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従業員ストック・オプションの費用の測定
鈴木 大介1、川本 淳
Appendix 2 ESOのコストと労働サービスの経済的価値
要約
本稿では,企業会計の根底にある考え方と,従業員ストック・オプション会計の根底にある考え方との関係を論理的に明らかにする作業の一環として,従業員ストック・オプションの費用の期間帰属と測定の決定要因を検討する。そのため,まずは従業員ストック・オプションの効果と影響を確認する。そのうえで,労働サービス費消説,現金報酬準用説,希薄化説という,3つの従業員ストック・オプションの費用認識の根拠を確認し,それぞれの根拠から,費用の期間帰属と測定を考察する。そこでは,付与時,権利確定時,清算時の各1時点で費用認識する見解,対象勤務期間に費用認識する見解,費用認識以降に再評価を施す見解について検討している。こうした検討から,それぞれの費用認識の根拠はもとより,従業員ストック・オプションにかんする報酬の期間帰属や測定の技術的問題,概念フレームワーク,さらには従業員ストック・オプションのリスクといった点が,少なくとも,従業員ストック・オプションの費用の期間帰属と測定の決定に影響をあたえていることが明らかにされる。なお,Appendixには,本文で詳述しなかったものの,考察の基礎となった試論のいくつかが収められている。
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1 はじめに
株式から派生したオプションである,従業員ストック・オプション(Employee Stock Options: 以下,ESOと記す)を従業員等に付与した場合,一定の条件のもとでは,従業員等のペイオフが,株主のペイオフとリンクすることになる。次節でみるように,ESOの付与によって,企業価値の一部が,既存株主から従業員等に移転するからである。この点,通常の現金報酬とは異なるものの,労働サービスにたいする対価として従業員等の富を増加させることから,ESOの付与は報酬とされる。しかし,同じ報酬とはいえ,現金による報酬とESOによる報酬の違いは,企業会計の議論では,大きな問題を引き起こす。企業は,概念的には,出資者が委託した財を運用している,といえるが,現金報酬の場合には企業が運用する財の一部が従業員等にたいする報酬とされる一方で,ESOの場合には,株主が保有する株式にかんする富の一部が,直接,企業を経由せずに従業員等に移転するからである。企業会計は企業の財の運用に関心があるので,企業の財が直接的には変動しないESOは,企業会計の性格からして特殊な問題を惹起させるわけである。
このような認識がないのかはともかく,現行のESO会計では,まずは費用認識ありき,で議論が進んでいるように思われる。かなり特殊な性格をもつ,ESOの費用認識を正当化するための根拠として,筆者はすでに,労働サービスに着目する見解,報酬として付与する点に着目する見解,そしてESOの付与にともなう希薄化に着目する見解について考察している(鈴木[2006b])。それらのいずれかの見解からESOを認識するとしても,ESOの費用の期間帰属とその測定は,そこからどう決まってくるのであろうか。
本稿では,この問題を検討するため,まずはESOの効果と影響を確認する。そうした作業から,企業会計の議論において,ESOのどの側面が重要となるのかもみえてくるであろう。そのうえで,3つのESOの認識の根拠を確認し,それぞれの根拠からみた場合のESOの費用の期間帰属と測定について検討する。ESOの認識の根拠の違いが,企業会計におけるESOの見方に違いをもたらし,それが費用の期間帰属にかんする見解の違いを生じさせるか確かめるのである。また費用の期間帰属が異なれば,測定のタイミング,さらには再評価の要否に影響が生じる可能性もある。そうした検討をふまえて,費用認識の根拠とともに,期間帰属とその測定を決定する要因を明らかにしていきたい。
2 ESOの効果と影響
ESOとは,契約によって決定される価格で自社の株式を購入する権利であり,従業員等に付与されるものである2。付与されたからといって現金収入が保証されるわけではないが,ESOは,報酬として,従業員等に付与されている。ESOの性質上,in-the-moneyであれば付与され【119頁】た者のペイオフが株価に依存することから3,しばしば,ESOの付与はインセンティブ報酬として説明されている4。従業員等が労働サービスを提供することで株価が上昇し,それに比例して,従業員等のペイオフも増加することが期待されているというわけである。従業員等の報酬の少なくとも一部を企業の株価に依存させることによって,労働にたいするインセンティブを高めることが意図されているのである。
ただ,労働にたいするインセンティブを高めることだけが目的であれば,従業員等のペイオフを株価に依存させることが唯一の方法ではない。従業員等が労働サービスを提供したからといって,それが市場で評価されなければ株価の上昇は望めない。それを考えれば,効率的な方法はほかにも考えられる。この点,ESOを付与する理由は,少なくとも,もうひとつある。
一定の場合に,株主のペイオフと従業員等のペイオフがリンクするESOは,エージェンシー問題の対策としても議論されている5。ここでのエージェンシー問題とは,出資者である株主のペイオフを犠牲にすることで,従業員等が自身のペイオフの増加を意図するときに生じるものであるが,Jensen and Meckling[1976]では,プリンシパルのモニタリングのコスト,エージェントのボンディングのコスト,インセンティブの問題から生じる成果の減少分となる残余コストの合計をエージェンシー・コストとしている(pp.308-310)。
しかし,ESOがエージェンシー・コストを削減する手段となるとしても6,ESOが十分に機能しなければ,本来,株主が獲得したはずのペイオフを,従業員等がかわりに獲得してしまう,といった事態は起こりえる7。従業員等が労働サービスを提供せず,それにもかかわらず,他の要因によって株価が上昇した場合が少なくともこれに該当する。そうした犠牲それ自体がエージェンシー・コストかどうかはともかく,報酬目的で付与されるESOの経済的価値の少なくとも一部は,株主がこうむる,対価のないコストとなりうるのである8。ESOを付与したからといって従業員等が労働サービスを提供するとはかぎらない,という事実は,ESO会計の議論に影響を与える可能性がある。
さて,一般的なESOの場合には,1時点で完結せず,複数の期間にその影響がおよぶことが普通であることから,ESOの一連の流れについても確認しておこう。
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会社法によれば,ESOの募集事項の決定は株主総会の決議による,とされている(第238条第2項)。そこでは,募集事項の決定の委任,さらには公開会社における募集事項の決定の特則として,そうした手続きの緩和を認めているものの,株主の承認のもとでESOが付与される,という前提に違いはないであろう(第239条,第240条)9。その結果,ESOの付与にかんする情報は,付与以前に,少なくとも既存の株主には既知となるはずである10。ところで,ESOが付与された日を付与日というが,FASB [2004] では,この付与日を,株式にもとづく報酬の契約条件について,事業主(employer)と従業員等の相互理解がえられた日,と説明している(Appendix E GLOSSARY :Grant date)。つまり,ESOを付与されたからといって,ESOを獲得したわけではないことに注意したい。この時点では,あくまで,将来,ある行使価格で自社の株式を購入する権利の授受にかんする契約をするだけであり,その権利の獲得は,権利確定日をまたなければならない11。
その一方で,ESOの付与にかんする情報が株式市場に伝えられた場合,この情報は,その時点での株価の下落要因となる。ESOの付与によって,将来,株式の有利発行がおこなわれる可能性が生じた以上,その点だけをみれば,ESOの付与は既存株主にとって不利な事象だからである。たしかに,ESOが行使される可能性は将来の事象ではあるが,株価の性格上,そうした将来の事象は,市場が効率的であれば,現在の株価に反映されるであろう12。
【121頁】もちろん,ESOの付与によって,少なくとも,従業員等にたいするインセンティブ効果やエージェンシー・コストの削減,さらには税の効果が期待されうることから13,ESOの情報を市場がうけとった場合に,株価を上昇させる効果もある。したがって,正味で考えて,必然的に株価が下落するというわけではない14。むしろ,理屈からすると,正味で株価を下落させるようなESOを株主が承認するはずがない。あくまでESOの付与の情報には,株価を下落させる要因があるというだけである15。この点は,通常の現金報酬であっても同様であるが,ESOの場合には,現金報酬とは異なり,出資者が企業に委託した財が流出しない一方で,直接的に,株主の財の経済的価値(株式価値)の下落要因となるのである。
ところで,ESOの契約の形態はさまざまであるが,一般に,従業員等がESOを獲得する条件としては,勤務条件と業績条件のふたつの種類があるといわれている。前者は,その条件が一定期間の勤務それ自体にあるもので,後者は,株価をふくむ,一定の業績の達成を条件とするものとされている16。すなわち,契約により定められた条件を達成した場合に,はじめてESOを行使することが認められるのである。株式市場では,それらの動向が各種の情報をもとに観察・予測され,株価に反映されることになる。それによって,ESOの経済的価値も変化するのである。なお,こうした条件を達成した日は権利確定日とされており,付与日から権利確定日までの期間は対象勤務期間といわれている17。
ESOの権利が確定すれば,ある一定期間,従業員等はESOを行使することが可能となる。この一定期間を,権利行使期間という18。この時点になれば,従業員等は,ESOをアメリカン・オプションとして保有しているとみることもできる。なお,従業員等の労働サービスによる株価上昇が期待できるとすれば,従業員等には,対象勤務期間のみならず,権利行使期間においても,労働サービスを提供するインセンティブがあることに留意すべきである。対象勤務期間ではESOを獲得するために労働サービスを提供し,権利行使期間では単純に自己のペイオフを増加する目的で労働サービスを提供する,という区別はありえるが,インセンティブ効果は付与時からESOの清算時まで生じているはずである。もちろん,だからといって実際に労働サービスが提供されることが保障されているわけではない。
ところで,ESOの権利を従業員等が獲得したものの,権利行使期間中に行使しなければ,権利を獲得するための条件を達成できなかった場合と同様に,ESOは失効することになる。この場合,結果的には,従業員等はなにもえられない。それにたいして,ESOを行使すれば,一般【122頁】には,市場価格を下回る行使価格で株式を購入することができる。その株式を売却することで,従業員等は,はじめてESOの経済的価値を換金することが可能となる。すなわち,ペイオフをリスクから解放することができるのである。ただし,インサイダー規制があって株式を売却できない場合もあれば,企業がESOを直接買い取ったり,ESOそれ自体に譲渡制限がないため,株式を購入する必要がない場合はあるかもしれない。
それはともかく,株式市場では,もはやESOの情報は既知であることから,従業員等の実際の行使への反応は少ないはずである。しかし,ESOが行使されれば,持分の希薄化が生じ,発行済株式数の増加が既存株主にとっての一株当たりの利益を押し下げる,という見解は多くみられる19。これにたいして,Deshmukh et al. [2002] では,ESOの行使に新株が使用された場合には,発行済株式数が増加し,一株あたり利益の希薄化をもたらすが,企業が行使時に自己株式を市場から買い戻せば,発行済株式数にも,一株あたり利益にも影響はないとしている(pp.43-44)。そのほか,ESOの付与時より,ESOの行使にかんする予測の株式発行数が一株当りの利益の計算の分母に加えられる方法も考えられている。要するに,一株あたり利益の計算がどう変わってくるかは,ESOが関係者に与える影響としては本質的ではないと考えられる。
いずれにせよ,市場において重要なのは,ESOの存在が,行使される以前に知られていることである。この点,Hull and White [2004] は,(1)付与以前に,ESOが付与されることが市場で予測されていれば,株価は,ESOが付与されても変化しない,また,(2)付与時点で予測しておらず,かつ,ESOによる資金流出の減少やインセンティブ効果にかんして,ESOの付与が株主によってメリットの少ないものであると判断された場合には,株価は下落するとし,その下落分を希薄化のコストとしている(p.8)20。効率的な市場では株価が将来の事象を反映することから,ESOの付与それ自体に関連する株価の変動は,ESOの付与が明らかになった時にのみに生じる可能性があり,その後は生じないとされているわけである(p.8)。
さて,これまで,ESOにかんする付与から行使までの流れを概観してきた。なかでも,労働にたいするインセンティブ効果,ESOが報酬とされている点,さらにはESOを付与することで既存株主の富に影響がおよぶ点は,ESO会計の議論に大きく関わってくる。それらをふまえて,つぎに,企業会計におけるESOの費用の期間帰属と測定の問題を検討していこう。
3 費用の期間帰属と測定
3-1 費用の認識の根拠
周知のとおり,現行の会計基準では,ESOは費用として認識されている。ESOを費用として認識する根拠を,多くの論者は,企業は,従業員等にESOを付与することによって,労働サービスを取得し,瞬時に費消することから費用認識が必要であると説明している。たとえばIASB[2004]では,ESOの付与によって労働サービスが企業に提供されるとし,その提供さ【123頁】れる労働サービスの価値によって費用を測定すると指摘している21。もちろん,ESOを付与しても,企業の保有する財になんら変化がない。それにもかかわらず,費用を認識するのは,少なくとも従来の利益測定にはない話である。これにたいして,FASB [2004] は,そうした従業員等の労働サービスは,瞬時的には,資産とみなせるので財に変化がないとは言えないと指摘している(para.B16)。さらには,ASBJ [2005] でも,現物出資や償却資産の贈与をうけた場合を例として,労働サービスの費消を根拠とした費用の認識が説明されている(第38項)22。以後,こうした見解を「労働サービス費消説」と呼ぶことにしよう。
もうひとつの説明は,勤務費用の認識において,対価の違いは本質的ではないという考え方である。すなわち,従業員等に勤務報酬を支払う手段として,現金の代わりに,ESOでは自社株式購入オプションを用いているにすぎない。そこで,企業が自社株式オプションを有償で発行し,受け取った現金をそのまま報酬として従業員等に与えると考えることで,ESOの費用認識を正当化するのである。たとえばGuay et al. [2003] は,ESOの取引は,自社株式オプションの売却と現金報酬の二つの取引と同値である,としている(p.405)。Ohlson and Penman [2005] も同様の説明をしているが,そこでは,ESOの保有者が企業のために働くという事実は会計処理の対象ではないと指摘している(p.19)。つまり,従業員等が実際に労働サービスを提供したから費用認識するということではなく,労働サービスへの対価という名目で,とにかく現金に代わるものを与えているので,その分を費用認識するということである。以後,こうした見解を「現金報酬準用説」としよう。
さて,ESOの付与によって富の移転が生じる点は前節でみたとおりであるが,Bodie et al. [2003] が指摘しているように,ESOの費用を認識する根拠として,ほかにも,既存株主から従業員等への富の移転に着目した見解がある(p.64)。既存株主から従業員等への富の移転を,既存株主による企業への出資と,企業による従業員等への報酬の支払い,を擬制することで,資本と利益の計算に影響させる,というのがここでの説明である23。ESOにかんする富の移転は,既存株主と,ESOを付与された従業員等との富の交換にすぎない,という見解があるが24,ここでは,付与時に,既存株主の富が企業に出資され,瞬時に,その富が従業員等にあたえられた,という擬制をすることで資本と利益の計算に影響させるのである25。
上記の「現金報酬準用説」では,ESOを付与された者が企業に出資を行っているものとみなされることになるが,富の移転による説明では,既存の株主が出資者とみなされることになる。Appendix 1で検討するように,そのような擬制に十分な合理性があるかについて,問題がないわけではないが,以後,こうした見解を「希薄化説」としよう。
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3-2 1時点の費用認識と測定
ESOを費用認識することに決めても,どの期間に,いくらを計上すべきかについては,さらに考える必要がある。ESOの付与から満期までが複数の期間にまたがっている場合,特定の1期間にすべての費用を認識するのか,あるいは,複数期間に費用を配分するのかが問題となる。そこで,本稿では,上述の費用認識の根拠(「労働サービス消費説」,「現金報酬準用説」,「希薄化説」)に照らして,この問題を検討していく。まずは,ある特定の期間(付与時,権利確定時,清算時)に費用を認識する方法を取り上げることにする。
付与時
Hull and White [2004] は,ESOを対象勤務期間の労働サービスにたいする報酬とみる従業員等はほとんどおらず,ESOは過去の労働サービスにたいするボーナスと同じである,と指摘している(p.4)26。そこでは,一般的なESOの付与が,過去に提供された労働サービスにたいする事後的な報酬と考えられているわけである。この場合,直感的には,ESOの費用は,付与時点における過年度損益修正として認識される,と考えることができるであろう27。もちろん,事後的な報酬としてESOが付与されるということが分かっているなら,予め将来の勤務費用を見越計上すべきであるという話になろう。しかし,典型的な退職給付とは異なり,ESOについて正規のプランが存在するわけではないだろうから,それは無理な話であろう。
ここで,現金報酬準用説で考えると,付与時において,権利確定条件のついた自社株式オプションが従業員等に売却され,その対価が直ちに過年度の勤務にたいする報酬となり,ボーナスとして支払われるということになろう。したがって,自社株式オプションの経済的価値(現金でオプションを発行していたら得られたであろう額)によって費用が測定されることになる。ただし,この自社株式オプションには権利確定条件が付いていることに留意する必要がある。
次に,労働サービス費消説で考えると,報酬の対象となった過年度の勤務とはどの範囲を指すのか,また,範囲が特定できたとしても,そこで従業員等が提供した労働サービスの価値はいくらになるのかという面倒な話になる。そもそも,過年度の勤務とはあまり関係のなく,今年度の固有の事情から与えられたボーナスであったとしたら,労働サービス費消説では,ここで費用を認識することに正当性はない。また,まったく勤務実績がない人を採用する際に付与されるESOであれば,労働サービス費消説は言うに及ばず,現金報酬準用説によっても,このタイミングで費用を認識することを説明することはできない。
他方,希薄化説によれば,希薄化は付与時に生じるのだと言えれば,このタイミングでの費用認識を正当化することができる。前節でみたとおり,付与にかんする情報が市場に伝わった時点で,ESOは既存株主の富に影響を与える28。しかし,それを特定するのは困難であろうか【125頁】ら,便宜上,付与日をもって,希薄化が発生したとみなすことは,さほど不合理ではないだろう。もっとも,希薄化自体は付与日に発生するにしても,それに関わる費用は後の年度に繰り延べるという方法も考えられる。しかし,希薄仮説では,既存株主の見えない富が企業に出資され,それが従業員等に与えられると解釈するのであった。費用を繰り延べるために,見えない富をここで資産計上しておくことは,高寺[2002]が指摘するように,自家創設のれんの計上になるかもしれない(pp.173-175)。したがって,付与のあった期にすべての費用を認識する方法は,「希薄化説」を理論的に解釈するうえでも利があると考えるしかないであろう。
さて,希薄化説に立った場合の費用測定については,付与時点の株価の変化を観察しても,そこには,ESOとは無関係の情報や,インセンティブ効果など,ESOのプラス面についても株価が反応しうることから,ESOによる株価の下落要因を評価することはできそうもない。そのため,付与時のESOの経済的価値によって測定するのが現実的であろう。
権利確定時
FASB [2004] の紹介によれば,権利確定時の1時点で,ESOの費用を認識する見解もある。付与時には,権利確定条件にかんする契約をするだけで,そうした条件を達成しなければ従業員等はESOを獲得することができない。この点に着目し,付与時点ではなく,ESOが従業員等に発行されたときに報酬費用の全額を認識する,ということである(para.B148)。
こうした見解にたいして,荻原[1999]は,事後的な報酬として,権利確定時に報酬支払とオプション対価の払込がおこなわれたと解釈することは可能である,と指摘している(p.379)。現金報酬準用説によれば,権利確定時に権利確定条件がない自社株式オプションを従業員等に公正価値で売却し,対価をそのまま勤務報酬として支払うわけである。もちろん,ここでの報酬は,権利確定時以前に提供された労働サービスにたいする報酬が過年度に遡って支払われたとみることになる。
なお,権利確定時以前の不確定期間における労働サービスにたいする報酬としてESOを捉えることができるのであれば,権利が確定した期における費用を認識することは,労働サービス費消説からでも説明することは可能である。もちろん,労働サービス費消説は,つねに費消された労働サービスの価値をどう測定するのかという問題から逃れられないため,対価であるESOの経済的価値をもって,それに代えるという手法をたいていはとることになろう。
他方,希薄化説の場合,ESOの権利確定によって,希薄化が発生すると考えることは無理があるものの,付与の情報が開示された時から権利確定時までの間に生じた富の移転を費用に計上するという考え方は可能であろう。あるいは,情報開示によって発生した希薄化が権利確定時に費用として認識できるほどに実現したと考えることができるかもしれない。もちろん,実現という概念を持ち出す根拠は問われなくてはならないが,ここでは権利確定によって,希薄化がキャンセルされる可能性が相当程度なくなったと考えることもできよう。
清算時
さて,1時点でのみESOの費用を認識する見解には,行使時点で費用を認識すべきとする見解もある29。Kaplan and Palepu [2003] は,付与時の理論的なESOのコストの見積は測定誤差を【126頁】生み出すことから,ESOが行使,失効,または満期になるまで,費用を認識すべきでないという見解を紹介している(p.105)30。たしかに,一般のESOの契約は権利確定条件が付されており,さらには非譲渡性,リスクヘッジの制約など31,通常のオプションとは異なった特徴があり,それが測定を困難にするひとつの理由になっている。そもそも,一般的なESOはヨーロピアン・オプションではないことから,二項モデルはともかく,Black-Sholesモデルによる経済的価値の算定は理論とは合致していない32。
行使時に費用の全額を認識することは,あたかも付与時のみ行使可能なESOを発行したとみなして,勤務費用を計上するものである。その公正価値は,行使価格と株価との差額で測定されることになる。株式を従業員等にたいして有利発行したうえで,払込価額と株価との差額を費用計上する方法と言ってもよい。現金報酬準用説によれば,この費用は,行使日以前に提供された労働サービスの対価が過年度に遡って支払われたものとみることになる。もし行使されなければ,従業員等は無償で勤務したという解釈になる。
行使されない場合も考えると,労働サービス費消説によって,この方法を説明するのは難しい。いうまでもなく,従業員等がなにも受け取れなかったときに,労働サービスの費消はなかったとみなすのは相当不自然だからである。たしかに,行使されないのが確定した時点で,今までに提供された労働サービスの価値をなんらかの方法で測定し,その額を勤務費用に計上すると同時に,同額で受贈益を計上するというやり方もあるかもしれないが,それだとこのタイミングで費用を認識する意味があまり感じられない。なぜなら,利益の計算結果に影響がないからである。
さて,希薄化説では,富の移転が最終的に確定するESOの行使によって,それに伴う費用の実現を認めるという考え方になるであろう。同じことだが,「既存株主からの富の拠出→従業員等への給付」が擬制された会計では,ESOが行使されることによって,既存株主の富という目にはみえない財が動くのだと考えるのが適当かも知れない。もっとも,行使時の株価とESOの行使価格との差額が,そこで動いた富の大きさと言えるのかについては疑問がある。この点については,Appendix 2を参照されたい。
以上,見てきたように,現金報酬準用説によれば,付与,権利確定もしくは行使,いずれか特定の1期間にESOの費用を認識することも不可能ではない。ただし,付与時,権利確定時,行使時のいずれかの時点以前に提供された労働サービスにたいして,遡って支払われる報酬としてESOを捉えることが前提となる。したがって,付与時点で勤務実績がないケースには適用できない。これは労働サービス費消説についても同様である。さらに,労働サービス費消説では,行使を待って費用を認識するという方法を取ることが難しくなる。行使されなかった場合をうまく説明できないからである。
上でみてきた3つの方法のうち,希薄化説の当てはまりがもっともよさそうなのは,付与があった期に費用を認識する方法である。既存株主の富が変化するのは,付与の情報が市場に伝【127頁】わったときとみるのが適当だからである。もっとも,希薄化の実現という概念で,他の方法を説明することは不可能ではないだろう。むしろ,特定の期に費用を全額認識するのであれば,他の2つよりも,希薄化説の方が有利であるようにも思われる。しかし,いずれの方法においても,既存株主から従業員等へ移転した富そのものの大きさを測定することは,理屈から言っても困難である。
さて,G4+1 [2000] では,報酬が帰属する期間に費用が認識されないのは問題であると指摘している(para.6.1)。また,FASB [2004] では,退職給付会計において,給付の確定以前に労働サービスに関連する費用を認識していることを例として,対象勤務期間に費用を認識しないこの見解を否定している。引当金の議論がここでの議論に応用できるのかどうかはさておき,ここでのESOによる報酬を,対象勤務期間に帰属するもの,とみるのであれば,特定の1期間にのみ費用を認識すればよいというわけにはいかなくなる。そこで,次に,費用を複数の期間に配分する方法について見ていくことにしよう。
3-3 対象勤務期間の費用認識と測定
ESOの費用を1時点のみで認識する見解にたいして,多くの論者は,費用を付与時以降の特定期間に認識することを主張している。たとえば,Kaplan and Palepu [2003] では,ESOの付与による便益が将来の特定期間におよぶ点が指摘され,従業員等が企業に“収益"をもたらすことで賞与(grant)をえる,と考えられる特定の期間をつうじて費用を認識する,としている(p.105)33。すなわち,費用収益の対応による,特定期間の費用認識というわけである。IASB[2004]では,従業員等がESOを獲得するために権利確定条件の達成が要求されている場合には,そうした要求は,従業員等がESOの対価として労働サービスを提供する期間を特定するための“最善の証拠"を提供する,として,対象勤務期間中の費用の認識を要求している(para.BC202)34。また,FASB [2004] では,権利確定後では,ESOの権利行使の判断が従業員等の側にあり,ESOの権利が権利確定時までに獲得される(para.B147),として,対象勤務期間に帰属する費用の認識が支持されている。
まず,現金報酬準用説から考えていこう。Kaplan and Palepu [2003] は,ESOの付与を自社株式オプションを従業員等に売却し,そこで得られた現金を彼らに与えたものと擬制することで,前払報酬勘定を資産計上し,それを対象勤務期間に費用配分することを主張している(p.106)。いうまでもなく,ESOについて現金による報酬を擬制することが許されるのであれば,あとは通常の現金報酬と同じように勤務費用を認識していけばよいことになる。あとは報酬の対象がどの期間なのかを特定すればよい。この発想自体は,前項で考察した特定の期に勤務費用を認識する方法と変わりない。
ただし,現金報酬の支払いを擬制するタイミングによって,ストックの勘定が変わってくる。報酬の支払いが,ESOの付与時ではなく,権利確定時と擬制することを考えてみよう。この場合,対象勤務期間に対応する報酬費用を負債(未払報酬勘定)により引き当て,その後,権利確定時の自社株式オプションの売却によって生じる資金によってこの負債が清算されることに【128頁】なる。付与時に報酬の支払いを擬制するのと異なり,ここでは権利確定条件がない自社株式オプションが発行されるとみることになろう。また,権利確定以前に失効するESOについては,その公正価値(売却価額)は費用認識の対象とはならないのが理屈である。
もっとも,権利確定時に発行されるであろう自社株式オプションの公正価値がいくらになるかは,対象勤務期間が終了しないと確定しない。したがって,未払報酬勘定を利用するやり方では,対象勤務期間中に認識される勤務費用は暫定的な測定値でしかない。FASB [1995] によれば,付与時点ではなく,権利確定時にESOを測定し,それを費用測定の基礎とするのが概念的にも適切である,という議論があったようである(para.157)。しかし,その方法では対象勤務期間中の利益のボラティリティーにより,企業は,自発的に費用認識をしそうもない,と指摘している(para.158)。そうした理由からも,権利確定時ではなく,ESOの評価を付与時の測定に確定していたのである。Appendix 3で検討するように,企業会計では,事業リスクから解放されたものを収益として認識しているが,費用には,回収リスクなどのリスクが存在する。しかし,基本的には,そうした費用にかんする変動には上限と下限があるのである。それにたいして,ESOを費用認識する場合に権利確定時を基礎とすれば,付与時点ではESOの費用総額にたいする変動に上限がなくなってしまう。たしかに,意思決定の後において,費用,とくに売上原価または販売費及び一般管理費が発散する可能性をもっている,というのは,企業にとっては脅威なのかもしれない。
他方,前払報酬勘定を利用する方法では,対象勤務期間に先だって,配分すべき費用の総額が決定されるので,測定値の安定性は確保される。しかし,ESOの付与によって企業が労働にたいする権利(資産)を取得する35,というFASB [1995] の提示した考え方は最終的に棄却されることになった。付与時点では,企業は株式の発行も強制されないし,従業員等も労働サービスの提供を強制されていないからである。つまり,ESOの付与は現金で報酬を前払するのとは訳が違うという考え方である。これは,資産はたんなる繰延費用であってはならないという,現行の資産・負債アプローチに依拠した考え方ともいえる。
次に,労働サービス費消説であるが,ここでは対象勤務期間に提供された労働サービスの価値だけ費用を認識していくという考え方になる。かりに労働サービスの価値が直接測定できるとしても,費用認識に伴う貸方の記録が問題になる。企業会計上,労務出資という概念が認められるのであれば,毎期に認識した費用だけ拠出資本を記録することになろう。すでに見たように,拠出されたサービスをそのまま資本として記録するのではなく,労働サービスを一時に資産とみなし,現物出資の一種として記録したうえで,次の瞬間,この資産が消費されて費用が認識されるのだという説明がなされることがある。あるいは,提供された労働サービスの価値だけ負債(未払報酬勘定)を記録することも考えられる。この負債は,対象勤務期間終了後(権利確定時もしくは行使時)に,拠出資本に転換されると考えるのである。
もしくは,権利確定以前の労働サービスの提供を,負債というよりは,株式発行前の払込である新株式申込証拠金のように考えることもできるかもしれない。この考え方のメリットは,労働サービスによる払込を受けたものの,失効により株式の発行がなされかった部分については,資本拠出がなかったとみるという形でESOの失効を説明できることである。本来,株式が発行されなければ,払い込まれた財は拠出者に返還されることになるが,払い込まれたのが【129頁】労働サービスでは返還のしようがない。その代わりとして,現金等を従業員等に払う義務もESOにはない。したがって,企業としては,すでに認識した勤務費用を過年度に遡って取り消すという記録だけをしておくことになる。
それはともかく,実際問題としては,労働サービスの価値を直接測定することはできないので,従業員等に付与されたESOの経済的価値から費用を測定していくしかないであろう。これについて,現金報酬準用説では,報酬の支払いを擬制するタイミングに,認識すべき費用の額とストックの勘定が縛られてしまうのであった。それにたいして,労働サービスの価値の代理としてESOの経済的価値を利用するというだけなら,そのような制約は生じない。したがって,付与時に費用の測定額を確定させたいが,繰延費用の計上はしたくない,というときでも,労働サービス費消説では破綻が生じない。
もっとも,ESOの経済的価値が付与時から権利確定時もしくは行使時にまでに大きく変化する可能性があるときに,提供された労働サービスの価値を付与時の値に固定させるのはどうかという考え方もありうる。これについては,たとえばFASB [2004] は,付与日をESOの契約について合意した日,としたうえで,一般の持分証券を例にだし,契約の合意後は,たとえ持分証券の価額が変動したとしても,合意された払込額に影響はない,という説明をしている(para.B46)36。結局,労働サービス費消説で主にネックになるのは,サービスによる資本払込を会計記録の対象と認めることが可能なのかとなる。
さて,希薄化説による費用認識については,ESOの付与に伴う希薄化が対象勤務期間にわたって継続的に発生する,もしくは徐々に実現すると考えることは難しいように思われる。また,希薄化説のもとで,期間配分のためにストック項目を計上することは,目に見えない資産をオンバランスすることを意味することになり,自家創設のれんの認識を認めないという,現行企業会計の基本的な考え方に反することになると思われる。そのため,もっぱら希薄化説からESOの会計を導き出そうとすれば,前項のように,特定の1期に費用を認識することになると考えられる。
3-4 報酬費用認識後の再評価
対象勤務期間に配分する費用を付与時ではなく,たとえば,権利確定時におけるESOの経済的価値とした場合,その公正価値と権利確定時までに認識された費用との差額を調整する必要が生じる。G4+1 [2000] では,権利確定条件をクリアーしなければ従業員等はESOの権利を獲得できない,という点を強調し,企業が持分証券を発行するのは権利確定時点であることから,その時にESOを測定する,としている(paras.5.32-5.33)37。その一方で,G4+1 [2000] は,ESOは,対象勤務期間にうけとった労働サービスにたいする報酬であることから,その期間に費用認識する必要があるとし(para.6.1),その結果,対象勤務期間にわたってESOを再評価することを主張している。さらに,G4+1 [2000] では,付与時の資本処理とその後の資本の調整【130頁】は,持分証券の再評価を意味するわけではないとし,権利確定条件が達成されるまではESOが発行されない一方で,部分的には取引が生じていることから,対象勤務期間の資本の評価は,その部分的におこなわれる取引を認識するための,暫定的な測定値(interim measure)である,と指摘している(para.6.12)。この場合,財務諸表の利用者は,確定しない企業の業績によって意思決定することをせまられるわけである38。また,企業としても,ESOの付与を意思決定した時点では,その費用額がいくらになるか分からないという不都合が生じる点については,先に述べた通りである。
認識されたESOを評価替えするという考え方は,Kaplan and Palepu [2003] にも見られる。そこでは,ESOの経済的価値で測定された資産と払込資本を付与時に記録し,資産は,対象勤務期間をつうじて定額法で費用配分し,一方,資本については,ESOの経済的価値の変化によって調整する,としている(p.106)。この点,ESOの費用の認識の根拠を現金報酬準用説としていることから,付与時に権利確定条件つきの自社株式オプションの売却を擬制し,借方の前払報酬としての資産は,付与時に従業員等に支払った分として費用配分され,一方の貸方の払込資本については,ESOの経済的価値の変動を考慮して評価損益を認識するということであろう。上述のG4+1 [2000] が,あくまで勤務費用の測定のための評価替えであったのにたいして,ここでは,持分の価値に対して再評価が施されているのが特徴である。もっとも,斎藤[2006]が指摘するように,評価差額が損益となるのは,それが資産や負債の評価替えによるものであり,資本を評価替えした結果として損益が生じるというのは妙な話である(p.7)。それは,払込資本と留保利益との間の振替が損益勘定を経由してなされることを意味する。
この点,Kaplan and Palepu [2003] は,権利確定時には,ESOの獲得にかんする従業員等の義務は終了し,従業員等は,ちょうど他の持分権者と同じになる,としている(p.106)。すなわち,企業が付与時に持分証券を発行するとみることから資本としつつも,付与された従業員等は,その時点では,所有者としての持分権者ではない,そして,権利が確定してはじめて所有者としての持分権者となるのであるから,それまでの持分証券については評価替えしてもよい,というわけである。その結果,ここでは,少なくとも,2種類の資本が存在することになる。支払義務を意味しない貸方項目は資本とするという概念フレームワーク上の制約がなければ,おそらくは負債として扱われることになったであろう。
さて,権利確定時までESOを再評価するという見解にたいして,清算時までを再評価の期間とする見解もある。Hull
and White [2004]
では,付与時点で,ESOの経済的価値と同額の費用を認識し,その後,ESOの清算時点まで,貸方を資本ではなく,メザニンとしたうえで再評価し,評価損益を認識するとしている(p.4)。そこでは,この会計処理の2つの特徴が示されており,ひとつは,ESOの測定手法が異なっていたとしても,行使時の株価,行使価格
について,最終的な費用総額がESOの経済的価値の実現値
に収束するというこ【131頁】とである。つまり,ESOの付与に伴う勤務費用は,付与時でもなく,権利確定時でもなく,清算時の公正価値で測定されるということである。このように,ESOを再評価する利点として,株主と従業員等とのrisk
sharingを会計処理に反映することができる点も挙げられている(p.5)。
Ohlson and
Penman [2005]
も,ESOの費用を清算時の公正価値で測定することを主張している。そこでは,普通株主の持分のみを資本とする,という定義を議論の前提とし(p.3),資本でもメザニンでもなく,純粋な負債としてESOをあつかっている。また,ESOの費用認識の根拠として現金報酬準用説を採用している。その結果,付与時に,ESOを負債として認識するとともに,オプションの売却額だけ前払報酬費用をいったん資産に計上する。前払報酬費用が対象勤務期間に費用配分される一方で,負債計上されたESOは毎期,評価替えされ,損益が認識される。このような手続きを経て,最終的に行使時のを費用総額とするのである(p.21)39。もっとも,繰延報酬費用には資産性がないという理由で,バランスシートでは負債計上されたESOと相殺して表示することにしている(p.20)。評価替えを経て,最終的な費用総額が清算時の公正価値で決まる点では共通するが,付与時点で,ESOの経済的価値をいったん費用認識するのがHull
and White [2004]
の見解であり,はじめから期間配分の対象とするのがOhlson
and Penman [2005]
の見解である。すでに見たとおり,Hull
and White [2004]
では,ESOは過去の労働サービスにたいするボーナスと同じであると主張されていたのであった。
それはともかく,清算時の価値に注目した見解は,ESOの希薄化の帰結までの過程を重要とみているものと言えよう。たしかに普通株主にとっては,ESOが行使されるかどうかが直接の関心であり,それによって自身のペイオフに影響が生じる。その点,ESOの経済的価値の変動が重要な情報なのは間違いないであろう。しかし,株式市場の動向は既知であり,権利確定条件にかんする情報をほかで開示する手段も考えられる以上,問題は,財務諸表でそうした評価損益を認識する意味である。企業の利益の計算は,企業活動の成果を示すものである。そうであれば,ここでも,そうした観点から検討されなければならないはずである。
この点,株主と従業員等とのrisk sharingが企業活動の一環とみられるかどうかが問題となる。Appendix 2でも検討しているが,営業活動である従業員等への報酬としてESOを付与した以上,付与時から清算時までのESOの経済的価値の変動を企業活動の成果だとすれば,ここでの評価損益に意味を見出すこともできるのかもしれない。ただ,報酬としてESOを付与したという事実だけをみて,それ以後のESOの経済的価値の変動を無視することもできそうである。そもそも,Ohlson and Penman [2005] のようにESOを負債としてみても,ESOが行使されたからといって,企業から財が流出するわけではない。ESOが行使されたときに生じる事象は,株式の有利発行なのである。実質的には,企業の財の減少の可能性ではなく,普通株主の富の減少の可能性を負債としているとみることもできるであろう。少なくとも,一般的な負債ではない。
ところで,ASBJ [2005] では,付与時にESOの単位あたりの測定を確定し,ESOの費用総額を,基本的には,対象勤務期間に認識するものの(第5項.第7項(3)),権利確定後も,純資【132頁】産の部に新株予約権を計上し,権利行使期間中にESOが行使されれば資本に,行使されなければ利益に振替えるとしている(第8-9項)。ASBJ [2005] によれば,労働サービスの提供者の身分はESOが清算されるまでは確定しないことから留保し,行使された場合にかぎり拠出資本とする,ということである(第41項)40。ESOの付与時から清算時まで再評価する見解とはこの点で異なるが,ESOが清算されるまでは費用総額が決まらない,という点では同じである。
こうした考え方は,斎藤[2004]でも指摘されている。そこでは,ESOにかんする利益の計算は,その行使または失効によって企業がどれだけの経済価値を失うかに依存する,としたうえで,権利確定時に資本として確定させる処理について,権利が行使されるかどうかが不明な新株予約権と,すでに権利が行使されて株式となった持分とでは企業の資本や利益との関係は同じではない,と指摘している(pp.3-4)。こうした見解の前提には,わが国では,原則として,企業の所有者としての株主の持分のみを資本としていることから,そうした株主に帰属する利益が計算されている,ということがあるのであろう41。ESOが権利確定後に失効した場合,ESOの発行と引き換えに拠出された労働サービスは,もはや株主の拠出とはいえない。その結果,既存株主にとっては,労働サービスの贈与をうけたことになり,利益が計算されるというわけである。
こうしてみると,ESOの費用の期間帰属の問題は,資本の定義にも影響されるようである。たとえばFASB [2004] では,資産から負債を差引いたものを資本としているだけで,企業の所有権をもつ株主の持分に資本が限定されているわけではなく,ESOの権利が確定した時点で,持分証券の発行を対価とする労働サービスの資本拠出があったとみていた。そうなると,ESOが行使されるかどうかはもはや問題とならず,その結果として,対象勤務期間に費用の帰属が限定されるわけである。それにたいして,ASBJ [2005] の場合では,ESOの権利が確定したとしても,資本を株主の持分に限定していたことから,そくざに資本として処理することはせず,清算されるまで,貸方の決定を留保していた。その結果として,権利確定後にESOが失効した場合には,対象勤務期間後に過年度損益修正として,収益が認識されていたのである。
4 おわりに
ESOを付与することで,ESOの経済的価値に相当する富が株主から従業員等に移転する。しかしながら,そうした事実を直接的に費用認識の根拠とする希薄化説は,1時点にのみ費用を認識するという限定的な場合にしか,本稿では,採用できなかった。希薄化が継続的に発生,もしくは,徐々に実現するとは考えにくいということと,複数期間に費用を認識するために既存株主の富という見えない資産を認識することが,自家創設のれんの禁止に抵触すること,という理由からである。
【133頁】現金報酬準用説には,もともと擬制が許されるほど,ESOによる報酬と現金報酬とは本質が等しいのかという疑問がある。それは問わないとしたうえで,Hull and White [2004] 流に,ESOは過去の労働サービスにたいするボーナスと同じであると理解するのであれば,現金報酬準用説から特定の1期に報酬費用を認識する方法を導くことができる。
それにたいして,ESOはあくまで対象勤務期間に提供されるであろう労働サービスにたいする報酬であるとして,対象勤務期間中に費用を認識することを現金報酬準用説から説明しようとすると,現金報酬を擬制するタイミングによって以下のような問題が生じる。
1)付与時に報酬が支払われたと考えると,後の期間に費用を配分するために,前払報酬費用を資産計上する必要が生じるが,これが概念フレームワークによって定義された資産に相当するのかが疑問である。
2)権利確定時もしくは行使時に報酬が支払われたと考えると,対象勤務期間中に認識された費用は暫定値ということになり,損益計算を不安定にする。
他方,労働サービス費消説では,なによりサービスの出資が会計記録の対象になるのかが疑問となる。そこで労働サービスも瞬時的にはストックとみなすことができるというレトリックが有効だとしても,次には,提供された労働サービスの価値はどう測定されるかという疑問が出てくる。これにたいしては,労働サービスの価値が直接測定できない場合は,便宜的にESOの価値を用いると説明されることになる。そこまでを認めてしまえば,ある特定の期間に労働サービスが提供されたと考えられるだけで費用を認識することに制約がなくなる。現金報酬準用説のように,測定に用いられる公正価値の時点が特定されることもない。したがって,労働サービス費消説によって,さまざまな方法を正当化することができるし,逆に言えば,この説からESOの会計を絞り込むことはできないことになる。このように,抽象的な労働サービスという概念をESOの経済的価値で測定する,という虚構を使うことで,本来,企業の財の変動を記録するはずの企業会計で,財の変動がないESOの費用の認識・測定が可能になったのではなかろうか。
さて,本稿の目的は,ESOを費用認識する複数の根拠それぞれから,どのような認識・測定方法が導かれてくるのかについて考察することであった。実際には,費用認識の根拠だけでESOの会計を特定することはできなかった。それ以外に,決め手となる要因がいくつか考えられたのである。
改めて振り返ってみると,そのひとつは,ESOそのものに対する解釈である。付与時,権利確定時,権利行使時に着目してみれば,一般のESOについて,それぞれ,権利確定条件付の自社株式オプション,権利確定条件のない自社株式オプション,付与と同時に行使する自社株式オプション(新株の有利発行)とみる見解があった。そうした解釈の違いが生じるのは,一般のESOが市場で流通していないことや,ESOの測定の精度の問題,といった理由があるのかもしれない。さらにはESOによる報酬の帰属をどのように考えるのか,という点についても解釈の余地があった。それが,費用の期間帰属と測定の見解の相違をもたらすことになっていた。また,ESOの経済的価値が清算時点までに発散する可能性を持っているという点が,費用総額の計算における,ESOの単位あたりの測定を付与時に決定している可能性があった。その一方で,付与時に測定された費用を,後の期間に配分するために,資産計上することを妨げ【134頁】ていたのは資産の定義に関わる概念フレームワークであった。
概念フレームワークについて,本稿では直接,考察の対象とはしていないが,ESOの会計に大きな影響を与える要素である。一番,目につくのは,借方の費用に伴って認識される貸方科目の性格をどう考えるか(資本か,負債か,あるいは,それ以外か)である。この問題は,いわゆる資産・負債アプローチで解決されるのが支配的であるように見受けられる。一般には,資産・負債アプローチが採用している負債の定義により,この貸方科目は資本であるという考え方が支配的である。これが,ESOが行使されなくても,報酬費用について過年度修正をしないという方法につながる。しかし,これが資本だとすれば,原[2003](pp.94-95)の指摘通り,資産・負債アプローチはESOの費用認識自体を否定する可能性がある。実際,費用認識の根拠を収益との対応に求める議論も少なくない。これらの点について,詳細な検討は別稿に譲る。いずれにせよ,ESOの付与は,企業活動のひとつでしかないが,財の変動がない取引を資本と利益の計算に取り込むという点で,企業会計の核心を揺るがす論点として慎重に議論される必要があろう。
Appendix 1
既存株主の出資の擬制の問題点
ここでは,ESOの認識の根拠を富の移転とする場合の問題点を検討する。ESOの付与は,それ自体,株価の下落要因となるが,それを会計処理で擬制する場合の問題点ついては具体的に検討していない。それをあらためて設例をつかって検討しておこうというのである。なお,ここでの検討では,投資家が株式に投資したとしても,投資時の富の総額に変化がないことを前提としておく。投資家はリスク中立であり,株式に投資したとしても,投資家の富のうち,株式が増加する一方で,同額の資金が減少するだけということである。
【設例1】自己資本比率100%の企業(発行済株式10株)が,株価が11のときに,従業員等にたいして1株を労働サービスの対価として発行した。それ以外の事象は考慮しない。
当初の既存株主の富は110であり,市場が効率的であれば,企業の資産価値も110となるはずである。しかし,企業が1株を従業員等に発行すれば,その時点では,資産価値は110を維持するものの,既存株主の富は100に減少し,従業員等は10の富をえるはずである。ここでは,10の富が既存株主から従業員等へ移転するわけだが,これを以下のように会計処理した場合の解釈が問題となる。なお,上段の仕訳は,既存株主の出資,下段は,出資された富を従業員等に報酬としてあたえたとする擬制をした場合の仕訳である。
(借)富□□□ 10 (貸)資□本 10
(借)報酬費用 10 (貸)富□□ 10
結果として既存株主の富が10減り,従業員等の富が10増えることから,既存株主の富10が出資され,瞬時に,その富を10従業員等にあたえたという会計処理は,直感的には,問題が【135頁】ないようにみえる。しかし,ここでの富の資産性の問題については高寺[2002]によってすでに指摘されているが(pp.170-174),その問題をさておくとしても,上段の仕訳の段階で問題が生じる。既存株主の富が企業に出資された時点では,既存株主の富は10減少し,総額で100となる一方で,企業の資産価値は10増え,総額で120となっている。市場が効率的であれば,常に既存株主の富と資産価値は同額でなければならないはずであるが,ここでは20の乖離が生じているのである。この点,市場は瞬時的には効率的でなく,従業員等に富をあたえた段階で市場が反応する,と説明するしか方法がなさそうである。なお,ここでは株式を例に検討したが,ESOであっても本質は同じである。
Appendix 2
ESOのコストと労働サービスの経済的価値
Ohlson and Penman [2005] は,普通株主にたいする経済的コストの合計は,行使日において拠出される現金より多い価値をもった株式の発行から生じる,としている(p.21)。また,Kaplan and Palepu [2003] では,権利確定したESOがin-the-moneyであり,すぐに行使された場合には,企業は,株式の市場価格とESOの行使価格の差異である実現した報酬コストにもとづくことができる,としている(p.106)。たしかに,行使した者にとってのESOの経済的価値が,行使時点の株価と行使価格の差額となることは事実である。ESOはコール・オプションであり,in-the-moneyであれば,ESOの保有者は,行使直後に,行使によってえた株式を売却することで,その経済的価値を実現することができる。その点からみても,ここでの差額がESOを行使した者にとっての経済的価値であることがいえる。とはいえ,企業にとってのESOのコストの実現値が,行使時点における,株価と行使価格の差額なのであろうか。
以下,設例をつかって,この点を考えてみよう。
【設例】A社(自己資本比率100%,発行済株式数株)は,付与時の株価が
のときに,従業員等にたいし,行使価格
のESOを
個(1個につき1株)付与した。契約上,ESOの権利行使期間は権利確定時の1時点のみである。市場は,付与時にESOの経済的価値の総額と同額の労働サービスの提供を見込んだものの,その後,期待以上に労働サービスが提供された。その結果,付与時にはESOが付与されても株価は変化しなかったが,その後株価は上昇し,すべてのESOが行使された。行使時点
の株価は
である。なお,市場の効率性,利子率0%を仮定し,株価は,労働サービスにのみに反応するものと仮定する。また,ESOの行使にともなう拠出にかんして,企業は投資プロジェクトを有していないものとする。これ以外の事象は考慮しない。
【136頁】
まずは,株価の上昇分と労働サービスの経済的価値が等しいと仮定し,株価で評価した場合の,従業員等から提供された労働サービスの時点における経済的価値を計算してみよう。これについては,設例上,市場の期待に反して,ESOが直前で行使されなかった場合の株主価値総額と,付与直前の株主価値総額の差額として計算することができる。なお,は,ESOが行使された場合の時点
の株主価値総額から,ESOが行使されなかったことによって企業がえられなかった行使による払込額を差し引いたものであり,
は,ESOの付与直前の株主価値総額である。
ここで,労働サービスにたいするコストを行使時のESOの経済的価値としてみよう。そうすると
という結果になる。これは,既存株主の行使時の株主価値総額と付与時の株主価値総額の差額となっており,既存株主がESOを付与することによって獲得した最終的なペイオフとなっていることがわかる。
この点を別の視点からみてみよう。市場の効率性より,行使時の株価はすでにESOのコストを織り込んでいるはずであるから,ESOを付与せずに無償で労働サービスの提供をうけた場【137頁】合の行使時の既存の株主価値総額から,ESOのコストを差し引いた後,すなわちコストを織り込み済みの行使時の既存の株主価値総額を差し引くことでESOのコストを計算することもできそうである。たしかに,計算結果は,行使時のESOの経済的価値となっていることがわかる。
このようにみれば,行使時におけるESOの経済的価値は企業(既存株主)のコストである,というOhlson
and Penman [2005]
らの指摘は正しいといえそうである。ただ,そうはいっても,ここでのコストが,営業取引における費用を意味するコストといえるのかどうかはさだかではない。もちろん,ここでの検討からわかるように,ESOの希薄化の実現値がなのは間違いない。しかし,設例はともかくとして,現実には,労働サービス以外の要因によって株価が変化することは普通であろう。むしろ,労働サービスのみが株価に直結していることのほうが珍しいはずである。そうなると,さきに計算した労働サービスの経済的価値
を前提としてESOのコストを計算することはできそうもない。従業員等に
が移転したのは事実であるが,それが,労働サービスをうけとるために既存株主が放棄した富(コスト)なのかどうかは,微妙なところである。
そもそも,付与時のESOの経済的価値をコストとみる見方も依然として成立する。付与時では,ESOの経済的価値と同額の効果が期待されたことから,設例では株価は変化しなかったものの,さきの計算と同様に考えれば,企業のコストは,付与時のESOの経済的価値とみることもできる。問題は,労働サービスが提供される以前に支払った富,すなわち付与時の希薄化を費用とみるか,それとも,労働サービスが提供された結果をふまえた,行使時の希薄化の帰結を費用とみるのかということになる。
この点,たとえば,従業員等に,ある条件を達成した場合に自社製品を報酬としてあたえる,という契約をした場合を考えてみよう。契約時の時価は100万であったが,従業員等が条件を達成したときには,従業員等の努力によってその製品イメージが向上しており,時価が200万に上昇していたとする。このときに企業はどの時価を報酬のコストとみるのか,というのが,ここでの議論であろう。企業結合会計における,株式を交付する企業結合の対価を,@合併契約締結時の株価にするか,A合併日の株価にするか,といった議論とも同じである。この例からも想像がつくように,見解はわかれそうである。
ところで,ここでの検討をふまえれば,労働サービス費消説の測定には問題があることがわかる。たとえば行使時の労働サービスの経済的価値は,株主価値総額からみれば,であった。それにたいして,行使時のESOの経済的価値は,
でしかなかった。そこでの大小関係はともかく,労働サービスの提供によってのみ株価が変化するという単純な設定ですら,労働サービスの測定とESOの経済的価値は一致しなかったのである。それはなにも行使時にかぎった話ではなく,付与直後から,行使時まで,つねにESOの経済的価値よりも,株価で測定した労働サービスの経済的価値のほうが高かった。もちろん,労働サービスの測定方法は,株価の変動から測定するのが唯一の方法ではないことから,そくざにESOの経済的価値によって労働サービスを測定する見解を否定することはできない。とはいえ,問題がないとはいえないであろう。
【138頁】
Appendix 3
収益と費用にかんするリスク
議論にさきだって,確率空間の概念を確認する42。確率空間とは,標本空間,可算加法族
,確率測度
から構成されるものであり,確率をあつかう前提として,確率論はもとより,金融工学などでも議論されている43。そこにいう標本空間とは,偶然事象として生起しうる個々の結果
のすべての集合である44。また,可算加法族とは,確率を考えるさいの事象の対象を規定するものであり,3つの条件45を満たす
の部分集合の集まりである。事象を集合の概念とみれば,3つの条件によって,
がその集合の和や積,さらには差について閉じていることが保証されるのである。このふたつの概念によって,可測空間
が構成され,確率変数が定義できることになる46。
また,確率測度とは,
の各要素にたいして,0から1までの実数を対応させる関数47であり,本稿では,経営者の主観確率を前提とするが,定義さえ満たせば,一定の場合のリスク中立確率のように直接,市場によって決定される測度でもよい。もちろん,重要なのは,
の関数をどのように決定するかである。可測空間とともに,関数
を決定することによって
が定まり,はじめて期待値
や分散
の計算が可能となる。
さて,リスクとは不確実性を意味するものであるが,その尺度として,しばしば分散が使用される。簡単な設例をつかい,収益と費用のリスクについて概観してみよう。最初の設例は以下のとおりである。
【設例1】A社はに現金
を支出して商品を購入した。この商品の販売によって,
に現金収入があることは確実だが,収入額は以下で定義される確率変数
であり,一様分布にしたがっている。
【139頁】
(
) @
ここでのはそれぞれ収入
の結果を生み出す根元事象であり,事業に関連した市場動向等の価格決定要因とする。このように確率変数を定義すれば,時点
の収入額の実現値は3つに限定されたことになる。また,設例の条件により,確率は,各
には1/3の実数が対応し,
には2/3の実数が対応している。
には1が,
には0が対応することは自明であろう。なお,後の検討のためにも,ここでは販売価格のみが確率変数であることに留意したい。
現行の企業会計の処理によれば,の支出時に現金預金勘定を
だけ減額し,決算整理によって資産勘定に振替えられる。この段階ではフローは認識されず,ストック内の処理でしかない。通常は,時点
まで資産の評価を
とし,時点
に収入額
の実現値を収益として認識・測定するとともに,資産勘定が費用に振替えられる。A社の取引がこれのみであれば,時点
の属する会計期間においてはじめて収益と費用の差額として利益が認識されるのである。いわゆる,費用収益の対応である。
さて,設例における会計処理をみるかぎり,表面的には,収益の認識・測定に確率の概念は考慮されていない。もちろん,時点0における将来収入の期待値,分散
は計算できる。にもかかわらず,それらの数値は,企業会計の利益計算には使用されていない。
しかし,あらためてみてみると,の実現時,すなわち収入額の確定時とは確率変数
の分散が0になった時であり,その時に,収益と費用を認識し,その時の実現値
によって収益を測定している。このようにみれば,収益の認識・測定に確率的観点は使用されている,ともいえるかもしれない。すなわち,事業上の収入にかんする確率変数に分散が存在する場合には収益を認識せず,
の確率が
となった時にはじめて収益が認識され,その時の収入額で測定する,そして費用
を対応させて利益を計算している,とみるのである。なお,ここでの費用は,投資の計画時では支出額についても確率変数であり,上記の議論と同様に,特定の確率空間において支出額にかんする確率変数
が存在するものの,支出時では,分散
は0である。
さて,【設例1】は特殊な事例であって,そこから収益の認識・測定を一般化することはできない。そこで,別の状況下の会計処理について,あらたな設例で確認する。収益の認識・測定を議論するためには,検討すべき重要な要素が,少なくとも,もうひとつあるからである。
【設例2】A社は,に顧客と商品(原価)の販売契約を結んだ。契約内容は,
において価格
で商品を引き渡すというものであり,契約内容の事後修正は認められていない。なお,時点
の商品の市場価格は@で定義した確率変数
であるとし,その実現値は
であった。
【140頁】
【設例1】では時点での現金収入を所与として,商品の引き渡しの有無については問題にしなかったが,ここでは,販売価格はあらかじめ決められているものの,契約という形態をとっているのみである。現行の企業会計では,契約が履行されれば,履行時に収益が認識され,契約上の価額
で測定されることになる。履行されなければ資産勘定
が残るだけである。ここで留意すべきは,【設例1】とは異なり,
が存在し,時点
に
だとしても事業とは無関係であり,考慮されないことである。契約によって,収益の認識・測定において着目される可算加法族が,上記の
から別のものに変化したと解釈することもできそうである。それは,契約が履行され,商品が引き渡された(この事象を
とする)という根元事象と,契約が履行されず,商品が引き渡されない(この事象を
とする)という根元事象から生じる可算加法族である。
ここで,確率変数を以下のような定義関数としてみよう。
A
このように定義すれば,契約が履行されればが収益として測定され,履行されなければ収益
が測定されることになる48。よって,収益の測定にさいして着目するのは
である。また,認識については【設例1】では
にかんする分散が0となった時点で収益が認識されていた。ここでも同様に,確率変数
の分散
が0でないときは収益を認識せず,分散が0になった時点で収益の認識・測定の処理がされていると解釈することができそうである。すなわち,収益の認識・測定の処理にさいして着目する可算加法族が【設例1】とは変化しているのである。それはまた,事業の意思決定に関連する可算加法族が,契約によって,販売価格にかんする
から,契約の履行にかんする
に変化したともいえる。あらたな設例をつかって,ふたつの設例をまとめよう。
【設例3】A社は,に販売する計画で
に商品(原価
)を購入した。時点
における販売価格は確率変数
であり,一様分布にしたがっている。
ここでは,で定義された販売価格がいくらになるのか,そして時点
において商品を販売するのか,という点が問題となる。【設例1】では後者が,【設例2】では前者が,あらかじめ決められていたのである。これまでの設例で定義された事業に関連する可算加法族
,
【141頁】を使えば,ここでの収益は,以下のBのように,それぞれの確率変数の積が問題となる。この積それ自体は確率変数の定義を満たさないが,両者が独立であれば,Bの期待値についても,両者の期待値の積として計算可能である。ここでは,確率変数の分散がふたつとも0でなければ収益の認識・測定はおこなわれず,分散が0となれば,Bの実現値をもって収益が認識・測定されることになり,そこからを差引いて利益が計算されるわけである。ここで,Bの分散を事業リスクということにする49。事業リスクとは,事業上の意思決定にかんする
にかんする確率変数の積の分散である。
・
B
さて,これまで,設例にもとづいて収益の認識・測定を検討してきたが,費用の議論にいくまえに,有価証券の会計処理を確認する。というのも,現行の企業会計では,売却前の各期末において売買目的有価証券を市場価格で評価しているからである。この点で,これまでの検討と矛盾があるように思われるかもしれない。以下,設例で検討してみよう。
【設定4】A社は,に現金
でB社の株式を購入した。売却は
を予定しているものの,トレーディング目的で保有する計画である。
の株式の市場価格は確率変数
であり,一様分布にしたがうものとする。なお,当期の決算時(
)の市場価格は
であった。
これまでの議論からすると,時点の株式の市場価格が確率変数であり,それ以前の決算日において
に分散があることから,たとえ時価の上昇があっても,株式に関連する収益を決算時に認識・測定することはなさそうである。実際,事業目的で保有する子会社株式などは,上記の議論と同様,時点
において売却するかどうかが収益の認識・測定では問題であって,それまでは原価で評価されるのが一般である。さきに定義した事業リスクがあるからである。しかし,周知のとおり,現行では,売買目的有価証券については市場価格で評価したうえで,評価損益を純利益に影響させている。保有目的によって,異なった処理が要求されているのである。
斎藤[2006a]は,いつでも時価で換金できる市場が存在し,換金に事業上の制約がない金融資産に限り,市場価格で評価し,損益を認識するとしている(p.115)。これまでの議論からすれば,あたかも=0であるかのように,Bの確率変数の積が,つねに,実数の積として説明されることになる。もちろん,
とすれば株価は確率変数
となり,そこに分散は生じるのが普通である。しかし,そこでの分散は事業リスクではない。ここでの収益の測定で着目する可算加法族は,時点
ではなく,現在の株価にかんするものであり,
,
となっている。つねに,保有している現在の株価によって損益が測定されるのである。
また,Aの定義関数についても,つねにが想定されている。この点,Aの定義関数では,財の引渡しをおこなったか否か,と,その結果として対価をうけとったか否か,に【142頁】ついて,同値性が含意されている。この点は次に議論するが,事業上の努力なく常に換可能な場合では,常に対価をえることが保障されているため,実際の株式の引渡しはもはや問題とされないのであろう。もちろん,たとえば上場銘柄であったとしても,出来高が少なく,ビット・アスク・スプレッドが生じているような場合は実際に存在することから,問題がないわけではない。この点は議論の余地があるといえる。さて,つぎに費用についてみていこう。まずは貸倒引当金についてであるが,設例は以下のとおりである。
【設例5】A社は,当期に自社製品をH社に販売したが,期末において,H社が実質的に経営破綻に陥っていることが判明した。H社にたいしては,その親会社から,支援をおこなうかどうかを1年後に決定する旨が表明されており,支援がされなければH社は倒産する。A社は,期末現在,H社にたいする売掛金を有しており,それにたいして貸倒引当金を設定した。H社の売掛金にたいする担保等は存在しない。なお,H社の親会社が支援をおこなう確率はとし,支援されれば,1年後に資金を回収できるものとする。
ここでは,H社の親会社が支援をおこなうかどうかという事象にたいして,それぞれ1, 0を割りふれば,これまでにみたような確率空間を定義することができる。そこでの確率変数は以下のとおりである。
,すなわち売掛金残高に親会社が支援する確率を乗じたものを貸倒引当金とすれば,それは将来確定する損失の見込額(期待値)であり,確率変数である。したがって,貸倒引当金繰入額にはリスクが存在する。この点,ここでの費用には,上限と下限があることに留意すべきである。それは,引当金の設定時ではなく,H社に製品を販売した時点からみても同じである。すなわち,H社が倒産し,売掛金の全額が回収不能であれば,
(上限)の損失が生じるが,親会社が支援をおこない,倒産を免れれば全額回収することになり,損失は0(下限)である。貸倒引当金にはリスクが存在するものの,設定時点では,そのリスクには上限と下限があり,発散しないのである。減価償却費についてもこの点を設例で確認してみよう。
【設例6】A社は,期首に新製品を開発し,その製造のために工場をで購入した。この工場については,耐用年数は確率変数であり,見積耐用年数は
である。残存価額は0とし,定額法で償却する。
予想どおりであれば,毎期の減価償却費の計算はであり,毎期一定の減価償却費が計上されることになる。もちろん,
自体は実現値でありリスクは存在しないが,分母の見積耐用年数は,確率変数の期待値であることからリスクが存在する。たとえば,工場が見積耐用年数に満たない期間に焼失した場合や,見積耐用年数を超えてもなお稼動するようなケースを考えれば,そこにリスクが存在するのは明らかである。当然,その背後には確率空間が存在している。
【143頁】しかしながら,ここでもまた,貸倒引当金の議論と同様に,減価償却費についても上限と下限が存在している。たとえば工場を購入した会計年度を考えると,当期に工場が焼失した場合であれば減価償却費の上限はであり,下限は,理屈のうえでは0である。何らかの要因によって減価償却費の計算における分母が無限大に近くなれば,0に収束するからである。もちろん,工場を購入する以前であれば,工場に投資する金額の上限は,資金調達の制約等を考えなければ,理屈のうえでは存在せず,そこから生じる減価償却費の上限もない。しかし,いったん,工場を購入するという意思決定を確定した後であれば,そこから生じる減価償却費には上限と下限が存在するのである。
総じて,企業会計では,収益については事業リスクから解放されたものを認識しているが,費用には,回収リスクなどのリスクが存在する。しかし,基本的には,そうした費用にかんする変動には上限と下限があるのである50。それにたいして,ESOを費用認識する場合に権利確定時を基礎とすれば,付与時点ではESOの費用総額にたいする変動に上限がなくなってしまうのである。
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