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来館者属性によるミュージアム評価の考察
〜関東の有名美術館・博物館を対象としたポジショニング分析と好まれる方向性分析に関する調査と分析〜
公益財団法人 戸栗美術館 学芸員 上田 理絵
学習院大学 経済学部 教授 上田 隆穂
本研究では,来館者研究について概説し,これまでの研究の系譜を辿り,そこから必要とされる来館者研究の領域を探り,その結果として来館者のグループ別のミュージアム評価を検討した。具体的には,関東にある8つの有名なミュージアムが来館者のイメージ空間の中で,どのようにポジショニングされているかを明らかにして,来館者の属性別に好まれる方向性を明らかにし,今後の美術館に求められる対応を検討したものである。用いた手法に関しては,ミュージアム関する多くの評価項目に関して実施したアンケート結果を基に,因子分析を実施し,対象となる8つのミュージアムをポジショニングした。また,同時に,アンケートで採った対象ミュージアムの好みの順序データを用いて,全体データ,そしてあらかじめ設定した来館者属性による来館者グループ別データで選好回帰を実施し,イメージ空間上における好まれる方向を探索した。以上の手順から推定された結果を検討し,来館者が美術館に求めている対応を考察した。その結果,来館動機には,来館者属性別に一定の傾向が見られた。
博物館,博物館研究,来館者研究,ミュージアム・マネジメント,ポジショニング,因子分析,選好回帰分析
ミュージアムにとって来館者獲得は重要な命題である。これまでミュージアムの使命は作品の収集・保存及び研究を主軸に説かれてきており,来館者獲得は副次的に語られることが多かった。しかしながら,近年になって,社会貢献やリソース活用の観点から,ミュージアムの持つ地域資源としての側面や教育普及活動への応用が強調されるようになってきており,それに伴い,来館者獲得のための来館者研究及びミュージアム・マネジメントの重要性が説かれるようになってきている。
とはいえ,来館者研究の目的は,単なる効率化や利潤追求のためではない。村田麻里子(2003)においても強調して述べられているとおり,来館者研究の本質は『博物館と来館者の【72頁】コミュニケーションが,うまく行われているかということを模索する』ということにある1)。
また,こうしたミュージアムに関する来館者獲得の視点は佐々木亨(1997)で公立博物館運営についての言及と同様に2),一種の「ソーシャル・マーケティング」という枠組みで捉えることができる。ソーシャル・マーケティングとは,主として営利目的でない場合に適用されるマーケティングであり,一般に病院,自治体,大学などが自己の目的を遂げるためにマーケティングの概念を適用するものである。しかしながら,一般企業のソーシャル・マーケティングも存在し,社会志向,あるいは社会的責任のマーケティングがそれにあたるが,メインのマーケティング目的は利潤追及である3)。これらの営利企業と異なり,ミュージアムにおけるマーケティングは,前者の営利目的でない場合に属し,社会的価値の増進や,公共的目標の達成,文化的・教育的活動,社会的キャンペーン,社会変革などを目的としており,「ソーシャル・マーケティング」の枠組みで語ることができる。
このように,来館者研究は複眼的な視点に立っての研究が必要となるため,他分野の技術を積極的に使って学際的に研究を進めることが必要である。それゆえマーケティング視点でのアプローチを本研究では用いる。
本研究での目的を述べると以下の通りである。一般のミュージアム来館者にとって,関東の有名美術館は,そのイメージの中でどうポジショニングされているのか,そして好まれる美術館の方向性(ベクトル)はどうなっているのかを探る。そして,全来館者での好まれる方向性を推定するのだが,異なる顧客属性によって異なる方向性を持つことは当然考えられる。来館者全体で推定した好まれる方向性は平均値に過ぎないため,主な顧客属性で分けたグループごとの好まれる方向性を探り,グループ別に対応する方が来館者満足最大化を達成しやすく,リピートを促進することとなる。それゆえ,複数の代表的な来館者属性別にミュージアムの好まれる方向性を探り,分類に用いるべき来館者属性を探り,最適な対応の実現を目的とする。
村井良子他(2002)4)及び,村田麻里子(2003)5)によると,来館者研究は20世紀初頭のアメリカに始まり,20世紀後半以降はミュージアム評価活動とともなって発展してきた。ミュージアム評価活動とは,ミュージアムが実施事業において行う評価活動であり,その評価基準の一つとして,来館者からの視点がある6)。研究調査の方法については,『行動心理学的調査法,マーケティングにヒントを得た社会学的調査法,認知心理学的手法』など,他分野の研究が学際的に取り入れられながら進められた。
【73頁】また,日本でもこうした海外の動きを追随するように研究が進められ,1950年代後半には博物館での実践例も報告されており,80年代後半に入ると論文数も増えてくる。研究の概観をまとめたものとしては守井典子(1997),川嶋ベルトラン敦子(1999),村田麻里子(2003)が詳しい。また,来館者調査を用いたミュージアム評価活動を実践的に行った研究例で有名なものとして,布谷知夫,芦谷美奈子(2000)がある7)。
しかし,村田麻里子(2003)によれば,こういった来館者研究は,展示製作会社が中心になって行われたものが多く,ミュージアム内部で行われたものは少ないという。結果,来館者研究はミュージアムにおいて現場での実践段階としては,浸透していないというのが現状である。さらに,一般データやアンケートなどに計量的な研究視点から,来館者属性の分析を実施した来館者研究例は極めて少ない。この数少ない計量的手法を用いた来館者研究としては,来館者が自身の生活において「美術館」をどのように位置づけているのかを明らかにするテキストマイニング法を用いた伊藤大介(2004)の研究例や,静岡県立美術館にて行われた来館者アンケートに,多変量解析の分類手法であるクラスター分析を用いた佐々木亨(2005)などがある。
本研究においても,また,上記と異なる多変量解析を用いたアプローチによって,実態の捉えにくい美術館と来館者との関係を検討する。
本研究では関東にある8つの有名ミュージアムが来館者のイメージ空間の中で,どのようにポジショニングされているかを,その空間を構成する少数因子を抽出することによって描き出す。手法としては,多くのミュージアムの評価項目回答を因子分析にかけ,少数因子にまとめ,各因子を軸として,対象ミュージアムをポジショニングする。そして同時にアンケートで採った対象ミュージアムの好みの順序データを用いて,選好回帰を実施し,イメージ空間上における好まれる方向を探り出す。
全回答者データで分析した後,あらかじめ設定した来館者属性により,来館者をグルーピングし,グループごとに,全体での因子分析結果(各個人の因子得点をそのまま用いる)を利用し,同様の選好回帰分析を行う。なお対象とするミュージアムは,森美術館,国立新美術館,東京都美術館,国立西洋美術館,東京都国立博物館,三鷹の森ジブリ美術館,江戸東京博物館,東京都写真美術館である。
アンケート回答者に関しては,関東の1都,3県在住で,ここで対象とする8つのミュージアムをすべて訪れたことのある人に限定した。また,年齢的には20,30,40,50代,男女を均等数とるようにした。しかしながら,回答者不足のため,やや不均等となった。アンケートの主な内容は,文末に掲載した8)。
まず回収した回答者属性は図表1〜6のようになった。図表1に示されるように,やや女性が【74頁】多く,図表2から東京都在住者が多く,また,図表3からは30歳代が多いことがわかる。また,性別・年代別の図表4から女性30歳代が一番多いことがわかる。図表5からは年5回以上の訪問者が半数以上の56.9%を占めることがわかる。そして図表6からは誰とミュージアムを訪れるかが記されている。1人で行くことがもっとも多いが,家族と行く場合も多いことがわかる。
因子分析にかけて情報縮約を行う対象となるミュージアム評価項目(巻末のアンケートQ2−Q25)は24項目であり,「全くそう思わない」1点〜「全くそう思う」7点での評定尺度法により回答してもらっている。また,好まれる方向を求める従属変数となるのは,8つの対象美術館の好きな順位であり,好きなミュージアムの得点が高くなるように,順位の逆転化(8館なら9から順位を引いている)を行っている。
選好回帰分析について簡単に概要を説明しておく。まず,前述のように美術館評価要素項目の回答を用いて全体での因子分析を実施し,軸の数を決める。そして個人ごとのその軸の座標の値(因子得点)を独立変数として,上記順位の逆転値(好きな観点での美術館得点)を従属変数として回帰分析を行い,係数の値で,ベクトルの傾きを推定する。結果的に,回答者によって好まれる方向を示すベクトルが求められる。このようにまず全回答者で分析した後,性別,年代別,訪問頻度別,性×年代別,訪問付帯者別の順で分析を実施した。
(1)全回答者の分析
因子分析を実施した結果の共通性は図表7のようになった9)。rq とは文末のQに対応するミュージアム評価項目である。この図表での共通性とは,因子抽出にどの程度その質問の情報量が使われたかを意味しており,まずまずの高さであった。rq(Q)16の「展示の解説パネルがわかりにくい」と感じる程度は,その情報量の多くは利用されていなかったが,ここではそのまま利用する。
次に因子の固有値を求めた図表8を参照されたい。固有値とは説明力を意味し,固有値=1とは,独立変数24個あるうちの平均1個分の説明力を意味する。固有値1以上を採用するのが通常であり,結果から因子は上位3つを選択することになり,この3つの因子で全情報の57.715%が説明できる。この図表のスクリ−プロットは,後ろにある因子ほど説明力がなくなっていく状態を表している。
図表9は各変数と因子の相関係数を表す因子負荷量の結果である。四角で囲んだ数値が0.5以上で大きく,因子の意味づけ,そしてネーミングの決め手となる。相関の高いミュージアム評価項目を検討し,
因子1:ミュージアム本質性・広報因子
因子2:快適性・低料金因子
因子3:話題性の高い大規模な展覧会因子
と名付けられる。特に因子1は「展示作品が魅力的である」というようなミュージアムの本質的な意味を持つ項目との関連が強い。
この抽出された因子を因子1×因子2,因子1×因子3で組み合わせて図示し,推定された因子得点により,8つのミュージアムをポジショニングし,全回答者で前述の選好回帰分析を実施し,好まれる方向を図表10-1,10-2に描いた。このモデル自体は1%水準で統計的に有意であるが,説明力を意味する自由度調整済みの決定係数は3.85%と低い値である。以後,グループ別の選好回帰分析を実施すると回答者数が少なくなり,モデル式はほぼ有意であったが,中には非有意のモデル式もある。また独立変数である因子1〜3の係数も非有意の場合がでてくるが,ここは参考としてそのまま採用した。本文では以後,これらの指標に触れないが,図表に記されている独立変数,モデル式の統計的有意性および決定係数に注意されたい。
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この図表10-1におけるミュージアムのポジショニングを解説すると,国立西洋美術館,東京都国立博物館,国立新美術館,東京都美術館が図表の右下に位置している。これは,これらのミュージアムが,ミュージアムとしての本質性を備え,広報もされているが,快適性や,料金の点で評価が低いことを意味している。おそらくこれらの結果の背景には,人気があるため,来館者数が多く,混み合っていることから一人当たりの快適性が低下していることや,また本格的な展示もあることから料金的にも高いと評価されていることなどが原因として考えられる。森美術館は平均的な存在であると評価されており,三鷹の森ジブリ美術館,江戸東京博物館,東京都写真美術館は,逆に快適で低料金という評価を受けているが,ミュージアムとしての本質性も広報も十分でないという評価を受けている。
図表10-2においては,ミュージアムとしての本質性も広報においても同じ評価となるが,国立西洋美術館,東京都国立博物館,国立新美術館,東京都美術館が話題性の高い大規模な展示で評価が高く,森美術館は平均的な存在であり,三鷹の森ジブリ美術館,江戸東京博物館,東京都写真美術館は,そのような展示において評価が低いことを示している。
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図表10-1において因子軸1と2で比較すると,因子軸1の「ミュージアム本質性・広報」の方に好まれる方向のベクトルは接近しており,来館者が「ミュージアム本質性・広報」を重視していることがわかる。またこの図表からは,好まれる方向として,「快適性・低料金因子」が逆に評価され,快適性が低く,高い料金が好まれているように見えるが,これは国立西洋美術館,東京都国立博物館,東京国立新美術館,東京都美術館が,快適性・低料金性で評価が低いにもかかわらず,この順位で余りに強く好まれているため,好まれる方向のベクトルが下向きになったと考え得る。選好回帰分析においては,データドリブンの特殊な結果である。通常の理想方向は右上であろうと考えられる。
次に図表10-2で因子1(ミュージアム本質性・広報)と3(話題性の高い大規模な展覧会)で比較すると,両因子はベクトルの傾きにより,同等に評価される傾向がうかがえる。また,その時の美術館の順位は国立西洋美術館,東京国立新美術館,東京都国立博物館,東京都美術館,森美術館の順番で,東京都写真美術館がやはり最下位となっている。
(2)性別での分析
男女で比較した結果を図表11-1,11-2に示した。性別では図表11-1を見るようにほぼ全体での結果と変わらず,男女の差も余り見られなかったが,男性の方がやや「ミュージアム本質性・広報因子」志向が強かった。また,図表11-2から男性の方が,やや展覧会に話題性の高さを求める傾向が見られた。しかしながら,性別ではほぼ差がないと言った方がよいかもしれない。
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(3)年代別での分析
図表12-1をみると年代別では60代のみ他の年代と顕著な差がみられる。20-50代はミュージアムの本質性を非常に重視しているのに対し,60代はミュージアムの本質性は重視するも快適性,低料金に影響を受けているであろうことが見て取れる。一見,60代は,この図表より,快適性・低料金の影響は受けていないようだが,他の年代と異なり,因子2にひきずられているように思われる。60代では金銭的に余裕がなく,快適性を求める層が訪れているのであろう。図表12-2からは60代はやはり特徴的だが,図表12-1ほどではない。全体的に話題性の高い大規模な展覧会を評価するが,60代のみ評価の程度は低くなる。
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(4)性年代別での分析
年代別にさらに性別を加えて図示したのが図表13-1,13-2である。男女60代が図表12-1,12-2では一括りになっていたが,年代別×性別でみると特徴があるのは女性の60代のみであった。モデル自体が非有意となったので,明確には言えないが,女性の60代は個別に扱う方がよく,この層は,快適性と低料金に影響を受けており,話題性の高い大規模な展覧会を重視しない特別な層である可能性がある。
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(5)訪問頻度別での分析
統計的有意性も考慮すると図表14-1から特徴を明らかにするのは難しいが,年2,3回と全くいかないグループがミュージアムの快適性,低料金に影響されているように思われる。これは中位程度に来館頻度が高いので,快適性,低料金を求め,またミュージアムに憩いなど他の目的を求めて来館している可能性がある。
そして,図表14-2からは年に1回しか来ない来館者は話題性の高い大規模な展覧会の時のみ来る傾向があることもわかる。
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(6)訪問付帯者別での分析
図表15-1からは,1人で来るという集団性の低い場合には快適性,低料金に影響され,友人,恋人,家族でやってくる時は,快適性,低料金をあまり求めないことがわかる。集団性の低い場合には,低コストになるよう招待券でやってきて,休憩施設,飲食施設に影響を受けるのであろう。図表15-2からは,話題性の高い大規模な展覧会を特に重視しているのが家族と来るときであることがわかる。この結果から大規模な展覧会についての情報を出す時は家族連れを意識することが大事である。
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ミュージアム評価の24項目から取り出された因子で固有値1以上の意味のある因子は3つであり,第1因子は次の項目と相関が高かった。「展示作品が魅力的である」,「イベント企画力が高い」,「ポスター・チラシなど広告のセンスが良い」,「美術館・博物館の外観・建築が素敵だ」,「職員の接客態度がいい」,「有名な作品を見ることができる」,「日常では得がたい発見や感動体験を得られる」,「美術館・博物館としての名声や信用が高い」,「館内の表示が整い,わかりやすい」,「館内の表示が整い,わかりやすい」,「展示作品の量が多い」,「作品の音声ガイド機器が充実している」が該当する項目である。
これらを見るとこの第1因子は,ミュージアムの本質を示唆しており,この1つの因子で24項目の42.58%の情報量が集まっており,説明力が大きい。第2因子は,「入場料が安い」,「小さな子供を連れて行きやすい」,「無料招待券が手に入りやすい」,「自転車置き場が便利である」,「休憩施設が充実している」,「飲食施設が充実している」と相関が高く,快適性,低料金を意味している。第3因子は「話題性の高い大規模な展覧会を開催している」のみであった。これらの結果は直観に照らし合わせてもリーズナブルなものといえよう。
対象とした8つのミュージアムのポジショニングは,やはり有名かつ本格的な美術館が非常に強く好まれることを示していた。専門性の高い,東京都写真美術館の人気は最下位であることがそのことを示していた。全回答者での選好回帰の結果からは,一般的に好まれる要因は,因子1のミュージアムの本質性と広報力があることであり,また,話題性の高い大規模な展覧会も好まれる要因であった。
しかしながら,全体としては快適性,低料金の重要性は,統計的に非有意であることが多くて信頼性は低いが,高いどころか却って負の評価を受けていた。これは人気のミュージアムへの選好が余りにも強く,これらのミュージアムの快適性・料金の評価が低いため,このような結果につながったと考えられる。
グループ別選好回帰分析の結果から,モデル式の有意性等で参考扱いであるが,特徴があるのは女性の60代であり,この女性60代は個別に扱う方がよく,ミュージアムの快適性,低料金に惹かれることに対する対応とミュージアムの本質を十分に伝達する対応をすべきであろう。
また,来館頻度にも目を向けるべきであり,ミュージアムごとに独自に顧客データベースを作り,年2,3回以上と来ない来館者予備軍がミュージアムの快適性,低料金を重視していることに対応すべきであろう。
そして訪問付帯者別の分析結果からは,モデルの統計的有意性で断定できないが,友人,恋人,家族でくるという集団性の高い場合には快適性,低料金を求めず,1人でやってくるときは快適性,低料金を求める可能性があるため,別途,その価格感度を分析し,入館料金アップも含めた体系も整備することも考えられる。現在流行のダイナミック・プライシングで来館者属性,時期・タイミングで料金を変えて収入アップを図ったり,また,やはり流行のサブスクリプション(定額制)で来館誘因性を高めたりする工夫も重要だと考えられる。そして話題性の高い大規模な展覧会を特に重視しているのが家族と来ることが多い場合であり,大規模展覧会の時はふさわしい対応努力が必要になる。
【98頁】調査の限界としては,ミュージアムの分析においては,規模の大きい,有名ミュージアムの人気が特別高く,かつ,おそらく混雑のためにどこも快適性と低料金性でレベルが低くなっているため,通常ではあり得ないような「好まれる方向性」がでる結果となったことである。つまり,快適性と低料金性が好まれないとの結果がでたことである。これはデータドリブンで起こるミュージアム研究の特徴かも知れない。この快適性・低料金性の研究では別のアプローチが必要であり,それは今後の課題である。
また,本研究はアンケートによる調査であり,インタビューがされていないため,心理的に深く掘り下げた分析になっておらず,その点で分析の深さに欠けていた点が挙げられる。
そして今回はグループ別に選好回帰を実施したが,同時に統計処理を行う方法も試すべきであり,グループ別のパラメータにダミー変数を含んだスイッチング回帰分析のような処理を行うことで,グループ別で統計的に有意な差が存在するかなど検討することが望まれる。また,グループ別の分析は回答者が少なくなり,モデル式の統計的な有意性が得られないことが多く,その場合には慎重な解釈が求められるが,このスイッチング回帰分析を用いればサンプル数も増やすことができよう。これらについてもこれからの課題である。
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