日本人男女の結婚意識に関する統計分析
鈴木 亘
本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」のデータを用いて,鈴木(2024a,b,c)による結婚の決定要因や交際相手の有無の分析と同様のフレームワークで,結婚希望の有無の決定要因について分析を行った。
特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,女性については肥満の場合に,結婚希望割合が大きく低下する一方,男性については外見面の影響はなかった。習慣については,男女とも浪費癖がある場合に,結婚希望割合が高くなっている。職種については,女性の場合には,正規職員の方が非正規職員や自営業・家族従事者・内職と比べて,結婚希望割合が高いのに対し,男性の場合は正規・非正規の差はなく,むしろ,自営業・家族従事者・内職や無職・家事,学生の場合に正規職員を上回る結婚希望割合となる。また,女性については所得や実物資産が多いと結婚希望割合が低くなるが,男性については所得や資産の影響を受けていない。さらに,男性の場合には,労働時間や通勤時間が長いほど結婚希望割合が高くなっている。希望子供数は男女とも顕著に結婚希望割合を増す。親との同居については,男女とも結婚希望割合に影響していない。
これらの結果は,鈴木(2024a,b,c)による結婚の決定要因や結婚を考えている交際相手がいる要因とは異なるものであり,総じて,結婚の実現可能性よりは,本人の結婚需要,結婚の必要性がより顕著に出る傾向にある。
結婚の経済学,結婚意識,結婚希望,マッチング
よく知られているように,近年の我が国の少子化の主な要因は,未婚率の上昇にある。実際,結婚した夫婦の出生率(完結出生子ども数)は現在も1.90(2021年,国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)とかなり高く,静止人口を達成するための合計特殊出生率2.06にかなり近い。つまり,合計特殊出生率が1.26(2022年)と低水準に陥っている主な理由は,結婚しない,結婚できない男女が多いと言う未婚化にある。したがって,少子化に歯止めをかけるためには,この未婚化の要因を解明し,そのエビデンスに裏打ちされた効果的な結婚対策を実施することが重要である。
そのような問題意識から,既に筆者は鈴木(2024a,b,c)において,以前,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」を用いて,結婚の決定要因や結婚を考えている交際相手【118頁】 の有無に関する統計分析を行った。その結果,結婚の決定要因に関する諸仮説を裏付ける実に様々な変数が,統計的に有意となることがわかった。
もっとも,結婚対策を考える場合には,結婚行動に至る一歩手前の「結婚意識」に働きかけることも重要である。そのためには,現在の結婚意識(結婚希望)の決定要因を探ることが不可欠となる。しかしながら,結婚意識を分析対象にした研究は,人口学や家族社会学,心理学などの分野では比較的多くみられるものの(水落ほか(2010),不破・柳下(2016),湯川ほか (2017),中村(2018),山本(2023),Sassler and Schoen(1999),Huang and Shu-Hui(2014),Dahye and Haeil(2024)),経済学の分野ではほとんど研究蓄積がないのが現状である(坂本(2005),滋野・大日(1997))。このうち,本稿にとって重要な先行研究は,滋野・大日(1997),Sassler and Schoen(1999),坂本(2005),水落ほか(2010)であり,いずれもその研究,あるいは研究の一部で,結婚意識(希望)と実際の結婚行動の関係性が高いことを確認している。
さて,本稿は,そのように結婚希望と結婚行動の間に一定の関係性があることを前提に,結婚希望の決定要因を統計的に探る。分析のフレームワークは,鈴木(2024a,b,c)によって行われた結婚行動や結婚を考えている交際相手の有無の分析と同じものである。すなわち,結婚希望の説明要因を,供給側,需要側,出会いの経路の3項目に分け,男女別に,なるべく多くの説明要因との関係性をみることにする。
以下,本稿の構成は次の通りである。2節では,本稿で用いるデータの説明を行う。3節は,仮説と分析モデルを提示する。4節では,まずは記述統計表によって,結婚希望の有無を比較した上で,回帰分析を行う。5節は結語である。
本稿が用いているデータは,鈴木(2024a,b,c)と同様,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の個票データである。このアンケート調査は,2008年2月に独身者の男女及び既婚者の女性を対象に郵送調査法で行われた。対象年齢は20歳から45歳,対象地域は全国である1)。サンプル数は,2008年の調査で独身者1155,既婚者535である。また,この調査は2009年3月に改めて,全く同じ調査票を用いて追加調査を実施しており,独身者568,既婚者586が収集されている。本研究では,2008年調査と2009年調査の独身者の男女のサンプルを用いる。
この調査の特徴は,極めて多くの個人属性や結婚に対する環境,意識を尋ねていることである。本稿が用いる諸変数だけみても,結婚意識(結婚希望),年齢,本人学歴,背の高さの自己評価,肥満度の自己評価,容姿の自己評価,健康の自己評価,持病の有無,保有金融資産(万円),借入金(万円),実物資産(万円),自分でできる家事(掃除,洗濯,食事作り,食器洗い,買い物,整理整頓,アイロンかけ,育児,ゴミ分別,子供の送迎,介護),悪い習慣の有無(喫煙,飲酒,競馬・競輪などのギャンブル,パチンコ・パチスロ,浮気癖,虚言癖,借金癖,浪費癖,ケチ),本人の職種(正規職員,パート・アルバイト,派遣・嘱託・契約社員,自営業・【119頁】 家族従事者・内職,無職・家事,学生),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数,週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり),育休取得環境の良さ,職場にある制度(短時間勤務,時差出勤,育児休職,再雇用制度,フレックスタイム,在宅勤務),父親の年齢,母親の年齢,父親職種(本人と同様の分類),母親職種(同),父親学歴,母親学歴,父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲の良さ,18歳時点で家庭の裕福さ,18歳時点で住宅状況,結婚相手に求める条件とその程度(年収,就業形態,学歴,年齢,身長,体型,容姿,性格,趣味の一致,親の同居についての意向,健康状態),希望子供数,交際環境(よく話をする独身の異性数,毎日顔を合わせる独身の異性数,独身の異性と親しくなるきっかけの頻度,職場や学校以外で独身の異性と会う機会の頻度,交際や恋愛について気軽に相談できる人の数,異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い(上司から,取引先から,同僚から,職場以外の友人から,家族や親せきから,事業者等のイベント,お見合い),結婚サービスの利用(結婚相談所,事業者のマッチングサービス,ネットのマッチングサービス,自治体・NPOの出会い事業,所属企業の紹介サービス,出会い系サイト,出会い目的のパーティーやイベント,モチベーションを高めるカウンセリング,付き合い方,魅力アップのカウンセリング)など,たくさんの項目がある。
本稿で主な分析の対象となるのは,結婚意識(結婚希望)である。具体的に,調査票には結婚意識に関して,「あなたの結婚に対する意向をおうかがいします。次の中から最もあてはまるものに○をおつけください。(○は1つ)」という問いがあり,「1.是非,結婚したい,2.できれば,結婚したい,3.良い人がいれば結婚しても良い,4.結婚しなくてもよい,5.結婚するつもりはない」という選択肢の中から一つを回答するものとなっている。そのうち,「1.是非,結婚したい,2.できれば,結婚したい」のどちらかを回答した場合に「結婚希望あり」として1,「3.良い人がいれば結婚しても良い,4.結婚しなくてもよい,5.結婚するつもりはない」のいずれかを回答した場合に「結婚希望なし」として0となるダミー変数を作成し,結婚希望の変数とした。ちなみに,図表1は,結婚意識の各選択肢別に,交際相手がいる割合をみたグラフであるが,全体,あるいは男女別にみても,結婚したい意識が高いほど,交際相手がいる割合が高いことがわかる2)。本稿で用いる変数の記述統計は,図表2(女性),図表3(男性)の通りである。
鈴木(2024a,b,c)同様,本稿の分析手法はシンプルである。被説明変数を結婚希望とし,様々な個人属性や環境・意識変数を説明変数としてプロビットモデルを推定するものである。鈴木【120頁】 (2024a,b,c)で説明されているように,結婚の決定要因に関しては,@供給側の要因,A需要側の要因,B出会いの経路(マッチング・システム)の3つに大きく分類されるが,結婚意識についても基本的に同様のフレームワークで考えることにする。
@供給側の要因とは,潜在的な交際相手(異性)から見た分析対象(本人)の魅力を表す説明変数である。まずは,外見などの自己評価である。背が低い(5段階評価のうち,下から2つ),肥満(5段階評価のうち,下から2つ),容姿悪い(5段階評価のうち,下から2つ),健康悪い(5段階評価のうち,下から2つ),持病ありと言った変数がある。また,自分でできる家事(自分でできる家事1(掃除),自分でできる家事2(洗濯),自分でできる家事3(食事),自分でできる家事4(食器洗い),自分でできる家事5(買い物),自分でできる家事6(整理整頓),自分でできる家事7(アイロンかけ),自分でできる家事8(育児),自分でできる家事9(ゴミ分別),自分でできる家事10(子供の送迎),自分でできる家事11(介護))についても,家事ができるほど結婚相手としての魅力が増すと考えられる。
さらに,悪い生活習慣の有無(習慣1(喫煙),習慣2(飲酒),習慣3(競馬・競輪などのギャンブル),習慣4(パチンコ・パチスロ),習慣5(浮気癖),習慣6(虚言癖),習慣7(借金癖),習慣8(浪費癖),習慣9(ケチ))は,全て魅力が下がると考えられる。本人の職種(本人職種1(正規職員),本人職種2(パート・アルバイト),本人職種3(派遣・嘱託・契約社員),本人職種4(自営業・家族従事者・内職),本人職種5(無職・家事),本人職種6(学生))については,本人職種1(正規職員)をベンチマークとするダミー変数とする。
実は,結婚の決定要因(鈴木(2024a))や,結婚を考えている交際相手の有無の分析(鈴木(2024b,c))とは異なり,本人の結婚意識(結婚希望)については,他人の見方である供給側の要因は,本来,理論的に影響を与えないはずである。なぜならば,本人の意識はあくまで本人限りのものであって,他人が決定するものではないからである。しかしながら,現実問題として,例えば,自分に異性から見た魅力がないと考えた場合に,結婚相手あるいは交際相手を得ることの困難さを慮って,結婚希望自体が低くなるということはあり得るだろう。また,これらの変数は供給側の要因であると同時に,需要側の要因となる可能性もある。つまり,結婚行動は,基本的に自分の資質(供給)という制約条件の下で,ベストの相手を求める(需要)という最大化問題であるから,需要と供給要因が重複する可能性は大いにある。したがって,結婚希望の決定要因として,これらの供給側の要因を捨象せず,虚心坦懐に説明変数をして加えた上で,統計的な分析結果をみて関係の有無を判断することにする。
需要側の説明変数としてまず重要なものは,(特に女性についての)機会費用に関する学歴(大卒以上),月当たり収入(税込),当該の仕事の継続年数などの変数である。女性の機会費用の高まりが未婚率上昇の要因であるという機会費用仮説が正しければ,これらの説明変数の係数は,結婚意識についても負の値となるだろう。ただ,例えば,月当たり収入に関しては,その値が高いほど,結婚資金や結婚後の安定的な生活が期待できることから,結婚需要が高まるという正の関係も想定し得る。本人の持つ金融資産,借入金,実物資産といった資産に関する変数も同様である。
【121頁】 週当たり労働時間,往復通勤時間,夜7時以降・朝9時以前の就業時間(週当たり)など,時間制約に関する説明変数については正負,両方の係数の可能性がある。結婚の決定や交際相手の有無の分析については,長時間労働や通勤によって,結婚相手探しや交際時間に割ける時間に制約があると,結婚の実現可能性が低くなるため,その係数は負が想定されていた(時間制約仮説)。しかしながら,結婚希望の場合には,忙しくて時間制約があるからこそ,結婚をして「規模の利益」,「分業の利益」を働かせたいとして,結婚希望が高まる可能性もある。また,結婚して出産をした場合,育休をしっかり取得できたり,子どもができた場合に,柔軟な働き方ができる職場環境かどうかということも,結婚希望を高める可能性がある。なぜならば,我が国の場合は,出産と結婚が強く結びついており,交際する段階でもそれが影響している可能性があるからである。育休取得環境良い,職場の制度1(短時間勤務),職場の制度2(時差出勤),職場の制度3(育児休職),職場の制度4(再雇用制度),職場の制度5(フレックスタイム),職場の制度6(在宅勤務)などの説明変数は,男女ともに正の影響が想定される。
次に,女性の実家の家庭環境も,結婚の決定要因と同様,結婚意識に影響すると考えられる。例えば,実家が裕福であるかどうか,両親が定職についているかどうかということは,結婚した後のサポートが期待できるという意味で,正の影響を与える可能性がある。ただ,逆に,既に同居していたり,両親から独身生活の経済的サポートを受けるなどして,結婚に対する‘留保賃金’を引き上げている場合には,負の影響があることも考えられる(パラサイトシングル仮説)。こうした家庭環境の説明変数としては,父親の年齢,母親の年齢,父親職種1(正規職員),父親職種2(パート・アルバイト),父親職種3(派遣・嘱託・契約社員),父親職種4(自営業・家族従事者・内職),父親職種5(無職・家事),父親職種6(学生),母親職種1(正規職員),母親職種2(パート・アルバイト),母親職種3(派遣・嘱託・契約社員),母親職種4(自営業・家族従事者・内職),母親職種5(無職・家事),母親職種6(学生),父親学歴(大卒以上),母親学歴(大卒以上),父親年収(税込,年金含む),母親年収(税込,年金含む),親と同居,兄弟の数を用いることにする。
さらに,結婚して家庭を作ることに憧れがある場合には,結婚希望が高まるはずである。家庭に対するあこがれは,身近なロールモデルである両親の姿から生じる可能性が高いため,両親のデモンストレーション効果として,父親離婚経験,母親離婚経験,両親恋愛結婚,18歳時点で片親もしくは両親なし,18歳時点で両親の仲が非常に良い,18歳時点で貧しい(中の下以下),18歳時点で持ち家居住という説明変数を用いることにする。
需要面としては,結婚相手に求める条件も重要な説明変数である。本稿が用いるアンケートでは,様々なカテゴリーについて,それを重視する程度を尋ねているので,非常に重視すると答えた場合を1,それ以外0とするダミー変数とした。すなわち,相手の条件を非常に重視1(年収),相手の条件を非常に重視2(就業形態),相手の条件を非常に重視3(学歴),相手の条件を非常に重視4(年齢),相手の条件を非常に重視5(身長),相手の条件を非常に重視6(体型),相手の条件を非常に重視7(容姿),相手の条件を非常に重視8(性格),相手の条件を非常に重視9(趣味の一致),相手の条件を非常に重視10(親の同居についての意向),相手の条件を非常に重視11(健康状態)である。結婚の決定要因や交際相手の有無に関しては,相手に求める条件にこだわりすぎると,結婚相手や交際相手を得ることが難しくなることが想定されたが,結婚意識の場合はどうであろうか。また,希望子供数も,子どもがたくさん欲しい人ほど結婚需要が高いと考えられるので,説明変数に加えた。
説明変数としての最後のカテゴリーは,出会いの経路(マッチング・システム)に関わる諸変数である。本稿の分析に用いるデータでは,交際環境や異性の紹介・出会い,結婚サービスの利用状況について数多くの質問をしている。具体的な変数は,交際環境1(よく話をする独身の異性数),交際環境2(毎日顔を合わせる独身の異性数),交際環境3(独身の異性と親しくなるきっかけ多い),交際環境4(職場や学校以外で独身の異性と会う機会多い),交際環境5(交際や恋愛について気軽に相談できる人の数),交際環境6(異性紹介やお見合いを進める人の数),異性の紹介・出会い1(上司から),異性の紹介・出会い2(取引先から),異性の紹介・出会い3(同僚から),異性の紹介・出会い4(職場以外の友人から),異性の紹介・出会い5(家族や親せきから),異性の紹介・出会い6(事業者等のイベント),異性の紹介・出会い7(お見合い),結婚サービスの利用1(結婚相談所),結婚サービスの利用2(事業者のマッチングサービス),結婚サービスの利用3(ネットのマッチングサービス),結婚サービスの利用4(自治体,NPOの出会い事業),結婚サービスの利用5(所属企業の紹介サービス),結婚サービスの利用6(出会い系サイト),結婚サービスの利用7(出会い目的のパーティーやイベント),結婚サービスの利用8(モチベーションを高めるカウンセリング),結婚サービスの利用9(付き合い方,魅力アップのカウンセリング)である。交際環境1,2,5,6以外は全て,当てはまる場合に1,そうでない場合に0となるダミー変数とする。結婚希望を高めるために有効な環境やサービス利用がある一方,そうでもないものもあるだろう。最後に,年齢の変数であるが,年齢の他に,年齢の2乗項も説明変数に加えた。
前節で述べた分析モデル(プロビットモデル)を推定する前に,主要な説明変数について,結婚希望の有無別に単純比較しておこう。まず,図表4は女性について比較したものである。年齢については希望ありの方が,希望なしよりも年齢が低い。外見などの自己評価については,結婚希望ありの方が,やはり背が低い,肥満,容姿が悪い,健康悪い,持病ありの全ての変数について,該当する割合が低いことがわかる。あくまで本人の意識・希望なので,理論的には外見は無関係であるはずだが,現実には,結婚が実現しそうだから希望がわくという面があるのだろう。家事能力についても,ごみ分別を除いて,全ての項目で結婚希望ありの方ができる割合が高くなっている。悪い習慣を持っている割合についても,総じてみて,結婚希望ありの方が低い。
職種については,結婚希望ありの方が正規職員の割合が高く,結婚希望なしの方が非正規や無職の割合が高くなっている。これは供給側の魅力とも見ることができるし,生活が安定する正規職員の方が,結婚需要が高くなっていると見ることもできよう。もっとも,結婚希望ありの方が学生の割合は高い。
機会費用に関する変数については,大卒以上の学歴こそ,希望ありの方が高いが,月当たり収入や仕事の経験年数,金融資産額,実物資産額は結婚希望なしの方が多く(長く)なっている。労働時間や通勤時間は結婚希望の有無でほとんど変化が無い。職場環境については,総じ【123頁】 て,結婚希望ありの方がワークライフバランスや両立化支援の諸制度がある職場で働いている。家庭環境についても,総じて結婚希望ありの方が恵まれた環境にあるように思われる。親との同居率は,結婚希望なしの方が高い。
相手に対する希望に関しては,年収,親の同居に関する意見,健康状態を除いては,おおむね,結婚希望ありの方が各項目を重視している割合が高い。希望子供数は予想通り,結婚希望ありの方が多い。
交際環境も概ね,結婚希望ありの方が出会いの機会が多い。ただ,異性の紹介・出会いについては,項目によりまちまちである。結婚サービスの利用については,それほど大きな違いは見られないようである。交際相手がいたり,同棲経験がある割合が高いのは,やはり,結婚希望ありの方である。
次に,図表5は男性について比較したものである。男性の場合も,年齢は希望ありの方が,希望なしよりも低い。外見などの自己評価についても女性と同様,結婚希望ありの方が,やはり背が低い,肥満,容姿が悪い,健康悪い,持病ありの全ての変数について,該当する割合が低いことがわかる。家事能力についても,それほど大きな差があるわけではないが,やはり,多くの項目で結婚希望ありの方ができる割合が高くなっている。悪い習慣を持っている割合については,喫煙や競馬競輪などのギャンブルを除き,概ね結婚希望ありの方が低い。
職種についても女性と同様の傾向がみられる。すなわち,結婚希望ありの方が正規職員の割合が高く,結婚希望なしの方が非正規や無職の割合が高くなっている。また,結婚希望ありの方が学生の割合が高い。
学歴についても,大卒以上の学歴の割合は,結婚希望ありの方が高い。しかし,月当たり収入や仕事の経験年数,金融資産額,実物資産額は結婚希望なしの方が多く(長く)なっており,この点も女性と類似している。労働時間や通勤時間は結婚希望の有無でほとんど差異がない。職場環境についても女性と同様,総じて,結婚希望ありの方がワークライフバランスや両立化支援の諸制度がある職場で働いている。家庭環境についても,総じて結婚希望ありの方が恵まれた環境にいるように思われる。親との同居率も,結婚希望なしの方が高い。
相手に対する希望に関しては,年収,就業形態,親の同居に関する意見を除き,概ね結婚希望ありの方が各項目を重視している割合が高い。希望子供数も予想通り,結婚希望ありの方が多い。
交際環境も概ね,結婚希望ありの方が出会いの機会が多い。ただ,異性の紹介・出会いについては,項目によりまちまちである。結婚サービスの利用については,それほど大きな違いは見られないようである。交際相手がいたり,同棲経験がある割合が高いのは,やはり,結婚希望ありの方である。総じてみて,男性と女性の傾向の類似性が高い。
以上,様々な変数を,結婚希望の有無別に比較してきたが,これらが最終的に結婚希望の決定要因であるかどうかは,諸変数を同時にコントロールした上で判断する必要がある。そこで,前節で説明したプロビットモデルを用いて,全ての変数を同時にコントロールした回帰分析を行った。推定結果は,図表6(女性),図表7(男性)の通りである。
【124頁】 まず,年齢については負に有意であり,年齢が高まるほど,結婚希望が低くなることわかる。ただし,2乗項が正に有意なので,その低くなる度合いは年齢が高まるほど小さくなる。外見などの自己評価では,肥満だけが有意であり,肥満であると21.1%も結婚希望割合が低くなる。家事については有意な変数がなかった。習慣については,喫煙習慣がある場合やパチンコ・パチスロを行う習慣がある場合に,結婚希望割合が低くなっている。もっとも浪費癖がある場合には結婚希望割合が高くなっている。この解釈としては,浪費癖があるために,予算制約を高めようとして,結婚のニーズが高まっている状態ではないかと推察される。つまり,供給側の要因と言うよりは,需要側の要因と見るべきかもしれない。
職種に関しては,正規職員をベンチマークとしているが,パート・アルバイトや,自営業・家族従事者・内職である場合に,結婚希望割合が下がっており,鈴木(2024b)の結婚を考えている交際相手がいるケースと同じ傾向である。安定的な職についているほど,結婚後の生活安定が展望できるために,結婚需要が高まるものと思われる。
機会費用関係の説明変数については,学歴も当該の仕事の継続年数も有意とならなかった。ただ,月当たり収入と実物資産は負で有意となっており,この部分に関しては機会費用仮説と整合的である。時間的制約に関する変数については,有意なものはなかった。職場の制度については,短時間勤務制度や育児休職,フレックスタイム,在宅勤務がある方が結婚希望割合が高まる。もっとも,なぜか再雇用制度の係数は負で有意である。
家庭環境は父親の学歴が負,父親の年収が正に有意となっている。前者はよくわからないが,後者は実家が豊かなほど結婚希望割合が高まるものと解釈できる。親との同居は有意ではない。兄弟の数は負に有意である。相手への希望については,学歴と年齢,趣味の一致,健康状態が有意となっており,健康状態を除いて正の係数となっている。希望子供数が多いほど,結婚希望が高まる。
交際環境については,職場や学校以外で独身の異性と会う機会が多い場合や,異性紹介やお見合いを勧める人が多いほど,結婚希望割合は高まるが,独身の異性と親しくなるきっかけが多い場合にはかえって結婚希望割合が低くなっている。その他,出会い系サイトの利用者は結婚希望割合が高いという結果となった。
次に男性であるが,年齢については女性とは逆に正に有意となっており,年齢が高まるほど,結婚希望割合が高くなることわかる。ただし,2乗項が負に有意なので,その高くなる度合いは年齢が高まるほど小さくなる。外見などの自己評価は,持病ありだけが有意で,持病がある場合に結婚希望割合が低くなる。家事については食事が正に有意であり,結婚希望割合を増している。習慣については,喫煙習慣がある場合や浮気癖がある場合に結婚希望割合が小さくなっている。もっとも女性と同様,浪費癖がある場合に結婚希望が大きくなっている。これも,供給側の要因というよりは,浪費癖があるために,予算制約を高めようと,結婚のニーズが高まる需要側の要因と見るべきかもしれない。
職種に関しては,正規職員をベンチマークとしているが,自営業・家族従事者・内職,無職・家事が正に有意となっている。つまり,正規職員よりも結婚希望が高いということである。この点は,結婚の実現可能性ではなく,結婚が必要だという本人の意識面が強く出ているものと解釈できる。また,所得や資産などは全て有意ではない。労働時間や通勤時間は正に有意となっ【125頁】 ており,労働時間制約仮説と非整合的な結果となっている。これも,忙しいために結婚が必要であるという意識が強く出ているのではないかと思われる。職場の制度は在宅勤務のみ負に有意となっている。両親については父親が非正規や無職の場合には結婚希望割合が低くなるが,母親の場合には逆に非正規や無職の場合に高くなる。父親には所得面の援助,母親には子育ての援助を期待しているからだろうか。18歳時点で片親もくしは両親がいないと結婚希望割合は低くなる。親との同居は有意ではない。兄弟の数は負に有意である。相手への希望については,年齢や身長が正に有意である。希望子供数が多いほど,結婚希望割合が高まる。
交際環境については,職場や学校以外で独身の異性と会う機会が多い場合や,毎日顔を合わせる独身の異性数が多いと結婚希望割合は低くなるが,独身の異性と親しくなるきっかけが多い場合には結婚希望割合が高くなっており,女性とは異なる傾向である。その他,結婚相談所を利用する場合に結婚希望割合が高くなっているが,お見合いをする場合に低くなっている。後者はやや解釈が難しいところである。
本稿は,筆者らが独自に実施した「結婚観に関するアンケート」の独身者データを用いて,鈴木(2024a,b,c)による結婚の決定要因や交際相手の有無の分析と同様のフレームワークで,結婚希望の有無の決定要因について分析を行った。
記述統計ベースで各変数を比較した際には,結婚希望の有無に関する傾向は,男女間で類似していたが,実際に,全ての変数を同時にコントロールしたプロビットモデルによる推定を行うと,有意な変数は男女間でかなり異なる結果となった。
特徴的な点をいくつかピックアップすると,まず,女性については肥満の場合に,結婚希望割合が大きく低下する一方,男性については外見面の影響はなかった。習慣については,男女とも浪費癖がある場合に,結婚希望割合が高くなっており,結婚による予算制約拡大を期待しているとも解釈できる。職種については,女性の場合には,正規職員の方が非正規職員や自営業・家族従事者・内職と比べて,結婚希望割合が高いのに対し,男性の場合は正規・非正規の差はなく,むしろ,自営業・家族従事者・内職や無職・家事,学生の場合に正規職員を上回る結婚希望割合となった。男性については,結婚の実現可能性ではなく,結婚のニーズが意識面に強く出ているものと解釈できる。また,女性については所得や実物資産が多いと結婚希望割合が低くなり,機会費用仮説と整合的な部分があるが,男性については所得や資産に影響を受けていない。さらに,男性の場合には,労働制約仮説とは異なり,労働時間や通勤時間が長いほど結婚希望割合が高くなっている。これは,忙しいほど結婚による規模の利益や分業の利益に期待しているとの解釈が可能である。希望子供数は男女とも顕著に結婚希望割合を増す。パラサイトシングル仮説と関連する親との同居については,男女とも結婚希望割合に影響していない。
これらの結果は,鈴木(2024a,b,c)による結婚の決定要因や結婚を考えている交際相手がいる要因とも異なっており,総じて,結婚の実現可能性よりは,本人の結婚需要,結婚の必要性がより顕著に出る傾向にあると言えそうである。いずれにせよ,結婚意識を高めるための施策を考える際,こうした分析結果がエビデンスとして役立つことを期待したい。
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