51頁】

 

日本人女性における結婚候補の交際相手の
有無に関する統計分析

 

鈴木 亘

 

要旨

本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の個票データを用いて,鈴木(2024)が行った日本人女性の結婚の決定要因に関する分析とほぼ同じフレームワークを使い,結婚候補の交際相手がいる決定要因を探った。

記述統計ベースで各変数を観察した際には,結婚の決定要因と異なる特徴はそれほど多くなかったが,プロビットモデルによる推定を行うと,有意な変数は,鈴木(2024)に比べ格段に少なく,決定係数も低くなった。もっとも,この傾向は先行研究も同様である。

有意となった変数について,特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,外見に関しては,肥満の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。職種に関しては,正規職員に比べて,パート・アルバイトや,自営業・家族従事者・内職の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。学歴や収入,各資産は有意ではなく,むしろ,仕事の継続年数が長いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高くなっており,結婚の決定要因として重要であった機会費用仮説は当てはまらないようである。マッチング環境に関しては,上司からの紹介がある場合,事業者等のイベントに参加する場合,モチベーションを高めるカウンセリングを受ける場合に,結婚を考えている交際相手を得る確率が増す。

解釈が難しい変数も少なくないが,いずれにせよ,結婚の決定要因と,結婚候補の交際相手がいる決定要因の間には,やや異なるメカニズムが存在する可能性がある。

 

キーワード

少子化,結婚,未婚,交際相手,マッチング

 

1.はじめに

 

2022年の我が国における日本人の出生数は77万747人と,前年の81万1622人より4万人以上も減少し,過去最低数を更新した(図表1)。2023年の出生数も,前年比で4万人以上の減少となることが見込まれており,少子化の進行に歯止めがかからぬ状況が続いている。こうした中,政府は2024年2月に,児童手当の対象拡大や増額,所得制限の撤廃,両親ともに育休取得した場合の育休給付金の支給率引き上げ,こども誰でも通園制度の創設などから成る「少子化対策に関する改正法案」を閣議決定し,「異次元の少子化対策」と銘打つ大型対策に着手したところである。

52頁】

しかしながら,よく知られるように,我が国の少子化の主因は婚姻率の低下にあり,「異次元の少子化対策」が,結婚対策に全く踏み込んでいないことには大きな懸念がある。実際,我が国の婚姻件数,婚姻率は近年,低下の一途をたどっており,特にコロナ禍の中で急減した。我が国は,伝統的に非嫡出子の割合が小さく,結婚しないと子どもを出産しない文化なので,この婚姻件数,婚姻率の減少は非常に深刻な問題である。少子化に歯止めをかけるには,未婚率上昇の要因を解明し,それに対する対策を実行することが重要である。

そのような問題意識から,筆者は既に鈴木(2024)において,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」を用いて,日本人女性の独身者および既婚者のデータをプールし,結婚の決定要因を分析した。その結果,結婚の決定要因に関する諸仮説を裏付ける様々な変数が統計的に有意となることがわかった。まず,潜在的な交際相手から見た当該女性の魅力(供給面)については,肥満,容姿の悪さ,持病がある場合に,結婚確率が低下する。また,飲酒,パチンコ・パチスロ,ケチと言った習慣も結婚率にマイナスに寄与する。職種に関しては,職を持たない場合に比べ,職があるほど結婚率は高まり,正規職員,パート・アルバイト,派遣・嘱託・契約社員の順に,結婚率が高まる。一方,需要面については,大卒以上の学歴の場合や仕事の継続年数が高まるほど,結婚率が低下する結果となっており,女性の機会費用が高まるほど,結婚しなくなる仮説と整合的であった。また,往復の通勤時間が長いほど,夜7時以降,朝9時以前の就業時間が長いほど,結婚確率が低くなることから,時間的制約も重要な要因と考えられる。そのほか,両親が恋愛結婚している場合に結婚率が高まり,母親に離婚経験があると結婚率は低くなることから,結婚需要に,両親からのデモンストレーション効果が存在することが示唆された。さらに,マッチングの環境については,毎日顔を合わせる独身の異性数が多いほど,職場や学校以外で独身の異性と会う機会が多いほど,結婚率が高まることなどが分かった。

ただ,鈴木(2024)のアプローチは,既婚者については,結婚当時,あるいは結婚前の状況を思い出して回答することになっているため,過去の振り返りデータに伴う回顧バイアスが存在することが否定できない。そこで,本稿は,これらのエビデンスが,別の観点からサポートされるかどうかを探るため,回顧バイアスのない独身者(女性)のみにサンプルを限定し,結婚を考えている交際相手の有無について,その決定要因を分析することにした。もちろん,結婚を考えている交際相手がいるからと言って,それがその後,結婚という結果につながるかどうかはわからない。結婚候補者が結婚相手となるまでには様々なハードルがあることは容易に想像できる。しかしながら,少なくとも両者には強い相関があると考えられるし,結婚という結果に結びつく一歩前の段階を分析すること自体にも,結婚対策を考える上で十分な意義があると思われる。

さて,鈴木(2024)では,我が国において,結婚に関する経済分析があまり多くないことが報告されているが1),交際相手の有無に関する分析ともなると,さらに少ないのが現状である。53頁】 わずかな例外が,佐々木(2012),西村(2015,2016)である。佐々木(2012)は,経済産業省の研究会が実施したインターネットモニターのアンケート調査(個票データ)のうち,男性のみのサンプルを用いた分析を行っている。具体的には,交際相手の有無を,結婚意欲や出会いの機会を通じたルートと伴に同時推定する手法(リカーシブ2変量プロビットモデル)を用いている。交際相手の有無に関しては,結婚意欲や独身の異性と親しくなるきっかけの多さのほか,所得水準の高さ,学歴の高さや年齢の低さなどが正の影響を及ぼすことを報告している。雇用の不安定さ(非正規雇用)については,直接効果と間接効果(結婚意欲や出会いの機会を通じたルート)で符号が逆転するなど,あまり明確な効果が観察されていない。

一方,西村(2015)は,著者が独自に未婚の男女に対して実施したインターネットアンケートの個票データを分析し,T.すでに恋人または婚約者がいるグループ(恋愛成就型),U.恋人が欲しいと思っており,出会うために何らかの活動をしているグループ(恋愛サーチ型),V.恋人が欲しいと思っているが,出会うために何の活動もしていないグループ(恋愛モラトリアム型),W.恋人を欲しいと思っていないグループ(恋愛無関心型)の4つに類型化を行った上で,恋愛サーチ型,恋愛モラトリアム型の2類型の男女に対して,計量的な分析を行っている。両類型とも,適当な相手に巡り合わない確率に対して,男女の年齢が影響する一方,所得の低さは影響を与えていない。一方,恋愛サーチ型において,異性とのコミュニケーション能力やリスクに対する選好が影響していることが興味深い。一方,西村(2016)は,交際相手のサーチ行動と先送り行動の関係を,行動経済学の観点から,経済実験を実施して分析するという珍しい研究であるが,本稿とは直接の関わりが無い研究であるため,詳しくは触れない。

恋愛に関する計量的分析という意味では,社会学の分野で行われた計量的研究も大変重要である。中村・佐藤(2010)は,佐々木(2012)と同様,著者の一人(佐藤博樹氏)が座長を務めた経済産業省の研究会が実施したインターネットモニターのアンケート調査を用いた分析を行っている。男女別に,恋人の有無をロジスティック・モデルにより分析した結果,男性については年収,企業規模,職場の独身異性の人数,友人付き合いの頻度が,現在恋人がいることに正の影響を及ぼし,女性については,パート労働と休日出勤の頻度(の低さ)が正の影響を及ぼしていることが報告されている。男女間で,交際相手がいる要因が大きく異なることが示されている点が興味深い2)。また,小林(2023)は,著者らが独自に実施した過去の振り返りアンケート調査によって,貧困と過去に付き合った恋人人数などの関係を分析している。分析の結果,男性の場合には現在の貧困が恋人人数や性関係人数に負の影響を及ぼし,女性の場合には15歳時に生活が苦しい場合に,逆に恋人人数,性関係人数が増加することを報告している。

ただ,経済学あるいは経済学の観点からも重要な社会学の計量的研究が少ないとはいえ,家族社会学や人口学の分野では,恋愛や交際が重要な分析テーマであることは言うまでもない。54頁】 当然のことながら,我が国においても,数多くの研究が行われている。それらは本稿の分析と直接の関係がないためにここでは紹介しないが,比較的最近の重要な文献については,永田・大杉(2019)が丹念なサーベイを行っていることを触れておきたい。

さて,本稿は,日本人女性の結婚の決定要因を探った鈴木(2024)と同じデータおよびフレームワークを用いて,独身女性における結婚候補の交際相手の有無に関する決定要因の分析を行う。結婚の決定要因と比較して何が異なり,何が異ならないかを知ることが大きな目的である。

以下,本稿の構成は次の通りである。2節では,本稿で用いるデータの説明を行う。3節は,仮説と分析モデルを提示する。第4節では,まずは表によって,結婚を考えている交際相手がいる人とそうでない人の簡単な比較を行った上で,回帰分析を行う。5節は結語である。

 

2.データ

 

本稿が用いているデータは,少し古いが,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の個票データである。このアンケート調査は,2008年2月に独身者の男女及び既婚者の女性を対象に郵送調査法で行われたものである。対象年齢は20歳から45歳,対象地域は全国である3)。サンプル数は,2008年の調査で独身者1155,既婚者535である。また,この調査は2009年3月に改めて,全く同じ調査票を用いて追加調査を実施しており,独身者568,既婚者586が収集されている。本研究では,2008 年調査と2009年調査の独身者の女性にサンプルを限って分析を行うことにする。

この調査の特徴は,極めて多くの個人属性や結婚に対する環境,意識を尋ねていることである。本稿が用いる諸変数だけみても,年齢,本人学歴,背の高さの自己評価,肥満度の自己評価,容姿の自己評価,健康の自己評価,持病の有無,保有金融資産(万円),借入金(万円),実物資産(万円),自分でできる家事(掃除,洗濯,食事作り,食器洗い,買い物,整理整頓,アイロンかけ,育児,ゴミ分別,子供の送迎,介護),悪い習慣の有無(喫煙,飲酒,競馬・競輪などのギャンブル,パチンコ・パチスロ,浮気癖,虚言癖,借金癖,浪費癖,ケチ),本人の職種(正規職員,パート・アルバイト,派遣・嘱託・契約社員,自営業・家族従事者・内職,無職・家事,学生),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数,週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり),育休取得環境の良さ,職場にある制度(短時間勤務,時差出勤,育児休職,再雇用制度,フレックスタイム,在宅勤務),父親の年齢,母親の年齢,父親職種(本人と同様の分類),母親職種(同),父親学歴,母親学歴,父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲の良さ,18歳時点で家庭の裕福さ,18歳時点で住宅状況,結婚相手に求める条件とその程度(年収,就業形態,学歴,年齢,身長,体型,容姿,性格,趣味の一致,親の同居についての意向,健康状態),希望子供数,交際環境(よく話をする独身の異性数,毎日顔を合わせる独身の異性数,独身の異性と親しくなるきっかけの頻度,職場や学校以外で独身の異性と会う機55頁】 会の頻度,交際や恋愛について気軽に相談できる人の数,異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い(上司から,取引先から,同僚から,職場以外の友人から,家族や親せきから,事業者等のイベント,お見合い),結婚サービスの利用(結婚相談所,事業者のマッチングサービス,ネットのマッチングサービス,自治体・NPOの出会い事業,所属企業の紹介サービス,出会い系サイト,出会い目的のパーティーやイベント,モチベーションを高めるカウンセリング,付き合い方,魅力アップのカウンセリング)などの膨大な項目がある。

これらの諸変数について,鈴木(2024)が行った独身者と既婚者間の比較分析と同じフレームワークで分析を行うことにする。まず,本稿で用いる諸変数の記述統計は図表3の通りである。この調査では,交際相手の有無を尋ねる質問の後に,その交際相手との結婚の希望を尋ねる質問がある。結婚に結び付く可能性が高いのは,軽い交際,恋愛だけを目的とする交際を含んでいると考えられる「交際相手の有無」ではなく,結婚を前提とするより真剣な交際であると考えられるため,交際相手がいて,なおかつ,その交際相手と結婚を希望している場合に1,それ以外に0をとる「結婚を考えている交際相手の有無」という変数を作り,主な分析対象とする。図表4の記述統計は,結婚を考えている交際相手の有無別にそれらの変数を比較している。

 

3.分析モデル

 

鈴木(2024)同様,本稿の分析手法は至ってシンプルである。被説明変数として「結婚を考えている交際相手」がいる場合に1,いない場合に0とするプロビットモデルを,様々な個人属性や環境・意識変数を説明変数として推定し,そのような交際相手がいる要因を探るというものである。

鈴木(2024)で詳しく述べたように,結婚の決定要因に関しては,@供給側の要因,A需要側の要因,B出会いの経路(マッチング・システム)の3つに大きく分類されるが,結婚を考えている交際相手がいる決定要因も,同様のフレームワークで考えることにする。

 

⑴ 供給面

本稿が用いる諸変数に引き寄せて考えれば,@供給側の要因とは,潜在的な交際相手(男性)から見た分析対象(女性)の魅力を表す説明変数である。まずは,外見の自己評価である。背が低い(5段階評価のうち,下から2つ),肥満(5段階評価のうち,下から2つ),容姿悪い(5段階評価のうち,下から2つ),健康悪い(5段階評価のうち,下から2つ),持病ありと言った変数があるが,仮説としては,全て負の係数が予想される。また,自分でできる家事(自分でできる家事1(掃除),自分でできる家事2(洗濯),自分でできる家事3(食事),自分でできる家事4(食器洗い),自分でできる家事5(買い物),自分でできる家事6(整理整頓),自分でできる家事7(アイロンかけ),自分でできる家事8(育児),自分でできる家事9(ゴミ分別),自分でできる家事10(子供の送迎),自分でできる家事11(介護))については,家事ができるほど結婚相手としての魅力が増すと考えられることから,正の係数が期待できる。

さらに,悪い生活習慣の有無(習慣1(喫煙),習慣2(飲酒),習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣4(パチンコ・パチスロ),習慣5(浮気癖),習慣6(虚言癖),習慣7(借金癖),習慣8(浪費癖),習慣9(ケチ))は,全て魅力が下がると考えられるため,負の係56頁】 数が予想される。本人の職種(本人職種1(正規職員),本人職種2(パート・アルバイト),本人職種3(派遣・嘱託・契約社員),本人職種4(自営業・家族従事者・内職),本人職種5(無職・家事),本人職種6(学生))については,本人職種1(正規職員)をベンチマークとするダミー変数とするが,どのような符号となるかは先験的にはわからない。職に就いている方が,所得獲得能力が高まる魅力があると考えれば,正規職員に比べて,他の職種は負の係数が期待できる。一方で,専業主婦としての家事や育児の能力に魅力があるならば,労働時間の短い非正規の職や職を持たない職種が正の符号になる可能性もある。

 

⑵ 需要面

もっとも,職種に関しては,A需要側の要因,つまり,本人の結婚需要に関する説明変数とみることもできる。例えば,職を持っているほど,結婚資金や結婚後の安定的な生活が期待できることから,結婚需要が高まる可能性がある。

他に需要側の説明変数として重要なものは,機会費用に関するものがある。Becker(1973)に始まる経済学の標準的理論では,女性の社会進出が進み,結婚や出産に対する機会費用が高まってきたことが,婚姻率低下や出生率低下の要因とされる。機会費用を表す変数としては,まず,学歴(大卒以上),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数が挙げられる。機会費用仮説が正しければ,これらの説明変数の係数は負の値となるだろう。ただ,例えば,月当たり収入に関しては,先に職種のところで説明したように,その値が高いほど,結婚資金や結婚後の安定的な生活が期待できることから,結婚需要が高まるという可能性もある。その場合は,係数が正となるだろう。本人の持つ金融資産,借入金,実物資産といった資産に関する変数も,広い意味での機会費用に関する変数とみることも可能であるが,月当たり収入と同様の側面があるし,潜在的な結婚相手からみた魅力として,供給要因と考えることもできる。

さらに,長時間労働や通勤によって,結婚相手探しや交際時間に割ける時間に制約があると,結婚を考えている交際相手がいる可能性が低くなると考えられる。週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり)を,時間制約に関する説明変数とすると,その係数は負が期待される。同様に,結婚して出産をした場合,育休をしっかり取得できたり,子どもができた場合に,柔軟な働き方ができる職場環境かどうかということも,結婚を前提とする交際を行う場合に影響する可能性がある。なぜならば,我が国の場合は,出産と結婚が強く結びついており,交際する段階でもそれが影響している可能性があるからである。育休取得環境良い,職場の制度1(短時間勤務),職場の制度2(時差出勤),職場の制度3(育児休職),職場の制度4(再雇用制度),職場の制度5(フレックスタイム),職場の制度6(在宅勤務)などの説明変数は,結婚を考えている交際相手を持つことに対して,正の影響を与えると考えられる。

次に,女性の実家の家庭環境も,結婚需要と同様,交際相手の有無に影響すると考えられる。例えば,実家が裕福であるかどうか,両親が定職についているかどうかということは,結婚した後のサポートが期待できるという意味で,正の影響を与える可能性がある。ただ,逆に,既に同居していたり,両親から独身生活の経済的サポートを受けるなどして,結婚に対する‘留保賃金’を引き上げている場合には,負の影響があることも考えられる。こうした家庭環境の説明変数としては,父親の年齢,母親の年齢,父親職種1(正規職員),父親職種2(パート・アルバイト),父親職種3(派遣・嘱託・契約社員),父親職種4(自営業・家族従事者・内職),57頁】 父親職種5(無職・家事),父親職種6(学生),母親職種1(正規職員),母親職種2(パート・アルバイト),母親職種3(派遣・嘱託・契約社員),母親職種4(自営業・家族従事者・内職),母親職種5(無職・家事),母親職種6(学生),父親学歴(大卒以上),母親学歴(大卒以上),父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数を用いることにする。

さらに,女性が結婚して家庭を作ることに憧れがある場合には,結婚のための交際への需要が高まるはずである。家庭に対するあこがれは,身近なロールモデルである両親の姿から生じる可能性が高いため,両親のデモンストレーション効果として,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲が非常に良い,18歳時点で貧しい(中の下以下),18歳時点で持ち家居住という説明変数を用いることにする。

需要面としては,結婚相手に求める条件も重要な説明変数である。本稿が用いるアンケートでは,様々なカテゴリーについて,それを重視する程度を尋ねているので,非常に重視すると答えた場合を1とするダミー変数とした。すなわち,相手の条件を非常に重視1(年収),相手の条件を非常に重視2(就業形態),相手の条件を非常に重視3(学歴),相手の条件を非常に重視4(年齢),相手の条件を非常に重視5(身長),相手の条件を非常に重視6(体型),相手の条件を非常に重視7(容姿),相手の条件を非常に重視8(性格),相手の条件を非常に重視9(趣味の一致),相手の条件を非常に重視10(親の同居についての意向),相手の条件を非常に重視11(健康状態)である。よく言われるように,相手に求める条件にこだわりすぎると,結婚はおろか,交際相手を得ることすらも難しくなるだろう。また,希望子供数も,子どもがたくさんほしい人ほど結婚需要が高いと考えられるので,説明変数に加えた。

 

⑶ マッチング・システム

説明変数としての最後のカテゴリーは,出会いの経路(マッチング・システム)に関わる諸変数である。本稿の分析に用いるデータでは,交際環境や異性の紹介・出会い,結婚サービスの利用状況について数多くの質問をしている。具体的な変数は,交際環境1(よく話をする独身の異性数),交際環境2(毎日顔を合わせる独身の異性数),交際環境3(独身の異性と親しくなるきっかけ多い),交際環境4(職場や学校以外で独身の異性と会う機会多い),交際環境5(交際や恋愛について気軽に相談できる人の数),交際環境6(異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い1(上司から),異性の紹介・出会い2(取引先から),異性の紹介・出会い3(同僚から),異性の紹介・出会い4(職場以外の友人から),異性の紹介・出会い5(家族や親せきから),異性の紹介・出会い6(事業者等のイベント),異性の紹介・出会い7(お見合い),結婚サービスの利用1(結婚相談所),結婚サービスの利用2(事業者のマッチングサービス),結婚サービスの利用3(ネットのマッチングサービス),結婚サービスの利用4(自治体,NPOの出会い事業),結婚サービスの利用5(所属企業の紹介サービス),結婚サービスの利用6(出会い系サイト),結婚サービスの利用7(出会い目的のパーティーやイベント),結婚サービスの利用8(モチベーションを高めるカウンセリング),結婚サービスの利用9(付き合い方,魅力アップのカウンセリング)である。交際環境1,2,5,6以外は全て,当てはまる場合に1,そうでない場合に0となるダミー変数とする。それぞれ,交際相手を得る可能性を高めるものなので,係数は正となることが期待される。最後に,年齢の変数であるが,年齢の他に,年齢の2乗項も説明変数に加えた。

58頁】

 

4.分析結果

 

⑴ 表による分析

前節で述べた分析モデル(プロビットモデル)を推定する前に,主要な説明変数について,結婚を考えている交際相手の有無別に単純比較しておこう。まず,図表5は外見などの自己評価を比較したものである。結婚を考えている交際相手のいない方が,やはり背が低い,肥満,容姿が悪い,健康悪い,持病ありの全ての変数について,該当する割合が高いことがわかる。あくまで自己評価なので,実際の外見などが悪いとは限らないが,少なくとも,自己評価としては,結婚を考えている交際相手のいない方が低い評価となっている。

次に,図表6は悪い習慣を持っている割合を見たものであるが,総じてみて,両者の間に大きな差異があるようには見えない。習慣1(喫煙),習慣2(飲酒),習慣8(浪費癖)などは,むしろ結婚を考えている交際相手がいる方が,割合が高い。一方,習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣9(ケチ)などは,結婚を考えている交際相手がいない方が,割合が高い。より致命的な欠点であるということであろうか。

図表7は職種である。結婚を考えている交際相手がいる方が正規職員の割合が高いことがわかる。結婚を考えている交際相手がいない方は,パート・アルバイトの割合こそ変わらないものの,それ以外の非正規や無職者の割合が高い。

図表8は,機会費用に関する諸変数の比較である。まず,意外にもと言うべきか,結婚を考えている交際相手がいる方が大卒以上の学歴者が多く,月当たり収入も多い4)。もっとも,当該の仕事の継続年数,金融資産(ネット,グロスとも),実物資産は結婚を考えている交際相手がいない方も多い。親との同居率も,結婚を考えている交際相手がいない方がやや高い。

図表9の時間的制約に関係する変数でも,やや意外なことに,結婚を考えている交際相手がいる方が労働時間も通勤時間も,そして,夜7時以降,朝9時以前の就業時間も長い5)

図表10は相手に求める条件である。総じてみて,両者の違いはあまり大きくないようであるが,結婚を考えている交際相手がいない方が,年収を重視する割合が高い。一方で,結婚を考えている交際相手がいない方が,就業形態,年齢,性格,趣味の一致などを重視している割合がやや高い。希望こども数は予想通り,結婚を考えている交際相手がいる方が多い。

図表11は,両親からのデモンストレーション効果に関する諸変数の比較である。結婚を考えている交際相手がいない方が,母親の離婚経験の割合が高い。また,両親が恋愛結婚,18歳時点で両親の仲が良いとする比率も,やはり,結婚を考えている交際相手がいる方が高い。

図表12は,職場環境に関する諸変数の比較である。予想通り,結婚を考えている交際相手がいる方が,ファミリーフレンドリーな企業に勤めている比率が高い。

図表13は,交際環境に関する諸変数であるが,やはり,結婚を考えている交際相手がいる方が,総じて異性と出会う機会が多いことがわかる。

図表14は,異性の紹介・出会いのルートであるが,総じてみて,両者にそれほど顕著な差が59頁】 あるとは言えない。ただ,家族や親せきからの紹介とお見合いについては,結婚を考えている交際相手がいない方が,割合が高い。これは,家族など,周りの危機感の表れとみるべきかもしれない。

図表15は,結婚サービスの利用状況であるが,総じてみて,両者にあまり顕著な違いはない。結婚相談所の利用率は,結婚を考えている交際相手がいない方が高い一方,事業者のマッチングサービスの利用率は交際相手がいる方が高い。

 

⑵ 回帰分析

以上,様々な変数を,結婚を考えている交際相手の有無別に比較してきたが,これらが最終的に決定要因であるかどうかは,諸変数を同時にコントロールした上で判断する必要がある。そこで,前節で説明したプロビットモデルを用いて,全ての変数を同時にコントロールした回帰分析を行った。推定結果は,図表16の通りである。

全体として,鈴木(2024)による結婚の決定要因の分析に比べ,有意となる変数が少ない。無論,決定係数も,鈴木(2024)に比べて格段に小さくなっている。これは,サンプル数が少ないこともあるが,先行研究(中村・佐藤(2010),佐々木(2012),西村(2015))も同様の傾向であり,結婚の選択と結婚を考えている交際相手の選択の間には,やや異なる決定メカニズムがあるのかもしれない。

まず,外見などの自己評価では,肥満が有意であり,肥満であると10.1%も,結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなる。意外なのは,容姿が悪い場合,持病がある場合に,10%基準ではあるが,結婚を考えている交際相手がいる確率が増していることである。

家事については,唯一,買い物ができる場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。習慣については,パチンコ・パチスロを行う習慣があると,結婚を考えている交際相手がいる確率が増しており,やや解釈が難しいところである。

職種に関しては,正規職員をベンチマークとしているが,パート・アルバイトや,自営業・家族従事者・内職である場合に,それぞれ16.5%,29.3%,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少している。解釈としては,安定的な職についているほど,結婚後の生活安定が展望できるために,結婚を考えている交際相手に対する需要が高まるということであろうか。そして,交際相手としての男性としても,今や共働きが当たり前となっている状況では,安定的な職を持つ女性に魅力を感じている可能性がある。

機会費用関係の説明変数については,当該の仕事の継続年数が高まるほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高くなっており,機会費用仮説と反した結果となっている。ただ,機会費用は結婚したり,出産したりした後,キャリアを失うことで生じるため,交際相手がいる時点ではそこまで考えていない可能性もある。むしろ,職場に長くいて安定的なキャリアを持つ女性ほど,男性が魅力を感じたり,交際相手の男性に出会う確率が増すという側面があるのかもしれない。時間的な制約についても,週当たり労働時間が長いほど,結婚を考えている交際相手がいるという結果であり,事前の予想に反した結果と言える。ただ,これも,労働時間が長い方が安定的な収入を得る職であり,その面での魅力があるという解釈も可能である。職場環境については,フレックスタイムがある方が,結婚を考えている交際相手がいる確率が増しており,やはり,より柔軟な働き方である方が,交際しやすいという側面があるのかもしれない。

60頁】

家庭環境については,父親の職種がパート・アルバイトの時に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高く,母親が派遣・嘱託・契約社員の場合に確率が低くなるが,これらの理由はよくわからない。また,18歳時点で貧しい場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなっている。この点は,小林(2023)に類似している。

結婚相手への条件については,年収を非常に重視する場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が3割近く(26.9%)も下がる。共働きが一般的な社会では,男性のみの収入で家計を賄うことができなくなりつつあるから,こうした好条件の交際相手を見つけることが難しくなっている可能性がある。一方で,趣味の一致を重視する場合には,交際相手がいる確率が増しており,これは交際行動と言う意味で,いかにも自然である。興味深いのは,親の同居についての意向を重視する場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少することである。親と同居する世帯が急減している現代らしい傾向である。また,毎日顔を合わせる独身の異性が多い場合にはかえって,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少している。やや解釈の難しいところである。

また,上司からの紹介がある場合,事業者等のイベントに参加する場合,モチベーションを高めるカウンセリングを受ける場合に,結婚を考えている交際相手を得る確率が増す一方,家族や親せきから紹介がある場合には,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。因果関係が逆であるが,家族や親せきからの紹介というのは,むしろ,交際相手がいないことへの危機感の表れなのかもしれない。

念のため,図表17には,結婚を考えている交際相手の有無ではなく,単なる交際相手の有無についてのプロビット分析を行った結果を載せている。図表16に比べてさらに有意な変数が少なくなっている。

 

5.結語

 

本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」を用いて,鈴木(2024)が行った日本人女性の結婚の決定要因に関する分析とほぼ同じ変数を用いて,結婚を考えている交際相手がいる要因を探った。

記述統計ベースで各変数を観察した際には,結婚の決定要因と異なる特徴はそれほど多くなかった。プロビットモデルによる推定を行うと,有意な変数は,鈴木(2024)に比べ格段に少ないものとなった。同時に,決定係数も格段に低くなっている。

特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,外見に関しては,肥満の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率は減少する。職種に関しては,正規職員に比べて,パート・アルバイトや,自営業・家族従事者・内職の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率は減少する。学歴や収入,各資産は有意ではなく,むしろ,仕事の継続年数が長いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高くなっており,機会費用仮説は当てはまらないように見える。そのほか,時間制約仮説と異なる結果ではあるが,週当たり労働時間は長い方が結婚を考えている交際相手がいる確率は増す。ただ,フレックスタイム制が導入されているほど,交際相手がいる確率が増すことから,時間的制約がまったく重要ではないということではないのだろう。

61頁】

マッチング環境に関する事柄では,上司からの紹介がある場合,事業者等のイベントに参加する場合,モチベーションを高めるカウンセリングを受ける場合に,結婚を考えている交際相手を得る確率が増す一方,家族や親せきから紹介がある場合には,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少している。

鈴木(2024)との差異が生じている理由は,いろいろなものが考えられる。そもそも結婚と交際は異なる選択行動であるということかもしれないし,鈴木(2024)の既婚者に回顧バイアスが存在するせいなのかもしれない。また,今回の独身者の分析には,既婚者が除かれているというサンプルセレクションバイアスがあることも影響している可能性もある。もっとも,これだけ大きな結果の違いともなると,結婚の決定要因と,結婚を考えている交際相手がいる決定要因の間には,やや異なるメカニズムが存在していると解釈するのが自然のように思われる。そして,両者のメカニズムの差異にこそ,交際相手のいる独身者を結婚まで導くための政策のカギが隠されている可能性がある。

 

<参考文献>

岩澤美帆・三田房美(2005)「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」『日本労働研究雑誌』535,16-28.

北村行伸・坂本和靖(2007)「世代間関係から見た結婚行動」『経済研究』Vol.58(1),31-46.

小林盾(2023)「貧困と恋愛:恋人人数と性関係人数の不平等の計量分析」『成蹊大学文学部紀要』58,45-53

酒井正・樋口美雄(2005)「フリーターのその後:就業・所得・結婚・出産」『日本労働研究雑誌』535,19-41.

佐々木昇一(2012)「結婚市場における格差問題に関する実証分析:男性の非正規就業が交際行動や独身継続に与える影響」『日本労働研究雑誌』54(2・3),93-106

佐藤博樹・永井暁子・三輪哲(2010)『結婚の壁-非婚・晩婚の構造』勁草書房.

鈴木亘(2024)「日本人女性の独身者と既婚者を分かつものは何か?-独身者データと既婚者の振り返りデータによる結婚の決定要因の分析-」『経済論集』第60巻第1号(近刊)

高山憲之・小川浩・吉田浩・有田富美子・金子能宏・小島克久(2000)「結婚・育児の経済コストと出生力少子化の経済学的要因に関する一考察」『人口問題研究』第56巻第4号,1-18.

橘木俊詔・木村匡子(2008)『家族の経済学-お金と絆のせめぎあい』NTT出版

内閣府(2023)『経済財政白書〜動き始めた物価と賃金〜(令和5年版)』

中村真由美・佐藤博樹(2010)「なぜ恋人にめぐり合えないのか? 経済的要因・出会いの経路・対人関係能力の側面から」佐藤博樹・永井暁子・三輪哲(2010)『結婚の壁-非婚・晩婚の構造』勁草書房,54-73

永瀬伸子(2002)「若年層の雇用の非正規化と結婚行動」『人口問題研究』第58 巻第2号,22-35.

永田夏来・大杉直也(2019)「若者における恋愛と結婚研究の動向」『家族研究年報』44, 77-88

西村智(2015)「未婚者の恋愛行動分析 なぜ適当な相手にめぐり会わないのか」,『経済学論究』第68巻第3号,493-515

西村智(2016)「若者の恋愛離れに関する一考察:恋人探しにみる先送り行動」『人口学研究』52(0),25-37

樋口美雄・阿部正浩(1999) 「経済変動と女性の結婚・出産・就業のタイミング」樋口雄・岩田正美編62頁】 著『パネルデータからみた現代女性』東洋経済新報社,25-65.

森田陽子(2008)「女性の初婚確率の決定要因の分析について-父親の所得か夫の所得か-」『オイコノミカ』第45巻第2号,25-40.

水落正明(2006)「学卒直後の雇用状態が結婚タイミングに与える影響」『生活経済学研究』22-23,167-176.

八代尚宏(1993)『結婚の経済学-結婚とは人生における最大の投資』二見書房.

山田昌弘(1999)『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房.

Becker, Gary (1973) “A theory of marriage Part I,” Journal of Political Economy, 81,813-846.

63頁】

 

64頁】 65頁】 66頁】 67頁】 68頁】

 

 

69頁】

 

70頁】

 

 

71頁】

 

 

72頁】 73頁】 74頁】 75頁】