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中国小型自動車市場における消費者の価格意識
——企業と消費者間の価格意識ギャップの測定——
兼子 良久、上田 隆穂
1.はじめに
中国のGDPは03年から急激な成長を見せ(図1i),05年のGDPは18兆元に達した。05年のGDPを10年前の95年のGDPと比較すると約3倍となっている。また,中国消費者1人当たりの購買力も成長著しい。都市部家庭1人あたり可処分所得は,年平均10%を軽く超える成長率であり,企業にとって中国市場は大きな可能性を秘めた市場であると言える。
しかしながら中国市場には進出企業にとって大きな問題点がある。主要な問題点の1つが価格問題である。中国における様々な製品・サービスにおける市場価格は下落傾向にある。統計的な数値から見ると2003年の物価を100とした時の2004年の消費者物価指数を見てみよう。物価指数の低下は,特に耐久財に顕著であり,教養・娯楽用耐久財は93.3,家庭用耐久財は97.1となっているii(図2)。しかし体感できる下がり方は,ものによってさらに激しいものとなっている。
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このような物価下落傾向は,関税などの理由はあるが,企業の低価格競争も主な要因の1つであると考えられる。成長著しくとも,激しい価格競争の下では利益なき繁忙に陥る可能性は大きい。激しい価格競争は,市場において多大な損失をもたらす。このような価格競争は,企業にとっては消耗戦となり,短期的には利益を圧迫し,長期的には倒産に至らしめる。一方,消費者にとっては,短期的には恩恵を受けるが,長期的には製品・サービスの品質低下に悩まされることになる。結果として,長期的には企業も消費者も不利益を被る。消費者にとって価格は,製品・サービスを購入するにあたっての重要な要素ではあるが,消費者は価格だけを重視しているわけではない。もし企業と消費者との間に,価格に対する意識の溝があるのだとすれば,値下げによる企業の経済損失は計り知れない。よって,価格競争を回避するためにも,消費者の価格意識が企業と一致しているのかを探る必要がある。本稿では,2005年に販売量が世界第二位国となり,現在も普及伸び率が高いが,特に市場価格の低下傾向の著しい中国国内の自動車市場(主に小型車市場)に焦点を当て,企業と消費者間の価格意識のギャップを探る。
2.中国自動車産業の概観
本稿の対象となる2005年における中国の自動車産業について概観する。2005年の中国国内における自動車の販売数量は592万台であり,日本の同年度販売数量の585万台を上回り,中国は世界第二位の自動車市場となった。乗用車生産台数は2002年以降の伸びが特に著しい。2001年の生産台数は約70万台であったが,欧米や日韓の自動車メーカーによる進出の結果,2002年は約100万台,2003年には約200万台に到達。2005年には約300万台と大きな伸びを示しているiii。中国国内における自動車メーカーシェアは,2002年には欧米系メーカーが63.7%と圧倒的であった。欧米系メーカーに関してはフォルクスワーゲンが優位なシェアを保持していた。しかし,それ以降の中国系メーカーシェアの伸びは著しく,2005年には欧米系メーカ【3頁】ーシェアは34.9%であるのに対して,中国系メーカーは38.3%と欧米系メーカーを上回っている(図3iv)。中国系メーカーのシェアが伸びた要因として,WTO加盟をきっかけとした中国乗用車の値下げ,中国乗用車の品質の向上などが考えられる。
01年以降の乗用車市場の急激な拡大の期間において,特に競争が激しくなったクラスは普及車(小型車)クラスであった。メーカー数は99年の4メーカーから02年には12メーカーへ,主要モデル数は99年の9モデルから02年には22モデルへ大幅に増えた。また,生産台数も99年から02年にかけて,軽乗用車クラスは約1.1倍,小型車は3.2倍,中級車は1.9倍,中高級車は2.1倍と,各クラスの中でも小型車が大きく伸びたv。現在,乗用車の中でも小型車は乗用車年間販売台数の3割以上を占めている。乗用車に占める小型車の販売比率の伸びは比較的緩やかになってきているものの,現在も上昇し続けている。
乗用車の価格動向に目を向けると,中国系メーカーの台頭もあり,値下げ競争は過熱し,乗用車の販売価格は低下し続けている(図4vi)。価格競争激化で,販売の増加が利益に結びつかないケースが出始めており,2005年度の1—9月は中国の乗用車メーカー二十六社中,十五社が赤字となった。さらには希望小売価格を大幅に絶えず引き下げているため,価格に対する不信感から買い控えを強めている傾向も見られるようであるvii。小型車の販売価格も下降傾向であり,5万元を下回る車種も登場している。
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このように激しい価格競争に陥っている代表的な市場である自動車市場(主に小型車市場)に焦点をあてることは,企業と消費者間の価格意識のギャップを探るという目的に適うものである。
3.調査概要
中国市場における小型車を対象とした,企業と消費者間の価格意識のギャップを探るにあたり,自動車メーカー・販売店勤務者向けと中国消費者向けの2種類のアンケートを実施した。実査にあたってはインターネット調査を利用した。また,アンケートの対象者は,(株)サーチナの協力により,中国国内のアンケートモニターを利用した。
@中国消費者向け調査
小型車市場を対象とするため,消費者向けの調査は,小型車(1000〜1500cc未満)を新車で2年以内に購入している25歳以上の男女とした。結果,最終的な有効サンプル数は482名となった。消費者向けアンケートにおける回答者の傾向として,20代の回答者が全体の約65%を占めており,生活水準の高い層が中心となっている(図5・図7)。この傾向は,調査手法としてインターネットを活用していること,及び小型車の新車所有者を対象としていることに起因しているためであろう。
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Aメーカー・販売店勤務者向け調査
メーカー・販売店勤務者向けの調査は,自動車メーカーもしくは自動車販売会社に勤務しており,小型車(1000〜1500cc未満)を担当しているものとした。また,職種は,営業・技術・研究開発・経営,設計・デザインのいずれかとした。結果,最終的な有効サンプル数は,少なめであるが120名となった。
4.価格関与指標の測定
中国消費者向けのアンケート結果を基に,価格についての3つの機能である「支出の痛み(犠牲)」「価格の品質バロメーター」「価格水準自体が生み出す社会的プレステージ」から,価格関与に基づいた消費者のグループ化を試みるviii。「支出の痛み(犠牲)」とは,消費者にと【6頁】っての金銭的な支出の痛みを示している。「価格の品質バロメーター」「社会的プレステージ」は,価格が高い方が消費者に受け入れられる性格を持つ。「価格の品質バロメーター」とは,製品・サービスの品質判断基準としての価格の機能である。製品・サービスに関して品質判断基準が少ない場合は,価格の高いものは品質も良いという価格の品質バロメーター機能が強く働く。「社会的プレステージ」とは,プレステージや社会的地位を表すものとしての価格の機能である。消費者は価格が安い方が高いよりいいことはわかっているが,単に高いからという理由でそれを欲しがることがある。その製品・サービスの価格が高いことによって,価値を生み出していると考えるならば,自分の地位を象徴するものとして,より高い製品・サービスを購入するだろう。
消費者が製品・サービスを購入する際に,「支出の痛み(犠牲)」「価格の品質バロメーター」「価格水準自体が生み出す社会的プレステージ」の3指標(以下,価格関与指標とする)をどの程度考慮しているかを測定できれば,価格に対する指標を基にした消費者分布を調べることができる。アンケートでは消耗品・耐久品それぞれについて3つの指標を測定している。回答者には,消耗品・耐久品それぞれについて,以下の項目に7段階で回答してもらった。実際の質問時には,各項目は質問対象用(消耗品・耐久品)に修整している。
○価格関与指標
・支出の痛み(犠牲)
どのくらい安くなっているかが気にかかる
バーゲンや特売がある時に購買する
どこでも買えるならばディスカウントストアで買う方がいい
価格の変化をまめにチェックする
・品質バロメーター
安物を買って後悔したくない
高い商品は品質が良いと思う
高い商品を買っておけば,面倒がなくて良い
・プレステージ
正直に言うと,他人に印象づけるために私は高い商品を買う
他の人たちが私よりも高い商品を買っているかどうかは時々探ってみたくなる
価格の高い商品を買うことによって他人に自分を印象づけることができる
次に価格関与指標(「支出の痛み(犠牲)」「価格の品質バロメーター」「社会的プレステージ」)ごとに各項目の数値を合計し,それぞれの指標の数値が0から1の間になるように修正した(もちろん素点のままの分布でもよい)。最後にクラスター分析を行い,回答者を傾向が類似するグループに分けた。クラスター分析の結果,消耗品・耐久品ともに3つのグループが作成された。消耗品・耐久品に関する価格関与から作成された各グループの相対的位置関係は図【7頁】10・図11の通りとなった。抽出されたグループは「品質バロメーターのみが高いグループ(G1)」「支出の痛み(犠牲)のみが高いグループ(G2)」「全ての項目で高いグループ(G3)」であった。G1は,商品購入の際,品質判断基準を価格に求めるため,価格許容範囲が広い層である。G2は,支出の痛みが大きく,価格許容範囲が狭い層である。G3は,品質判断基準を価格に求める一方で支出の痛みも大きく,価格許容範囲は中程度の層である。G1は消耗品が28.2%であるのに対して,耐久品が20.1%。G2は消耗品が45%であるのに対して,耐久品が46.9%。G3は消耗品が28.8%であるのに対して,耐久品は33%。消耗品に比べると耐久品は,G1の構成比率が8%程度小さく,G3が6%程度大きくなっているが,消耗品・耐久品といった大きなカテゴリーを対象としているため,結果は両方ともほぼ同様の結果となっている。今回の調査対象者は,富裕層が多く含まれているため,結果は多少偏っている可能性があるものの,価格許容範囲が狭いグループ(支出の痛み(犠牲)のみが高いグループ)は全体の半数以下であった。
【8頁】次に同様の方法で,中国消費者の小型車に対する価格関与からグループを作成する。メーカー・販売店勤務者に実施したアンケートにおいて,想定される中国消費者の小型車価格関与についての質問をした。ここでは「中国消費者の小型車に対する価格意識」と「企業側が想定する中国消費者の小型車に対する価格意識」から作成されたグループの比較を行った。結果,「小型車」に関する価格関与から作成された各グループの相対的位置関係は図12・図13の通りとなった。小型車カテゴリーにおいて,「中国消費者の小型車に対する価格意識」と「企業側が想定する中国消費者の小型車に対する価格意識」から作成されたグループ構成比率を比較してみると(図14),「品質バロメーターのみが高いグループ(G1)」は,消費者が50.8%であるのに対して,企業側は19.5%。「支出の痛み(犠牲)のみが高いグループ(G2)」は,消費者が17.8%であるのに対して,企業は19.5%。「全ての項目で高いグループ(G3)」は,消費者が31.5%であるのに対して,企業は61.1%であった。小型車の購入に関して価格許容範囲の広い層は,消費者が50.8%であるのに対して,企業側の想定は19.5%であり,企業が想定するよりも,支出に関する許容範囲の広い層が30%程度多い。この結果から,企業には「消費者は低価格意識が強い」との過剰な思いこみがあるということがわかる。
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4.企業側の価格に対する意識
メーカー・販売店勤務者に対するアンケートから,企業の価格意識について,さらに掘り下げてみる。アンケートは大きく分けて,小型車に関する中国市場の現状と今後についての質問からなる。まず,回答者には,市場において価格競争がどの程度の激しさなのかを7段階で質問している(図15)。結果,「かなり(激しい)」との回答は,全体の約3割を占めた。また,7段階中のトップ3(※「かなり〜5」)では全体の約8割を占めた。程度の差はあるものの,ほとんどの回答者が少なからず価格競争の発生を認識しており,小型車市場での価格競争の常態化がわかる。また,この価格競争はなぜ発生しているのか,その要因として考えられるものに関して質問した(図16)。結果は「消費者の低価格志向」が約6割で突出している。企業の消費者意識に対する感覚として,「消費者は低価格意識が強い」との思いがあることが示されている。
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次に,小型車に関する中国市場の今後として,メーカー間競争に勝つために重要だと思う項目について,複数回答と単一回答で質問した(図17)。結果は,「より低価格な自動車の販売」の割合が突出して高かった。この回答からは,今後もさらなる価格競争の激化が予想される。一方では,「ブランドイメージの差別化」「製品機能の差別化」の割合が高く,差別化の重要性も認識していることもわかる。それに関連し,今後の小型車の市場価格の見通しについて質問した(図18)。全体では「かなり下がる」が33%。全体では「やや下がる」の回答が最も多い。しかし,メーカーによって今後の価格動向の見通しに大きな違いが見られる。「かなり下がる」との回答は,「合弁メーカー(日本)」で約8割であるのに対して,「国内メーカー」では2割程度となっており(※合弁メーカー(アメリカ・ヨーロッパ)は回答者少数のため,比較データ【11頁】としては非呈示),中国系メーカーに対して,日本系メーカーの方が値下げ圧力を強く感じていることが明らかになった。
メーカー・販売店勤務者に対するアンケートから,小型車市場における価格競争の常態化,そしてその価格競争の要因の1つが,企業側の「消費者は低価格意識が強い」との思いこみにある可能性が高いことが示された。また,企業はメーカー間競争に勝っていくためには,今後【12頁】も「より低価格な自動車の販売」すべきと考えており,小型車価格の連続的な低下の大きな可能性が示された。しかし,全ての消費者が価格だけを重視しているわけではない。消費者にとって,自動車購入の際,ブランド,外観,排気量,色など(属性と呼ぶ)選択基準は多い。消費者は全て同一ではなく,価格を重視して購入するグループや,価格以外の項目をしているグループなど様々な特性を持つグループで構成されていよう。以降では,小型車を購入するにあたっての小型車価格に対する感度を基に,消費者がどのようなグループで構成されているのかを探る。
5.小型車への相対的価格感度をみるためのグループ化
価格感度を探るための,消費者のグループ化にあたっては,コンジョイント分析を利用した。コンジョイント分析は,仮想商品群を提示して,それらの好みの順序を回答してもらう方法である。この方法は,実際の商品選択の状態に近く,信頼性の高い結果が出やすい。また,価格の需要範囲を探るPSM分析と呼ばれる手法と比較して,価格にトピックを絞らないため,回答者が価格コンシャスになりにくいという長所がある。仮想商品群を作成するにあたっては,属性(大きな特徴)を「外観」「ブランド」「価格」「排気量」の4属性とした。また,属性の内容を示す水準については「外観」を『セダン』『コンパクトカー』の2水準,「ブランド」は『純国産』『日本』『アメリカ・ヨーロッパ』の3水準,「価格」は『5万元』『10万元』『15万元』の3水準,「排気量」は『1100CC』『1300CC』『1500CC』の3水準とした(表2)。次にコンジョイント分析結果から得られた,個人毎の属性水準得点と呼ばれるものを基に選択の好みで類似傾向を示す消費者グループ(特にクラスターと呼ぶ)に分けた。結果,4つのグループに分かれた。グループの構成比率は,クラスター1が33%で最大グループ,クラスター2が14.1%で最小グループとなっている(図19)。
【13頁】以下に示す結果で,属性重要度とは,製品選択の際に,どの属性(「外観」「ブランド」「価格」「排気量」)をどの程度重視しているかを意味する。効用値とは水準(「外観」であれば『セダン』『コンパクトカー』)ごとの重要度を示している。
□クラスター1(構成比率:33%):図20
構成比率が最大のグループである。「価格」に対する属性重要度が突出しているものの,最低設定価格5万元での効用値が非常に低くなっており,10万元以上で効用値が高くなっている。つまり,このグループは「価格」を重視する層ではあるが,高価格受容グループであると思われる。2番目にはブランド国籍を重視しているが,中国ブランドを評価せず,欧米ブランドを最も好み,そして次に日本ブランドを評価している。したがって,このクラスターは日系企業の好ましいターゲットとなり得るグループである。
□クラスター2(構成比率:14.1%):図21
構成比率が最小のグループである。「排気量」「ブランド国籍」に対する重要度が大きい。「排気量」に関しては小排気量ほど評価が高く,「ブランド国籍」では純国産ブランドを好む愛国派である。価格重視度は比較的小さく,価格による効用値の大きな変化はない。
□クラスター3(構成比率:26.1%):図22
このグループは,「価格」に対する属性重要度が突出しており,その点ではグループ1と同様である。しかし,最低設定価格の5万元の効用値が最も高く,最高設定価格の15万元の効用値は大きくマイナスである。したがって,このグループは,典型的な低価格重視層であると思われる。
□クラスター4(構成比率:26.8%):図23
「ブランド」に対する重要度が突出しており,日本ブランドの効用値が非常に低い水準となっている。一方,「価格」の重要度が非常に低くなっており,価格による効用値の大きな変化はない。このグループは,「日本車」を極度に嫌う傾向を示しており,反日派グループであると思われる。このクラスターは,「価格」の重要度が低いという点で好ましいグループではあるものの,日系企業が取り込むことは,短期的には難しいグループである。
以上のことから,小型車の購入に関して,低価格を最重視しているグループはクラスター3のみであり,全体構成比率から見ても25%程度であることがわかる。その一方で,高価格受容グループは最大の構成比率を占める。したがって,小型車の購入という観点から見れば,低価格重視ではないグループ(クラスター1・クラスター2・クラスター4)が全体の7割以上を占めるということが示されている。現在の企業戦略としては,「消費者は低価格意識が強い」との思い込みにより,全体で25%程度である低価格重視層を過大評価していると考えられる。
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各クラスターの属性重要度と効用水準
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次にコンジョイント分析から得られた消費者グループに関し,それぞれのグループの「小型車の妥当価格」について検証する。アンケートでは,回答者に対して,小型車の「妥当だと思う価格」について質問している。各クラスターの妥当価格の出現頻度を示したのが図24である。結果は,クラスター2(愛国派),クラスター3(低価格重視派)の妥当価格の最頻値は8万元,クラスター4(反日派)の最頻値は10万元,クラスター1(高価格受容層)の最頻値は15万元となっている。各クラスターの最頻値の最低価格はクラスター2とクラスター3の8万元である。5万元を下回る小型車が発売されている現在,消費者観点から見れば,それは安すぎる価格と考えられ,企業の経済損失が発生している可能性が示される。
6.まとめ
激しい価格競争は,市場において多大な損失をもたらし,長期的には企業も消費者も不利益を被る。消費者にとって価格は,製品・サービスを購入するにあたって重要な要素であるが,価格だけを重視しているわけではない。企業と消費者との間に,価格に対する意識の溝があるのだとすれば,値下げによる企業の経済損失は計り知れない。本研究では,中国市場における小型車市場を例にとり,消費者の価格に対する意識と企業の価格に対する意識のギャップを探った。まず,企業側は,小型車に関して「価格の許容範囲が狭い層」が中国消費者の中心だと想定していた。一方,実際の中国消費者は企業側が考えるよりも「価格の許容範囲が広い層」が多く,「消費者が小型車に対して強い低価格意識を持っている」という強い思いこみがあり,価格意識のギャップが存在することがわかった。また,企業側の約8割の企業担当者が「価格競争」の発生を認識しており,「消費者の低価格志向」との思い込みが価格競争を促進している要因の1つである可能性が高いことを示した。次に消費者を小型車の購入に関する価格感度からコンジョイント分析を行い,その結果を基にクラスター分析を行った。その結果,「高価格受容グループ」「愛国派グループ」「低価格重視グループ」「反日派グループ」の4つのグループが作成された。各グループの構成比率を見ると,低価格重視グループは全体の25%程度に過ぎず,高価格受容グループが構成比率最大の33%を占めていることがわかった。また,【17頁】各グループの小型車に関して妥当だと思う価格については低価格重視層でも最頻値は8万元であり,5万元を下回る小型車が発売されている現在,消費者観点から見れば,それは安すぎる価格と考えられ,企業の経済損失が発生している可能性を示した。
日本の自動車合弁企業の観点から,今後とるべき戦略について述べる。日系メーカーとしては,本調査の「高価格受容グループ」と「低価格重視グループ」をターゲットとすべきであり,「愛国派グループ」「反日派グループ」は,短期的にはターゲットになり得ないだろう。通常の大手は,付加価値戦略で「高価格受容グループ」をターゲットとすべきである。日本車のイメージは,それほど悪くないため,早急なブランドイメージのアップを図ることが重要である。「低価格重視グループ」に関しては,コストダウンを得意とし,低価格路線が得意なメーカー得意な企業が向いている。コスト・リーダーシップが確立できれば有望である。ただし,この層をターゲットとする場合でも企業の想定価格は低すぎる可能性がある。小型車のちょうど良いと感じる価格は8万元が最頻値である。
また長期的には愛国派,反日派への対応として,韓国におけるレクサスの普及のように日本国籍色を薄めたブランド戦略での対応が必要であろう。
(注)この調査研究は株式会社サーチナの協力により,無償でインターネット・リサーチを行った。ここにサーチナにそのご協力を感謝申し上げる。またこの研究には,一部,2006年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B))「マーケティング技術と実務知識の日本から東アジア諸国への移転研究」が使われた。