161頁】

 

管理職のテレワークは,うまく機能するのか

 

脇坂 明

 

1. 問題設定

 

テレワークは,従業員にとっては望ましいと思われるが,頭の固い上司が出社勤務による管理を好むので,なかなかテレワークが普及しないといわれる。

ところが,テレワークに関するどの調査をみても,職種別にみると,もっともテレワーク利用割合の多いのは,管理職であった(脇坂 2022)。

おおむね5割以上の管理職に利用経験があり,専門技術職よりも事務職よりも多い。2022年1月の日本生産性本部(JPC)調査では,管理職テレワークが減ったのだが,職種別テレワーク実施率は,管理職38.1%,専門技術職34.2%,事務職18.8%である(この場合は在宅勤務だけでなく,サテライトオフィス勤務,モバイル勤務を含む,ただし後者2つは少ない)。本稿における使用データの調査時点である,2020年10月のJPC調査では,管理職41.5%,専門技術職22.8%,事務職24.9%であった。

これだけテレワーク管理職が多いのであれば,管理職が柔軟でない,とかテレワークのもとでのマネジメント能力に欠ける,ことを論難するのでなく,テレワークにいそしんでいる管理職に焦点をあて,その状況がうまくいっているかどうかを見たほうが生産的である。

管理職のテレワークを探る意義は,それだけにとどまらない。石田光男氏らによる丁寧な国際比較の研究によれば,我が国の企業内における意思決定の特徴は,経営層からワーカーにいたるまで,PDCAが貫徹していることにある。(欧)米企業では,PDCAがはたらいているのは経営層のみである(石田 2022)。この階層的組織におけるPDCAの「日本モデル」でポイントとなるのは,経営層と一般社員をつなぐ管理職においてPDCAがうまくまわっているかどうかであろう。かつてのトヨタにおける現場主義の管理職 大野耐一の名前と伝説をあげれば事足りるであろう。

その流れで「新しい仕事様式」といわれるテレワークを考えれば,テレワーク管理職が非テレワーク管理職,つまり従来の管理職に比べて,最低限のPDCAをまわせているかどうかが,今後の組織の変貌をうらなう試金石となろう。

本稿で用いるデータには,能力開発に関する多数の設問がある。ワーカー層における多能工やカイゼン活動をとりあげなくとも,ホワイトカラーを含めたPDCAが機能するには,能力開発を背後においた職場の人事管理が適切に行われているかどうかが重要であろう。テレワークにより生産性が上昇した管理職も少なからずみられ,この情報も参考になる。今後,職場や会社全体としてテレワークが普及・定着するかどうかは,石田のいうPDCAが,テレワークを行っても,経営層だけでなく,管理職層そして一般社員においても,回るかどうかにかかっている。

162頁】

本稿のデータは,この大きなテーマの全貌に直接迫れるものではないが,少なくとも議論の糸口を提供してくれると思っている。

 

2.使用データ

 

労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った下記の2020年調査に,管理職のサンプル数が1246名あり分析に値する。どのような管理職がテレワークをおこなっているか,それがうまくいっているかどうかを探る。

 

労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(労働者調査)」2020年9-10月調査

民間調査会社が保有する登録モニター10000人

2016年経済センサス活動調査に基づき,対象業種別,企業規模別の常用労働者数の構成比を10000人にあてはめ,すべてのセルの回収数を満たすまで回収を継続した。

従業員5人以上の会社における18-65歳の正社員および直接雇用の非正社員(契約社員,嘱託,パートタイマー・アルバイト)

(報告書は,資料シリーズ No.217 2021年11月。調査の詳細は報告書2頁)

 

管理職1246名のうち,727名(58.3%)において,テレワーク利用に関わっていたとみられる。正確には,コロナ感染拡大が,あなたが勤める会社の経営やあなた自身の就業にどのような影響を与えたか,という大きな設問のなかに,「あなたのリモートワークの活用」について4つの選択肢から回答させている。なお,この場合のリモートワークは,自宅勤務を含めて普段の職場以外で勤務すること,を指している。選択肢は,1)以前から進んでいる,2)今回大きく進んだ,3)今回やや進んだ,4)進んでいない/そもそも導入されていない,の4つで,本稿では1)〜3)の合計をテレワーク利用とした。

職種計での内訳は,1)2.1%,2)16.0%,3)17.0% 計35.1%であるのに対し,管理職では,1)4.3%,2)27.7%,3)26.4% 計58.3%と職種別では最も高い割合である(表1)。この内訳の分析は後で少し行うが,「以前から進んでいる」が管理職でも4.3%と少なく,テレワーク経験の長さの違いによる分析はできない。

とにかく,この調査においても58.3%と半数以上の管理職が,テレワークに関わっている。設問からすれば,管理職本人がリモートワーク(テレワーク)はしていないが,職場全体でテレワークが行われている場合も稀にいるかもしれない。しかしながら,この場合も,管理職はテレワークに関する職場マネジメントなどに関与しているので,問題設定からは,大きくはずれない。

なお先に述べるべきであったかもしれないが,管理職の定義である。職種分類で「管理的な仕事」に回答した1246名をとっている。調査票の用語説明に「課(課相当を含む)以上の組織での管理的な仕事をいう」とあるので,いわゆる「課長相当職以上」である。ところが,職位に関する設問への回答では,部長相当職以上 717,課長相当職 977,計1694名で1246名を大きく上回る(ちなみに係長相当職は1827名)。ほかの職種,たとえば専門・技術職のなかに,職 163頁】 位として部長,課長に回答したものが多い。職位の回答による課長以上1694はサンプル数では多くなるが,職種分類における回答の管理職で分析する。なお,職位回答による職位別のテレワーク割合は,部長以上 60.3%,課長 56.7%,係長 57.5%である。

一方,「管理的な仕事」とした回答者1246の職位に対する回答は,部長以上職 529,課長 543,係長 174名である。「係長」に回答した174名は説明書きを丁寧によまなかったのであろう。厳密には係長への回答をはずすことも考えられるが,職位の効果もみたいので,含めて分析する。

いずれにしろ58.3%という数値は,管理職テレワーク利用に関する他の調査の数値とも大きく異ならないので,上述の定義で分析して差し支えないと思われる(脇坂 2022)。

 

3.どこに管理職テレワークが多いか

 

簡単なプロビット分析により,どこにテレワーク管理職が多いかをみた(注1)。その結果(有意なもの),次の結果をえた。( )内はテレワーク割合を記入。

(1)300人以上の企業(68.3%)に多い。

(2)埼玉(65.4%),千葉(68.1%),東京(69.8%),神奈川(64.0%),大阪(70.3%),兵庫(72.0%),山口(90.1%)に多い。

(3)部長相当職以上(60.3%)に多い

(4)女性(64.5%)に多い

(5)業種では,「情報通信業」(86.0%),「学術研究,専門・技術サービス業」(77.8%),「製造業」(67.0%)に多く,「電気・ガス・熱供給・水道業」(16.7%),「医療・福祉」(31.3%),「運輸業・郵便業」(34.6%)に少ない。ちなみに基準とした「建設業」は,42.7%である(注2)

164頁】

女性に多いことがまず注目される。先行研究では,コロナ拡大後,女性にテレワークの機会が少なかったが,管理職に絞れば,女性のほうが多く利用している。女性が64.5%に対し,男性では57.8%である。全体では,男性 40.3%,女性 26.9%と男性の経験が多い。テレワークの多いほかの3職種の性別テレワーク比率をみると,専門技術 男性49.2% 女性26.8%,事務 男性52.1% 女性38.0%,販売 男性38.9% 女性18.9%である。管理職特有の傾向であるころがわかる。

「以前からリモートワークが進んでいた」女性管理職は8.6%で,男性(3.9%)より多いが,多くはコロナ対応をきっかけとして女性管理職の利用が広まったことがわかる。

部下のいない管理職が相当数いると思われるが,彼・彼女らはテレワークしやすいであろう。そして部下なし管理職は女性に多いといわれている。そうであれば,女性にテレワーク管理職が男性より多いことを強調すべきでないかもしれない(注3)

今回定義した管理職ではなく,係長相当職を含む正社員における男女比をみると,女性比率は,部長以上 4.5% 課長 8.4% 係長 24.0%,一般 44.3% といわゆる「ガラスの天井」の構成である(表2)。また表1の職位別の男女別テレワーク比率をみると,課長以上では女性が多く,係長以下では男性が多く,全体で男性が多い。

そのほか,規模の大きい企業,都心,情報通信業など,役職が高いところで,テレワークが多いという結果は,先行研究の職種計の結果とおなじである。

 

3−1 管理職の職場と属性

職場(事業所と考えられる)の人数でみると,テレワーク利用しているのは大規模職場である。企業規模の結果と同じである。職場の女性比率は,テレワークの有無で大きな差はない。職場の非正社員比率も差はみられない。管理職の年齢,勤続年数をくらべても,大きな差はない(注4)。転職経験の有無でみると,テレワーク管理職 55.3%,非テレワーク管理職 65.1%の転職経験があり,生え抜きの管理職のほうがテレワークは少ない。

 

3−2 テレワーク管理職の職場における取組み

テレワークの有無別に,ふだんの(これまでの?)職場における19項目の取組みをおこなっているかどうかをみよう(表3)。「職場の人間関係をよくする」を除き,「長時間労働の抑制」や「評価結果とその説明」などの取組みを行っている職場ほど,管理職がテレワークを多く行っている。とくに「メンタルヘルス支援」では,約20%ptの差がある。

165頁】

評価結果を開示し,その理由を説明している企業の管理職において,31.2%がテレワークしており,していない14.8%を大きく上回る。これは,おそらく目標面接制度の形で行われていると思われる。奥野(2004)によれば,我が国の目標管理制度(MBO)は,

ノルマ的目標管理(1960年代後半) → 参加的管理としてのMBO(1970年代) → MBOの定着(1980年代)→ 個人尊重志向MBO(1990年代後半の一時期)→ 人事評価制度としてのMBO(1990年代中期以降)

のように展開してきた。現在も,能力主義管理であれ,成果主義管理であれ人事管理制度としてMBOがなされていると考えられるので,管理職にとって,かなりの負担となるタスクだと思われる。しかし,目標面接を行い人事評価を行うことが,テレワークでも十分可能であることを示唆している。

管理職にかぎったものではないが,リクルートワークス研究所のパネルデータによると,MBO制度がある企業のほうが,緊急事態宣言下(2020年4・5月)においてテレワークに移行している(36.5% vs 2.0%)。また,このデータでは主観的生産性は,テレワークにより低下したが,MBOが導入されていることにより,低下が抑制されている。宣言下でのテレワーク実施によるマイナス0.145のうち,MBOによって,プラス0.107の効果でもって,低下を抑制している(萩原 2022)。

表3から,ふだんから様々な取り組みをおこなってきた職場において,管理職もテレワークできることが,わかる。

なお表の上から4番目と5番目の項目は,テレワークが成果主義と能力主義のどちらになじみやすいかを考えるうえで注目されるものである。ただ職種計の回答をみるかぎり,どちらの 165頁】 項目にも回答している従業員がかなり存在する(下記の表)。またどちらも反映しない回答が4分の3もある。この興味ある大きなテーマは,このデータでは分析しづらい。

 

正社員のみに限定(N=7702)

どちらも反映しない    5788    75.2 %

成果のみ         778    10.1

能力のみ         403   5.6

成果も能力も      703   9.1

 

3−3 仕事を効果的に覚えるための具体的経験の有無

テレワークの有無別に仕事を効果的に覚えるための具体的経験16項目の有無をみる。「とにかく実践経験させられた」や「マニュアル配布」などあまり差がないものもあるが,すべての項目において,テレワーク管理職のいる職場において,OJTなどにかかわる経験をしたものが多い(表4)。テレワークの有無で差が大きいのは,「会社の理念や創業者の考え方を教えられた」と「会社の人材育成方針について説明があった」で,それぞれ13.9%pt,15.1%ptの差がある。

「会社の理念や創業者の考え方」は,ある年齢以上の人には伝統的日本的経営の「経営家族主義」の典型的な表れのようにみえるかもしれない。21世紀も20年たった今では,そうではなく,ダイバーシテイ経営の要と考えたほうがよい。佐藤博樹(2020)によれば,ダイバーシテイ経営の5本の柱の一つに,「理念共有経営」がある。価値観や考え方が同質的な人材のみでは,組織の中に新しい価値創造は生まれない。ダイバーシテイ経営が要請されるゆえんである。しかしながら,多様な価値観をもつ人材を受け入れると,求心力の維持どころか,遠心力がは 167頁】 たらく。それを防ぐ一つの方法が,企業が掲げる「経営理念」である。多様な価値観をもつ人材それぞれに浸透させる「理念共有経営」をめざす。テレワークについても多様な意見をもつ従業員あるいは管理職がいるであろう。しかし少なくとも管理職は,この「経営理念」を共有することが,ダイバーシテイ経営を推進することにつながろう。このデータにおいて,経営理念を教えられた経験がテレワーク管理職に多かったことは積極的にとらえることができる。「会社の人材育成方針について説明」も同様のことがいえるであろう。

表3,表4の結果から,ふだんからOJT,そしてPDCA がうまく機能していると思われる職場において,管理職がテレワークできていると,一応いうことができる。

JPC調査において,OJT(受ける,行う)の実施は,15-17%と多くはないが,2021年をとおして減少傾向はみられない。しかしコロナ拡大以前のデータがないので,コロナ感染を契機にOJTが減ったか増えたかはわからない。それがわかるデータがリクルークのパネル調査である。茂木(2022)によれば,OJTは2019年の24.4%から2020年に21.9%と減少している(マイナス2.5pt減少。規模を問わず減少しており,5000人以上の大企業でもマイナス3.0ptの減少である。ここでのOJTの定義は,「上司や先輩等から指導を受けたことがある」である。JPC調査の定義とほぼ同じで,本稿使用データほどOJTの多くの側面をみているものではないが,間違いのない結果であろう。

そうすると,テレワークが普及している企業は,OJTがしっかりとなされてきた職場である。一方,テレワークの状況となって,管理職はじめ上司や先輩から指導することが難しくなっていることもおおいに予想される。4節でみるが,テレワーク管理職が生産性を向上させた例も多い。しかしOJTのようなボデイブローのように中長期にきいてくる効果については,短期の生産性の議論だけにこだわるのはよくない。テレワークのなかで,新入社員はじめ労働者が,どのようにOJTが具体的に遂行されているかを探ることが必要である。

 

3−4 コロナ以後の管理職の労働時間の変化

コロナ以後の管理職の労働時間の変化をみると(5択;付表1), 非テレワーク管理職と比較すると,テレワークを行っている管理職のほうが「減少」したものが多い(37.6% vs 20.8%)。コロナ下において,テレワークへスムーズに移行したケースが少なくないことがわかる。

テレワークの進み具合を測る設問を再述するが,管理職の回答は,1)以前から進んでいる4.3%,2)今回大きく進んだ27.7%,3)今回やや進んだ26.4% であった。労働時間の変化はどうであったか。(付表1の下半分)1)2)がほぼ同じで,最下行の「今回やや進んだ」管理職の職場では,「減少」が30.3%と相対的に少ない。「増加」も11.3%と,非テレワーク管理職の「増加」9.6%より多いくらいである。

「今回大きく進んだ」職場では,「以前から進んでいる」職場と同じくらい労働時間が減少したが,「やや進んだ」職場では,増加しているところもある。スムーズに移行せず,かえって労働時間が増えた可能性もある。

いずれにせよ,テレワーク下の管理職において,労働時間が増加したものは少なく,4割ほどが減少している。

テレワークにより通勤時間が節約された(消えた)ことは確実である。逆に言えば通勤時間の長い労働者ほどテレワークに踏み切った可能性が高い。本稿データには通勤時間の設問はな 168頁】 いが,居住地と本社および就業事業所の都道府県別データがある。そこで,居住地と就業地が同じ県の労働者と異なる県の労働者(「県またぎ」)を比較できる。もちろん後者のほうがテレワークをする可能性が大きいとみる。

サンプルの16.6%が「県またぎ」をしており,正社員にしぼると,18.1%である。そして管理職にしぼると,26.1%(325名)にもなる。この「県またぎ」管理職のうち,およそ4人に3人の73.5%がテレワークをしている(同一県では53.0%)。

 

3−4−1 地域による違い

地域による違いが重要だと思われる。テレワーク管理職の多い事業所は,やはり東京や大阪などに多い。ここでは簡単な集計をして今後の本格的分析にそなえたい。

付表7−1は,女性管理職の割合で「東高西低」の姿が見える。

テレワーク(全正社員,管理職)割合をみると(付表7−2,7−3),関東関西の違いよりも,東京・大阪とそれ以外の県の差が目立つ。

 

3−5 テレワークをしている管理職自身が,満足しているか

満足度 (4択)については,収入の満足だけでなく,8項目について尋ねている(表5)

全体的に,テレワーク管理職が,非テレワーク管理職よりも満足度が高い。収入の満足度に大きな差がみられるだけでなく(DI指数で33.0ptの差),「能力や知識を身につける機会」の満足度もテレワーク管理職のほうがかなり高い(27.1ptの差)。それだけでなく,すべての項目において,満足割合をみてもDI指数をみても,テレワーク管理職が満足度が高い。

仕事上の地位や権限においてもテレワーク管理職の満足度が高いという事実は,テレワーク移行によって,その管理職の権限が小さくなったことはない可能性が大きい。

満足度は慎重に解釈すべき変数であるが,管理職がテレワークすることによって,少なくとも大きな不満が生じなかったとはいえるだろう。それを,少し厳密に示すために,規模,業種などで調整した,回帰分析をおこなった。

この順位プロビットでは,推定の係数が「負」であれば「満足」,「正」であれば「不満」をしめす。各満足度をつぎの変数で回帰した。

テレワーク・ダミー,企業規模,職位ダミー,男性ダミー,年齢,年齢自乗,勤続年数,勤続自乗,学歴

推定結果は,テレワーク・ダミーが,すべての満足度で有意であった(ほとんど0.1%水準)。すなわち同じような管理職であっても,テレワークをしている管理職において満足度が高い。間接的にではあるが,テレワークがうまくいっている証拠であろう。

付表2が収入の満足度に関する推定結果である。女性管理職のほうが満足,年齢が高いほど不満,職位が低いほど不満,業種では電気ガス熱水道のみ満足(建設業基準)という結果であった。(注5)

収入以外の満足度,すなわち働きがい,働きやすさ,仕事内容,職位,雇用安定度,能力・知識を身につける機会,キャリアの見通し,についても,結果は同じである。

169頁】

 

4.生産性との関係

 

先行研究における生産性の研究,RIETIの森川氏の一連の研究,JILPT調査を用いた令和3年労働経済白書,JPC調査などがある。JPC調査から分かったのは,テレワーク(在宅勤務)をして効率があがったか下がったかと尋ねると,初期をのぞき,上がったほうが多い。ところがほかの調査で,ふだんの(オフィス)勤務を100としたスコアで生産性を尋ねると,平均3〜4割ていど減少している。さきに言及した萩原(2022)でも主観的生産性が下がったことを分析している。

本稿で使用したJILPT調査データには,生産性に関係する設問が一つある。テレワーク利用者に対して,「リモートワークで働くことに対して,どのような認識を持っていますか」という設問の一つに,「普段の職場で働くよりも仕事がはかどる」という項目がある。「はかどる」は,どうみても生産性を表しているであろう。これに対して,1)そう思う,2)どちらかといえばそう思う,3)どちらともいえない,4)どちらかといえばそう思わない,5)そう思わない, 170頁】 から回答させている。1)2)を選択したものを「生産性向上」,4)5)を「生産性低下」とみなす。脇坂(2022)で強調したように,これはあくまで短期の生産性であって,競争力につながる長期の生産性ではない。けれども収束後もテレワークが普及するか否かは,短期の生産性であっても考察に値する。「長期では,みな死んでしまう」(ケインズ)

 

生産性についての結果は,

職種計(N=3507)        「生産性向上」 32.3%,「生産性低下」 27.1%

管理職(N=727)     「生産性向上」 31.5%,「生産性低下」 26.7%

専門・技術(N=1005)  「生産性向上」 36.7%,「生産性低下」 25.0%

 

全体として,「生産性向上」したものが,「生産性低下」したものよりも少し多い。JPC調査の結果に近い。管理職の場合も職種計とほぼ同じである。専門技術職では「向上」したものが10%pt多い。

 

4−1 テレワーク全職種の生産性の向上・低下の要因

OJTを中心とした職場における人材育成や能力開発について(仕事を効果的に覚えるための経験),多くの設問があるので,それを中心に比較する。

A 向上,B 低下,C どちらともいえない を比較した。

テレワーク経験者のなかで,「向上」が多かったのは,「会社の理念などを学ぶ」や「人材育成方針の説明」を受けたものが多かった。それ以外にも「教育訓練計画作成」や「職業人生相談」を受けたものが,とくに「向上」が多かった。そのほか,ほとんどの取組みにおいて,経験したものの「向上」割合が高かった。(付表3)

 

4−2 テレワーク管理職における生産性の向上・低下の要因

テレワークをした管理職のなかで,向上したものと低下したものを同じように比較した。(表6)

「教育訓練計画作成」「専任の教育係を付けられた」「職業人生相談」を受けたものにおいて,「向上」割合がとくに高かった(それぞれ,41.2%,42.9%,43.2%)。また,ほとんどの取組みで,経験したもののほうが,「向上」割合が高かった。

専任の教育係を付けられて育った管理職が,テレワークに移行して生産性向上している。ただマネジメントの経験で重要な「後輩の指導を任された」管理職は,生産性向上がやや多いくらいである。

テレワークの多い4つの職種別にプロビットを用いて「向上」したものの要因を探る。この4つの職種のテレワーク割合は,管理職58.3%,専門技術41.6%,事務43.5%,販売29.3%である。「向上」したものを「1」,それ以外のテレワーク管理職を「0」とするダミー変数を作成し,プロビット分析した。

まず職種も説明変数にいれると(付表4),

管理職を基準として,事務職が向上,輸送・機械運転職が向上していない。職位では部長が向上している。

つぎにテレワークの多い4つの職種(管理職,専門・技術職,事務職,販売職)別に行った。

171頁】

probit 「向上」 = 業種 規模 職位 性ダミー,年齢,年齢自乗,勤続,勤続自乗,学歴

 

管理職においては(付表5),業種では,「不動産賃貸」,「宿泊,飲食サービス業」に少ない。職位では部長が向上,それ以外の変数はほとんど関係ない。ほかの3つの職種もほぼ同じ結果。

 

4−3 教育訓練計画

テレワーク管理職で,教育訓練計画を会社で作成されたもののうち,41.2%が生産性向上している(表6)。全職種をとっても42.5%が向上している。作成されていない管理職より10%pt以上,向上したものが多い。企業内キャリアにおいて,次に何をなすべきかの道筋がはっきりしているものが,テレワークに移行して短期の生産性を向上させている。次のキャリアがみえていれば,職場を離れているほうが,テキパキ仕事をこなせるのかもしれない。

 

172頁】

4−4 テレワークの結果

テレワークを行った結果を尋ねている設問もある。効果1項目,課題7項目がある。テレワークの多い4つの職種について集計した。(表7)

メリットの「通勤時間の節約」は,どの職種もおよそ3分の2が効果を感じている。課題は,管理職で「他の職員と対面しないので不便」53.9%,「仕事・プライベートがあいまい」57.2%などが多い。一方,「孤独感があり精神的に不安」は28.1%と少なく,「そう思わない」ほうが多い。「長時間労働になりがち」も少ない。また職種による差はあまりない。

生産性の増減別に「通勤時間節約」をみると,「向上」が77.7%,「低下」が72.7%と大きな差はない。(表8)しいていえば「どちらでもない」が57.5%と相対的に少ない。彼・彼女らは,通勤時間節約についても38.2%が「どちらでもない」と回答している。慎重な回答をする傾向のある回答者なのかもしれない。

一方,課題については,「低下」した管理職で相対的に多いのは,まず「対面しないので不便」が,71.1%(「向上」では62.9%),「仕事/プライベートがあいまい」69.0%(「向上」では62.9%)である。

生産性「向上」した管理職があげる課題で多いのは,「孤独感」41.5%(「低下」25.3%),「光熱費などの会社負担なし」58.9%(「低下」45.9%),「長時間労働になりがち」42.8%(「低下」25.2%),「成果で評価されるおそれ」43.7%(「低下」22.2%)「仕事について学ぶことが困難」45.5%(「低下」38.1%)である。生産性が「向上」している一方,孤独感に悩まされている。部下・同僚との接触が少ないが,管理職本人は仕事をテキパキとできていて,孤独を感じてい
173頁】

るのであろう。全体としては,孤独感に悩まされているものは少ない。

「孤独感」については,江夏(2021)が,テレワークの実施者と非実施者を比較しているので参考になる。2020年7月に,インテージ登録モニターのうち就労者から得られた3073名について分析しており,たとえば職場における孤立感について,テレワーク実施者では,職務プロセスの他者依存性が高いほど孤立感が高まっている。日常的に周囲と緊密な連携をとっていると,調査時点においてテレワークに慣れていないので孤立感が高まるとしている。一方,非実施者では,成果の他者依存性が高まるほど孤立感が増えている。周囲との連携がテレワークの実施・非実施によって異なるメカニズムで孤立感に影響することを示唆している。管理職は明らかに他者依存性の高い職種なので,本稿の結果は江夏(2021)の結果と異なるのかもしれない。

「労働時間」については,生産性「向上」では労働時間の「減少」が多かった。課題でも,「長時間労働になりがち」は少ない。 実際の労働時間の変化をみると(付表6),生産性の向上・低下により,減少割合の差はない。テレワークと労働時間はあまり関係ないといえる。

 

5.収束後の展望

 

コロナ収束後の「働き方」などについて,「変化あり」「変化なし」の2択で尋ねている。非テレ 38.0%,テレ 74.1%と,テレワーク管理職の4人のうち3人が「働き方」が変化すると予測している。一方,テレワークをしていない管理職は3分の1強にすぎない(表9)。大きな違いである。身の回りの状況をみて,人は未来を予測する。先行研究においても,在宅勤務(経験)をしたものほど,将来も在宅勤務を望んでいる。

174頁】

変化の「有り」の内容をみると(7項目),変化「有り」の割合が異なるので当然であるが,テレワーク管理職がほとんどの項目で多く指摘している。とくに「デジタル化に詳しく」,「コミュニケーション」などが会社から求められると考えているテレワーク管理職が多い。デジタル化に精通しないとテレワークができないのは当然であろう。また「生産性・効率性意識」は,テレ 44.1%,非テレ 34.0%でも差がある。

「ゼネラリスト」志向では差はないが,「スペシャリスト」志向では,ややテレワーク管理職のほうが多い。ただし,この二分法について,積極的に解釈するわけにはいかない。(注6)

収束後の変化の項目のなかに,OJTや能力開発に関わる働き方の変化の項目が残念ながらない。過去と現在では,他調査にみられない多くの項目があったが,将来についても少しでもあるとよいであろう。

 

6.まとめと留意点

 

テレワークに関する研究は急増しているが,管理職にフォーカスをあてたものはなく,人材育成という観点と絡めた分析もほとんどない。

本稿の重要な結果として,

@概して管理職は効果を感じており,成果(生産性)をあげた管理職が孤独感を課題としてあげている

A個別化した教育・育成を行っている企業の管理職が生産性が向上している

B次のキャリアが見えていることがテレワーク化でも仕事を効率的に進める

などがある。

分析結果からは,コロナ禍等でテレワークに移行できた企業は,そもそも人材マネジメントが適切かつ十分になされていた可能性が大きい。表3・表4をみても,全ての項目において テレワーク管理職>非テレワーク管理職 ということからも推測できる。管理職(おそらく一般従業員も)に対する育成に取り組んできた企業では,管理職に力があるだけでなく,その部 175頁】 下にも育成を通じて力があることで,生産性が向上する等良い成果が得られ,悪い影響が抑えられているように感じられる。

さいごに,この論稿の限界を述べたい。本稿で用いたデータは,厚生労働省の要請により,JILPTの研究員が調査票を作成したものである。筆者にとって興味深い項目が多く,背景にある作業仮説が容易に想像つくものが多い。しかしながら,言うまでもなく,この調査票作成プロセスに関与しておらず,あくまで,筆者なりに,このデータからまとめたものにすぎない。

 

参考文献

石田光男(2022)「学び得たこと」石田光男/上田眞士編『パナソニックのグローバル経営 −仕事と報酬のガバナンス』ミネルヴァ書房

猪木武徳(2021)『経済社会の学び方 −健全な懐疑の目を養う』中公新書

江夏幾多郎(2021)「リモートワークの背景と効果」江夏幾多郎ほか(2021)『コロナショックと就労:流行初期の心理と行動についての実証分析』ミネルヴァ書房

奥野明子(2004)『目標管理のコンテインジェンシー・アプローチ』白桃書房

玄田有史・萩原牧子編(2022)『仕事から見た「2020年」 −結局,働き方は変わらなかったのか?』慶應義塾大学出版会

厚生労働省(2021)「令和3年労働経済白書」

小池和男(2015)『なぜ日本企業は強みを捨てるのか:長期の競争 vs 短期の競争』日本経済新聞出版社

坂爪洋美・高村静(2020)『管理職の役割』中央経済社

佐藤博樹(2022)「ダイバーシテイ経営を支える5つの柱」佐藤博樹・武石恵美子・坂爪洋美『多様な人材のマネジメント』中央経済社

萩原牧子(2022)「テレワークへの移行と定着,そして結果」玄田有史・萩原牧子編(2022)『仕事から見た「2020年」 −結局,働き方は変わらなかったのか?』慶應義塾大学出版会

茂木洋之(2022)「感染拡大が引き起こした企業規模間格差」玄田有史・萩原牧子編(2022)『仕事から見た「2020年」 −結局,働き方は変わらなかったのか?』慶應義塾大学出版会

森川正之(2020a)「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」『RIETI Discussion Paper Series』20-J-041

森川正之(2020b)「新型コロナと在宅勤務の生産性:企業サーベイに基づく概観」『RIETI Discussion Paper Series』20-J-041

森川正之(2020c)「コロナと在宅勤務の生産性」小林慶一郎・森川正之編『コロナ危機の経済学』日本経済新聞出版社

労働政策研究・研修機構(2021)『ウイズコロナ・ポストコロナの働き方−テレワークを中心としたヒアリング調査』JILPT資料シリーズ No.242

脇坂明(2019)「OJT再考」『学習院大学経済経営研究所年報』33巻(59-89)

脇坂明(2022)「テレワークに関する各種調査」『学習院大学経済論集』58巻4号(253-274)

176頁】

<注>

1)管理職について,JILPT調査のリモートワークについての回答が,「1)以前から進んでいる,2)今回大きく進んだ,3)今回やや進んだ」とするものを,テレワーク利用として「1」とし,「4)進んでいない/そもそも導入されていない」の回答者をテレワーク非利用者として「0」とした。そのうえで次の4つの説明変数で,利用がどこに多いかをみた。業種,企業規模,居住都道府県,職位(部長,課長,係長),性別

2)東京都が2020年から行っている「TOKYOテレワークアワード」で第1回の大賞は,大企業では(株)船場(サービス業;内装デザイン,施工;414名),中小企業では,(株)ショーケース(情報通信業;87名),第2回大賞は,(株)吉村(品川区,食品資材包装メーカー)である。吉村は,225名の企業であるが,工場現場も含む全社員が参加するオンライン会議を開催し,営業社員のリモート商談など多様な職種で「週3回社員7割以上テレワーク」を行っている。これらの企業における管理職の状況はわからないが,様々な業種でも行っていることがわかる。

3)事業構想大学院の浅野浩美氏の指摘による。

4)年齢は,テレワーク管理職 平均 49.9歳,中央値 51歳,非テレワーク管理職 50.8歳,52歳,勤続年数は テレワーク管理職 19.8年,20年,非テレワーク管理職 18.6年,18年である。

5)厳密には内生性の問題がある。テレワークダミーの係数−0.366は過大推定かもしれない。テレワークは(半)強制的に導入された外生変数にみえるが,形式的には本人か「自発的に」選択している。もともと満足度の高い労働者がテレワーク選択しやすい,とすれば過大になるので修正する必要がある。適切な操作変数を見つける必要があり今後の研究課題である。

6)少なくとも大卒ホワイトカラーのキャリアにおいては,一つの職能内におさまる。職能のなかの幅を広げるのみの異動がありうる(小池)。たしかに対象が管理職の場合は,別の職能の管理職に移るケースも出てこよう。しかし,それを「ゼネラリスト」とよんだり,一つの職能だけを「スペシャリスト」と呼ぶのは,おかしい。内部労働市場と外部労働市場の区別を意識し,「スペシャリスト」の方が転職可能性が高くなるという「神話」があるのかもしれない。管理職にかぎっていえば,むしろ幅の広い仕事や職能を経験したほうが,転職には有利であろう。

「終身雇用」「年功賃金」が,我が国特有でなく,先進国共通にみられること,我が国でも時代によっては,転職が激しかったことなどは,学問的共有財産だが,通念の日本的特徴の「思い込み」は根強い。一生,一企業に勤める労働者はまれであることを(内心では)わかっていても,労使双方の誤解にもとづき「定着性」を高める方策が繰り返されてきたのかもしれない。猪木(2021)によれば,「勤続が長くなれば,労使双方にとって長期的な生産性を高めることは,現場の状況を知るものにとっては明らかである(175頁)。現場を知らない研究者,または企業経営者が多いと思われるので,「誤解」がどのようなプロセスを経て,慣行そして雇用システムとして定着していくかの研究が求められているのかもしれない。職場や社会における「規範」で論じるのは,同義反復になりやすい。

ゼネラリストとスペシャリストのケースは,「終身雇用」「年功序列」ほど,一般には「神話」は広がっていないが,能力開発やOJTに関わってくるので,「神話」「思い込み」研究もそれなりの意義があるかもしれない。

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