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金融活動における情報ネットワークと金融仲介業(II)――金融ネットワークの経済学入門――
辰巳 憲一(*
実に様々なネットワークが,最近,構築されている。また,それに即応して,経済,特に金融の分野により深く入り込んだネットワークの分析が非常に進んでいる。過去10年この分野の研究はモデル作りと実証が大いに発展し,今後もまだまだ発展する見込みである。その紹介と論評を次に考えてみよう。
経済や金融のネットワークでは,主体は相互に住所,アドレスや口座番号などを知っており,物理的な回線(ケーブル)あるいは無線電波で結ばれるだけでなく,交通・運送,郵便や宅配便などのその他のデバイス(手段)でも結ばれる。契約によって,取引などを通じて,資金貸借や出資を通じても,ネットワークは結ばれる。
証券取引ネットワークには,クロシング・ネットワーク(crossing
networks)などの新しい構造・タイプのものが実際に米国でいくつか生まれており,情報保有の非対称性という観点でも興味ある,解明されるべき論点が含まれる(10。詳しい研究は今後進むだろうが,この点は稿を改めて論じたい。
本稿は辰巳(2008),辰巳(2009)と辰巳(2010)の続編である。特に辰巳(2010)の章節や脚注の番号だけでなく,内容もそれにつづく。
4-2 情報ネットワーク形成の経済学モデル
情報ネットワーク形成について,経済学的背景をより打ち出しモデル化した先駆的研究のいくつかを展望し,批評してみよう。
4-2-1 情報スピルオーバーとジョイント・ベンチャーというネットワーク
ジョイント・ベンチャー(joint
venture)という形をとる企業グループは,ある目的を持って形成された1つのネットワークである。Kamien-Muller-Zang
(1992) は情報スピルオーバーという概念を使って研究ジョイント・ベンチャー(RJV)の成果と構成企業群が形成する生産物市場の市場構造との関係を分析した初期の研究である。
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(1)情報スピルオーバーと技術開発投資
情報スピルオーバー(information
spillover)とは,組織や企業が持っている情報が自然と漏れ出ることを指す。Kamien-Muller-Zang
(1992)の分析では,情報とは具体的に生産企業の技術開発投資の成果のことである。スピルオーバーするのは,情報と言うより,具体的に生産技術のノウハウ,知識(knowledge)の成果であると捉える研究者が多い。
他企業の技術開発投資の成果の一部が情報スピルオーバーによって当該企業の成果になり,他企業の技術開発投資は,あたかも当該企業が行ったように,投資コストを負担することなく成果をえられる,という共有化がなされる。このように成果を共有(share)された他企業の投資額の一部は,あたかも当該企業が行った投資額のように取り扱われ,それらと当該企業投資額の和は「有効」技術開発投資を構成する。これが,ひいては当該企業の単位生産コストの低下をもたらす。
モデルの前提となる事柄がいくつかある。@情報のスピルオーバーは,生産された製品に関してではなく,生産の前に,生産技術の研究開発やその投資時に起こる。そして,A各企業は,ラボや工場を個別に保有すると仮定される。ラボや工場では情報スピルオーバーされ,存在しないにも係わらず,そのスピルオーバーされた分だけラボや工場の生産設備は増える。それが,「有効」と呼ばれる理由である。B各企業は,他企業の生産情報(知識)を完全にモニターできる。さらに,C各企業は,それを理解でき,受け入れる能力(absorptive
capacity)がある,と仮定される。
Kamien-Muller-Zang
(1992)のモデルは,コストを減らすR&Dに適用できるが,D質改善のR&Dには適用できない。引用は省くが,同様な趣旨の研究であるSuzumura
(1992)などに続く多くの研究者達によって,これら5つの仮定は外され分析は拡張された。また,生産技術のノウハウを伝播するのは技術者である点を注目した労働市場の分析もある。
これらの前提の下で,情報,技術開発投資と研究開発のためのグループ化については,特別な意味合いが含まれる。Kamien-Muller-Zang
(1992)で取り扱われる情報は,badsではなくgoodsであり,社会的には生産効率を上げるため,皆で共有するのが望ましい。「情報」を秘匿する行為は,私的(個人的)な利益をえられる可能性はあるが,社会的には望ましくない。さらに,情報を秘匿するために資源を使うことは浪費になる。
研究ジョイント・ベンチャー(RJV)というネットワークでは,構成メンバーは各自の技術開発投資の成果を意図的に相互にすべて公開し,構成メンバー間では全員共通の成果になる,のが理想型である。情報スピルオーバー率β(Kamien-Muller-Zang
(1992)で0≦β≦1と制約されている)は意図して100%になる(β=1)のが,その特徴になる。
(2)モデルと結論
Kamien-Muller-Zang
(1992)のモデルは,2期モデルであり,企業は第一期に研究開発投資を決め,第二期に生産を行い生産物市場で競争する。市場については,クールノー型(11であり,【97頁】企業は同じ生産技術から生み出される同質的な財で競争する。
提供している製品の価格,研究開発投資の規模,技術革新の進歩ひいては単位生産コストの低減率,企業利益水準,などの点で,研究開発投資カルテルはどのような評価を受けるのだろうかが,Kamien-Muller-Zang
(1992)が取り組む問題である。研究開発投資カルテルによって,社会的に必要な額の研究開発投資がなされず,競争圧力の低下によって製品の価格が低下しない,ということが起これば,このようなカルテルは社会的に望ましくない。
経済は次の4つのタイプに分類される: R&D競争型,R&Dカルテル型,RJV競争型,RJVカルテル型。他企業のR&D投資とその第二期への影響を与件にして自身の利潤が最大化するようにR&D投資を個別に行うのがR&D競争型である。R&Dカルテル型では,生産物市場での競争は行うが,全体の利潤の和が最大になるようにR&D投資を決める。
RJV競争型とは,研究開発投資は個別に行うがその成果は完全に共有する。Kamien-Muller-Zang
(1992)のモデルでは,このタイプは社会的厚生を低下させる。RJVカルテル型では,企業は情報を完全に共有し,投資の重複を省くようにRJVを形成し,全体の利潤の和が最大になるようにR&D投資を決める。Kamien-Muller-Zang
(1992)のモデルでは,このタイプのカルテルは社会的厚生を増大させ,望ましい。
なお,このような結論をもたらした要因として,情報スピルオーバーからもたらされる生産資本設備への外部性など2つの外部性が提示されたが,その後の研究上で,これらの外部性概念は他の外部性概念と並列的にとりあげられることはない(新規性はない)ので,ここでは詳しく紹介するのを省略しよう。
外部性だけに注目すれば次のような解釈になろう。他の組織jの消費財や資本財x jが企業iの生産関数(Kamien-Muller-Zang (1992)のモデルでは単位当たり生産費用の低減関数,つまり技術進歩関数)や効用関数f i (・)に入り込み,消費財や保有資本財x iとともに生産性上昇や効用f i (x i; x j,・,・,・,・)をもたらす,という外部性本来の概念が特定化され,線形に足しあわされてf i (x i+βΣx
j)となっている,に過ぎないといえるからである。ここで総和Σはiを省く。
(3)研究の応用と限界
Kamien-Muller-Zang (1992)の研究は,同じ生産技術から生み出される同質的な財に適用した研究である。それゆえ,ほぼ同質の商品・サービスを販売しているが相互に独立な地域独占市場を持つ複数の地方銀行が業務の基幹システムを共同化する研究開発を行い,相互にネットワークで結び,共同施設を設置する分野の分析に応用できるかもしれない。
提供している金融サービスの価格,研究開発投資の規模,技術革新の進歩ひいては単位金融サービス・コストの低減率,銀行利益水準,などの点で,地方銀行のシステム共同化はどのような評価を受けるのだろうか。システム開発投資のカルテルによって,社会的に必要な額の研究開発投資がなされず,競争圧力の低下によって金融サービスの価格が低下しない,ということがもし起これば,このようなカルテルは社会的に望ましくない。
地域独占市場であっても,常時潜在的な参入の脅威に晒されていれば,企業は独占的地位に安住せず,緊張感をもって経済活動を行い,価格は低く設定され,良質なサービスを提供することが期待できるのである。地方の銀行業界に参入の脅威は少ないが,特に,地域市場の需要が低迷する状況の下では第二地方銀行や信用金庫とも激しい競争状態になり顧客の取り合いになることがあり,このような社会的に望ましい経済状況が実現するという期待は達成されるかもしれない。
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この点を更に考察する際に重要な事柄としては,日本にこのようなシステムを共同化する地銀グループが複数存在し,それぞれに異なる複数のベンダーが組んでいる,という点である。また,その目的に応じてあるいは時期に応じて,銀行は複数のベンダーから1つのベンダーを選択でき,あるいはベンダーの途中変更もでき,その結果ベンダー間での競争が維持されている,という観点も重要である。これらによって,技術革新が進み,コストが低減する。そして,価格は下がるという社会的に望ましい状況が維持される基盤が形成されるのである。
Kamien-Muller-Zang (1992)では,本小節の先の(1)でその前提を詳しく説明したが,それら以外の限界として,ジョイント・ベンチャー組成のコスト,つまりネットワーク組成のコストは考えられていない,点があげられる。ネットワーク組成コストが存在すれば,RJVのメリットは低下することが考えられるだろう。システム共同化の地銀グループにも,同様な問題点が存在する。
ネットワーク組成コストのなかには,提携する相手企業のコスト構造(あるいは持っている技術)がわが社と比較して大きく異なり,提携にメリットがない場合などが含まれる。企業間で生産性一般や保有資源量が異なる場合,提携・カルテルは全企業に及ぶのではなく一部企業に限られる。Goyal
(2007)の関連する事柄を扱った10章にはこの点に関する形式的な証明が展開されている。
4-2-2 バイアーとセラーのネットワーク
Kranton-Minehart (2001) は,バイアー(buyer)とセラー(seller)の間に形成される,垂直的な(vertical)ネットワークを問題とし,リンクのパターン(link
pattern)とネットワーク内の競争状況(agents’ competitive positions in a network)の関係を組み合わせ理論とオークション理論を用いて分析した。
財などの売りと買いという取引と価格決定のメカニズム,それぞれとネットワークの関わりを分析するのは経済学分野から長らく望まれていた研究課題であり,ネットワークにおける取引を扱った最初の研究である。
(1)バイアーとセラーのネットワーク
あらすじは次のとおりである。バイアーとセラーは固定されており,個々のセラーは分割不可能財を一単位だけ費用ゼロで生産し,個々のバイアーは私的な不確実性に直面しそれぞれ財一単位を需要する。その結果,セラーは同質的だが,バイアーは相互に異なった評価を確率的に(stochastic)行うという意味で異質である。そして,バイアーとセラーが逆転することはない(あたかも女が男になることがなく男が女になることがないのがふつうであるように,バイアーがセラーになり,セラーがバイアーになることはない)。財は同一である。
Kranton-Minehart (2001) は,リンクされた者同志でしか取引できない,市場ではない組織(nonmarket institutions)をネットワークと呼ぶ(p.487)。そして,リンクは,ある特定の相対取引(bilateral
exchange)を可能にする,あるいはその取引に価値をもたらすものなら何でもよい(p.485)。
リンクされている者の間でしか取引ができないと仮定されるので,バイアーはリンクを結んで財を手に入れようと努力する。セラーも,バイアーも,それらの中で結託することはなく,独立である。そしてバイアーとセラーは共謀しない(リンク,本来価格やside
paymentsを決める状況依存型の長期契約は結べない)と仮定される。
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リンクするにはコストがかかるが,バイアーやセラーは複数のセラーやバイアーとリンクされる。複数のリンクを結べれば競争上優位に立てるからである。特に良い交易条件を確保できる。
Kranton-Minehart (2001) は,各自が自己の利益を最大化するようにネットワークを形成すれば全体の厚生を最大化するネットワーク構造が作られることを示した。証明にはオークション理論が使われる。
それぞれ1つのリンクしか持たない2人のバイアーが同一のセラー相手とリンクしている場合,高い価格を付けるバイアーが当該セラーと取引できる。
これは均衡の最適性と矛盾しない。その結果,同一財であるが,すべての取引で同じ価格が付くわけではない。この結果から,価格は一般にリンクのパターンを反映することがわかる。
(2)リンクの形成
Kranton-Minehart (2001) は,リンクの形成を投資,特に長期投資と捉える。この投資はバイアーが行うが,セラーの生産設備(productive
capacity)をシェアすると考える。このシェアから効用(welfare
gains)が得られ,Kranton-Minehart (2001) はそれを共有の経済(economies of sharing)と呼ぶ。
効率的なリンクのパターンとは,リンク形成のコストがそのリンクに基づく取引から得られる期待利得を下回ることである。取引から得られる期待利得は競争によって変化する。それゆえ,競争プロセスの特性がリンクを形成するかどうかの誘因を決める。
ちなみに,セラーとバイアーの両者がリンクのコストを負担するとしても結論が変わることはない,ことは後にJackson
(2003)によって証明された。また,バイアーとセラーが様々に交渉するモデルも後に別の研究者によって考えられた(引用省略)。
(3)研究の限界と金融仲介業
日本では,かつて債券市場が整備される前,(当時は4社あった)証券大手各社が形成する系列証券会社(これが形成されたリンクである)内で,証券会社が債券在庫を相互に融通する,例があった。一つの証券会社に出された買い注文が,系列内の別の証券会社の保有在庫から,融通され売りに出されることがあった,のである。
このような日本の実際の現象を鑑みると,セラー(バイアー)が別のセラー(バイアー)を通じてバイアー(セラー)に売る(買う)ことはないと前提されている本研究には大きな限界が存在する。
各リンクにおける財の流れはセラーからバイアーへの一方方向である。それゆえ,Kranton-Minehart
(2001)の分析は,ネットワークにおける距離概念は最大1となる,2者間ネットワーク構造(bipartite
network structures)に限った経済分析になる。この経済分析の適用される範囲は限られ,最適な資源配分パターンはさらに別に存在する可能性は残される。
セラー(バイアー)とバイアー(セラー)の間に介在して,取引を促進している経済主体が存在するとすれば,言ってみれば,この業務を行う主体は金融仲介業者そのものである。セラー(バイアー)から兼業セラー(バイアー)に通じる仲介だけでなく,専業の仲介業者が存在すれば,金融仲介業が資源配分の効率性をさらに促進する可能性を示唆する。
4-3 共有の経済
4-3-1 共有財の問題
Kamien-Muller-Zang (1992)の分析では,情報スピルオーバーによって研究開発の成果(の一【100頁】部)が共有され,あたかも自身が研究開発投資した,かのように取り扱われる。またKranton-Minehart
(2001) は,リンク形成の経済原理として,規模の経済や範囲の経済とは違う,共有の経済(economies
of sharing)の重要性を主張する。しかしながら,共有の経済を初めて提唱したのではなく,この現象自体の説明は十分ではない。
(1)共有財の定義
一般に,共有(sharing)とは資源や空間の共同利用(joint use)で,資源や空間さらには時間を分割あるいは分配することによって可能になる。
共有の経済(economies
of sharing)は共有することによって費用が低減することを意味する。例えば,2つの資本を使って同じ生産物を生産する2企業(下付きの1と2で示す)が,共有資本Zを使って生産を行う場合を考えてみよう。総費用Cは,共有せずに,それぞれが私有資本Z1とZ2を用いる場合より,低くなる。共有の経済は次の式で表わされる。
C1(K1, Z1) + C2(K2, Z2) ≧ C1(K1, Z) + C2(K2, Z)
Z1, Z2,とZの関係は,共有のルールによっており,それに深く係わっている。Zの額の資金負担は係わる企業間で分担される。また,数量的な関係式は
Z ≧ Z1 + Z2,
になる。等号,Z1=Z2=Z/2,あるいはZ1=Z2=0 and Z ≧ 0,のケースを含む。
共有の経済の効率性を,マンションのシェアとクラウド・コンピューティングを例に説明しよう。その他の事例や法的問題はBenkler
(2004)に展開されている。
2LDKのマンションを2人でシェアする場合経費は大幅に削減できる。しかしながら,LDKシュアのルールを定める必要がある。時間や空間で分け利用可能範囲を制限しあう,あるいは食事を一緒に作って一緒に食べる,かどうか決めなければならない(12。とりわけ金銭的に大きな問題は,共有資本設備設置の初期支出の割り振りであろう。
クラウド・コンピューティングは,利用者は手元のパソコンや携帯電話を操作しながらも,インターネットあるいは専用回線を利用して,コンピュータを使うことを指す。アプリケーション・ソフトを手元のパソコンにインストールする従来の形ではなく,インターネット上のサーバーやネットワーク先の専用サーバーで処理を行う。それゆえ,クラウド・コンピューティングとは,情報システムを利用する企業や個人が,ネットワーク経由でソフトウエアなどを利用できるサービスを指す。自ら高性能のパソコンやサーバーを持つ必要が無く,効率的に情報システムを利用できる。クラウドは,情報化の進展に伴って拡張し続ける膨大なコンピュータ・リソースを,変幻自在に形を変える雲(クラウド,cloud)に例えられたことに由来する。
既に身近に実現されている例をあげれば,鉄道経路検索の「乗換案内」,携帯電話向けナビ【101頁】ゲーションサービスの「ナビタイム」などが挙げられる。また,Amazon.comのEC2やGoogleのGoogle App Engineもその例として挙げられる。シェアしているのはネットワークの一部とサーバー上のアプリケーション・ソフトである。ちなみに,クラウド・コンピューティングが注目されるのは,コンピュータとネットワークの進歩が相互に融合して新しくもたらされた経済的な合理性があるからである。企業システムの柔軟性が高まり,経営展開もスピーディに行える。
(2)競合する共有財の問題〜共有地の悲劇
個人は自分の効用・利益を最大化しようとするが,全体の不効用・不利益は考慮しない傾向があるため,共有の資源は,私有の資源に比べて過剰利用されやすくなる。
これを説明するために,公共経済学では,生物学者G・ハーディンが1968年に提起した共有地(コモンズ)の悲劇という寓話がよく用いられる。ある村の住民は,所有する羊を共有地で飼うことによって,生計を立てているとする。羊の頭数が一定の範囲内であれば,羊が食べても草が育ち,食べ尽くすことはなく,羊を飼い続けることができる。しかしながら,羊の数がある水準を増えると,草が育たないほど草が食べられてしまい,結局,村民全員が生計を立てられなくなる。
共有地の具体例としては,大気,海洋とそこでの資源,道路,などがあり,乱獲,混雑による渋滞,などの過剰利用が起こる。ちなみに,排ガスなどによる大気汚染は外部不経済の現象である。
4-3-2 共有財の最適供給
(1)共有財とは
共有財(sharing
goods)とは,排除性と非競合性を同時に持つという(公共)財である,と定義できるのではないかと思う。2主体だけが消費する場合を例にこれらの用語を説明すると,排除性
(excludability)とは,その財を2主体だけが消費でき,他の主体をその消費から排除できること,を意味する。非競合性
(nonrivalness) とは1つの消費主体がその財をいくら消費しても,もう1つの消費主体の消費可能量は減少しない,あるいはそのように共有のルール(sharing
rule)が設定されていること,あるいはそう設定できること,である。
非競合性は多くの人が同時に財・サービスを消費し便益を享受できるという性質で,悲劇が起こらない共有地であり,追加的な一個人への供給の限界費用はゼロである。非競合性の性質は,消費の共同性,均等消費 (equal
consumption),不可分性 (nondivisibility) などという用語が用いられる場合もある。
具体的な例をあげてみよう。道路,公園,消防,警察などはどうであろうか。これらは混雑が生じるまではサービスの質は同一であり,非競合性の条件を満たしているように見える。しかしながら,混雑はわれわれの予想以上に頻繁に起こっており競合性はある。国防や河川の堤防なども,国が攻められたり,洪水が生じた際,無限に費用をかけずに,一人ひとりを最後まで守れるかどうかが疑問であり,競合性が生じ,共有財には属さない。
次に公営や私営の放送はどうであろうか。衛星放送などを考えてみればわかるように,全く混雑が生じないと考えられる財・サービスであり,共有財に近いが,排除性がないから共有財ではない。
厳密な意味での公共財とは,非競合性とともに非排除性(その消費あるいは利用から排除できない)という2つの性質をあわせ持つ財またはサービスをいう。一般の公共財でも,会員券【102頁】などの発行などによってそのサービスを享受する利用者を限ってしまえば消費の競合を回避できるようになり,厳密な意味での公共財でなくなる。これはブキャナン(Buchanan,
J.)が名付けたクラブ財にあたる。映画,講演,講義などが具体例になる。クラブ財は,共有財に非常に近いが,排除性を維持できない場合があり,厳密には共有財ではない。情報は,暗号化などによって利用を排除することが可能なので,暗号化すればクラブ財であり共有財にもなる。
(2)共有財の最適供給
クラブ財の最適供給に関する論考は,地方財政学などの分野で,古くは米原(1985)等など,いくつかある。それを基に,簡単な共有財供給の理論を解説しておこう。
社会は同質的な選好をもつn人で構成され,人びとは私的財xと共有財Gを消費する。共有財Gは大きなキャパシティがあり,混雑は生じないとする。それゆえ,効用関数は次式によって与えられる。
U=U(x, G) (1)
この場合,U=共有財の利用と私的財の利用から得られる総効用ないし便益,G=共有財の単位数,x=私的財の単位数,n=共有財の共同消費者数。U x ≧0,U G≧0である。
共有財の総費用関数Cは次式で示されるとする。
C=C(x, G) (2)
ただし,C xは未定とするが, C G≧0である。
共有財の費用は全員に均等負担されるとする。つまり,共有財の費用は均等割され,それを利用する者であれば,誰であろうとも一律に支払う,とする。所得Iの人は,共有財と私的財を購入するために所得を充当する。これから,次の予算制約式が求められる。
x+C(x, G)/ n =I (3)
上式の左辺の第2項は一人当たりの共有財の負担費用を示す。同式の第1項は,私的財の購入量にともなう費用をさす。ただし,私的財の価格をニュメレールにしている。
(2)式と(3)式のもとで,(1)式を極大化する社会的最適問題を解くために,ラグランジュ未定乗数(Lagrangean multiplier)λを導入し,ラグランジュ関数V を作ると,V (x, G,
λ)=U(x, G)+λ{ ( x+C(x, G)/ n ) −I }となる。必要条件∂V /∂x =0, ∂V /∂G=0, ∂V /∂λ=0の最初の2式は
U x+λ( 1 + C x / n )=0,
U
G+λC G / n =0,
となる。両式からλを消去し整理すると,共有財の供給に関する最適条件を表す
n (U G / U x) =( 1 + C
x / n )C G, (4)
が得られる。左辺は社会の限界代替率,右辺は共有財Gの限界費用曲線である。社会構成員数nが与えられるとき,共有財をどのくらいに供給するのが望ましいかを示す条件である。これを図で説明する場合,左辺は右下がりの需要曲線,右辺は右上がりの供給曲線(ただし規模の経済があれば供給曲線は右下がり)になる。
(3)仲介機関と市場の失敗
各個人が限界代替率つまり私的限界便益と一人当たり共有財Gの限界費用を等しくすれば,つまり
U G / U x =C
G / n, (5)
が成り立てば,個人にとっての最適共有財単位数が与えられる。
【103頁】
社会の構成員数nが極めて多ければ,C x / nはゼロに近づき,(4)式は(5)式にほぼ一致する。この場合市場経済が最適な共有財を供給する。
しかしながら,社会の構成員数nが多くない場合が一般的なので,考慮するべき事柄がいくつかあることになる。ネットワークという共有財を提供するのが仲介機関であると解釈できる場合,仲介機関はそれを私的供給することになる。そしてネットワークの構成員数が無限に多いという仮定は満たされないと考えるべきであろう。
私的有財と共有財の補完性が高い場合,私的財の量が増えれば,共有財の費用Cは高くなるかもしれない。共有財の対私的財限界費用Cxはプラスになり,市場経済では共有財の過小供給になる。他方,私的財を多く持つ方が共有財との最適な融合,つまりコストを下げる好ましい組み合わせが出来て,コストは低くなるのであれば,つまりCxがマイナスならば,共有財の社会的最適規模は私的に供給される規模より大きくなる。この場合,市場経済では共有財の過大供給になる。
政府が共有財を供給するには,構成員から私的限界便益を申告してもらって,申告限界便益を集計して,(4)式を満たすようにする必要がある。実際上この手順は非効率である。しかも,@構成員の費用負担が申告限界便益と無関係の場合過大申告しても構成員は損失を被ることはない,A構成員の費用負担が申告限界便益で決まる場合過小申告によって構成員は利益を受ける,という虚偽の申告によって利益を得る行動が制度的に引き起こされるフリー・ライダー問題が起こる。
5 金融ネットワークとそのワーキング
5-1 金融ネットワーク概観と分析例
5-1-1 金融ネットワーク概観
(1)先行研究
Allen-Babus (2008) は,金融ネットワークの理論と実証を容易にしかし深く立ち入らずに展望している。展望対象には,MFファンドマネジャーが,投資先企業の取締役会とどう係わるかが,投資パフォーマンスに何らかの影響を及ぼしているのではないか,という古くから指摘されてきた問題などがネットワークの観点から取り上げられている。これらの点が新しい研究対象である。
さらには,VCとベンチャー企業との人的つながり,あるいはひとつの会社のなかでCEOと部門マネジャーの人的つながり,というネットワークの有る無しが,VCや部門マネジャーなどの交渉(バーゲニング)力にどう影響し,会社の効率性とどう係るかなどの実証できる研究課題がある。さらに,ネットワークとVCの関係とVC間競争については,最近Hochberg-Ljungqvist-Lu
(2010)がさらに考察している。
実証分析では,研究する方法がこのように存在するが,経済理論的にはネットワークの有る無しをどう組み込みモデル化するか,など課題は残されているように思う。ネットワークされておれば企業(あるいは企業セクター)の生産性は上昇するなどの仮説検証はその一例で,データさえ整っていれば実証はできるが,理論分析は一般に容易ではない。
(2)金融ネットワークと破綻の伝播
Allen-Gale (2000) は,金融ネットワークが張りめくらされている現代では,適切にネットさ【104頁】れていなければ破綻は伝播する,と主張する。Leitner
(2005) もまた,ある条件のもとでは,金融機関が金融ネットワークに接続している場合(具体的には,相互に資金融通する契約をしているので)破綻は伝播せず,私的な資金援助がなされる,と主張する。
ちなみに,Allen-Gale
(2000)とLeitner (2005) が分析した銀行の支払準備(積み増し)は,セキュリティ投資に相当している。
Leitner (2005)は,伝染(contagion)の脅威を生むリンクは最適である,ことを示唆する。この脅威と公式的な契約を結べない状況(the
impossibility of formal commitments)はネットワークを事前に最適な保険の形として発展させる。つまり,ネットワーク参加者はシステム全体の崩壊を防ぐために,お互いが助け合う(救済する)意思を持つようになるからである。
しかしながら,逆に,ある条件のもとでは,金融ネットワークからの接続を遮断すれば破綻は伝播しない,のも事実のように思われる。共通の貸し手から融資を受けている2人の借り手AとBがいるとしよう。一方の借り手Aが破綻すれば,貸し手はもう一方の借り手Bに行っている融資を引き揚げようとするだろう。その理由は,貸し手の流動性問題かもしれない。あるいは貸し手が融資基準を見直し厳しくした結果かもしれない。これをコモン・レンダー(common
lender)問題という。借り手Bは早い段階に別の貸し手から融資を受けておけば,この困難に出合うことはなかった筈である。
このように一見異なる両極端の結論が導けるということは,分析が十分でないことであり,解明は今後に期待したい。
5-1-2 金融ブローカー業務のネットワーク
Garmaise-Moskowitz (2003) は,次のようなタイプの金融ネットワークのモデルを分析した。それは1つの金融ブローカー仲介の理論である。次に説明しコメントしよう。
米国では,銀行本体が銀行業務(預金・為替・貸出等)以外を営むことが禁止されているほか,一般事業会社が銀行を買収し,子会社化することも禁止されている。しかしながら,一般事業会社や個人事業主が顧客に代わって預金・貸付けの手続きを代行するブローカー制度がある。このブローカー制度の実態は日本ではよく知られていないので,以下で多少詳しく解説を加えていくことにしよう。
(1)分析枠組み
Garmaise-Moskowitz (2003) は,資金の貸し手と借り手を結びつける機能しか持たない金融エージェントの行動,つまり金融ブローカー業務を,非公式金融ネットワーク(Informal
Financial Networks)と呼び,分析し,米国不動産業を例に実証した。米国ではこのブローカーをモーゲージ・ブローカー(13と呼んでいるので,以下では時にモーゲージ・ブローカーという言葉も使う。
容易に予想できるように,金融ブローカーと銀行は相互にネットワークを形成する誘因がある。このネットワークは金融ブローカーという特定のグループと銀行という別の特定のグループの間に限られた長期の取引関係である。金融ブローカーの背後には不動産の買い手と売り手がいる。銀行の背後には預金者がいるが,こちらは分析対象にはならない。
Garmaise-Moskowitz (2003) は,この長期の不動産取引関係の内部に立ち入って理論と実証の両方から多面的に分析した。理論においては,p t人いる資金を必要とする不動産買い手(銀行【105頁】からの借り手),同じ数のpt人いる不動産売り手,ss t人いる短期の金融サービス仲介業者,i人いる長期の金融サービス仲介業者,j人いる貸し手(つまり銀行)の5主体が市場参加者である。これを前提に,全員がリスク中立的で,同じ割引率ρを用い,前の3者は1期間だけの,後2者は長期間繰り返しの,ゲームを行う,と仮定される。そして,ゲーム理論的な分析によって幾つか命題をまず証明する。
そして,導出不可能な命題は次のような「著者の予測」という形でいくつかの「命題」を提示し,実証分析に持ち込む。@ブローカー経由の方が融資を受けられる可能性は高い,Aブローカーは少数の銀行に取引を集中させる,B銀行と長期的な関係を持っているブローカー経由の方が融資を受けられる可能性は高い,Cブローカーは長期的な関係を持っている銀行により多くの顧客を振り向ける,D長期間営業しているブローカー経由の方が融資を受けられる可能性は高い,等などである。
(2)実証分析の方法
1992年1月1日から1999年3月30日までの間に報告された36,678件の商業不動産(アパート,空地,商工業ビル)のうち,記録された販売価格,財務データ,元引受(プリンシパル)の識別,その位置,ブローカー情報などの点から選ばれた22,642件が分析された。計測方法は複雑なので,ここでは詳細に立ち入らない。
物件の位置がわかるので,該当地から10 mile以内の犯罪スコア指数(homicide)を用いて,商業不動産の安全性の指標とした。また売買双方と該当地間の直線距離を計算した。
そしてまた,専門ブローカーを使ったかどうかの情報もわかる。多くの場合売り手は専門ブローカーを使い,専門ブローカーは販売リストに物件を載せてマーケッテングする。第二のブローカー(売り手のブローカー,日本流に下引受(エージェント)と訳そう)がリストを見て参加し買い手を見つける,こともある。物件が売れたら売り手は両ブローカーに手数料を支払う(かれらは普通折半する)。全データでは65%以上の取引にブローカーが参加している。数は少ないが自己保有の物件では,ブローカーは必ず元引受する(このケースは注意して取り扱われた)。
買い手は,現金(比較的少ないequity
financingは現金に含められている),売り手からの融資(VTB
financing)あるいは銀行から新規にモーゲージ・ローンを組んでもらう,の3つのいずれかの方法,あるいはそれらの組み合わせで代金を支払う。
Garmaise-Moskowitz (2003) は,後2者の選択は,どのようになされるか,ブローカー活動は頻度と大きさ(つまり,利用頻度と利用額)にどう影響するかをプロビット・モデルで分析する。被説明変数は,ブローカーが何らかの形で参加していれば1(そうでなければ0),である。説明変数は,物件が所在する地域の人口密度(Radius,人口密度が高い地方の方がブローカーが多い),該当地から10 mile以内の犯罪スコア指数(既述),該当地から10 mile以内の価格の標準偏差(物件の質の均一性を測る),該当地から10 mile以内の取引に全米規模ブローカー(12社)の占める比率(低い場合地域ネットワークが発達する余地が生まれる),該当地から10 mile以内の不動産取引ファフィンダール指数(低い場合手数料は安く,高いサービスが提供され,ブローカーを利用する誘因になる),である。
計測結果は,次のとおりである。犯罪の少ない,不動産取引の競争の厳しい地方で,モーゲージ・ブローカーが活躍する。物件の質が異質な地方や全国ブローカーの占有比率が高い地方ではモーゲージ・ブローカー活動は減る。
【106頁】
(3)実証分析の結論
そのほか,いくつか注目される結論を要約しておこう。
金融ブローカーを雇えば銀行借入できる確率が高まる。ブローカーが係わらない場合銀行から借り入れを獲られる推定確率は34%であったが,ブローカーが係るだけでこの数字は63%に上昇する。
金融ブローカーは少数の銀行と取引する傾向があり,そうした傾向がある金融ブローカーの方がその顧客は借り入れができる。金融ブローカーと長期的関係(最初にサンプル期間の前半である1997年以前に取引し後半の1997年以降でも取引するという意味)にある顧客(不動産買い手で銀行融資の借り手)も,そうである。銀行にロイヤリティのある(顧客を常日頃差し向けるという意味)金融ブローカーの方がその顧客は借り入れできる。
モーゲージ・ブローカーが資金調達に影響しているかどうかを調べる計測では,販売価額に占めるローンの比率を被説明変数とするトランケーテッド回帰分析が用いられた。説明変数であるモーゲージ・ブローカー有る無しは有意であるが弱い関係が観察された。
また,商業不動産の資金調達は負債(銀行借入)が主になっている。しかし,その理由は必ずしも明らかではない,と記している。そして,次のような結論も得られた。モーゲージ・ブローカーが取引に係わるか係わらないかは,取引価格に影響しない。小規模商業不動産市場は,情報と業者の視点から考えると,地域化する。資本市場が発展した米国のような国においても,モーゲージ・ブローカーが果たす役割は大きい,と結論付けられた。
(4)その他の金融ブローカー仲介の理論
金融ブローカーの存在と銀行ファイナンスの頻度を関連付ける金融ブローカー仲介の理論としては,上記ネットワーク理論以外に次の3つがあり,それぞれの妥当性をGarmaise-Moskowitz
(2003)は検討した。
第一に,ブローカーは銀行をモニターし,融資能力とその性向の情報を得て,どの銀行に融資を仰ぐべきかを顧客に対して指示する,と考えられるかもしれない。これは顧問サービス(advisory
services)仮説と呼ばれた。
第二に,ブローカーは借り手顧客の質を保証し,銀行に貸す誘因を与える,と考えられるかもしれない。それゆえ,商業銀行や投資銀行あるいはベンチャー・キャピタル(VC)が果たすお墨付き(certification)仮説と同様な役割を果す,と考えられるかもしれない。
第三に,あるタイプの不動産売り手がブローカーを選んで,観察されているようなブローカー活動と資金調達の現象をもたらす,と考えられるかもしれない。これは「ブローカー選択仮説」である。具体的には,流動性に制約されている不動産売り手がブローカーを雇う,ということである。彼ら売り手が支払う手数料は敏速な売却への報酬であり,手元流動性に問題があり買い手に融資する余裕がないためVTB融資をする意思はない。
これらの仮説は次のように検証された。
顧問サービス仮説が成立するとすれば,ブローカーは最適な銀行を求めてすべて(ちなみに,探索費用を考慮すると実際上は「多く」,と記すべきである)の銀行を探索することになるが,実際は違っており,ブローカーが取引する銀行の数は限られ,(複数だが)特定の銀行に買い手顧客を紹介している。ブローカーが係わって銀行融資を受けている物件と,タイプと価格帯が同じような物件でブローカーが係わっていない物件でしかも銀行融資を受けている物件(マ【107頁】ッチィング・データ)を比較するコントロールした形で検証された。
お墨付き仮説に関しても一部の主張(金融ブローカーが存在すれば銀行から借りやすくなる)はデータと整合的であるが,金融ブローカーが存在すれば銀行ローンの規模が大きくなることを主張する当仮説は検証できず,データと合致しない。ちなみに,リレーションシップ理論はその銀行ローンの規模について事前に何らかの具体的な主張ができるものではない。
「ブローカー選択仮説」は,関連する変数(第一に,売り手融資の比率。次に,流動性に問題をかかえる売り手は早く売れる方がよいので売却価格が安くてもよい。第二に,それゆえ,売却価格の低さ)が有意でなく,データからは棄却された。
Garmaise-Moskowitz (2003) は,以上の研究結果を基に,リレーションシップ理論あるいは協業(cooperation)理論の正しさを主張する。つまり,銀行はロイヤリティ(忠誠)を示す金融ブローカーに対しては報酬としてローンの承認を与える。また,新しい情報が獲られても金融ブローカーは簡単に銀行を変えることもない,という証左がえられたのである。
ネットワークの観点からは,ネットワークを記述する際に該当地(ノード)周辺のハーフィンダール指数など伝統的な指標を用いることができることを本論文は示しており,意義深い。集中度の指標には,2種類,つまり金融ブローカーkの顧客に融資する銀行bの融資件数Deals kbのハーフィンダール指数(シェアの2乗和)と同シェアの最大値,が用いられた。前者の尺度の値は,後者の2,3倍になり,有意に異なる。
さらに,幾つか目新しい変数が用いられているので紹介しておこう。Herd値と呼ぶ,ブローカーが特定の銀行になびくかどうかをみる変数がとられた。
ΣkDealskb/Dealsb―ΣbΣk
Dealskb/ΣbDeals b,
で計算される値の絶対値から,修正値(説明は省略)を引くのが銀行bのHerd値である。ここでΣは当該市場で活動する,すべてのブローカーkあるいはすべての銀行bで総和する。しかしながら,この変数は特に大きな役割を果たさなかった。
(5)まとめと残された課題
Garmaise-Moskowitz (2003) が,不動産購入資金の貸し手と借り手を結びつける機能しか持たないモーゲージ・ブローカーと呼ばれる金融ブローカー業務を実証した結果,資本市場が発展した国においてもモーゲージ・ブローカーのような不動産金融ブローカーが果たす役割は大きいと結論付けられた。それ以外の詳細は次のとおりである。
@犯罪の少ない,不動産取引の競争の厳しい地方で,モーゲージ・ブローカーが活躍する。
A物件の質が異質な地方や全国ブローカーの占有率が高い地方ではモーゲージ・ブローカー活動は減る。
B金融ブローカーを雇えば銀行借入できる確率が高まる。ブローカーが係わらない場合銀行から借り入れを獲られる確率は34%であったが,ブローカーが係るだけでこの数字は63%に上昇する。
C金融ブローカーは少数の銀行と取引する傾向があり,そうした傾向がある金融ブローカーの方がその顧客は借り入れができる。金融ブローカーと長期的関係にある顧客も,そうである。
D銀行に対してロイヤリティのある(顧客を常日頃差し向けるという意味)金融ブローカーの方がその顧客は借り入れできる。銀行はロイヤリティ(忠誠)を示す金融ブロ【108頁】ーカーに対しては報酬としてローンの承認を与える。新しい情報が獲られても金融ブローカーは簡単に銀行を変えることはない。
E商業不動産の資金調達は負債(銀行借入)が主になっている。その理由は必ずしも明らかではない。
Fモーゲージ・ブローカーが取引に係わるか係わらないかは,取引価格に影響しない。
G小規模商業不動産市場は,情報と業者の視点から考えると,地域化する。
しかしながら,研究上の課題はいくつかある。モーゲージ・ブローカーの存在意義を高めている米国の住宅金融制度枠組み(14を分析に取り入れておらず,専門の人にとっては事実と違う(重要な変数が抜け落ちている)ように思われ理解できないだろう。また,銀行とモーゲージ・ブローカーのリレーションバンキング関係では,モーゲージ・ブローカーの活動年数,その前職(バンカーか不動産業者,さらにはファイナンシャルプランナーや会計士,弁護士,保険代理店か,など)など,他の興味あるデータの効果は分析されていない,のが残念である。
5-2 金融ネットワークのモデル
初期保有量や効用などに依存して,誰もが売り手にも買い手にもなりうる。それゆえ,この節の以降では,売り手か買い手かが最初から固定されていないという意味で一般的な経済あるいは金融ネットワーク・モデルの分析に移ろう。展開は基礎的になされる。
Gale-Kariv (2007) は金融の一般均衡の理論的分析にネットワークの視点を取り入れる。Gale-Kariv (2007)は,取引が仲介されている売買のネットワーク・モデルを分析するために,毎期商品あるいは財一単位を保有する者がランダムに選ばれ,商品あるいは財を保有しない者と接触(コネックト)して,取引を提案する,多期間交渉モデルを組み立てた。
このような金融経済における売買のプロセスを調べ,ネットワークが(摩擦があるなどして)不完全ならば金融仲介には多大なコストがかかり,取引の不確実性(uncertainty
of trade)と市場の崩壊(market breakdowns)をもたらす,ことを示した。さらに,期間の長さがゼロになれば,摩擦がなくなり,市場は効率的になる,ことを示した。
彼らは,生産者や企業を考えておらず,すべての者は取引者として取り扱われる。取引者間で遣り取りされる情報の流れ,あるいは情報の量や質の差も特に詳しく考えられていない。しかしながら,ここでは,彼らの研究を参考に金融ネットワークを考察してみよう。
5-2-1 金融ネットワーク・ワーキングの事例(1)
【109頁】
Gale-Kariv (2007)が論文内で使っている数値例を用いて,5人からなる取引を説明しよう。所与量(endowment)のベクトルは(1,0,1,0,0),評価(utility)つまり需要量は(0,0,1,0,1)であるとする。取引を進めていって,前者のベクトルが後者のベクトルに一致すれば取引は止まる。効率的な取引プロセスではこの取引回数が少なくなる。
取引の原則は,財を保有するが,その財を望まない人は,直ぐ隣の人に売る,というものである。あるいは,財は保有せず,その財を望まない人は,売りにこられた財を購入し,そのまま直ぐ隣の人に売る。財を保有し,その財を望む人はどうするかで,以下のように2つに分かれる。
これは,単線型ネットワーク(line
network,ライン・ネットワーク)と呼ばれるネットワークで,物々交換経済での典型的な取引形態を表している。交通手段や通信手段が基本的に陸路しかない時代(たとえ短い距離は船であっても)は,交易や情報伝達は両端に行き止まりがある単線型ネットワークになる。しかしながら,現代資本主義において単線型ネットワークは稀である。
(1)完全情報下での取引
仮定により,取引を進めていって財を欲しい人に当たれば,その財に関する取引は止まる。その他の仮定によって2つに分ける。まず第一は:
取引方法の仮定:隣の人としか取引できないが,誰が欲しがっているかがわかっている完全情報で,あるとする。そして非留保需要(留保需要とは,「ある資産・財を保有する者が,そのときの市場価格でそれを手放し,また同時に同じ資産・財を(必ずしも同じ量ではない)需要する」という意味である。ちなみに,不動産業界では「ある資産・財を保有する者がそのときの市場価格でそれを手放さずに保有し続ける」という意味で使っている)を仮定する。つまり,財を保有し,その財を望む人は,持ったままでいる。
一回一回の取引を示すと,
(1,0,1,0,0)→(0,1,1,0,0)→(0,0,2,0,0)→(0,0,1,1,0)→(0,0,1,0,1)。
それゆえ,最適な資源配分をするのに,4回の取引が必要であった。次に,仮定を変えると,
取引方法の仮定:隣の人としか取引できないが,誰が欲しがっているかがわかっている完全情報で,留保需要を仮定する。
(1,0,1,0,0)
→(0,1,0,1,0)同時に2ヵ所で取引がある
→(0,0,1,0,1)同時に2ヵ所で取引がある。
同時に取引は行われる場合があるが,取引の件数は上と同じで,4回の取引が必要であった。
(2)取引所のなかのピットで
古いタイプの取引所のなかでは,多くのトレーダーがピット(pit)と呼ばれる個所に一堂に集まり,独特な手振りで売買がおこなわれる。この売買方式はオープンアウトクライ(open
outcry)と呼ばれる。ピットのなかでは,すべての人と取引できる。しかも,誰が欲しがっているかがわかっている完全情報である。
図表4の左半分は,真上から時計周りにトレーダー@からDを並べたピットにおいて,商品が@からDへ直接売られ,取引が成立することを示している。このようにピットでは,売買に【110頁】係る者が一堂に集まれば売買は一度で済むことになる。
(3)取引所を含む多層取引システム
先の拙論文,辰巳(2010)では,ピットを超えた,取引所を含む多層取引システム(の1つのミニモデル)を様々なネットワーク概念を用いて記述することを試みた。それは辰巳(2010)の例3であり,そのネットワークは(@B,AB,CD,BD)で,その数は4であった。
この様に,経済や金融ネットワークのデータが存在すれば,ネットワークの尺度でネットワークを記述できるだけでなく,以上のような視点で経済分析できる。
5-2-2 金融ネットワーク・ワーキングの事例(2)
Gale-Kariv (2007)の数値例である所与量(endowment)(1,0,1,0,0)だけを(0,1,1,0,0)に代える修正を施して,不完全情報の場合を説明しよう。評価(utility)つまり需要量は(0,0,1,0,1)はそのままである。
(1)不完全情報下での取引
上と同様に,欲しい人に当たれば取引は止まるとする。
取引方法の仮定:隣の人としか取引できない。誰が欲しがっているかがわからない不完全情報とし,非留保需要を仮定する。
まず,左から2番目の1単位を右方向に移動させる。
(0,1,1,0,0)→(0,0,2,0,0)→(0,0,1,1,0)→(0,0,1,0,1)。
最適な資源配分を達成するのに,3回の取引が必要であった。次に,左から2番目の1単位を左方向に移動させ,行き当たりで反転させる。
(0,1,1,0,0)→(1,0,1,0,0)→(0,1,1,0,0)→(0,0,2,0,0)→(0, 0,1,1,0)→(0,0,1,0,1)。
最適な資源配分を達成するのに,5回の取引が必要であった。それゆえ,どちら方向に取引したらよいかわからないので,確率50%で方向を選択するとすると,3×1/2+5×1/2=4。つまり平均4回の取引が必要になる。
最後に,
取引方法の仮定:隣の人としか取引できない。誰が欲しがっているかがわからない不完全情報。留保需要,を仮定する。
まず,左から2,3番目の各1単位を同じ右方向に移動させる。
(0,1,1,0,0)
【111頁】
→(0,0,1,1,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,0,1,0,1)1ヵ所で取引
最適な資源配分を達成するのに,3回の取引が必要であった。次に,左から2,3番目の各1単位を同じ左方向に移動させる。
(0,1,1,0,0)
→(1,1,0,0,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,1,1,0,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,0,1,1,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,0,1,0,1)1ヵ所で取引
最適な資源配分を達成するのに,7回の取引が必要であった。次に,左から2,3番目の各1単位をそれぞれ右左方向に移動させる。
(0,1,1,0,0)
→(0,1,1,0,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(1,0,0,1,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,1,0,0,1)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,0,1,0,1)1ヵ所で取引
最適な資源配分を達成するのに,7回の取引が必要であった。次に,左から2,3番目の各1単位をそれぞれ左右方向に移動させる。
(0,1,1,0,0)
→(1,0,0,1,0)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,1,0,0,1)同時に2ヵ所で取引がある。
→(0,0,1,0,1)1ヵ所で取引
最適な資源配分を達成するのに,5回の取引が必要であった。3×1/4+7×1/4+7×1/4+5×1/4=22/4=5.5。つまり平均5.5回の取引が必要になる。
(2)取引所のなかのピットで
先の図表4の右側は取引所のなかのピットでの売買を図示している。ピットでは,視覚的にも,誰がいくつ(数値例の場合は1つ)需給しているか,一発でわかる(完全情報な)ので,取引は1回(数値例の場合)で均衡に到達できる効率的な仕組みである。
5-3 金融ネットワークの形成
(1)ネットワークとその接続〜規模の経済
ネットワークは,参加者全員が直接つながっている完全ネットワークと一部の参加者が直接つながっていない不完全ネットワークに分けられる。不完全ネットワークには様々なタイプがある。
取引所における集中的交換が不完全ネットワークの代表的な,しかも比較的効率的な例になる。ワルラスの経済学はこのイメージを下敷きに構成されているが,ネットワークの視点はない。経済にN人,取引所が1つだけ存在すれば,ネットワークの数は各人から取引所へのN本だけになる。
現実の世界では,取引相手との情報非対称状況などを避ける必要があるため,個別の取引はサーチ・アンド・マッチングの上で行われ,ネットワークに繋ぐかどうかはネットワーク接続費用とネットワーク接続の便益に係わる個々人の経済的決定に基づく。
【112頁】
不完全ネットワークでは,情報の流れは完全ではない。経済的にその根底にあるのは既に見たように,ノイズ,取引費用(探索等費用)とさらには規模に対する収穫逓増(increasing
returns)である。それらのためにある条件を満たさないと取引相手として選ばない。それゆえ,「手間がかかるから更に安く売っている業者を探索しない」,だけでなく,「小口とは取引しない」,などが理由になる。それゆえ,ネットワークは繋がれず,ネットワークは不完全になる。
(2)金融ネットワークへの接続〜信用リスク,在庫保有能力などその他の要因
ネットワーク参加者の間には,たとえ情報の非対称性がなくても,取引(接続)相手の信用リスクが存在するため,損失を恐れてネットワークを繋がないということが起こる。
信用リスクから派生して,既述のコモン・レンダー(common
lender)問題などの付随する事柄が起こる。実際に貸倒れになり資金回収が不可能になった際には,資金の貸し手は流動性不足を避けるために優良貸し出し先からも資金を回収する。その結果,ネットワークは遮断されたり,ネットワークが細くなったり,する。
Gale-Kariv (2007) は,さらに,金融ネットワーク組成の裏側の問題として,探索とマッチングのリスク管理と流動性の関係や資本市場の摩擦を分析に取り上げる。そこには在庫保有能力が物理的にも金銭的にも限られること(limited
carrying capacity),取引機会はランダムにしかやって来ないという意味で不確実性があること(trading
uncertainty),さらに在庫を保有することによって資金が退蔵するという意味で在庫保有コストに影響する将来価格の割引(costly
discounting)率が相互作用している。
これら以外に,ネットワークのアーキテクチャー,取引コストなどの変化が市場へのショックになる。
それゆえ,金融ネットワークの形成には大きな障害が存在する。その障害を超えた利益が予想されて始めて金融ネットワークは形成される。しかしながら,形成された金融ネットワークには,他の市場に比べて,このように大きな脆弱性が隠されている。
(3)その他の接続条件の分析
情報発信コストは極めて低減し,しかも情報発信に関する資格が問われないため,価値がないだけでなく,マイナスの価値の情報も発信されることも起こる。善意だが単に目立ちたがりの人がマイナスの価値の情報を発信するだけでなく,人によっては悪意を持った情報発信もなされる。
それゆえ,もはや受信者は受信にあたって,無頓着ではない。
ネットワーク社会が進展しているが,自由に繋がるリンクがある一方,匿名では繋がらないリンクが並存している。無条件に(無条件と思っていても,所在地とアドレスなどの識別番号など,最小限これだけの情報は提供される)で繋がるリンクから,個人情報の概略(例えば,男女の区別,凡その年齢)を提示するだけで,あるいは意図せず自動的に明示するだけで繋がるリンク,さらには詳しい情報を提供しなければ繋がらないリンクまで,様々である。
さらに,濃密なネットワークがあり,接続する両者の相互の行動(取引)履歴を知ることが相互に継続して接続する誘因になる場合もある。そこでは自己の取引経験から獲た情報しか信頼しないことが前提になっている場合もある。ネットワーク接続が信用リスクに影響されるのは,この事例である。
接続条件については,最近話題になっている事柄を挙げておかなければならないだろう。当然のことながら,ネットワーク接続のコストが高いとネットワークは接続されない。アンダー【113頁】セン(2009)は,「無料経済」というキー概念を使って情報社会のこの問題について解説・分析し,サービスを無料(フリー)にして,事業を成功させた例を多く挙げ,注目をあびた。
実は,無料(フリー)といっても,多くのケースは利用者自身の個人情報を売り渡してフリーを手に入れているのである。売り渡しているという認識はないかもしれないが,実際はそうしているのである。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)提供者などの情報仲介者は手に入れた利用者の嗜好や行動の情報をセクターにあるいはマクロに集約し(まるめて)広告主に売っている。そのまま売る場合はプライバシーを侵害するが,統計集計データの一サンプルとして利用しているので問題はないとSNSは理解している。利用者は結果として無料で会員同士の会話や無料動画などを楽しみ,同時に望む広告情報などを入手している。
個人が提供するのが差し支えない情報なら全く問題なく,逆に個人には望む物が増え,品揃いがよくなる,などの付随的メリットもある。しかしながら,一般にSNSでは,「友達」(ミクシィの場合は「マイミク」)に対して,生年月日,学歴,勤務先,住所,電話番号などの個人情報を公開状態にしているユーザーが少なくない。「友達」だけでなく,SNS提供者などの情報仲介者がモラルハザードを犯さない保証はなく,気を付けないと大きなダメージを受けてしまう危険もある。
例えば,マイミク同士で住所を知らなくてもリアルな年賀状を送れる「mixi年賀状」は賀状送付先個人の住所を実際上その個人の了承をえず(強制的に,断れない環境に置かれた状況で了承させて)課金ビジネスに使っているのである。
また,情報発信(通信接続)コストの低減によって,ネットワークの中も,データ・センターも,UGC(ユーザー生成コンテンツ)であふれかえることになった。それらの通信と維持管理をするためのコスト負担は膨大になり,業者は課金ビジネスを指向する動きにある。池末(2009)は,いったんSNSなどを有料にしたうえで,ライフログ(行動履歴あるいは閲覧履歴)の広告主への開示を許諾した利用者だけ利用料を免ずるという案を提唱している。
ICT(情報通信技術)サービスの利用者保護を検討する総務省の研究会は2010年4月9日,サイト閲覧や買い物などのネット上でのライフログ(行動履歴あるいは閲覧履歴)を集めるネット事業者などが増えていることに対応して,取得の事実や取得内容,第三者への提供などについて「利用者に開示することが望ましい」ことを指摘した。
(4)金融ネットワークと仲介者
そのネットワークが参加者全員に直接つながっている完全ネットワークの機能は,市場・取引所の機能と大差はないが,規模は膨大になり,必ずしも経済効率的ではない。他方で,一部の参加者の間で直接情報伝達や取引ができない(あるいは,意図的にしない)不完全ネットワークの下では,参加者の間を繋ぐ仲介サービスが必要とされる。ネットワーク内のこのような仲介サービスの存在が,経済効率性を高め,全体の社会的厚生をあげることがありえるのではないかと思う。
参加予定者のなかには,ノイズ,情報の非対称性を起こす取引費用(探索等費用)がなくても,取引相手の信用リスクが存在するために損失を恐れて,ネットワークを繋がないということが起こる。在庫保有能力が限られるためにやむをえずネットワークを繋がない場合も起こる。
この場合仲介者が保障・保証するという仲介サービスを提供して,ようやくネットワークが【114頁】接続されるということもある。情報(あるいは金融)仲介者は,それゆえ,@在庫と顧客に関する情報の蓄積が必要になる,A情報処理が低費用,敏速でなくてはならない。
これら仲介サービスによってネットワークは維持される。それゆえ,仲介サービスには時間や費用がかかる(逆に,仲介サービスのコストでネットワークの不完全性を測れるかもしれない)。このコストが増大すれば,極端な場合にはネットワークが切断され,市場が崩壊することもある。
このような情報仲介者が必要になる例として,情報セキュリティ格付けがある。企業間取引の円滑な遂行のために情報セキュリティ格付けの役割がある。これがなければ,信用リスクでは問題のない企業も,その云われない(財務に問題があるなどと事実と違う噂をたてられてしまう)懸念から大きな影響を受けることまで起こってしまうからである。ただし,これは,そもそも情報セキュリティ格付け業者正しく格付けを付けることができればの話である。正しく格付けを付けることができなければ,情報セキュリティ格付けは信頼をなくし,システムすべてを壊してしまう。
格付け議論にネットワークの観点が導入され出したのが,最近の傾向であるのは注目される。経済にn 企業が存在するとすると,個々の企業が取引先企業の格付けを個別に評価すると,最大n対nの数,つまりn2の評価件数になる。しかしながら,そのなかに格付け会社が介在すると格付け評価件数はnにとどまり,社会的なコスト負担は小さくなる,という議論がなされている。
6 最適ネットワークへ向けて
6-1 ネットワークの最適性と最適化
(1)最適ネットワーク
個人間の情報伝達と取引遂行の効率性は変わらないとすると,最小時間で最適配分を達成する仕組みが最適ネットワークである。もしある人ともう一人の人の間で情報伝達や取引遂行が非効率であるとすると,まずこの非効率性を解消することが必要になる。
もう少し詳しくみよう。まず,個々の人にとって,欲しい物が到着するまでの待ち時間,を計算してみよう。一人の人が素早く獲得できるのに,もう一人の人が極めて時間が掛かるのは,最適ではない。これはエレベーターの待ち時間問題と同じである。エレベーターを待っているすべての人に対して待ち時間が平均化し,それがあるべき最短化を実現する運行方式が最適である。さらに,設備が最小コストである必要がある。同様な3つの条件をみたす取引方式が社会的に最適なネットワークである。
しかしながら,個々の主体には在庫保有のキャパシティに限界がある事実,将来の取引は価値が割り引かれる事実,取引できるかどうかには不確実性がある事実が,このようなネットワークの機能が完全に達成される機会を妨げる。さらに既述のように,ネットワークには規模の経済性,ネットワークの外部性という現象が存在する。
このような制約条件のもと,金融仲介には最適なネットワークを実現することが望まれる。
(2)金融ネットワークとセキュリティ
金融ネットワークとセキュリティについては,続く別稿を予定しているが,ネットワークがらみのセキュリティに限り,幾つか論点を簡単に説明しておこう。
【115頁】
様々な特性を持つ資金需給両者を,社会的最適に結びつけるためには,そのネットワークのデザインが必要になる。そして,付随する問題として,そのセキュリティを確保しなければならない。
一つの例をあげれば,先の5-2節で解説した単線型ネットワーク・システムは,破綻に対して特に弱い。どこか1箇所がダウンすればネットワークのその先は麻痺する。資源配分は機能しなくなり,経済は破綻する。
ネットワーク2重化などでシステム・ダウンを防ぐ必要がある。ネットワーク2重化とは,システムは最小限2ルートで相互に接続されていることを要求する原理である。構成するすべての組織が相互に最小で2つ以上のルートで結ばれるネットワークである。このようなネットワークは1つがダウンしても,もう1つが機能する。
6-2 金融仲介方式の変化
金融仲介方式には大きく分けて間接金融と直接金融の2つがある。直接金融については,日本や欧州の一部でその発展が遅くれたが,米国などでは大いに発展した。他方,間接金融方式は次のように3段階で発展してきた(15。
(1)間接金融方式の発展段階
欧米においては,資金の貸し手が資金の借り手(債務者)の状況をモニタリングし債権管理を行うという,いわゆるOTH(originate to hold)のビジネス・モデルが第一段階である。第一段階からの発展は,貸し手が債務者への債権をポートフォリオの観点から分散する債権管理に変化した時点で起こった。これが第二段階と呼べるもので,ポートフォリオ理論がかなり進歩し金融界に認められてからであるので,時期的には1980年代以前ではないものと思われる。
日本においては,前者(第一段階)のリスク・ヘッジ手段には担保,特に土地担保が大きな役割を果たした。1989年の資産バブル崩壊で,債権評価は将来予想利益の割引現在価値に代わり,担保も役割を大きく変えた。しかしながら,債権のポートフォリオ管理は十分根付いていないのが現況である。
さらには,1990年代後半以降(特に欧米において)には,貸し手がCDS市場を通じて原債権の信用リスクを投資家に分散させるという,いわゆるOTD(originate to distribute)のビジネス・モデルが新しく生まれた。これが第三段階である。
CDS取引は金融機関や投資家が企業などのデフォルト(債務不履行)リスクを回避する手段として利用されている。例えば債券投資家が,債券の保証コストを示すCDSスプレッド(プロテクション)を支払うことで,発行体である企業がデフォルトに陥ったり,債務再編を行う際には,債券の額面相当額を受け取ることができる。CDSというデリバティブ取引のメリットとして,市場が対象銘柄をいかに分析しているかを理解でき,投資決定をする際の判断材料になることがある。
金融仲介のあり方はこのように大きく変化してきた。その変化のスピードは加速度的に早まっている。そして,証券化等の新たな金融技術の普及とあいまって,こうした変化が失速し,周知のように2008年9月リーマン・ショック以降には米国を中心に大きな金融危機が到来したわけである。
【116頁】
(2)中小企業金融
中小企業への金融仲介には,国によって様々な仕組みがとられている。この目的のための民間組織が自主的に育たない場合,一般に,専門の公的金融機関を設ける,あるいは専門の民間金融機関を設けて規制で機能を維持する,などの方法がとられる。
米国では後述のベンチャー・キャピタル(VC)がある。日本では,専門の公的あるいは民間金融機関が存在するにも関わらず,ハイリスク・ハイリターンの中小企業に資金を供給する仕組みに欠陥があり,新しい企業や産業が育ちにくい,といわれる。その証拠は,新産業のほとんどは米国に独占され,開業率が低く,IPO件数が少ない事実,などに現れている。
しかしながら,大手銀行も次のように,中小企業金融において,一定の役割を果してきたし,今後も果たしえる。銀行はまず,信用力の高い大企業に無担保で,あるいは優遇した条件で,融資する。大企業は,下請けや関連会社と呼ばれる中小会社に部品を発注したりする。資本関係などがある子会社にはさらに資金も提供する。つまり,ファイナンスの役割を果たす。その代表的な例としては,日本では商社ファイナンスが有名である。
銀行は,直接個別の中小企業を審査して融資することはしないが,また意図したか意図しなかったかは問わないが,大企業経由で中小企業への金融仲介を行ってきたのである。さらに,証券市場を通じる直接金融についても,商社などの大企業経由で中小企業への金融仲介を行っている同様の隠れた仕組みの存在を指摘できるだろう。このような指摘は昔からあった。
しかしながら,第二層の金融仲介に銀行の主体的な意思決定が届く保証はない。それには,証券市場からの資金調達が大きな比重を占めれば,株主の影響が入り込むということとも係わっている。
金融の二層構造と呼べるこのような仕組みは,可能性としてどの国でも存在している。日本が注目するべきなのは,日本では企業間ネットワークが大きな役割を果たし,産業の二重構造の存在が注目されてきたからである。
しかしながら,このような仕組みの下では,ハイリスク・ハイリターンの中小企業に対する銀行特にメガ銀の審査能力は向上せず,中小企業に銀行が資金を直接供給する仕組みは育たなかった。本来その機能を担うべき銀行系VCも,その独自の組織上の欠陥などのため,役割は果たせないでいる。その結果,直接金融の発展が遅く,銀行が絶対的に優位な日本の金融システムのもとでは,新しい企業や産業を育てるという大きな課題が十分果たせないでいる。
考えてみれば,このような金融二層構造の仕組みは,中枢である銀行が不良債権を抱えて機能不全になった場合だけでなく,大企業が売り上げ不振などで苦境に陥った場合にも,仕組み全体が麻痺してしまう,という欠点がある。金融の二層構造は一種の金融ネットワークであることに間違いはない。この金融ネットワークの運営にはコストがかかり,脆弱なのである。非常に高コストな金融仲介なのである。
6-3 社会的に最適な金融仲介業を目指して
(1)最適な金融仲介業
金融仲介業が解決するべき問題は多い。企業や個人に関して,能力や意欲があるにもかかわらず,解消されない,金融から由来する不公平には,
@ ベンチャー企業への投融資,
A世代間に存在する年金の掛け金と給付金の比率の差,
B資金が小口過ぎる個人向けの融資,
【117頁】
C遠隔地での資金需給(過疎地への資金供給),
などがある。これらは金融・資本市場の失敗,あるいはもっと適切に,金融仲介機能の失敗と呼ぶべきであろう。
不公平のうち@は,ベンチャー企業は一般に,成功確率が低くリスクが大き過ぎる,投資回収期間が長い,あるいはバイオ分野などでは多量の資金が必要である,そのため社会的に必要な額の投融資が行われない,から起こる。これらの理由のうち,いずれか1つでも満たされれば,金融仲介の機能不全問題が起こる。
また,これら3つの理由があるがゆえに,市場から大量の資金調達ができない。その結果,関連する資本市場は流動性が低く,価格変動が激しくなり,機関投資家が参入しない。そして,資金量の小さい,投資視野が短い個人投資家が主流の市場になってしまう。公開市場経由の金融仲介(いわゆる直接金融)は細ってしまうという悪循環が起こる。
不公平のうちAは,年金の掛け金を支払い,給付を受けるまでの期間が不景気期にあたる世代の人は,そのため運用成績が悪くなり,それが好景気の世代の人より年金の運用パフォーマンスは低くなる,ということである。また,年金受け取り時に激しいインフレになったら,実質同じことが起こる。これらは,人間の命には限りがあり,人命より長かったり短かかったりして,人命と一致しない期間の景気循環が存在する,から起こる。従来,人間は時代と共に生きるしかないと思われ,この不公平な現実を甘んじて受け入れるしかないと考えられていた。世代リスク(generation
risk)と呼ばれる。
これらの問題に対して,いずれも財政支出あるいは租税を用いた経済政策で解決しようと従来から行われているが,満足が得られる解決ではない(16ように思える。@に対しては,事業を知りつくし,成功し資金を持ったまま引退した元経営者による,ベンチャー・キャピタル(VC)による解決策がモデル(シリコンバレー・モデルとも呼ばれる)になった。
Aに対しては,不況期でも成長する企業へ株式投資できればよいが,そのような企業はリスクが高く,しかも見つけ出すのは困難である。そこで,成長する新興諸国の株式インデックスを買う,あるいは新興市場へのプレゼンスが高い多国籍企業へ投資する対策が従来から考えられている。
また,Grande-Visco
(2009) は確定拠出(DC)年金給付の政府による最低保証制度を提案する。DCに参加する人々は定期的に掛け金を払い,例えばGDP(国内総生産)成長率など,何らかの経済指標が一定水準以下になった場合に実際の運用成果ではなく,最低保証年金を受け取る,というものだ。それによって,掛け金している時が不況期にあたる人に対して,他の時期の人が金銭的に補うメカニズムが組み込まれるものと考えられる。ネットワークの概念を使って説明すれば,将来世代がネットワークへ参加し続けることを前提に,多世代ネットワーク内で世代間不公平を解決しようとすることになる。それを手助けするのが政府である。世代を【118頁】超えた超長期に渡る所得配分を行えるのは,政府しかない。しかも,政府なら,規模の経済を最大限に発揮できる。
BとCが起こるのは,従来の方式では金融仲介のコストが高くなりすぎ,小規模な融資や預金の利益では釣り合わないのが理由である。その有効な解決策は,過去存在していない,その結果取られてこなかったと著者は考えている。
ベンチャー企業への投融資,個人向けの小口融資,過疎地への資金供給はいずれも社会的最適な金融仲介が望まれるケースであり,新しい金融仲介機能が要求されている。
様々な特性を持つ資金需給両者を,社会的最適に結びつけるためには,そのネットワークのデザインが必要になる。金融仲介のコストを下げる,ソーシャル・レンディングなどの,新しい金融仲介が開発されなければならない。そのなかには,情報通信とネットワークの技術進歩が果たす役割は大きい分野もあるだろう。
(2)私的個人的な金融仲介
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログという情報通信手段が生まれ普及し,誰もが情報発信や通信をできる時代になっている。これは,ベンチャー・キャピタリストのマーケティング・ツールとしても強力で,ネットワークは金融仲介にとって有効であるという見方が優勢である。
P2P融資(person-to-person
lending)とは,ソーシャル・レンディング(social lending)とも呼ばれ,SNSのように専用のサイトで行われる,個人間の資金貸し借りを行う新しい仕組みである。インターネットにおいて,個人間の取引が加速的に増加してきた。P2P融資はそれに乗って金融分野で生まれた,金融の素人の小口金融と呼ばれる。
借り手はサイトに入会して,希望する借金額や金利,予定する使途などを掲載する。場合によっては,写真や収支状況,友人などによる補足説明を信用情報として掲載し,貸し手との質疑応答にも応じる。貸し手は,その情報を見て希望する貸し出し金利や融資可能額を入札する。借り手と貸し手にとっては,金融機関を介在しないことで,お互いにとって良い金利で貸し借りができる可能性がある。サイト上で需給のマッチングが行われ,サイト運営者は融資の成立に応じて手数料を徴収する。
日本初のサービス提供は,貸金業者と第二種金融商品取引業者の登録をした後,2009年12月16日から営業を始めたエクスチェンジコーポレーション(ExCo)(17で,貸し手と借り手の【119頁】間に匿名組合を置き,資金をプールすることなどによって,延滞などのリスクを分散させる。ExCoは,信用情報会社の米国FICOと提携し,スコアリング手法で借り手を選別する。
ソーシャル・レンディングを利用することで,貸し手は銀行預金やMMF(マネー・マネジメント・ファンド)より有利な利回りの個人ローンに投資でき,借り手は信用力に見合った公正な金利で融資を受けられる,可能性がある。貸し手は,匿名組合を通じて組合の個人向け無担保ローンに出資することになる。
7 残された課題
多くのトピックスを展望・展開してきたにも係わらず,未解決な問題は数多く残っている。
コミュニケーション技術の飛躍的進歩によって,今後どのような通信においても常時接続(always
on)がふつうになる(log-inやlog-outが必要でなくなる)と言われている。また,大容量コンテンツの配信技術が進歩し,やりとりされる情報は多種類多彩になり,頻度も頻繁になった。このようにネットワークは大きく変化しようとしている。通信網(言わば情報通信の道路網や航路網)は早晩完全整備されることが技術的に可能になるので,経済活動に対する制約の一部が取り払われる可能性がある,ということであり,今後はネットワークの技術面ではなく経済的側面が重要になるということである。
ネットワークが接続されているだけで,ある量以上の情報伝達がないのでは経済的意味はない。このような場合ネットワーク構築の固定費用が重く圧し掛かってくる。ネットワーク内でのトラフィックという点に関しては,コスト要因の分析が大切である。ハブ&スポーク型の航路ネットワークの例では,ハブ間は大型機,ハブとスポーク間は中小型機,と航空機を複数の種類備えるのが普通で,そのための整備などに経費がかかり過ぎると言われている。ネットワークの維持という点でも,これらコストの管理が重要であることを示唆している。
ネットワークのトラフィック(量)だけでなく,ネットワークの方向の分析が今後重要になる。その観点からでは,リンク(接続)の数と方向を考慮してネットワークの特性を記述するページランクとハブ度・オーソリティー度(18,などはまだまだ経済学的ではない。
【120頁】
また,SNSなどにはセキュリティの問題が付きまとう。それゆえ,ネットワークの更なる普及と発展には,そのセキュリティがコストとして大きく立ちはだかる。ネットワーク・セキュリティの研究も急務である。その意味でもネットワークの強さと弱さの分析が今後大いに必要になることは間違いない。この点は続く研究で試みたい。また多くの研究が現れることを期待したい。
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