修了後のこと - 修了生座談会

修了生座談会 2007

学習院大学法科大学院を
選んだ理由

野坂
本日は、平成19年度の新司法試験に合格された1期生と2期生の中から、5名の方々に集まっていただきました。学習院大学法科大学院での2年間ないし3年間を振り返っていただきたいのですが、まずはみなさんが法曹を目指すようになったいきさつや、学習院大学のロースクールを選ばれた理由についてお聞かせください。
今井
私は法学部を卒業してから一般企業に就職し、法務部に8年間勤務したのですが、会社の垣根を越えて幅広く企業法務の分野に携わりたいと考え、法科大学院への入学を決意したんです。1期生だったので、どの大学がどのような教育を展開するのか詳しくはわからなかったのですが、教授陣が充実している点、特に研究者と実務家がバランスよく揃っているところに魅力を感じて学習院を選びました。
小原
学習院大学法学部(政治学科)に入学後、国際法に関心を抱き、他大学の大学院で国際法を専門的に学びました。その後、人を守るために最も有効な手段として法曹資格を得たいという動機から旧司法試験を受験しました。が、壁が高くて合格できず、改めてロースクールに入って新司法試験を目指すことにしたのです。実はほかの大学のロースクールへの入学手続を済ませていたのですが、やはり学習院の方がいいのではないかと考え直し、悩んだ末にこちらを選びました。面接試験を受けた時に、立派な法曹を育てたいという先生方の強い熱意が感じられ、少人数制の指導を受けられる点も自分に合っていそうだと思ったことが決め手になりました。
今田
社会科学を専攻した私は、学部を卒業するまで法律を本格的に学んだことはありませんでしたが、世の中は法律で動いているところがあるのでぜひ知っておきたかったということ、それに父が経営者で会社が事業を拡大する過程に興味があり、法律家という立場からいろいろな企業や事業に関わってみたいという思いを抱いたことから進学を決めました。未修者なのでどの大学院がいいのか見当もつかなかったのですが、司法試験を目指す友人から「学習院の教授陣はすごい」と聞き、マンモス大学を出た私には少人数制の教育環境も非常に魅力的だったのでこのロースクールを選びました。
岩本
私は他大学の大学院で学びながら法律学の研究者を目指していました。民法が専門だったのですが、金融法などでは実務の動きが早くて理論が追いつかないという状況があるように感じられ、実務の世界に深く触れてみたいという関心から法曹を志すに至りました。理論と実務のつながりに特に興味があった私には「理論と実務の架橋」という学習院の理念は理想的でしたし、緑の多いキャンパスや、先生の指導がよく行き渡り、なおかつ学生同士の議論も活発にできそうな、ほどよい学生数にも魅力を感じました。
大木戸
他大学の法学部で学んでいた私は、ゼミで弁護士や検察官の先生から熱心な指導を受けて実務家の仕事に興味を持つようになりました。また、法廷傍聴で法律が実際に運用される場面を目にし、自分もそのような仕事に関わりたいと思って法曹となることを決意しました。学部時代の先輩が学習院のロースクールの1期生で、先生の質が高く、授業も丁寧だという話を聞いたことが、このロースクールを選んだ理由です。
野坂
教員の質、少人数制の指導、快適なキャンパスの環境など、まさにみなさんの挙げられた点が、私たちも自負している学習院大学法科大学院の特色です。特に少人数指導については、司法制度改革の理念である「理論と実務の架橋」を実現し、しっかりした理論を実務に生かせる法律家を育成したいという狙いに基づいていますので、その点をみなさんが高く評価してくださったことをうれしく思います。

日々の授業によって
厳しく鍛え上げられた

野坂
既修者の方は2年間、未修者の方は3年間のロースクール生活の中で、どんな授業や指導が特に印象深かったですか?
大木戸
全ての授業が有意義でしたが、特に思い出深いということでは、「民法判例演習」でしょうか。水野先生の鋭い質問や指摘の数々は入学して最初に受けた洗礼という感じで、懸命に復習したことを思い出します。「起案等指導」も忘れ難く、法律的な文章の書き方の基礎から、実際に起案をする訓練まで丁寧な指導を受けて、それまでいかに自分がマニュアル的な書き方しかできていなかったかを痛感しました。
岩本
「起案等指導」は自分が書くだけではなく、ほかの学生の書いたものを読む機会も豊富なので、他者の考え方に触れてそれを自分の文章に生かすことができました。少人数なので、指導を受けながら学生が自由に発言できるのもよかったですね。
小原
私は入学してすぐに野坂先生の「起案等指導」を履修しました。いわゆる答案練習会のようなものとは違い、与えられたテーマについてまず全員で議論し、それから各人の書いたレポートを先生に読んでもらうという形式で進められました。先生からのアドバイスがとても細かくて、非常に深みのある授業でした。
野坂
1年次から3年次まで必修の「起案等指導」は、法的なものの考え方を鍛え、法曹として意味のある文章を書く能力を養うことが目的です。将来にわたって法律家としてやっていくための素養を身につけてもらう場として、特にこの法科大学院では力を入れています。
今田
法律を全く知らなかった私は、「“物権行為の独自性”っていったい何?」という感じで法律独特の概念に慣れるのにまず時間がかかりました。この様に、教科書の1ページ目から理解できない状態でしたが、1年次で受けた「民法入門1」のスパルタ教育が忘れられません。テキストをここからここまで、膨大な頁を読んでこいと言われ、次の授業では小テスト。出来が悪いとそんなことで合格できると思うのかと叱られ、初めのうちは本当に辛かったんですが、その厳しさの裏側には愛情が感じられました。1年次の「民法入門」で法律の基礎をみっちりと叩き込まれたからこそ、3年という限られた期間で新司法試験合格に必要なことを学べたのだと思っています。
野坂
民法は法律学の基本ですから、早い段階で集中的に基礎を固めようということですね。ほかに未修者向けの科目として「起案等指導」の「1」「2」、「公法入門」、「基礎刑法」などがあり、法律の最も大切な部分を水準を低くすることなく、しかし確実に理解させようと各先生が努力しています。未修者には3年間かけて既修者に追いついてもらうようカリキュラムを組んでいますが、1年次は法律の初学者に対して特に手厚いケアをしているつもりです。たしかに初めは大変かもしれませんが、そこで歯を食いしばって乗り越えられた人は、2年次以降でぐんと伸びている気がしますね。
今田
大学によっては発展的なことばかりやるところもあるようで、まだ基礎も固まっていないのに最先端の問題ばかり扱われる、という話をほかのロースクールの学生から聞いたことがありますが、ここでは民法にしてもテキストに書いてある基礎の基礎から教えてもらえます。未修者だけがそうなのではなく、2年次から入った既修者もまずは基礎からやり直すカリキュラムになっていて、そのあたりが学習院の大きな特徴だと思います。
野坂
あれもこれもと広げても学生には負担になるだけです。学習院では、オーソドックスな教育を施しながらオールラウンドな力を身につけさせることを基本方針としており、その教育手法は新司法試験対策としても有効だと信じています。
岩本
私には「公法演習」も非常に興味深い授業でした。2人の先生がペアになって教壇に立ち、判例に対してそれぞれの意見を述べるのですが、憲法専門の先生と行政法専門の先生では同じ判例を巡って異なる見解を持っていることが新鮮に感じられました。
野坂
「公法演習」のように専門分野の異なる2人の教員が同時に授業を行うというのは、他大学のロースクールにはほとんど例がないようですね。私は憲法が専門ですが、行政法の先生と組むことによって、私自身も色々と勉強させてもらっています。複数の法律をクロスオーバーさせた授業をもっと設けてほしいという声は多いので、例えば民法と民事訴訟法など、可能であればほかの組み合わせも取り入れていきたいと思っています。
今井
「公法演習」の面白さは、何といっても議論が白熱するところですね。ディスカッションするのは通常は先生対学生、あるいは学生対学生ですが、「公法演習」では時として先生と先生が激しく意見を戦わせます。新司法試験は、ある事象をいろいろな角度から分析する姿勢や力を受験生に求めているのだと思いますが、それがいい形で実現されていると感じました。
小原
学生たちでチームを組んで戦った「模擬裁判」もとてもよい経験になりました。私は被告役として当事者尋問を受けたりしたのですが、手続の流れが頭にこびりつきました。民事訴訟法の短答式試験を受けている時に法廷教室の場面が頭に浮かび、試験のためにも大いに役立ちました(笑)。
野坂
授業を充実させるのはもちろん、自習室をはじめとする施設面についてもできるだけ快適な環境を整えるように努めているつもりですが、それについてはいかがでしたか?
今井
私はほぼ毎日自習室で勉強していましたが、机に備え付けのパソコンで判例を検索できるシステムはとても便利でした。図書館の蔵書が豊富で、資料探しに苦労することも全くありませんでした。
小原
自習室のパソコンで判例検索から書面作成まで全部できるのは本当に便利でしたね。緑が豊かで、自習室と図書館の間を移動するだけで気分がリフレッシュできる環境も最高でした。
今田
自習室は、パソコンの有無も含めてバリエーションがあるのがよかったです。学生ごとに自分が学習しやすいと思う自習室の雰囲気は異なりますし、パソコンの音が気になるという人もいますから。
岩本
自習室は休日でも夜11時まで利用できるのがありがたかったです。ほかに法経図書センターや大学図書館でも学習できるので、その時の状況や気分に応じて好きな場所を選べました。
大木戸
自習室には固定席と自由席があって、いつでも1人1席は必ず使えるように十分な数が用意されていました。また、本棚の不足などを訴えるとすぐに対応してもらえたので、文献類を近くに置きながら快適に勉強することができました。
今井
設備面の話ではありませんが、質問などがあれば気兼ねなく研究室に先生を訪ねることができるのも、このロースクールの特長だと思います。少人数制のメリットでしょうか、先生と学生の距離が本当に近いことを実感しました。

新司法試験を突破するために
重要なこと

野坂
新司法試験の短答式試験では、法律家としての基礎学力と基礎知識が試されます。このロースクールでは、司法制度改革の目的に照らして自分の頭で考えることのできる法曹を養成したいということで、知識の詰め込みではない教育を施すことを旨としていますが、実際の試験では一定の知識がなければ合格できないのもまた事実です。そのあたりの苦労もみなさんにはあったと思いますが、振り返ってみて、新司法試験に合格できたポイントはどんな点にあったと考えていますか?
今田
ここで求められている力を身につけられれば、新司法試験に受かるだけの力も十分につくのではないかと思います。もちろんそれは容易なことではなく、自分は既修者のレベルに追いついているのか、基本的な知識が不足しているんじゃないかと、未修者ならではの不安も常にありました。でも新司法試験が真に求めているのは論理的な思考力なのであって、それはこのロースクールの課程をこなすことで必然的に身につくはずだと信じることで不安を乗り越えられました。学校を信じることで自分自身を信じることができたので、結果的に試験には自信をもって臨むことができました。
今井
私には、ゼミなどでの討論を通しての思考訓練が何よりも重要でした。特に論文式試験には論理的思考力と説得性のある表現力が必要ですが、根拠を示して論理を積み重ねていく訓練を繰り返した結果が、答案に現れたのだと思います。その意味では、よい先生とよい仲間に巡り合えたことも合格の要因だったといえるかもしれません。
大木戸
ロースクールというのは、合格させてくれるところではなく、その手助けをしてくれるだけのところだと思います。たしかに考える力や書く力については先生方の指導によって伸ばしてもらいましたが、知識面のケアは自分でするしかなく、それこそちょっと変になるほど(笑)勉強したつもりです。結局のところ受験は自分自身との闘いで、限られた期間にどれだけ集中できるかにかかっているところがあると思います。それだけに精神面の頑張りも大きな要素になりますが、私の場合は友達との励まし合いで助けられた部分がかなりありました。
岩本
私はロースクールでの2年間に何か特別なことをしたわけではなく、毎日の授業を受け、判例や文献を読んで、考える訓練を繰り返しただけです。それでも自然に法曹として必要な力を養うことができたと思っていますが、ではそれだけで試験に受かるのかというと、大木戸さんが言ったように基本的な知識に関しては学生が自主的に身につけることを前提としてカリキュラムが組まれているので、あくまでも授業は勉強のきっかけに過ぎないという認識を持たなければならないと思います。試験対策ということでいえは、自分に今何が足りないのか、どの位置にいるのかを常に把握し、主体的に臨むことが不可欠でしょう。
野坂
繰り返しますが、我々は国民のための司法の担い手となる質の高い法曹を育てることを目的としており、その目的は普段の授業によって十分に達せられると信じています。ただし、せっかく法律家としての基礎的な能力が身についたのに、知識がほんの少し不足しているだけで残念な結果になるのはもったいないので、今後は学生の基本的な知識の部分の手当についても力を入れていこうと検討しているところです。
小原
個人的な話で恐縮ですが、私はロースクール在学中に結婚、妊娠し、修了の3か月前に出産しました。受験どころか修了することさえ危うかったところ、紙谷先生をはじめとする先生方が温かく励ましてくださり、出産2週間前まで学校に通い切ることができました。毎夜11時まで自習室で勉強した後、仲間たちが大学の近くに借りた部屋まで送り届けてくれたことも忘れられません。当時の研究科長(戸松先生)からも応援の言葉をいただき、無事に修了できたことも、試験に向けて死にものぐるいで頑張って合格できたことも、先生や仲間たちのおかげだと感謝しています。
野坂
大変な苦労をされながら法科大学院修了と新司法試験合格を勝ち取った小原さんに、心から敬意を表したいと思います。

法曹としてのそれぞれの夢

野坂
みなさんは約1年間の司法修習を経て、いよいよ法曹としての道を踏み出すことになりますが、どのような法律家として活躍していきたいのか、展望をお聞かせください。あわせて、これからロースクールで学ぶ後輩に向けてのメッセージなどもお願いします。
今井
私は弁護士を志望しており、企業法務部での実務経験とここでの学習経験、さらには中国語などの語学能力を生かして、アジアの諸国に進出する日本企業をサポートするような業務に就きたいという希望を抱いています。新司法試験、特に論文式試験では、条文や判例を出発点とした論理的思考力と表現力が求められますが、少人数のゼミなどはその能力を磨くための格好の場だと思います。ぜひ、授業の内外で仲間や先生と激しい議論を戦わせてください。
小原
私は検察官と弁護士の両方に興味があり、今はどちらを選ぶか決めかねていますが、いずれにしても人との信頼関係を大切にして、当事者の心のケアもできるような法曹になりたいと思います。後輩のみなさんの中には、時間が思うように取れない方や、結婚や出産はどうするのかという不安を持つ方もいらっしゃるかと思います。その悩みに負けずに強い気持ちで立ち向かい、一つひとつの授業を大切にして、暗記ではない法的思考力を培ってください。
今田
まだ漠然としているのですが、将来は企業法務全般を扱う弁護士になりたいと考えています。日本企業が世界へどんどん出て、日本の市場も開かれたものとなり、企業を巡る法律問題もますます複雑化していくと思いますので、ここで学んだ基礎を忘れず、新たな問題に果敢に立ち向かっていきたいです。未修者として法科大学院で一から法律を学ぶことに不安を覚える人もたくさんいると思いますが、3年というのは短いようで長いので、正しい教育を受けて真剣に取り組めば、合格レベルに達するには十分な期間だと思います。学校の課題をこなすことは合格への遠回りと感じる人もいるかもしれませんが、新司法試験で問われるのは法的思考力であり、それを独学で修得するのはまず無理でしょう。学校で課された勉強を精一杯して論理力を養うことが、実のところ合格への近道だと私は感じました。
大木戸
弁護士として企業法務に関わりたいという気持ちがある一方、まもなくスタートする裁判員制度に裁判官として関わりたいという思いもあり、将来の進路は司法修習を通じてじっくり考えるつもりです。法科大学院では、自分が何を学びたいか、何を身につけたいかを常に意識することが大切です。このロースクールは素晴らしい学習環境に恵まれていますから、その環境を最大限に役立てて新司法試験を突破してほしいと思います。
岩本
私は裁判官を志望しており、分野としては民事系を中心に扱いたいと考えています。当事者の気持ちを理解し共感したうえでしっかりとした理論的裏づけのある判決を下し、納得の得られる紛争解決をしていきたいですね。私は既修で入学しましたが、2年間は思った以上に短いものでした。新司法試験の8科目全てを短期間でこなすのはかなり大変なので、一日一日を貴重なものと考え日々自らを高めるように頑張ってください。
野坂
自分の将来に向けてそれぞれに確固とした目標を持っておられるみなさんが、学習院大学法科大学院の修了生であることに誇りを感じます。機会があれば、今後はぜひ後進の指導にも力を貸してください。ご活躍を心からお祈りしています。

MEMBERS

司会進行
野坂 泰司 教授

東京大学法学部卒。東京大学法学部助手、立教大学法学部教授を経て、1994年より学習院大学法学部教授。2004年より学習院大学法科大学院教授。新司法試験考査委員。
今井 崇敦 2006年学習院大学法科大学院修了。早稲田大学法学部卒
今田 瞳 2007年学習院大学法科大学院修了。早稲田大学社会科学部卒
大木戸 志万子 2007年学習院大学法科大学院修了。中央大学法学部卒
小原 麻矢子 2006年学習院大学法科大学院修了。学習院大学法学部卒。
獨協大学大学院法学研究科修士課程修了
岩本 研 2007年学習院大学法科大学院修了。明治学院大学法学部卒。
早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了