「34学会(44万会員)会長声明 」について
田崎晴明
私が所属する日本物理学会をはじめとする 34 の学会の会長が連名で出した「声明」について、物理学会会員として会長に「質問」を提出し回答を得た。さらに、化学会会長に「意見と質問」を送付し、メールをやりとした。関連する情報をここにまとめ記録として残しておく。
なお、このような批判をおこなうことについてのより個人的な思いは、公開の日記(たとえば、
ここやここ)で散発的に表明している(公開 2011/5/8、最終更新日 2011/5/19)
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34 学会(44万会員)会長声明:日本は科学の歩みを止めない 〜学会は学生・若手と共に希望ある日本の未来を築く〜(2011 年 4 月 27 日)
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日本物理学会に田崎が提出した 「質問」のpdf ファイル(2011 年 5 月 9 日)
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日本物理学会会長からの回答の MS ワードファイル(2011 年 5 月 14 日に受領)
- 「声明」の「問合わせ先」である日本化学会会長に田崎が送った「意見と質問」の pdf ファイル(2011 年 5 月 18 日)
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日本化学会会長と「意見と質問」に関してメールでやりとり。全文を下に掲載するが、重要と思われる点を簡単にまとめる(引用や論評の際は私のサマリーではなくメールの原文を参照してください)。
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岩澤氏は「声明」のプレスリリースに関する問い合わせ先であり、質問に答える立場にはない。
「声明」の内容と今後の活動については所属学会長に問い合わせてほしい。
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「声明」は、事業仕分けへの提言をおこなった際の学会のネットワークの流れの上にある。
岩澤氏が中心になって声をかけているのは日本学術会議第三部(理学・工学)部長を務めているため。
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「声明」では、学術会議からの情報発信や各学会での対応等を前提に、多くの学会長が共通認識を持つであろうと思われた三つの提言に絞った。
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「声明」に謳われた活動を実行するための「まとめ役」はいない。
提言や声明の具体的な実行、活動は各学会マターと認識している。
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1 のため、いくつかの質問(大型施設への予算配分についての意思決定、風評被害の原因の認識)についてはまったく回答を得られなかった。
所属学会長に質問して回答が得られなかったわけだから、これで公式の回答を得る道はなくなったことになる。
物理学会が関与する活動についての一会員からの質問に対して(正当な理由なく)回答が得られないというのは、(「声明」の内容やバックアップ体制のこととは別個に)重要な問題。
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「声明」に関していえば、4 が本質的で深刻。
少なくとも「学会のネットワーク」としての活動は「声明」を出すことで終了しているという認識。
「声明」の調子を思い出すと違和感を感じる人が少なくないと想像する(←婉曲表現)
(2011 年 5 月 19 日)
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34 の科学系学会の会長が連名で、「34 学会(44万会員)会長声明:日本は科学の歩みを止めない 〜学会は学生・若手と共に希望ある日本の未来を築く〜」を発表(2011 年 4 月 27 日)
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「声明」の末尾にある問い合わせ先は、日本化学会会長で日本学術会議第三部長の岩澤康裕氏
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天文学会理事長が日本天文学会の運用するメーリングリスト TENNET に投稿したメールのなかで「声明」は日本化学会からもちこまれたと書いている
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新聞報道もいくつかあったようだ(読売新聞)
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日本学術会議が「東京電力福島第一原子力発電所事故に関する日本学術会議から海外アカデミーへの現状報告」という文章を公開(英語版 pdf、日本語版 pdf)。
既に公開されている結果の簡単なまとめである
(2011 年 5 月 2 日)
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日本物理学会誌 2011 年 5 月号に、永宮正治会長による「東日本大震災に際して(2011 年 3 月 22 日)という声明が掲載された。
私見だが、これは「34 学会会長声明」とは全く違った、しっかりとバランスのとれた文章である。
たとえば、原子力発電所事故については、
・・・・原子力の利用は,物理学者がその道を拓いた.その責任には重いものがある.福島原発の危機は,まさに今現在の課題であるが,物理学者としては,むしろ,中期のそして長期の課題を考えるべきであろう.原子力発電に,ともすれば目を閉ざしがちであった物理学者が,再度,ここで真剣に取り組むべき時期である.
と述べている。私はこの認識(と覚悟)に賛同する。
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34学会に日本数学会は含まれていない。
これについて、数学会理事長が「声明」の内容に賛同できないので署名を断ったという未確認の情報を得ている(どなたか、確認できる方に確認していただけるとありがたいです。私が確認に行ってもいいのでしょうが)
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田崎は、公開質問状(pdf ファイル)をメールで物理学会に送付(2011 年 5 月 9 日)
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物理学会の事務から返信。「会長をはじめ理事の方々に伝わるよう、取り急ぎ事務局内の管理職(理事会出席メンバー)に転送させていただきました」とのこと。
お仕事を増やしてしまって申し訳ありません。
あとは反応があるまで待機。理事会がさすがにまずいと思ってなにかアクションをおこしてくれることを密かに(←ここに書いたらあまり「密か」ではないが)期待する気持もある(2011 年 5 月 10 日)
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物理学会の代議員の方からメールをいただいた。「代議員メーリングリストでの意見聴取・報告等は一切なかった」とのこと(2011 年 5 月 12 日)
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日本物理学会会長の永宮正治氏からメールで回答を受け取る。
メール本文と添付ファイルは以下のとおり。
田崎様
5月9日付けの質問書ありがとうございました。添付にて、これらご質問に対する回答をお送りします。すべての項目に答えた訳ではありませんが、大体のご質問には答えたつもりです。なお、この文書は、物理学会のホームページでも公開いたします。
至らぬ回答とは存じますが、ご批判等があればお申し出ください。
物理学会長 永宮正治
回答の MS ワードのファイル
以下、田崎の簡単な感想:「声明」は化学会からもちこまれ全面的に賛成とは言えなかったがサインをしたとのことで、上で触れた天文学会理事長のメールでのコメントと似ている(しかし、そういう状況で「我々34学会学会長は努力を惜しみません」という「声明」にサインしてしまうのは問題だと思う)。
サインをしたことは間違いだったと私は考えるが、基本的に誠実な回答だと思う。
すべての項目への回答があるわけではないが、「声明」にサインしたプロセスを考えれば、いくつかの質問には答えようもないだろう(2011 年 5 月 14 日)
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これ以上、日本物理学会に何かを申し入れる必要はないだろう。
いくつかの質問への答えが得られていない以上、「声明」の「問合わせ先」に名前のあがっている化学会の岩澤会長に質問を送るのが適切であろう(2011 年 5 月 16 日)
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「声明」の「問合わせ先」である化学会の岩澤会長へ「意見と質問」をメールで送付。
ここからは、様々な意味で、物理学会会長の場合とはまったく違うだろう(2011 年 5 月 18 日)
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同じ日のうちに化学会の岩澤会長から返信のメール。以下に、メールでのやりとりをそのまま掲載(2011 年 5 月 19 日)
Wed, May 18, 2011 at 7:01 PM
岩澤先生、
はじめまして。
私は学習院大学理学部の田崎晴明と申します。理論物理学を専門にしております。
とつぜんメールを差し上げる失礼をお許し下さい。
先日発表された「34 学会会長声明」については思うところも多くあり、それを添付いたしました「意見と質問」
にまとめました。
たいへんお忙しいことは承知しておりますが、ご覧いただき、簡単でもご回答をいただければ幸いに存じます。
なお、「意見と質問」の中に明記いたしましたように、この「意見と質問」は web で公開いたします。
また、ご回答いただければ、それも原則として公開させていただく考えでおります。
どうかよろしくお願いいたします。
田崎晴明
Wed, May 18, 2011 at 11:34 PM
田崎先生
34学会学会長声明(提言)へのお考え承りました。
私は本声明のプレスリリースに関する問い合わせ先でありますのでご質問に対し
てお答えする立場にありません。
本声明の素案は少数の学会により作成されましたが、原案を各学会長・事務局に
送り、各学会長からの意見コメントをほとんど全て取り入れ修正版を作成し、そ
れを各学会長・事務局に送り、最終版としてよいかの最後の意見を問い合わせ、
それに賛同をいただいた34学会長の連名でプレスリリース致しました。
日本化学会では会長声明を発する時のルールにのっとり運営会議メンバーに諮り
了解を取って参加しております。他の学会については分かりません。
声明の内容と今後の活動については各学会長にお問い合わせください。
また、日本学術会議の幾つもの緊急提言、第三部総合工学委員会での取り纏め
(近々発出予定)、関係学会での対応等を前提に、非常に多くの専門分野を異に
する学会の会長連携活動として、声明には共通認識を持つであろうと思われた3
つの提言だけに絞りました。別途、各学会はそれぞれの学会のお考えで活動され
ていると思います。
直接のご質問にお答えする形でのお返事になっていませんがご理解頂けましたら
幸いに存じます。
岩澤
Wed, May 18, 2011 at 11:51 PM
岩澤先生、
お忙しいところ早速お返事をいただきありがとうございました。
> 声明の内容と今後の活動については各学会長にお問い合わせください。
とのご指示ですが、これは具体的には何を意味するのかご教示いただけるとありがたく思います。
既に質問を送った物理学会以外の33の学会に質問を送るということでしょうか?
「声明」に謳われた活動を実行するためのまとめ役の方がいらっしゃると考えたのですが、それは誤りでしょうか?
また、先生は、問い合わせ先にお名前が挙がっているだけでなく、化学会の会長でもいらっしゃると理解しております。
「問い合わせ先」というお立場ではなく、化学会会長というお立場でのご回答もいただければありがたく思います。
よろしくお願いいたします。
田崎晴明
Thu, May 19, 2011 at 12:59 AM
田崎様
ご説明が足りなかったようで失礼いたしました。
下記のそれぞれにお返事いたします。
よろしくお願いいたします。
岩澤
> 岩澤先生、
>
> お忙しいところ早速お返事をいただきありがとうございました。
>
>> 声明の内容と今後の活動については各学会長にお問い合わせください。
>
> とのご指示ですが、これは具体的には何を意味するのかご教示いただけるとありがたく思います。
> 既に質問を送った物理学会以外の33の学会に質問を送るということでしょうか?
--------> 所属学会の会長にお願いいたします。
> 「声明」に謳われた活動を実行するためのまとめ役の方がいらっしゃると考えたのですが、
> それは誤りでしょうか?
-------> 活動実行のまとめ役はいないとご理解ください。一昨年秋の事業仕分
けの時に多くの学会に声をかけ
学会ネットワーク的な提言を我が国で初めて試みましたのが最初でその流れで今
回に至っています。私が中心的に声をかけておりますのは日本学術会議第三部
(理学・工学)部長を務めております関係です。提言や声明の具体的な実行、活
動は各学会マターとの認識です。将来的にはもっと強い連携活動が望ましいと思
います。
>
> また、先生は、問い合わせ先にお名前が挙がっているだけでなく、化学会の会長でもいらっしゃると理解しております。
> 「問い合わせ先」というお立場ではなく、化学会会長というお立場でのご回答もいただければありがたく思います。
------> 所属学会の会長にお願いいたします。
Thu, May 19, 2011 at 1:15 AM
岩澤先生、
お返事ありがとうございました。
所属学会の会長にはすでに質問を送ったことはご理解いただけているものと思いますので、
先生から具体的なご回答をいただけなかったことをたいへん残念に思います。
また、声明の内容を考えると、まとめ役がいないというのは意外に感じました。
いずれにせよ、これ以上のご回答はいただけないと了解しました。
始めに申し上げましたように、一連のやりとりを web で公開させていただきます。
質問への直接のご回答をいただけなかったことは残念ですが、
たいへんお忙しい中お時間を使ってくださったことには深く感謝しております。
田崎晴明
更新履歴
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2011/5/8: 最低限の情報とリンクをのせて公開
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2011/5/9: ページの体裁を整えた。天文学会理事長が疑問を受けてメールを書いていることに気づき、それもリンク。
TENNET のメールの記録は公開されているようなので遠慮なくリンクさせてもらっているが、もし問題があればリンクは削除する。
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2011/5/10: 学会から返信があったことに言及。
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2011/5/12: 代議委員のメーリングリストについての情報を追加。
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2011/5/13: 学術会議からの海外アカデミー向けのレポート、日本物理学会誌 5 月号の会長声明についての言及を追加。
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2011/5/14: 日本物理学会会長からの回答を受け取ったので掲載。
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2011/5/16: 日本数学会についての「未確認情報」を追加。化学会会長への「意見と質問」を送ることにしたので、構成を少し変更。
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2011/5/18: 化学会会長への「意見と質問」を送付したのでそれを書いた。
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2011/5/19: 化学会会長とのメールのやりとりを掲載。「基本的な資料」にメールのサマリーと感想を追加。
言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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