年数があるが,企業や職場が必ずしもそれを明確に従業員に示しているわけではない。また,ある職位に就くために必要な経験や能力も必ずしも明示されていない。Kato, Kawaguchi, and Owan(2013)は,日本企業の内部労働市場は男女で分断されており,女性の場合はシグナリングにより組織コミットメントの高い人を選抜して育成していくのに対し,男性の場合はラットレース均衡が形成されており,遅い昇進(選抜),年次管理により忠誠心の高い人材の育成に有効に機能しているとしている。つまり,日本はキャリアアップに必要なプロセスが曖昧であるため,WLBが必要な時期でも結果的に昇進意欲の高い者(特に男性)ほど,柔軟な働き方を選択できず,従来通りの働き方に従事してしまう可能性がある。本調査では,調査対象企業のキャリアプロセスをどこまで従業員に明示しているかについて考察する。
第三に,短時間勤務をはじめとする柔軟な働き方に関する制度利用者が職場内で出た場合の職場運営方法である。特に,わが国では短時間勤務の場合は,不在にする時間帯の業務を誰が代替するのか,その際の報酬や評価をどうするかが課題になっている。本調査では,短時間勤務者に配分される仕事内容だけでなく,短時間勤務者が不在となる時間の業務の代替方法や要員管理について日本との違いを考察する。
本稿の構成は以下である。次節では,調査対象国となったドイツ,オランダの柔軟な働き方に係る法制度や松原(2012a)で使用したデータを再分析し,日本,ドイツ,オランダのWLB関連制度の利用者の多様性について考察する。第三節では,ドイツ,オランダの企業に対するインタビュー調査結果を定性的に分析し,最後に第四節で分析結果の要約と示唆を述べる。
2.日本,ドイツ,オランダの働き方
本節では,まずドイツとオランダのWLB政策を概観した後に,筆者の一人が2008年〜2010年まで参加した(独)経済産業研究所のWLB研究会にて実施した「仕事と生活の調査(WLB)に関する国際比較調査」のデータを再分析し,日本とドイツ,オランダの働き方の違いを考察する。
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(1) ドイツ,オランダの働き方の柔軟性への取組
ドイツ,オランダのWLB政策は,ヨーロッパ連合(EU)が1997年に批准したヨーロッパ雇用戦略および2000年に採択した「リスボン戦略」と深く関連している。これらの戦略は,女性や高齢者の就業率上昇と,少子化対策が背景にあり,EU諸国にはこの戦略に即した法律の策定や政策の遂行が義務付けられている。特に,リスボン戦略が発表されて以降,EU加盟国はWLBを一層推進し,中でも出産休暇や育児休暇の拡大と普及,育児施設の充実に関する政策に力を入れている。その結果,EU加盟国の女性就業率は,ヨーロッパ雇用戦略が批准された1997年には,主要15カ国の平均が50.8%であったのが,2007年には59.7%まで上昇した。しかし,女性就労者の多くはパートタイム労働である。男性は「主たる稼ぎ手」,女性は家事・育児を担当するというEU諸国におけるこれまでの構図は日本と変わらない。その中でEU諸国と日本との違いは,前者では業務内容が同じである場合,給与以外の労働条件をフルタイム労働者とパートタイム労働者とで均衡にする旨を法律で義務化している点である。中でもオランダは,1982年の「ワッセナー合意」を起点として「パートタイム労働の促進」という政策を推進し,EU諸国に先駆けて女性就業率を高めていくと同時に,同一労働・同一賃金や労働時間の短縮を実現させている(後述)。
また,EU諸国では,出産休暇などの拡充ばかりでなく,労働時間の短縮に係る議論も活発に行われ,近年は柔軟な労働時間制度の導入に取組む国が多くなっている。短時間勤務制度,いわゆるEU諸国におけるパートタイム労働は,女性の就業率を高めるための柔軟な働き方として積極的に導入されたが,前述のとおり,労働時間の長短に関わらず,労働条件の変更は変わらないものの,家庭の事情でフルタイムからパートタイムに移行すれば収入は低くなる。こうした収入減を回避するWLB施策として,近年EU諸国では,労働時間を柔軟にやりくりする取組を推進する傾向にある。(独)労働政策研究・研修機構(2008)によれば,「欧州生活労働条件改善団体」(European Foundation for the Improvement of Living and Working Condition)が2004〜2005年に実施した第3回のWLB企業調査に回答した企業の約95%,10人以上の従業員がいる企業では48%が柔軟な労働時間を提供するための何らかの施策を実施している。ドイツはスウェーデン,フィンランド,デンマークなどの北欧諸国と並んで最も柔軟性の高い制度を施行している企業の比率が高く,中でも,ドイツの「労働時間貯蓄制度」は,新しい労働時間モデルとして柔軟な働き方の一つとして注目される政策となっている(後述)。
以上のように,EUとしてのWLBに係る取組は同一の方針に沿っているが,各国が重点的に取り組む政策の内容は様々である。以下では,ドイツとオランダのWLB政策の概要について述べることとする。
@ドイツにおける取組
ドイツにおけるWLBの取組は,1990年以降に深刻化した出生率の低さと,それに伴う少子高齢化の加速,女性労働力の未活用,グローバル市場における経済競争力の低下への不安などが背景にある。同国では,WLB政策を長期的に社会的資本及び人的資本や持続的経済活動を保障し強化していく重要な鍵であり,ドイツの持続可能な社会の実現につながる政策であると位置づけている。
ここでは,ドイツのWLBに係る現行法制度のうち,「子育てに関する休業・休暇」,「労働時間」,「柔軟な働き方」の3分野の主な施策について紹介する。
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a.子育てに関する休業・休暇
「子育てに関する休業・休暇」については,「育児休業制度」,「育児期間中の給付制度」があげられる。
「育児休業制度」は,「両親時間」とも呼ばれ,2006年12月に「連邦親手当・親時間法」の中で定められている。同制度は,同一世帯で生活し,その子を養育する被用者に子どもが満3歳になるまでの合計36カ月の育児休業を請求する権利を与えるものである。このうち1年を上限に,使用者の同意があれば子が満8歳になるまで期間を繰り延べることができる。同制度は,両親のどちらかが単独で,または両親同時に取得することもできるほか,使用者の同意があれば,週30時間以内の就労を行うこともできる。
「育児期間中の給付制度」については,それまでは育児休業する者に子どもが生後24か月になるまで月300ユーロを支給していたが,2006年に,2007年1月1日以降に生まれた子どもの養育者に対して,両親手当として支給するものへ変更している。両親手当の基本支給月額は,子の出産前の平均賃金の67%(ただし,1800ユーロを上限額,300ユーロを最低額とする)が支給される。同手当の最長受給期間は14カ月であるが,どちらか一方の親しか育児休業しない場合,受給期間は12カ月となる。つまり,父親が母親の代わりに2か月程度の育児休業または育児短時間勤務(週30時間以内の短時間勤務でも可能)を行うことを想定した「パートナー月」に関する規定となっている。
こうした取組の効果により,男性の両親手当受給率は2007年当初は12%程度であったが,近年は約25%程度まで増加し,男性の柔軟な働き方の定着に一役買っている。
b.労働時間
ドイツの固定的な性格の強い労働時間制度は労働組合の影響もあるが,好調な経済成長により長い間維持されてきた。近年は,産業構造が重工業からサービス業へ変化したことやグローバル化に伴う国際競争力の激化に伴い,労働時間の短縮だけでなく,「働き方の柔軟化」をテーマとした新たな労働時間モデルが労使で求められるようになってきた。
中でも特徴的な制度が「労働時間口座制度」である。同制度は,労働者が企業で残業した時間を労働時間口座に貯蓄していき,それを休暇等の目的で好きな時に使える仕組みである。同制度は,1日の労働時間,週の労働時間を一定の幅の中で変動させることができる。ただし,変動が認められる期間の幅は,部門,企業,事業部等により異なってもよいが,労働時間の延長または短縮のいずれの方向への変動も一定期間の間に平均化し,労働協約または個別企業レベルで同意された平均労働時間と等しくすることが求められている。
労働時間口座制度のメリットは,企業と従業員が通常の労働時間の強い拘束から解放されること,柔軟な労働時間編成が可能であること,従業員は短い時間を積み立てて仕事と家庭の両立が可能になることなどがあげられる。なお,労働時間口座には,1年以内に精算する「短期口座」と,長期的スパンで労働時間調整を可能にする「長期口座」があるが,後者を導入している企業は7%程度と多くはない。
c.柔軟な働き方
「柔軟な働き方」については,主に「パートタイム勤務」,「ジョブシェアリング」,「在宅勤務」があげられる。そのうち,「パートタイム勤務」,「ジョブシェアリング」は,2001年の「パー
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トタイム労働・有期労働契約法」における条項で規定されている。
「パートタイム勤務」については,パートタイム労働を促進する目的から,従業員15人以上の事業所で6か月以上働く労働者が労働時間の縮減や変更を希望した場合は,経営上支障がない限り,これを認めなければならないとされている3)。また,短時間で働いているパートタイム労働者が,労働時間の延長(元のフルタイムに戻るなど)を希望することも可能であるが,同法では,フルタイム労働への復帰権は規定していない。ただし,使用者は,フルタイムのポストを補充する際,差し迫った経営上の理由または他のパートタイム労働者の希望がこれを妨げない限り,同一の適性・能力であることを条件に,そのパートタイム労働者の希望を優先的に考慮することが規定されている。
「ジョブシェアリング」についても前述の法律で規定されている。業務の分割の仕方は,1日の勤務時間を午前と午後で分ける方法,1日置きで交代する方法,週あるいは月単位で交代する方法など様々である。同労働形態には,業務を共同で責任を負いながら労働ポストを分割する「ジョブ・ペアリング」と,個々の業務を互いに独立して勤務する「ジョブ・スプリッティング」の2パターンがある。
「在宅勤務」については,在宅勤務における勤務形態,従業員の地位,自宅での機器,職務内容が労働協約や事業所協定で規定されている。近年の情報化社会の発達に伴い,勤務時間の柔軟化だけでなく,勤務場所も柔軟化しながら労働生産性を維持・向上する働き方として,その取組が推進されているものである。
Aオランダにおける取組
オランダのWLB政策は,雇用の柔軟性の改革として政労使三者の合意に基づき,労働時間規制の緩和とパートタイム労働の促進を基に推進されてきたという特徴を持つ。ここでは主に,「柔軟な働き方」にかかるパートタイム労働とテレワーク(在宅勤務制度)について,「仕事と育児の両立支援」を紹介する。
a.柔軟な働き方
オランダのWLB実現の鍵は,まさに「パートタイム労働」の促進である。同国におけるパートタイム労働政策は,1982年の「ワッセナー合意」により始まっている4)。長坂(2001)によると,オランダがパートタイム雇用を促進した背景には,1)ワッセナー合意による賃金抑制策により,共働きにより実質所得の減少を防ごうとしたこと,2)オランダの産業構造における民間サービス部門の成長がパートタイム労働の受け皿となったこと,3)オランダに根強く残る男女分業の考え方がある中で,パートタイム労働が女性の労働市場参入の敷居を低くしたこと,4)こうした男女分業意識により,同国では保育施設の充実がなかなか進まなかったことの4つの要因があると指摘している。
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オランダでは,1990年代にはパートタイム労働に関する法整備がかなり進んでいたが,1996年の労働時間差差別禁止法により,賃金・手当・福利厚生・職場訓練・企業年金などの全ての労働条件が,パートタイム労働者とフルタイム労働者とで同一の権利が保障されるようになった。
さらには,2000年の「労働時間調整法」により,従業員10人以上の企業で1年以上雇用され続け,かつ過去2年間に労働時間の変更を求めなかった労働者に対しては,時間当たりの賃金を維持したままで,自らの労働時間を短縮・延長する権利が認められるようになった。なお,同法では,使用者はできるだけフルタイム労働からパートタイム労働への転換希望,またはパートタイム労働からフルタイム労働への転換希望を考慮すべきであるとしながらも,企業にとって深刻な問題が生じる場合は,その申請を拒否できるものとしている。
一方,テレワーク(在宅勤務制度)も近年のオランダにおいてWLBを推進するうえでの重要な取組となっている。同制度の導入は労使の自主的取組みに任されており,企業規模が大きいほど導入率は高い。2008年のオランダ統計局の調査によれば,同制度の導入率は従業員10〜19人で38%,250〜499人で87%,500人以上で91%であり,他国に比べて高い割合となっている5)。
b.仕事と育児の両立支援
1991年に育児休業制度が創設されたが,2009年1月に子どもが8歳になるまでの間に週労働時間の26倍の時間(約半年間)まで両親がそれぞれ休業できる制度へ変更となっている。実際には,週労働時間を短くしパートタイムで働くといった利用方法が一般的である。また,取得期間を分割して取得することも可能である。休業中の所得保障の水準は,労使の自主的な取組に任されており,公的部門では75%の所得が保障されている。
(2) ドイツ,オランダにおけるWLB関連制度の利用者
以上の各国の法的特徴を踏まえ,日本,ドイツ,オランダの働き方の違いをデータを用いて考察する。
表1は,日本,ドイツ,オランダのホワイトカラー職の正社員を対象に行った「仕事と生活の調査(ワーク・ライフ・バランス)に関する国際比較調査」(従業員調査)を用いた結果である。なお,オランダはサンプル数が少ないため,以下では主に日本とドイツを中心に比較する。
現在の勤務先での柔軟な働き方に関する制度の利用経験をたずねたところ,日本は各制度ともドイツに比べて利用率が非常に低い。具体的には,「育児休業」は,日本は「役職計」で6.6%,「一般社員」でも8.5%,役職付きについては4%程度であるが,ドイツは「役職計」で16.0%,「課長」で15.8%,「部長以上」で14.5%と日本の3倍以上となっている。「育児のための短時間勤務制度」においても,日本では「役職計」で2.7%で,役職付きでは2〜3%程度であるのに対し,ドイツは「役職計」で17.5%,役職者でも20%前後となっており,管理職でも柔軟な働き方を利用できていることがわかる。なお,参考レベルでオランダについてみると,同国でも育児や育児以外の理由による短時間勤務制度やフレックスタイム勤務,在宅勤務制度などの
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利用は多く,育児のための短時間勤務制度や在宅勤務制度は,部長以上の40%強が利用している点は興味深い。
次に,現在の働き方を日本とドイツで比べた結果が表2である。現在,どのような働き方をしているかをたずねたところ,日本は「フルタイムの通常勤務」がいずれの職位でも90%以上を占め,「フレックスタイム勤務」と「裁量労働制」がそれぞれ「役職計」で6.8%,2.1%,課長や部長職で3〜5%程度となっているが,そのほかの働き方についてはほとんど利用されていない。一方,ドイツでは,「フルタイムの通常勤務」がどの職位でも70%前後と最も多いものの,「フレックスタイム勤務」を30%程度が利用している。また,「在宅勤務」は,「一般社員」が5.6%であるのに対し,「部長以上」は10%以上が利用しているうえに,「短時間勤務」も「役職計」で8.1%,管理職(課長,部長以上)でも2〜3%が利用している。なお,オランダを参考レベルでみると,20%弱がフレックスタイム勤務や短時間勤務などを利用しながら働いていることがわかる。
以上のことから,ドイツやオランダでは一般社員はもとより,課長や部長などの役職者も柔軟な働き方ができるが,日本は柔軟な働き方ができない状況だといえる。
また,これを男女別で見たものが表3である。日本は男女ともに柔軟な働き方に係る制度の利用が少なく,「フレックスタイム勤務」が男女とも6〜7%で,他の柔軟な働き方に比べて比較的多い。「短時間勤務」についても,女性は2.4%となっている。これに対し,ドイツは,「フレックスタイム勤務」が男女ともに30%強ある。「短時間勤務」については,男性は3.2%と少【158
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ないが,女性は13.6%となっている。「短時間勤務」については,女性による利用が多いが,他の柔軟な働き方に係る制度の利用については,男女で大きな違いがあるとはいえない。ちなみに,オランダについて見ると,同国は男女で働き方に違いが見られる。同国では,女性は,「フルタイムの通常勤務」が45%,「短時間勤務」が40%と,働き方が2極化しているといえる。一方,男性については,「フルタイムの通常勤務」が78.8%あるが,「フレックスタイム勤務」が21.2%,「在宅勤務」が15.2%となっており,女性に比べて利用者の割合が高い。同国の男性は,労働時間の長さは変えずに働く時間や働く場所を柔軟にしながら就労しているといえる。
以上のことから,ドイツやオランダの男性は,それぞれ利用する制度に違いが見られるもの
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の,日本の男性に比べ柔軟な働き方に係る制度を利用している。また,女性だけみても,日本はドイツやオランダに比べて画一的な働き方をしているといえる。
3.ドイツ,オランダにおけるインタビュー調査結果
(1)調査概要
ドイツやオランダのように柔軟に働くことを可能にするためには何が必要かを明らかにすべく,ドイツ,オランダ両国の企業の協力を得て,企業の人事部門担当者と柔軟な働き方をする部下を持つ職場のマネジメント者を対象にインタビュー調査を実施した。同調査では,人事部門担当者へ柔軟な働き方に関する制度の概要,企業としての取組などを,職場マネジメント者に対しては職場の概要(規模,職務内容),柔軟な働き方に関する制度利用の状況,制度利用者への業務配分,要員管理・確保などをたずねている。インタビュー調査の概要は以下のとおりである。
@対象企業
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※A社とC社は,本社を英国に持ち,グローバルに展開する同一グループ会社であるが,導入しているWLBに係る制度については各国でそれぞれ異なる。
A調査時期
2013年7月
(2)WLBへの取組理由
インタビュー対象企業の全てが,今後の労働力の減少を鑑み従業員のWLB支援が重要であるとの認識に立ち取り組んでいる。特にB社は,WLBを企業戦略の1つに位置付け,高い能力を持つ大卒の社員を確保していくには魅力的な企業経営が重要であり,そのためにはWLBによる現代に合った職場環境を醸成していくことが重要だとしている。
(3)各社の柔軟な働き方に関する制度内容
短時間勤務については,インタビュー対象企業の全てが理由を限定せずに利用を認めている。勤務時間についても,週24時間から40時間の間で上司と協議のうえ柔軟に労働時間を決定できる仕組みとしている。また,在宅勤務もインタビュー対象企業の各社が導入していた。たとえば,A社は,従業員が業務の特性を考慮しながら短時間勤務や在宅勤務を選択したり,組み合わせて働くことを奨励している。
両国における特徴は,短時間勤務者の多くが1日の労働時間を短くするケースよりも週の出社日数を減らしている点である。また,短時間勤務制度と在宅勤務を併用し,帰宅後や非出勤日も在宅で業務をしている点も共通している。ドイツやオランダでは,各従業員のライフスタイルに合わせて働く時間や場所を柔軟にしながらも,実労働時間はフルタイム勤務と大きく変えていないといえる。
このほか,特徴的な制度としては,A社の「フローブロック制度」である。同制度は,長時間労働が続いたあとに長期休暇を取得できる制度である。同社は,コンサルティングを主たる業務としており,顧客の状況次第では一定期間,長時間労働が続くケースも少なくない。こうした職場では,年間の労働時間を均す制度が従業員のWLBを実現する一施策として有効だと言える。
(4)柔軟な働き方に関する制度利用の状況
両国とも短時間勤務制度の利用が多く,国内従業員の1〜2割が短時間勤務である。利用者の多くは女性であるが男性や管理職による利用も少なくない。
たとえば,オランダのD社では15人の職場のうちの12人が短時間勤務者であり,うち9人がマネジャーである。これら管理職の週労働時間は32時間(週4日勤務)から週36時間で,フルタイム勤務時の80〜90%の勤務時間(週4日勤務または週4.5日勤務)である。彼らは,オランダ国内にいる2400人のコンサルタントの各職場を訪問し,人事にかかる問題を把握し,その解決となる教育プログラムを構築する業務を担っている。業務の突発性はほとんどないが,業務量は多く,国内の日帰り出張は多い。また,C社でも職場メンバーの9割が短時間勤務であり,全員がそろうことは珍しい。同職場の管理職(部長クラス)で本インタビューに対応していた者も週36時間の短時間勤務者であった(毎週水曜日の午後に制度を利用,フルタイム時の
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90%勤務)。このほか,ドイツのA社では,約300人の部下を持つ部長(男性)が,長時間労働が続く案件を終えた後,3か月程度の長期休暇を取得するケースが複数あった。また,育休から復職した女性のシニアマネジャー(課長クラス)が,週3日の短時間勤務制度と在宅勤務制度を利用していたケースもあった。なお,現在は,男性のシニアマネジャー(課長クラス)が,第二子の出産に伴い,週3日の短時間勤務制度と在宅勤務制度を利用している。
短時間勤務制度の利用理由については,育児を理由とするケースが多い点は各社同じであるが,ドイツでは,近年博士号や修士号を取得するために利用する者が増加している。A社では博士論文の執筆や修士号取得のための大学院通学のために,短時間勤務制度(週4日勤務)を取る者が複数出てきている。
このほか,B社では,経営者が長期の休業を取得し範を示し,従業員による休業や短時間勤務制度の取得や在宅勤務などを推進している。その効果について,B社はシフト制を組む生産部門や人員が不足している開発部門を除き,営業部門などでも男女ともに育児休業や短時間勤務制度の利用者が増加している点を挙げている。また,A社では,近年男性が育児休業を2〜3か月程度取得するケースが増えてきている。
以上のように,インタビュー対象企業では,WLB関連制度は男女共に利用されているほか,管理職,さらには経営者によっても活用され,利用対象者は多様である。
(5)キャリアプロセスの明示について
日本では管理職になるまでには一般的に10〜20年を要し,その間,多様な能力(スキル,知識)を習得するために,複数の職場やプロジェクトを経験することが暗黙の了解とされている(松原(2012b),Kato, Kawaguchi and Owan(2013))。これに対し,本調査対象企業では,管理職を目指す部下や管理職にしたい部下については,必要となる経験やそのために必要な勤務日数などを明示している。
たとえば,コンサルティング業務を主とするC社では,コンサルタントは,スタッフ→シニアコンサルタント→マネジャー→シニアマネジャー→エグゼクティブ・マネジャー(またはパートナー)の順で昇進する流れとなっている。昇進するには,様々な仕事,企業に関わるプロジェクトを一人当たり10〜20社を担当し,それを通してリーダーシップを経験・習得していくことが求められる。したがって,シニアマネジャーやエグゼクティブ・マネジャーに昇進するためには,週4日以上のフルタイム勤務が求められる。同社では,キャリアアップを目指す者については,上司が週4日以上のフルタイム勤務が必要であることを明確に当事者に示すこととしている。
A社においても同様であり,シニアマネジャーを目指すマネジャー(女性)が育児休業を取得し,80%の短時間勤務で復職しているが,週2日の社内業務と週2日のコンサルタント業務をこなしている。また,D社も顧客へのコンサルタントが主たる業務となっており,同社においても,シニアマネジャー(課長クラス)に就任するためには必要な教育プログラムの受講や多様な顧客を担当する必要があるため,週4日以上の勤務が必要であること明示している。
各社ともどのようなキャリア形成をするかは個々人が決めることとしているが,キャリアアップをするために必要な能力要件はもとより,その能力取得に必要な働き方についても明示し,本人が主体的にキャリアとそれに必要な働き方を選択している。
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(6)会議や出張について
日本では,短時間勤務者が不在の時間帯や日に開催される会議や打ち合わせについては,その上司や同僚が出席し,議事内容を申し送りするのが一般的である。また,出張については,短時間勤務者は原則宿泊を要する出張へは参加しない傾向が見られる(松原(2012b),武石(2013))。
一方,インタビュー対象企業においては,会議内容から参加の必要性を短時間勤務者に判断させている。また,必要な会議については,上司が参加を命じることもある。D社では,毎週決まった曜日の決まった時間に,管理職同士が情報共有するための会議を開催しているが,職場メンバーの9割以上が短時間勤務者であるため,全員が参加できる曜日や時間帯に会議をセッティングすることは難しい。したがって,自分の勤務時間外に会議が開催され,それに出席する必要があると本人が判断した場合は,各自がパートナーや家族の協力,または外部のサービスを活用して会議に出席することを促している。
また,出張についても,判断を本人に任せることとしている。特に出張は,事前に相手の日程の調整をすることができるため,自分の調整出来る日を相手に提示・交渉し,出張へ行くケースも少なくない。週3日勤務のA社のシニアマネジャー(男性)は,自身が短時間勤務制度を利用していることを顧客に話したうえで,互いの日程を調整し,出張に出向くようにしている。また,B社では,社内の相談窓口で出張時の子どもの預かりなどに関する施設情報を提供したり,ベビーシッタ―を紹介するほか,それらの費用を会社が負担し,出張などにも気兼ねなく参加できるよう支援している。
以上のように,短時間勤務者に会議,出張の参加の有無を主体的に判断させ,自分のキャリ
アや業務に対する責任感を醸成している。
(7)短時間勤務者へ配分する仕事の質・量について
本調査では,インタビュー対象のいずれの管理職も週32時間(週4日勤務)であればフルタイム勤務時と仕事内容を変える必要はないが,勤務時間が短くなる分,業務量を減らす必要があるかもしれないとしている。こうした背景には,両国の法律でパートタイム労働者の業務については,フルタイム勤務時と同等の仕事を与えなければならないことが定められていることが起因している。しかし,法律だけでなく,短時間勤務者の上司は,長期的視点に立ち,短時間勤務者のモチベーションと能力を維持・発展させることが重要だとしている。たとえば,A社では,週3日勤務のシニアマネジャー(課長クラス)の業務について,フルタイム勤務時と同じ案件を担当させているが,案件数を減らしている。同社では,短時間勤務者が今後キャリアアップしていくために必要な能力やスキルを維持・確保していくためには,仕事の質を変えるべきではないと考えている。
しかし,仕事の質は同類でも,顧客対応の難しさなどがフルタイム勤務者と短時間勤務者で異なることがあると指摘する声もある。D社では,上位職になるほど高い知見とスキルが必要になり複雑な顧客を担当することが多くなるが,勤務時間(日数)によっては,上位職にある者でも難易度の低い案件を担当させることがあるとしている。
わが国でも,短時間勤務者の担当業務は一見仕事の質が同じように見えるが,手間が比較的軽い案件などフルタイム勤務者の業務の質と異なる場合がある(松原(2012b))。ドイツ・オランダにおいても,フルタイム勤務者の仕事の質は,短時間勤務者のそれに比べて平易になる
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可能性があるといえる。その点に限って言えば日本と大きな違いがあるとはいえない。
(8)職場の要員管理について
日本では短時間勤務者を要員1名分としてカウントすることが多いため,職場全体の業務量が減ることはない。したがって,短時間勤務者が時間内に処理できない業務量は,職場の他の要員で対応するのが一般的である。
インタビュー対象企業においても,短時間勤務者が出ても職場の業務量の総量は大きく変化せず,短時間勤務者が担当する業務で突発的な対応が必要となれば,可能な限り本人が対応する。それでも対応しきれない場合は職場の同僚でカバーし,派遣などを外部から確保することは少ない。
しかし,A社では,緊急な対応が必要な場合は,ドイツの他の地域から同等の能力や経験を持つ人材を呼び寄せることもあるとしている。また,B社でも,休業期間や制度利用者の不在時間帯における火急の対応として,海外(たとえば日本)に駐在している同等の能力や職位の者を業務指示者として充てることがあるとしている。職場の管理職に,一定の範囲における人(正社員)の異動を認め,人事権が現場に委譲されていると考えられる。
4.要約とインプリケーション
本稿は,WLBが進むドイツやオランダにおける働き方の特徴を示すと共に,わが国のWLB実現に向けた鍵は何かを明らかにすることを目的とした。明らかになったのは以下の5点である。
第一に,オランダ・ドイツでは,女性はもとより,男性によるWLB関連制度の利用も少なからずあるほか,職位に関わらず柔軟な働き方が可能である点である。過去に柔軟な働き方に係る制度を利用した経験がない管理職の職場では,現在の勤務形態も従来通りの働き方になる可能性は高い。日本では,過去を含め,役職者,非役職者の働き方は画一的であるため,新たに柔軟な働き方を職場で推進していくことへの抵抗感は小さくないと思われる。また,女性の働き方もオランダやドイツに比べて画一的であることから,女性のWLBの実現もわが国では難しいことが伺える。今後,職場にWLBを定着させるためには,経営者はもとより,職場のマネジメント者への強い働きかけや支援が不可欠となろう。
第二に,ドイツやオランダでは経営者がWLBの推進に強いコミットメントを持っている点である。両国の優秀な人材の獲得に係る危機感は強く,そのためにWLBが必要な施策であるといった認識に立っている。したがって,経営者が休暇を積極的に取得するなど,WLB実現に向け自ら範を示すことも少なくない。経済産業省が進める「ダイバーシティ経営企業100選」は,ダイバーシティの推進には経営層のコミットメントが重要であることを指摘している。また,松原(2011)は,就業時間内で業務を終えるようマネジメントしたり,WLBに係る意識が高い管理職の下では,部下のWLB満足度が高くかつ職場生産性も高いことを明らかにしている。経営者のWLBに対するコミットメントは従業員のWLB実現に強い影響力を持つと考えられる。こうした経営者の姿勢や行動が柔軟な働き方をする者の多様性にも影響していると思われる。
第三に,ドイツやオランダではキャリアプロセスが「見える化」されている点である。両国
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ではキャリア形成のうえで短時間勤務制度の利用が負の影響を及ぼす可能性がある場合は,事前にその旨を部下へ伝え,キャリアアップを図りながらWLBを実現するためのマネジメントが行われていた。日本では社員のキャリア形成に対し,管理職や人事部門が介入する傾向が強く,部下自身がキャリア形成に主体的に関わる傾向は少ない。一方,ドイツやオランダでは,キャリア形成は個々人の判断に任され,上司はそれを支援する役割ととらえている。個々人のキャリアを支援していくためには,管理職になるために必要な能力・経験や条件が明らかにする必要がある。それを踏まえ,個人はWLBに関する制度を活用し,キャリアをいかに形成するかを考える必要がある。また,管理職と部下でキャリアについて話し合う機会を作っていかねばならない。
第四に,上記三とも関連するが,管理職へキャリアアップするために必要な就労時間として,フルタイム勤務時の80〜90%(週4日〜4.5日程度)で十分だとしている点である。また,管理職もフルタイム勤務の80〜90%で職務を果たしているケースが多い。Kato, Kawaguchi and Owan(2013)は,わが国の昇進システムは男性にはラットレース均衡が生じていることを指摘している。つまり,能力以上にコミットメントを重視したキャリア開発が行われている可能性がある。従って職場のマネジメントも業務効率性よりもコミットメントを部下に求め,それを見極めるため,管理職自身も長時間労働をせざるを得ない状況に陥っていると考えられる。
第五に,キャリアだけでなく会議や出張についても,オランダ・ドイツではその出席に係る判断は従業員に任されている点である。松原(2012b)は,日本では会議や出張の意義や目的が明確にされることは少ないが,少なくとも管理職はその意義を知っており,それらに参加しないことがキャリアロスにつながる可能性がある点を指摘した。ドイツやオランダにおいては,会議に出ることを促しながらその出欠にかかる判断を本人に任せていることが少なくなかった。会議や出張への参加は業務への責任感を醸成し,迅速な判断力を養う場面でもある。こうした取組がキャリア意識を高く維持することに寄与している可能性がある。
第六に,ドイツやオランダでは,急激な業務量の変化に対して外部から人材を確保できるなど人事権が職場の部門長に委譲されている点である。日本では派遣社員の採用はもとより,部門間の人材のやり繰りには人事部門が大きな人事権を有している。現場同士のやり繰りを円滑かつ迅速にできる仕組みがWLBの実現に大きく影響している可能性がある。
以上のことを踏まえ,わが国のさらなるWLB推進には何が必要かを考察したい。
まず,経営者のコミットメントである。これについては,わが国でも長く言われてきているが,日本企業の経営層はWLBに対する認識が低いと思われる。少なくとも調査対象のドイツやオランダの企業では,少子高齢化を喫緊の課題ととらえ,それに対応すべく経営層が率先してWLBに関する範を示し,従業員によるWLB関連制度の利用を促している。経営層が自ら柔軟な働き方を行い,それに必要な対策を講じていくことが,現場の管理職もWLBを実現できる経営改革や業務遂行改革につながると考える。
第二に,現場の管理職への人事権の委譲である。平野(2006)は,日本企業の人事情報の粘着性が人事権の中央集権的な人事部門集約に影響している可能性を指摘している。柔軟な働き方の進展に伴い,職場の機動力を落とさない人事権のあり方を再検討する必要があるだろう。東京大学WLBプロジェクト(2009)は,職場のWLBの実現には,部下の仕事の進め方の裁量度をあげることが重要だとしている。人事権についても職場の裁量度を高める検討をすべきであろう。
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第三に,管理職による柔軟な働き方の実現である。今後,日本は超高齢社会に移行し,仕事と介護の両立が常態化する可能性がある。仕事と介護の両立は,40代以降の管理職を含む就労者にとって大きな課題になる。経営者によるWLBの推進が重要であるように,管理職自身が多様な働き方をしていくことが部下のWLB実現に寄与する。仕事と介護の両立を可能にするためのシミュレーションとして,管理職も在宅勤務を活用するなど,柔軟で多様な働き方を実践していくことが必要である。結果的に,業務遂行のあり方の見直しなどにつながる可能性がある。
第四に,マネジメント力の向上である。現場の管理職の権限移譲を行うことは,現場マネジメント者のマネジメント力が問われることになる。日本では,これまで管理職を業務遂行能力が高いものを評価し昇進させてきた。しかし,現場マネジメント力が高くなければ自分自身や部下のWLBの実現を図りながら職場を円滑に運営していくことは難しい。管理職の選抜について,今後は業務遂行能力だけでなく,マネジメント力もより重視していくことが期待される。
第五に,労働時間管理の方法や評価基準の見直しである。オランダやドイツでは短時間勤務だけでなく在宅勤務も併用されていた。こうした働き方を可能にする背景には,目標設定を明確にし,その実現度に応じて評価する仕組みがある。ゆえに,ミッションの達成に投じる時間や方法は本人にゆだねることができる。一方,日本企業では,短時間勤務者は勤務時間外は業務を行わないことを原則としているケースが多い。こうした業務管理方法や評価方法が従業員のWLBの実現を阻害している可能性がある。ドイツやオランダが働き方の柔軟度を高めた背景には,グローバル化による競争激化に伴い労働時間の延長が求められる中,働き方を柔軟にすることで従業員の仕事と生活の両立を確保したことがある。と同時に,労働時間の短縮の推進が難しくなったために,EU諸国は合わせて健康の確保を図るために勤務間インターバル規制を導入した。新たな経済の潮流に応じながら働き方の管理・規制,さらにはそれを円滑に運用していくための評価基準が求められている。
参考文献
権丈英子(2012)「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス」 『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』 ミネルヴァ書房
武石恵美子(2012)「ワーク・ライフ・バランス実現の課題と研究の視座」 『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』 ミネルヴァ書房
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長坂寿久(2001)「第三章 オランダ」 『経済の発展・衰退・再生に関する研究会報告書』,財務省財務総合政策研究所
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平野光俊(2006)『日本型人事管理』 中央経済社
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松原光代(2012a)「ワーク・ライフ・バランス施策が効果的に機能する人事管理」 武石恵美子編 『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』 ミネルヴァ書房
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松原光代(2012b)「短時間正社員制度の長期利用がキャリアに及ぼす影響」,『日本労働研究雑誌』,No.627,pp.22-33
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(独)労働政策研究・研修機構(2008)『欧州における働き方の多様化と労働時間に関する調査』 JILPT 資料シリーズNo. 41
(独)労働政策研究・研修機構(2009)『ヨーロッパにおけるワーク・ライフ・バランス 労働時間に関する制度の事例』 資料シリーズNo. 59
(独)労働政策研究・研修機構(2012)『ワーク・ライフ・バランス比較法研究(最終報告書)』 労働政策報告書No. 151
KATO Takao, KAWAGUCHI Daiji, and OWAN Hideo,( 2013)“Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An econometric case study of a large Japanese firm”, RIETI Discussion Paper Series 13-E-038