*) 学習院大学経済学部教授。On Financial Intermediation of High Frequency Trading 〜 An Analysis of Weir and its Functioning 〜. 内容などの連絡先:〒171-8588豊島区目白1−5−1学習院大学経済学部,TEL(DI):03-5992-4382,Fax:03-5992-1007,E-mail: Kenichi.Tatsumi ◎ gakushuin.ac.jp(ご送信される場合◎は@に置き換えてご利用ください。)
1) まず第一の問題点は,呼値の刻み幅を超える株価変動の取り扱いに関してである。従来の研究では,サンプル期間で同じ呼値の刻みを持っている個別銘柄を分析の対象に限定して検証することがなされることが多い。そして,ある銘柄の株価が刻みを跨げば,その銘柄を分析対象のサンプルから除外する,処理がなされてきた。しかしながら,この分析方法を採用した研究は株価変動パターンが類似した銘柄のみを検証対象としていることになっており,その範囲の研究に留まる。極度のサンプル・セレクション・バイアスを起こしているので,計測結果は係数推定値,その有意性などがまったく信頼できない。呼値の刻み幅を超えて株価が変動するケースを除外すれば,広く妥当する分析とは言えない。
東証の呼び値刻みが株価水準で変わっていくことの効果・影響,呼び値が変わるポイントでの株価形成についての検証,には関連する先行研究が大村・宇野[1998]と太田[2007]の2点(大村敬一・宇野 淳[1998]「株価と売買高」 『早稲田商学』 第376号,1998年3月,pp.445-474。太田亘[2007]「東証における価格クラスタリングと投資家選考」 『経済科学』 第54巻第4号,2007年,pp.51-62。)ある。しかしながら,本稿の分析には参考にはならない。
大村・宇野[1998]には「呼値の幅と株価の相対的な大きさが投資家の行動に影響する」という言葉があるが,直接的な検証などはない。流動性変数(具体的には,カイルのラムダ)が当該銘柄の株価が上昇する時と下落する時に値を異にする,その差を説明する変数として呼値/株価が取り上げられ,有意なプラスの係数推定値を得ている。
呼び値の刻みが株価水準に対して,相対的に細かく,時価総額が小さく,価格変動が大きい場合,末尾に0や5等の切りの良い数字が付くことが多い。これが価格クラスタリングと呼ばれる現象である。太田[2007]には,価格クラスタリングを説明する変数に呼び値/VWAP が用いられているが,最適化から導かれた投資行動などの検証はない。
2) 時間帯によって呼値の刻みが違う事例は,ナイトタイム・セッションである。ジャパンネクストPTSの呼値(注文単価の刻み)は,8時20分〜16時30分の時間帯では東証より細かく刻んでいるが,ナイトタイム・セッションでは,2011年3月14日(東日本大震災による電力供給逼迫のため休止。2012年1月30日(月)より再開する)以前,東証と同じになっていた。2011年中のほとんどの期間休止していたが,夜間取引では東証と同じ呼び値の刻みであった。
3) 超高速取引の批判派が要求するのは,執行前に取り消すことを目的に買いと売りを同時に提示する「スプーフィング(見せ玉)」などの慣行を禁止することである(ロイター2013年5月20日)。