403頁】

 

保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金の政策評価に関する基礎的研究

 

鈴木 亘

 

要旨

本稿は,介護分野におけるインセンティブ交付金として注目されている保険者機能強化推進交付金と介護保険保険者努力支援交付金をとり上げ,それらの政策評価に関する基礎的研究を行った。インセンティブ交付金とは,具体的な評価指標を設定し,その達成度に応じて,自由度の高い交付金(補助金)を自治体に支給する制度であり,各自治体の政策遂行努力を促すとともに,EBPM(Evidence Based Policy Making)という観点からも,検証可能な仕組みとして関心を集めている。

ただし,政策評価を行うためには,評価指標と成果指標の間の関係性がしっかりと確保されている必要がある。本稿は,保険者機能強化推進交付金と介護保険保険者努力支援交付金の各評価指標が,実際に成果指標とどの程度の大きさの関係性を持っているのか,統計的に検証を行った。

相関分析および回帰分析を行った結果,各評価指標と成果指標の相関は極めて低く,中には期待される符号と逆の関係を持っている評価指標が少なくないことがわかった。成果指標に対して,多少なりともプラスの寄与がある評価指標は,わずかに,地域包括支援センター・地域ケア会議に関するものと(特に,介護保険保険者努力支援交付金の場合),介護給付の適正化等に関するものに限られる。両交付金の評価指標については,抜本的な見直しが必要なことが示唆される結果となった。

 

キーワード

介護保険,インセンティブ交付金,保険者機能強化推進交付金,介護保険保険者努力支援交付金,EBPM

 

 

404頁】

 

1.はじめに

 

保険者機能強化推進交付金は,平成29年度の地域包括ケア強化法によって創設された介護分野の施策であり,高齢者の自立支援・重度化防止等に向けた市町村の取り組みや都道府県による市町村支援の取り組みを推進することを目的としている。具体的には,市町村や都道府県の様々な取り組みの達成状況を評価できるように客観的な評価指標を設定し,その達成度合いによって,財政的インセンティブとして,平成30年度から毎年合計200億円を各自治体に配布している。

さらに,令和2年度からは介護保険保険者努力支援交付金が創設され,介護予防・健康づくり等に資する取り組みに対し,より重点的に財政的インセンティブを与える制度が追加された。保険者機能強化推進交付金で設定された各評価指標に対して,よりメリハリのきいた得点基準を設け,保険者機能強化推進交付金とは別途,やはり毎年合計200億円を各自治体に配布している。

このように,保険者機能強化推進交付金(以下,推進交付金)および介護保険保険者努力支援交付金(以下,支援交付金)は,まず客観的評価指標を設けて,その達成度合いに応じて,ある程度自由に使える補助金を自治体に配布するという,我が国の社会保障制度の中ではかなり珍しい,インセンティブ交付金制度である1)。それだけに,EBPM(Evidence Based Policy Making)という観点からも,その成否が注目されるところであるが,厚生労働省自身が委託事業として行った調査報告書(日本能率協会総合研究所(2022))や,財務省の予算執行調査(財務省(2022)),内閣官房・行政改革推進会議の秋の年次公開検証(行政改革推進会議(2022))などで,多少の調査分析が行われている程度であり,まだ本格的な学術研究は実施されていない。

ところで,このようなインセンティブ交付金制度で重要なことは,自治体の努力対象となる各評価指標と,政策目標である成果指標(アウトカム指標)との関係がしっかりと確立されていることである。そうでないと,せっかく評価指標を高める努力をしても,それが成果指標の改善に結びつかず,「骨折り損のくたびれ儲け」になる可能性があるからである。

しかしながら,実際に,両交付金の各評価指標と成果指標との間に明確な関係性があるかと言えば,かなり疑問があると言わざるを得ない。例えば,財務省(2022)では,都道府県ごとに域内市町村の平均総得点(各評価指標の合計得点)を算出し,要介護認定率との間の相関係数を計算しているが,ほとんど相関が見られないことを報告している。また,日本能率協会総合研究所(2022)も,第6章(アウトカム指標の検討)において,各市町村(除く広域連合)の総得点と成果指標(認定率,新規認定率,要介護度の重度化率)との相関係数をとっているが,総じて相関が低いことが報告されている。

もっとも,これらの分析は総得点だけを分析対象としており,個別の評価指標と成果指標間の関係を見ていない。この点,行政改革推進会議(2022)は,厚生労働省から特別に提供された各市町村(広域連合を含む)の評価指標を,もっとも細かい指標(細目指標)までブレーク405頁】 ダウンして分析を進めている。具体的には,各細目指標の得点と,各成果指標との間の相関係数を取り,ほとんどの項目で相関が極めて低く,中には本来期待される符号と逆の相関を持つ指標が少なくないことを報告している。ただし,この分析に用いられているデータは厚生労働省が非公表としているものであるため,行政改革推進会議と厚生労働省以外の第三者が再検証を行うことができない2)

そこで,本稿は,厚生労働省が公表しているカテゴリーごとの評価指標の得点(細目指標ではなく,ある程度カテゴリー別にまとめられている得点)を用いて,各評価指標と成果指標間の関係を統計的に分析することにする。両者の間に確固とした関係があって初めて,この両交付金の政策評価が成立することから,本研究は政策評価のための基礎的研究と位置づけられる。

以下,2節では,改めて,推進交付金と支援交付金の両制度について詳述する。3節では,本稿で用いる市町村別データについて説明する。4節,5節では,カテゴリー別の各評価指標と成果指標との間の関係について分析を進める。6節では結論をまとめ,若干の政策提言を行う。

 

 

2.保険者機能強化推進交付金,介護保険保険者努力支援交付金について

 

既に述べたように,両交付金は,各市町村が行う自立支援・重度化防止の取り組み,及び都道府県が行う市町村に対する取り組みの支援に対し,それぞれ評価指標の達成状況(評価指標の総合得点)に応じて,交付金を配布する制度である。交付先は,大きく,都道府県と市町村(特別区,広域連合及び一部事務組合を含む)に分かれており,都道府県に両交付金とも約10億円ずつ,市町村に190億円程度ずつが交付される。もっとも,都道府県へ行う交付は,各市町村の取り組みへの支援に対するものなので,主体はあくまで市町村と言える。したがって,以下では,市町村分の解説および分析のみを行うことにする。

各評価指標は,まず,T.PDCAサイクルの活用による保険者機能の強化に向けた体制等の構築,U.自立支援,重度化防止等に資する施策の推進,V.介護保険運営の安定化に資する施策の推進という3つの大項目に分かれており,U,Vについては,さらに下記に示したカテゴリーに分かれている。

 

T PDCAサイクルの活用による保険者機能の強化に向けた体制等の構築 135点 (35点)

U 自立支援,重度化防止等に資する施策の推進 1020点 (755点)

 (1) 介護支援専門員・介護サービス事業所等 100点 (0点)

 (2) 地域包括支援センター・地域ケア会 105点 (60点)

 (3) 在宅医療・介護連携 100点 (20点)

 (4) 認知症総合支援 100点 (40点)

 (5) 介護予防/日常生活支援 240点 (320点)

406頁】

 (6) 生活支援体制の整備 75点 (15点)

 (7) 要介護状態の維持・改善の状況等 300点 (300点)

V 介護保険運営の安定化に資する施策の推進 200点 (40点)

 (1) 介護給付の適正化等 120点 (0点)

 (2) 介護人材の確保 80点 (40点)

 

全部で10個のカテゴリーの評価指標があり,それぞれに示している得点が配点されている(得点は,令和5年度のもの)。括弧の外が推進交付金,括弧内が支援交付金の点数である。支援交付金は推進交付金と同じ評価指標を共有しているが,配点が異なること,配点がゼロの項目があることにより,よりメリハリを付けていると言える3)

各カテゴリーの評価指標の点数は,各カテゴリー内にあるさらに細かな指標(細目指標)の合計点数である。令和4年度,3年度,2年度のカテゴリーおよび細目指標の詳細については,それぞれ図表1,2,3に示した通りである4)。これらは,都道府県や市町村などの関係者の意見を聞きながら,厚生労働省が毎年のように少しずつ変化させている。その経緯は図表4にまとめた通りであるが,特に,令和1年度以前と令和2年度以降の差が大きい。このため,本稿の分析は,評価指標が比較的に安定している令和2年度以降について行うことにした5)

これらの評価指標の合計点数を,各市町村への交付金額に変換するにあたっては,第一号被保険者規模別に予算額を按分し,以下の計算式に基づいて決定している。

 

交付金額 = 第一号被保険者規模別配分額 × {(当該市町村の点数×当該市町村の第一被保険者数)/(各規模別の区分の市町村の合計点数×各規模別の区分の第一号被保険者数)}

 

式中にある第一号被保険者規模の区分は,下記の通りである。

 

 区分1 : 第一号被保険者数が3千人未満

 区分2 : 第一号被保険者数が3千人以上1万人未満

 区分3 : 第一号被保険者数が1万人以上5万人未満

 区分4 : 第一号被保険者数が5万人以上10万人未満

 区分5 : 第一号被保険者数が10万人以上

 

この規模による区分は,令和2年度に作られたものである。一般論として,人口が多い,都407頁】 市部の自治体の方が,その財政力や社会資源の量などから,点数が高くなる傾向にあるため,小規模な自治体においても一定額が配分されるよう,このような仕組みが導入された。

さて,市町村に配布された交付金は,どのように使われるのであろうか。まず,推進交付金については,直接的には,介護保険特別会計の第一号保険料相当部分に充当することになっている。その中で,高齢者の自立支援・重度化防止等に向けた市町村の取り組みを支援するという制度の趣旨を踏まえ,地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業,包括的支援事業),市町村特別給付,保健福祉事業を充実し,高齢者の自立支援,重度化防止,介護予防等に使われるべきとされている。また,令和2年度からは,一般会計事業に係る高齢者の予防・健康づくりに資する取り組み(新規・拡充部分)にも充当が可能となった。一方,支援交付金については,介護予防・日常生活支援総合事業及び包括的支援事業(包括的継続的ケアマネジメント支援,在宅医療介護連携推進事業,生活支援体制整備事業,認知症総合支援事業に限る)に充当が可能である。

 

 

3.データ

 

本稿の分析に用いるデータは,厚生労働省がそのウェブサイトで公開している「保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金の集計結果(市町村分)」における市町村別の評価指標別得点データである。平成30年度〜令和4年度分の5カ年分について,それぞれ1741の市町村データが入手可能である。ただし,評価指標については個別の細目指標は公開されておらず,既に説明した10個のカテゴリー別の評価指標の得点が格納されている。これらのカテゴリー別の評価指標の各得点が,成果指標とどのような相関関係を持っているか,令和2年から4年のデータを使って検証する。

ただし,問題は,成果指標自体も入手困難なことである。厚生労働省は一義的には,成果指標(長期アウトカム指標)を,「平均要介護度の維持・改善」と「要介護認定率の維持・改善」と抽象的に表現している。これは具体的に,令和4年度の例で言うと,@軽度(要介護1・2)の平均要介護度の変化率と変化率の差,A中重度(要介護3〜5)の平均要介護度の変化率と変化率の差,B要介護2以上の認定率と認定率の変化率として指標化されている。すなわち,令和4年度のカテゴリー別の評価指標である「U.(7)要介護状態の維持・改善の状況等」の項目は,以上の指標を元に得点化が行われている。

しかしながら,これらの原指標は全て,性・年齢を調整した指標となっており,その値を正確に作るには,一般には公開されていない厚生労働省の介護保険事業状況報告・介護保険総合データベース(介護DB)にアクセスし,抽出・算出する必要がある。また,要介護度の変化率についても,正確に計算するためには,介護DBで算出した新規認定者の,認定月から1年後・2年後の認定状況を抽出して算出する必要がある6)

本稿では,残念ながら介護DBにアクセスして,原指標を得ることができないため,発想を変えて,「要介護状態の維持・改善の状況等」という評価指標の得点自体を,成果指標として用いることにする。ただ,例えば,令和3年度の交付金における「要介護状態の維持・改善の状況等」という指標は,令和1年度から令和2年の変化率(あるいは平成30年→令和1年と,408頁】 令和1年→令和2年の変化率の差)を元に計算されている。他の評価指標は基本的に令和2年度の取り組み状況を示しているから,令和3年度の「要介護状態の維持・改善の状況等」を令和3年度の成果指標に使用する場合には,他の評価指標よりも時点が前か,せいぜい同時となってしまって,成果指標としては不適切である。

このため,令和3年度の成果指標としては,1年後の令和4年度の「要介護状態の維持・改善の状況等」の得点を用いることにする。同様に,令和2年度の成果指標として,1年後の令和3年度の「要介護状態の維持・改善の状況等」の得点を用いる。さらに,成果指標に各市町村の努力の成果が現れるためには,1年という期間はやや短く,もっと長い時間の経過が必要と考えられる。このため,令和2年度の成果指標として,さらに1年経過した令和4年度の「要介護状態の維持・改善の状況等」の得点も用いることにした。

つまり,令和3年度における10個の各カテゴリー別の評価指標の得点(@PDCAサイクルの活用,A介護支援専門員・介護サービス事業所等,B地域包括支援センター・地域ケア会議,C在宅医療・介護連携,D認知症総合支援,E介護予防・日常生活支援,F生活支援体制の整備,G要介護状態の維持・改善の状況等,H介護給付の適正化等,I介護人材の確保)については,その成果指標である令和4年度のG要介護状態の維持・改善の状況等の得点との関係を分析する。また,令和2年度における10個の各カテゴリー別の評価指標の得点については,令和4年度と令和3年度のG要介護状態の維持・改善の状況等の得点との関係を分析することにする。

 

 

4.分析1:保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金を合計した分析

 

4.1 相関分析

まず,推進交付金と支援交付金を合計したベースで,成果指標(翌年度,翌々年度の要介護状態の維持・改善の状況等の得点)と,各カテゴリー別の評価指標の間の相関係数をとったものが,図表5である。2021年と書いてある列が令和3年度の各評価指標と令和4年度の成果指標間の相関係数,2020年と書いてある列が,令和2年度の各評価指標と令和4年度の成果指標間の相関係数である。全ての評価指標で,プラスの相関係数が期待される。

結果を見ると,まず,各評価指標の相関係数が総じて非常に低いことがわかる。通常,−0.2から0.2までの相関係数は「ほとんど相関がない」と判断されるが,全ての評価指標がこの範囲に収まってしまっている。また,PDCAサイクルの活用,介護支援専門員・介護サービス事業所等,在宅医療・介護連携,認知症総合支援,介護予防・日常生活支援,生活支援体制の整備,介護人材の確保という7つの評価指標は,相関係数の符号がマイナスとなっている。成果指標と元々相関が高いと考えられる要介護状態の維持・改善の状況等を除いて7),プラスの相関を持っているのは,わずかに地域包括支援センター・地域ケア会議と,介護給付の適正化等409頁】 の2つのみである。

さらに,既に先行研究からも明らかなように,総点数と成果指標との相関も極めて低い。ちなみに,当該年度の要介護状態の維持・改善の状況等と翌年,翌々年の要介護状態の維持・改善等の相関は高いと想定されるため,それを除いた総得点も作っているが,やはり相関は極めて低いし,マイナスの係数となってしまっている。以上の結論は,2020年の各評価指標に関する相関係数をみても,ほぼ同様と言える。

 

4.2 回帰分析

ただ,いくら相関係数が低いとは言え,プラスの相関係数を持つ評価指標は,成果指標に対して何らかの影響を及ぼす可能性がある。そこで,統計的に有意な影響を及ぼすかどうかを確かめるため,次のような6つの回帰モデルを推定することにする。

 

成果指標得点=β0+Σβi ・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑴

 

成果指標得点=β0+Σβi ・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑵

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+Σβi ・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑶

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+Σβi ・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑷

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+β2成果指標得点(t−2) +Σβ1・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑸

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+β2成果指標得点(t−2) +Σβ1・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑹

 

変数の横に付してある(t−1),(t−1)はラグを意味している。被説明変数と説明変数の記述統計は,図表6に示した通りである。

⑴〜⑹式の推定結果は,図表7に示されている。前項の4.1の相関分析でプラスの相関係数であった地域包括支援センター・地域ケア会議と,介護給付の適正化等は,⑴〜⑹の全ての推定結果において,ともにプラスで統計的に有意な結果となっている。したがって,この2つの評価指標については,影響の大きさはともかくとして,少なくとも成果指標にプラスの影響を持っていると言える。これらは評価指標として一応,的確な指標であると判断できよう。一方,PDCAサイクルの活用と在宅医療・介護連携,介護人材の確保の3つについては,やはり⑴〜⑹の全ての推定結果において,マイナスで有意となった。つまり,この3つの項目を評価指標に入れて努力することは,成果指標にマイナスの影響を及ぼす可能性があるということであり,評価指標としての適格性が疑われる。

 

 

410頁】

 

5.分析2:保険者機能強化推進交付金,介護保険保険者努力支援交付金を分けた分析

 

5.1 相関分析

次に,推進交付金と支援交付金を分けて,前節と同様の分析を行った。既に述べたように,推進交付金と支援交付金は,評価指標自体は同じであるが,その得点配分が異なる。したがって,その配分の仕方の違いで,相関が異なる可能性がある8)

前節の4.1と同様,成果指標(翌年度,翌々年度の要介護状態の維持・改善の状況等の得点)と,各カテゴリー別の評価指標の間の相関係数をとったものが,図表8である。支援交付金の得点配分がゼロとなっている評価指標(介護支援専門員・介護サービス事業所等,介護給付の適正化等),支援交付金と全く得点配分が同じで両者が識別できない評価指標(介護予防・日常生活支援,要介護状態の維持・改善の状況等)は,結果が図表5と同じなので,図表8からは除かれている。

まず,2021年の結果を見ると,やはり,相関係数が非常に低く,−0.2から0.2までの値に全ての評価指標が入っている。また,期待されるプラスの符号となっているのは,地域包括支援センター・地域ケア会議(推進),地域包括支援センター・地域ケア会議(支援)と,生活支援体制の整備(支援)のみである。総点数は,支援交付金のみがプラスの符号であった。これらの結果は,2020年の各評価指標に関しても変わらない。

 

5.2 回帰分析

前節の4.2と同様,推進交付金,支援交付金に分けた評価指標についても,下記の6つの回帰モデルを推定することにする。

 

成果指標得点=β0+Σβi ・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑺

 

成果指標得点=β0+Σβi ・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑻

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+Σβi ・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑼

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+Σβi ・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑽

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+β2成果指標得点(t−2) +Σβi ・ 評価指標得点 i +ε ……… ⑾

 

成果指標得点=β0+β1成果指標得点(t−1)+β2成果指標得点(t−2) +Σβi ・ 評価指標得点(t−1)i +ε ……… ⑿

 

411頁】

被説明変数と説明変数の記述統計は,図表9に示した通りである。

⑺〜⑿式の推定結果は,図表10に示されている。全ての推定式において,期待されるプラスの符号で有意な評価指標は,地域包括支援センター・地域ケア会議(推進)と,介護給付の適正化等のみである。この点は,図表8の結果とほぼ同様と言える。一方,介護人材の確保(支援),2020年のPDCAサイクルの活用と在宅医療・介護連携(推進)は,マイナスで有意という結果であった。

 

 

6.結語

 

本稿は,介護分野におけるインセンティブ交付金として注目される保険者機能強化推進交付金と介護保険保険者努力支援交付金をとり上げ,政策評価に関する基礎的研究を行った。インセンティブ交付金とは,具体的な評価指標を設定し,その達成度に応じて,自由度の高い交付金(補助金)を自治体に支給する制度であり,各自治体の努力を促す仕組みとして注目されている。また,明確で客観的な評価指標と成果指標が設定され,政策評価が容易とみられることから,近年,政府が推進しているEBPM(Evidence Based Policy Making)の観点からも関心を集めている。

ただし,政策評価を行うためには,評価指標の達成度を高めることが,成果指標の向上に資することがしっかりと担保されていることが前提となる。本稿は,まずは政策評価のための基礎的研究として,推進交付金と支援交付金の評価指標が,実際に成果指標とどの程度の関係性を持っているのか,統計的に検証を行った。

相関分析および回帰分析を行った結果,評価指標と成果指標の相関関係は極めて低く,中には期待される符号と逆の関係を持っている評価指標も少なくないことがわかった。多少なりとも,成果指標にプラスの寄与がある評価指標は,わずかに,地域包括支援センター・地域ケア会議(特に,介護保険保険者努力支援交付金の場合)と,介護給付の適正化等に限られる。つまり,現行制度の評価指標については,抜本的な見直しが必要なことが示唆される結果となった。

もちろん,最終的な成果指標(長期アウトカム指標)である「平均要介護度の維持・改善」と「要介護認定率の維持・改善」には,両交付金が狙いとする各自治体の取り組みだけではない,様々な要因が関係していると思われる。その場合,評価指標と成果指標の相関係数が低いからと言って,直ちに当該評価指標が不適切ということではないが,少なくともマイナスの相関がある評価指標については,それを使い続けて良いかどうか,十分な検討が必要であろう。

また,各自治体の取り組みが成果を上げるまでに,数年程度の期間がかかることも考えられる。その場合には,最終成果と強い関係があり,成果が短期的に出やすい中間目標(短期アウトカム)を設定することも一案である。いずれにせよ,その中間目標の指標と最終的な成果指標,中間目標の指標と各評価指標間の関係は統計的にしっかりと確保されている必要がある。所管官庁においては,こうしたエビデンスに基づき,制度を不断にブラッシュアップしてゆくことが求められる。

最後に,本稿の分析の留意点も述べておこう。本稿はデータ利用上の制約から,@成果指標について原指標ではなく,加工後の得点データを用いていること,A評価指標についても細目412頁】 指標ではなく,カテゴリー別の評価指標を用いていることなどの問題がある。これらの問題を解決するためには,所管官庁や各自治体からデータが公開される必要がある。EBPMの観点からは,データをきちんと公開し,第三者が検証できるようにすることが望ましい。早期に,政策評価に必要な全データが公開されることを期待したい。

 

参考文献

日本能率協会総合研究所(2022)「保険者機能強化推進交付金及び介護保険保険者努力支援交付金の評価指標と活用方策に関する調査研究一式報告書」

財務省(2022)「予算執行調査・総括調査票(令和4年7月公表分)(17)厚生労働省 保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金」

行政評価推進会議(2022)「行革事務局(主な論点)配付資料(保険者機能強化推進交付金等(厚生労働省))」

https://www.gyoukaku.go.jp/review/aki/R04/img/6_1_1_gyoukaku.pdf

 

413頁】

 

414頁】

 

415頁】

 

416頁】

 

417頁】

 

418頁】

 

419頁】

 

420頁】

 

421頁】

 

422頁】

 

423頁】

 

424頁】

 

425頁】

 

426頁】

 

427頁】

 

428頁】

 

429頁】

 

430頁】

 

431頁】

 

432頁】

 

433頁】

 

434頁】

 

435頁】

 

436頁】

 

437頁】

 

438頁】

 

439頁】

 

440頁】