スタッフ紹介

下川潔 (しもかわ きよし)
SHIMOKAWA Kiyoshi
教授 イギリス哲学・倫理学・政治哲学
1953年 生まれ

下川潔

■自己紹介

 福岡県生まれ。学部時代、一橋大学で社会思想史を、米国ポモナ・カレッジで哲学を学ぶ。哲学のMAをコロンビア大学で、PhDをグラスゴー大学で取得。1986年から中部大学で教鞭をとり、2004年学習院大学文学部に着任。

■研究分野

 私の守備範囲を広くとれば、近現代の英米哲学、およびそれと関連する近代ヨーロッパ思想史になります。ただし研究の中心は17、18世紀のイギリス哲学であり、とりわけジョン・ロックとデイヴィッド・ヒュームの哲学です。哲学の領域のうち、私は主に倫理学、政治哲学、法哲学、認識論、哲学史、思想史といったジャンルに関心があります。トピックとしては、権利の意味や根拠を問う権利論あるいは正義論に関心があり、異なる宗教や思想や人種が平和的に共存することを目指す寛容論や、個人の自由や尊厳をいかに基礎づけるかという哲学的・社会的・文化的問題にも関心があります。自然法思想と功利主義の関連を明らかにしたいとも考えており、さらに「経験主義」の認識論が、いかなる神学的、科学的、政治的背景から発生したかという問題にも取り組みたいです。でも当面の研究課題は、「デイヴィッド・ヒュームと近代自然法学の変容」です。ヒュームが、グロチウス、ホッブズから、ハチソンに至るまでの近代自然法の思想をいかにラディカルに変容させたか、また彼がいかにして、神に言及することなく、現世的利益を尊重する思想を作り出したかを探る研究です。西洋近代の思想にはしばしば最終的に神が登場しますが、ヒュームは神中心の世界観と決別した近代最初の哲学者です。2011年はヒューム生誕300年でしたから、特にこの研究に力を注ぎました。 最近私は、チャールズ・テイラー著『自我の源泉』を共訳で出版しました。ハーバード大学のマイケル・サンデルは、昔オックスフォードで勉強したとき、このテイラーに師事しました。この本は分厚く難解で高価なので、サンデルの本のように多くの一般読者に読まれることはないでしょう。しかし、これは文句なしに豊かな内容をもった本です。多文化の共存や社会生活の意義を見据えて、西洋近代の独立した自我、つまり人間的主体のあり方を丹念に考察した本です。図書館や哲学科書庫で借りて、ちょっと目を通してみてください。私は自分の研究テーマ以外のことに関しても、時代の違いや洋の東西を問わず、大体どんなことにでも耳を傾けます。皆さんは、遠慮せずにどんなことに関心があるかを私に伝えてください。皆さんとの対話を楽しみにしています。

■著作

単著:『ジョン・ロックの自由主義政治哲学』(名古屋大学出版会、2000)。共著:Peter Anstey (ed.), The Philosophy of John Locke: New Perspectives (London: Routledge, 2003)他。訳書:チャールズ・テイラー著『自我の源泉』(名古屋大学出版会、2010)他。
 私の著作には、分析的、批判的、現代的な議論を展開する方法と、古い時代の文献を当時の文脈を重視しながら丹念に読み解く思想史研究の方法の二つが見られます。二つの方法を無自覚に混同してしまうと惨憺たる結果に終わってしまいますが、それら二つが適切に活用され併用されると良質の研究が生まれると思います。

■所属学会

 日本イギリス哲学会、倫理学会、法哲学会、政治思想学会、The Hume Society, The British Society for the History of Philosophy, IVR (Internationale Vereinigung für Rechts- und Sozialphilosophie)など

■哲学科で/特に、私のゼミで学ぶ人たちへ

 哲学科哲学思想史の他のゼミと同様、私のゼミでは、原典の正確な読解を通じて思考を鍛えることにしています。原典読解を重視します。これに加えて、私のゼミに来たい人は次のことも考えてください。文学部哲学科にはいってくる人たちは、現代日本の平均から見れば、「読書」好きだと思います。しかし、読書は、心に「知識の素材」を提供するだけです。これを「本物の知」に転換するためには、自分自身が著者の述べていることを反芻し、その妥当性や整合性を検討しなければなりません。要するに、自分の知性で検討するよりほかに、知識の素材を本物の知に変える方法はないのです。最終的に重要になるのは、読書それ自体ではなく、自分の知性を使って知識の素材に批判的考察を加えることです。私のゼミは、このような批判的知性を育てたいという人を歓迎します おそらく誰でも、権威や権力に屈しないで、自分の頭で自立してしっかり考えることがどれほど大切であるかを、一度や二度は感じたことがあるはずです。ところが、戦争が続く現代においては、デマと事実の捏造が横行し、批判的知性は麻痺させられてしまいます。しかし、そうであれば、今こそ私たちは批判的知性を育てておくべきではないでしょうか。真に人間的な欲求に応えるような平和的秩序を作るためには、そのような批判的知性が不可欠だと私は考えます。

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