1   ダニング(1979)の折衷理論では,立地条件による要素賦存,企業の優位性,市場の内部化による取引費用の削減といった,海外直接投資を選択する3つの条件を挙げられており,所有する経営資源の優位性が企業の多国籍化を進める誘因になると論じられている。

2   しかし,1973年に出版した著書の中で,イギリス企業に比べて,日本企業の工場管理の先進性を指摘していたドーアのような論者もいる。

3   手塚・小山(2021b)参照。

4   小池の一連の文献については,遠藤(2001)を参照。

5   谷内(1999)を参照。

6   小池は日本企業の査定制度は,長期的に,働きぶりをうまく,多面的に評価しているとしているが,遠藤(1999)は,必ずしも日本の人事査定は公正なものだと言えないとしている。

7   最近の日本企業の強みをめぐる議論の一つとして,アーキテクチャーに関わる問題がある。日本企業の「ものづくり」の強さを開発工程と生産工程における「擦り合わせ論」に関わる調整・統合型組織能力で説明しつくす藤本(2004)の議論に対して,鈴木(2009)は開発現場と生産現場での2つの領域では,日本的組織能力に違いがあると主張する。近年,日本企業の不振の原因にインテグラル型のアーキテクチャーに代わってモジュラー型のアーキテクチャーが主流になってきたためであるとする議論があるが,生産工程での組織能力についていえば調整・統合型組織能力が必ずしも必要とされるわけではない。生産工程での強みは,設計・開発面におけるアーキテクチャーの議論とは直接関係がない。生産工程ではどちらのアーキテクチャーであっても,日本企業の生産現場における強みが,厳しい工程管理,注意深さと高いモラール,異常対応能力などにあるのであり,「擦り合わせ論」に関わる調整・統合能力では説明しつくすことはできない。そしてその点が競争上の大事なポイントであれば,日本企業の優位性は保たれるはずである。モジュラー型のアーキテクチャーの隆盛が必然的に日本企業の弱体化を招くわけではない,と鈴木は主張している。

8   安保らが日本多国籍企業研究グループを結成し,この研究に乗り出したのは1985年である。調査対象となった産業は,自動車と電機である。

9   それぞれの項目のより詳細な評価基準は安保他(1991),33−36頁の表に掲載されている。

10   日本的な経営方式の表現の仕方は,論者によって,日本的経営,日本型経営,日本式経営と多様であり,ニュアンスの相違があるが,ここではほぼ同義と捉えておきたい。

11   詳しくは,鈴木(2000)11頁。

12   台湾,シンガポール,韓国,マレーシア,タイ,インドネシア,フィリピン,中国,インドである。製造業を中心に様々な業種が対象となっている。

13   小池(2015)は,企業の長期の競争を重視する日本企業の慣行を評価し,それを「強み」と捉え,近時の改革がその「強み」を捨て去る方向に行くことに懸念を表明している。

14   萩原(2017)参照。

15   昭和40年の,いわゆる「資本自由化」である(小山)

16   当時は現代のようにいわゆる「企業買収」とはよばず,「乗っ取り」とよばれていた。

17   従来の日本では「主人が変わると家来も討ち死にする」という「武士道」的な発想があり,このためTOBは「乗っ取り」と呼ばれていたのであった。確かに当時はTOBで経営者が変わると役員・社員を含めてかなりの「入れ替え」があったとされる。

18   メインバンクを和製英語とする主張がある。ただ,たとえばドイツではHausbankと呼ばれる制度があり,日本のメインバンクと類似していて,これは純粋のドイツ語である。