学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

東アジアの伝統的社会と王権(1992-1993年度)

 

構成員
代表研究員 小倉芳彦
研究員 斉藤孝 坂本多加雄 原島春雄 深津行徳
客員研究員 武田幸男 遠山美都男 中尾美智子 福士慈念 宮田節子
(1)研究の目的・意義

かつて石母田正氏は、国際関係を古代国家成立のための独立の契機として捉え、中国における統一王朝の成立とそれによる具体的な軍事行動という共通の国際的諸条件に対応すべく、朝鮮三国および倭国が国内体制として要求されたところの支配者階級の権力集中を構造化して描き出した。この場合、権力集中の諸類型は地理的な距離が重要な地位を占めるが、広く中国文明の受容とその展開という視点からみたとき、各々の地域社会が主体的な選択、変容を行っていることにも注意しなければならない。
いままで学習院大学東洋文化研究所では、朝鮮を主題としたプロジェクトが継続的に行われてきた。本研究はその成果を発展的に継承しつつ、「王権」をキーワードとし、中国・朝鮮半島、そして日本列島をも視野にいれた東アジア世界において、対外関係と国内的要因がどのように権力集中を規定してきたかを指摘し、「王権」をふくめた「伝統的社会」を解明しようとするものである。この「伝統的社会」の相互比較によって、今後の同地域における文化・経済交流についての新しい指標をも提出できるものと考える。

(2)研究内容・方法

(1)東アジア世界において支配イデオロギーでもあった仏教が、中国・朝鮮・日本においてどのように受容・展開されたか、その差を明らかにする。
(2)中国における「皇帝」の位置、それが権力機構にはたした役割を検討し、日本・朝鮮における王の性格と比較する。
(3)『蔚珍鳳坪碑』、『迎日冷水碑』と近年発見が相次ぐ朝鮮半島金石文を材料に既知の金石文解釈に再検討を加え、朝鮮半島古代における王の性格を明らかにする。
(4)卑弥呼に代表される呪術的な性格の強い王から、軍事王、執政王へそして権力装置の枠外へと「象徴化」されていく日本の王の性格の変遷をたどり、王に要求された権力構造の質と課題を明らかにする。
(5)学習院大学蔵『朝鮮戸籍大帳』の整理研究
 東洋文化研究所を中心として整理・研究作業が行われてきた『朝鮮戸籍大帳』全151冊のうち、鎮海県部分18冊はすでに整理を終えて公開しており、丹城県部分25冊についても整理をほぼ終了した。この貴重な史料を早期に公開できるよう、昌寧県部分等を中心に整理をおこなうとともに、その分析を通じて李朝末期の朝鮮在地社会動態を検討する。とくに王権の対極にある奴婢の存在形態の検討によって、当期の王権構造の特質の一端を明らかにできるとかんがえる。
(6)解放後の朝鮮労働運動の性格を検討し、その背景としての社会構造を明らかにする。

(3)研究の成果

武田幸男(編)『朝鮮後期の慶尚道丹城県における社会動態の研究(II)―学習院大学蔵朝鮮戸籍大帳の基礎的研究(3)―(調査研究報告No.33)』(学習院大学東洋文化研究所、1997年6月)
松下洋巳・金天鶴・深津行徳『朝鮮半島に流入した諸文化要素の研究(2)(調査研究報告No.44)』(学習院大学東洋文化研究所、1999年3月)

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