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店舗選択時のメニューの重要性と顧客視点からみたメニューのカテゴライゼーション
——居酒屋チェーンを事例として——
上田隆穂、太宰 潮、于 泰来
1.はじめに
人が飲食店を利用する際の決め手は多様である。居酒屋を例に取ると,人はどうやって居酒屋を選ぶのか。飲食店を選択する理由は多様だが,「本質的になぜそこを選ぶのか」を考えれば,顧客は「店で提供するメニューの料理がコストパフォーマンスで優れているから選ぶ」ということが基本的に想定される。一緒に行く人,時間,食事や宴の目的など,いろいろな要素によってどんなものを食べたいかは変わるものの,頭の中で描いたメニューが提供される店を選ぶ傾向があろう。そうなると,頭に描くメニューと,実際の提供メニューをどう一致させるかが,自社の店舗に客を誘導するカギとなる。
実際の店舗選択においては当然立地などの条件が影響するが,基本的には,提供メニューがどのように顧客に捉えられており,捉えられ方とメニューの見せ方がどう繋がるかを把握することは経営上かなり重要な課題である。
マーケティング・消費者行動においては,消費者の店舗選択に焦点を当てた店舗選択行動という分野がある。また消費者が商品をどのように頭で捉えているかを研究するカテゴリー化理論という分野がある。本研究ではこの二つの分野の枠組みから,外食産業の中で,いわゆる大衆居酒屋チェーンを対象に取り上げて実証分析を行い,メニューを中心としたマーケティング戦略を提示する。本研究の流れとしてはまず店舗選択とカテゴリー化の概念を紹介したのち,本研究での取り組み方の構成を示す分析枠組みを提示する。そして居酒屋を対象とした実証分析の結果から,まず本質的サービスであるメニューが,店舗選択にどのような影響を与えているかを確認する。続いてカテゴリー化理論の枠組みより,メニューが顧客にどのように捉えられているのかを示し,その捉えられ方によって店舗の利用状況が異なることを説明する。そして最後にビジネス上における示唆をまとめる。
2.店舗選択研究とカテゴリー化理論
本章では店舗選択研究とカテゴリー化理論を簡単に紹介し,この二つの研究がどう外食産業に利用できるかを探ってゆく。
【2頁】(1)店舗選択研究
店舗選択についての研究は,店舗イメージとその規定要因に関する研究,買物客の類型化に関する研究をはじめとして,多くの研究がなされている。店舗選択や店舗イメージの規定因としての研究とは,その名の通り消費者が店舗を選択するにあたって,どのような要因をどのくらい重視しているかということを明らかにするものである。
先駆的な代表例としてはマルティノー(Martineau 1958)による店舗イメージの規定要因研究が挙げられる。この中ではその規定要因を@機能的特性(立地,レイアウト,ディスプレイ,商品構成,価格水準,店員,広告宣伝,サービス施設など)と,A心理的特性(親しみ,温かさ,楽しさ,などの雰囲気)に大きく二分した考察がなされている。その後も多くの研究が積み重ねられているが,日本の研究例では上田(1988)(1)による「地域内複数店舗における店舗選択及び売場等部門別評価要因の検討」という題名での,大型スーパーマーケットの店舗選択研究などが挙げられる。上田の研究では,大型スーパーを各売場(鮮魚売場,加工食品売場など)や他の施設にブレイクダウンした上での実証研究がなされており,大型スーパーが選択される際には日配品,精肉,鮮魚部門が重視されること,また各部門内の構成要素についても重視度が部門別に異なることなどが示されている。また外食産業における近年の店舗選択についての研究は,新田(2002)(2)がある。新田の研究では,コーヒーショップを対象として「恋人とのおしゃべり」,「1時間くらいの暇つぶし」などの状況の違いが,店舗選択・店舗属性へ与える影響の違いを調査している。その結果,状況によって選択されるコーヒーショップ店と重視される店舗属性が異なることが示された。例えば「恋人とのおしゃべり」の時には料理やデザートの美味しさが重視されること,「1時間くらいの暇つぶし」の時には一人での入【3頁】りやすさ,コーヒーの価格とおかわりが重視されることなどが示された。
以上のように店舗選択においては多岐に渡る研究が存在するが,本論と非常に近い研究例として三浦(2000)(3)を紹介する。ここでは,店舗選択をした後に店舗内で扱うブランドの選択が起こることから,店舗選択と製品・ブランド選択という二つの選択行動間の関係を明らかにすることを問題意識として研究が行われている。二つの選択行動間の関係についてはアサエル(Assael 1987)の研究事例を紹介した上で,消費者が製品に対して抱く「関与」(こだわりの強さ)が先行状況に大きく影響すると述べている。例えばこだわりがあるブランドを扱う店は店舗選択よりもブランド選択が先立つという具合である。次に店舗選択の規定因についてもレビューをまとめた上で,情報処理特性による買物客類型化の理論的成熟度が高いことを説明している。そして,情報処理の視点からの店舗選択行動の既存研究を踏まえた上で,主に知識の程度を意味する認知的関与と,感覚的なこだわりを意味する感情的関与の二つの概念から以下の図表2のような店舗選択行動の類型化をしており,それぞれの類型ごとにマーケティング戦略と業態の方向性を示している。
これらの店舗選択についての研究を外食産業に当てはめれば,まず一つ目としては,消費者がレストランなどを選択する際に,何を重視するかが仮説的に想定できる。その店のメニューが食べたくて行くのか,近いから行くのか,雰囲気が良いから行くのか,価格が安いから行くのかの想定である。またメニュー,立地,雰囲気などの各項目間での重要度の差も想定しうる。さらに関与で区分することによって,顧客のセグメンテーション,優良顧客への戦略立案,関与の低い一見客をどうリピーターとするかなどのマーケティング施策のヒントも導きやすい。店舗選択研究に関してさらに詳しくは,書籍では高橋(1999),清水(2004),論文では佐藤(1986)などがある。
【4頁】(2)カテゴリー化理論
カテゴリーという言葉から一般的に連想されるのは,例えばスーパーマーケットにおける取り扱い商品の分類であり,「生鮮野菜」,「飲料」,「精肉」などの区分,その下にあるさらに詳細な区分「根菜類・果物」,「乳飲料・野菜飲料」,「生肉・加工肉」などだろう。こうしたカテゴリー分類には,例えば,上記のような分類以外にも冬の鍋に必要な材料で商品をカテゴリー化することや野外レジャーに必要な商品という目的別カテゴライゼーションも存在する。流通における研究では,カテゴリーをどのようにすれば効果的に消費者に訴求できるか,そして効率的に管理できるかという「カテゴリーマネジメント」という分野が確立されており,多くの研究が進められている。
本研究ではこの考え方をメニューに適用して,消費者が頭の中で感覚的に行っているカテゴリー区分に着目する。というのは,外食産業においては消費者が主観的に想起するメニューと,店が提供するメニューがマッチングすることが重要だからである。従来では,型どおりの材料別分類でのメニュー提示が多いわけであるが,ここには顧客視点はまるでみられない。提供者側の思いこみしかなく,顧客のメニューの見方とは大きなギャップがあると想定される。
消費者はモノやサービスの購入にあたって,価格やその製品の特徴が自らのニーズに合っているかなどの情報処理を行う。当然,飲食店に行く顧客は,何を食べるかを考えるとき,特に居酒屋では,多くの材料別メニューの中から自分の判断で料理を取りそろえることになる。顧客視点からは,時にはこの選択は楽しみともなるが多くは煩雑な場合が多い。その際に,上記の量販店のように,目的別の推奨カテゴリーがあれば,顧客はスムーズにメニュー選択を行え,快適に飲食を楽しめよう。健康を気にする年配層であれば,身体に負担のないメニューの取りそろえなどが有り難い。メニューにおけるカテゴライゼーションはこのように顧客のニーズに応じた料理の取りそろえと考えればよい。
新倉(2005)(4)ではカテゴリー化理論の紹介が詳細になされており,カテゴリー化理論の中でもいくつかの考え方が存在していることが紹介されている。その中も本研究で取り上げるのは,近年注目を集めている「アドホック・カテゴリー」という考え方である(ad hoc:特にこのための,その場限りの などの意)。「目的に導かれる(goal-derived)カテゴリー」や「目的志向カテゴリー」とも表現されることがあるが,簡単に述べると,その場の状況や漠然とした目的によって形成するカテゴリーのことである。スーパーで言えばメロンが「果物」として捉えられると同時に,「今日のちょっと贅沢なデザート」または「子供のおやつ」としての捉えられると,それはアドホック・カテゴリーと言える。近年の消費者行動研究ではこのアドホック・カテゴリーの研究重要性が指摘されている。
では,この考え方がどのように外食産業に寄与するのであろうか。まず,顧客のカテゴリー体系を理解することで,何をポイントとして,または何をきっかけにしてメニューのアピールをすれば,自店に顧客を誘導できるかの示唆が得られる。また店舗選択研究と同様に,関与で消費者を類型化することにより,顧客によってどんなカテゴライゼーションでメニューから料理を選択するかを解明する糸口が得られる。
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3.本研究の枠組み
これまでの店舗選択とカテゴリー化の枠組みを外食産業に適用してみよう。
まず店舗選択の枠組みから,外食産業のチェーン店を利用する顧客がチェーンを評価するために用いる評価属性は,「レストラン店舗の雰囲気」,「店員サービス」,「立地」,「提供する料理」,「価格」など多岐にわたる。この中で「提供する料理」の評価は,中核であり,評価項目として最も高いものの1つである。しかし,オーバーストア状態で,メニューにおいても他の諸属性においても横並びの競争状態となる現状において,メニューがどの程度店舗評価において重要視されているのかは不明である。雰囲気や店の内装(個室など),メニュー以外の属性の方がより重視されている可能性も十分にある。
そこで本研究では,本質的サービスであるメニューが,他の評価項目に比べてどの程度重要視されているか,またメニューが顧客にどのように捉えられているかを最初に調査・分析している。分析においては先に紹介した三浦(2000)の研究に習い,店舗に関する関与も考慮にいれ,店舗評価にどのように影響をしているかを探ることとした。これによりチェーン店舗は,自店舗におけるメニューの重要度を他の諸属性と相対的に把握することができ,差別化の可能性を探ることができる。また関与を踏まえた上で顧客による店舗属性の評価→店舗選択という流れを確認することにより,顧客の評価基準がどういう関与に応じて用いられているかを明らかにでき,店舗プロモーションの訴求の仕方などに知見が得られよう。
続いてカテゴリー化理論の枠組みから,本質的サービスであるメニューがどのように顧客に捉えられているかを探索する。またここでも関与の類型化ごとに,カテゴリー化がどのように変わってくるかに注目する。関与の高低別にメニューのカテゴリー化がどうなされているかを特定できれば,当該メニューの充実だけでなく,そのメニューカタログにおける提示の方法,プロモーションの実施方法も変わる。またターゲット・グループ別に標準メニューに新たな分け方であるメニューを追加する,つまり位置,表示アクセントの変更ということも効果的なチェーン店評価アップの方法となりうる。
本研究の枠組みを図にすると,図表4のようになる。
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4.実証分析
(1) 店舗選択に影響を与える諸属性の中でのメニューの位置づけ
顧客の店舗選択に影響を与える属性が多様であることは既に幅広く認識されている。しかしながら,居酒屋の本質サービスである「メニュー」は顧客の店舗選択においてどれ程の影響力があるかはそれほど明らかではない。本章では,店舗選択理論に基づき,顧客の感情的関与と認知的関与という概念を加え,「メニュー」が店舗選択に与える影響と,その他の影響属性との関係において相対的にどの程度であるかを明らかにする。具体的な分析手順は三つある。まず,グループインタビューにより,顧客の店舗選択時に重視する属性を抽出する。そして,抽出された属性に関与の概念を組み合わせて顧客店舗選択概念モデルを構築する。最後に仮説的に構築された店舗選択モデルに基づき調査アンケートを行い,共分散構造分析という影響関係構造を明らかにする手法を利用して顧客がどのような店舗選択意思決定を行っているかのプロセス解明を試みる。
ただし,サンプル入手の限界から,今回は学生・大学院生を対象としている。
<手順1:グループインタビューによる店舗選択属性の抽出>
顧客店舗選択の影響属性を抽出するために,学習院大学の学生と大学院生計19名を対象にグループインタビューを行った。2005年9月21日と26日に2回グループインタビューを実施して居酒屋の店舗選択に関する7つの主要属性をまとめた。それらは「立地」,「雰囲気」,「価格」,「メニュー」,「サービス」,「座席・個室」,「口コミ評判」となった。この中で「メニュー」は店舗選択に影響する属性ではあったものの,それほど重要ではないことも判明した。すなわちインタビューの中で,メニューに対して「そんなに考えていない」,「店舗間に大差がない」,「店によってあまり特徴,こだわりがない」という認識が主流であった。これは店舗間の差別化の有力な武器であるべき「メニュー」はその差別化の役割をきちんと果たしていないことを意味しており,「居酒屋ではメニューの料理はどこでも同じ。雰囲気や話しやすさの違いの方【7頁】がずっと選択要因として重要」という認識になってしまっていることが明らかとなった。
チェーン店舗の差別化という考え方からすれば,メニューの料理で差別化しなくてもよいわけであるが,大黒柱の細い家を建てるようなもので,飲食店としての本質を外しているようなものであろう。競争・差別化の中心としてメニューの料理を据えるべきであろう。
それゆえ手順2において,前述の共分散構造分析を用いて,「メニュー」属性の店舗選択における重要度及びその他の属性との関係性を定量的に解明する。
<手順2:店舗選択の影響構造を描く概念モデル>
この手順においては,店舗選択理論に基づいて,グループインタビューでまとめた7つの属性を店の評価要因と考え,店舗選択概念モデルの最初の形を整えた。そして,顧客意思決定プロセスにおける重要な概念である関与(認知的関与・感情的関与)をモデルに加えて,店舗選択モデルを構成した。その結果,概念モデルは図表5の通りになった。一見してモデルはやや解釈しづらいが,感情的関与と認知的関与の高低が顧客個人の内面的要因として,顧客の店舗選択要因という外面的要因に影響を与え,さらに,店舗選択要因は店への態度形成を通じて最後に店舗の選択意図と繋がる。この概念モデルを用いてアンケート調査を行い,概念モデルを定量的に検証する。
<手順3:具体的な構造解明調査プロセス>
この手順には,3つのステップがある。まず調査対象となる複数の居酒屋の評価に関する調査票を構成する。次にデータを収集し,用意した概念モデルに入力して共分散構造分析を行う。最後に分析された結果を解釈してインプリケーションを導き出す。以下この3つのステップに沿って説明する。
ステップ1:調査票の構成
今回の調査は大衆居酒屋を調査の対象とする。具体的には「和民」,「魚民」という広く認識されている大衆居酒屋及び「東方見聞録」というやや高級イメージを持っている大衆居酒屋,【8頁】計三つの居酒屋を調査対象とした。分析では概念モデルの全体状況を把握するのみならず,各居酒屋別の分析も実施して,居酒屋間の比較も行うことにした。
調査票は主に三つの質問部分から成る。それらは「関与に関する質問」,「店舗選択要因に関する質問」,「店舗への態度及び店舗選択意図」に関する質問である。関与に関する質問は小嶋等(1985)によって開発された尺度(12項目)にオリジナルの質問を追加して,計15項目を作成した(5)。どんな店舗属性が店舗選択要因となるかに関する質問は外食産業統計資料及びグループインタビューを元に,計19項目を作成した。今回の調査で関与の質問,店舗選択の質問及び店舗への態度に関する質問は7段階評価法を用い,店舗選択意図に関する質問は,店舗間に明確な差をつけるため,「和民」,「魚民」,「東方見聞録」三つの店への行きたい順位を並べてもらい,そして逆順位を取り7段階に換算した数値を用いた。具体的な質問項目については図表6,7,8を参照されたい。アンケート調査を実施し,学生182名分の有効サンプルデータを収集した。
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ステップ2:共分散構造分析
概念モデルの適合性を上げるために,共分散構造分析を行う前に,因子分析という項目を要因にまとめる手法を用いて,店舗選択に関する質問項目を整理しておく。複数因子に高い関連性を持っている質問項目を除いて,他の因子に独立性を持っている質問項目のみ,概念モデルに組み込む。最終的に全体概念モデルに用いられた質問項目は以下のようになった。
ここで「立地」,「価格」,「サービス」などの属性が因子分析の結果には残らなかった。店舗選択要因が「メニュー」と「雰囲気」の2つのみとなり,「メニュー」の,他属性と比較した場合の重視度を探る上ではかなり寂しいものになってしまったが,アンケート結果では学生の感度の高い属性がこの2つの因子に集約され,他の属性は3つの対象店舗でほぼ差がでなかったのが原因と考えられよう。この因子分析の結果から概念モデルを修正した。最終的に共分散構造分析用のモデルは図表10のようになった。
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モデルがかなり単純化され,メニュー要因と雰囲気要因が店舗選択において効果的な因子であることを示している。
分析において,まず「和民」,「魚民」,「東方見聞録」3店舗に関するそれぞれ182件の調査データを統合して,182*3=546件データで居酒屋全体の状況を分析し,把握する。そして3店舗のデータをそれぞれ利用して個別店舗モデルを構築して,店舗間の比較も行う。最終的に全体モデル一つと個別店舗モデル3つ,計4つのモデルを構成した。
【11頁】ステップ3:結果の解釈とインプリケーション
全体モデルの結果:
全体モデルの結果への解釈:
@ 有意となった要因:
全体のモデルにおいて,「メニュー」,「雰囲気」という要因が居酒屋への態度に対して肯定的な影響を持っているのは統計上認められた。
A 関与要因の影響:
感情的関与は直接態度に肯定的な影響を持っている一方で,「雰囲気」にもプラスに影響している。認知的関与は居酒屋への態度に直接的な影響を持っていないが,「雰囲気」にマイナスの影響を示している。
B 感情的関与と認知的関与と「雰囲気」との関係:
感情的関与は,主に「魅力」,「愛着」,「関心」,「生活に不可欠」という感性要因であり,「長く居られる」,「ゆっくり話しができる」という属性に構成された「雰囲気」要因とプラスの関連性(パス強度0.14)を持っている。即ち感情的関与が高いほど,居酒屋で長く居たい,ゆっくり話したいという評価が高くなる傾向が見られる。しかし他方,認知的関与は雰囲気にマイナスな影響を持っている。考えられる理由としては,次の通りである。認知的関与は,主に「居酒屋に豊かな知識を持っている」,「他人にアドバイスできる」という合理性要因なので,この関与が高いほど居酒屋の雰囲気に対する評価が厳しくなっている。つまり,認知的関与が高ければ高いほど,店の雰囲気評価に厳しいという傾向が現れていると理解するのが妥当であろう。
C メニュー要因の重要性:
関与は「雰囲気」と関連(パス)が付いているが,「メニュー」と関連がない。また,「雰囲【12頁】気」の方が態度への影響強度(0.26)が「メニュー」(0.17)よりも強い。このために,全体のモデルにおいて,「メニュー」要因は居酒屋への態度に影響力を持っているが,その影響力は「雰囲気」より小さいことが明らかである。インタビューの結果を考慮すると,メニューは店舗選択に効いているが,どこも似たり寄ったりであり,あまり期待できないと言う諦めに似た傾向が現れていると言えよう。
全体モデルをベースにして,和民の当てはめた個別モデルの結果:
和民個別モデルの解釈:
@ モデルの構造:
和民データを全体モデルに当てはめてみた。結果としてモデルの構造が全体のモデルとかなり類似した結果となった。「メニュー」と「雰囲気」要因は態度へ肯定的な影響があった。それと同時に感情的関与と認知的関与の効果も認められた。
A 関与要因の影響:
感情的関与は直接に態度へプラス影響している一方で,雰囲気へもプラスの関連性を持っていた。認知的関与は雰囲気へマイナス影響を持っていた。これらは全体モデルと類似している。
【13頁】全体モデルをベースにして,魚民当てはめた個別モデルの結果:
魚民個別モデルの解釈:
@ モデルの構造:
魚民モデルに関しては「メニュー」,「雰囲気」から態度への肯定的な影響は和民と同様であった。
A 関与要因の影響:
感情的関与と認知的関与の両者とも「メニュー」,「雰囲気」への影響,さらに態度への影響は統計上で認められず,モデルから消失した。主な原因としては,今回の調査対象は学生であり,「魚民」への理解がそれほど高くないためと考えられる。和民に比べると学生の利用経験がやや低いため,両関与のレベルによっても魚民に関して認識のばらつきがあったからであろう。
【14頁】全体モデルをベースにして,東方見聞録の当てはめた個別モデルの結果:
東方見聞録個別モデルの解釈:
@ モデルの構造:
東方見聞録個別モデルは魚民の個別モデルと類似していた。
A 関与要因の影響:
感情的関与,認知的関与因子はメニュー,雰囲気への影響,さらに態度への影響は統計上で認められなかった。魚民同様,モデルから消失。原因も魚民と同様だと考えられる。
メニューに関する分析のまとめ:
@ グループインタビューの結果から
顧客は店舗選択する際,メニューを一つの選択要因として考えているが,それほどには重視していなかった。また「メニュー」に対する重視度が相対的に低いため,メニューがあまり期待されていない現状が把握できた。
A 共分散構造分析モデルの結果から
共分散構造分析モデルの結果から,以下の3点を読み取ることができる。
まず1点目としては,「メニュー」は全体的に店舗への態度に対して影響力を持ち,顧客の店舗選択要因の一つであることが確認できた。そして,2点目としては,顧客関与はメニュー要因と繋がっていないことがわかった。これは,顧客の感情的関与でも(店の魅力度,愛着,関心など),認知的関与でも(店への詳しさ,他人にアドバイザする能力など)同様であった。最後3点目としてはメニュー要因の影響力が確かに存在しているが,パスの強さから見ると雰囲気要因に劣っていた。
【15頁】以上から,店舗選択要因の本質であるべきメニューは,店舗間での顧客態度に影響があるが,影響力がそれほど大きくない,さらに重要な問題は,顧客の感情的関与と認知的関与と繋がっていないため,このまま本質的属性であるべき提供メニューを磨かないといずれ居酒屋チェーン全体が衰退する可能性もあり,メニューの価値を抜本的に見直す必要性が高くなってきていることが示唆される。
(注:「和民」,「魚民」,「東方見聞録」の全体モデルを当てはめていない個別の独自モデルを作成したが,今回は紙面の制約上,結果の表示を割愛する。)
(2) メニューのカテゴライゼーション
上記の共分散構造分析から,次の2点が明らかとなった。まず1点目は,メニューは居酒屋店舗の態度・選択意図に有意に影響はしているものの,その影響力は他の要因と比べ決定的に強力なものではないということ。そして2点目が,メニューは関与とつながりがないということである。つまり,メニューは消費者にとってそれほど重要な要因とはなっておらず,強い差別化の要素としては捉えられていないと思われる。
それではメニューは顧客に対して重要な差別化原因とはなりえないのか? 答えはおそらくNoであろう。提供メニューの品質は,学生に対するグループインタビュー結果より,「どの店も大差なし。ほとんど期待はできない。差は雰囲気などでつく程度。」となっていた。これはメニューの差別化の工夫が不十分だったことを意味する。では,メニューでの差別化を図るにはどんな施策を取ればよいのか。
メニューの差別化を考慮すると,メニューの提供する料理そのものをいかに優れたものにするかが本質的に重要であるが,本研究では,料理そのものの開発に焦点を当てるのではなく,店側のメニュー提示体系・構成に注目する。これはメニューをどう顧客に認知してもらい,その結果として差別化を早急に図るか,という問題解決につながる。現状を見るとほとんどの場合,店舗サイドの紋切り型で昔からある提示方式(肉料理・魚料理・サラダ類・ご飯物…)となっており,早急に改善できる見込みがあるからである。
では顧客はどのようにメニューをとらえているか? この問いに答えられるのが,先に紹介したカテゴリー化理論である。カテゴリー化理論の実証方法を利用し,顧客視点での提供メニュー内容の分類プロセスを明らかにできれば,より顧客満足を高めることができ,さらに新メニューコンテンツの開発につながっていく。うまく顧客視点のメニューができれば,アピールの仕方で顧客によるメニューの重視度が増大し,メニューに対してセンシティブになる可能性がある。
ここではまずカテゴリー化の考え方から,メニューがどのように顧客の頭の中で捉えられているかをアンケート結果より探り,次にカテゴライゼーションを実行することにより,顧客視点から見たメニュー分類を導く。その際,共分散構造分析で用いた2つの関与で顧客分類を行い,グループ別にメニュー分類を検討する。
<具体的な分析手順>
分析は大きく3段階に分かれる。まずアドホック・カテゴリーの抽出を目的として,大学生と大学院生によるグループインタビューを2回実施した。その結果,23個のイメージ項目が抽出できた。次に,居酒屋の代表的な23個のメニューを選択した上で各メニューに対し,各イ【16頁】メージの言葉がメニューに当てはまるかどうかを,別サンプルを対象としてアンケートにより尋ねた。最後に,アンケート結果をコレスポンデンス分析(数量化理論V類)にかけてマップを描き,各イメージとメニューのプロットから,カテゴリーを探索した(図表15)。以降,各段階の詳細説明を行う。
<第1段階:グループインタビューとカテゴリー項目の抽出>
まず,アドホック・カテゴリーの探索のために,グループインタビューを実施した。インタビューは店舗選択分析における店舗の選択要因と同時に実施しており,従ってインタビューの対象・実施概要は前述とまったく同じである。カテゴリー抽出のために,前述と同じ居酒屋3チェーンで提供されるメニューを見せて,それらについて抱いているイメージや利用シーン,感想などを尋ねた。インタビューの結果と,筆者らの考えなどを元に,以下の図表16にある23のイメージ項目を抽出した。良いイメージばかりではなく,「カロリーが気になる」という項目があったり,物理的な特徴だけでなく「ないと困る」といった顧客の主観に基づく項目があったりすることが特徴である。
【17頁】<第2段階:イメージとメニューの決定と,アンケート実施>
次は,アンケートの作成と実施である。第1段階で抽出された23のイメージ項目を,居酒屋の代表的な各メニューについて評価してもらった。アンケートは前述の店舗選択要因と同時に行っているので,同様にサンプル数が182,被験者は全員学生(20才以上)となっている。代表的な各メニューも23個用意しており,具体的には「枝豆」「串焼き」「ホッケ焼き」といった定番ものが中心だが,中には「エイヒレ炙り焼」「もちチーズグラタン」といった細かいサイドメニューもいくつか含まれている。ただしメニューは居酒屋チェーン「和民」のHPに掲載されているメニューを参考にした。
アンケートにおいては,23個のメニュー項目を表側に,23個のイメージ項目を表頭に配置し,被験者には表側のメニューが表頭のイメージに当てはまると思った場合に「1」のチェックを記入してもらっている。
<第3段階:コレスポンデンス分析の実施と結果の解釈:全体>
アンケートによって集計された182名分の「0-1」形式のデータを元に,コレスポンデンス分析を実施した(使用ソフトはSPSS社が提供するSPSS12.0J)。以下に出力された知覚マップを提示する(図表18)。
【18頁】
四角でプロットされているのが23個のメニュー,丸でプロットされているのがインタビューで抽出したイメージ項目である。データの説明力を表す「イナーシャの累積寄与率」は2次元で0.572となっており,図の2次元で元のデータの6割近くを説明できることを示している。このプロットを見ることで,メニューがどのようなイメージで捉えられているか,つまりメニューがどのようなアドホック・カテゴリーとして整理されているかを視覚的に捉えられる。
続いてメニューをカテゴリーごとにまとめる作業として,2次元までのメニューに関する得点のみを元にしたクラスター分析(Ward法,クラスター数はいくつか実施・検討の上で,6とした。)を実施した。その結果を図表19に示す。
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プロットの丸や三角,四角などの形が,各クラスターを表している。
このクラスタリング結果と,各クラスターに近いところに布置されているイメージを確認すれば,アドホック・カテゴリーとそれに属するメニューがわかる。実際にクラスターごとに解釈した結果を以下に示す。
「量がたっぷりで腹持ちがよいが,カロリーが気になる。味は美味しい」
⇒お好み焼き,ハンバーガー,海鮮あんかけそば&ごはん,パスタ,もちチーズグラタン,ピザ,豚肉入りナスとネギの炒め,鶏唐とネギのピリ辛ソース
「食材にこだわった旬のもの,新鮮で栄養バランスがよい,見た目が綺麗で目玉料理」
⇒お寿司,刺身の盛り合わせ,海老マヨサラダ,有機レタスサラダ,その店の独自メニュー
「ゆっくり食べられて女性向け。他の店と味を比較しやすい」
⇒ローストビーフ,冷麺
【20頁】「健康によく,店の値段を代表している珍味料理」
⇒ホッケ焼き,エイヒレ炙り焼き,子持ちししゃも
「出てくるのが早くてお酒に合う」
⇒枝豆,茄子の浅漬け
「ないと困る定番料理,気軽に食べられて値段が手頃」
⇒軟骨,串焼き,から揚げ
「ローストビーフ」が「女性向け」と捉えられていることなどは,通常ではなかなか考えつかないであろう。またサラダ類は通常であれば健康や栄養といったイメージから「女性向け」と捉えられがちであるが,そうではなかった。ここでは女性向けは「ローストビーフ」や「冷麺」であり,サラダ類は別のカテゴリーに括られていることも注目すべき点であろう。他メニューへの詳細な言及は紙数の制約上割愛するが,以上からどのメニューが顧客にどう捉えられているかが理解できる。
次に店舗選択要因分析と同様に,認知的関与と感情的関与別にカテゴリーを探索する。当然ながら居酒屋に対して高関与である人たちと,滅多に足を運ばない低関与である人たちでは,メニューの捉え方が異なると予想されるからである。認知的関与,感情的関与は前述のとおりであるが,ここではその平均値によりそれぞれの関与を二分し,認知的関与の高低,感情的関与の高低で4つの象限に被験者を分けた(図表20)。両関与の相関係数は0.548となっており,やや強めの相関がある。
【21頁】マーケティング戦略上は,第1象限のセグメントが「居酒屋が好きで(=感情的関与が高く),かつ良く知っている(=認知的関与が高い)」となることから,優良顧客として囲い込むべき最重要ターゲットと言える。このセグメントの顧客に対してはどのようにしてリピーターにするかを考える必要がある。セグメントの特徴としては,居酒屋へ行く月平均回数が4.15回と他のセグメントに比べて多いこと,またひと月の小遣いが比較的多いこと(3万から5万円が半数を占め,10万円以上も1割ほど存在)が挙げられる。
次に優良顧客を増やすためには,それ以外の象限の人を第1象限に持ってくる努力が必要となる。可能性の高いのがセカンド・ターゲットとなる第2象限の「居酒屋好きではあるが,あまり良く知らない」という低認知・高感情セグメントである。このセグメントに対して認知的関与をあげて第1象限に移行させることが鍵となる。第2象限のセグメントは,ひと月の小遣いが少なく(半数以上が3万円未満),また居酒屋にいく月平均回数も3.0回と少ないことが特徴である。つまり居酒屋は好きだが,自由裁量資金が乏しいためいけない可能性もある。前述の三浦(2000)の論のベースともなっているAssael(1987)の購買行動類型を当てはめてみると,Assael(1987)では「製品関与・購買関与」と「ブランド間知覚差異」の各高低によって消費者を4つに類型化しているが,ここでは前者の製品関与・購買関与を「感情的関与」に,ブランド間知覚差異を「認知的関与」に置き換えて考える。するとこの象限のセグメントは不協和解消型購買行動をとると考えられる。不協和解消型購買行動とは,自らのブランド選択が正しかったかどうかに不安があるため,その不安を解消するためにそのブランドの広告等をみるといった行動をとる。この象限のセグメントにはより多くの正確な情報を与えて認知的関与を上げていき,ロイヤル化を図れば,第1象限のような優良顧客となる可能性が大きい。具体的には好まれる情報,特に差別的優位となる情報を探り,それを提示することとなる。
その次に働きかける対象とすべきなのが,第4象限の「居酒屋が好きではないが,よく知っている」,高認知・低感情セグメントである。このセグメントが居酒屋へ行く頻度はひと月平均3.29回であり,ひと月の小遣いは第2象限の人たちよりは多く,第1象限の人たちよりは少ない。この象限の人たちは,Assaelの類型によるといろいろ試そうというバラエティ・シーキング型の購買行動(=多様なブランドを購買する行動)をとる。感情的関与が低いため第1象限への引き上げは第2象限より難しいことから,重要顧客として囲い込むよりも,いろいろなブランドを探索的に購入する層という意味で口コミの重要な源泉としての役割を担ってもらうのが妥当である。従って,正確な印象のよい情報,また他人に伝播を促すような内容の情報を与えることが必要となる。そのためにも来店時によい経験価値を感じてもらう必要がある。
第3象限の低認知・低感情セグメントは短期的なターゲット化は困難であり,本論では分析の対象外とする。ちなみに各象限間で,男女比における目立った差異は確認されなかった。
<コレスポンデンス分析の実施と結果の解釈:第1象限>
次に各象限別に,全体集計で行ったのと同様にカテゴリーの探索を行い,そこからメニュー提示についての示唆を見出す。ここでは紙数の制約上,第1象限と第2象限の結果のみを提示する。
まず第1象限セグメント(61名:居酒屋が好きで,かつよく知っている人たち)によるコレスポンデンス分析結果である。全体の出力と同様に,四角の表示がメニュー,丸の表示がイメージとなっている。点線で囲ってある6つの区分は,メニューデータのみに基づくクラスター【22頁】分析によって6つに分かれたメニュー群と,それに近いイメージを示している。わかりやすくするため,イメージは,赤の矢印で原点から結んでいる。この方向にあるメニューがそのイメージを持っていることを示している。
次元の説明力を示すイナーシャの累積寄与率は,2次元で0.583となっており,まずまずである。まずプロット全体の傾向を述べると,サラダ系や刺身系のメニューが全体の出力と比べて左下に移動しており,ホッケやししゃもなどと近くなっていることである。縦軸を上が「主食系」,下が「つまみ系」と判断するのであれば,認知的・感情的関与が高いと刺身やサラダを「つまみ」として認識しやすくなる,ということであろう。このセグメントだけには,サラダや刺身もお酒と合わせた訴求の仕方を行う,といった施策が考えられよう。
それでは全体集計と同様に,クラスター分析によってまとまったメニューと,それぞれのイメージのまとめを以下に記述する。
「腹持ちがよく,量がたっぷりだがカロリーは多め」
⇒お好み焼き,ハンバーガー,海鮮あんかけそば&ごはん,パスタ,もちチーズグラタ【23頁】ン,ピザ,豚肉入りナスとネギの炒め,冷麺,鶏唐とネギのピリ辛ソース
「みんなで食べられる」
⇒から揚げ
「栄養バランスがよく,ゆっくり食べられ,女性向け」
⇒ロースビーフ,海老マヨサラダ,有機レタスサラダ
「新鮮で旬のものであり,食材にこだわる」
⇒お寿司,刺身の盛り合わせ,その店の独自メニュー
「健康によく,その店の値段を知る役目がある」
⇒ホッケ焼き,エイヒレ炙り焼き,子持ちししゃも
「ないと困る定番料理,気軽に食べられて値段が手頃,出てくるのが早く,お酒にあう」
⇒軟骨,串焼き,枝豆,茄子の浅漬け
全体での結果とこの第1象限セグメントとの違いは,「お寿司」,「刺身の盛り合わせ」,「その店の独自メニュー」が『新鮮で旬のものであり,食材にこだわる』カテゴリーにまとまったことがまず挙げられる。ちなみに全体では,寿司・刺身や独自メニューはサラダ等と共に,『栄養バランスがよい』,『見た目が綺麗』などとも捉えられていた。ここから刺身・寿司・独自メニューは,関与の高い人にはひとつのカテゴリーとして捉えられており,と同時に食材や新鮮さなどの質の高さが求められていることがわかる。また刺身や寿司,それにサラダ類が「つまみ」側へシフトしていたことを考えると,これらのメニューが食事としてより,つまみとしての意識が強くなる とまとめられる。
こうしたカテゴリーの捉えられ方の違いから,この高認知・高感情セグメントへ考えられるメニュー提示としては,高関与と思われる良く来る常連顧客には刺身や独自メニューを軽いサイドメニュー(つまみ的存在)としてアピールすることが効果的である。ただし,高い質が求められているため,質が高くないと逆効果にもなることに注意すべきである。これは意識されているかいないかは定かではないが,既に実践例が見られる。例えば「本日の刺身」などとしてメニューリストとは別の印刷や壁の黒板への掲示がまさに,高認知・高感情セグメントへ向けたメニューの提示方法である。
またこのセグメントでは「枝豆・茄子の浅漬け」と「軟骨・串焼き」が同カテゴリーであるが,全体では別カテゴリーとなっている。高関与と思われる常連顧客にとって串焼きや軟骨といった料理も,枝豆と同じように「お酒に合う」料理または「出るのが早い料理」としてお勧めしてもよいだろう。その他にも,こってりとした食事系のメニュー群のプロットが全体と比較してやや中央よりであることは,高関与の人には多少の油っこいもの,こってりとしたものが居酒屋定番メニューとしては受け入れられやすいことを示している。これは,インタビューからの「たまの居酒屋くらいは健康を気にせず飲食したい」という意見とマッチしている。
<コレスポンデンス分析の実施と結果の解釈:第2象限>
次に,第2象限セグメント(28名:居酒屋は好きであるが,あまりよく知らない人たち)によるコレスポンデンス分析結果である。出力様式は全体・第1セグメントと同様である。説明力を示すイナーシャの累積寄与率は2次元で0.498となっており,若干説明力が低くなっている。
【24頁】
メニューカテゴリーをまとめた結果は以下の通りである。
「腹持ちがよい、量がたっぷりだがカロリーが気になる」
⇒お好み焼き、ハンバーガー、海鮮あんかけそば&ごはん、パスタ、もちチーズグラタン
「値段が手頃で気軽にみんなで食べられる、ないと困る定番料理」
⇒串焼き、から揚げ、軟骨、枝豆
「女性向け」
⇒ローストビーフ
「ゆっくり食べられるし、味が美味しい」
⇒豚肉入りナスとネギの炒め、冷麺、鶏唐とネギのピリ辛ソース、ピザ
「新鮮で栄養バランスがよく、食材にこだわる旬のもの。見た目が綺麗で他の店と味を比較しやすく、店の値段を代表している」
⇒お寿司、刺身の盛り合わせ、その店の独自メニュー、有機レタスサラダ、
海老マヨサラダ
「健康によい、出てくるのが早い、お酒に合う、珍味料理」
【25頁】⇒ホッケ焼き、エイヒレ炙り焼き、子持ちししゃも、茄子の浅漬け
この第2象限セグメントによるカテゴリーの特徴は,第1象限の高認知高感情セグメントでは別カテゴリーとなっていた寿司・刺身・独自メニューとサラダが,全体の結果と同様に,同じカテゴリーであったことである。ここで「このセグメントを優良顧客である第1象限セグメントに移行するために,そのメニューのカテゴライゼーション方式を第1象限セグメントに近づければよい」というスタンスを仮に取ってみる。このスタンスはさらなる調査が必要であり,その因果関係は必ずしも保証できるわけではないため注意を要する。可能性を考えて,あえてこの仮定をとるならば,このセグメントのカテゴリーをどのようにして第1ターゲットである第1象限のプロットに近づければよいか。第1象限のセグメントでは,サラダは「女性向け」,「ゆっくり食べられる」と捉えられていたことを踏まえると,低認知・高関与の人をさらに優良顧客とすべくアピールする場合はまず,寿司・刺身等を独立したカテゴリーとすべく,「旬」の重要さ・美味しさを特別なものとしてアピールすること,そしてサラダはゆっくり食べるもの,または女性向けとして認知・カテゴリー分離を図るというメニュー提示を図ることが挙げられる。
その他にも,第2象限のセグメントではホッケ焼き,子持ちししゃもなどが「茄子の浅漬け」と同様に「出てくるのが早い」,「お酒に合う」と捉えられている点が,第1象限のカテゴリー形成と異なる。また「お好み焼き」や「パスタ」といったメニュー(⇒腹持ちがよい 等)と,「豚肉入り茄子とネギの炒め」「鶏唐とネギのピリ辛ソース」などが別カテゴリーとなっていることも挙げられる。ここから,ホッケ焼きやししゃもなどのメジャーなメニューに対して,材料・調理などの手間やこだわりをアピールすること,また居酒屋には珍しい「鶏唐とネギのピリ辛ソース」などの一品メニューでも,他の定番食事系メニューと一線を引かず,同列に扱えば,第1象限のカテゴリー形成を促すことは可能だろう。
以上,これまで行ってきたカテゴリー分析結果からの知見を元に,具体的施策を実施に移すことを考える。既に述べたように第1象限セグメントの顧客視点によるメニュー提示を通常のメニューに追加することは緊急課題であり,また第2象限セグメントや第3象限セグメントへの働きかけも重要である。その他にも「店員への教育(⇒料理お勧め時など)」,「新メニュー作成への応用(⇒プロットがなされていないところに該当し,かつニーズがあるメニューの構成を創作し,通常のメニューと対にして提示)」,「競合店との比較(⇒競合店との店舗レベルでのカテゴリー把握,または競合店のメニューも踏まえたカテゴリー把握)」,「ターゲット別に店舗戦略をたてる際のカテゴリー把握(⇒女性向け店舗を作るのであれば男女のカテゴリー差をみたり,団塊リタイアを対象にするのであれば世代間のカテゴリー差をみたりなど)」といった応用事例が考えられる。
最後に本研究の限界としては,いくつかの点が挙げられる。まずどういう要因で高認知的関与・高感情的関与セグメントが彼らのカテゴライゼーションになったかが判然としていない。従って,前述の通り,一概に他のセグメントのカテゴライゼーションを第1象限セグメントに無理に近づけることがよいかどうかはわからない点である。従って,これを各セグメントが彼らのカテゴライゼーションをなぜ行い,どのカテゴリーを重視しているかなどの調査が必要で【26頁】ある。手法としては,説明は割愛するが,WEBラダリング法(上田他編著『テキストマイニングによるマーケティング調査』,有斐閣,2005年を参照)など理由を調べる分析やさらに,顧客の重視するカテゴリー属性を調べて顧客満足度の高いメニューをつくるためのコンジョイント分析を実施する必要がある。これらに関しては,いずれも今後実施すべき調査である(上田(2004)を参照)。
そして本研究の分析では大衆居酒屋のみを対象としている点と,サンプルが学生である点で飲食店全般への一般化を難しくしている。本論は,特に手法の提示という点で貢献できたとは言えるが,これらの一般化も調査費用はかかるが,業界において実施すべきであろう。
(参考文献)
【論文等】
・新田都志子(2001)「消費者の知覚に基づくコーヒーショップ市場の市場構造と競争」『日本フードサービス学会年報』第6号(2001年)日本フードサービス学会
・徳山美津恵(2002)「ブランド知識とカテゴリー化理論」『季刊 マーケティングジャーナル』第84号(第21巻4号)日本マーケティング協会
・佐藤善信(1986)「店舗選択行動研究の現状と課題」『岡山商大経営研究所報』第7号
1986.12
・上田隆穂(2004)「平成15年度 消費者情報ニーズ調査報告書」社団法人 日本酪農乳業協会ホームページ http://www.j-milk.jp/expertise/research/8d863s000000xig2.html
・広瀬盛一(2000)「ブランド構築における広告とセールス・プロモーション」『日本フードサービス学会年報』第5号(2000年) 日本フードサービス学会
・星野朋子(1998)「外食産業における環境問題に関する研究—消費者の選択意向への共分散構造分析の適用—」『日本フードサービス学会年報』第3号(1998年) 日本フードサービス学会
・Julie Baker, A.Parasuraman, Dhruv Grewal and Glenn B.Voss(2002)"The Influence of
Multiple Store Environment Cues on Perceived Merchandise Value and Patronage
Intentions", Journal of Marketing, Vol.66, April, 2002(阿部いくみ訳(2003)「商品価値の知覚と愛顧意図に対する店舗環境手がかりの影響」『季刊 マーケティングジャーナル』第87号(第22巻3号)日本マーケティング協会)
【書籍】
・高橋郁夫(1999)『消費者購買行動—小売マーケティングへの写像—』千倉書房
・清水聰(2004)『消費者視点の小売戦略』千倉書房
・上田隆穂(2005)『売りたいのなら,値下げはするな! 日本一わかりやすい価格決定戦略』明日香出版