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ゲーム理論で企業や個人の行動の原理を探求する
1966年ソ連生まれ、ラトビアと米国育ち。MIT電気工学・コンピュータサイエンス学部卒・修士課程修了。1989年から5年間企業にて研究開発。1999年カリフォルニア大学バークレー校経済学博士課程修了、ベンチャー企業経営。2004年より現職。
ディミトリ・リティシェフ 経済学部経営学科教授 技術経営論・応用ミクロ経済学
ゲーム理論で分析を行うと、ほとんどの現象を結果として数学的に表現することが可能だと言う。数式やグラフが書き込まれたリティシェフ教授の部屋のホワイトボードを見ると、理系学部の研究室のようだ

経済学部のディミトリ・リティシェフ教授はソ連で生まれ、ラトビアと米国で育ち、2004年に来日した。MIT(マサチューセッツ工科大学)でコンピュータサイエンスと電気工学を学び、ベンチャー企業を経営した経験もあるなど、経済学者としてはユニークな経歴の持ち主でもある。

リティシェフ教授は企業や個人の戦略や行動を研究対象としており、その分析手法に「ゲーム理論」を用いているのが特徴だ。ゲーム理論とは、チェスやポーカーといったゲームのように決められた"ルール"のなかで、ゲームのフィールドにいる"プレーヤー"が、お互いの行動を想定してどのような戦略をとるかを分析し、その現象(ゲーム)を明らかにする手法。

たとえば、新しい技術を発明した発明家がいたとする。その発明に対して、A社、B社という複数の企業が興味を示した。A社、B社共にその技術をできるだけ安く手に入れたいが、あまりに安い金額を提示するとライバルの手に技術が渡ってしまう恐れがある。発明家は発明家で、企業同士のこのような恐れをうまく利用して新技術がもたらす利益より、高い値段で技術を売れることもあり得る。

このケースでは、発明家、A社、B社というプレーヤーがいて、お互いの出方を見極めながらリスクと利益のギリギリのラインで戦略を立てている。こうした三者の動きを、ゲームの流れを俯瞰するように解析するのがゲーム理論だ。経済分析をはじめ、生物学、社会学といった幅広い分野で応用されているが、もともと数学をベースにする理論で、理系出身のリティシェフ教授らしいアプローチ方法だと言える。
「ゲーム理論と出会ったのは、大学院で経済学を学んでいた時です。ゲーム理論を用いると、表面的には分かりにくい社会現象や経済活動などを明らかにできるのが一番の魅力です。理系のバックグラウンドがある私は、物事をシステムとしてとらえ論理的に考えることに慣れているので、ゲーム理論は合っているのでしょう」

教育や就職についてもゲーム理論で分析したい

日本国内で事業展開する外資系企業や国外での国際税務アドバイスを求める日本企業などをクライアントにもつ大河原さん。時間があれば常に資料を読んで、最善策を追求している

最近は、日本の教育システムにも興味があるという。教育における競争を分析することは、社会問題を理解する一助になるからだ。
「誰もが大学に入れる全入時代に突入し、定員にも達しない大学がたくさんある一方で、高い倍率を維持している難関校があります。このような大学の二極化を、受験生、その親、大学、就職先企業などといったプレーヤーを想定したゲーム理論を用いて考察してみようと思っています。子どもと親が初等教育の時点から悩まなければならない受験戦争を緩和させることや、大学が経営について悩んだり不安を抱いたりする現状を改善するために提言することは、自分の研究を社会に還元する方法の一つですから」

ベンチャー起業を研究対象の一つとするリティシェフ教授は、「現在の大学のあり方が、日本でのベンチャー起業をしにくい要因になっているのではないか」とも分析する。「新卒」という概念が根強く、卒業したばかりでないと雇用条件の劣るポストにしか就けないため、起業や海外活動など”遠回り”する選択がしにくいのだ。
「私は卒業直後に同級生と組んで起業に挑戦して、大手企業でソフトウェア開発の仕事をし、経済学博士号を取得した後にも会社を起こしました。このようなジグザグのキャリアパスでは苦労したこともありましたが、様々な経験は貴重な財産となっています。途中の曲がり角で、大手企業の雇用条件が不利になると懸念したことはありません。新卒優待がない米国のシステムのおかげで、私は純粋な興味のもとにやりたい活動を選べて、その活動に対して情熱を傾けることができました」

だからといって、何もかもを米国的にしてしまおうとする風潮には大きな不安を抱いていると言うリティシェフ教授。長年日本で生活するなかで日本の良さを実感しているだけに、良くない面まで米国的になっていることを危惧している。どうしてそこまでアメリカナイズされてしまうのか、いずれゲーム理論を使って分析してみたいのだそうだ。

グローバルな視点をもち各国のケースから学ぶ

研究と授業では、日米比較をはじめとした各国比較を行うことも多い。デジタルコンテンツ商品のビジネスモデルを取り上げる授業では、各種ソフトの販売経路などを日米で比較した。

特に日米での違いが顕著だったのが、ソフトレンタルだ。日本では音楽CDのレンタルは一般的だが、ゲームソフトのレンタルは事実上禁止されている。米国はこの逆で、ゲームはOKだが音楽CDのレンタルはできない。

こうしたマーケットや流通経路の違いは、国ごとの規制や文化、歴史的背景の違いによるものが大きいため、文化や言語などの各国研究にも余念がない。そんなリティシェフ教授だからこそ、学生たちにはいろいろな国のケーススタディーを見て、日本と同じところ、日本と違うところを見つけられるようなグローバルな視点を養って欲しいと話す。
「グローバルな人は、自分の思考や活動を国境に制限されることを許さない人。そのためにも、どんな人とでもオープンに会話できるスキルと、海外の記事や番組、ウェブサイトなどの趣旨を理解できる程度の英語力は身に付けてください。その能力は社会に出たときに役立つはずです」