学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

教員紹介Messages from Professors

法学科 教授

橋本 陽子Yoko Hashimoto

専攻:労働法

出身地
東京都
最終学歴/学位
東京大学法学政治学研究科修士課程修了/修士(法学)
所属学会
日本労働法学会、日本EU学会、日独労働法協会
研究テーマ
労働者概念
担当科目
労働法、特殊講義(ドイツ法)、労働法演習

デジタル化と労働法

 デジタル化によって、雇用環境は大きく変わるであろうといわれています。例えば、将来はAIによって、代替され、なくなる仕事について議論がされ、厚労省の報告書でも、事務職が過剰となる旨の研究が引用されています(「労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人がA I 等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~( 令和元年9月1 1日)」3頁)。ちょうどこの原稿を書いているときにも、小説家の平野啓一郎氏が、機械化のコストに見合わないような低賃金労働だけが人間に残るのではないかという悲観的な見通しを示しているインタビュー記事に接しました(朝日新聞2019年12月1日(日)東京版朝刊第4面)。

 私は、テクノロジーに詳しくないのですが、最近、デジタル化とグローバル化の影響によって雇用環境が変わりつつあると感じたことを記したいと思います。

 しばらく前に、学習院大学の西門の前でもよく配達員募集の広告が配られていましたが、ウーバーイーツという飲食店のデリバリーサービスが大都市圏で急成長しています。日本では、2019年10月に配達員らが労働組合を結成して、大きく注目されました。この問題では、配達員は、契約上は個人事業主と扱われているため、労働組合を結成できる労働者であるのかが重要な法的論点になります。運送業は、雇用か請負かが問題となる古典的な就労なので、配達員の労働者性については、私自身はそれほど新しい問題であるとは思っていないのですが、ウーバーイーツのビジネスの仕組みは新しいと感じざるを得ません。

 まず、ウーバーイーツの労働組合が団交の申立てをウーバージャパン社に対して行ったところ、ウーバージャパン社からは、「配達員の契約の相手方はオランダのウーバーポルティエ社であるので、当社は団交義務を負わない」旨の返事が来たそうです。驚いた組合員と弁護士が、いろいろ調べたところ、確かに配達員の契約の相手方はウーバーポルティエ社になっているが、配達員の登録手続きをするパートナーセンターの運営はウーバージャパン社が行っていること、そもそも日本で継続的にビジネスをするためには日本で会社の登記をしなければならないことを問題視したところ、ウーバーポルティエジャパン社が設立登記され、契約の相手方も同社に変更になるという動きがありました。しかし、ウーバージャパン社も、ウーバーポルティエジャパン社も、登記されている代表者らはアメリカやオランダの本社の代表者らと同じであるようで、どちらの会社の住所も、ウィワークの貸しオフィスのようです。また、パートナーセンターで働く従業員は派遣労働者であり、また、配達員が業務上わからないことがあったときに電話で問い合わせるカスタマーセンターの運営は外注されており、そのコールセンターは外国にあるかもしれないということです。

 以上から推測されることは、配達員、飲食店および顧客を結び付けるアプリを開発した外国企業が、日本で、本格的なオフィスを構えることなく、労働法や社会保険法の適用される労働者をほとんど雇用することなく、大規模な配送サービスを提供しているということです。このような事態は、少し前には考えられなかったように思います。どこまでサービスを自ら提供しなければならないのか、確かに企業は自由に決められますが、ビジネスに不可欠な配達員を雇用することなく、その業務上の問い合わせも外注先に任せて、企業の社会的責任を果たすことができるのでしょうか。労働法の意義が問われていると思います。

著書・論文紹介

「翻訳:グリーンペーパー『労働4.0』(ドイツ連邦労働社会省、2015年4月)」

学習院大学法学会雑誌52巻2号(学習院大学法学会、2017年3月)

『講座労働法の再生・第2巻労働契約法の理論』(共著)

(日本労働法学会編、日本評論社、2017年、担当した章:第4章労働契約の期間)