修了生座談会

司法試験合格者 座談会 2009

少人数制の理想的な学習環境

野坂
本日は、平成21年度司法試験合格者の中から、5名の修了生に集まっていただきました。未修者は3年、既修者は2年間の法科大学院生活を振り返り、新司法試験合格に至ったプロセスを後輩たちのためにお話しいだきたいのですが、まずはみなさんが法律家を目指すようになったきっかけと、学習院大学の法科大学院に入学した理由をお聞かせください。
五條堀
大学では、なんとなく自分の性に合いそうだという程度の理由で法学を専攻したのですが、法律を専門的に学ぶうち、弁護士という資格や立場を通じて多様な社会活動に関われることに魅力を感じるようになりました。法科大学院進学に際して学習院を選ぶ決め手となったのは、なんといっても学生数が少ないことです。1学年200人や300人といった規模の法科大学院が多い中、ここは1学年50人程度なので、それだけ密度の濃い授業が展開されることに期待しました。
十時
私もこれといった理由がなく法学部に進んだのですが、弁護士は依頼者に法的なアドバイスを施すだけではなく、安心感までも与えて人を笑顔にすることのできる職業だということを痛感する機会があり、自分も弁護士になりたいと思うようになりました。学部卒業後は旧司法試験受験のための勉強をしたものの結果が出ず、法科大学院で学び直すことを決意。大きな法科大学院だと勉強のしかたがそれまでとあまり変わらない気がして、レベルの高い先生方から懇切丁寧な指導を受けられる学習院を選択しました。自習室をフルに活用するつもりだった私には、落ち着いた気分で勉強できそうな緑の多いキャンパスも魅力でした。
梶並
私は理工学部の出身です。大学での研究活動そのものは面白かったのですが、専門性が増すにつれて自分の専門以外の分野に目が届かなくなり、このままでは視野の狭い人間になってしまうのではないかという恐れを抱きました。もっと広く技術に携わりたいという思いがあり、それができる道は何かを考えた時、法的な立場で技術を守る弁護士という選択肢が見えたんです。法律はまったくの未修でしたから、大きな大学院に入るとついていけないままドロップアウトしかねません。その点、学習院は少人数制で先生との距離が近いので、自分のような者が学ぶのに向いているのではないかと思いました。
関原
私は理学部の出身者です。卒業後、しばらくフリーターのような時期を過ごしてから、弁護士になることを志して旧司法試験の受験勉強を始めたのですが、独学には限界がありました。ここには、基本書の著者でもあるような優秀な先生や、新旧司法試験の考査委員や経験者が多く、法曹にとって何が必要かを教えてもらえるとともに、先生と親密なコミュニケーションをとりながら成長できる環境があります。そうした点にメリットを感じて、学習院の法科大学院で学ぶことを決めました。
野浦
私は、正義の実現に携わる弁護士へのあこがれもあり、法律を学ぶことのできる大学へ進学したのですが、勉強を進めていくうちに、一流の先生方が研究書や論文を通じて展開する論理的で緻密な法理論の美しさや奥深さに魅了されるようになりました。そこで、そのような一流の先生方が少人数で教えていらっしゃる学習院の法科大学院を選びました。
野坂
みなさんのおっしゃるように、少人数教育がこの法科大学院の大きな特徴の一つです。学生一人ひとりの個性に応じて懇切丁寧に指導していくのは容易ではありませんが、学習院のように小さな規模の法科大学院では、それを地道に行うことが何よりも大切だと考えています。そのことを評価して皆さんがこの大学院を選んでくださったことは、とてもありがたいですね。都会にありながら、緑に囲まれたゆったりした雰囲気のキャンパスで、学生たちは互いに助け合いながら共に勉強に励んでいます。そうした環境も含めて、理想に近い教育の場を実現できているのではないかと私たちは自負しています。

厳しいからこそ、
学びがいがあった

野坂
梶並さんは5名の中でただ一人の未修者ですが、法科大学院に入ってまずどんな印象を抱きましたか?
梶並
当時、岡孝先生の「民法入門1」が毎週4コマあり、いきなり膨大な課題を出されるという洗礼を浴びせられ、「ああ、これが法科大学院というものなんだな」と思いました(笑)。課題は既に前年の暮れから出されており、入学までの間に読んでおくべき基本書をリストアップされ、それを読みこなしていることを前提に授業が始められたんです。とても厳しい授業でしたが、そのおかげで基礎を固めることができましたし、3年間にわたる勉強の方法や方向性も理解できたので、今ではあの厳しい洗礼を与えてもらえたことに感謝しています。
野坂
未修者といっても、本当の意味で法律を学んだことのない人から法学部出身の社会人経験者まで、さまざまな背景を持つ学生が入学してきます。各人に見合った適切な指導をするため、未修の担当教員は互いに密に情報交換をして全学生の状況を把握し、しっかりと基礎が身につけられる態勢をとっていますが、そのあたりも未修者15名という少人数制だからこそ実現できているのだと思います。
皆さんにとって、特に印象深かったのはどの授業ですか?
十時
特に印象に残っている科目といえば、「起案等指導」ですね。事案に触れたり判例を読んだりした上で時間内に文章を作成し、そのよいところ、悪いところを先生に評価してもらえるのは貴重な経験でした。ほかの学生が書いた文章を読む機会があるのも意義深かったです。
梶並
法律文書を書く経験が皆無だった私にとって、何度もレポートを提出して具体的なアドバイスを受けられる「起案等指導」は、自分にだんだんと力がついていくことを実感できる授業でした。毎週ひいひい言いながらレポートを書き上げていましたが、大変な思いをした分だけ、確実に自分のためになったと思っています。
五條堀
少人数で行われる科目はいずれも取り組みがいがありました。選択科目となると、学生は少ない場合は3~4人、多くてもせいぜい10数人ですから、学生が発言する機会が豊富に与えられます。論理的な構成をして表現することに慣れないうちは苦労しましたが、やがて発言することを躊躇しないようになり、学生がどんどん先生に質問をしてスリリングに議論が展開されることに、少人数授業のよさを深く実感させられました。
野浦
先生と一対一で真剣勝負の議論ができるという点で、神前禎先生の「国際私法」がおもしろかったです。学生の見解に誤りがあると、それに学生が自ら気づいて最終的な正解へと到達することのできるような質問を畳みかけてくれるので、まさに対話形式の授業の典型例だと思わせられました。
関原
私は野坂先生の「憲法訴訟」が思い出深いです。とにかく与えられる課題の量が多い(笑)。憲法訴訟に関する判例は一審から読むことを課せられ、はじめはそのことに何の意味があるのだろうと思いましたが、次第に判例を読む速度が増し、最高裁の判決に目を通すだけでは気づかなかった問題点にも目が向くようになりました。また、野坂先生は「どんなに高名な学者が述べていることでも、自分で本当かどうかを考えないといけない」と常におっしゃり、そのおかげでどのような本を読む際にも、客観的な視点を持つようになったのも収穫です。そのことは、憲法に限らず全ての法律を学ぶ上で大いに役立ちました。
梶並
憲法と行政法の先生がペアで行う「公法演習」では、学生同士がディスカッションをするだけではなく、それぞれの分野の第一人者と呼ばれるような先生方が展開するハイレベルな議論を聴く機会もありました。
野坂
憲法と行政法の教員が同時に教壇に立つ授業は、全国にも例がないようです。教室はいつも独特の緊張感に包まれており、学生にとってメリットが大きいのはもちろん、我々教員にとってもよい勉強の場となります。
その他、学習院の法科大学院で学んでよかったと感じられたことがあれば自由にお話しください。
野浦
自分を刺激してくれた、ある仲間との出会いです。その人の授業での受け答えの仕方等を観察して、頭の使い方等多くのことを吸収させてもらいました。二人で自主ゼミを開いて問題を解く訓練をする一方で、競争意識をもっていつかその人を超えてやろうという気持ちで勉強していました。その人との出会いがなければ新司法試験には合格できなかったと思います。
関原
仲間たちの存在はたしかに大きかったですね。法科大学院修了後は孤独に試験対策に取り組むことになりますが、自主ゼミに参加したりすると、同じ目標に向かう仲間に会うというだけでも気分が楽になりました。
梶並
学習院を選んでいなければおそらく合格はなかっただろうということを、私も強く感じています。法律を初めて学ぶ自分を、先生方は本当に熱心にケアしてくださいました。仲間との交流という面でも、野浦さんや関原さんに同感です。学年を越えていろいろな人と仲良くなれ、社会人経験のある方たちからは、人生の先輩として社会のことを幅広く教わりました。法律だけではなく、いろいろな意味で深い勉強をすることができました。
野坂
有志が集まって答案練習をしたり、わからないところを教え合ったりと、学生同士の自発的な勉強会も盛んなようですね。そのあたりも、小規模の法科大学院ならではのよさではないかと思います。
十時
自習室の使いやすさも特筆に値すると思います。毎日朝から晩まで、授業以外の時間を自習室で過ごしましたが、机もパソコンも数が十分で、いつでもインターネットで情報を得られる環境も整備されています。パソコンの画面ではなく、打ち出した紙に線を引いたりメモをしたりしながら勉強したい学生には、無料でプリントアウトさせてもらえるのもありがたいサービスでした。
五條堀
私は自習室ではなく主に図書館で勉強していました。蔵書が充実していて、必要な文献を探すのに苦労した覚えがありません。図書館は修了後も利用でき、閲覧のみならず貸し出しもしてもらえるので、今でも活用させてもらっています。

法科大学院における
学びの本質とは

野坂
試験に合格しなければ法曹にはなれないものの、法科大学院とはあくまでも法律実務家として必要な能力を養成する機関です。授業で学ぶべき内容といわゆる試験対策は必ずしも一致しない部分があるかと思いますが、そのあたりについて皆さんはどう感じておられましたか?
十時
短答式試験に通用するだけの知識を身につけるといったことは各人が努力すべき課題で、法科大学院というのは、その知識をどう現実の事案と結び付けるかを学ぶ場です。また、裁判が事実のどのような点に着目し、それを判決にどう反映させているのかを判例から読み取る訓練をする場所でもあるでしょう。しかしそのことは新司法試験でも問われますから、法科大学院での学習の大筋は試験にも直結していると思います。
五條堀
法科大学院に入ってまず感じたのは、学部時代には法律知識を蓄えることがメインだったのに対して、ここでは法的な議論のしかたを身につけなければならないということでした。ある法律の条文をある事案に照らすとどう解釈できるのか。議論を通してそのことを学ぶのが法科大学院であり、もちろんそのことは新司法試験対策とも重なるとはずです。
関原
独学をしていた時はほとんど判旨にしか目を通さず、事実関係を深く把握しようとはしなかったのですが、法科大学院で判例を丁寧に読み込むことにより、事実と判決の関係性を徹底的に検証することができました。判決の全文を熟読することで判例の構造まで深く理解でき、しかもその判例の射程がどこまで及ぶかまで考えさせられた結果として、新司法試験合格がもたらされたのだと思っています。
梶並
法科大学院で何よりも鍛えられたのは、論理的な思考能力と、事案や判例を分析する能力です。それは法律家としての基本的な力であり、それが備わっていなければ、どれだけ知識があろうと事案に応用することができません。さらに「起案等指導」などで法的な文章の表現力が養われ、それもまた法律家に求められる基礎的な能力の一部ですから、法科大学院で体系だった訓練をしっかりと受けなければ、試験に合格できないのはもちろん、一人前の法律家になることも望めないでしょう。
野浦
法科大学院の授業は、知識を詰め込む場ではなく、自ら学んでいくためのきっかけが得られる場に過ぎません。この点で、授業だけで必要十分だということはないと思います。
十時
教わるところではなく、学ぶところであるというのは、たしかにその通りです。学部では講義を聴いているだけで済むところがありますが、法科大学院の授業の多くは学生が発言しなければ成立しません。そのため予習に追われますが、だからこそ授業が自分のためになるのだとわかってから、学習態度も大きく変わりました。
野坂
法科大学院のカリキュラムさえこなしていれば必ず合格できるというものでありませんが、かといって法科大学院の授業に真剣に取り組まなければ出発点にも立てないということでしょう。ここにおられる皆さんは、その点をきちんとわきまえておられたのだと思います。

法曹としてのそれぞれの未来

野坂
これから皆さんは司法修習を受け、法律実務家としての道を歩まれることになります。将来、どのような法曹として活躍したいのか、抱負をお聞かせください。
関原
知的財産権や倒産法などに強い関心があるのですが、民事・刑事を問わず、また少年事件も含めて、まずは専門分野を限定せずに、幅広い仕事をこなせる弁護士になりたいと考えています。法曹を志したころ、検事や弁護士の活躍を描いたテレビドラマを観て、カッコいいな、自分もああなりたいなと憧れたものですが、きっと現実にはそうカッコよくはいかないでしょう。親身に依頼者に接して、困っている人を救済する。弁護士として、そのことに充実感を覚えることができれば、と思います。
五條堀
今はまだ試験に合格したというだけで、本当のスタートはこれからです。将来的には著作権法や企業法務を専門にしたいのですが、私も実務家としての力をつけるために、いろいろな事案を扱う法律事務所に入って、弁護士としての下地をしっかりと作っていくつもりです。
野浦
私は弁護士あるいは裁判官となり、自分の関わる事案一つひとつに丁寧に取り組んで、その積み重ねの結果として、社会をよりよくすることに貢献できればと思っています。自分が正義だと信じることを、しかし独善的にならないように追求していきたいですね。
十時
私は弁護士としてクライアントと深く関わりながら仕事をしていきたいと思っています。特に少年法などに興味がありますが、司法修習期間中にできるだけアンテナを広げ、自分が専門とするべきテーマを模索したいです。
梶並
技術に幅広く関わりたいという思いが私の出発点でした。将来は知的財産法に強いと言われるような弁護士になりたいのですが、最初から分野を限定せず、どんな案件にもしっかりとした答えを出せるように自分を鍛え、弁護士としての使命を果たしたいと思います。
野坂
平成16年に法科大学院制度が発足してから4回の新司法試験が実施され、学習院の合格者も徐々に増えています。この法科大学院で学んで法曹になったのだということに自信と誇りを持ち、法科大学院の修了生はこんなにしっかり学んでいるのかということを、法曹界のみならず広く社会に知らしめていただきたいですね。実務に就くと忙しくなるとは思いますが、今後は後輩の指導にもぜひ力を貸してください。本日はありがとうございました。

MEMBERS

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司会進行
野坂 泰司 教授

東京大学法学部卒。東京大学法学部助手、立教大学法学部教授を経て、1994年より学習院大学法学部教授。2004年より学習院大学法科大学院教授。新司法試験考査委員。
五條堀 岳史 2009年学習院大学法科大学院修了。東京大学法学部卒
梶並 彰一郎 2009年学習院大学法科大学院修了。早稲田大学理工学部電気電子情報工学科卒
野浦 幸助 2009年学習院大学法科大学院修了。筑波大学第一学群社会学類卒
十時 麻衣子 2009年学習院大学法科大学院修了。青山学院大学法学部法学科卒
関原 秀行 2009年学習院大学法科大学院修了。東海大学理学部物理学科卒