「熱力学入門(ベータ版)」の深刻な訂正

「熱力学入門」の後半の化学への応用のところには、 残念ながら初歩的なミスが多く残っています。 お恥ずかしい限り。 出版するまでにきちんと理解して正しく書き直す必要がありますが、 ともかく、どこが間違っているかを早めにお知らせする必要があるでしょう。

小波秀雄さんからのコメント

以下、化学がご専門の小波秀雄さんからいただいたコメントを、小波さんの許可を得て、そのまま転載しておきます。 単位の間違いはお恥ずかしい限り。 Atkin が途中で activity の単位を変えていることと、K_W などの次元を明示していないのが、ミスを誘った要因だとわかりました。 (pH の定義には無次元量を使うだろうといういかにも理論物理屋らしい思いこみもありますね。なんといっても、今までの勉強不足が最大の原因か!)

濃淡電池

書いたときから塩橋の理解が不十分なのはわかっていたのですが、 やはり駄目です。 「話を理想化して、塩橋とは A- のイオンだけを自由に透過させる半透壁のように機能するものとしよう。」 というのは、まったくの嘘です。 塩橋は、なめらかにイオン濃度の勾配を作るしかけです。 上の文章を書いたときにも、そのことはわかっていましたが、 M の左右での濃度が変わらないことを称して、上のように表現したつもりになっていました。 しかし、半透膜で仕切った電池はまったく別物で、起電力の値も変わる(希薄なら倍になる)ので、これは、どう大目に見ても混乱をまねく書き方でした。 申し訳ありませんでした。

塩橋というのは、 それによって、陰イオンの移動に伴う(自由)エネルギーの変化を考えなくてよくなるのが味噌なのですが、正直なところ、私がその機構を十全に理解しているとはいえないようです。 多分、非常にややこしい問題が絡んでいると思われます。 (ある本には、通常の熱力学では取り扱えないと明言してありました。)

私の本に書いてあることは、上の「半透壁」についての嘘を除けば、一応は正しく、計算も一般に受け入れられているものをある程度明瞭に書き直したものになっています。 しかし、全体のストーリーが完全でない以上、これでは駄目です。

理解していない塩橋は捨てて、実際に半透壁で仕切った濃淡電池を取り扱うことにします。 この方が実験は難しいでしょうが、理論的な解析は明解になります。 これは、完全にできました。 議論に曇りはありません。 ちょっとこの節が長くなりそうだけれど。

ちなみに、電池の扱いの問題を指摘してくれて、色々な文献を教えてくれ、議論してくれているのは、米国 NIH で今でも神経生理の研究をしている私の祖父です。 (祖父からは、pH の定義も気に入らないと指摘されました。 全体を操作的な視点で貫くといいながら、pH の記述は、なんら操作的ではないし、 お恥ずかしいことに、人の本に書いてあるのをそのまま写しているだけ。 ここらへんも叩き直すべきですね。 あと、化学ポテンシャルや活量も、いかにもぎごちなく、操作的な視点からは 遠ざかっている。 どこまで全体的な視点と(思想的に)整合させられるか、悩んでみます。)


言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp