文学部卒業生_デジタルブック
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JR三鷹駅から徒歩6分という地の利もあり、「ひかげ洞カウンセリング」にはさまざまな相談者が訪れる。年齢は5歳から80代までと幅広く、医師の紹介で来る人もいれば、人生について深く考えたいという動機で訪れる人もいる。「苦しみを抱えながらも、自分の人生の意味を探りたい――そんな思いをもって訪れる方も多いですね」 とはいうものの、人の心の深層に分け入っていく仕事だけに、難しさを感じることも少なくない。心理療法に対する理解が浸透していないことも、トラブルの一因になるという。「心理療法では、1回のセッションがとても重要な意味をもちます。その意味では、キャンセル料をいただくことも、心理療法を効果的に進めるための大切なルールの一つ。ところが、相談者のなかには、『具合が悪くてキャンセルしたのに、キャンセル料をとるなんてひどい』と憤る人もいる。どんなに説明してもわかってもらえないときは、苦しいですね」 また、相談者のなかには、重いうつ病や統合失調症で薬物治療を受けながら、カウンセリングに通う人も少なくない。こうしたケースでは、治療にも細心の注意が求められる。 「心の闇が深ければ深いほど、解決を急ぐことで、かえって追い詰められてしまうこともある。治療を進めるためには、あえてリスクを冒すことも必要ですが、患者さんの命にかかわるような危険は避けなければならない。そこは、大変神経を使うところですね」学習院大学はいつでも戻ってこられる場所 もちろん、苦しいことばかりではない。心理療法の目的は、相談者と伴走しながら、相談者が人生を納得して生きられるよう支援していくことにある。それだけに、苦労も多い半面、やりがいも大きいという。 「街中で開業していると、さまざまな人生の鮮やかな一瞬に立ち会うことができます。何年も悩みを抱えていた人が、突然、フッと何かに気づいたりする。人の心の奥で新しいものが生まれる瞬間を、目の当たりにできるのです。そんなときは、『この仕事をやっていてよかったな』と思いますね」 今後は、相手にわかりやすく伝えるために〝言語化する力〞を磨きたい――と、抱負を語る柴田さん。その活動を支えているのが、大学時代からの『人の縁』に今も助けられていますVoice(写真上)心理療法の一つである箱庭療法のキット。白い砂の上に、人形や動物、建物などのミニチュアを自由に配置していく。心のままに箱庭を作っていくうちに、言葉では表すことのできない内面の世界が表現され、自分の深層心理を客観的に見つめることができる。(写真左)部屋の棚にはさまざまなミニチュアが並ぶ046Faculty of Letters
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