修了生座談会

司法試験合格者 座談会 2008

学習院大学法科大学院の
魅力とは?

野坂
本日は、平成20年度の新司法試験に合格された5名の修了生がお集まりです。このロースクールでの2年ないし3年間を振り返っていただきたいのですが、まずはみなさんが法曹を志されるに至ったいきさつと、学習院大学法科大学院を選んだ理由をお聞かせください。
内野
弁護士である父の背中を幼い頃から見ていて、私もいつか父のように依頼者のために働きたいと考えて法曹を志しました。私のロースクール選択の基準は、少人数制・優秀な指導陣・緑の多い環境でしたが、短時間でシャープに説明会がなされたことと、先生方の横のコミュニケーションがよさそうだったところに魅力を感じて学習院を選びました。また、緑が多く居心地のよさそうなキャンパスにも心を惹かれました。
矢田
私は大学卒業後に証券会社に就職したのですが、特定の分野の専門的な知識を身につけてそれを生かせる仕事に就きたくなり、学習院大学法学部(政治学科)時代に履修した憲法や刑法などいくつかの法律科目がとても面白かったことを思い出して、法律を学んで法曹となることを決意しました。このロースクールを選んだのは、未修者が15名のみという環境のもとで、親身な指導を受けられることに期待したからです。
小林
法学部で履修した刑法のゼミで法律の面白さを改めて知るとともに、困っている人の役に立ちたいという思いを強めて法曹を目指すようになりました。学習院を志望したきっかけは、出身大学(明治大学)の先生に進路を相談したところ、「素晴しい先生がたくさんいらっしゃるうえに少人数制教育が行われる学習院なら、きっと充実した勉強をできる」と勧められたことです(笑)。
相川
日常生活の中でトラブルに遭遇しても、一般市民はなかなか弁護士に相談しようという気持ちにはなりません。そういう現状はおかしいというか、もっと敷居が低ければいいのになと思い、自分が法律を学んで周囲の人から気軽に相談にのれるような存在になろうと学習院大学法学部に入りました。その時点では純粋に法律を勉強したかっただけなのですが、ある科目を担当されていた元裁判官で弁護士の先生が非常に人間味にあふれる尊敬のできる方で、法曹の仕事がとても魅力的なものに感じられるようになりました。ちょうどロースクール制度が発足しようとする時期だったこともあり、自分も新司法試験にチャレンジしてみようと、この大学院への進学を決めました。
佐山
高校の先生から「一番つぶしがきくのは法学部だ」と聞き、まったく軽い気持ちで法学部に入ったのですが(笑)、刑事事件の裁判を傍聴したところ、はなから悪者扱いされている刑事事件の被告人にもいろいろな事情があり、心底困っている人が多いのだということを知りました。なんとかしてそういう人たちの力になりたいと思うようになったのが、法曹を志した動機です。このロースクールを選んだのは、高名な先生が多いことと、マスプロではない教育環境が魅力的だったからです。
野坂
みなさんがおっしゃるように、少人数教育は学習院大学法科大学院の最も大きな特色の一つです。私たちには司法制度改革の理念を実現するために優秀な法曹を育てたいという強い思いがあり、そのためには質の高い教員による質の高い少人数教育が非常に有効だと考えています。他大学から移ってこられてきた先生方は、私たちが全学生の様子を常にこと細かに把握していることに驚かれますが、そういう点も少人数制ならではのメリットということができるでしょう。

厳しくも充実していた授業の数々

野坂
矢田さんはこの中で唯一の未修者ですが、未修者ならではの苦労もかなりあったのではありませんか?
矢田
そうですね。勉強の方法からしてよくわからないという状況からのスタートで、入学当初から予習すべき量も多く、たしかに苦しい毎日でした。ただ、「起案等指導」の先生がホームルームの先生のような役割を果たしてくれ、個々の学生の勉強の進み具合や抱えている悩み事などにも配慮してもらえたのには助けられました。何でも相談できる先生がいるという安心感は大きかったです。
野坂
未修者を対象とする1年次の「起案等指導」では、法律をどう学んでいくのか、文献をどう読むのか、資料をどうやって探すのかといったところからケアしています。ほかの科目でも未修者の1年生に対しては、法律を学ぶための土台づくりとなるような指導に力点が置かれています。
矢田
1年で既修者と肩を並べるところまではいきませんでしたが、2年次以降の授業でなんとか既修者の水準についていこうと努力することができたのは、1年次で基礎の部分を固めることができたからだと思っています。
野坂
ほかのみなさんはどんな授業や指導が特に印象深かったですか?
佐山
どの科目も忘れ難いのですが、櫻井敬子先生の「行政法」は強烈でしたね。対話型のソクラテスメソッドで行われるんですが、満足な受け答えができない学生に対してとにかく厳しい。僕などは厳しくされると熱くなる性格なので、今度はちゃんと答えられるようにしてやろうと、必死になって勉強したものです。
相川
たしかに櫻井先生の授業は大変アグレッシブでした(笑)。ほかには何といっても「起案等指導」ですね。最初に受けた神前禎先生のクラスでは文章を書く訓練にかなりの時間が割かれ、文献の引き方など形式面の指導も徹底的に受けられたのがよかったです。3年次の「模擬裁判」では実務家の先生の指導のもと、学生が裁判官、被告人、弁護士と役割分担をして、実際の手続に沿って判決文を書くところまで生々しいロールプレイを行いました。実体法だけではなく、手続法も体験的に学べた点で非常に有意義なものでした。
小林
僕が最も印象に残っているのは、入学直後に受けた野坂先生の「起案等指導」です。試験の出来が悪いと容赦なく不可を出す野坂先生は、“撃墜王”と呼ばれていました(笑)。課題に従ってレポートを書き、それを巡って先生の面談を受け、それから全員で議論するというスタイルでしたが、野坂先生は評判どおりに厳しい一方、文章指導はとても丁寧でしたし、「ちゃんと授業についてきているか」と、普段の生活状況にも心配りをしてくださいました。僕はこのロースクールには補欠合格で入学していて、既修とはいえ出遅れている立場だったので、はじめに野坂先生からしっかりとした指導を受けられたことは本当に幸運だったと思っています。
野坂
法律実務基礎科目である「起案等指導」は、将来実務家になるための訓練を行う場です。担当の教員によって重点の置きどころは異なりますが、それぞれのテーマに沿って調査し、討議し、それを文章で的確に表現できるようになることを狙いとする、このロースクールの特徴的な科目の一つといえますね。
小林
3年次前期の「公法演習」もよかったですね。憲法を専門とする先生と行政法を専門とする先生がペアで教壇に立ち、一つの判例を巡って全員で討議するんですが、議論を発展させるために、毎回判例をしっかり読み込んで臨むことが求められました。学生同士の議論も白熱しますが、この授業の醍醐味は、しばしば先生同士の見解が激しくぶつかること。判例を異なる視点からとらえるためのよい機会になりました。
野坂
「公法演習」のように2人の教員が同時に担当する授業は、他大学にはないんじゃないでしょうか。教員同士も議論を戦わせますから、独特の緊張感を伴います。通常は憲法学者と行政法学者が一緒に教壇に立つことはないという点でも意義深く、教員の側にも刺激的で勉強になる授業です。
矢田
私は1年次に履修した岡孝先生の「民法入門1」が忘れられません。わずか4週間で民法の財産法の全容を把握するというもので、質問項目がびっしりと書かれたA4の用紙を毎回配られました。その質問は基本書を読むだけでは十分に答えられないものもあり、自分でいろいろな資料を探したり、図書館の書庫から古い文献を引っ張り出したりして読まなければなりませんでした。授業では、未修者といえども質問に答えられなければ予習不足だと言われ、毎週の小テストの点が悪ければ「こんなことでは今後ついていけない」と叱られて(笑)。でも、そのおかげで民法についての基礎的な学力が短期間のうちに身につきましたし、一人ひとりの勉強に対する意識も高まったのだと思っています。
内野
学習院のどの先生にも共通するのは、それぞれの専門分野に対する情熱なんだと思います。櫻井先生のようにそのパッションを強烈な形で出す方もいれば、龍岡資晃先生のように温厚な中にも実務での法解釈の方向性に確固たる信念を持たれている方もいる。いずれにせよ、各分野のトップレベルの先生方が、それぞれの授業を工夫しながら個性的なやり方で教えてくれるところが、学習院の良さだと思います。
野坂
自習室をはじめとする施設面の使い勝手についてはいかがでしたか?
佐山
自習室を24時間開放している大学院もあるようですが、人間は夜は眠るべきなので、午前7時から午後11時まで利用できれば十分です(笑)。固定席も自由席も両方用意されていますし、不満はまったくありませんでしたね。
小林
1年を通じてほぼ毎日自習室で勉強していましたが、ほとんどの机にパソコンが備えられ、データベースへのアクセスも快適でした。法科大学院生は学内の施設や設備を全部使えるので、僕も不足を感じたことはありません。
相川
授業のために大量の資料を印刷することがあるので、自習室のプリンタを無料で自由に使えるのは助かりました。机も広いし、窓から見える景色もよくて、疲れた時には外を眺めると気分が落ち着きました。
矢田
自習室は、3月に修了してからも新司法試験を受験するまで使わせてもらえました。それまでと環境を変えることなく直前期の勉強ができたのはありがたかったですね。
内野
自習室の充実度を学校選びの基準にする人もいるようですが、環境に甘えるようじゃ受かるものも受からない(笑)。もっと設備が整っているところはあるかもしれませんが、他の方も仰るように学習院は非常に恵まれていると思いますよ。

新司法試験をクリアするために
必要なこと

野坂
私たちは、このロースクールのカリキュラムさえきちんとこなせば、おのずと新司法試験に合格するだけの実力がつくものと考えていますが、そのあたりについてはどのように感じられましたか?
小林
ただ授業に出るだけで合格できるわけではありませんが、授業を受けることなくして合格もないでしょう。どの科目も、基本的な知識は各自が身につけているものという前提に立ち、考える力を培うことに力が注がれます。考えることで新しい発見があり、発見があれば勉強が面白くなって次のステップへ進むモチベーションとなる。それこそまさに、試験のためではなく法曹になるための勉強だということを、早い段階で実感することができました。
内野
合格者を見渡すと、教わったことを自分の中でもう一回検討して主体的に勉強した人たちだということがわかります。その意味で、授業はあくまでもきっかけにすぎない。受け身ではなく主体的に誠実に勉強をする人には、学習院のカリキュラムはたしかに合格できるだけの力を十分に与えてくれるものだと思います。
佐山
授業の内容を自分なりに消化しながら復習する。授業だけでは足りないと思った部分は基本書を読むことが重要です。
矢田
授業を通して身につくのは法曹としての土台となる力であって、例えば短答式試験のための対策までこと細かに指導してもらえるわけではありません。どの教科も大事なところに関しては授業で確実に教えるけれど、その先は自分でカバーしなさいというのがこのロースクールの方針です。
相川
知識だけが問われるなら基本書や文献を読むだけで十分なはずですが、新司法試験では具体的な事例が示されそれに対してどうすればよいかという結論を出すことが求められます。そのためには法的なバランス感覚に基づく思考プロセスが重要で、授業というのはそれを養う場だととらえるべきです。
野坂
みなさんが指摘されるように、ロースクールでは合理的なカリキュラムが組まれているとはいえ、授業の内容を咀嚼し、自分のものとして再構築する作業は各自の努力に任されます。そこをきちんと理解したうえで受け身ではない勉強をすることが、合格につながる道なのだと思います。

法曹となるにあたっての
それぞれの決意

野坂
みなさんはこれから司法修習を経て法曹としての第一歩を踏み出すことになります。どのような法律家を目指しているのか、展望をお聞かせください。
内野
将来は弁護士として一般民事や刑事弁護に携わりたいと考えています。父のもとを訪れる依頼者の方は、事務所に来た時と帰る時で背丈が違って見えるくらいに元気になることがあります。弁護士は人の役に立つことを肌で実感できる素晴らしい職業だと思うので、どんな案件にもとにかく誠実に取り組んでいきたいですね。
矢田
ロースクール在学中に自分で応募した法律事務所のインターンシップで、ファイナンス系の案件を扱う弁護士の仕事ぶりを見せて頂く機会がありました。証券会社に勤務経験のある私は、そういった分野に強い関心を抱いています。弁護士もサービス業だと思うので、依頼内容にきちんと応えられるようにするのはもちろん、潜在的な問題まで引き出してケアできるような弁護士になれればと考えています。
小林
検察官を志望しています。被疑者の話を真摯に聞き、厳しくすべきところは厳しく、手を差し伸べるべきところは差し伸べるという検察官になりたいですね。医療事故に見られるような法的判断と医療現場の感覚のギャップや、被疑者=犯人という報道のしかたをするマスコミのあり方などにも疑問を持っており、そうした問題の改善に貢献することも個人的なテーマの一つです。
相川
私はまだ進路を決めかねています。当初は弁護士志望でしたが、ロースクールで元検察官の先生に指導を受けたり、裁判傍聴に行った際に女性の裁判官の方からお話をうかがったりするうち、法曹三者のいずれにも魅力を感じて迷うようになりました。将来については、司法修習中にじっくり考えるつもりです。
佐山
僕は裁判官志望です。もしも被告人が有罪の場合は、心から反省してもらえるような訴訟指揮をし、判決文を書けるようになることが目標です。
野坂
ここにおられるみなさんは、目標を達成するために努力を惜しまなかった人たちですから、どのような分野に進んでも、必ず立派な法曹となってくれると信じています。最後に、これから学習院のロースクールで学ぼうとしている人たちのために、先輩としてアドバイスやメッセージをお願いします。
佐山
ここには本当に素晴しい授業の数々が用意されているので、それを積極的に利用することですね。先生方も、本気の学生には力を惜しむことなく手助けをしてくれます。
矢田
やはり基本は大学院での勉強をしっかりとすること。そのうえで、試験までの日程から逆算して自主的な勉強を計画的に行うこと。その2本立てがきっちりできる人は、おのずと合格に至るでしょう。
相川
入学当初、私は何をどうすればよいかもよくわからず、先生の指導にしたがって予習をし、授業を真面目に聴くという毎日を過ごすしかありませんでした。しかしその積み重ねが、結果として合格につながったわけです。とにかく授業をおろそかにしないでほしいですね。
小林
大切なのは、自分の選んだ大学院を信頼することです。僕は学習院以上に充実した授業が行われるところはないはずだと信じ、せっかくの恵まれた学習環境を最大限に活用してやろうと思いながら頑張りました。
内野
学習院は、主体的な勉強をする人には、一生の師と生涯の友を得られる最高のロースクールだと思います。
野坂
ありがとうございました。みなさんのこれからのご活躍をお祈りしています。

MEMBERS

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司会進行
野坂 泰司 教授

東京大学法学部卒。東京大学法学部助手、立教大学法学部教授を経て、1994年より学習院大学法学部教授。2004年より学習院大学法科大学院教授。新司法試験考査委員。
相川 一ゑ 2008年学習院大学法科大学院修了。学習院大学法学部法学科卒
内野 令四郎 2008年学習院大学法科大学院修了。東京大学法学部1類(私法コース)卒
小林 靖正 2008年学習院大学法科大学院修了。明治大学法学部法律学科卒
佐山 幸一 2008年学習院大学法科大学院修了。早稲田大学法学部法学科卒
矢田 真貴子 2008年学習院大学法科大学院修了。学習院大学法学部政治学科卒