渡辺忍文書

解説

朝鮮総督府の政策は、政務総監を議長とし週2回開かれる局長会議で決定されていた。

其の局長会議の資料が正にこの渡辺忍文書936点である。渡辺忍が農林局長であった1931年から35年は、宇垣総督が中心政策として打ち出していた農村復興運動の時期であり、この運動の原資料はもとより、運動の対象となった当時の朝鮮農村の惨状が実にリアルに調べられていて、飢餓者、貧困による自殺などが記録されている。(「秘・本年度春窮期ニオケル細民生活調査ノ概況」など)単に朝鮮の農業を研究する者のみでなく、植民地時代に関心のある凡ての日本人に目を通してもらいたい資料である。

更に局長用の資料であるため、中枢印会議、道知事会議、秘・道警察部長会議意見、関東軍司令部、極秘・満州に於ける朝鮮人の指導政策など実に多義に亘っていて、此の時期を研究する人は、テーマの如何に拘わらず、一見の価値がある。

(宮田 節子)