学習院大学の就職力
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読売新聞東京本社人事部で採用担当をしていた頃、よく学生の親から問い合わせの電話を頂戴した。どうして本人が電話しないかを尋ねると、「本人はまだやる気が出ないようなので……」と申し訳なさそうにおっしゃる母親もいた。学生になりすます親もいた。企業に電話するのが怖い学生もいたのかもしれない。もちろん、それでは入社しても仕事にならないので、こういう手を使うのはお勧めできない。 この話からもわかるように、就活生の親が本来取るべき態度としては、「何もしないで、ただ見守る」が最も正しい。ただし、今の子どもたちは小学校から大学受験まで何かと親掛かりで育ってきた経緯もあるので、親御さんとしては子育てのゴールか集大成にも位置づけられる就活で何もしないのは苦しいところだろう。 で、あれば、節度をもって子どもの就活を応援するのが適当だと思われる。まず、何をおいても大切なのは、親自身が新聞を読むことだ。企業の採用担当者は異口同音に「大学生なら新聞くらい読むように」と言う。ところが、最近は新聞を読まない若者が多く、そのことに採用担当は不満を感じている。なぜなら、新聞を読んで世の中のことを知ろうという気持ちがないようでは、企業人としては心もとないからだ。いまどき、ニュースをしっかりチェックしている学生はやはり魅力的に映るし、これはマスコミに限ったことではない。「子どもの頃から新聞が好きで、テレビに全く興味がない」という学生が読売新聞社の内定を得たことがある。面接にカラーシャツを着て来るような風変わりな学生だったが、彼は大手広告代理店の内定もやすやすと得て、そちらに就職した。白シャツにリクルートスーツを着るよりも、新聞を読んでいるほうが有効なのである。 実際のところ、小学校受験でも就活でも、見られているのは、その子が現時点でどのくらい成熟しているか、なのである。若者らしい元気さは結構だが、常識に欠けたり、思慮が浅かったりするような「若者らしさ」を企業は嫌うのだ。自分の考えをしっかり持って、それを論理的に相手に伝えられるくらいには成熟していないと、就活戦線を乗り切るのは難しい。会社選びから試験対策まであまりに親が口を出すと、当然のように子の自主性は損なわれる。小学校受験ならすべて親掛かりで面接対策をしても何とかなるが、就活はそう簡単にはいかない。親のほうにもバランス感覚が求められるのである。 その上で、子どもの悩みにはしっかり向き合ってやってほしい。親といっても、実社会を生きてきた経験がある。社会のルールや好ましい人材像を親が語って、何ら不都合はない。時には新聞の1面記事などについて親子で話し合ってみるのもいい。実は企業に採用のプロは少ない。面接官もその会社の普通の社員であり、人事部の採用担当も、たいていは数年で異動する。人事部員や面接官が学生を評価する基準は、普通の親が持つそれと、さして変わりはしないのである。子どもの就活を支えるための親の心得とは築100年を経た建物で、かつては皇族学生専用の寮として使われていたという「東別館」。現在は、主に演習用教室として利用されている読売新聞東京本社販売局販売企画調査部長 原田康久コラム採用担当の思い②赤穂浪士の一人、堀部安兵衛が血刀を洗ったという伝説に由来してその名があるという「血洗いの池」はらだ やすひさ/文化部、宣伝部、人事部などを経て、販売局販売企画調査部長。著書『すべらない就活 2014年度版』ほか多数。69
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