77頁】

 

日本人男性における結婚候補の交際相手の
有無に関する統計分析

 

鈴木 亘

 

要旨

本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」を用いて,日本人の独身男性における,結婚候補の交際相手の有無に関する分析を行った。既に,鈴木(2024b)では日本人の独身女性について,結婚候補の交際相手の有無に関する分析を行っているが,それと同じデータ,フレームワークを用いて,独身男性の場合について分析したものである。

独身女性の場合と同様,プロビットモデルによる推定では,有意な変数はあまり多くなく,決定係数も低かった。特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,外見に関しては,容姿が悪い場合に結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなる。習慣については,競馬・競輪などのギャンブルをする場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が大きく減少する。また,借入金がある場合にも,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。

職種や機会費用に関する変数については,有意な変数は存在しなかった。職場環境としては,時差出勤がある場合や育児休職がある場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。家庭環境については,親と同居している場合に確率が減少する。また,希望子ども数が多いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。さらに,出会いについては,事業者のマッチングサービスを利用する場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が大きく上昇する。

また,記述統計の傾向を細かく見ると,鈴木(2024b)の独身女性に関する結果と多くの類似性が確認できる。具体的には,習慣,職種,学歴,年収,親との同居率,労働時間や通勤時間,希望こども数,両親のデモンストレーション効果,職場環境,交際相手との出会いの機会,異性との紹介・出会いの環境などについて,結婚を考えている交際相手の有無別の傾向が類似している。

 

キーワード

少子化,結婚,未婚,交際相手,マッチング

 

1.はじめに

 

よく知られているように,近年,我が国では,世界的に見てもまれなほどの急速な少子化が進行している。政府の様々な少子化対策の結果もむなしく,現在も少子化に全く歯止めがか78頁】 かっていない(図表1)。実は,少子化が進んでいる主因は,未婚率が高まっていることにある(図表2)。結婚した夫婦の出生率(完結出生子ども数)は,現在も1.90(2021年,国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)とかなり高い。静止人口を達成するための合計特殊出生率は2.06程度とされるから,1.90との差はわずかである。この2.06と現在の合計特殊出生率1.26の差を説明するものは,未婚率の高さである。我が国では,伝統的に非嫡出子の割合が小さく,結婚しないと子どもをなかなか出産しないため,未婚化は深刻な問題と言える。少子化対策として急がれるのは,むしろ,結婚対策の方であるはずだが,政府が2024年2月に閣議決定した少子化対策に関する改正法案には,児童手当の対象拡大や増額,所得制限の撤廃,両親ともに育休取得した場合の育休給付金の支給率引き上げ,こども誰でも通園制度の創設といった結婚対策とは無縁の項目が並んでおり,その実効性について大きな懸念がある。

もっとも,効果的な結婚対策を行うためには,どのような原因で未婚化が起きているのか,どのような政策を行えば若い人々の婚姻率を高められるのか,その分析が欠かせない。鈴木(2024a)が指摘しているように,そのための経済学の研究蓄積が豊富にあるのかと言えば,我が国においてはまだまだ十分ではないと言わざるを得ない。また,コロナ禍で結婚以前の交際行動すら乏しくなってきていることを考えると,交際相手の有無に関する決定要因を分析することも,重要なテーマと言える。ただし,結婚の決定要因以上に,交際相手の有無に関する研究,特に計量的な研究は蓄積が少ない。

数少ない例外が,中村・佐藤(2010),佐々木(2012),西村(2015),小林(2023)である。これらの先行研究については,鈴木(2024b)でも詳しく触れているため,ここではごく簡単に紹介を行っておこう。まず,中村・佐藤(2010)は,経済産業省の研究会が実施したインターネットモニターのアンケート調査を用いた分析である。男女別に,恋人の有無をロジスティック・モデルにより分析した結果,男性については年収,企業規模,職場の独身異性の人数,友人付き合いの頻度が,現在恋人がいることに正の影響を及ぼし,女性については,パート労働と休日出勤の頻度(の低さ)が正の影響を及ぼしていることを報告している。佐々木(2012)も,中村・佐藤(2010)と同じデータを用い,男性サンプルに限った分析を行っている。交際相手がいることの決定要因として,結婚意欲や独身の異性と親しくなるきっかけの多さのほか,所得水準の高さ,学歴の高さや年齢の低さなどが正の影響を及ぼすと報告している。一方,西村(2015)は,著者が独自に未婚の男女に対して実施したインターネットアンケートの個票データを分析し,恋愛サーチ型,恋愛モラトリアム型1)の2類型の男女に対して,計量分析を行っている。分析結果としては,交際相手がいない確率に対して,男女の年齢や異性とのコミュニケーション能力,リスクに対する選好などが影響することを報告している。最後に,小林(2023)は,著者らが独自に実施した過去の振り返りアンケート調査によって,貧困と過去に付き合った恋人人数の関係などを分析している。分析の結果,男性の場合には,現在の貧困が恋人人数に負の影響を及ぼし,女性の場合には,15歳時に生活が苦しい場合に,恋人人数が増加することを報告している。いずれにせよ,上記全ての論文で,統計的に有意となる変数は極めて限られており,交際相手の有無についての決定要因は,まだ十分に解明されているとは言い難い。

こうした中,鈴木(2024b)は,著者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の79頁】 個票データを用いて,鈴木(2024a)が行った日本人女性の結婚の決定要因に関する分析とほぼ同じフレームワークを使い,結婚候補の交際相手がいる決定要因を探っている。具体的には,プロビットモデルによる推定の結果,下記の諸点を報告している。まず,外見に関しては,肥満の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率は減少する。職種に関しては,正規職員に比べて,パート・アルバイトや,自営業・家族従事者・内職の場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率は減少する。学歴や収入,各資産は有意ではなく,むしろ,仕事の継続年数が長いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高くなる。マッチング環境に関する事柄では,上司からの紹介がある場合,事業者等のイベントに参加する場合,モチベーションを高めるカウンセリングを受ける場合に,結婚を考えている交際相手を得る確率が増す。鈴木(2024b)の分析は,確かに先行研究よりは統計的に有意な変数が多いが,解釈が難しい変数も少なくなく,まだまだ,交際相手を得るメカニズムの解明としては物足りない。

さて,本稿は,鈴木(2024b)による独身女性に対する分析を,同じデータ,同じフレームワークで,独身男性に適用する。いうまでもなく,異性の交際相手を得るという行動は,女性側だけではなく,男性側の行動も重要であり,両者を合わせて行動メカニズムを解明する必要がある。結婚を考えている交際相手の有無について,女性と男性で行動がどのように異なるか,男性には女性と異なる政策的アプローチが必要であるかどうかを解明することが,本稿の主たる目的である。

以下,本稿の構成は次の通りである。2節では,本稿で用いるデータの説明を行う。3節は,仮説と分析モデルを提示する。第4節では,まずは表によって,結婚を考えている交際相手がいる人とそうでない人の簡単な比較を行った上で,回帰分析を行う。5節は結語である。

 

2.データ

 

本稿が用いているデータは,少し古いが,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の個票データである。このアンケート調査は,2008年2月に独身者の男女及び既婚者の女性を対象に郵送調査法で行われたものである。対象年齢は20歳から45歳,対象地域は全国である2)。サンプル数は,2008年の調査で独身者1155,既婚者535である。また,この調査は2009年3月に改めて,全く同じ調査票を用いて追加調査を実施しており,独身者568,既婚者586が追加収集されている。本研究では,2008年調査と2009年調査の独身者の男性にサンプルを限って分析を行うことにする。

この調査の特徴は,極めて多くの個人属性や結婚に対する環境,意識を尋ねていることである。本稿が用いる諸変数だけみても,年齢,本人学歴,背の高さの自己評価,肥満度の自己評価,容姿の自己評価,健康の自己評価,持病の有無,保有金融資産(万円),借入金(万円),実物資産(万円),自分でできる家事(掃除,洗濯,食事作り,食器洗い,買い物,整理整頓,アイロンかけ,育児,ゴミ分別,子供の送迎,介護),悪い習慣の有無(喫煙,飲酒,競馬・競輪などのギャンブル,パチンコ・パチスロ,浮気癖,虚言癖,借金癖,浪費癖,ケチ,本人80頁】 の職種(正規職員,パート・アルバイト,派遣・嘱託・契約社員,自営業・家族従事者・内職,無職・家事,学生),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数,週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり),育休取得環境の良さ,職場にある制度(短時間勤務,時差出勤,育児休職,再雇用制度,フレックスタイム,在宅勤務),父親の年齢,母親の年齢,父親職種(本人と同様の分類),母親職種(同),父親学歴,母親学歴,父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲の良さ,18歳時点で家庭の裕福さ,18歳時点で住宅状況,結婚相手に求める条件とその程度(年収,就業形態,学歴,年齢,身長,体型,容姿,性格,趣味の一致,親の同居についての意向,健康状態),希望子供数,交際環境(よく話をする独身の異性数,毎日顔を合わせる独身の異性数,独身の異性と親しくなるきっかけの頻度,職場や学校以外で独身の異性と会う機会の頻度,交際や恋愛について気軽に相談できる人の数,異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い(上司から,取引先から,同僚から,職場以外の友人から,家族や親せきから,事業者等のイベント,お見合い),結婚サービスの利用(結婚相談所,事業者のマッチングサービス,ネットのマッチングサービス,自治体・NPOの出会い事業,所属企業の紹介サービス,出会い系サイト,出会い目的のパーティーやイベント,モチベーションを高めるカウンセリング,付き合い方,魅力アップのカウンセリング)などの膨大な項目がある。

これらの諸変数について,鈴木(2024a,b)が行ったフレームワークを用いて,日本人の独身男性について分析を行うことにする。まず,本稿で用いる諸変数の記述統計は図表3の通りである。この調査では,交際相手の有無を尋ねる質問の後に,その交際相手との結婚の希望を尋ねる質問がある。結婚に結び付く可能性が高いのは,軽い交際,恋愛だけを目的とする交際を含んでいると考えられる「交際相手の有無」ではなく,結婚を前提とするより真剣な交際であると考えられるため,交際相手がいて,なおかつ,その交際相手と結婚を希望している場合に1,それ以外に0をとる「結婚を考えている交際相手の有無」という変数を作り,主な分析対象とする。図表4の記述統計は,結婚を考えている交際相手の有無別にそれらの変数を比較している。

 

3.分析モデル

 

鈴木(2024a,b)同様,本稿の分析手法は至ってシンプルである。被説明変数として「結婚を考えている交際相手」がいる場合に1,いない場合に0とするプロビットモデルを,様々な個人属性や環境・意識変数を説明変数にして推定し,そのような交際相手がいる要因を探るというものである。

鈴木(2024a)で詳しく述べたように,結婚の決定要因に関しては,@供給側の要因,A需要側の要因,B出会いの経路(マッチング・システム)の3つに大きく分類されるが,結婚を考えている交際相手がいる決定要因も,同様のフレームワークで考えることにする。

 

⑴ 供給面

本稿が用いる諸変数に引き寄せて考えれば,@供給側の要因とは,潜在的な交際相手(女性)81頁】 から見た分析対象(男性)の魅力を表す説明変数である。まずは,外見の自己評価である。背が低い(5段階評価のうち,下から2つ),肥満(5段階評価のうち,下から2つ),容姿悪い(5段階評価のうち,下から2つ),健康悪い(5段階評価のうち,下から2つ),持病ありと言った変数があるが,仮説としては,全て負の係数が予想される。また,自分でできる家事(自分でできる家事1(掃除),自分でできる家事2(洗濯),自分でできる家事3(食事),自分でできる家事4(食器洗い),自分でできる家事5(買い物),自分でできる家事6(整理整頓),自分でできる家事7(アイロンかけ),自分でできる家事8(育児),自分でできる家事9(ゴミ分別),自分でできる家事10(子供の送迎),自分でできる家事11(介護))については,男性と言えども,家事ができるほど結婚相手としての魅力が増すと考えられることから,正の係数が期待できる。ただし,家事ができないことで,交際相手を求める需要が増すという側面があるとすれば,負の係数も考えられる。

さらに,悪い生活習慣の有無(習慣1(喫煙),習慣2(飲酒),習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣4(パチンコ・パチスロ),習慣5(浮気癖),習慣6(虚言癖),習慣7(借金癖),習慣8(浪費癖),習慣9(ケチ))は,概ね魅力が下がると考えられるため,負の係数が予想される。ただし,この場合も,欠点があるからこそ,交際相手を求めるという側面が無いとは言い切れない。

本人の職種(本人職種1(正規職員),本人職種2(パート・アルバイト),本人職種3(派遣・嘱託・契約社員),本人職種4(自営業・家族従事者・内職),本人職種5(無職・家事),本人職種6(学生))については,本人職種1(正規職員)をベンチマークとするダミー変数とするが,所得獲得能力が高いほど,異性からの魅力が増すと考えれば,正規職員に比べて,他の職種は負の係数が期待される。

 

⑵ 需要面

もっとも,職種に関しては,A需要側の要因,つまり,本人の結婚需要に関する説明変数とみることもできる。例えば,職を持っているほど,結婚資金や結婚後の安定的な生活が期待できることから,結婚需要が高まる可能性がある。この場合も,正規職員に比べて,他の職種は負の係数が期待される。

他に需要側の説明変数として重要なものは,鈴木(2024b)において機会費用に関する諸変数としてまとめた学歴(大卒以上),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数,資産などがある。ただ,男性の場合は,結婚によってキャリアをあきらめることはまずないので,これらの変数はむしろ,それらの値が高いほど,結婚資金や結婚後の安定的な生活が期待できることから,結婚需要が高まると解釈するのが適当であると思われる。さらに,供給面として,魅力の変数とも見ることができる。いずれにせよ,正の係数が予想できる。

また,長時間労働や通勤によって,結婚相手探しや交際時間に割ける時間に制約があると,結婚を考えている交際相手がいる可能性が低くなると考えられる。週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり)を,時間制約に関する説明変数とすると,その係数は負が期待されるだろう。

同様に,結婚して出産をした場合,育休をしっかり取得できたり,子どもができた場合に,柔軟な働き方ができる職場環境かどうかということも,女性ほどではないにせよ,結婚を前提とする交際を行う場合に影響する可能性がある。育休取得環境良い,職場の制度1(短時間勤82頁】 務),職場の制度2(時差出勤),職場の制度3(育児休職),職場の制度4(再雇用制度),職場の制度5(フレックスタイム),職場の制度6(在宅勤務)などの説明変数は,結婚を考えている交際相手を持つことに対して,正の影響を与えると考えられる。

次に,男性の実家の家庭環境も,結婚需要と同様,交際相手の有無に影響すると考えられる。例えば,実家が裕福であるかどうか,両親が定職についているかどうかということは,結婚した後のサポートが期待できるという意味で,正の影響を与える可能性がある。ただ,逆に,既に同居していたり,両親から独身生活の経済的サポートを受けるなどして,結婚に対する‘留保賃金’を高めている場合には,負の影響があることも考えられる。こうした家庭環境の説明変数としては,父親の年齢,母親の年齢,父親職種1(正規職員),父親職種2(パート・アルバイト),父親職種3(派遣・嘱託・契約社員),父親職種4(自営業・家族従事者・内職),父親職種5(無職・家事),父親職種6(学生),母親職種1(正規職員),母親職種2(パート・アルバイト),母親職種3(派遣・嘱託・契約社員),母親職種4(自営業・家族従事者・内職),母親職種5(無職・家事),母親職種6(学生),父親学歴(大卒以上),母親学歴(大卒以上),父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数を用いることにする。

さらに,男性が結婚して家庭を作ることに憧れがある場合には,結婚のための交際への需要が高まるはずである。家庭に対するあこがれは,身近なロールモデルである両親の姿から生じる可能性が高いため,両親のデモンストレーション効果として,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲が非常に良い,18歳時点で貧しい(中の下以下),18歳時点で持ち家居住という説明変数を用いることにする。

需要面としては,結婚相手に求める条件も重要な説明変数である。本稿が用いるアンケートでは,様々なカテゴリーについて,それを重視する程度を尋ねているので,非常に重視すると答えた場合を1とするダミー変数とした。すなわち,相手の条件を非常に重視1(年収),相手の条件を非常に重視2(就業形態),相手の条件を非常に重視3(学歴),相手の条件を非常に重視4(年齢),相手の条件を非常に重視5(身長),相手の条件を非常に重視6(体型),相手の条件を非常に重視7(容姿),相手の条件を非常に重視8(性格),相手の条件を非常に重視9(趣味の一致),相手の条件を非常に重視10(親の同居についての意向),相手の条件を非常に重視11(健康状態)である。よく言われるように,相手に求める条件にこだわりすぎると,結婚はおろか,交際相手を得ることも難しくなるだろう。また,希望子供数も,子どもがたくさん欲しい人ほど結婚需要が高いと考えられるので,説明変数に加えた。

 

⑶ マッチング・システム

説明変数としての最後のカテゴリーは,出会いの経路(マッチング・システム)に関わる諸変数である。本稿の分析に用いるデータでは,交際環境や異性の紹介・出会い,結婚サービスの利用状況について数多くの質問をしている。具体的な変数は,交際環境1(よく話をする独身の異性数),交際環境2(毎日顔を合わせる独身の異性数),交際環境3(独身の異性と親しくなるきっかけ多い),交際環境4(職場や学校以外で独身の異性と会う機会多い),交際環境5(交際や恋愛について気軽に相談できる人の数),交際環境6(異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い1(上司から),異性の紹介・出会い2(取引先から),異性の紹介・出会い3(同僚から),異性の紹介・出会い4(職場以外の友人から),異性の紹介・83頁】 出会い5(家族や親せきから),異性の紹介・出会い6(事業者等のイベント),異性の紹介・出会い7(お見合い),結婚サービスの利用1(結婚相談所),結婚サービスの利用2(事業者のマッチングサービス),結婚サービスの利用3(ネットのマッチングサービス),結婚サービスの利用4(自治体,NPOの出会い事業),結婚サービスの利用5(所属企業の紹介サービス),結婚サービスの利用6(出会い系サイト),結婚サービスの利用7(出会い目的のパーティーやイベント),結婚サービスの利用8(モチベーションを高めるカウンセリング),結婚サービスの利用9(付き合い方,魅力アップのカウンセリング)である。交際環境1,2,5,6以外は全て,当てはまる場合に1,そうでない場合に0となるダミー変数とする。それぞれ,交際相手を得る可能性を高めるものなので,係数は正となることが期待されるだろう。最後に,年齢の変数であるが,年齢の他に,年齢の2乗項も説明変数に加えた。

 

4.分析結果

 

⑴ 表による分析

前節で述べた分析モデル(プロビットモデル)を推定する前に,主要な説明変数について,結婚を考えている交際相手の有無別に単純比較しておこう。まず,図表5は外見などの自己評価を比較したものである。結婚を考えている交際相手のいない方が,やはり背が低い,肥満,容姿が悪い,健康悪い,持病ありの全ての変数について,該当する割合が高いことがわかる。あくまで自己評価なので,実際の外見などが悪いとは限らないが,少なくとも,自己評価としては,結婚を考えている交際相手のいない方が低い評価となっている。

次に,図表6は悪い習慣を持っている割合を見たものである。習慣1(喫煙),習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣7(借金癖),習慣9(ケチ)は,結婚を考えている交際相手のいない方が割合が高い。もっとも,習慣2(飲酒),習慣(浮気癖),習慣8(浪費癖)は,結婚を考えている交際相手のいる方が,割合が高くなっている。

図表7は職種である。女性の場合と同様,結婚を考えている交際相手がいる方が,正規職員の割合が高いことがわかる。一方で,結婚を考えている交際相手がいない方は,パート・アルバイトの割合が突出して高く,それ以外の非正規や無職者の割合も高い。

図表8は,女性の場合と同様,機会費用に関する諸変数を見ている。もっとも,男性の場合には,機会費用としてみるのは適切ではなく,むしろ,安定的な結婚生活を営むための生活力の高さや能力の高さとみるべきかもしれない。予想通り,結婚を考えている交際相手がいる方が大卒以上の学歴者が多く,月当たり収入や金融資産も多い。母親や父親の収入までもが高いことも興味深い。一方で,当該の仕事の継続年数は,結婚を考えている交際相手がいない方がやや長い。実物資産も結婚を考えている交際相手がいない方が多いが,一方で,借金も多いことが特徴的である。女性の場合と同様,親との同居率も,交際相手がいない方がやや高い。

図表9の時間的制約に関係する変数についても,女性の場合と同様,結婚を考えている交際相手がいる方が労働時間も通勤時間も,そして,夜7時以降,朝9時以前の就業時間も長い3)

84頁】

図表10は相手に求める条件である。総じてみて,あまり両者の違いは大きくないようであるが,結婚を考えている交際相手がいる場合,女性の年収を重視している人が皆無である点が非常に特徴的である。その一方で,性格や趣味の一致を求める割合が高い。結婚を考えている交際相手がいない方は,年収,年齢,容姿,親との同居についての意向などを重視している割合が高い。希望こども数は予想通り,結婚を考えている交際相手がいる方が多い。

図表11は,両親からのデモンストレーション効果に関する諸変数の比較である。結婚を考えている交際相手がいない方が,父親の離婚経験の割合が高い。また,両親が恋愛結婚,18歳時点で両親の仲が良いとする比率も,やはり,結婚を考えている交際相手がいる方が高い。

図表12は,職場環境に関する諸変数の比較である。予想通り,結婚を考えている交際相手がいる方が,ファミリーフレンドリーな企業に勤めている比率が高い。これも女性の場合とよく似た傾向である。

図表13は,交際環境に関する諸変数であるが,交際環境1(よく話をする独身の異性数)を除き,結婚を考えている交際相手がいる方が,総じて異性と出会う機会が多いことがわかる。

図表14は,異性の紹介・出会いのルートである。総じて両者に大きな違いは無いようである。結婚を考えている交際相手がいる方が,同僚からの紹介や職場以外の友人からの紹介の割合が高い。一方で,結婚を考えている交際相手のいない方が,上司からの紹介,家族や親せきからの紹介,事業者等のイベント,お見合いなどの伝統的なルートを使っている割合が高い。

図表15は,結婚サービスの利用状況であるが,総じてみて,両者にあまり顕著な違いはない。結婚を考えている交際相手がいない方が,やや様々なサービスの利用率が高い。

以上の観察からわかることは,鈴木(2024b)の独身女性の特徴と非常に似通っていることである。両者に共通する傾向としては,第1に,習慣に関しては,結婚を考えている交際相手がいる方が,習慣2(飲酒),習慣8(浪費癖)の割合が多く,一方で,結婚を考えている交際相手がいない方が,習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣9(ケチ)の割合が高い。第2に,職種については,結婚を考えている交際相手がいない方が,非正規や無職の割合が高い。第3に,機会費用の各変数についても,結婚を考えている交際相手がいる方が,大卒以上の学歴者が多く,月当たり収入も多い点や,当該の仕事の継続年数は,結婚を考えている交際相手がいない方が長い点も同じである。また,親との同居率も交際相手がいない方が高い。第4に,時間的制約に関する変数も,結婚を考えている交際相手がいる方が労働時間も通勤時間も,そして,夜7時以降,朝9時以前の就業時間も長い。第5に,結婚を考えいている交際相手がいない方が,年収を重視している。希望こども数も,結婚を考えている交際相手がいる方が多い。第6に,親の離婚や両親の関係のデモンストレーション効果は両者とも存在する。第7に,職場環境も,結婚を考えている交際相手のいる方が,ファミフレ企業に勤めている割合が高い。第8に,結婚を考えている交際相手がいる方が,総じて異性と出会う機会が多い。第9に,異性との紹介・出会いの環境についても,結婚を考えている交際相手のいない方が,家族や親せきからの紹介,お見合いなどの伝統的なルートを使っている。第10に,結婚サービスの利用状況は両者に大きな差異がない。男女間でこれほど類似性があることは驚くべきことと言えよう。

 

⑵ 回帰分析

以上,様々な変数を,結婚を考えている交際相手の有無別に比較してきたが,これらが最終85頁】 的に決定要因であるかどうかは,諸変数を同時にコントロールした上で判断する必要がある。そこで,前節で説明したプロビットモデルを用いて,全ての変数を同時にコントロールした回帰分析を行った。推定結果は,図表16の通りである。総じてみて,鈴木(2024b)の女性の場合と同様,有意な変数が非常に少ないし,決定係数も低くなっている。

まず,外見などの自己評価では,容姿が悪い場合のみが有意であり,容姿が悪いと14.4%,結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなる。

家事については,唯一,食器洗いができる場合に結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなる。やや解釈が難しいところである。

習慣については,競馬・競輪などのギャンブルをする場合に,24%も結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する一方,浪費癖がある場合には逆に14.4%も結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。もっとも,借入金がある場合にも,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。

職種や機会費用に関する変数については,有意な変数はなかった。職場の制度としては,時差出勤がある場合や育児休職がある場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。

家庭環境については,母親の学歴が高いと結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる一方,やはり,親と同居している場合に確率が減少する。

結婚相手への条件については,唯一,相手の性格を重視する場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まることがわかる。希望子ども数は予想通り,正に有意となっている。

交際環境については,職場や学校以外で独身の異性と会う機会が多い場合に,逆に,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少している。これも,やや解釈の難しいところである。

また,出会いについては,事業者等のイベントに参加すると結婚を考えている交際相手を得る確率が減少する一方,事業者のマッチングサービスを利用する場合に,3割近く(0.27%)結婚を考えている交際相手がいる確率が上昇している。

念のため,図表17には,結婚を考えている交際相手の有無ではなく,単なる交際相手の有無についてのプロビット分析を行った結果を載せている。大まかに言って,図表16と大変似た傾向になっている。こちらでは,ネットのマッチングサービスを用いる場合に,23.4%も交際相手がいる確率が上昇している。

 

5.結語

 

本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」を用いて,日本人の独身男性における,結婚を考えている交際相手の有無に関する分析を行った。既に,鈴木(2024b)では,日本人の独身女性についての分析を行っているが,それと同じデータ,フレームワークを用いて,独身男性の場合について分析したものである。

独身女性の場合と同様,プロビットモデルによる推定では,有意な変数はあまり多くはなく,決定係数も低かった。特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,外見に関しては,容姿が悪い場合に結婚を考えている交際相手がいる確率が低くなる。習慣については,競馬・競輪などのギャンブルをする場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が大きく減少する。また,借入金が多いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。

86頁】

職種や機会費用に関する変数については,有意な変数は存在しなかった。職場環境としては,時差出勤がある場合や育児休職がある場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。家庭環境については,親と同居している場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が減少する。また,希望子ども数が多いほど,結婚を考えている交際相手がいる確率が高まる。さらに,出会いについては,事業者のマッチングサービスを利用する場合に,結婚を考えている交際相手がいる確率が大きく上昇する。

さて,プロビット分析の結果からは,統計的に有意な変数が多くないこともあり,鈴木(2024b)の独身女性の分析との類似性はそれほど感じられない。しかし,記述統計の傾向を細かく見ると,実に多くの類似性が確認できる。既に前節でみたように,習慣,職種,学歴,年収,親との同居率,労働時間や通勤時間,希望こども数,両親のデモンストレーション効果,職場環境,交際相手との出会いの機会,異性との紹介・出会いの環境などについて,結婚を考えている交際相手の有無別の傾向が,大変似通っている。このことは,結婚を支援するための施策として,特段,男女間で分けて政策を考える必要はないことを示唆するものである。男女間で,同じように有効な政策が考えられることは,政策の実現可能性を高めるものと期待できよう。

 

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永田夏来・大杉直也(2019)「若者における恋愛と結婚研究の動向」『家族研究年報』44, 77-88

西村智(2015)「未婚者の恋愛行動分析 なぜ適当な相手にめぐり会わないのか」,『経済学論究』第68巻第3号,493-515

西村智(2016)「若者の恋愛離れに関する一考察:恋人探しにみる先送り行動」『人口学研究』52(0),25-37

山田昌弘(1999) 『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房.

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