修了生座談会

司法試験合格者 座談会 2022

司法試験合格者 座談会

令和4年の司法試験で合格を勝ち取った3名の法科大学院修了生が神前教授のもとに集まり、法曹を目指したきっかけから学習院法科大学院の良さ、そして司法試験の合格の秘訣などについて、これから法曹を目指す皆さんに向けて語ってもらいました。(インタビュー実施日:2022年10月12日)

法律と関わった縁を
機に飛び込んだ
法曹の世界と学習院法科大学院 神前教授

神前教授
令和4年司法試験に合格された皆さん、本当におめでとうございます。では初めに、皆さんが法曹を目指したきっかけと、なぜ本法科大学院に入学されたのかを教えていただけますか?
佐々木 
社会に役立つ仕事がしたくて、学部時代は公務員試験の合格を目指していました。その試験科目の学習を通じて法律に触れるうち、すべての人が法律で規律されていると改めて認識したんです。そこで、法曹として働けば法律の知識を活かして人の実生活に直接関わり、より自分が社会の役に立てると思いました。そこから法曹を目指し始め、大学卒業後にはほかの法科大学院に通ったものの、司法試験に失敗。その後、友人たちの勧めで参加した学習院大学法科大学院の説明会で、少人数制で先生との距離も近い学習院のスタイルを知り、自分に合っていると感じました。それに、素晴らしい自習環境で自分が学んでいるイメージも湧きました。特待入試で学費が免除されたことも、経済的な不安なく勉強に集中できてよかったですね。
早川 
高校生のときに模擬裁判で裁判官役を経験したことをきっかけに法曹を意識し始め、法学部に進学しました。就職するにあたっては幼少期から格闘技を続けてきたこともあり、体力を活かせる仕事に就こうか迷いましたが、知的な職業への憧れも強く、一番身近な法曹を目指すことにしました。ロースクール選びは先生方に質問しやすく、親身になって相談に乗っていただけるかどうかを一番重視しました。また、学部と同じ大学へ進学する道もありましたが、多様な視点を獲得するため、新しい環境を求めて、学習院に入学を決めました。
岡野 
私は2020年3月まで証券会社で働き、市場部門で証券化商品の組成などを担当していました。この仕事には法律が深く関わっています。何度も弁護士さんと仕事をするうちに、ブロックチェーンなどによって金融の仕組みが革新されていく今、経験を活かしながら今度は自分が弁護士として金融に関わってみるのも面白いと思ったんです。これまでの道とは違うチャレンジでしたが、残り何年働けるかといったことはあまり考えていませんでした。ただ、学習院の法科大学院でそれまでいろんな著作物でお名前を拝見したり、業界団体の勉強会などでお話を伺ったことのある、非常に高名な先生方に直接教えていただけることが楽しみでした。少人数制のため、双方向の授業にも期待していましたね。

力をつけるために
予習を欠かさず法律の知識の
基礎力を身につける 岡野

神前教授
双方向の授業は期待通りでしたか?特に印象に残っている授業は何でしょうか?
岡野 
橋本先生の労働法の授業です。昨年はオンライン授業が多いなか、一学期と二学期に受けた授業はいずれも対面で、オンライン参加の学生も含めて履修者は4人だけでした。対面だと非常に質問しやすく「このように考えてもいいですか」といった疑問もぶつけられたので、非常に充実した授業を受けられたと感謝しています。
神前教授 
予習は「授業で恥をかかないようにする」ためでなく、「自分が実力をつける」ためにしておくもの。岡野さんのように、自分の考えをベースに教授と対話するくらいの気持ちで予習してから授業を“使う”つもりで受けていただくと、自然と自分の頭と言葉で文章表現できる実力がついていくと思います。
佐々木
私は既修者コースで入学しましたが、まだまだ基礎的なことに不安を感じていました。そのため、基本書の内容から教えていただいた民法の竹中先生や民事訴訟法の長谷部先生の授業はありがたかったです。ほかにも、履修者2人で受講した知的財産法の横山先生の授業では、先生からの質問に答えるためにも絶対に予習は欠かせないという緊迫感が予習を習慣づけ、ほかの科目を受けるときにも力になりましたね。
早川
私は入学直後に初めて受けた野坂先生(当時)の憲法の講義ですね。事前にしっかりと予習をしていったにもかかわらず、先生の話が派生的な内容になったとたんに理解できなくなってしまったんです。そのとき「ロースクールってこういう場所なんだな」と、その多岐にわたる専門性に深く感じ入ったことを覚えています。ほかにも、基本的な法的三段論法をご教授いただいた松元先生(当時)の会社法や、法文書の書き方を徹底的に鍛えてくださった刑事訴訟法の安村先生の授業によって、確実に合格への実力がついたと思います。

充実の学習環境と授業――
自習室に図書館、法実務講座 早川

神前教授
では、本法科大学院が提供している環境やサービスで特にご自身でよく活用されたり、役立ったと感じたものはありますか?
早川 
2年のときに受けた法実務講座が最も役立ちました。自分の学習の進度に合わせて、基礎から司法試験の過去問演習まで様々なテーマで、現役で活躍されている実務家の先生方から直接ご指導いただけたことは貴重でした。ほかにも、大学院修了後も自習室を使わせていただけたことも大きかったですね。
佐々木 
家で勉強することが苦手な私も、学内に多くの自習スペースがある学習院の環境は大変嬉しいものでした。特に在学中、自習室は自分専用の机・ロッカーと棚が割り当てられるため資料も多く持ち込むことができ、とても快適でした。集中が切れたときは法経図書センターの書庫に移動すれば、気持ちを切り替えて勉強を続けられましたね。法経図書センターは蔵書も豊富で、探している本が見つからないということは一度もありませんでした。
岡野
私も法経図書センターはよく利用していました。開架部分には先生方が指定した図書が置かれ、手軽に調べものができるよう配慮されているのがよかったです。また、判例を調べる時はオンラインデータベースの判例秘書を、用語検索を行う場合はTKCローライブラリーを活用していました。
神前教授
東2号館の法経図書センターは学習院大学の誇れる施設のひとつです。また、法実務講座について補足すると、法曹として活躍する弁護士を中心とした当法科大学院修了生が講師を務めて後輩指導をしてくださっている正課外の取り組みです。

使える知識を効率よく
インプットし司法試験を
熟知した教授の教えに忠実に 佐々木

神前教授
司法試験の対策としてはどんなことに力を入れましたか?
佐々木
判例や基本書に書いてあることのすべてを暗記することはできなかったので、条文の趣旨を自分で考えられるようにしておき、試験中でも条文を見ればだいたいの趣旨を自分の言葉で書けるようにしました。あとは、自分の手で実際に論文を書くことを重視しました。前年の司法試験対策では、実際に論文を書く時間をあまり設けておらず、書く力が足りなかったと感じたので、自分の手、自分の言葉で論文を書く訓練を重ねましたね。
神前教授
司法試験は、適切な時間配分や長時間書き続ける腕力なども必要な試験なので、何度も繰り返して身につけるのが一番です。また、司法試験の会場で参照できるのは条文と自分の頭だけなので、条文とその趣旨を結びつけて記憶の中に留めておくことは、非常に理にかなっていたと思います。
早川
一番重視したのは「答案に、知識と理解を正確に表現できるか」という点です。幸い基本書を読むことは好きでした。しかし、漠然と読むだけでは問題は解けないので、常に問題の所在を意識し、使える知識と正確な理解のインプットを心がけていました。さらに答案では、法的三段論法を展開することを徹底し、論理的な繋がりが把握できる文章を書くことを意識しました。その甲斐あって、多少は、合格答案が書けるようになったと思います。
岡野
試験対策で特にこれというのはないのですが、余計なことは考えず、多くの法曹を育てられてきた先生方の言われたことをその通りできるようにしてきました。法的三段論法で答案を書くことをはじめ、先生たちがおっしゃったことや、試験の採点コメントを必ずノートにとっおき、それを実現できるようにひたすら練習してきました。
神前教授
教授たちは学生の皆さんそれぞれの現況と、どこまでどのように学べば合格に達するかをよく知っています。この法科大学院は全体の人数も少ないのでその道程を丁寧に教えることができますし、その通りに実際に自分で行動しさえすれば、合格に至るでしょう。きちんとした積み重ねが合格に繋がり、そして合格後も、司法研修所に入ってからも知識を身につけることは続いていきます。

自分の本来の目的を見失わず
課題をカバーできる習慣をつける

神前教授
司法試験までの長い期間勉強し続けるために、やる気を維持することは大変だったと思います。何か工夫されたことはありましたか?
早川
私の一番の課題が、勉強を継続することでしたから、やる気をキープするために、勉強場所を定期的に変えるという工夫をしていました。というのも2時間ぐらい勉強するとすぐ飽きてしまうんです。そこで、2時間おきに、自習室、法経図書センター、演習室、カフェ、外の椅子、を転々としながら勉強することで、なんとか1日のやる気を保つように努力はしていました。ただ、遊びたい誘惑に負けてしまうときもありました。そのときは一切勉強せず、好きなゲームだけを3日間くらい集中してやっていました。そうすると、途中で「このままだとまずいな」と気付いて、また勉強のやる気が出ていました。それが自分では一番効率がよかったです。
佐々木 
司法試験という大きなゴールに向けて、短期的な目標をいくつも作ってクリアしていくようにしました。具体的には、毎年9月、12月、3月に実施されるTKCの実力確認テストを受け、できなかった科目を重点的に勉強していたんです。途中で挫折しなかったのは、試験がうまくいかなかったときも「次に同じミスをしなければいい」と必要以上に自分を追い込まず、リラックスして勉強に取り組んでいたからだと思います。
岡野
今まで働いてきた経験の中での喜びは、例えば新しい商品の組成に成功して、それがうまく販売できたときに味わっていました。今度は弁護士の立場でも、また新たな商品の開発や販売に関わっていけたら楽しいぞ、という思いが一番のモチベーションでしたね。
神前教授 
皆さん、きちんと自分なりのパターンやビジョンを持って我慢強く勉強してこられましたね。私も学生には「モチベーションに頼ることなく、淡々と勉強する仕組みや習慣を自分のパターンとして持ってほしい」と伝えてきました。人間は弱いものなので、やる気のアップ・ダウンに行動が左右されてしまいがちですが、やる気が起きなくても「最低限これは勉強するぞ」といった習慣が身についていることが理想的ですね。

基本書通読で基礎を作り、
予習、復習の徹底で授業を最大限に活用

神前教授
ロースクールで今後学んでいく後輩にアドバイスをお願いします。ロースクールに入学してからはもちろん、入学前にしておくとよいことや心がまえなどをお聞かせいただけますか?
佐々木 
ご自身の興味のある科目からでよいので事前に一通り各科目の基本書を読んでおかれることをお勧めします。ある程度理解した上で先生方の授業を聞くと、理解の度合いが非常に深まるからです。ロースクール入学後も、授業を最大限に活かすために予習を重点的に進めるとよいと思います。
早川
将棋を指すにも駒の動かし方を知る必要があるように、事前に入門書を読んで最低限の知識とルールを頭に入れておくとその後がスムーズです。まず、法解釈の入門書を読んだ上で、各科目の入門書を読みながら科目特性を知ると効率的だと思います。入学後は、わからない点をピックアップして先生に聞けるようにしておくと何倍も効果的に復習できると思います。また、司法試験の採点対象は、当日に書いた答案なので、日々の起案練習も怠らずに頑張ってほしいと思います。
岡野
私も入学前、フルタイムで仕事をしている合間の休日や夏休み、通勤電車の行き帰りに基本書を読んでいましたし、それは必要なことだったと思います。法律に親しむという意味で、実定法だけでなく法理学などから読んでみるのも面白いですよ。私も学生時代、東大の碧海純一先生の著書『新版 法哲学概論』を読んですごく感激し、法律への関心が一層高まりました。また、お2人もおっしゃるように、一番大事なのは授業です。注意深く先生方がおっしゃることを聞き、それを活かす。そして自分で練習を重ねることが合格への近道ではないかなと思います。
神前教授
入学までに自分の不得意科目も含めてまんべんなく知識を得ておくということですね。そのほかにも、未修、既修にかかわらず、入学後に毎日長時間勉強できるだけの集中力や体力などの心身の準備を心がけていただくとよいですね。そして経済的な問題なども入学前に解決しておき、司法試験合格まで勉強に集中できるよう準備できるとよいですね。

それぞれが思い描く理想の法曹を目指し、
ここからまた新たな一歩を踏み出す

神前教授
最後に、皆さんの今後の目標を教えていただきたいと思います。
岡野 
ひとつは弁護士として何らかの形で金融に関わること。もうひとつは、法曹としてボランティアに参加し、社会貢献することが目標です。
佐々木 
もともと映画や音楽、漫画などのエンターテイメントの分野に興味があるので、知的財産権、特に著作権を主に扱うような弁護士になりたいと思っています。ただ、そのほかにも選択肢を狭めずに興味のあることはどんどんチャレンジしていき、法律の専門家として依頼者の希望に沿いつつも、無理なものは無理とハッキリ言えて的確なアドバイスができる弁護士になりたいですね。
早川 
多角的な視点で深く物事を捉え、依頼者等の専門分野を尊重できるような弁護士になりたいです。また、自己成長も続けたいので、法律分野に限らず、英語や中国語などの語学にも挑戦していきたいと考えています。もっとも、具体的な目標は、修習中にじっくり考えながら、決めたいと思っています。
神前教授 
三者三様の素晴らしい未来ですね。そのなかで、皆さんが法曹として活躍されることを祈っております。本日はお忙しいなかありがとうございました。

MEMBERS

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司会進行
神前 禎教授(法務研究科長)

金沢大学法学部助教授、学習院大学法学部助教授、
同教授を経て、2004年より学習院大学法科大学院教授。
日本私法学会、日本国際法学会、日本国際私法学会に所属。
早川 大也 日本大学法学部法律学科出身。2021年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2022年司法試験合格。
佐々木 亮 立教大学経済学部経済学科出身。2021年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2022年司法試験合格。
岡野 能和 京都大学法学部出身。2022年3月学習院大学法科大学院修了(法学既修者コース)。2022年司法試験合格。