1) 自治体によっては,動物愛護管理センター,動物愛護相談センター,動物愛護指導センターなどの呼称がある。
2) 下記,「ペット」と言う言葉を,犬と猫に限定して用いることにする。また,通常,犬は頭,猫は匹という単位で数えるが,ここでは両方とも頭で数えることにする。
3) 具体的な殺処分の状況は,今西・浜田(2009)に詳しい。
4) 2012年改正はペットの所有者からのみの引取り拒否を定めたので,所有者が捨て犬,捨て猫を装って行政に引取りを求めた場合には,拒否ができないという抜け穴が生じていた。
5) 法改正の詳細については,東京弁護士会公害環境特別委員会(2020)を参照されたい。
6) そのような取り組みの実際については,片野(2012)が非常に詳細なルポルタージュを提供している。
7) 殺処分率の割合の変化をみると,犬(図表7)の方が猫(図表8)に比べて殺処分率の減少幅が大きい。猫については,離乳していない幼齢の個体の持ち込みが多く,譲渡に適する月齢になるまでの世話が大変であるため,やむを得ず殺処分となる割合が高いようである。
8) 「市場」とは言うが,無論,子犬や子猫のペットオークションのように,特定の場所で大量のペットが売り買いされるような物理的な市場があるわけではない。経済学で言う市場とは,物理的に存在する市場だけではなく,全国各地で開かれている保護ペットの譲渡会や個人間の譲渡など,様々な形で行われている取引全体を表す概念である。以下,この節で説明する市場分析は,古紙のリサイクル市場についての分析を行った細田・横山(2007)の第9章を参考にしている。経済学的にみると,保護ペットの譲渡とは一種のリサイクルと考えることができるから,リサイクルに関連する経済分析から学ぶ点は多い。他に,植田(1992),日引・有村(2002),リチャード・C. ポーター(2005),細田(2012)なども参考とした。
9) 第一種動物取扱業者とは,継続して営利目的で動物の取扱い(販売,保管,貸出し,訓練,展示,競り,あっせんの7種類のいずれか)を行う業者である。動物愛護団体など,継続的に譲渡や保管,貸出し,訓練,展示のいずれかを行う団体に関しては,非営利業者として第二種動物取扱業者の届け出をすることが定められており,非営利という制約から利益を出すことができない。もっとも個人のボランティアなどは,取り扱うペットの数が少ないため,第二種動物取扱業者の届け出を行わなくて良いことになっているが,第一種動物取扱業者でもないので,営利活動を行うことはできない。ただし,第二種動物取扱業者は,実費として少額の金銭等を受け取る場合は,いわゆる実費弁済として認められる場合がある。
10) 情報サイトのenkaraの調べによると,東京都動物愛護相談センターに認定登録された犬の保護団体でWEBサイトを持っている31団体のうち,2022年2月時点で,譲渡費用を明記している団体は16団体,金額は1万円から6万円であった(https://enkara.jp/20210121-jouhou-35/)。行政でも,神奈川県動物愛護センターのように,犬譲渡手数料としてオス4,275円,メス8,140円を徴収している場合がある。また,愛知県の動物愛護センターは,センターで不妊去勢手術を実施した犬猫1頭につき9,000円,手術を実施していない犬猫5,000円の譲渡手数料を徴収している。
11) それらの費用負担も,実費+α程度であり,あまり高い価格や低い価格が存在する訳ではないが,経済学で考える需要曲線とは,仮に高い価格,低い価格であったならば需要はどうなるかという消費者の中の計画(スケジュール)であり,現実にその市場価格が存在するかどうかは問題ではない。
12) 例えば,供給側に補助金を出す場合には,三角形C-p’Bが消費者余剰であり,その面積から補助金額(p-p’BAで囲まれる四角形)を差し引いた面積が社会的余剰となる。これは図から明らかな通り,三角形CpEから三角形EBAを差し引いた面積に等しい。次に,需要側に補助金を出す場合には,三角形GpAが消費者余剰であり,補助金額(GCBAで囲まれる平行四辺形)を差し引いた面積が社会的余剰である。三角形GpAは三角形C-p’Bと等しく,平行四辺形GCBAの面積は四角形p-p’BAの面積と等しいから,これも三角形CpEから三角形EBAを差し引いた面積に等しい。一方,行政が引取りを一切行わない場合には,本文に述べたように,所有者が様々な形で費用負担を行う。その費用負担は非常に不透明ではあるが,総額は概ね三角形EBAの面積に近くなると考えられる。まず,所有者が保護対象ペットを業者に引き取ってもらう場合には,業者の引取り価格は需要曲線のE-Bの部分に近いものとなるはずである。なぜならば,E-Bから乖離した価格がついているのであれば,譲渡市場との間で裁定取引が可能となるからである。同様に,所有者が保護対象ペットをやむを得ず飼い続けたり,動物愛護団体やボランティア経由で譲渡された場合でも,譲渡市場での再取引が可能と考えれば,その費用負担は三角形EBAの大きさに近づくはずである。ただし,後述のように,ペットの遺棄などが広範に生じて,取引(譲渡)が行われないペットがたくさんいる場合には,結論はこの限りでは無い。
13) より正確に言えば,社会的限界費用曲線H-Hは,図表15の供給曲線S-Sから需要曲線D-Dを差し引いたものである。0からqまでは社会的限界便益が生じているので,社会的限界費用曲線H-Hはマイナスの値となっている。
14) これは,必ずしも行政(動物愛護センター)自身が終生飼養を行うということではなく,終生飼養を行うための適切な施設とスタッフを持つ団体に委託しても良いだろう。例えば,ドイツにおけるティアハイムのような施設に委託することが考えられる(浅川・有馬(2018))。もちろん,委託費用は飼い主から徴収した引取り料金を充てることになる。
15) 一般社団法人ペットフード協会の「令和3年全国犬猫飼育実態調査」によれば,犬の平均寿命14.65年,猫の平均寿命15.66年であるから,この年数で生涯必要経費を除した。
16) 具体的には,「1年当たりの必要経費×平均寿命/2×現在の殺処分確率」を犬と猫について計算した。殺処分確率は,図表1の殺処分のうち譲渡不適切なケースと譲渡先が見つからないケースの数を合計したものを分子,分母を譲渡数と殺処分数の合計とした。それぞれ犬が18.25%,猫が33.40%である。限界費用の計算結果は,犬が223,511円,猫が256,460円である。
17) 一般社団法人ペットフード協会の「令和3年全国犬猫飼育実態調査」によれば,犬を飼っている世帯の割合は9.78%,猫を飼っている割合は8.94%である。
18) 動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)の第七条4には,「動物の所有者は,その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で,できる限り,当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)に努めなければならない。」と定められている。また,同第二十二条の四には,「犬猫等販売業者は,やむを得ない場合を除き,販売の用に供することが困難となった犬猫等についても,引き続き,当該犬猫等の終生飼養の確保を図らなければならない。」という規定がある。
19) このような流通過程の闇については,太田(2013,2019)が詳しい。太田(2013)では,2008年時点で,流通過程の中で行方が分からなくなる犬が約1万4千頭いると推計されている。また,太田(2019)は,動物愛護法改正後にもこうした事態は続いており,2017年時点で,流通過程の中で行方が分からなくなる犬が18,792頭,猫が5679頭いるとの計算結果を報告している。
20) 譲渡が決まった後に事後的に返金する仕組みは,行政に持ち込まれる前のペットの健康状態,飼育状態を改善することにも役立つ。譲渡がなるべく決まりやすくなるように,元の所有者に,ペットの健康状態や飼育状態を良好にしようとするインセンティブが働くからである。
21) 同時に,捨て犬,捨て猫を繁殖させないために,その捕獲を強化するとともに,猫に関しては不妊去勢手術を行うことも重要な施策である。猫の場合には,TNRを行って一代限りの地域猫として管理する道がある。TNRとは,Trap(捕獲),Neuter(不妊去勢手術),Return(耳先をさくらの花びらのようにV字カットして,元の場所に戻す)を行い,繁殖を防止して地域の猫として一代限りの命を全うさせる活動である。