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アルフィナンツ戦略の経済分析(1)

――組織の経済学の視点から――

 

小山 明宏手塚 公登

 

 

目  次

第1部 アルフィナンツ戦略

 1.アルフィナンツ戦略の考察

  1.1 アルフィナンツ戦略とは何か

  1.2 アルフィナンツの定義

  1.3 アルフィナンツの根拠(目的)

  1.4 アルフィナンツ戦略と,その目的

  1.5 要約

 2.アリアンツの戦略展開

  2.1 アルフィナンツ企業としてのアリアンツ

  2.2 アリアンツのアルフィナンツ商品の経済効果(シナジー効果)

  2.3 アリアンツのここしばらくの浮沈

  2.4 アルフィナンツ—成功(失敗)への道

 3.アルフィナンツ商品自体の歴史(ダルムシュタット貯蓄銀行の例を中心として)

  3.1 なぜダルムシュタット地域貯蓄銀行をとりあげるのか

  3.2 ダルムシュタット貯蓄銀行でのアルフィナンツの歴史的な概観

  3.3 アルフィナンツの進展

  3.4 アルフィナンツの問題点

  3.5 ダルムシュタット貯蓄銀行におけるアルフィナンツの将来

  3.6 結論(以上,本号)

2部 経済学的分析

 1.新制度派経済学による分析

  1.1 新制度派経済学の概観

  1.2 取引コスト理論の枠組みと展開

  1.3 アルフィナンツ戦略の経済学的分析−企業境界の問題

3部 ドイツでのアルフィナンツへの意見

 1.ドイツの消費者によるアルフィナンツ商品への意見

68頁】 2.ドイツの研究者によるアルフィナンツへの意見

参考文献

 

 

1部 アルフィナンツ戦略

 

1.アルフィナンツ戦略の考察

 

1.1 アルフィナンツ戦略とは何か

あらゆる金融サービスを一体として提供しようとするのが,アルフィナンツ戦略である。特に,ドイツにおける銀行,建築貯蓄金庫,保険会社あるいは投資会社などによる対個人顧客金融サービスの提供という意味で使用される(相沢(1994))。銀行業務と証券業務を同一の屋根の下で提供するユニバーサル・バンク形態は,ヨーロッパでは一般的であるが,近年銀行の金融サービスと保険商品を一体的に提供しようと試みる総合金融戦略の動きが活発化している。その背景には,銀行の収益の低下,公的年金改革に伴う年金市場の拡大などの金融市場の構造変化があり,個人の金融資産を巡る金融機関の競争の激化が挙げられる。

多様な金融サービスを統合して提供することの基本的なメリットがどこにあるかといえば,経営資源の有効活用によるシナジー効果,リスクの分散,利便性の向上による顧客の囲い込み等にある(伊藤(2000))。この中で経営資源の有効活用によるシナジー効果が最も重要であるが,そのシナジー効果とはごく簡単に言えば,113となるような現象である。すなわち,生産面,販売面あるいは投資面で共通の物的・人的・情報的資源を利用して,個別の活動を別々の経済主体が行うよりも同一の経済主体の下で行うことにより,費用の節約あるいは収益の拡大につながることを意味する。費用面での効果からは,範囲の経済の実現と言うこともできる。範囲の経済とは,2つの製品を別々の企業で生産するよりも集中化することにより費用が安く済むことをさす。製品1と製品2をそれぞれ単位生産する場合のコストをとすると,の場合に,範囲の経済が成立する。例えば,生産技術や技能など何らかの能力を共通利用できれば,範囲の経済は発生する。

アルフィナンツ戦略とは,こうしたシナジー効果ないし範囲の経済を利用して,幅広い金融商品やサービスを一体として提供しようとする総合金融戦略であるということができる。本稿では,とりわけ銀行サービスや保険商品,住宅ローンの提供がどのような体制ないし制度的枠組みの下でなされるのが効率的であるのかという点に焦点を当てて論じていくことにしたい。アルフィナンツが注目されるのは,それによって供給側の銀行や保険会社が効率的に商品やサービスをバンドリングして提供する可能性を実現できるかどうかという点で興味深いものがあると同時に,需要側の消費者にとっては一つの金融機関であらゆる金融商品を購入できるーつまりワン・ストップ・サービスーという利便性が与えられるからである。

 

1.2 アルフィナンツの定義

このようなアルフィナンツについては,ドイツにおいては様々な方向から定義がなされている。そこで,以下ではそれらをできるだけ,必要に応じて詳しく見ていくことにする1。市場/販売の観点から見ると,3V−製品,すなわちVermögensanlagen(資産投資対象),Ver69頁】sicherungsprodukte(保険製品),Vorsorgeprodukte für Alter(老後の備えのための製品)をバンドリングし,包括的且つ顧客の需要に合わせた提供品にすること,としている。ただし,それを取り扱うのは

@ 銀行,保険会社

A 独立の金融仲介業者(AWD, Allgemeine Wirtschatsdienst AG,とか,MLP, Marschollek, Lautenschläger und Partnerなど)

といった会社があり得る,としている。

これに対し,制度的な観点からは,「銀行と保険会社との間の契約的/資本上の結合」を特徴とし,Citigroup/TravellersINGFortisCSG (Computer Service GmbH) などの企業を,その例として挙げている。このうち,たとえばINGは傘下にING-BHF銀行,ING-Diba銀行,およびベアリング・アセット・マネジメント,ドイツ・ヒポテケン銀行,フランクフルター・トラスト,フランクフルターフォンズ銀行などを持ち,保険も含めた事業展開を行っている。

 

1.3 アルフィナンツの根拠(目的)

次に,このようなアルフィナンツが将来ますます注目されていく根拠としては,次の要因が挙げられる2

まず,老後の備え(Altersvorsorge)のための商品が,ますます重要になることがあげられる。資産管理される資金は倍増し,2010年までに53億ユーロになるとされていること,そして,ドイツに限らず,余命の増加の傾向は顕著となっている。

次にあげられることは,3V'−商品,すなわちVermögensanlagen(資産投資対象),Versicherungsprodukte(保険製品),Vorsorgeprodukte für Alter(老後の備えのための製品)をめぐって,そのような私的資産をめぐる,会社間の競争が起こることである。そこではっきりさせねばならないのは,@資産投資,A保険商品,B老齢者向けの老後の備えの商品,という3つの要因に関する専門的な知識の必要性である。

3つめとしては,貯蓄投資の構造移動(Strukturverschiebung)に関する配慮である。すなわち,証券及びファンドの貯蓄は毎年812%の伸び率を示しており,同時に,余命の増加と生涯労働時間の短縮による国家老齢保障の危機が予想されるからである。

3つめとして,銀行と保険会社の状況は最適でないことがあげられる。すなわち,銀行のサービス収益は持ち直しているが,原価/収入比率は7585%と良くないこと,そして,株式市場の状態は悪く,保険会社の間接収入はひどくネガティブとなっているのである。

次にあげられることは,銀行の自己資本要求が,銀行業務領域でのバーゼルU規制により,更に厳格になることである。かりに貸借対照表に効果的な事業の拡大という目標設定ができるならば,それは自己資本に悪影響を及ぼすことなく,一層の収入源を可能とするからである。

 

1.4 アルフィナンツ戦略と,その目的

そして更に,このようなアルフィナンツ戦略の内容とその目的に関しては,次のような見通しが挙げられる。

70頁】まず,協力戦略(Kooperationsstrategie)である。そこでは,販路の利用への集中(Fokus)をめざすことになる。そして,そこで長所としてあげられるのは,スピ−ドとコストが有利であることであろう。ただし,短所としては,販売パートナーの顧客データ把握不足と保証されない品質,という問題があげられる。

次に挙げられるのは,コンツェルン戦略である。すなわち,アルフィナンツ事業を自力設立か提携(Zusammenschluss)か,ということである。この場合,自力設立は,統合コストはないが構築コストがかかる。提携の場合,入り口戦略(Portalstrategien)ということになる。

そして,そのための,統合されたアルフィナンツ・コンツェルン:3つの発展階層として挙げられているのは次のものである;

まず,銀行と保険会社が接近する3つの発展階層として次のようなものがあげられよう。

@販売協力:販売の協働

Aパートナーシップモデル:業務プロセスの単一化(販売/生産)

B統合モデル:統合されたアルフィナンツ製品

 

一方,アルフィナンツ企業(グループ)への3段階の発展段階として挙げられているのは,次のものである。

@販売での協力

Aパートナーシップモデル:販売/生産における事業プロセスの統一

B 統合モデル:統合されたアルフィナンツ商品の開発

 

そこでの成功の要因として強調されているのは,次の2つである。

@同権の銀行商品セグメントの一部となれるような保険商品の形成

まず,商品として「投資」,および「備え」の性格を持つことが要される。そして,商品パレットの全体が見渡せること(810商品)が望ましい。これらも含めて,商品の標準化で,これを取り扱う担当者に講習がしやすくなることがあげられる。

A理想モデルにおけるネットワーク化された事業プロセスと販売プロセスの存在

商品提供者,リスク負担者,そして決済者としての保険会社の役割をはっきりさせ,責任を負えるようにする。一方では,顧客の世話人及び流通経路(販路)としての銀行が担う役割も明確化されねばならない。そして,ネットワーク化された,複雑なプロセスとしての製品開発を,共同で行うことが望まれる。

 

こうして考察されてきた,アルフィナンツ戦略は,「アルフィナンツのためのネットワーク化された商品開発」が,成功要因として強調されている。それは次の通りである;

 

商品開発プロセスは,次の6つの部分に分けられる:

@市場分析/機会評価

当然のことながら,これから行おうという商品開発が,はたして実を結ぶものであるかについて,客観的な市場分析を行わなくてはならない。果たしてその機会はあるのか,これを公平に評価する。

A商品の要件の調査と評価

71頁】これは,取り扱う商品の利回り,利払い,価格,マージン,決済,コスト,監督法的要件,リスクマネジメント,ALMなどの諸要因について,調査と評価を行うことを意味している。

B商品要件の基礎としての商品デザイン

商品デザイン,すなわち,技術的,運用的デザインを行う。

C商品のブランド付け

取り扱うことになる商品について,それに見合った,あるいは更に効果的なブランド付けを行う必要がある。

D運用的実行

さらに,データマイニング,システムサポート・決済・記帳の包括化を行い,運用に備える。

E販売への商品の導入

最終的に,販売プロセスへと商品を導入する。具体的には,講習,マーケティング,インセンティブ作りなどがあげられる。

 

こうして,銀行と保険会社の次なる統一には,次のプロセスが実行される。

@銀行と保険会社の販売の実行

まず,はじめに,当然ではあるが,商品の販売準備がなされる。

A付帯要因の決定

アクチュアリアート(アクチュアリーは保険計理人),部課(Sparte),資本投資単位,計画スタッフ,銀行と保険会社の販売の指揮,法務部門,税務部門,リスクマネジメント保険などの付随要因が決定される。

B本来別々の会社であり事業に従事する銀行と保険会社の活動の統一―T

製品開発の統一,銀行と保険会社の販売の指揮,銀行と保険会社のマーケティングの統一,などがあげられる。

C本来別々の会社であり事業に従事する銀行と保険会社の活動の統一―U

銀行と保険会社の販売の指揮,銀行と保険会社のITの開発,銀行と保険会社の販売のITの統一,などである。

D本来別々の会社であり事業に従事する銀行と保険会社の活動の統一―V

流通組織・マーケティングの統一・講習の統一全体を含む銀行と保険会社の販売の指揮,が行われる。

 

1.5 要約

JPモルガン及びMonitorグループ(200211)に関するヨーロッパでの包括的な研究は,理論的な認識を証明している。すなわち,低い利子率とわずかなマージンという,よりハードな市場環境の存在である。しかし,一般的に有効な成功の公式はない。キーファクターは,パートナーをオペレーショナルなレベルで統合することである。

そこでの5つの成功ファクターとしてあげられているのは,次の5つである。

@分配システム

A商品デザイン

Bセールスアプローチ

72頁】C商標戦略

DIT—システム

 

銀行のカウンターで保険商品を販売することは,次のような3つの条件のもとで行うことにより,オペレーショナルに最大の成功となる。それは以下の3つである。

@顧客の需要に合わせてデザインされていること

A銀行の行員により,顧客への答えを売ること(商品販売ではない)

B良いブランドとITに支えられていること

アルフィナンツに関しては,ヨーロッパでは歴史的に差異が広がっている。銀行のカウンターでの保険商品の販売は,フランス:56%,イタリア:48%,イギリス:13%,となっている。ただし,スイスでは,プライベートバンキングのためか,むずかしい,といわれている。

一方,アルフィナンツに関する議論の拡大も見られる。銀行に対する資本準備義務の厳格化という,むずかしい条件の下で,分散化可能性の探求という要件を実現することが求められる。そして,そこでは,老後の備えが第一の興味であることは,肝に銘じておかなくてはならない。

こうして見てくると,そこでの重要なファクターとして,「保険商品」と「銀行商品」の組み合わせ,すなわち,「バンドリング」が一つの重要なポイントとなることがわかる。最後にこれを見てみよう。

次第に一般的になってきているバンドリング戦略はサプライヤーの組織構造に甚大な影響を与えうるものであり,サプライヤーはしばしば真剣にバンドリング戦略を追求するために協調や合併しなければならなくなっている。以下の例を考えてみよう。

・公益産業において,複数公益事業戦略—すなわち電気,ガス,水道,ゴミ処理,各種サービスのバンドリング—の維持のために多くの合併が生じている。REWThamesPreussen Electra連合とBayernwerk (E.ON) との合併は最もよく知られた例である。

・バンドリング戦略は,金融サービス部門でますます重要な役割を果たすであろう。アリアンツとドレスナー銀行との合併は,ユニバーサル銀行戦略の効果的な実行の最良の例である。他の巨大企業,例えばErgo Groupとともに活動しているHypoVereinsbank,は彼らのユニバーサル銀行の考え方を実現するために協同戦略を選択している。

 

バンドリング戦略の目標は,製品ライン間の相互販売を促進することである。多くの協同販売の取り決めがこれまで失敗してきた理由は,基本的に二つある。第一に,製品がしばしば複雑で,説明を必要とすることである。そうした製品は,関連したすべての製品分野において高度のノウハウを持っているジェネラリストだけがうまく販売できる。このノウハウは,完璧な解の提供者として彼らが潜在的な消費者に出会うために必要である。第二に,多くの会社が間違ったやり方で販売員を動機付け,間違ったインセンティブを提供している。バンドリングはこの問題を解決しうる。すなわち,他の相互販売戦略とは対照的に,バンドリングは個々の製品を組み合わせるのにもっぱら販売員に頼るのではなく,経営戦略の統合された要素となる。バンドリングはパッケージと販売される「製品解」を創り出すのに役立つ。新しい製品バンドルがうまくいくために,会社はバンドリングプロセス全体を理解しなければならない(製品の選択,価格の最適化,法的,技術的,組織的特徴)。

73頁】たとえバンドリングがインセンティブ問題を解決,少なくとも軽減するとしても,販売員はなおすべての関係部門から「ジェネラリスト的」ノウハウを獲得しなければならない。この知識が有効に伝達されることを保証する最も安全なやり方は,合併をすることである。合併によって解き放たれる内部・外部の圧力によって,様々な要素の統合が真の「製品解」をもたらす。他方,一般的に合併は,新しい結合を脅かす困難な障碍を伴う。

・戦略的フィット:両方のパートナーが矛盾しない戦略目標を導き出せる共通のビジョンをもっているか? よい例は,1926年のDaimlerBentzの合併である。両社とも世界で最良の自動車を作るという野心的な目標を抱いていた。

 

2.アリアンツの戦略展開

 

2.1 アルフィナンツ企業としてのアリアンツ

アリアンツは1890年に損害保険会社として設立された。1922年に,生命保険にも業務を拡大することが可能となり,1994年にドイツ連邦政府が保険関連法の規制緩和を実施した後にアリアンツはドイツの保険市場で自由な環境でビジネスができるようになった。1998年にアセット・マネジメント業務をコアビジネスのラインアップに加え,戦略の大きな転換の年となった。そして2001年にドレスナー銀行を買収し,金融サービスの総合へ向けた動きを大きく進めた。すなわち本格的なアルフィナンツ戦略に踏み出したのである(シュルテーネレ(2000))。

20014月アリアンツは,ドレスナー銀行の買収を正式発表した。ドレスナー銀行の支店網を活用し,貯蓄型保険や投資信託の販売に注力することを目指した。この背景には年金制度の改革により公的年金から私的年金への移行が見込まれ,個人老齢年金の急成長が予測されるということが挙げられる。しかしながら,この買収発表後の市場の評価は芳しいものではなく,株価は下落した。その理由として,@具体的な収益見通しが不透明であること,Aアルフィナンツ戦略が成功化するかどうかに対する懸念,B投資銀行部門をグループへ残すことによるリスク拡大への懸念,が挙げられ,買収ではなく提携で十分との見方もあった。

200112月の決算では,純利益が53%減少し,これを受けてドレスナーの支店統合や人員削減などのリストラが行われた。その後,生命保険契約は伸びるが,ドレスナー銀行部門は赤字で,トップも交代した。しかし,20033月,アリアンツはアルフィナンツ路線を堅持していくことを公表し,次第に業績も好転している。

アセット・マネジメントの業務の追加や銀行の買収について疑問の声があるにもかかわらず,なぜそうした戦略を採ったのか。それは様々な販売チャネルへの直接的なアクセスとコントロールが効果的なカスタマーリレーションシップを築く鍵であるという認識にもとづくものである。そのためには,銀行との提携関係といういわば弱い枠組みでは不十分であり,銀行チャネルを獲得することによってのみ可能であるとの経営陣の強い信念がある。金融サービスの伝統的な垣根はぼやけつつあり,消えつつあると解されているのである。保険会社の契約引き受けや銀行の支店業務といった生産能力に定義づけられる伝統的な方法は,顧客の要求が生産志向的な境界を越えているので,最高のビジネスを提供しないとアリアンツは考えているのである(シュルテーネレ(2000))。こうした考え方に基づくビジネスモデルの展開は,後に見るように取引コスト論の立場からの経済学的分析によっても支持されるものであろう。

74頁】

2.2 アリアンツのアルフィナンツ商品の経済効果(シナジー効果)

銀行と保険会社が協力あるいは合併することにより,金融領域でコストを削減しようとする努力は,かなり前からあった。たとえばフランスのAxaコンツェルンがドイツ銀行と組もうとしたとか,ミュンヘン再保険がヒポ・フェルアインス銀行を買い取る,等々である。ただし,そこへの参加諸企業がたくさんあり,そしてそれら相互間でいわゆるメンタリティがかなり多様な場合,結果としてシナジー効果は達成されないかもしれない,ということも,しばしば言及されてきているのも事実である。

銀行の商品というものは,もちろん1990年代に大きく変容してきていて,その結果,アルフィナンツに関する新しいパースペクティブも生まれてきているのである。インターネットによる技術的な可能性のおかげで,流通は四方八方に広がっており,ヨーロッパにおける老後保障(Altersvorsorge)のプライベート化によって競争は激しくなり,顧客には様々な混乱した,ごちゃごちゃな提供がなされている。こうして,個人的なアドバイスの重要性は,消費者にとって高まっており,その結果,保険会社にとって銀行の窓口は再び魅力的な流通チャネルとなったのである。

アリアンツのように,アルフィナンツ企業は,統合的な金融サービス提供者となれば,資本集約者となりうるであろう。いわばそれは「金融コーチ」である。3つの流通チャネルを経由して,顧客は情報を得る:アリアンツのエージェント,彼らは「ファイナンシャルプランナー」として,1,700人のアドバイザーとして「アドバンス」のマークの下に活動する。オンライン銀行アドバンス,そしてドレスナー銀行グループの支店の3つである。

アリアンツの1,000人の保険専門家がドレスナー銀行の支店に待機し,銀行員の教育と,自らの商品販売にあたる。同時にアリアンツは銀行での流通に適する商品を開発する。アリアンツの代理人は顧客に銀行商品を提供し,クレジットカード,消費者金融とともに標準的な銀行商品を提供する。他方そこでは,銀行の従業員がエージェントを補佐する。300人の証券アドバイザーが,複雑な商品の流通について,代理人を補佐する。銀行の支店での保険の流通については,収入三倍化が計画されていた。

 

2.3 アリアンツのここしばらくの浮沈

ここで,アリアンツのアルフィナンツ戦略,すなわちドレスナー銀行の買収(2001年から2003年)について,クロノロジカルに記す。

 

 

75頁】

このように,アリアンツの事例だけ見ると,一般的にアルフィナンツ戦略というのは失敗である,という見解が強調されそうである。実際,アリアンツに関して言えば,少なくとも現時点では,アルフィナンツ戦略が大成功だったと主張する者はいないと言えそうである。実は,この点に大きな落とし穴があり,且つ,そういう主張は必ずしも正しいとは言えないというのが,本論での筆者らの意見であるが,ここではまず,前述の,「一般的にアルフィナンツ戦略というのは失敗である,という見解」について,最近のものをレビューすることとする。代表76頁】的な意見は,次のようなものである3

シナジーという「夢」に幻惑されて「祭壇」へと向かい,大陸の大きな金融企業には,誤って信じ込んだ連合へと金をそそぎ込む会社がある。最近5年で,自らの製品をクロスセリングすることにより規模の経済を得て利益を得ようとする会社が見られる。今や,銀行と保険でのシナジーを得ようという試みは,ヨーロッパのあちこち,それを得ようとした地域すべてで,裏目に出ている。大半の金融業者たちが考えていたよりも,クロスセリングというのは難しいのだということが,明らかになりつつある。保険とバンキングを混合することは,誰もが予想しなかった貸借対照表上の問題を引き起こしている。

アルフィナンツというのは,理論的には意味があるが,実際には行うのは非常に難しい,なぜなら,バンキングの商品は「買われる」のに対し,保険の商品は「売られる」からである。だから,アルフィナンツ商品を「売る」には,また別のスキルが必要であり,かつ,別のスタッフ・インセンティブが要されることになるからだ。アリアンツは,2002731日,投資家に大いなるショックを与えた。この日,アリアンツは,第2四半期,35千万ドルの損失を計上したことで2002年の30億ドルという利益目標達成ができないことを公表したのである。その主たる原因は,アリアンツのうちの,ドレスナー銀行部門の問題によるものであった。

次に,その後の展開について見よう4。アリアンツの株価は2000年初めの高値に比べると,何とおよそ90%の値下がりとなる。ドレスナー銀行を完全買収するという形での誤った投資,そして比較的に発行株が多いことが,禍根を残した。ドレスナー銀行が余剰額を償却する,また有価証券を買い取るなどが必要である。今度の増資は,ドレスナー銀行に関してアリアンツが上手く行っていないことを認めた証拠であると思われている。特に,保険事業の方は堅実に進んでいるからである。そしてこのような事態は,簡単には解決され得ない。まず,ドイツの銀行産業は,補助金を得た貯蓄銀行の存在のおかげで,かなり歪んでいるだけではなく,基本的にどこも支店が多すぎるからである。銀行と保険のシナジー効果についても,理論が示すほどには,実務的にはまったく大きくはないだろう。確かに過去,市場においては銀行と保険のコンビネーションでは実際,成功例はない。同時に,損失も多い投資銀行業務のコツをつかむことは難しいし,また突き放してしまうことも易しくはなかろう。現在の金融市場体制下では,そして景気予想の下では,買い手をみつけるのは非常に難しいであろう。

保険市場においてでさえも,将来上手く運ぶかは,確かではない。将来,税制の上で,生命保険業の資本会社は,投資ファンド会社と類似した扱いを受けるようだし,競争環境は完全に変わるであろう。アリアンツの現今の市場での強いポジションにもかかわらず,である。収益性の低さ(過去約束された,過度の配当約束は,もはや誰も実行はできない)を考えると,むしろ商品に関する議論さえ必要であろう。

2003年に見られた8%以下という株式投資利益率,2004年も目下5%以下という状態を見ると,昨今の50ユーロへの値下がりさえも楽観的と言える。チャートでも警報解除にはなっていない。アリアンツ株が保有価値があり,中期的な安定レベルを持つこと,かつ急な値下がりトレンドを払拭しないかぎり,投資ポジションの維持に関する技術的な議論はできなくなる。

 

77頁】2.4 アルフィナンツ—成功(失敗)への道

このようなアリアンツのケースは,ドイツにおいても,特にそのバンドリング戦略の是非をめぐって,取り沙汰されることが多い。アルフィナンツというテーマ,すなわち保険,銀行,住宅金融のような金融市場のさまざまな部分を統合しようということは,昨今再び広く話題になっている。銀行や保険部門の多数の合併や買収は,このことに関するひとつのルネサンスと見なされている。資本参加の交換によって,一方ではアリアンツとドレスナー銀行,他方ではミュンヘン再保険とヒポーフェルアインスバンクという,2つのアルフィナンツ・コンツェルンが生じている。ヴェルテンベルグ保険とヴェステンロート住宅貯蓄銀行のW & WAGへの,そしてクレディスイスによるヴィンタートゥーア保険の取得は,このような進行の現われだ。

異質的な(heterogen)金融サービスをひとつの包みに包括的にまとめようというのが,アルフィナンツという考え方の必然的な形である(ワン・ストップ・ショッピング)。このような提供戦略は,正しく言えば(置換すれば),その提供者(企業)へ数多くの利点を約束してくれる。コストの節約,クロスセリング,顧客が支払おうとしている資金のよりよい吸収並びにより高度の顧客の満足などである。

このようなバンドリングの成功例はマイクロソフトである。このソフトウェア企業は,自らのプログラムを「Officeというパケット」への巧妙なバンドリングと解し,テキスト処理(Winword)に関する優勢な地位を,計算表(Excel),グラフィック(Power Point),データバンク(Access)へと拡張した。こういう方法で,この企業は「Officeというパケット」において,ほとんど独占と言える,市場占有率80%以上を支配することをなしとげた。

このような成功例のレシピは,保険や銀行サービスのような複雑なサービスへも適用可能である。コスト上昇の圧迫という時代に,保険商品と銀行商品の共通の販売というのは,その上に,コストという問題からの逃げ道に見える。しかし,注意も必要である:個々の商品を更に自らの,あるいは他の商品をまとめて,ひと包みにして売りさばくというのは,確かに多様な可能性を提供してくれる。勿論,製品(商品)政策として2つあるいはそれ以上の商品を「アルフィナンツ商品」などと言ってくっつけるだけでは,十分ではない。徹底したバンドリング戦略には,むしろ広く十分な戦略的意思決定を前提としている。

企業戦略

金融サービスのパートナーは,コンパティブルな戦略目標から,共通のビジョンを導き出せただろうか?今日まで銀行サービスと保険サービスの統合を,成功裡に行った企業はほんのわずかしかない。模範例としてはFortisがある。このベルギーのアルフィナンツ・グループは,いくつかの保険会社と一つの銀行の合併から生じた。成功例:Fortis銀行の顧客の40%以上は,グループの保険証書を持っている。

組織

もし保険商品と銀行商品の共通の販売が一つの支店内で(とは言っても)様々なメンバーによって行なわれるならば,組織としての全体像は見渡せる。アリアンツとドレスナー銀行は,今のところそのような販売というものがどのように機能するのかを示している。

「二重に良いアドバイスを」というモットーの下に,保険の従業員と銀行の従業員が顧客に共通に利用可能となっている。しかしこれはほんの第1歩でしかありえない。もしその目標が徹底したバンドリングならば,すなわち様々な分野の完全な統合であるならば,そのために組織上の前提条件が作られなくてはならない。しかしながらこれは単純な冒険(企て)とは言え78頁】ない,なぜなら保険は専門分野へと向けて,銀行は顧客グループへと向けて組織されるからである。徹底した顧客志向のバンドリングには,商品ごとに特殊な組織単位から顧客志向の組織単位への変換が必要なのである。(One face to the customer

清算価格

バンドリングにより提供されるものは,多くの場合,企業内の様々なプロフィット・センターから割り当てられた製品(商品)からなる。パケット価格はたいてい,個々の価格の合計以下となっており,その差額は,いくつかのプロフィット・センターによって負担されなくてはならない。そのような組織構造では,分配の際に,よくコンフリクトが生じる。バンドリング戦略がそういう問題で実務上失敗しないように,そのことを目指した構造作りを最初から作らなくてはならない。これを避ける為に,例えば顧客グループに従った組織が作られる。

テクノロジー/IT

様々な分野の技術的インフラストラクチャーはコンパティブルだろうか?バンドリング戦略の進行に伴いしばしば,完全に新しいITシステムが開発されねばならない。それは古いシステムが,バンド化された商品を,適切に表現できないからである。そこで決定的なのは,全体の関係を一人の顧客に示してくれる,包括的な情報システムの設置である。

文化

アルフィナンツにおいては,従業員を顧客の包括的な金融アドバイザーへと訓練することが必要で,そこでは特に,従業員への動機付づけを進める必要がある。結合によって,銀行の従業員と保険の従業員による販売がひとつの支店内にバンドルされる可能性はあるが,それによって同時に異なった文化を一つにするという課題が生じる。伝統的に成長してきた報酬(Vergütung)システム(俸給(Gehälter)対仲介者に対する契約締結手数料(Abschlußprovision))が同時に実行されなくてはならない。これはまたもや異なった企業文化の表出となる:保険販売員のhand selling対銀行員のリレーションシップバンキング。ここに,様々な結合の問題の源がある。

販売へのインセンティブ供給とノウハウの移転

引き続き,販売従業員にとっては,目標を持ったインセンティブ・システムが必要である。販売従業員が個々の商品に専門化してしまうと,彼らにはバンドルを売ろうというインセンティブは小さくなる。もちろん,大部分の場合従業員はそうでなくても個々の商品ではなく特定の顧客に対して責任を持ち,バンドリング戦略はそれを容易にする。従業員の思考上の収束が,銀行商品と保険商品からなるバンドルが組み合わされるならば,インセンティブの形成は,とりわけ重要となる。それによって,パケット内の商品全てに関する販売員の包括的なノウハウの必要性が出てくる。

顧客

ここまで,顧客は金融業の中での「one-stop-shopping」という構想(Konzept)をためらいがちに取り上げてきた。明らかに多くの顧客の頭の中では,銀行サービスと保険サービスは,2つのかなり異質な(heterogen)商品ということになっている。しかしそれらの提供者は,イメージの変化を促進できる。そのためには2つの見地が重要である。一つ目として,顧客にとって魅力的な商品コンポーネント(引き馬―Zugpferde)およびバンドリングして提供されるものが,責任ある方法で探索され,それに対応して提供されなくてはならない(どの商品たちが共に合うか? これらの商品並びにパケットに支払う気のある,様々な顧客,セグメントは何79頁】か?)。二つ目として,顧客は確実に,有能かつ包括的にアドバイスを受けていると感じなくてはならない。MLPのような組織の成功を見ると,アルフィナンツ商品の販売には有能なアドバイスという感情がいかに重要かが分かる。

数多くのアルフィナンツというものが,参加している人々の無関心あるいは関心の不十分ということを経験している。特に顧客,更に従業員は,熟考の中心により強く戻らなくてはならない。なぜならコスト構造の最適化のみならず,提供商品の,対応した従業員の向上を伴う,顧客志向のバンドリングによる利益の増加が,成功の鍵だからである。

 

3.アルフィナンツ商品自体の歴史(ダルムシュタット貯蓄銀行の例を中心として)

 

3.1 なぜダルムシュタット地域貯蓄銀行をとりあげるのか

ダルムシュタット地域貯蓄銀行をここでとりあげる大きな理由は,それが貯蓄銀行組織(Sparkasseorganisation)というドイツ最大の金融グループの一員であること,そして,1808年創立でドイツで最も古い貯蓄銀行の一つ,その前身は18世紀半ばから始まっていることが挙げられる。

ダルムシュタット貯蓄銀行は1998年時点で資産総額63億マルクに達する,南ヘッセンの,シュタルケンブルグ地域の市場の市場主導企業(マーケットリーダー)で,ヘッセン州では同行は,事業高(Geschäftsvolumen)では4位の企業である。

数年前から同行はアルフィナンツ商品の提供者であり,顧客にできるだけ包括的なアルフィナンツ商品を提供するために,49の支店で,とりわけLBS――貯蓄銀行の中での住宅貯蓄銀行,貯蓄銀行――保険,DGZDeka Bankの手助けをしている。

 

3.2 ダルムシュタット貯蓄銀行でのアルフィナンツの歴史的な概観

1980年代半ばに,アルフィナンツは集中的な発展の段階を迎えた。それまでの年月には,LBS――貯蓄銀行の中での住宅貯蓄銀行,貯蓄銀行――保険,<80年代半ばには更にヘッセン・ナッサウ保険,及びDGZDeka Bank GmbH<今日DGZDeka Bankなど,固有の商品をもつ提携パートナー,がすでにあった。これら諸企業の商品は,ダルムシュタット貯蓄銀行の中では,もちろん活発に提供されてはいなかった(その可能性があったとしても)。

この時点まで顧客へのアドヴァイスという仕事は,支店責任者の仕事の全くの一部に過ぎなかった。銀行の「通常の」アドヴァイザーは,主として管理的な仕事を行わねばならなかった。これは窓口での出入金,支払いやりとりでの処理などである。行員たちは「これまでない」商品の提供については訓練を受けていないし,受けることもなかった。ダルムシュタット貯蓄銀行の幹部の側では,もちろん,ダルムシュタット貯蓄銀行が主として自らの商品に留まり,外部の提供者の商品を商品パレット上にとりあげないという方針,ということは望ましいことではない。

この当時,銀行での仕事というのは,「本来の」仕事,すなわち顧客の預金を受け取り,それを貸し付けるということのみに限っていた。そこでの利益は当然,利鞘である。アルフィナンツが進展したのは,1980年代半ばの住宅貯蓄の始まりと,LBS――貯蓄銀行の中での住宅貯蓄銀行との協働以来である。これ以来,伝統的な貯蓄商品の他に,住宅貯蓄契約も顧客アドバイスに加えることとなった。

ダルムシュタット貯蓄銀行による,自前の経路を経由した保険サービスは,彼らの専門相談80頁】員によって提供されることは,長い間,なかった。前述の,住宅貯蓄契約の進展の直前に始まったのである。保険商品の積極的な販売は,1980年代の終わり,1990年代の初めに,ヘッセン・ナッサウ保険(Hessen Nassauische Versicherung, HNV)からの「貯蓄銀行保険(Sparkasse Versicherung, SV)」以降に始まったのである。

同様に1980年代終わりには,不動産事業も商品パレットに統合された。顧客のための,「中央不動産事務所」の開設,そして今日ではそれ以外の支店でも,顧客は地域ごとの不動産情報が得られ,状況によってそれらはダルムシュタット貯蓄銀行によって資金が融資されるのである。

このようなアルフィナンツの進展の根拠は,ひとえに利鞘の縮小による,銀行利益の圧迫に求められる。ダルムシュタット貯蓄銀行の場合も,多数の賃貸物件を持ち,賃貸利益もあったが,中心業務は顧客の預金とその貸出だったのである。1980年代の金利の動きもあり,この利鞘による利益は非常に少なくなった。

アルフィナンツの進展のもうひとつの根拠は,ダルムシュタット貯蓄銀行において,顧客の90%による利益が,全利益のたった10%ということに,1980年代半ばに気がついたことである。これでは将来,顧客への,資産取得のための融資はおぼつかないだろう,ということになった。これは,個別的相談によってしか実現しないし,そのためには商品パレットの拡大,そして提携パートナーからの手数料による利益へと進むことになる。

 

3.3 アルフィナンツの進展

ダルムシュタット貯蓄銀行は,LBSLandes Bausparkasse)と1980年代半ばに,親密な協力関係を持つ。LBSは住宅貯蓄契約のリストをダルムシュタット貯蓄銀行に提供した。お互いに顧客データを交換するだけでなく,既存の顧客の「幹」をお互いに太くすることができる。当時,国家による住宅建設の促進が,このような住宅貯蓄契約の進展を招き,銀行の顧客の増加をも招いていた。そして,このような住宅貯蓄契約の販売を更に進めるためには,相談員の訓練が必要であった。

ダルムシュタット貯蓄銀行は,1980年代終わりから,貯蓄銀行保険との協働を始めていた。この時までヘッセン・ナッサウ保険は,ダルムシュタットでは,外務員を使って,いわば独立に保険事業を行うのみだったが,貯蓄銀行保険という名前を使うにあたり,ダルムシュタット貯蓄銀行との協働ということになったのである。こうして,ダルムシュタット貯蓄銀行の市内の様々な支店で,保険商品を販売することになった。ここでは,ダルムシュタット貯蓄銀行の行員は,保険商品の相談員でもあることになる。ダルムシュタット貯蓄銀行は貯蓄銀行保険の公式のジェネラルエージェントであり,その保険は,生命保険,損害保険,自動車保険,年金保険など,誠に多面的なものである。

貯蓄銀行保険の職員は,ダルムシュタット貯蓄銀行とは独立のエージェントであり,ダルムシュタット貯蓄銀行のアドバイザーの教育にあたる。保険契約のたびに,彼らはローン契約と同様に手数料を受け取る。これは,契約高や保険の種類に依存するが,ダルムシュタット貯蓄銀行もその手数料の一定割合を獲得し,これが金利とは独立した重要な収入となる。

1990年代には,賃貸料収入が大幅に伸び,それを求めて住宅建設ブームとなった。ダルムシュタット貯蓄銀行としても,これに目をつけて,進出したと言える。

一方,DekaBank有限会社との協働で,1996年から証券ファンドや年金ファンドを扱うこと81頁】となっていた。ただし,投資家の方では,まとまった資金の不足,専門的な投資知識の欠如から,活発な投資というわけには必ずしも行かなかった。こういう投資家たちにとって,DekaBankのファンドは好適で,少額資本と専門的運用,そしてリスクの分散化が,それによって可能だったのである。今日では,DekaBankはダルムシュタット貯蓄銀行を通じて,16以上の様々な証券ファンド,年金ファンド,不動産ファンドを販売している。このような販売に関しても,ダルムシュタット貯蓄銀行の従業員は,DekaBankによって教育されている。

 

3.4 アルフィナンツの問題点

ダルムシュタット貯蓄銀行の発展という見地からは,アルフィナンツの問題点は,次のように挙げられる:

第一に,アルフィナンツというものに対してネガティブな考えを持つ職員である。貯蓄銀行が突然,何故急に他の企業の商品を売るのか,知らないものを販売する「不安」は,確かに,それを支持する方向へは向かわせないものである。

今日でも,「販売部門」は主たる問題と見なされている。顧客へのアドバイザーは,顧客に商品全体を提供する能力がなくてはならない。すなわち,顧客へのアドバイザーは,「オールラウンダー」となったのである。しかし,そこに問題がある:

確かに顧客へのアドバイザーは,顧客に商品の根本について,より知らせうるのに必要な知識を持ってはいても,詳細は知らない。すなわち,彼は,ある特殊な投資分野ではもはや専門家ではない。あるレベルでのアドバイスが難しくなると,彼らは他のアドバイザーへと引き継がれねばならない,ということがありうる。また,顧客アドバイスが目標コードの導入によって損害を被る危険がある。トップマネジメントによるコードを満たすために,顧客の希望とは必ずしも一致しないような一面的なアドバイス・契約が行われる,という事態が起こりうる。

ダルムシュタット貯蓄銀行では,アルフィナンツの分野では組織上の問題は見られない。今日どのアドバイスにおいても,データ処理の発展でコンピュータが助けとなっている。以前は,たとえば金利の変更や株式相場が,ある一定の時に書面で伝えられるだけということだったが,今や電子的に伝達される。

 

3.5 ダルムシュタット貯蓄銀行におけるアルフィナンツの将来

近い将来,顧客の側から,より質の高いアドバイスを求める声が,特に税金関係の理由で起こることが考えられる。アドバイザーへの要求は,特に目標コードの引き上げによって厳しくなり,それによって,提供するすべての商品に関する情報の量も大きくなる。ダルムシュタットでの競争状況もかんがみて,商品パレットの拡がりは,もっと大きくされねばならない。また「資産投資センター」も必要であろう,そこでは特別に教育を受けたアドバイザーが資産家の顧客にアドバイスを与えるのである。

顧客を,標準/多額/VIPに分ける傾向(ドイツ銀行のように)は,ダルムシュタット貯蓄銀行にも起こるであろう。資産家の顧客には多くの個別的投資のアドバイスが与えられるであろうし,標準/多額の顧客は,標準的な商品の選択の余地は限られてはいるであろうが,すべての商品に需要を出す可能性がある。これらすべてを保証するためには,個々の提携パートナー(Verbundpartner)間,およびダルムシュタット貯蓄銀行との間の境界をさらに消し去ることが必要であろう。

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3.6 結論

まさしくアルフィナンツの分野,個人顧客事業の将来の発展の機動力は,広く広がる問題である:国民の中で,着実に成長する,そして常に老齢化してゆく部分にとっての老後保障の確立,そしてそれによって,資産の形成と確実化が,保証されることである。

アルフィナンツの分野における構造変化の結果はだんだんとはっきりしつつある。こお市場における供給者の数はほとんど毎日増えつつあり,まさにノンバンク,保険会社の分野である。顧客の移動と共に,そのおかげで,マージンへの圧迫と,銀行の労働プロセスの一層の効率化へと進みつつある。この状況では,顧客志向のマーケティング計画が重要な役割を果たす。会社にとって,個々の個人顧客セグメントへの顧客それぞれへの世話のみが,競争相手への競争優位を構築し,また防御する事を可能にするのである。ドイツの信用機関(Kreditinstitut)にとってもこれはあてはまり,ダルムシュタット貯蓄銀行にとっても然りである。

(以下,次号)

 

※本論文は,平成15年度・証券奨学財団研究奨励金による研究成果の一部である。