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行動経済学的要因が日本人女性の

結婚行動に与える影響

 

 

鈴木 亘

 

 

要旨

本稿は,リスク回避度と時間選好という2種類の行動経済学的要因が,日本人女性の結婚行動に与える影響について分析を行った。これまでの先行研究とは異なり,結婚の決定要因として,伝統的な経済理論に基づく諸変数を数多くコントロールした上で,行動経済学的要因の影響を評価したことが本稿の特徴である。具体的には,鈴木(2024)による独身者・既婚者のプールデータを用いたプロビットモデルをベースに,行動経済学的要因を説明変数に加えて推定した。その結果,リスク回避度,高時間選好率,双曲割引のいずれの変数も,結婚の決定要因として統計的に有意とはならなかった。しかしながら,行動経済学的要因との関係性が高いと考えられる結婚サービスの利用や異性の紹介・出会いに関する諸変数を説明変数から除くと,双曲割引のみが正に有意な結果となった。

 

キーワード

結婚,行動経済学,リスク回避度,時間選好率,双曲割引,先送り行動

 

 

1.はじめに

 

急速に進行する我が国の少子化は,日本社会,日本経済の持続可能性を揺るがす大きな社会問題である。その主な原因は,結婚したカップルが子どもを産まなくなったという「完結出生子ども数の低下」ではなく,そもそも若者たちが結婚しなくなったという「未婚化」にあることがよく知られている。少子化対策として本腰を入れなければならないのは,子育て世帯に対する支援策ではなく,むしろ未婚対策の方なのである。

未婚化の原因については,我が国においてもある程度の研究蓄積がある(八代(1993),樋口・阿部(1999),山田(1999),高山ほか(2000),永瀬(2002),岩澤・三田(2005),酒井・樋口(2005),水落(2006),北村・坂本(2007),森田(2008),中村・佐藤(2010),鈴木(2024a,b)等)。これらは,女性の高学歴化や社会進出に伴う機会費用の高まりが未婚化の原因とする機会費用仮説(樋口・阿部(1999),高山ほか(2000),鈴木(2024a,b)),実家で親と同居している場合の居心地の良さが結婚の留保条件を高めているとするパラサイト・シングル仮説(山田(1999),北村・坂本(2007),森田(2008),鈴木(2024a,b)),経済的要因や雇用状態が結婚需要に影響するという見方(永瀬(2002),酒井・樋口(2005),水落(2006),内閣府(2023),142頁】 鈴木(2024a,b)),長時間労働などの時間的制約が結婚の障害となるという時間的制約仮説(中村・佐藤(2010),鈴木(2024a,b)),職場などの結婚仲介機能の低下によって結婚市場のマッチング効率性が低くなっているという見方(岩澤・三田(2005))などの分析例がある。基本的には,経済学などの標準的理論,人々の合理的な行動を前提とした研究になっている。

しかしながら,近年,行動経済学の発展とともによく知られてきたように,人々の行動は必ずしも合理的とは言えず,様々な認知バイアスの存在によって,系統的に非合理な行動をとる場合がある。結婚行動についても,そのリスク認識や婚活の先送りなど,行動経済学的要因が影響している可能性が高い。もし,行動経済学的要因が重要なのであれば,伝統的な経済インセンティブだけではなく,「ナッジ」などの新しい政策手段が,未婚対策として有効である可能性が高い。その意味で,結婚行動の行動経済学的分析は,大変重要な政策的研究テーマと言えよう。

もっとも,行動経済学の観点から結婚行動を分析した研究はまだまだ極めて限られている(Schmidt(2008),Spivey(2010),関田(2012),Sekita(2012),佐藤(2016),西村(2016),西村(2023))。このうち,Schmidt(2008),Spivey(2010),関田(2012),Sekita(2012),佐藤(2016)は,リスク回避度と結婚のタイミングの関係を分析した研究である。これらの論文の理論的な背景には,ジョブサーチモデルを応用したメイトサーチモデルがあり1),リスク回避度が結婚のタイミングに与える影響としては,理論的に正負両方の可能性がある。すなわち,リスク回避的なものほど,結婚のリスクシェアリング機能(保険機能)を重視し,結婚のタイミングを早める可能性がある一方,結婚後に離婚しなければならなくなるリスクを重視し,慎重に結婚相手を見極めようと,メイトサーチ期間を長くする可能性もある。したがって,実証的に正負どちらの効果が大きいのか判断する必要があるが,海外の先行研究であるSchmidt(2008)とSpivey(2010)は,リスク回避的なものほど,結婚のタイミングが早くなることを報告している。また,我が国における先駆的な研究である関田(2012)およびSekita(2012)は,大阪大学社会経済研究所が行っている「くらしの好みと満足度についてのアンケート」のデータを用いた研究である。関田(2012)が,男女ともにリスク回避度の影響はないとしている一方,説明変数がやや異なるSekita(2012)は,男性についての影響はないものの,女性についてはリスク回避的なほど結婚のタイミングが早くなることを結論付けている。さらに,佐藤(2016)は,慶應義塾大学パネル調査(KHPS)を用いて,同様の分析を行っており,男女ともに,リスク回避的なほど結婚のタイミングが早まるという結果を得ている。なお,佐藤(2016)は,結婚のタイミングを分析するためのCoxのProportinal Hazard Model以外に,プロビットモデル(Random Effect Probit Model)を用いた結婚決定要因の分析も行っているが,男女ともリスク回避的なほど結婚確率が高いという結果を報告している。

一方,行動経済学的要因のもう一つの代表である時間選好の影響を分析した研究として,西村(2016)と西村(2023)が挙げられる。西村(2016)は大学生,大学院生に対する実験を行い,時間割引率を計測した上で,指数割引を持つものと,双曲割引を持つものに分け,恋人探しを先送りしているものに,双曲割引を持つものが多いことを明らかにしている。これに対して,西村(2023)は,独自に行ったインターネット調査によって,夏休みの宿題の実行と計画に関する質問を行い,時間選好に関するタイプを時間整合型(計画と実行が一致するタイプ),143頁】 将来重視型(計画より前倒しで実行するタイプ),現在重視型(計画より遅れて実行するタイプ),無計画型(計画を立てないタイプ)の4タイプに分けた分析を行っている。そして,結婚相手を探すための何がしかの活動を行った場合を結婚活動と定義し,ロジットモデルによるその決定要因の推定を行った結果,ベンチマークの時間整合型に比べ,将来重視型は結婚活動を行う確率が高く,無計画型は結婚活動を行う確率が低いことを報告している。なお,このロジットモデルでは,リスク回避度も説明変数に加えているが,先行研究とは異なり,リスク回避的なほど結婚活動を行う確率が低くなる結果となっている。もっとも,西村(2016)や西村(2020)は,結婚行動を直接的に分析した研究ではなく,恋人探しや結婚相手を探す活動を分析した論文であることに注意が必要である。

さて,本稿はこれらの先行研究を踏まえた上で,リスク回避度と時間選好の両方が,結婚行動に与える影響を分析することにする。用いるデータは,鈴木(2024)と同様,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」である。このデータは,個人属性や結婚に関する環境,意識に対して数多くの変数を有していることが特徴である。また,既婚者は結婚相手の交際当時の状況を回答する振り返りデータとなっており,独身者と既婚者が比較可能になるように設計されている。ところで,関田(2012),Sekita(2012),佐藤(2016),西村(2016),西村(2023)といった我が国の先行研究は,リスク回避度以外の結婚の決定要因に関する説明変数が極めて限られている。このため,真に行動経済学的要因が影響しているのか,それとも,結婚の決定要因に関する重要な説明変数が欠けているため,見せかけの関係が得られているのか,よくわからないという問題がある。本稿は,鈴木(2024)に倣って,結婚の決定要因として供給面,需要面,出会いの経路(マッチング・システム)に関するたくさんの変数をコントロールした上で,なお,行動経済学的要因が結婚行動に影響しているのかどうかをみていることに大きな特徴がある。もっとも,先行研究とは異なり,本稿は女性のみの分析である。また,理論モデルに忠実な結婚のタイミングの分析ではなく,結婚しているか否かという決定要因の分析になっている。

以下,本稿の構成は次の通りである。2節では,本稿で用いるデータの説明を行う。3節は,分析モデルを説明し,行動経済学的要因に関して,独身者と既婚者間の簡単な比較を行う。第4節は,既婚者と独身者のデータをプールし,結婚の決定に行動経済学的要因が影響するかどうか,回帰分析を行う。5節は結語である。

 

 

2.データ

 

⑴ 伝統的な経済理論に基づく説明変数

本稿で用いるデータは,少し古いが,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の個票データである。このアンケート調査は2008年2月に独身者の男女及び既婚者の女性を対象に郵送調査法で行われたものである。対象年齢は20歳から45歳,対象地域は全国である2)。サンプル数は,2008年の調査で独身者1155(男性579,女性576),既婚者535(全て女性)であ144頁】 る。本稿の分析では,このうち,独身および既婚の女性を分析対象とする。

この調査の特徴は,極めて多くの個人属性や結婚に対する環境,意識を尋ねていることである。本稿が用いる諸変数だけみても,独身者・既婚者ともに,年齢,本人学歴,背の高さ,肥満度,容姿の自己評価,健康の自己評価,持病の有無,保有金融資産(万円),借入金(万円),実物資産(万円),月当たり生活費,自分でできる家事(掃除,洗濯,食事作り,食器洗い,買い物,整理整頓,アイロンかけ,育児,ゴミ分別,子供の送迎,介護,悪い習慣の有無(喫煙,飲酒,競馬・競輪などのギャンブル,パチンコ・パチスロ,浮気癖,虚言癖,借金癖,浪費癖,ケチ,本人の職種(正規職員,パート・アルバイト,派遣・嘱託・契約社員,自営業・家族従事者・内職,無職・家事,学生),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数,仕事の経験年数,週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり),育休取得環境良い,職場にある制度(短時間勤務,時差出勤,育児休職,再雇用制度,フレックスタイム,在宅勤務),父親の年齢,母親の年齢,父親職種(本人と同様の分類),母親職種(同),父親学歴,母親学歴,父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲の良さ,18歳時点で家庭の裕福さ,18歳時点で住宅状況,結婚相手に求める条件とその程度(年収,就業形態,学歴,年齢,身長,体型,容姿,性格,趣味の一致,親の同居についての意向,健康状態),希望子供数,交際環境(よく話をする独身の異性数,毎日顔を合わせる独身の異性数,独身の異性と親しくなるきっかけの頻度,職場や学校以外で独身の異性と会う機会の頻度,交際や恋愛について気軽に相談できる人の数,異性紹介やお見合いを進める人の数,異性の紹介・出会い(上司から,取引先から,同僚から,職場以外の友人から,家族や親せきから,事業者等のイベント,お見合い,結婚相談所,事業者のマッチングサービス,ネットのマッチングサービス,自治体・NPOの出会い事業,所属企業の紹介サービス,出会い系サイト,出会い目的のパーティーやイベント,モチベーションを高めるカウンセリング,付き合い方,魅力アップのカウンセリング),同棲経験,行動経済学的要因などの膨大な項目がある。

これらの諸変数について,独身者と既婚者間の比較を可能にするため,既婚者については振り返りデータにしている。つまり,既婚者の質問を,「現在の配偶者と交際開始の1年前」,あるいは「現在の配偶者と交際を開始した頃の状況」について回答してもらっている。独身者はもちろん,アンケート調査時点の状況について回答してもらっているが,既婚者もなるべく,独身者と近い状況の時点での回答をしてもらっているため,どのような人々が既婚者になるか,独身者になるかという分析が可能になると考えられる。

 

⑵ 行動経済学的要因

上記の諸変数に加えて,本稿ではリスク回避度と時間選好という2種類の行動経済学的要因を分析に加える。リスク回避度は,下記の「傘を携帯する降水確率(雨傘指数)」を用いる。〇〜〇%という範囲を選択する質問となっているので,中間値をとって連続変数とした。降水確率が低いほどリスク回避的となるが,ややわかりにくいので,佐藤(2016)に倣って,100%から雨傘指数を差し引いたものをリスク回避度と定義した。

 

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問A あなたは普段出かける時に,天気予報の降水確率が何%の時に傘をもっていきますか。常に傘を携帯している方は,0%として,○をつけてください。(○は1つ)

  • 1 0〜9%

    2 10〜19%

  • 3 20〜29%

    4 30〜39%

  • 5 40〜49%

    6 50〜59%

  • 7 60〜69%

    8 70〜79%

  • 9 80〜89%

    10 90〜100%

 

次に,時間選好については下記の質問を用いる。質問が直接,時間選好率を算出できるものになっていないため,問Bの質問で「1.1年後の1万円」を選び,なおかつ問Cの質問で「1.2日後の1万円」を選んだ場合を「高時間選好率」として,ダミー変数を作成した。これは時間整合的な指数割引を持つケースであるが,問Bの質問で「2.1年と1週間後の1万2千円」を選ぶ一方,問Bの質問で,「1.1年後の1万円」を選ぶものもいる。これは,双曲割引として知られるケースで,このような選好を持つものは先送り行動をとりやすいとされる。双曲割引の該当者もダミー変数を作成して用いる。

 

問B 仮に,1年後に1万円もらうのと,1年と1週間後に1万2千円もらうのとで,好きな方を選ぶとすれば,あなたはどちらをとりますか。(○は1つ)

  • 1.1年後の1万円
  • 2.1年と1週間後の1万2千円

 

問C では,2日後に1万円もらうのと,9日後に1万2千円もらうのでは,あなたはどちらをとりますか。(○は1つ)

  • 1.2日後の1万円
  • 2.9日後の1万2千円

 

本稿で用いる諸変数の記述統計は図表1の通りである。図表2,3には,それぞれ独身者,既婚者に分けた記述統計である。

 

 

3.分析

 

⑴ 表,グラフによる比較

本稿の分析手法はシンプルである。鈴木(2024)と同様,独身者と既婚者のデータをプールし,被説明変数として既婚者を1,独身者を0とするプロビットモデルを,様々な個人属性や環境・意識変数に加えて,行動経済学的要因を説明変数として推定し,結婚の決定要因への影響を見るというものである。行動経済学的要因以外の変数については,鈴木(2024)の分析と同じであり,鈴木(2024)で詳しく論じているために繰り返さない。大きく,供給面,需要面,マッチング・システムの3種類の変数をコントロールしている。具体的な変数は,前出の記述統計にある通りである。

図表4は,図表2,3にある行動経済学的要因の変数を抜き出したものである。まず,リスク回避度は独身者と既婚者で大きくは異ならないが,既婚者の方が若干,リスク回避度が高い。リスク回避的なほど,結婚のタイミングが早いとする先行研究と整合的である。ちなみに図表5は,リスク回避度の分布(累積分布)を,独身者と既婚者で比較したものであるが,やはり,分布の全般にわたって既婚者の方がリスク回避度が高いことがわかる。一方,図表4の高時間146頁】 選好率については,独身者と既婚者の間でほとんど差異がないようである。しかしながら,双曲割引については,既婚者の方が独身者に比べて割合が高い。

 

⑵ 回帰分析

回帰分析の結果については,図表6から図表8の通りである。まず,図表6は,鈴木(2024)が行った都道府県別の未婚率・既婚率ウェイトを考慮したプロビットモデルに,行動経済学的要因の変数を単純に加えて推定したものであるが,リスク回避度,高時間選好率,双曲割引のいずれの変数も有意となっていない。それ以外の説明変数の推定結果については,希望子供数が有意にならなかった以外は,重要な結果はほとんど鈴木(2024)と同様のため,説明を省略する。

ただ,鈴木(2024)が用いた説明変数のうち,結婚サービスの利用に関する諸変数は,本人の行動経済学的行動の結果としてその利用が選択されている可能性がある。その場合,サービス利用と行動経済学要因は,同質の変数を重複して説明変数に入れていることになるので,サービス利用に関する変数を外すことが望ましい。そこで,図表6の説明変数からサービス利用に関する変数を除いて推定すると(図表7),10%基準ではあるが,双曲割引が正に有意な結果となった。さらに,異性の紹介・出会い関する変数も,本人の行動経済学的特徴を考慮して,他者がおせっかいをしている可能性があり,両者の関係性が深い可能性がある。そこで,サービス利用に関する変数とともに,異性の紹介・出会い関する変数も除いて推定したものが,図表8である。この場合には,双曲割引は5%基準で有意となる。

 

 

4.結語

 

本稿は,リスク回避度と時間選好という2種類の行動経済学的要因が,日本人女性の結婚行動に与える影響について分析を行った。これまでの先行研究とは異なり,結婚の決定要因として,伝統的な経済理論に基づく諸変数を数多くコントロールした上で,行動経済学的要因の影響を評価したことが本稿の特徴である。具体的には,鈴木(2024)による独身者・既婚者のプールデータを用いたプロビットモデルをベースに,行動経済学的要因を説明変数に加えて推定した。その結果,リスク回避度,高時間選好率,双曲割引のいずれの変数も,結婚の決定要因として,統計的に有意にはならなかった。しかしながら,行動経済学的要因との関係性が高いと考えられる結婚サービスの利用や異性の紹介・出会いに関する諸変数を説明変数から除くと,双曲割引のみが正に有意な結果となった。

問題はこの解釈である。一般に双曲割引は先送り行動の原因とされているから,本来は結婚確率が低くなるはずである。しかしながら,高時間選好率と双曲割引のダミー変数のベンチマークは,問Bか問Cで低時間選好率を選んだものであることに注意が必要である。双曲割引とは言え,9日後の1万2千円よりも,2日後の1万円を選んだものであるから,基本的には時間選好率が高いたものたちである。低時間選好率より高時間選好率の方が,メイトサーチ期間は短くなるのが理論的に自然であるから,この時間選好率の高さという要素が結果に強く表れているのかもしれない。ただ,その場合には,指数割引の高時間選好率のものたちが,有意ではないことがやや矛盾点ではある。

147頁】 もう一つの解釈としては,双曲割引のものの中に,自分が双曲割引であることを自覚しているソフィスティケイテッドが多く含まれている可能性がある。その場合には,自分がついつい先送りをしてしまうことを自覚しているため,そうならないように事前に手立てを講じることになる。その手立ての一つとして,メイトサーチ期間を長くとらずに,あえて早めに結婚を決断することも戦略の一つとして成立し得る。もっとも,この調査データでは,双曲割引のものの中で,ナイーフとソフィスティケイテッドがどれぐらいの割合でいるかはわからないから,この解釈はあくまで憶測の域は出ない。いずれにせよ,行動経済学的要因と結婚行動の関係については,本稿で得た観察事実を元に,さらに分析を深めてゆく必要がある。

 

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