修了生座談会
司法試験合格者 座談会 2021
恩師である神前禎教授のもとに一堂に会した、令和3年司法試験の合格者たち。法曹を目指す皆さんに向けて、合格した今思い出される学習院での日々や合格の秘訣について、法科大学院修了生の4名に語りあってもらいました。(インタビュー実施日:2021年10月19日)
それぞれのターニングポイントを
経て学習院大学法科大学院へ
- 神前教授
- 令和3年司法試験に合格された皆さん、本当におめでとうございます。さっそくですが、法曹を目指したきっかけと、本法科大学院との出会いからお伺いしていきます。
- R.M.
- 最初のきっかけは、高校2年生のときに起きた「割り箸事件」です。被害者は知り合いの息子さんで、その事件をリアルタイムに肌で感じていました。同時に、医師の過失の有無を問う訴訟も起こしていたため、法律の観点でも非常に記憶に残っています。大学では生命倫理を学びましたが、祖母の死をきっかけに具体的な行動の必要性を感じ、3年次の秋には、専門的で実際に行動できる法律家に興味を持ちました。卒業後は、並行して取得した看護師資格で数年働きましたが、やはり弁護士の道を目指そうと、学習院大学のロースクールに入学しました。決め手は、学費免除の制度と、司法試験の基本書を書かれている教授が多く在籍していたことですね。
- 星野
- 辛い状況にある人を助けたり、人に寄り添ったりする仕事がしたくて、高校卒業後に2年ほど働きました。しかし、その環境は厳しく、理不尽に思うことも多い職場だったんです。そこで再度進路を考えたとき、弁護士になって同じ思いをしている人を助けたい、そして、最難関の試験を突破して、自分の生き方を変えたいと思いました。それから他大学の法学部に入学し、在学中は予備試験も受けていましたが、それを断念してロースクールを受けることに。そのなかでも学習院は、説明会での在学生と先生の関係がとても良く、学校全体の雰囲気と少人数制が自分に合っていると感じたので、絶対ここに来ようと決めました。
- 宮田
- 他大学の法学部法律学科に入学しましたが、当初は“弁護士は事後処理をする仕事”というイメージもあり、それほどなりたいとは思っていませんでした。しかし、在学中に参加した弁護士の方による倒産事件の講演会で、「倒産の事後処理も確かに大事だけれど、それ以前に予防できることもある」と聞き、それまでのイメージが一変。それならば主体的に仕事ができるのではと思い、弁護士を目指すことにしました。その後、別のロースクールに通いましたが、司法試験に失敗し、アルバイトでお金をためて、授業料の免除を受けられる新たなロースクールを探していました。調べていくうちに、学習院には有名な先生方が多数いらっしゃるうえに、自習室などの環境の良さもあり、入学しようと決意しました。
- 安田
- 僕のきっかけはシンプルで、高校のときに見たドラマの検事がかっこよかったからです。被害者の立場に立って真実を追求する姿にあこがれていると、よく友人や学校の先生に話しました。あるとき、彼らに勧められるままに実際の裁判を傍聴したとき、その迫力に圧倒され、検察官になろうと思いました。それから学習院の法学部法学科に進学。学部3年次に受けた、本大学院の教授でもある鎮目征樹先生の刑法ゼミで刑法の奥深さを学び、学習院の法科大学院は教授と学生の距離が近くていいと聞き、交通の便もよく、通い慣れていたこともあることから、この大学院を選びました。
- 神前教授
- 本当にいろいろなきっかけがあったのですね。皆さんがおっしゃるとおり、学習院の良さはなんといっても、著名な教授陣の授業を少人数で受けられることです。積極的に先生に質問するなど、活用の余地は存分にあると思います。
司法試験に携わる数々の
教授陣による
印象深い授業とは?
- 神前教授
- 私自身も、学生時代に教わりたかった(笑)と思う先生が何人もいらっしゃいますが、皆さんはどのような授業が印象に残っていますか?
- R.M.
- どれも充実していて選べないほどですが、民法・会社法・民事訴訟法の民事系の授業は、想像以上に基本からしっかりと学べたことが印象的です。教科書では1、2行で終わってしまうけれども重要な部分を細かく伝えてくださったので、元々苦手な分野でしたが、哲学があって面白いと感じるようになりました。
- 星野
- 私もひとつに絞りがたいですが、強いていえば、若松良樹先生の法哲学が印象的ですね。人間そのものや自分自身について、法曹になるための心構えを深く考えさせられました。
- 安田
- 3年次の演習が特に充実していました。特に安村勉先生の刑事訴訟法演習は、先生1人に学生3人の状況で180分もの時間をかけて、問題をじっくり検討してくださいました。自分の答案の良くない点を具体的に指摘していただき、読み手が納得する書き方を指導していただいたので、とても役立ち、ためになりましたね。
- 宮田
- ほとんどが司法試験の科目になる2年次の授業は、重要だったと思います。特に私は予習時間を多く取っていたので、今思うと、それが最終的には司法試験合格に至る、必要な基礎を固められた時間でしたね。
- 神前教授
- 以前通われたロースクールと比べていかがですか?
- 宮田
- 以前は約40人のクラスが6つもあるような大規模校だったので、1回の授業で当たる回数も違いますし、質問をするにも行列に並びます。ここでは授業中に何度も当たるので予習が必要ですが、わからないところもすぐ質問できることは良かったですね。
- 神前教授
- ありがとうございます。皆さんが司法試験に合格して気づくのは、“基本的なことを聞かれていた”ことではないでしょうか。ただ、合格レベルにある方にとっての基礎・基本と、勉強途中の方のそれは、レベルが違うこともあります。2年次で法律基本科目をきちんと学び、3年次の演習で応用力が鍛えられて初めて気づくこともありますね。
合理的で充実した自習環境と
実務家の先輩たちとの距離の近さ
- 神前教授
- 本法科大学院が提供する環境やサービスで良かったと感じられたものはありますか?
- R.M.
- 環境で一番良かったのは、自習室ですね。学習院の中でも新しいビルの9階にあって、景色も良く、固定席で自分専用の書棚とロッカーまであることは、ほかの学校に比べてもダントツでいい環境だと思います。また、その1階上に法科大学院用の図書室があるので、ちょっとした調べものもすぐにできました。いつも友達がいて、来ると安心する場所でもありましたね。
- 宮田
- 机があって、自分専用にパソコンを貸してもらえることも非常に良かったですね。
- 安田
- 僕も自宅では勉強できないタイプだったので、朝7時から夜11時まで年中無休で使用できる環境は、とてもありがたかったです。
- 神前教授
- パソコンからオンラインのデータベースで判例を検索することもできますね。また、さらに詳しい調べものは法経図書センターでも可能です。ちなみに、その蔵書の充実ぶりは、法務省の方も時々利用されているほどで、学習院として自慢できるところですね。
- 星野
- 私は学習院が大好きなので、良かったところを挙げるとキリがないんですけど(笑)、一番は法実務講座でしょうか。月に1、2回、学習院を卒業された実務家の先生方が行う任意参加のゼミで、私はすべて出席していました。弁護士さんが目の前で、合格のノウハウをたくさん教えてくれる。しかもそれが定期的にあるので、モチベーションも維持できましたし、合格に必要なことを全部そこで教えてもらったと思っています。
司法試験までの期間を乗り越えた
合格者たちの精神的な支えとは?
- 神前教授
- ほかの皆さんは司法試験までの間、どのようにモチベーションを高めていましたか?
- R.M.
- めげそうになるたび、長いもので20年にも及ぶ過去の裁判に思いを馳せ、自分を励ましました。また、どんな事件でも勝つと信じて裁判を続けるのが法曹です。司法試験の段階でそのマインドが自分になければ、今後も仕事はできないと念じていましたね。
- 宮田
- 去年は、8月にずれ込んだ予備試験の短答式試験から、ずっと試験を受けたりレポートを書き続けていたので、常に試験のモードでした。モチベーションは本番まで常に高まっていましたね。
- 安田
- 僕は合格するまで、2回試験に失敗しています。その都度、親が「ここで諦めるの?なりたいものがあるなら、それに向かってがんばるしかないよ」と背中を押してくれました。
- 神前教授
- 誰かと交流したり、試験を受け続けたりと、外との関係や刺激がすごく役に立ったのですね。やる気が出ないことは人間いつでもあると思いますが、「いかにやる気を出すか」よりも、「やる気がなくても勉強できる仕組みを作っておく」ことのほうが生産的ですね。私もすごく参考になりました。
今明かされる合格の秘訣!
必要なことは、基本と繰り返し
- 神前教授
- 実際、司法試験本番の対策としては、どんなことを重視しましたか?
- R.M.
- 教科書を読み、問題集を解くという基本的なことですね。ただいつも、その奥に歴史を感じ、法曹の営みを大事にする気持ちで、自分に沁みていく納得感を重視していました。そうすることで、全国の法曹の共通言語ともいえる、法律の独特の考え方や、物事の整理の仕方をつかんでいけたと思います。
- 星野
- 論文を起案して添削を受ける機会の確保と、暗記です。私は起案の機会がある講座やゼミにはすべて出席しました。そこで自分の答案を分析してもらい復習することで、合格答案が書けるようになりました。また、暗記は苦手でしたが、法律の定義や構成要件は一言一句違わず、論文の長い論証は模範解答と同じ内容が言えるように覚えました。本番では、自分でまとめたノートの内容の9割は頭に入っている状況で臨みましたね。
- 宮田
- 過去問を解くことが大事だと思います。特に、短答式試験では過去と同じような問題が出題されるので、繰り返し解いて、解答の精度を上げていきました。論文式試験では、出題趣旨や採点実感で、試験委員の採点基準を知ることができます。点をとるには、自分が思うことではなく、自分で分析し、納得した採点基準で書ける状態にしておくことです。
- 安田
- 僕が意識していたのは、参考書収集マニアにならないこと。「これだ」と思う1冊を決めて何十周も解いていけば、そのうちだんだん知識として定着し、論文や答案を書けるようになります。特に重視したのは憲法の『判例百選』。司法試験の出題趣旨や採点実感にも、“判例の理解が特に大事”とあったので、穴が開くほど読み込んでいましたね。
- 神前教授
- ゴールまでの過程は人それぞれですが、とにかく情報を一箇所に集約して、この情報を自分の頭の中にすべて取り入れて試験に臨めば合格できる、という核になるようなものがあれば良いですね。授業でも、自分がどんな知識を吸収して、答案を書くときにどう役立てるかという意識で勉強していただきたいですが、その点、合格した方々は会得されていて、さすがだと思いました。
未来の法律家たちへ送る実感のこもったメッセージ
- 神前教授
- では、これからロースクールで学ぶ後輩たちにアドバイスをお願いします。
- R.M.
- 司法試験や法律の世界は茨の道です。未来が見えない暗いトンネルを歩き続けなければならないことが、自分にとって一番大変でした。ですから、“何かが約束されているから努力をする”のではなく、“自分はどうありたいのか?”と自分に問いかけ、“約束はされていないけど信じて努力を重ねる”という決意で、法律の勉強を諦めずに進んで欲しいなと思います。
- 星野
- “焦らないで続ける”ことを止めないで欲しいです。合格までの道のりは長く、勉強の内容も膨大かつ難解で、覚えては忘れの繰り返しです。でも、それは当然のこと。とにかく続けていれば、気づいたときには合格ラインに立っています。焦らず続けることを、止めないでください。そして、悩んだときには合格者の先輩方や先生に相談して、舵取りをしてもらってくださいね。
- 宮田
- 毎日1コマの授業のなかで、自分が知らないことを1つ見つけることですね。それを積み重ねていけば、すごく膨大な知識になり、最終的には司法試験合格につながっていきます。
- 安田
- 今改めて重要だと感じることは、継続力と忍耐力です。1日を同じリズムで生活し続ければ、試験当日に何があっても体調を崩すことはありません。また、気持ちが沈んだときに持ちこたえ、持ち上げられる力も必要不可欠です。加えて、あらかじめ心が乱れないように自分の身の回りを整えたり、周囲のサポートを得やすい環境作りも大切だと思います。
- 神前教授
- なるほど。いろいろな学生を見ていて思うことは、まず、模擬試験などできちんと自分の実力を把握して欲しいということです。今の自分の力が、ゴールとスタートとの間のどこにあるかを意識しながら、他方では、ゴールと自分の今の実力の距離の遠さに囚われず、着実に一歩ずつ積み重ねている自分もきちんと認める、その両方が必要かなと思います。
司法試験に合格した今改めて見据えるこれからの目標
- 神前教授
- 最後に、皆さんの今後の目標を教えてください。
- R.M.
- 私は人権に関わる分野の弁護士を目指しています。今アルバイトをしている法律事務所が刑事事件や医療過誤訴訟、命や人の健康、自由に関するものを中心に扱っているんです。まさにそれが私の理想ですね。
- 星野
- 弁護士を目指してきましたが、司法試験に受かってみて、自分がどういう法曹になろうかを考え直しているところです。最終的にはあらゆる法律問題に対処できるようになりたいので、依頼者の気持ちを汲み取りながら、自分にご縁のあった人の人生が少しでも前に進むように、自分の人間性も高めつつ、法律を勉強していきたいです。
- 宮田
- 私は、企業法務中心の弁護士になりたいです。ただ、司法書士の資格を活かして不動産関連にも手を伸ばそうか、考え中です。
- 安田
- 精神面が非常に問われる職業といわれる検察官という目標に向けて、司法修習でいろんなことを学んで吸収していきたいです。
- 神前教授
- これまでの自分の夢をいよいよ実現できる時が来ましたね。それぞれ前途洋々な将来の道を、存分に開いていってください。そして、可能な範囲で、後輩の面倒を見ていただければと思います。いつか、今の夢が変わることがあっても、法曹資格を持っていれば、また違う方向を目指すこともできるでしょう。ですからいつも、そのときのご自身の理想を追いかけていってくださいね。
MEMBERS
司会進行
神前 禎教授(法務研究科長)
同教授を経て、2004年より学習院大学法科大学院教授。
日本私法学会、日本国際法学会、日本国際私法学会に所属。
安田 伸一朗 | 学習院大学法学部法学科出身。2019年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2021年司法試験合格。 |
---|---|
星野 有紀 | 静岡大学人文社会科学部法学科出身。2020年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2021年司法試験合格。 |
R.M. | 早稲田大学第二文学部社会人間系専修出身。2021年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2021年司法試験合格。 |
宮田 佑介 | 慶應義塾大学法学部法律学科出身。2021年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2021年司法試験合格。 |