学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

教員紹介Messages from Professors

法科大学院 教授

大村 敦志Atsushi Omura

専攻:民法

出身地
千葉県
最終学歴/学位
東京大学法学部卒業
所属学会
日本私法学会、日仏法学会、法と教育学会
研究テーマ
契約法・家族法・団体法、人の法、民法総論
担当科目
民法演習、特殊講義(フランス法)、特殊講義(現代日本の社会と法)

民法典を通じて、民法典の外へ

 XはYに対して、売買契約に基づき目的物の引渡しを請求した。Xの請求は認められるか(問1)。

 これは、民法の授業で扱われる典型的な問題である。
 民法を勉強したことがない人は、Xって誰、Yって誰、あるいは目的物って何、などと思うかもしれない。この文章では人物を抽
象化するために「X」、「Y」という記号が使われている。「目的物」も同様である。つまり、最初の文章は、「太郎は花子に対して、売買契約に基づき自動車の引渡しを請求した」や「サラはレオに対して、売買契約に基づきタマ(猫の名)の引渡しを請求した」などの具体的な内容を持つ文章を一般化したものなのである。また、Xの請求は認められるってどういうこと、という疑問も生じるだろう。ここでの「認められるか」は、「裁判を起こしたときに認められるか」という意味である。さらに、「認められるか」ってそんなこと場合によるだろう、と思う人がいてもおかしくない。確かに場合によるのであるが、では、どのような場合がありうるのかも問われているのである。
 民法を勉強した人は、こんなことはわかっている、と思うだろう。では、なぜ、このような一般化が行われるのか。また、裁判の
結果が問題にされるのはなぜか。あるいは、いくつか場合が考えられるのはなぜか(問2)。これらの問いに直ちに答えられる人はそう多くはない。

 ところで、冒頭の問いに次のような問いを付け加えると、民法を勉強した人も、きっと考えこんでしまうだろう。

 この請求がなされたのが民法典が制定される前であったら、どうか(問3の1)。
 この請求がなされたのが近代的な裁判所が設置される前であったら、どうか(問3の2)。

 民法を勉強しても、こうしたことを考える機会はあまりない。民法の授業は、「日本の現在の民法典に従って、日本の現在の裁判所に訴える」ことを暗黙の前提にして行われるからである。しかし、世界には民法典が存在しない国もある。日本もまた19世紀の終わり(明治中期)までは民法典の存在しない国であった。だからといって、XからYへの請求は認められないわけではない。では、法律がない場合には、裁判所はどうやって判決を下すのだろうか。また、世界には裁判所が存在しない国、あるいは存在するが十分に機能していない国もある。日本もまた19世紀の半ば(明治初期)までは裁判所が十分に機能しない国であった。だからといって、XからYへの請求は認められないわけではない。ただし、請求が認められるということの意味が違ってくる。

 民法典(民法という名前の法律)に従って考えることは大事なことである(問1)。しかし、それだけではなく、民法典に従って考えるということの意味についても考えてみなければならない(問2)。さらには、民法典(および裁判所)が存在しないという状況を想定してみることも必要なのである(問3の1、3の2)。その理由については、教室で聞いていただくことにしよう。

著書・論文紹介

『広がる民法1入門編』

(有斐閣、2017年)

『人間の学としての民法学1・2』

(岩波書店、2018年)