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ファンドの行動,経済効果とその功罪(T)
〜ファンドはどう行動するのか〜
辰巳 憲一*
1 はじめに
デリバティブを多彩に使うファンドの行動が,M&A,企業再生・産業再生・地域再生,規制や金融危機などに絡んで,いろいろな意味で注目され報道されて久しくなっている。またファンドは,デリバティブ戦略だけでなく,とりわけ珍しく新しい投資戦略をとっていると現在でもみられている。
議決権,株式大量保有報告,空売り,会社法などとのからみで,デカップリング戦略,エンプティ・ボーティング戦略,ウルフパック戦略,ベア・レイド戦略などという目新しい名称が付けられている。
しかしながら,ファンドの行動は,オプション,スワップ,CFD,などの基礎的なデリバティブを複数組み合わせ,しかも場合によって異時点(時間次元)で組み合わせているに過ぎない。このことを本稿では,確認していくことになる。
ファンドがとるデリバティブ戦略といっても,特殊なものではない。深く分析せずに,伝説が作られているに過ぎない,のではなかろうか。将来を見誤るファンドは,損失を出してしまい,出資している投資家から解約され,消滅する。そういうケースもいくつか報道されている。そこで,いくつか疑問が湧いてくる。投資家として,ファンドは正当なヘッジをしているだけなのではないか。ファンドは異質な投資家ではないのではないか。ファンドと経営者の対立は誇張され過ぎているのではないか。ファンド行動とデリバティブを解明すれば,これらの真偽は判明するだろう。
ファンドは伝統的な株式市場の破壊者,特に株主が保有している議決権へ挑戦して破壊する無法者,であると捉えられる,ことがある。それは事実であろうか。著者はこの点を検討した論考を多く知らない。単に誤解に過ぎないのではなかろうか。こういう誤解が生まれる経緯を詳述し,本稿では,誤解,少なくともその一部を解いていくことにしよう。ファンドの汚名を晴らす(vindicate)ことができるかどうか,論証を試みたい。
さらに,このようなファンドの行動を,時間次元での理論が発展しているデリバティブから眺めてみよう。そしてファンドは異質な投資家でないこと説明し,ファンド自体の役割や経済【58
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機能も考察してみよう。ファンドに対応する企業のあるべき対策も考察してみよう。なお,本稿が分析対象とするファンドは,限られるので,以下の本文の冒頭で説明することにしよう。
本稿では,もっぱら,定量的ではなく,定性的な枠組みの解説に集中する。そして,もっぱら経済学的アプローチをとる。該当する論点をサポートする事例を,出来るだけ典型的で新しいケースを挙げながら,進んでいこう。なお,これらの事例から,論理を演譯したわけではない。
焦点が散漫になることを避けるため,あるいはまた,法学的にいかなる意味でも体系的ではないため,法律分野の文献を引用・紹介することはできる限り避けるようにした。状況を記述し判例(judicial precedent)を示す文献の引用に限った。
2 ファンドの諸機能とファンドの分類
ファンドは様々に行動し,結果として様々な機能を果たす。その点を解明するにあたって,ファンドの行動のうち,投資先企業からみれば時間の推移からは逆の撤収,ファンドからみた回収,から説明をはじめよう。
2−1 分析対象とするファンド
本稿が分析対象にするファンドには,ベンチャーキャピタル(VC)やバイアウト・ファンドだけでなく,一部のヘッジファンドを含む。ヘッジファンドには様々なタイプが存在するが,それらのうち,ディストレス型と呼ばれる,いわゆるハゲタカあるいは企業再生に係わるヘッジファンドを含む。投資の対象となる企業には,当初上場していない企業をも含む。それゆえ,プライベート・エクイティ(PE)を含む。しかしながら,同じファンドという名称を持っていても,投資家により近い,年金とソブリン・ファンドは除かれる。
ファンドが行う事柄は,以下の諸節と重ならない点をあげれば,売上の増加を図り費用を低減するなどして,破綻の確率を変更させる(少なくとも,そうしようと努力する)。見込みのある企業にはその確率を下げるよう努力する。あるいは,出資先企業が保有している有効で将来見込みのある特許を維持し,そのような特許を増やそうとする(Lerner と共同研究者との一連の著作(2007)(2011)参照)。さらには,新商品を導入するなどして製品市場で出資先企業が有利な立場に立てるよう改善する。
本稿では,理論モデルの展望は行わないが,このようなファンド行動を理論的に数学モデル化することは困難であろう。筆者は寡聞にして適切な理論モデルがあるかどうかを知らない。多くはファンド・モデルと銘打っていても,単なる株式投資モデルであるようである。
なお,経産省(2011)は,国別,事例別に,ファンドの有効活用の実態を分かりやすく展開している。
2−2 ファンドの回収戦略とファンドの分類
まず,ファンドのもっとも重要な基本的な行動として,出口戦略を取り上げてみなければならない。
2−2−1 ファンドの投資資金の回収方法と対応するファンドの分類
一般の投資家であれば,証券市場で売れば投資資金の回収は済んでしまうのに対して,ファ 【59 頁】 ンドの投資資金の回収には,米国などでは以下の(a)から(d)のように複数の方法がある。これらの点は辰巳(2007)を参考に,最近の動向を加味し,それに修正追加して展開する。
(a)株式公開
まず,第一にあげられるのが,米国であればナスダック等への,株式公開(IPO)へと,出資した企業を誘う,という戦略であろう。出資時の引き受け価格(株数をかければ出資金額になる)と IPO 公開価格,あるいは初取引日価格,さらには180日(売却禁止期間,いわゆるロックアップ期間)経過後の市場価格との差がファンドの収益になる。後述のように,いつでも IPO が可能ではないが,可能になった暁には,大きな利益がファンドに転がり込むことになる。
この事実は,ファイナンスのなかの IPO 研究分野では,いわゆるアンダープライシング問題として大変よく知られている。多くの研究がある。広い視野からみたその展望と参考文献は辰巳(2011)を参照のこと。
ファンドは当然有利な IPO を望む,結果として経営陣と利害対立することも起こりえる。1つの事例をあげれば,西武ホールディングスの筆頭株主であるファンドが2013年3月に起こした行動があげられる。このファンドは西武ホールディングスの IPO に際して,最後の手段として,株主総会での拒否権がある3分の1の議決権を TOB によって得ようとした。このファンドによる TOB は,提携関係にある事業会社であり,同時に筆頭株主である会社が仕掛ける TOB とは事情がまったく違う。その目的は,有利な出資回収(エクジット)であり,売り出し価格の引き上げであるとみられている。
(b)売却
次に,ファンドから多様な相手へ1)の売却(sell-out)があり,売却先や売却方法別に次のよ うに5つの形態に分けられる。
@ 事業会社に直接交渉して売却。同じあるいは関連する事業を営み,当該事業に関心がある企業と直接交渉して売却するので,企業買収(M&A)である。IC 産業では,ベンチャー企業(以下,時に VB と略)の成功は,かつてはマイクロソフト,その後はグーグルに買収してもらうことである,と言われる。必ずしも,IPO だけが VB にとっての成功ではないのである。
A 仲介業者へ売却。ベンチャー企業を経営・保有したい買い手企業を間接的に紹介してくれる仲介業者(ファンド)に売却する。MBI の変形である,と理解される場合がある。
B セカンダリー・セール(secondary sale)。専門の買取業者に売却する。買い手からみれば二次買取になる。最終的には投資家が保有するので,VB からみれば最終保有者が当該ファンドへ出資していた投資家から別の投資家に代わることになるだけである。
C トレード・セール(trade sale)。トレード・セールとは,当該 VB 等出資先企業の株式を保有する他の株主へ売却する,ことである。その株主は買い増すことになる。
D 入札。エクジットしたい当該ファンドが主導して入札を行う。事業に関心のある事業会社,ファンドなど様々な主体が参加する。どこか別のファンドが落札するとは限らない。
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(c)買戻し
投資先企業による買戻し(buy-back, redemption)。保有する証券を当該VB 創業者等に引き取ってもらうから,ファンドから見ると,売り戻しである。株式を発行した企業に買い取ってもらうということで,株主の自益権の一つとしての株式買取請求権が利用される。
IPO 市場が冷え込んでいる時期やM&A がうまく行えない時期には,昔から在籍する社員,かつて在籍した社員やファンドなどの既存の株主の所有する株式を対象に買い戻しを行えば,彼らに,持ち株を現金化する,エクジットする機会を与えることになる。いわば株式に流動性を付与できることになり,これら既存株主から会社に対して陰に陽に浴びせられる圧力から逃れることができる。さらに,企業自身が非公開のままで居られるよう,巨大になった株主数を減らす効果がある,点が評価される場合もある。
ただし,1点説明を追加しておかねばならない。日本の会社法でこの権利が認められるのは,合併などの会社の企業組織再編等の株主総会決議が行われた時に,議案に反対した株主に限られ,自ら所有する株式を会社に買い取り請求できる。その価格は「公正な価格」になる。
(d)特別配当
買収後にファンドが,投資先企業やVB に借り入れを実施させ2)
,それを源に特別配当させるケースが特に米国では報告されている。買収直後から半年の間に,特別配当の形で,ファンドの出資金を回収する狙いがある,とみられている。しかしながら,米国においては,これまでのところ,この方法だけでは,ほとんどのケースは投下資金の全額回収にはなっていない,という推測(出典不明)がある。
なお,この(d)に関連しては,特別配当以外に,投資時に結ばれる投資契約によって,様々な資金回収方法が考えられる。
(e)清算
清算とは,投資先企業を意図的に解散させる,スクラップ化のことである。この点については,後に詳述する。
なお,(e)についても,前の(d)と同様に投資契約によって,ファンドにとって有利な場
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合が作られており,第三者から見れば予想外に,多くのケースで活用される。
2−2−2 回収方法の選択
ファンドのその他の資金調達手段としては,ファンド自身の IPO3),増資,債券 IPO,起債,借り入れがある。投資資金回収は,M&A の考え方,IPO と売却の長短,現金買収と株式交換の長短などを比較して行われる。
このような投資資金回収によって,ファンドに資金が還流し,ファンド投資の新たな原資になる。つまり資金は循環する。
資金回収に際しては,出資先企業に係わる様々なステーク・ホールダーの利益を調整しながら,投資利益を確保することは一般に難しい。ベンチャー企業(以下,時に VB と略)の経営者とベンチャー・キャピタリスト等ファンドの間では,投資回収に対する思惑の差もある。投資契約(特に残余財産分配優先権でその傾向がある)が VC 等ファンド寄りになりすぎ,創業者や社員に利益が回らず反発を買い,円満にエグジットできないことも起こる。
多少変わった回収戦略をとるのは,日本で比較的多くみられるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である。事業会社の手掛けるベンチャーキャピタルである CVC は,銀行系などの金融系ファンドとは違った行動をとる。出資した企業が再生したり,成長するのを支援しながら,途中あるいは出口でキャピタルゲインを得るのではなく,事業面での連携というシナジー効果を主として狙う。出資を求める企業側も,たとえば売上が上がる策をとれるか,新商品開発できるかどうかといった視点から CVC の出資を求めることが多い,と言われる。CVCは,出資した企業を見届けるというより,協業することにより本社の利益向上・安定化に狙いがあるのである。これらの目的は,出口というには相応しくないだろう。
2−2−3 ファンドのラチェット契約
(1) ファンドのラチェット契約
ファンドは,周知のように,出資にあたって,様々な契約を出資先企業と結ぶ。その一部を説明しておかなければならない。
ファンドが保有する株式,特に優先株には希薄化防止条項(antidilution protection)などの様々な条項が,多くの場合,付いている。例えば,企業設立時から投資している VC の場合,その企業の業績が芳しくなくなり,その後の新株発行が企業設立時の株価より低い価格で行われれば,当初想定した投資リターンが望めなくなる不都合が生まれる。これを回避するために,ラチェット(rachet,歯止め)条項が定められる。
これには2種類あり,一つは完全ラチェット(full rachet)条項で,VC 投資後の新株発行が当初の発行価格を下回る場合は,当初の優先株の価格も自動的にその新たな低い発行価格に調整される。調整の方法には,無償割り当てなどが用いられる。その結果,当該企業の業績が振るわない中で増資が行われた場合は VC の持分が飛躍的に増加することになる。もう一つが,加重平均ラチェット(weighted average rachet)条項で,低い株価で新株が発行される場合,すでに発行済みの株式の発行価格を,新株を含めたすべての発行株式の平均価格に引き下げる調整を行う契約である。Kaplan と Stromberg の一連の研究,Kaplan-Stromberg(2001)(2003)(2004)(2008)と Kaplan-Martel-Stromberg(2008),を参照。
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本稿後半との関わりから見れば,ファンドは既にラチェット契約などでオプション類似の仕組みを作り上げているという事実を,この小節から確認しておこう。
(2) 残余債権と企業価値最大化について
企業価値は,企業に関わるステーク・ホールダーのなかでも,株主以外の,債権者(場合によって,従業員)などに優先的に配分される。そして,最後に残された価値つまり残余債権が株主のものとなる。株主は残余権者(residual claimants)の地位にある。
それゆえ,株主には残余価値を最大限高めて欲しいという希望が生じる。株主総会では,残余価値を高める議案には賛成し,残余価値を低める議案には反対するインセンティブが働く。つまり,株主に議決権を与えることは,それによって残余価値が高まることが期待されているのである。
しかしながら,そもそも,残余価値と企業価値は違う。それは株主と債券保有者の利害が反する場合があることに典型的に現れている。それゆえ,株主に議決権が付与されていても,企業価値の最大化が必ずしも実現するわけではない。
この最後の視点は,重要である。一般の株主には残余価値を最大にすることしか望みえない。しかしながら,ファンドは企業価値を最大化できる立場を獲得し,企業価値の最大化を望めば望めるように思われる。これが正しいものとすれば,ファンドの方が一般の株主より,広い視点を持っていることになる。ファンドと一般株主の利害対立の一部も,この観点から生じているのかもしれない。
2−3 回収戦略を通じたファンドの金融仲介・革新推進機能
ファンドの社会的役割を,これまで展開した事実確認を基に,詳しく見ておこう4)。
2−3−1 ファンドの金融仲介〜IPO 市場の失敗を補う機能
いわゆる投資ファンドが IPO に代わる金融仲介を行えば,情報の非対称性からもたらされる IPO 市場の失敗を回避できることになるのかもしれない。ファンドの機能に係る,この研究分野は今後大きくなるように思われる。
ファンドのいわゆるエグジット(出口)戦略には,既述のように@ IPO,A買収企業の当該事業と同業の企業への売却,B多角化を狙う他事業業者への売却,C同種ファンドへの売却,D他種ファンドへの売却,E純粋仲介業者への売却,等などがある。ファンドはその時々の経済状況に応じて最適な出口を選択しているものとみられる。
それゆえ, IPO 市場が停滞している場合にはファンドは他の売却先を選ぶわけである。つまり,ファンドは失敗した(機能不全に陥った) IPO 市場を補って金融仲介を行う(っている)と考えられるのである。この点は既に辰巳(2009a)で記述している。
2−3−2 ファンドの長期的視点による金融仲介機能
投資ファンドは,さらに,情報の非対称性を小さくするように事前審査を詳しく行っている。また,行動に関する情報の非対称性から由来するモラル・ハザードを防ぐために,役員を派遣
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したり,インセンティブ・システムを取り入れたりしている。
つまり,投資契約を結んだ後も,その出資先経営者が優良であり続け,そう行動するようなインセンティブ・システムを,とっている。また,経営陣のエクジット策も画策する。例えば,経営陣に,新株引受権付社債(ワラント債)を付与し,ワラント債の行使により,経営陣の持株比率を高められるシステムを導入する。契約期間中業績が上がれば役員手当(ストック・オプションなどによって)を増額したり,追加出資(これを階段投資step investment という)をしたり,業績不振になったときにその役員手当を減らし損失の一部を自己負担してもらう,などの方策によっている。
あるいは,経営陣にストック・オプション(新株予約権)を付与し,それを新(買収)会社が取得する形で,経営陣のエグジットを達成する,ように画策することがある。ファンドは,経営権を持っている期間における,経営に対するインセンティブ・システムを確立・維持し,自身のエグジットと同時に経営陣のエグジットをも画策する,のである。
ファンドのなかでも,VC は資金,技術や経営面からVB に対して支援する。それゆえ,VCが支援する企業の IPO ではアンダープライシングが観察されることが多い(参考文献は多いが省略)。アンダープライシングは株式市場の一般投資家が投資ファンドのこのような金融仲介機能を評価した結果でもあると考えられる。アンダープライシングとは,公開価格が初取引日価格を下回ることである。一般に,安く買う方が投資行動は評価されるのが普通だろう。しかしながら,購入希望が殺到し,公開株応募から溢れ出す投資家が初取引日に買いに走り,売買が膨らみ,株価が上がることとアンダープライシングは解釈できる。
ちなみに,VC ファンド以外の投資ファンドについては,経営効率化を達成し株式市場がそれを評価していることを示す,同様な研究は著者の知る限り存在していないようである5)。
2−3−3 ファンドの改革促進機能
ファンドは企業や産業の改革を促進する機能も持っている。この機能は多様な局面を持っているので,詳述する必要があろう。
(1)破綻の1つのプロセス
企業破綻の1つのプロセスは次のようになる。独自の生産技術がなく,誰でも造れる商品を一番最初に売り出したという理由だけで当たったような場合,次のようなプロセスで破綻に陥る。当初売り上げがあるが,しばらくすると消費者から飽きられたり,類似品を売り出す業者の乱立があり,たちまち売り上げが減少する。そして設備投資に資金繰りが追いつかず,債務超過に陥る。
このような企業は,往々にして,清算の意思決定が出来ない。「現在の経営戦略は正しく,近いうちに成果を出せる時期が来るので,もう少し待つべきである」とさえ考え,「結果はいつか出るので信じてほしい」と訴えてしまう。現有のスタッフで,有望な戦略が思い浮かばず,無駄な時間が過ぎたり,新しい計画も建てられないことが起こり得る。事態を変える確かな新情報が入ってきても,目的に合わない情報は無視し,都合良い情報だけを受け入れてしまう,ことさえ起こる。何か,よい切っ掛けがどこかからもたらされるのを待つだけの経営になってしまう。出来ても,再生ではなく,せいぜい延命に過ぎない場合もある。成果の出ない投資を
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採り続け,少なくなっている利益を食い潰す。清算の意思決定が出来ないまま,さらには,残っている資産まで食い潰す,ことになってしまう。
清算する意思決定とは,自分自身を退任させることを意味し,なかなか出来ない困難な決断となる。このような企業の場合,社会からみれば清算する方がよい6)。
(2)ファンドの社会的役割
経済学では,生物学の事例を例に説明することがある。多細胞生物の生体内では,異常を起こした細胞のほとんどは,アポトーシスによって取り除かれ続けており,これにより,ほとんどの不都合な要素の拡大・成長は未然に防がれている。また,生物の発生過程では,あらかじめ決まった時期に決まった場所で細胞死が起こり(プログラムされた細胞死),これが生物の形態変化などの原動力として働いている。
アポトーシス=自己死,という細胞が自ら死んでいく,この現象は,組織の形成には不可欠なのだ。確かに,企業が成長していく過程では,部門やプロジェクトの淘汰(自己死=アポトーシス)が起こり,企業体が形作られていく。しかもこの時,単に計画通りに企業が作られるのではなく,部門同士の競争と想定外の出来事が起こって組織が形作られるのが普通である。
しかしながら,人間が近現代になって作り上げた企業という組織が個々の要素となって作り上げている全体,つまりいわゆる現代企業社会には,企業成長過程で作用するような自己死=アポトーシスという仕組みが必ずしも組み込まれていない。成長を遂げられない企業,あるいは,赤字を出し続ける企業はリビング・デッド(living dead,生ける屍)である。経済社会には,リビング・デッドに対して再生を試みたり,再生を断念するかどうかを決定する組織が必要なのである。
本来,市場から退場するべきであるが,清算の意思決定が出来ない企業や事業の清算をファンドが後押し(肩叩き)する。ファンドは,このようにして,有効な資源配分を達成する。当該企業の経営陣,特に創業者は,「利益をあげており,まだまだ存続できるのに,ファンドに潰された」,と捉えるが,多くは過度の思い入れや幻想から,そう考えているに過ぎない。
倒産しかけの企業に資金を貸したり,部品などを納入して,回収不能にしていまい,経費に計上する羽目になってしまう健全企業が存在する。ファンドは,このような健全企業を間接的に救うことになる。破綻の伝播を,あたかも江戸時代の火消役が火災の伝播を止めるように,阻止するのである7)。
ちなみに,転業や廃業を促すのも金融仲介業の役割であるという認識も日本で根付き出しているようにみられる(2013年4月24日日経新聞1面記事)。特に,重要なのは当該企業に余力
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があるうちに行う必要がある点である。この金融仲介機能とは,具体的に,特定の業種の企業への買掛金を整理し,新しい人材を雇用し,再出発に必要な資金を用立てること,あるいは廃業に必要な買掛金や従業員の退職金を用立てることである。これらを,転業ローンや事業整理ローンとして,提供することは従来難しかった。ファンドが発達していない日本の場合は,まずは銀行がこの役割をあえて果たすよう求める制度作りが課題になる。
2−4 経営支援を通じたファンドの人的資源配分機能
ファンドは出資した企業に対して技術,販売,財務など該当分野の専門家を派遣する,いわゆるハンズオン(hands-on)することはよく知られており,文献にも散見される。それ以外にも,人的資源配分に対してファンドはある重要な役割を果たしている。次に,それを展開しよう。
(1)創業企業の売却〜起業家とプロの経営者の役割分担
一人の人間が創業した会社を,創業者が亡き後家族が何代も引き継ぎ,時間をかけて成長させていくという企業発展の方式は,日本では家業と呼ばれ伝統的に普通の方式と見られてきた。しかしながら,創業したその会社を早い段階で売却する方式も日本で増えてきた(と2013年2月11日の日経新聞で報道されている。本小節での以下の展開もこの記事を参考にしている)。
事業を始める時に必要とされる才能とある程度会社が大きくなった時に必要とされる才能は違う,のである。爆発的に成功するには売り出す商品・サービスそのもので顧客をつかむ必要があるため,創業時には,発想力とクリエーティブな才能など独創力が必要である。しかしながら,会社の拡大期には組織をきちんと作り運営する手腕などがより重要になってくる。それゆえ,離陸期と拡張期という企業の発展段階に応じて経営陣・会社の持ち主が変わるのは自然である。
起業家は,いわゆるアニマル・スピリットを持つ型破りの人材である,と言われる。場合によっては,会社を保有し続けることに執着はなく,むしろ新たなサービスを機動的に生み出すことを自らの役割と任じる,ものである。早い段階で事業を売却し資金が得られたら,得られた資金で再び起業する創業者が米国には存在する。このタイプは「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」と呼ばれる。
しかしながら,会社拡大期に必要とされるのは,いわゆるプロの経営者である。事業を拡大するにはどんな社内体制が最適かを検討し,場合によっては資金,人材,ノウハウが豊富な大手企業の傘下入りを決定する。米国のベンチャーの場合には,軌道に乗ると売却したり,出資する VC などがビジネススクール出身の経営者を連れてきたりすることが多い。
(2)ファンドの人的資源配分機能
ベンチャーを起こす起業家は,既存の法規制や利権に縛られない,など枠にはまらない性向がある。そして,起業家は,往々にして優秀な人材を集められない。人を使うのも上手でない,ことが多い。しかしながら,一人で会社を動かせない。さらに,会社が大きくなるにつれ,経営がわかる人材を外部から招くなどチームづくりが必要だ。チームの根幹は人間だ。組織をまとめ上げるには人と人との交流を深めることが必要である。そこで,ビジネス社会における人的交流の仕組みが必須になる。しかしながら,日本はその仕組みが確立していない。そこをファンドが埋めることができる。人的資源の配分機能である。
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このような起業家と経営者の役割分担が定着すれば,起業家が増え,創業から経営が軌道に乗るまでのスピードが速くなり,VC なども支援しやすくなる,と考えられている。しかしながら,短期間での会社売却となれば,残される従業員は雇用に不安を抱くことになる。この点の配慮も必要になる。
破綻企業社員の再就職先の斡旋は,日本では,精神的余裕があり,誠実な経営者が行ってきた。あるいは,日本では,大手企業グループが,その組織力を頼りに,行ってきた。日本はその公的な仕組みが確立していない。そこをファンドが,十分と言えないかもしれないが,埋めることができる。
なお,製品やサービスを持っていないが,例えば研究を中心としているような企業を買収する場合,買収の目的は人やチームで,優秀な人材を自社に取り入れる狙いがある。このような形態は,ふつうの M&A と区別して“acqui-hire”(買収と雇用)と呼ばれる。報道される該当事例では,これらは,ファンドではなく,事業会社やコンサルが行っているケースが多い。
3 ファンドのデリバティブ活用戦略
ファンドは,エクイティ・デカップリングと総称されるデリバティブ取引を組み合わせた戦略をとる,ことがある。まずは,武井(2008),大田(2008),武井−中山−星(2009),等などが展開する議論8)を参考に事実を中心に紹介していくことにしよう。
その一つが,エンプティ・ボーティング(empty voting)と呼ばれる手法である。エンプティ=空,つまり「経済的利益を伴わない議決権の行使」という意味で,デリバティブを使って保有する株式の価格変動リスクをヘッジして議決権とは切り離した上で,意のままに議決権を行使するのである。「空議決権」行使や「裸の議決権」行使と訳される場合もある。切り離しは,エクイティ・デカップリングあるいはデカップリング戦略という言い方もなされる。
あるいは,トータル・リターン・エクイティ・スワップなどを利用して突然大株主として姿を現し,あたかもウルフパック(群狼)のようであるので,ウルフパックと呼ばれる戦術も採られる。なお,この戦術は隠れた株式保有(hidden ownership),持分の隠れた取得などとも呼ばれるが,本稿ではウルフパックという術語を使うことにしたい。
周知のように,各国には大量保有報告制度上の開示義務(日本の5%ルール)が設けられているが,ウルフパック戦術は,デリバティブを駆使して議決権をあたかも保有していない形式を取ることで,大量保有報告などの情報開示義務を逃れ,突如として大株主として登場し,準備していない,認識の乏しい対象企業を大混乱に陥れてしまう。
3−1 エンプティ・ボーティング戦略
3−1−1 エクイティ・スワップと貸株取引
説明する前に,エクイティ・スワップ市場と貸株市場を簡単に説明しよう。なお,言うまで 【67 頁】 もなく,これらは現代において特に革新的ではない,普通の取引である。
(1)エクイティ・スワップ
エクイティ・スワップとは,固定金利や変動金利と株式や株価指数のリターンを交換する取引である。投資家はエクイティ・スワップを活用することにより,株式を直接売買することなく,間接的に株式投資のエクスポージャー(市場の価格変動のリスクにさらされている資産の度合い)を増やしたり,減らしたりする9)ことができ,ポートフォリオのリスク低減を図れる。
(2)貸株取引
貸株取引とは,主に空売りをする投資家に対して,証券会社が該当株式を貸し出す取引のことである。貸し出すとは,法的には名義を借り手に移動することで,借り手は借りた株をショートしたり,また貸したりする。また,借り手は年次株主総会で議決権を行使することも可能である。しかしながら,貸し手は貸した株式と同等の株式の返還請求権をもっており,議決権行使が必要な場合,同権利を行使する。
貸株取引の借り手となるのは,通常空売りを多用するヘッジファンドであり,最終的な貸し手は,年金基金,投資信託,保険会社,財団などである。借り手に代わって必要な株式を探してくるのが,プライムブローカレッジ業務に従事する,証券会社である。貸し手の株式を預かり,プライムブローカーに貸し出すのがカストディアン・バンクや資産運用会社(エージェント)である。
3−1−2 エンプティ・ボーティング戦略
エンプティ・ボーティングとは経済的持分を超えた議決権の保有・行使を指す。代表的な手法には,エクイティ・スワップを用いる場合と貸株取引を用いる場合の2つある。これらの手法を行えば,他の株主の利益とは反するなど,様々な問題を生じさせる場合がある。
(1)エクイティ・スワップを用いる場合
エクイティ・スワップを用いる場合,現物株式を保有すると同時に,エクイティ・スワップ取引で金利を受けることによって,株価変動リスクがヘッジされるので,事実上,経済的持分なしに議決権だけを保有することができる。
具体例としては,2004年の Mylan Laboratories(マイラン・ラボラトリーズ)社による同業の製薬会社 King Pharmaceutical(キング・ファーマシューティカル)社の買収交渉を巡るケースが挙げられる。
2004年7月,Mylan 社は King 社と株式交換による合併を行うことを合意した。Mylan 社の大株主であるカール・アイカーン(Carl Icahn)氏は合併に反対していたため,当該合併は Mylan 社にとって不利であると市場が判断し,当該合併合意の公表後 Mylan 社の株価は急落した。
ヘッジファンドの Perry(ペリー)・コーポーレーション社10)は,King 社の株式700万株を保有していた大株主で,合併が成功すれば2,800万ドルを取得できる見込みを持っていたことか
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ら当該合併に賛成していた。Mylan 社が株式交換による King 社の買収を発表すると買収のプレミアムが高かったため,King 社の株価が上昇し,Mylan 社の株価が下落した。
そこで,Perry 社は,King 株の値上がりを確保するために,Mylan 社の株主総会で合併承認を支援しようとし,Mylan 株を9.9%購入し,議決権を得ると同時にエクイティ・スワップ取引で金利を受ける側に立って,Mylan 社の株価変動(値下がり)のリスクをヘッジした。
その結果,実質上経済的持分を持たない Perry 社と Mylan 社の他の株主の利益が相反した。なぜなら合併が承認されれば,King 社の株式を保有する Perry 社は値上がり益を得るが,合併の発表により株価が下がった Mylan 社の他の株主が損失を被ることになるからである。
そこで,Mylan 社の大株主で買収に反対するアイカーン氏は,Mylan 社と Perry 社に対して,公開会社の持分証券の5%を超える実質的所有者につき,SEC,関係する証券取引所および当該証券の発行者に対して一定の書式による報告書を提出する義務を定める1934年証券取引所法13条(d)違反等を根拠に当該取引が不正であると訴訟を起した。その理由には,Perry 社らは Mylan 社に対してネガティブな経済的権益(negative overall economic interest)を有していること,などが主張された。
結局,King 社側に会計上の問題があったため合併契約が解除されたことから訴訟は取下げられ,Perry 社が実際に議決権を行使することはなかった。このケースは経済的持分を持たない者が経済的持分を保有する株主の利益に反する議決権の行使をしようとした一大事例になった。
当該エクイティ・スワップのカウンターパーティ(つまり取引相手)は,Bear Sterns およびGoldman Sachs といわれており,これらのカウンターパーティも,またその他のヘッジファンドもMylan 社株の株価下落リスクを回避していたものと考えられている(Hu and Black(2006),pp.828-829参照)。
(2)貸株を用いる場合
貸株を用いる場合,貸株契約では賃貸期間中に貸し手に配当などの経済的受益権が留保されるが,議決権が借り手に渡る。そのため,株式を借りることによって経済的持分を保有せずに議決権を手に入れることができる。議決権の基準日をまたいで,貸株市場で対象会社の株式を借りる,この手法は基準日づかみ(record date capture)という。株主総会の議決権は基準日時点の株主名簿上の株主にあたえられるためである。
貸株契約においては,賃貸料と賃貸期間が明記され,賃貸期間の終了時に貸し手に返還することになるので,賃貸期間中の株価変動リスクを貸し手が負担している。借り手は,貸株取引で経済的なリスクを負担することなく,議決権を行使することができるのである(武井−中山−星(2009)はこの点を強調する)。
年次株主総会が開かれる通常30日前の議決権が確定する日の直前に貸株市場で株式を借り,議決権を獲得・行使したあと,株式を返却するという手法で経済的持分なしに議決権の行使が可能になる。
具体例として,いくつかのケースが知られている。2002年に,クルーズ運航大手のカーニバルがライバルの P&O プリンセスに買収を仕掛けた際,買収に賛成だった P&O プリンセスの株主は P&O プリンセスの株を借りて買収を成立させる議決権数を確保したと言われている。
また,よく引用される事例は香港で起こった。2005年11月香港の不動産開発会社 Henderson Land Development(ヘンダーソン・ランド・デベロプメント)は,非公開化を目的として,
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75%持分を保有する子会社 Henderson Investment(ヘンダーソン・インベストメント)の残りの25%をプレミアム付けて買収すると発表した。その結果,株価が上昇した。香港の(当時の)規制では,買収提案は浮動株数の10%以上の反対があった場合,却下されるようになっている。この場合,浮動株は25%なので,発行済み株式のたった2.5%の反対によって却下される可能性があったが,市場は買収が承認されるという見方が強かった。しかしながら,2006年に起こったことは,あるヘッジファンドによるエンプティ・ボーティングによって当該買収は阻止され,2.7%が反対に回り,提案が却下され,Henderson Investment 社株価の17%の下落であった。同ファンドは,あらかじめ,エンプティ・ボーティングによる買収阻止による株価下落を見込み空売り取引を行い,株価下落分の利得を図ったといわれている。この裏で起ったことは,予想される通り株式市場で Henderson Investment 社の株式を借りて,2.7%の議決権を獲得した11)ことである。(Hu and Black(2006),pp.834-835などを参照)。
(3)オプションを用いたエンプティ・ボーティング戦略
リスクをヘッジした上で議決権を行使する事例の最後として,対象会社株式の保有者がデリバティブ取引を用いて経済的リスクをヘッジして行う手法もある。
例えば,プット・オプションを購入すれば,株価の下落リスクをプット・オプションの行使価格までに限定できる。
また,プット・オプションのロング・ポジションとコール・オプションのショート・ポジションを組み合わせれば,株価変動リスクをコール・オプションの行使価格を上限(場合によっては下限),プット・オプションの行使価格を下限(場合によっては上限)とする範囲に限定することができる。このとき,コール・オプションとプット・オプションの行使価格が同じであれば,株価変動リスクを負わない。このような技法が使われたという報道は見かけないが,理論的にはエクイティ・スワップと関係している。これらの点は後に詳しく解説することにしよう。
3−2 ウルフパック戦略
暗闇や草むらからグループをなして突然襲うウルフパック(群狼)12)を想定して名称が付けられたファンドの戦術がある。隠れた株式保有(hidden ownership)あるいは隠れた持分の取得と呼ばれる方が多いが,本稿ではウルフパック戦略という呼び方をとることにしたい。
襲われる側の反発は非常に大きいものがある。特に,大量保有の情報が公開されないなか,突然現れる発言力のある大株主に対しては大きい戸惑いがある。
株式会社における様々な意思決定は株主総会において行われる。株主総会は,議決権を保有
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する株主が集まって作られる会議体であり,この会議によって株式発行会社の意思決定が行われる。議決権を実質的に持っているのは一体誰か,誰が株主総会に参加するかは,会議の帰結に直結する重要な問題になる。なお,実質株主は英語では beneficial owners となり,日本語より内容を適切に現している13)。
3−2−1 ウルフパック戦略の実例
戦術を説明する前に,いくつか事例を解説しておこう。
(1)英米のケース
隠れた株式の取得で有名になった事例には,英国の投資ファンド TCI(The Children’s Investment Master Fund)がこの手法を使い,アメリカの鉄道会社である CSX Corporation に経営参加を求めた,例がある。
TCI は CSX 株式に関して,投資銀行とトータル・リターン・エクイティ・スワップ(TRES)契約を締結するなどして,CSX 株式を買い進め,CSX 社に対し自社株購入などを提案した。しかしながら,大量保有報告が提出されていなかったので,2008年6月,CSX 側は「TCI がデリバティブを使って実質的な株式持ち高を隠した」,と訴えた。つまり委任状争奪戦の過程で,CSX が,TCI に1934年証券取引所法に基づく大量保有報告規制違反等があった,ことを理由に TCI による定時株主総会での議決権行使禁止を求めて提訴したわけである。
これに対して微妙な司法判断がなされた。アメリカ NY 南部地区連邦地裁所は,TRES のロング・ポジションの保有者にすぎないファンドであっても,1934年証券取引所法13条(d)項の下における大量保有報告規制の潜脱防止規定SEC13-3(b)の下で,「状況証拠の積み上げ」的な認定により,CSX 社の実質株主(beneficial owner)とみなされると判示した。ただし,1934年法上の beneficial owner に該当するかについては明言しなかった。そして,「回復し難い損害」が生じることが立証されなかったとして,ファンド側保有株式の議決権行使禁止は結論として認めなかった。太田(2008)参照。
これに対して,SEC が提出した鑑定意見は,「単に経済的利益だけを得て,株式を保有することがないデリバティブ・ポジションの保有者を実質株主とはみなさない」というものであった。SEC のこの見解は上記判決後も変更されていないようである。
英国においては,規制当局から,英国内の上場株式に関わるエクイティ・スワップについて,情報開示を促すアナウンスメントが出された。
(2)ドイツのケース
「隠れた持分」の存在が大きな問題となった,もう1つの先行事例は,ドイツにおける最初の隠れた株式保有のケースとなった,Schaeffler(シェフラー)社による Continental(コンチネンタル)社の買収劇である。
2008年7月,自動車産業に属する非公開会社であるSchaeffler は,世界最大のタイヤメーカーである Continental に公開買付を行った。Schaeffler は任意的公開買付け(voluntary offer)を行った時点で約3%の議決権を保有していることが知られていたが,実はその他にも先物で約5%,cash settled share option で約30%保有していた。Schaeffler は,Continental の株式を買
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い集めるにあたり,メリル・リンチとトータル・リターン・エクイティ・スワップ(TRES)の合意をし,メリル・リンチがさらに9つの金融機関とTRES を締結し,実質的にこれらの9つの金融機関が小口で(3%未満)株式を買い集め,スワップの決済を通じて,買い集められた株式(合計約28%)がSchaeffler のものになるという仕組みであった。
対象会社である Continental 社は,買付者 Schaeffler による該当 cash settled share option 契約は,大量保有報告規制および強制的公開買付(mandatory offer)規制を潜脱するものと主張したため,連邦金融監督庁(Bafin)は次の3つの法令違反の有無について確認した。つまり,@「投資銀行メリル・リンチもし くは他の第三者が Continental の株式を Schaeffler の代理で保有していたか」,A「Schaeffler は,Continental の株式の現物を取得したいと意思表明すれば
Continental の株式を取得できることになっていたか」,B「議決権が共同行使されることになっていたか」。
結局,連邦金融監督庁(Bafin)は,以上3つの契約・合意が存在したという「証拠」がないとして,買付者 Schaeffler およびそのアドバイザー等の法令違反を認めなかったが,エクイティ・デリバティブを用いた同様のスキームは,ドイツにおける他の公開買付案件等でも使用されているといわれており,M&A 関係者の間では大きな議論を呼んだ。渡辺(2009)参照。
3−2−2 ウルフパック戦略の方法
次の2つの方法が採られる。
3−2−2−1 トータル・リターン・エクイティ・スワップ
(1)TRES の枠組み
トータル・リターン・エクイティ・スワップ契約の内容は,次のような順になる。@投資銀行は,ヘッジファンドが必要とするだけその会社の株式を購入する。A株価が上昇した場合は,その利益分を投資銀行がヘッジファンドに支払う。株価が下落した場合は,損失分をヘッジファンドから投資銀行に支払う,Bヘッジファンドから投資銀行に何らかの資産のリターンを(フィーの形で)支払う,というものである。株式管理などにかかるコストは,これらのやり取りの差額に含まれる。
日本輸出入銀行(JBIS)があげているトータル・リターン・エクイティ・スワップ(TRES)の数値例(http://www. jbis-inc.com/report/upfiles/pdf/pdf_00017.pdf#search=’%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0+%E8%AD%B0%E6%B1%BA%E6%A8%A9+%E8%A1%8C%E4%BD%BF+2012’)を説明しておこう。
X 金融機関と Y ファンドの間で,A 社株式100万株に関する以下のようなスワップ契約を結ぶ,と仮定する。
・ 期間6ヵ月毎に,A 株式の配当金相当分と期間中の A 株式の値上がり分は,X 金融機関から Y ファンドに支払われる。
・ 反対に,A 株式100万株分の資産価値の金利相当分と手数料,もし期間中に A 株が下落した場合のその下落相当分の金額は,Y ファンドから X 金融機関に支払われる。
(2)TRES のリスク
ある会社に狙いを定めたファンドは,このトータル・リターン・スワップ契約を投資銀行と結ぶ。そして,当該株式を空売りする,などのヘッジを実施する。しかしながら,スワップ契約もリスクなしでは行えない。カウンターパーティ・リスクなどがあることは,辰巳(2005) 【72 頁】 などを参照。
3−2−2−2 CFD
CFD 取引において,投資家は,原資産の取引を行わず14),価格の差から利益をえる。CFD マーケット・メーカーは,CFD 顧客の勘定を閉じる権利を持っている。しかしながら,逆に CFD 顧客・投資家が,CFD マーケット・メーカーと特別な契約を結び,ある権利を持つケースが存在する。CFD 自体には議決権はないが,CFD プロバイダー(providers)がヘッジのため反対売買して当該株を保有することにより,CFD 保有者が潜在株主になりえるのである。CFDについては,辰巳(2010a),辰巳(2010b)などを参照。
(1)株式大量保有報告規制とCFD
その例として英国で話題になったケースがある(芦田(2007))。つまり,CFD 取引を行う投資ファンドは,CFD プロバイダーに対して(清算にあたって)現物株の請求ができる契約を交わしていたため,開示規制を逃れつつ,瞬時に株式大量保有者として躍り出たのである。
CFD 取引を通じたウルフパック戦略は英国においては2004年に複数報告されている(山田(2007)参照)。@米軍事企業 General Dynamics 社が英戦車メーカー Alvis 社に買収提案したケース(Alvis 社大株主である BAe Systems 社が,Trafalgar Asset Management ら複数のヘッジファンドが協働した CFD 取引によって Alvis 株の相当比率を持つことを知って,結局 Alvis 社を買収することになった。ヘッジファンド連合は当初 General Dynamics が提示していた価格よりも一割以上高い価格で Alvis 株式を売却することができた。),A Philip Green 氏が英スーパーマーケット Marks & Spencer へのオファーに際して,ヘッジファンド数社と CFD 取引を使ったケース,B Polygon による DFS 株式取得,C “Songbird”Consortium による Canary Wharf の株式取得など,少なくとも4件がある。
こうした状況に対して,自主規制機関であるテイクオーバー・パネル(The Panel on Takeovers and Mergers)は,2005年11月から,買付期間の開示対象となる株式に,当該株式等の保有分にそれを原資産とする CFD その他のデリバティブのロング・ポジションの保有分を合算するものとした。
FSA(金融サービス機構)もルールを修正し,英国内の上場株式を原資産とする CFD は,株式保有分と合算して3%を超える場合は,基本的に大量保有報告の対象になることにした。空売り等の規制のため,2008年6月から一定割合(0.25%)のショート・ポジション保有者にも開示義務が課されている。
なお,英国で CFD プロバイダーが株式大量保有報告規制から逃れえるのは,10%までである(簡単に確認できる資料としては大田(2008)がある)。それゆえ,CFD を用いて単独で大規模なウルフパック戦略を行うには限界がある。
(2)CFD のその他の論点
英国における CFD 取引は,大量保有報告の対象とされた後も,活発である。CFD 取引活用の目的は,辰巳(2010a)や辰巳(2010b)で展開したようにいくつもあるから,この現象は当然のことである。
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CFD については,ヨーロッパでの金融取引税導入に先陣をきったフランスの事例が最新の動きである。フランスの金融取引税は,特定の株式(国内109銘柄)の購入に0.2%の税率で課税する。徴収は2012年11月1日から開始されたが,投資家は現物の受け渡しを伴わず,原資産の値動きを反映する差額決済契約(CFD)を利用することによって課税逃れを行い,実際上,多くの投資家が税金の支払いを逃れている。それは大口の投資家である。課税の対象となるはずの「投機家」ではなく,彼ら以外の小口投資家に打撃を与える状況になっている,とマスコミは書きたてた。
フランスでは,金融取引税の制度設計段階から,課税対象外の CFD やデリバティブへの課税が不可能であることを認めていた,とニュース(Bloomberg,2012年11月15日)では報道されている。
3−3 ベア・レイド戦略
金融危機直前のファンド行動の例として1つあげればベア・レイド(bear raid,「弱気筋の急襲」が訳)戦略がある。
本来は,例えば意図的に危機の噂を広めると同時に,株式を売る,意図的な相場の売り崩し行為がベア・レイドである。1929年大恐慌時の株価大暴落でベア・レイドが問題になり,1937年に相場が急落した際に集中砲火的に売り浴びせる相場操縦が実際に存在することが確認され,アップティック・ルール(ルール10a-1)が成立した。
最近ファンドが取るベア・レイド戦略は次のようである。ファンドはまず,クレジット・デフォルト・スワップ(CDS。会社が倒産したときの保険)を購入する。それから,その企業の株を売り叩く。これは新しいベア・レイド戦略である。米国において,売り崩し行為を防ぐためのアップティック・ルール15)が2007年7月6日に廃止された以降,盛行した。
これはスワップでヘッジしながら,当該企業を売ることから,エクイティ・デカップリングと同趣旨のファンド行動である。ファンドが求める当該企業の退出は理にかなったものであるか,などは,確かに議論の余地がある。しかし,CDS にはカウンターパーティ・リスクなどがある。それゆえ,金融危機後このベア・レイド戦略は停滞したものと予想できる。
4 ファンド行動と結果の分析〜準備的考察
4−1 ファンド行動の背景など
そもそも何が問題なのか。この時点で整理しておこう。
4−1−1 ファンド行動の背景,行動などから引き起こされた結果
(1)全体の背景
このような取引が盛行している背景に,第1に,金融技術が発展したことがあげられる。上場会社株式における,議決権を行使しうる地位と経済的実質(株式投資により得られる収益お
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よびそれに伴うリスク)を享受する地位を実質的に分割し,それぞれ異なる主体に帰属させることを可能とする金融技術の発展である。技術が進めば,新しく生み出されるメリットと共に,それまで考えられなかったような弊害が起きるものである。誰が実質株主であるか調べることがデリバティブの発達によって複雑化したというのが現実なのである。
第2に,デリバティブ市場,なかでもエクイティ・スワップや貸株取引の市場の流動性が高まり,取引コストが低下している。第3に,近年,株主によるコーポレート・ガバナンスの強化と M&A の増加により,議決権の重要性が高まっている,の3点がある。
その結果として,エクイティ・スワップや貸株を利用して議決権をコントロールし,議決権の力を通して投資リターンを生み出す手法をヘッジファンドなどが使い始めたのである。
(2)動機は規制回避
上の第3の点をさらに敷衍すれば,制度的要因とも係わってくる。エンプティ・ボーティングを行う者は,経済的リスクの負担に比べて不釣り合いに大きい割合の議決権を保有することにより,会社の行為(株式買取り,特別の配当等)による特別の利益を引出したり,合併等における裁定行為等を行い,会社の利益や会社の他の株主の利益を害する結果をもたらすことが多い,と批判される。
隠れた株式保有が行われる主な動機には,@企業買収規制の適用を免れ,A秘密裏に株式を買い集めることにより対象会社の対抗措置の発動やB競合する買収者の登場を防ぎ,M&A に必要となる買収プレミアムの支払総額を節約すること,C外国人による直接投資に対する規制のような企業への資本参加にかかる法律上の制限を回避すること,などが挙げられる。
(3)株式制度上の背景
これらの技術のうち一部は,@株主総会において,それに先立つ特定の日(基準日)に株主であった者に,(たとえその者が後日株式を売却し,総会期日に株主でなかったとしても)議決権行使を認める制度が存在すること,およびA多くの国においては,株式の議決権を保有する者が株主として扱われ,株式保有の開示義務の要件は議決権の名目の帰属先を基準としている,という2つの制度的背景に着目して考案されたものである。
他方,スワップや CFD などのデリバティブは,本来,リスク低減を狙いとして,考案されたものである。
(4)引き起こされる問題と非難の的
リスクを譲渡し移転するために発展した新たな店頭デリバティブは,議決権の譲渡によく適したものであること,現在では巨大になっている貸株市場は,伝統的な空売りをする者のニーズと,空議決権行使をする者のニーズの両方に寄与すること,が明らかになった。
これらによって引き起こされる諸問題は,@議決権を行使しうる地位を有する者の行動が問題となる場合,すなわち株主として議決権を行使している者が,当該株式保有に伴うリスクを負担していないことが問題視される。A経済的実質を享受する地位にある者の行動を問題視する場合,すなわち株式保有に伴うリスクを引き受けつつ,他の主体に議決権を帰属させることにより,開示義務その他株式の大口保有に伴う法的規制を回避しようとする隠れた株式保有(hidden ownership)が問題視される。
さらに敷衍すれば,@は他の投資家が負うリスクを負わない点が問題視されている。そしてAは情報開示義務の意義,つまり情報取得や情報保有機会が公平な市場が信頼性を醸成・維持し,市場の正常な運営を促すという原理,を踏みにじるものであると非難されるようである。
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4−1−2 追加的な論点
(1)日本に係わる事柄
ここまで説明してきた議決権やデリバティブなどについて,日本の現状はどうなのかを簡単に見ておこう。日本特殊な要因もある。
従来日本の株式市場では,保有株式数と議決権の数は一致する(一株一票)のが原則で,いわゆる種類株の導入は米国と比較すると数十年遅れた状況にあった。最近高まっているとはいえ,経営者や投資家は議決権に対する意識も低いままであった。他方で,貸株取引は従来から存在したが法人の利用は少ない状況にあった。そこに,オプション,エクイティ・スワップなどのデリバティブ市場が急発展し,大きな変化がもたらされた,というべきであろう。
リスクを取って資本を入れることは,日本ではもともとは商社や銀行,そして一部は事業会社,古くは財閥が行ってきたが,かれらは様々な理由で高い事業リスクを担えなくなっている。それをファンドは担う,ことになったわけである。主として預金で調達した資金を貸出しする銀行などはそもそも高い事業リスクはとれない。さらに,これら組織が,環境変化に応じて業務の変革や革新を行い続けているため,業務が高度化複雑化し,リスク管理やそのシステム開発化をすべて自社内で行うことができなくなっているのである。これらの事柄に適確に現れているように,日本の金融システムが変化せざるをえない状況にある,と著者は考えている。
資本市場を通じた規律,つまりガバナンスを高めるという観点からいうと,日本の場合は,広く株主が経済的な観点から議決権行使をしていないのではないかという問題が指摘される。その一例は,いわゆる株式持ち合いである。持合株主という形で議決権を行使していることを問題ではないかと考える専門家がいる。株主側から見れば,もちろん同様なことは米国でもある。米国の年金基金や投資信託などには,受託資産を構成する株式にかかわる議決権行使を適正に行なうよう規律が設けられている。しかしながら,機関投資家のすべてに適正な議決権行使行動を可能にする内部的な仕組みがあるわけではないからである。
実質株主の調査にも,日本には,大きな壁が存在する。投資家などが株式を信託銀行に預けた場合は,株主名簿上は「信託口」となる。外資系金融機関などが委託を受けて買い集めている場合もある。このため,企業が調べようとしても,議決権を持っている真の株主がわからないケースが少なくない。信託銀行にとっても顧客情報あるいは顧客が保有している情報になり,簡単には公表できない,という問題がある。
(2)ヘッジの成否
ここまで説明してきたように,エクイティ・スワップや貸株取引を用いることによって,経済的持分を持たずに議決権を取得する,または,経済的持分があるにも関わらず議決権を持たないといった経済的持分と議決権持分を分離した状態を(完全に)作りだすことができる,と一部では信じられているようである。このこと自体が事実であるかどうかは以下の後半で見ていくことになる。
有力企業のヘッジ失敗が頻繁に報道されるのを耳にしながら,あるいは身近な企業の失敗事例を日ごろ見ておりながら,ファンドの失敗はありえない,とでも考えているのだろうか。
ファンドも完全ではない。ヘッジに失敗したり,予想外の出来事が起こり意図したとおりにならない事態はふつうに起こっている。
犠牲を伴わないヘッジは(ほとんど)ない。何かを犠牲にして,ヘッジがなされている。これがヘッジの原理の厳粛な事実である。ファンドのヘッジ失敗を想定した,事例を本稿の後編
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で展開することになる。
4−2 ファンドの果たす機能〜追加
4−2−1 ヘッジファンドの機能
ヘッジファンドについては,いくつか先行研究があり,その役割も分析されているので紹介しておこう。
(1)ヘッジファンドが与える貢献
ヘッジファンドは,市場に@効率性を与え,A流動性を供給する機能,B価格発見機能を通じて経済的・社会的に便益をもたらしている,と多くの文献は指摘する。Mackinsey & Co(2007)は,さらにC金融技術の発展をもたらすことをあげる。Khandani and Lo(2007)は,さらにDリスクの移転,E非伝統的リターンの発掘を大きな役割としてあげる。Cole-Feldberg-Lynch(2007)は,さらにF資本コストを逓減する機能があり,マーケットの効率化や金融市場の安定化に寄与する,と指摘する。
(2)ヘッジファンドへの心配
市場の安定化に対しては,いろいろな意見がある。効率性と流動性を与えることが一般的に認知されているが,ストレス下では,金融市場の安定化に対してリスク要因となると,Papademos(2007)は心配している。
ヘッジファンドは,その投資行動が一方向に偏る場合や,規模が小さくて流動性の低い市場に集中する場合には,市場価格の変動を増幅させる可能性があると,東尾・寺田・清水(2006)はAの流動性供給機能に疑問を呈する。また,ヘッジファンドは,“Front Running” という投資戦略を用いて裁定利益を得る一方,“Front Running” は価格をファンダメンタルズからかけ離れた水準に導き,ボラティリティを高めると,Chen 等(2008)は上のBの価格発見機能,Eの非伝統的リターン発掘機能に対して心配する。
上に紹介した Cole-Feldberg-Lynch(2007)は,資本コスト逓減機能が安定化に寄与する,と指摘する一方,過大なレバレッジなどが,結果的に資産価格を悪い方向に導くこともある(そうならない場合もある)という。Mackinsey & Co(2007)は,レバレッジを活用しているためシステミックリスクの危険性を持つが,戦略が多様化している等の理由からその危険性は低下している,と指摘する。
(3)投資ファンドの貢献
ヘッジファンドには多くのタイプがあるが,前2小節は経営に係わらない証券投資の観点から,ファイナンス経済学から捉えている。要点は,@効率性を与え,A流動性を供給する機能,B価格発見機能,C金融技術の発展をもたらす機能,Dリスクの移転,E非伝統的リターンの発掘,さらにF資本コストを逓減する機能,の7つに分けられている。
まず,Cは説明するまでもないだろう。@は厳密には次小節で解説する。人的資源配分やガバナンス機能は広くは効率性に含められる。Aは,IPO 市場を補完する金融仲介機能が係わる。また,ウルフパック戦略では,大量保有を開示しないから,開示によって発生する株価上昇の影響を受けない。つまりは,有利な価格で株式を取得することが可能になる。つまり,市場流動性の低さも影響している。
株価の付いていない中小企業や破綻寸前企業の価値を発見するファンドの機能は上のBである価格発見機能そのものである。これらが,Dリスクの移転,E非伝統的リターンの発掘,さ
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らにF資本コスト,の役割も説明するだろう。
4−2−2 投資ファンドの効率改善機能
(1)エンプティ・ボーティングは効率改善的
ヘッジファンドのような機関投資家が市場の効率性を改善することに寄与する条件を示した Brav and Mathews(2011)は,その条件として,他の株主が正しい決定をできない,あるいは株主の「合理的無関心の問題」が存在する,ことをあげる。ちなみに,合理的無関心の問題とは,意思決定を行うことにより受ける便益が適切な意思決定を行うための費用を上回っていない場合,当該費用を負担してまで意思決定を行わないという事象を指す。
議決権買いは,より少ない情報しか保有していない投資家から,より多くの情報を有する投資家に議決権を移転させ,そのことで,企業に対して株主による監視を強化する。その結果,エンプティ・ボーティングは効率を改善する。
ファンドの行動原理や戦略やその各種インプリケーションが分析されている文献には,他に OECD(2007)がある。経営方針,取締役会の構成,配当政策,資本構成,買収政策,などを変化させる要求を対象企業に対して突きつけることによって,それらの問題が明らかになり,場合によって経営陣からの反応も知ることができる,からである。
結局,情報拡散機能を発揮して,経営陣や株主を正しい方向に導くのがファンドの役目だ。情報拡散はファンドが意図していない場合もあるが,結果として漏れるものだ。
(2)ファンドのコーポレート・ガバナンス促進機能
経済的利益を他と共有しない株主が議決権を行使することとなるエンプティ・ボーティング等のスキームでは,会社の価値を増加させるインセンティブを持たない株主が議決権行使をすることにつながり,コーポレート・ガバナンスの上で問題がある,という要旨の指摘がなされることがある。
しかしながら,そもそも,株価を下げることが,会社の価値を下げることに直に繋がるのか,どうかは確かなことではない。このような指摘は,株価を下げることが,会社の価値を下げることに直に繋がることを前提にしているようである。会社の間違った経営戦略にノーと宣言し,株価を下げることに邁進することは,長期的には正しい行動である場合もあろう。
会社の経営戦略が正しいかどうか,部外秘の企業情報から判断しなければならない場合もあろう。正しいかどうか,時間が経過し(情報が公表され)なければわからない場合もあろう。前者の場合,情報を持っていない一般の株主は,判断できない。後者の場合,長期的には会社の価値をあげることになるのである。
エンプティ・ボーティングは,むしろ,株主主権(shareholder primacy)が復活するかというテーマで議論し,コーポレート・ガバナンスの改善に機関投資家が寄与していくための一手段として活用しうると主張する研究もある。この点で,ファンドは汚名を晴らす(vindicate)ことができる。
ファンドの情報拡散機能に基づいたコーポレート・ガバナンス促進機能は,経営者側ではなく株主の立場で,他の株主に重要情報を周知させる,ことで実現される。議決権買いには,より少ない情報しか保有していない投資家から,より多くの情報を保有する投資家に議決権を移転させ,そのことで,株主による監視を強化する。
筆者が心配していることは,逆である。むしろ,守る企業側の過剰な防衛策は経済の活力を削ぐので問題とされるべきである。景気低迷が続くと,年金など機関投資家の投資収益は低空
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飛行が続く。株価が伸び悩めば,投資先の株価回復に向けて行動する物言う株主を,機関投資家が支持する傾向が出てくる。経済にとって,この事実は救いである。そんななか,守る企業側を経済政策当局が過度に擁護するのは,景気対策としては真逆なのである。
4−3 問題の解決策はあるのか〜準備的考察
4−3−1 解決策は様々に提案されている
エンプティ・ボーティングの存在を最初に指摘したのは Martin と Partoy という名前の2人で,大学の法学専門誌に載せた2005年の論文である,と言われる。第一人者である彼らは,株式の経済的利益が帰属しない主体が議決権を行使することは一株一議決権の原則に反するため,そうした議決権を制限する方法を検討すべきである,と主張した。
別の法律論文においても,議決権行使によって生じる株価下落リスクを回避する契約を締結した株主の議決権行使は認めないことがエンプティ・ボーティングに対する最も明確な解決策となる,と主張している。
他方で,2008年になると,こうした解決策の採用は,コーポレート・ガバナンスへの裁判所の関与を強めるものであり,かつ,通常の議決権行使においてもデリバティブが利用されうることに鑑みれば,過剰な対応であるとの指摘がなされるようになった。文献などは,コーポレート・ガバナンスに関する法律問題研究会(2012)に詳しい。
エンプティ・ボーティングによって権利を害された株主による私的訴権を創設することによって対応できる,という意見もある。株主が原告になるには,エンプティ・ボーティングによって議決権が行使された時点において当該株式についての beneficial ownership を有することを証明でき,被告がエンプティ・ボーティングを行ったこと,被告が原告の利益を侵害するような議決権行使を行ったことを主張する必要がある,とされる。
空売り規制の強化,基準日づかみを目的とした貸株取引の制限(英国ではインフォーマルな規範として認められているといわれている。),貸株による議決権行使の禁止,など規制強化案も存在する。
4−3−2 解決策の課題
(1)資本主義のルールの徹底
資本主義のルールを広く周知徹底することによって問題を解決する方法がある。
自社の上位株主を知ろうとすれば,いろいろ方法はある。約100万円で情報を提供する会社もある。ウルフパックに驚くとすれば株主対策を怠っていることの現れである。これが資本主義のルールあるいはビジネスのルールである。資本主義のルールが広く知られている限り,不平をいう経営者,創業者の言葉は敗者の弁そのものである。それにも係わらず,その言葉を真ともに取り上げるのは問題である,という意見はもっともである。
言ってみれば,ゲームのルールを勉強せず,ゲームに参加したような人が,ゲームに負けたという不平を真ともに取り上げ,ゲームは不公平である,と加勢するのと同じである。ゲーム参加者が,もし,ゲームのルールを知っていて,不平を言っているとすれば,その人こそ狡いのである。
「会社の価値の向上のために議決権を行使するインセンティブを有していない株主については,会社の価値の向上と無関係な自らの利益のみを図る可能性が高く,他の株主との間で利益相反関係にあることが多い」と指摘し,ファンド行動が問題視される場合がある。この指摘は,
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株主は,自らの利益を犠牲にして,企業に奉仕しなければならない,とさえ言っているように聞こえる。資本主義は,利己がぶつかりあって,winwin の関係を築き上げる,そのようなビジネス社会を築き上げることを目指さなければならない。
このような資本主義のルールは,資本主義途上国ではなかなか徹底できない。
(2)デリバティブ規制などに弊害
2008年のリーマン・ショック後主要国はデリバティブを規制する動きにある。例えば,取引所など特定の場所・組織に取引や決済を集中させ,リスク管理しやすくする。契約時に当事者の双方に契約の一定額の当初証拠金を拠出させる,などが金融危機後とられるよう提案されるデリバティブ規制である。
デリバティブ規制によって,取引などに時間が掛かる,証拠金負担が重くなる,などが起こると,健全なヘッジ市場まで縮小し,それらがコストになり,その一部は顧客に転嫁され,ひいては実体経済活動にも打撃を与えてしまう。
デリバティブは投機家が使っている商品である,という間違った認識があるのかもしれない。実物センターでは,日ごろの生産・販売活動でデリバティブが使われている。それゆえ,デリバティブ規制は影響が大きいのである。
デリバティブだけでなく,現存する商品や取引は十分な存在意義がある。空売りを行う者は,証券市場において流動性の提供や価格安定化など貴重な役割を果たす。貸株市場は新たな議決権買いを促進するが,その同じ貸株市場に,空売りを行う者も依存する,のである。
CFD を例に考えれば,新しく導入される金融・証券取引は差金決済取引であることが多い。デリバティブ取引規制は時代の流れに逆行していると,言わざるをえない。
(3)情報開示規制にも限界
エンプティ・ボーティングを規制してしまうのではなく,エンプティ・ボーティングを組成するスキームを開示させる規制が必要であると主張する研究もある。これに対して,開示制度による対応はコストが高く,風評リスクをおそれないヘッジファンド等によるエンプティ・ボーティングへの対応策としては十分な抑止策とはならないとの指摘もある。
情報開示規制に期待する向きがあるが,著者は懐疑的である。一部ガラス張りでは外から見えない所に隠れればよいだけの話で,逃げ道はいくらでもある。
すべての情報を開示させる,完全ガラス張りにでもしなければ,限界があるのである。そもそも情報完全公開制度が導入できるわけがない。特にプライバシーを重視してきた国において,企業だけにプライバシーがないのは,経済活動に支障をきたす。
(4)善悪の線引きにも限界
大きな役割を果たす,望まれるファンドがある一方で,悪質なファンドが存在することも真実である。それは,どんな組織や社会にもネガティブな存在があるのと同じである。例えばアクティビスト・ファンドの一部は,市場で同意を得ることなく,過半に満たない株を取得して,それをテコに経営陣に対して不当な要求を突き付ける,経営陣にプレッシャーを与えるなど,する。成長を求める企業,事業モデルを変えようとする企業の意思に反し,経営陣や従業員と同じ船に乗って彼らと一緒に事業を伸ばすことを考えることなく,投資する。
悪質なファンドがあるから,ファンドが望まれないというわけではない,だろう。しかしながら,事前に良いファンドと悪いファンドをわけることは難しい。この点に関しては,ファンドの経歴,業績などが,ファンドの素性を判断する重要な材料になる。ファンドは,ファンド
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自身の情報公開を押し進めることが自身のためになることは明らかである。
(5)株式制度変更にも限界
制度変更にも限界がある。身近な例を1つ挙げてみよう。株主総会日から3ヵ月も前の基準日株主に議決権行使を認めている制度に関しては,これを短くすれば,株式発行会社に対して短期間に大量の事務処理を要求することになり,会社側としても権利行使を認めようとする株式本人を確認するために厳格さが要求される。
どれだけ短くすれば,悪意のあるファンドなどの行動に対して,先制防御できるか,わからない,というのが正直な意見だろう。しかしながら,どのように努力しても,ファンドの方が株式発行会社より,敏速であろう。権利行使の基準日現在の実質株主が誰であるかを,会社側あるいは調査を委託された会社が自動的に瞬時に確認することのできる方法や仕組みを構築することが必要になる。
(第4節終わり。第5節以降は後半に続く)
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