245頁】

 

地域フードブランドの購買・喫食は「そこに訪れたい」につながるか(中編)

〜地域フードブランド喫食から訪問に至るプロセスの解明:テリトーリオ・アプローチの活用

 

学習院大学  上田 隆穂

学習院女子大学  竹内 俊子

 

 

【概要】

地域で生産されている地域フードブランドを飲食することにより,当該フードブランドの収穫・生産を行う未訪問地域へ訪問することに,人はどのような意識構造,つまり意識プロセスを有しているのか,また,それはどういう内面的な要素がつながりあっているのかを探ることを本研究の目的とした。この種の研究は,重要性が高いにも関わらず,ほとんど研究がなされていないため,そこに焦点を当てたものである。本研究は前編でのインタビュー調査の結果を受け,喫食から訪問までのプロセスを,アンケート調査によって得られたデータから分析し,テリトーリオ・アプローチを適用して構成した構造仮説を検証したものである。

結果的にテリトーリオ・アプローチを元に作成した構造仮説の各部分はほぼ実証され,地域フードブランド喫食と生産地域訪問の関係性は,テリトーリオ活用の構造モデルによる分析が有効であり,テリトーリオモデルは,ループして強化されていくことが明らかとなった。また共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージは,地域プレイスブランドとして重要であり,ループにおいて知識を増やし,喫食に繋げるのは認知的な面であるが,喫食回数を増やすのは感情的な強化であり,感情面の強化は地域フードブランドにおいて極めて重要となることが明らかとなった。そして観光スポットの存在も地域への関心を増すためには重要であり,生産地域への訪問意図,生産地域への親近感(因子分析)を高めるのは感情面の強化が重要であることが明らかになった。

【キーワード】

地域活性化,地域フードブランド,テリトーリオ・アプローチ,認知的関与,感情的関与,ブランド・コミットメント,ブランドストーリー関与,地域一体化イメージ

 

1.はじめに

 

以前,上田・竹内(2023)『地域フードブランドの喫食が未訪問地域への訪問につながるか(前編)』で標題にかかわる概念モデル作成および実証研究用アンケート調査票作成のためのインタビュー調査を実施した。本研究は,全体研究の中の中編にあたり,地域フードブランド喫食してから訪問したことのない地域に至るプロセスの解明にテリトーリオ・アプローチを適用246頁】 するものである。概念モデルから操作可能な全体的な構造モデルをつくり,データを用いて仮説−検証を行う。

前編の概要を振り返りつつ,今回の研究について述べていく。和田・菅野・徳山・長尾・若林(2009)では「地域のものを食べたい⇒その地域に訪れたい⇒その地域に住みたい」との連鎖が指摘されており,中島(2022)においては,地域フードブランドの喫食とその生産地域への訪問のつながりに関して,アンケート調査による実証研究を実施している。しかしながら,当該研究においては,現地訪問の際に食された場合も含んでいるため,生産地訪問による既有印象などによるリピート効果を含んでしまい,地域フードブランドの飲食経験と未訪問地域への訪問希望との純粋な関連性の検証は困難である。本研究では,この点に着目し,まず前編で「喫食が訪問につながった」男女6名のインタビューを実施・分析しており,仮説の探索および具体的な質問項目を精査し,webアンケート項目を作成した。中編に当たる今回の研究では,実際にアンケート調査を行ない,データをとり,喫食からの訪問につながるプロセス解明の分析を行っている。アンケート項目内容については,前編をご覧いただきたい。webアンケートは,調査会社(マイボイスコム株式会社)に委託,埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県在住の30〜60代の男女80名ずつ採り,合計640名に実施した。

この元となったのは,前編で詳述しているが,調査会社(株式会社トークアイ)に委託,男女3名ずつ(30〜50代)性別ごとにグループ・インタビューを実施したものである。実際のところ,グループ・インタビューと言ってもパーソナル・インタビューに近い形で進めた。インタビューの1例を挙げておくと,研究の前編からの再掲となるが,次の図1-1のようになる。

 

 

結果的に作成した10枚のインタビュー結果の図から一度でも出現した要因を整理していくと,以下のように整理できた。

247頁】

@本質的要因:

【地域フードブランド自体の特徴】おいしさ,低価格,評判,本場感,手作り感,できたて感,取れたて感,現地以外の入手困難性,感動,物語(ただし要因が多岐にわたるため,関与項目で代替)

【喫食者の傾向】本物志向,地域フードブランド対象への関与,鮮度重視傾向,食べ歩き好き傾向,知識欲

 

Aきっかけ要因:

【地域の特徴】強力な観光スポットの存在,他の人気商品の存在

【喫食者の要因】家族の要望,友人の存在,旅仲間の存在,地域と自分との関連の深さ,手軽に行ける。

これらの結果,地域に関して,感情的な要素がより大きなウェートを占めている傾向があると考えられる。そのため,本研究での実証には,感情的な要素が特に重要であると推察される。アンケート項目としてテリトーリオ・アプローチを枠組みとする目的に照らし,取捨選択しながら入れ込むのが良いと思われる。

 

2.グループ・インタビューを踏まえての構造仮説の作成

 

インタビューの結果,木村・陣内(2022)のテリトーリオ・アプローチが有望な地域活性化の基本枠組みとなりうると考えられた。テリトーリオとは,社会経済的,文化的なアイデンティティを共有する空間の広がりとしての地域あるいは領域を意味しており,これら多くの要素のホリスティックな一体化したイメージが地域産品ブランドに凝縮されて地理的表示(GI)の基となり知的共有財としての大きな価値を生み出している。このテリトーリオはイタリア発であるが,類似概念としてフランスのテロワールがあり,またアメリカでは,個人の地域に対して有する感情,センス・オブ・プレイスの集合体がそれに当たると思われる。本研究では,これを基に概念モデルを導出する。

木村・陣内(2022)においてテリトーリオの定義@と思われる部分を抜粋すると以下のようになる。

『土地や土壌,景観,歴史,文化,建築物,伝統(手工芸を含む),民間伝承,地域共同体,観光サービス,接客のあり方,芸術等々の様々な側面が併せ持つ一体のもので,土地の持つ自然条件,あるいは大地の特質を活かしながら,そこを舞台に人間の多様な営みが展開してきた。

そこでは農業,牧畜,林業,諸々の産業が営まれ,町や村の居住地ができ,田園には農場,修道院が点在し,これらを結ぶ道のネットワークもできる。そこに歴史や伝統が蓄積され,固有の景観が生まれてきた。テリトーリオとは(筆者加筆)こうした社会経済的,文化的なアイデンティティを共有する空間の広がりとしての地域あるいは領域』

 

これを定義とすれば,テリトーリオは『地域産品ブランド』を包含した一種の『地域空間ブランド』であろうA。このテリトーリオは,どちらかと言えば,近代都市ではなく,おそらく地方や古都の方が近代都市よりも向いていると思われる。

248頁】

これらの定義等からテリトーリオの概念を図示すると,図2-1のようになろう。これは広義の景観の定義にある要素を含み,農業等だけでは住民が貧困から抜け出せないため,ツーリズムに,内発的に形成したテリトーリオを活用し,また地域産品をブランド化し,これもテリトーリオに含めてしまう図式になっている。

 

 

特に図の点線部分を本研究の枠組みのベースとして活用する。

249頁】

 

3.本研究における作業仮説と仮説検証

 

まずはテリトーリオ・アプローチを利用した構造仮説の全体図の図3-1を示し,その後,詳細部分に分けた作業仮説を説明し,その仮説−検証結果を示していく。各要素はwebによるアンケートにより収集している(内容は前編を参照)。この図には,インタビュー結果に加えて,特に関与部分に関しては,上田・竹内(2022)の実証研究の成果も取り入れている。

この図の特徴はループしている点であり,過去から継続的にループしながら強化あるいは減衰しつつ,成立していると考えられる。この構造仮説の図では,強化の場合を取り上げており,地域フードブランドの喫食が,地域フードブランドのイメージ,ブランドコミットメントにプラスの影響を与え,そこから未訪問地域への関心が高まり,訪問につながり,すべての要素が地域一体化イメージ(テリトーリオ)となり,それが影響を与え,再び,地域フードブランドの購入へとループしていく姿を捉えている。そして生産地への関心を深めることに対して地域フードブランド喫食者のデモグラフィック要因やサイコグラフィック要因が影響し,それ以外にも生産地域における友人の存在等が影響しているとしている。減衰の場合には,何かのきっかけ(例えば飽きなど)で逆にマイナスのつながりがループしていくのであろう。この減衰については,今回は扱わない。

これらの構造仮説図をまとめて共分散構造分析で分析するには,データの同時性の点からできないため,部分的に分けて,単回帰分析あるいは重回帰分析で仮説を検証してことにする。以下に各部分ごとの仮説の図3-2〜図3-5を示しておく。

 

250頁】

 

3-1 仮説1について

図3-2においては,太線の仮説1-1〜仮説1-3を示している。仮説1-1では,共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)が地域フードブランドの喫食(購入)に影響を与えているという仮説であり,この喫食は入手方法・喫食回数・購入理由の3変数があるため,3つの分析からなる。概念的な影響関係は図を参照すれば明らかであるので,具体的な仮説−検証スタイルで表示すると以下のようになる。

【仮説1-1】

@分析その1

独立変数:喫食前の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化イメージ

従属変数:入手方法(購入した=1,もらった=0)

これはサンプルが喫食して訪問した人のみなので,全員喫食しており,こういった従属変数となる。ただし,「購入した」と「もらった」と両方に回答した人は購入とする。またこのアンケートにおいては,複数都道府県の訪問と地域フードブランドについて回答した回答者については,まずは「喫食回数が多い」,回数が同じ場合は「購入」を優先して1地域のみを選んで,そのデータのみを採用した。これは以下同様である。分析方法としては,従属変数が1,0であるため,ロジスティック回帰を用いた。結果は以下の通りである。

251頁】

つまり,決定係数から説明力は小さいものの,変数は5%水準で統計的に有意であり,テリトーリオの意識が高いほど,自前で購入することが明らかになった。

 

A分析その2

独立変数:喫食前の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化イメージ

従属変数:地域フードブランドの喫食回数(ただしアンケートにおける5回以上の選択肢の回答データは5とする)

分析方法としては,回帰分析を用いた。結果は以下の通りである。

 

つまり,分析その1と同様に決定係数から説明力は小さいものの,独立変数は1%水準で統計的に有意であり,テリトーリオの意識が高いほど,地域フードブランドの喫食回数が増加することが明らかになった。

 

B分析その3

独立変数:喫食前の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化イメージ

従属変数:地域フードブランド喫食理由をアンケートで採り,それについて因子分析をかけた結果の積極性因子,受動性因子のそれぞれの因子得点の2変数。それゆえ2つの式となる。

 

まず喫食理由の因子分析は以下のように自ら働きかける積極性因子と知人,親戚受動性など縁があるという受動性因子の2因子に分かれた。それぞれの因子得点を従属変数として回帰分析を実施したところ,以下の結果を得た。

252頁】

 

 

自由度調整済み決定係数は0.182の説明力の大きさとなり,独立変数は1%水準で統計的に有意であり,テリトーリオの意識が高いほど,地域フードブランドの喫食に積極的になることが明らかになった。

次に従属変数が受動性因子である場合,自由度調整済み決定係数は0.059と小さいものの,独立変数は1%水準で統計的に有意であり,テリトーリオの意識が高いほど,地域フードブランドの喫食の受動性意識も高まることが明らかになった。

 

 

253頁】

つづいて仮説1-2についても仮説−検証スタイルで表示すると以下の通りとなる。

【仮説1-2】

@分析その1

独立変数:入手方法(購入した=1,もらった=0)

従属変数:地域フードブランド関与は感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメントと3つの変数がある。それゆえ3つの式となる。

ただし,地域フードブランド関与の感情的関与は7項目の平均であり,認知的関与は6項目の平均である(感情的関与と認知的関与については以下同様)。

同様に結果をみると,まず感情的関与が従属変数である場合には,自由度調整済み決定係数もほぼ0であり,非有意であった。地域フードブランドの購入は,地域フードブランドの感情的関与に影響を与えていないことがわかった。

 

 

また以下の結果より,認知的関与に関しては,自由度調整済み決定係数は小さいものの,独立変数は5%水準で有意であり,地域フードブランドの購入は,地域フードブランドに関する認知的関与に影響を与えていることが明らかになった。

 

 

同様に以下の結果をみると,まずブランドコミットメントが従属変数である場合には,自由度調整済み決定係数もほぼ0であり,独立変数も非有意であった。地域フードブランドの購入は,地域フードブランドに関するブランドコミットメントに影響を与えていないことがわかった。

254頁】

 

A分析その2

独立変数:入手方法(購入した=1,もらった=0)

従属変数:ブランドストーリー関与は感情的関与と認知的関与の2変数がある。それゆえ2つの式となる。まず感情的関与から見ていく。

 

 

この結果から,感情的関与に関してはこの仮説は成立していない。

同様に認知的関与を見ていくと以下の分析結果から,説明力は乏しいものの,入手方法は10%水準では有意であり,ブランドストーリーの認知的関与には影響を与えていることがわかる。

 

255頁】

B分析その3

独立変数:喫食回数

従属変数:地域フードブランド関与であるが,感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメントの3変数がある。それゆえ3つの式となる。

まず感情的関与の結果からみていくと,次の結果から喫食回数が多いほど,地域フードブランドへの感情的関与は高くなることがわかる。

 

 

 

こちらも同様に有意の結果が見て取れる。

そしてブランドコミットメントに関しては以下の図からやはり同様に有意であった。

 

256頁】

C分析その4

独立変数:喫食回数

従属変数:ブランドストーリー関与の感情的関与と認知的関与の2変数となる。それゆえ2つの式となる。

まず感情的関与に関してだが,以下のように有意となった。

 

 

次に認知的関与であるが,やはり同様に以下の結果のように有意となった。

 

 

【仮説1-3】

今度は,図3-2の仮説1-3に当たるところで,地域フードブランドイメージ関与とそのブランドコミットメントが喫食後の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化イメージに影響を与えるという仮説の検証となる。

独立変数:地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)及びブランドストーリー関与(感情的関与・認知的関与)

従属変数:喫食後の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化

今度は重回帰分析を用いる。

結果は,以下のように説明力も0.476と高く,地域フードブランドの感情的関与が1%水準で,同ブランドコミットメントが5%水準で有意となった。地域フードブランドの認知的関与やブランドストーリー関与といった独立変数は有意とならなかった。感情的な要素が有意となっている。

257頁】

 

3-2 仮説2について

次に仮説2について説明,仮説−検証を行う。図3-3を見られたい。

 

 

【仮説2-1】

仮説2-1は,共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)が地域フードブランドのイメージ,ブランドコミットメントに影響を与えているかの仮説−検証となる。

@分析その1

独立変数:喫食前の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化

従属変数:地域フードブランド関与は感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメントの3つの変数がある。そのため3つの回帰式となる。

まず地域フードブランドの感情的関与が従属変数となった場合,以下の結果の通り,喫食前258頁】 の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化イメージは,1%水準で有意となっている。認知的関与においてもブランド・コミットメントにおいても結果は同様である。

 

 

 

 

続けて同様に分析を続けていく。

A分析その2

独立変数:喫食前の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化

従属変数:ブランドストーリーにおける感情的関与・認知的関与の2変数がある。そのため2つの式となる。

結果として,ブランドストーリーにおける感情的関与に関しても認知的関与に関しても以下のように有意となった。

259頁】

 

 

【仮説2-2】

地域フードブランドのイメージ,ブランドコミットメントが地域フードブランドの喫食(購入)に影響を与えているかの仮説−検証となる。ただし,データの同時性ゆえ仮説1-2と仮説2-2は,相関関係に留まることに注意されたい。これは今回の利用データが,いくつかのデータを除き,1時点のデータであるため,データに同時性が生じ,独立変数と従属変数を入れ替えた分析を行っても相関分析の域を出ないためである。

 

@分析その1

独立変数:地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)ブランドストーリー関与(感情的関与・認知的関与)

従属変数:入手方法(購入した=1,もらった=0 )

 

 

従属変数が1か0であるため,方法としてはここもロジスティック回帰を用いた。結果的には,説明力は低いが,地域フードブランドの認知的関与が1%水準で有意となり,認知していることが購入に正の影響を与えていることが明らかとなった。

260頁】

A分析その2

独立変数:地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)
ブランドストーリー関与(感情的関与・認知的関与)

従属変数:喫食回数

以下の重回帰分析の結果を見ると,説明力はそれほど大きくないものの,1%水準で有意であり,地域フードブランドの感情的関与のみが喫食回数を増加させていることが明らかとなった。人の持つ地域フードブランドの感情的な要素が購入にはより大きな影響を持つことがわかる。

 

 

B分析その3

独立変数:地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)
ブランドストーリー関与(感情的関与・認知的関与)

従属変数:購入理由で因子分析によって求められる積極性因子・受動性因子の2つが従属変数となるため2つの分析を行った。

重回帰分析の結果,購入理由の積極性因子に関しては,地域フードブランドの感情的関与が1%水準で,同認知的関与が5%水準で有意となり,感情的な要素が認知的な要素よりも強く影響していることが明らかとなった。

 

 

次に購入理由の受動性因子に関しても以下のように同様の結果となった。

 

261頁】

 

3-3 仮説3について

次に仮説3について説明,仮説−検証を行う。図3-4を見られたい。この図では,地域フードブランドのイメージは,喫食者のデモグラフィック・サイコグラフィック要因や友人の存在等,喫食者のきっかけとなる訪問要因とともに生産地域への関心を高め,これらが生産地域への訪問へとつながっていくことの仮説−検証である。ここでは重回帰分析が分析手段となる。

 

 

【仮説3-1】

地域フードブランドのイメージ,ブランドコミットメント,喫食者のデモグラフィック・サイコグラフィック要因,友人の存在等,喫食者のきっかけとなる訪問要因が生産地域への関心に影響を与えているかの仮説−検証となる。

●分析

独立変数:地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)ブランドストーリー関与(感情的関与・認知的関与),性別,年代,結婚有無,旅行頻度,世帯年収,同居家族,旅行関与,訪問要因

262頁】

従属変数:喫食後の地域関与における感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメントの3変数がある。それゆえ3つの式となる。

まず喫食後の地域における感情的関与についてであるが,分析結果から,地域フードブランドの感情的および認知的関与,旅行の感情的関与,地域における観光スポットの存在が,いずれも1%水準で有意となった。また説明力も0.729と高かった。

 

 

次に喫食後の地域における認知的関与であるが,やはり独立変数のうち,地域フードブランド,旅行およびブランドストーリーの認知的関与が有意な変数として影響があったが,地域フードブランドの感情的関与も有意であった。

 

 

そして喫食後の地域におけるブランドコミットメントであるが,地域フードブランドの感情的関与,旅行の感情的関与,地域における観光スポットの存在が1%水準で有意であり,また世帯年収の800〜900万円が初めて有意となった。

263頁】

 

【仮説3-2】

次に仮説3-2では,喫食後の地域関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)が,因子分析の結果からの生産地域への訪問意図の「食べてみて生産地へ行きたくなった」および「生産地域への親近感」へ影響を与えるという仮説−検証である。やはり重回帰分析を用いている。

@分析その1

独立変数:喫食後の地域関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)

従属変数:生産地域への訪問意図の「食べてみて生産地へ行きたくなった」

結果は,以下に示すように,生産地への訪問意図に対しては,喫食後の地域に関する感情的関与とブランドコミットメントがどちらも1%水準で有意であった。

 

 

A分析その2

独立変数:喫食後の地域関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)

従属変数:生産地域への訪問意図で因子分析を実施し,その因子得点を用いる。ここでは1因子(生産地域への親近感)のみであるため1つの重回帰分析となる。

264頁】

以下の結果により,生産地域に関する喫食後の感情的および認知的関与が1%水準で有意となった。説明力も高く,感情的関与の方が影響力は高い。

 

 

3-4 仮説4について

次に仮説4について説明,仮説−検証を行う。図3-5を見られたい。この図では,生産地域への訪問の結果は,地域一体化イメージに変化を与え,生産地域への関心に変化を与えるということの仮説−検証である。

【仮説4-1】

生産地域への訪問が共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)に影響を与えるという仮説−検証を行うため,ここでは平均値の差の検定を適用する。具体的には喫食前と喫食後の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化の平均値の差の検定を行い,その変化が有意かどうかで検証を行う。

 

 

この結果から,1%水準で有意な結果となり,喫食後の方が喫食前よりも地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化は拡大していることが明らかとなった。

265頁】

【仮説4-2】

最後の仮説−検証となるが,共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)が喫食後の生産地への関心に影響を与えるという仮説−検証を行う。

独立変数:喫食後の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化

従属変数:喫食後の地域関与における感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメントの3変数がある。それゆえ3つの回帰式となる。

 

 

266頁】

 

結果は,3つとも類似の結果であり,すべて1%水準で有意となった。

 

4.各仮説の検証結果からの結論

 

再度図3-1を掲載しておく。

 

特に重要な結論としては,地域フードブランドの喫食から生産地域訪問へ至るプロセスとしてのテリトーリオ・アプローチの有効性が明らかになったことである。地域フードブランドの喫食は多くの変数に有意に影響されつつ,図に示されるループを描いた。

各仮説−検証からの主な結論をそれぞれまとめておく。

●仮説−検証1-1:

テリトーリオの値は,有意な正の影響を喫食(購入しての喫食でも回数でも喫食理由でも)に与える。

●仮説−検証1-2:

地域フードブランドを購入しての喫食は,地域フードブランドおよびブランドストーリー関与の認知的関与のみを有意に高めるが,感情的関与とブランドコミットメントには影響を与え267頁】 ない。つまり少数回の喫食は,知識を増やす程度なのであろう。しかしながら,喫食回数は,地域フードブランドおよびブランドストーリー関与のすべての関与を有意に高める。何度も喫食すると感情面も,ブランドコミットメントも高めるということになる。

●仮説−検証2-1:

まず共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)は,地域フードブランド関与(感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント)を有意に高める。つまりテリトーリオのイメージは強い効果を持つことを意味する。

また共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)は,ブランドストーリー関与の感情的関与・認知的関与の両方を有意に高める。

●仮説−検証2-2:

地域フードブランドのイメージ(3つの関与)のうち認知的関与のみが,購入しての喫食を有意に高めている。これは知識を有することの効果であろう。また地域フードブランドのイメージのうち,感情的関与のみが喫食回数を有意に高めている。これは感情的な側面は,喫食の効果が大きいことを示している。そして地域フードブランドの感情的および認知的関与のみが積極的な喫食理由に有意な正の影響を与えており,ブランドストーリー関与は非有意で効果がないことが明らかになった。最後に地域フードブランド関与とブランドストーリー関与はともに,その認知的関与のみが受動的な喫食理由に有意な正の影響を与えている。

●仮説−検証3-1:

生産地域への関心を高めるのは何かについて明らかにしており,感情的&認知的地域フードブランド関与,感情的旅行関与,地域における観光スポットの存在が喫食後の感情的地域関与を有意に高める。ここでは観光スポットの存在も重要であることがわかった。

また感情的&認知的地域フードブランド関与,認知的旅行関与,認知的ブランドストーリー関与が喫食後の認知的地域関与を有意に高めている。つまり知識を高めるのは知識であることがわかる。そして感情的地域フードブランド関与,感情的旅行関与,地域における観光スポットの存在が喫食後のブランドコミットメント地域関与を高め,特に800〜900万円未満世帯年収の層の場合高くなる。これからは感情的な側面が地域関与を高めるのに強力であることがわかる。

●仮説−検証3-2:

因子分析等で抽出された生産地域へ訪問意図,生産地域への親近感に関しての含意である。喫食後の地域関与(感情的関与・ブランドコミットメント)が喫食後に生産地域への訪問意図を有意に高める。これから訪問意図には感情的側面の効果が大きいことがわかる。

また喫食後の地域関与(感情的関与・認知的関与)が生産地域への親近感を有意に高めており,親近感強化には感情面,知識面と両方が重要であることがわかる。

●仮説−検証4(1と2):

共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージと生産地域へ関心を高めることについての含意である。まず生産地域への訪問は,共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージ(テリトーリオ)を有意に高めており,喫食後の地域フードブランドイメージと地域のイメージの一体化(テリトーリオ:感情的関与,認知的関与,ブランドコミットメント)が生産地域への関心を有意に高める。これはモデルにループが存在することを明らかにしている。

 

268頁】

以上の結論から重要な含意をまとめると以下のようになる。

・地域フードブランド喫食と生産地域訪問の関係性は,テリトーリオ活用の構造モデルによる分析が有効である。

・テリトーリオモデルは,ループして強化されていく。

・共有財としてのコモンズとなる地域一体化イメージは,地域プレイスブランドとして重要である。

・知識を増やし,喫食に繋げるのは認知的な面であるが,喫食回数を増やすのは感情的な強化であり,感情面の強化は地域フードブランドにおいて極めて重要となる。

・観光スポットの存在も地域への関心を増すためには重要である。

・生産地域への訪問意図,生産地域への親近感を高めるのは感情面の強化が重要である。

 

5.研究上の限界

 

本研究には限界もいくつか存在する。箇条書きで書くと以下のようになる。

・アンケートのサンプル対象は,1都3県であり,全国データではないため,関東の傾向のみを反映したものである。日本全国について知るには,全国データが必要である。

・同じサンプルに喫食前後の質問をしているため,予定調和の回答をサンプルがした可能性が残る。この場合,想定した分析結果は出現しやすくなる。

・インタビュー,アンケートのサンプルは,喫食が訪問に結びついたサンプルのみを取り上げ,アンケートをとっている。「喫食が生産地域への訪問」の検証は,未訪問サンプルを含めた分析が必要であり,これは今後の課題となる。

 

【謝意】

本研究は科研費基盤研究 B(19H01540)(代表:上田隆穂)によるものである。5年にわたる研究を可能にしてくれたことに対して謝意を表したい。

 

参考文献

1. 上田隆穂(2023)「【書評】木村純子・陣内秀信編著イタリアのテリトーリオ戦略〜甦る都市と農村の交流〜」『早稲田大学イタリア研究所研究紀要』第12号,pp.125-129.

2. 上田隆穂・竹内俊子(2022)「沖縄おせち開発による地域創生およびそれに関する消費者調査」『学習院大学経済論集』第58巻,pp.275-313.

3. 上田隆穂・竹内俊子(2023)「地域フードブランドの喫食が未訪問地域への訪問につながるか(前編)〜概念モデル作成および実証研究用アンケート調査作成のためのインタビュー調査〜」『学習院大学経済論集』第60巻,pp.57-77.

4. 電通abic project編 和田充良人,菅野佐織,徳山美津恵,長尾雅信,若林宏保著(2009)『地域ブランドマネジメント』有斐閣

5. 中島彰一(2022)「食品の購買とその産地への観光との関係に関する研究」,『流通情報』N0.557,7月,pp.36-37.

269頁】

6. 木村純子・陣内秀信(2022)『イタリアのテリトーリオ戦略』白桃書房

7. 小林哲(2016)『地域ブランディングの論理 − 食文化資源を活用した地域多様性の創出』有斐閣