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学習院大学法科大学院の授業をご紹介します

教育内容・教員紹介 - Visit Our Classes

※授業の名称は原則として出席者の履修当時のもので、現在は名称が異なる場合があります。

民事訴訟法長谷部 由起子 教授

民事訴訟の手続の流れを把握し、基本的な事項に関する理解を深める。

◎授業の概要

 「民事訴訟法」は、第1学期に開講される必修科目であり、2年生を対象としています。
 訴えの提起に始まり、審理を経て、判決の確定にいたるまでの手続をイメージしながら、実務において必要とされる基本的な事項についての理解を深めることを目指しています。
 第1回は、民事訴訟の基本原則を扱います。導入として、民事訴訟の意義や適用される法規である実体法と手続法の関係、手続法である民事訴訟法の独特の考え方について解説した後、職権進行主義、処分権主義、弁論主義の内容を確認していきます。
 第2回には、訴えの提起から第一回口頭弁論期日までに焦点をあてて、訴状を提出するべき裁判所はどこか(管轄)、訴状に記載すべき事項にはどのようなものがあるか、裁判所や被告はどのような準備を行うのか、といった問題を検討します。資料として配布する訴状や準備書面のサンプルが参考になると思います。
 第3回以降は、まず、訴訟の主体に関する問題として、当事者の概念と当事者の確定、当事者能力・訴訟能力・訴訟上の代理を扱った後、訴訟における審理の対象である訴訟上の請求(訴訟物)、訴状の送達と訴訟係属、訴訟要件の内容とその審理、口頭弁論とその準備、判決の確定と確定判決の効力 などについて考察していきます。

◎学習の仕方

 この授業を受講されるみなさんは、入学前の学習や未修コース1年目の民事訴訟法の授業を通じて、民事訴訟法の基本を一通り勉強していることと思います。そうではあっても、民事訴訟法はむずかしい、どのように学習したらよいのかよくわからないなど、苦手意識をもっている人もおられるかもしれません。
 たしかに、手続法である民事訴訟法については、民法などの実体法とは異なる考え方が必要になることもあります。たとえば、手続保障、手続の透明性、訴訟経済がそれにあたります。これらをはじめとする重要な概念については、教科書の記述を読んだうえで、授業で確認してください。そして、これらが問題になる具体的な事例としてはどのようなものがあるのか、関連する民事訴訟法の条文はなにかを考えてください。検討した結果を自分の文章でまとめておけば、理解が進むと思います。

◎さらに実力をつけるために

 民事訴訟法の理解を深めるためには、判例の学習も必要です。判例研究は、2年後期の「民事訴訟法演習1」および3年前期の「民事訴訟法演習2」で行いますが、その際に前提となるのは、民事訴訟法の基本的事項を確実に理解していることです。また、民事裁判が実際にどのように進んでいくかは、3年前期の「民事模擬裁判」で体験することができますが、そのときにも、民事訴訟法に関する知識と理解が役立ちます。2年または3年で「エクスターンシップ」を履修すると、民事訴訟法に関する知識が実務でどのように活かされているかがわかり、モチベーションが高まると思います。
 「民事訴訟法」の授業で学んだ内容が、これらの応用的な授業を通じてさらに発展し、将来の実務家としての活躍につながるように期待しています。

〈法科大学院ガイドVol.13 掲載〉

家族法大村 敦志 教授

最近の家族法改正を素材に、家族法の基礎と先端を学ぶ。

  • Q1認知はいつからいつまで可能か?
  • Q2夫の精子を使った死後懐胎につき、嫡出推定が働かないのはなぜか?
◎学習の観点から見た家族法改

 民法の後2編(親族編・相続編)は「家族法」と呼ばれています。第2次大戦後の1947年に日本国憲法が施行されたのに合わせて、それまでの家父長主義的な家族法が改正されて「個人の尊厳と両性の本質的平等」(民法2条)を基本原理とする新しい家族法が誕生しました。この1947年改正民法(昭和民法)の家族法は戦後40年にわたって日本人の家族観をリードしてきましたが、1990年代に入ると時代遅れになり始めました。
 そのため、1990年代半ばから改正作業が目立つようになります。婚姻法(1996年改正要綱)・実親子法(2003年中間試案)など初期の改正は実現には至りませんでしたが、2010年代に入ってからは、2011年に親権法改正、2018年に成年年齢引下げと相続法改正、2019年に特別養子法改正が実現しました。現在も、二つの改正作業(実親子法改正と親権法を中心とした改正)が進行中です。1996年の改正要綱や2003年の中間試案も、違憲判決に基づく法改正や議員立法によって一部は実現しており、一部は進行中の改正の中で実現する可能性があります。
 進行中の二つの改正が終わると、家族法現代化のための見直しは一通りは完了します。このことは、過去30年の立法の経緯をたどれば、戦後日本の家族法が何を前提として出発し、何が変りつつあるのかがわかるということを意味しています。ですから、今日において家族法を学ぶのに、家族法改正は絶好の教材になります。

◎授業の進め方

 そこで2020年度の家族法の授業では、毎回、婚姻なら婚姻、実親子なら実親子につき、基礎知識をまとめた予習資料(資料1の「Ⅰ基本」の部分に対応)を事前に配布し、これを読んでいることを前提に、オンライン授業では立法によって改正がなされた( 試みられた)問題(資料1の「Ⅱ先端」の部分に対応)を取り上げて、時には質疑応答を交えながら、 立ち入った解説をしました。
 2020年度は毎回小テストも行いました。資料2に掲げたように、課題は毎回2題で、Q1は予習資料を読めば簡単に解けるもの、Q2は法改正についての解説を聞いた上で考えてもらうもの、を用意しました。いずれも、制度の基本的な考え方を意識するのに役立つものを選ぶようにしています。
 資料2に掲げた問題を少しだけ考えてみましょう。Q2から始めます。夫の精子を使った人工授精によって生まれた子の父親は誰か。卒然と考えると、それは夫だろう、と思うかもしれません。確かに夫が生きている間に生まれれば、子を産んだ母の夫が子の父であるとされます。これが嫡出推定です(民法772条1項)。しかし、Q2の場合には母には夫はいません。人工授精には夫の精子が使われているのですが、夫はすでに死んでしまっているからです。ただし、夫の死後300日以内に生まれた子には嫡出推定が及びます。夫の生前に懐胎したと推定されるからです( 民772条2項)。では、嫡出推定が及ばないとすると、生まれた子の父はどうなるのでしょうか。
 ここでQ1が関係してきます。結婚していない母が生んだ子の父親は認知(民法779条)によって定まります。父が自ら進んで認知しない場合には、子が認知の訴えを起こすこともできます(民法787条本文)。この認知の訴えは今日では夫の死後3年までは可能です(民法787条ただし書き)。そうだとすると、Q2の場合にも、生まれた子は認知の訴えを起こすことができそうです。ところが最判平18・9・4民集60-7-2563は、この訴えを認めませんでした。この判決には賛否両論があります(2003年の中間試案をまとめるにあたっては、このような判例の考え方が有力でしたが、事件が裁判所に係属していたため明記はされていません)。オンライン授業ではそのあたりを解説しますが、ここで問題になるのは嫡出推定ではなく認知である、というのは議論の共通の前提です。Q2はこの点に関する理解を改めて確認するものです。

◎授業の資料

 私の授業では事前に、毎回の授業内容の概略を示す「目次」(資料1)を配付し、その中で授業で取り上げる参考判例(目次中の*)を示しています。2020年度はオンライン同時配信の授業を行ったため、前に説明した予習資料とともに小テストの「課題」(資料2)も配付しました。

資料1(授業の目次の一例)

第4回 実子1― 2003年改正案

  • Ⅰ 基本― 親子法の概観
    • 1 二つの実親子関係― 婚姻と親子の関係
    • 2 嫡出子(772条~778条)
      • (1)嫡出推定
      • (2)嫡出否認の訴え
    • 3 非嫡出子(779条~789条)
      • (1)認知
      • (2)認知の訴え
      *最判昭37・4・27民集16-7-1247百選31
  • Ⅱ 先端― 生殖補助医療と親子法
    • 1 議論の発端
      • (1)新旧の生殖補助技術― 人工授精と体外受精
      • (2)親子法上の問題
      • (3)根津事件
    • 2 議論の展開
      • (1)二つの審議会― 厚生科学審議会と法制審議会
      • (2)法制審での議論
      • (3)その後の状況
      *最判平18・9・4民集60-7-2563百選34
      *最決平19・3・23民集61-2-619百選35

資料2(小テストの課題の一例)

  • Q1:認知はいつからいつまで可能か。
    (子の出生前にも可能か、また、父の死亡後に も可能か)
    (50字~100字程度)
  • Q2:夫の精子を使った死後懐胎につき、嫡出推定が働かないのはなぜか。
    (50字~100字程度)

〈法科大学院ガイドVol.15 掲載〉

刑事模擬裁判髙橋 健 教授

体験を通じて裁判手続を具体的にイメージし、
刑法・刑事訴訟法の理解を深める。

 刑事模擬裁判は、3年生の必修科目として開講される法律実務基礎科目で、裁判官・検察官・弁護士の実務家教員3名が担当します。刑事手続は「捜査」と「公判」に大別されますが、刑事模擬裁判の授業では、「公判」の部分を扱います。履修生は、裁判官・検察官・弁護人のいずれかの役割を担当し、模擬裁判用記録に基づいて、主張・立証活動、訴訟指揮等の様々な訴訟活動を行うという体験をします。
 2年生までに刑法・刑事訴訟法を学んできたと思いますが、模擬裁判で訴訟活動を行う際に、それまでに身に付けた法律の知識や理論を総動員することになります。模擬ではあるものの、予定されている手続を教員が途中で止めることはないので、手続はリアルタイムで進行していきます。眼前に繰り広げられる手続進行を肌で感じながら、身に付けた知識や理論をどう使うのか具体的なイメージを持つことができ、机上の知識や理論をより一層理解することにつながるはずです。ただ、難しく考えすぎる必要はありません。あくまで模擬裁判です。失敗することを恐れずに、とにかく体験してみるという姿勢が大事です。是非、主体的・積極的に取り組んでください。本学では、刑事系の法律実務基礎科目として、実務家教員3名が担当する刑事実務が開講され、実務において、知識や理論がどのように実践されているか、個々の訴訟活動がどの条文に基づいているかなどをさらに学修します。刑事模擬裁判と刑事実務の両者の授業を通じて理論と実践を学修・体験することで、刑法・刑事訴訟法の理解を深めるという意味があるので、刑事模擬裁判での実践・体験は刑事実務の授業に取り組む際にも前提となるといえます。
 授業では、教科書として司法研修所刑事裁判教官室『プラクティス刑事裁判』及び『プロシーディングス刑事裁判』を使用し、公判前整理手続、公判手続(冒頭手続、証人尋問を含む証拠調べ、論告・弁論、判決宣告)を行います。模擬裁判を始める前に、授業内で刑事裁判に係るDVD視聴を行うので、各自の役割に応じた訴訟活動として何をしたらいいか分からないということにはなりませんが、履修生は、役割に応じた十分な準備をする必要があります。例えば、証人尋問に臨む際に、検察官・弁護人役は「質問者はどんな質問をするだろう。」「もし質問者が不適法な質問をしたら、すぐに異議を出そう。」などと考えて異議理由を条文で確認する必要がありますし、当事者から異議が出た場合は裁判所が適切に対処しなければならないので、裁判官役も予め異議理由を確認しておく必要があります。証人尋問は原則としてやり直しができないので、各自緊張感をもって裁判に臨む必要があります(2020年度は、遠隔授業の下で証人尋問等を行いましたが、リアルタイムでの進行に変わりがないためか、模擬法廷が使用できなくとも、履修者はかなり緊張した面持ちで訴訟活動を行っていました)。各訴訟活動の条文上の根拠は極めて重要であり、これを丁寧に確認することで、これまで学んできた理論がどのように手続の中で実践されているかを改めて理解できますから、授業で指摘した条文は必ず確認するようにしてください。

 予定されている手続は履修生のみで進行してもらいますが、区切りのいいところで、教員が、実務の視点を踏まえつつ、良い点、不十分な点等を講評で指摘します。十分な準備をしたつもりでも不十分だと指摘されるかもしれませんが、初めて主体的に訴訟活動をする履修生が大半でしょうから、気にする必要はありません。失敗を恐れずに思い切り取り組んでください。
 刑事模擬裁判での体験を踏まえて具体的に手続をイメージすると、事案や手続の意味も理解しやすくなり、知識が定着すると思います。刑事模擬裁判に積極的に取り組むことで、刑事法を得意科目としてください。

〈法科大学院ガイドVol.15 掲載〉

法学入門演習1安村 勉 教授

条文、判例、基本書を読むイロハ、
法的思考方法に則った文章を書くイロハを学ぶ。

 法科大学院制度が始まった当初から、法学未修者教育は、標準修業年限での修了率や司法試験合格率の低さなどの問題を抱えてきました。得てして法学未修者は、司法試験のレベルもわからずに毎日の授業の予習に追われ、学習方法や学習目標に戸惑いや不安を覚えていることが多い、ということが指摘されてきたところです。多くの法科大学院と同様に、学習院大学法科大学院でも、こうした問題に対応すべく、研究者教員による「法学入門講義」や「法学入門演習」を正規カリキュラムとして未修者向けに開設したり、司法修習を終えて弁護士等になった法科大学院修了生による学習支援を正規カリキュラムとは別に行ったりなどしてきました。今般、令和3年2月に公表された中教審の法科大学院等特別委員会の報告書では、修了生や法律実務家等による学習支援をカリキュラムの一環として組織的・機能的に行われるようさらに促進すべきであるとされています。
 学習院大学法科大学院では、今回のカリキュラム改正で、従来の「法学入門演習」(1単位)を改変して、「法学入門演習1」と「法学入門演習2」に分けるとともに単位を倍増し(各2単位)、さらに前期に開設する「法学入門演習1」に従来の修了生による学習支援を取り込んで、正規カリキュラム化することにしました。
 「法学入門演習1」についてご紹介しましょう。専任の研究者教員1名と非常勤の修了生3名が担当します。非常勤の3名は、主として憲法、民法、刑法の学習を支援します。専任教員はコーディネーター役で、すべての授業に参加します。未修者には、法律をまったく学んだことがない人から、法学部を出て入るけれど特に今まで司法試験の勉強をしてこなかった人など、様々な人がいます。ところが、法科大学院では、1年第1学期の初めから、憲法、民法、刑法を中心とした法律専門科目の授業が一律かつ一斉に開始されます。ですから、面くらい、戸惑う人がいても、ちっともおかしくありません。学修面や生活面だけでなく、精神的にもきつくなることもあるでしょう。こうした戸惑いを少しでも和らげることが、この授業の目的です。法文書や条文を読む手助けをしたり、法的な議論のやり方などについてアドバイスをしたりする必要があるかもしれません。また、憲法、民法や刑法の正課の授業で使っている教科書を、授業とは少し異なった視点から読んでみることも有益かもしれません。さらには、答案の書き方がわからない、という声を、今までもよく耳にしました。したがって、法律の文書を書く学習も必要でしょう。  ところで、生活面、精神的な支援ということであれば、学部から直接2年生に既修者として入学してきた学生にも、必要があるかもしれません。また、本学のように、行政法と会社法について既修者認定をしていない法科大学院では、それらの科目についての学修面での支援も必要とされるかもしれません。実際、従来の修了生による学習支援は、2年生に対しても行われてきました。そこで、この科目は、1年生だけでなく2年生も選択できるようにしました。今年度の履修状況を見て、次年度に改善を図っていく予定です。

 一応、シラバスには、15回分の授業内容が明記されています。しかし、受講生がどのようなバックグラウンドを持っているかによって重点の置き方が変わってもおかしくありません。受講生が日々の正課授業で抱く疑問等に答えていく中で、授業内容を柔軟に変更することもあるでしょう。さらには、法科大学院教授会等の要請があれば、それがこの科目を担当する専任教員を通じて他の3名の非常勤の先生にも伝えられ、新たな教育内容が加わるかもしれません。2年生の履修者がいる場合には、その者達に対応した論述指導等が必要になるかもしれません。新たな試みの授業です。走りながら内容を考えていきたい、そのような姿勢で、初年度は授業に臨もうと思っています。

〈法科大学院ガイドVol.15 掲載〉

法学入門演習2法務研究科教授 小松 達成

「読める」「分かる」「書ける」をめざして

 私たちは、東日本大震災、多発する災害、新型コロナウイルス感染症と、社会的に大きな試練に遭遇してきました。この世界は常に変化しており、この後どのような変化が生じるか分かりません。様々な状況の変化に対応するためには、多様な価値観、経験、バックグラウンドを有する人を尊重していくことが必要です。多様な人が存在し、受け入れられている状態は、あらゆる企業活動のみならず、社会全体にとって有益です。このような多様性と包摂(ダイバーシティとインクルージョン)は、持続可能な社会を築く基礎となっています(例えば、令和2年12月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画において「各法科大学院における女性法曹輩出のための取組を促す」こととされています。)。
 法学未修者は、法学部以外の出身者や社会人経験者等を念頭に置いており、まさにダイバーシティとインクルージョンを実現する貴重な人たちです。法曹だけでなく、法科大学院教育の持続可能性の観点からも、法学未修者教育の充実が望まれています。
 令和3年2月に公表された中央教育審議会の法科大学院等特別委員会の報告書では、「法学未修者の1年次教育について、学修者本位の教育の実現という視点から、積極的に充実させる必要があるのではないか」と問題提起されているところですが、教育という点にとどまらず、ダイバーシティとインクルージョンの観点からもかかる問題提起は重要です。
 法学未修者に関してダイバーシティとインクルージョンを図るうえでの障害は、やはり法律学特有の専門性にあるといえます。法学未修者は、いきなり法律学の世界に足を踏み入れて、条文や教科書を読み、さらには判例を読み、それらを理解して、法文書を書くようにと言われますが、戸惑ってしまうこともあるように思います。
 そこで、「法学入門演習2」では、法学未修者教育の充実に応えるべく、受講者から疑問点やニーズを聞き取りながら、基礎知識の定着ができるよう講義内容を考えています。このあたりは、本学の特徴である少人数教育を活かしています。
 講義が開始して1ヶ月が経過したところですが、法学未修者は、日々の講義に備えて条文と教科書を読むことで精一杯であることもあり、判例が読めない、判例が分からないので法文書も書けない(アウトプットが苦手)というあたりに悩みがあると見受けられました。
 「法学入門演習2」では、弁護士と元裁判官の教員の2名が担当し、判例の読み方を丁寧に解説する方針としました。私からは、受講者に対して事前にICTを活用して資料を配布し、判例のどの事実に着目して読むべきかを分かるようにして、判例を読んでから講義に臨んでもらっています。こうすることで、判例の読み方、考え方が身につくよう配慮しています。さらに、判例を理解したうえで法文書を作成してもらい、「判例を分かっているので書ける」と実感してもらうようにしました。「法学入門演習2」の講義を通じて、判例が読めない、判例が分からないので法文書も書けないという負のスパイラルから脱却して、法学未修者であっても、「読める」「分かる」「書ける」という上昇気流に乗っていけることを目指しています。

 「法学入門演習2」は、弁護士と元裁判官の教員の2名が担当していますので、弁護士と裁判官のそれぞれの視点からコメントがあります。それによって受講者の理解を深めることができているのではないでしょうか。
 新たな試みの授業ですから、引き続き、未修者の方のニーズに応えつつ、講義の内容を考えていきたいです。本年度は、たまたま受講者の多くが女性でした。本講義の受講者から、多くの女性法曹が輩出されることを願っています。

〈法科大学院ガイドVol.16 掲載〉

法学入門演習1・法学演習法務研究科教授 安村 勉

「法学演習」(2年次配当科目)の新設

 司法試験合格率の低さ等、未修者教育の問題が指摘され、各法科大学院にはそれへの取り組みが求められてきました。本年2月に公表された中央教育審議会の法科大学院等特別委員会の報告書では、その取り組みを更に促進すべきであるとされています。同報告書によりますと、多様なバックグラウンドを有する人々が法曹を目指して集い学べる法科大学院の実現に向け、今一度アクセルを踏み込むことが必要だとの認識のもと、法学未修者教育の充実策の一つとして、修了生である弁護士等による学習支援の促進が求められています。しかもこの取り組みは、法科大学院の学修支援カリキュラムの一環として組織的・機能的に行うべきだ、というのです。
 学習院大学法科大学院でも、こうした取り組みとして、本年度から、カリキュラムを改正しました。そのなかで新設された「法学入門演習1」では、従来行われてきた修了生弁護士等による学修支援を正規カリキュラム化しました。ただ、前号の法科大学院ガイドVOL.15にも紹介しましたように、2年生に対しても行われてきた従来の学修支援を引き継いだため、この科目は未修入学の1年生だけでなく既修入学の2年生も履修できるようにしました。しかし、2年生が何人くらい履修するかわかりません。実際の履修状況を見て、1年生と合同クラスでいいのか、授業内容も同じでいいのかなど、再検討することになるかもしれない、として新学期を迎えたのです。
 そうしたところ、必修科目ではなく選択科目にもかかわらず、1年生は入学者全員が正規履修し、既修入学の2年生についても、ほとんどが正規にまたは聴講生として履修することになったのです。そこで、急遽、1年生クラスと2年生クラスを分離することにしました。1年生クラスは、当初に予定したとおり、修了生3名と専任教員の私の4名で担当し、内容も、条文や判決文の構成、法的三段論法等の概説からはじめて、実際の憲法判例や民法の事案にそれらをあてはめて各受講生が起案し、修了生講師の先生が講評する、ということを行いました。これに対して2年生クラスについては、司法試験予備試験問題(憲、民、商、刑)を教材に、法律文の書き方や、各科目における解答の仕方の違いなどを学ぶことにしました。しかし、実はここまで受講生が多いとは予想していなかったものですから、講師サイドでも、授業の準備期間が必要でした。そこで、講師の先生の準備が整うまでの最初の4回は、専任教員の私が、専門の刑事訴訟法についての事例問題を用いて、実際に各受講生に答案を書いてもらうことにより、法律解釈の方法を学習することにしました。
 ところで、今年度の経験は、カリキュラムに組織的・機能的に活かされなくてはなりません。法科大学院では、来年度からのカリキュラムを変更することにしました。1年生向けには今年度と同様に「法学入門演習1」を開設し、「法学入門演習2」と連携を取りつつ、今年度の内容をより充実させます。これに対して、2年生向けには「法学演習」という科目を新設します。今年度の経験に照らすと、本学法科大学院には既修者コースに入学したものの、学部時代に司法試験に特化した勉強をしてこなかったために、答案の書き方、法律文の書き方に不安を持っている学生が多いことがわかりました。そこで、この新設科目を通じて、こうした不安の解消に努めていこうというわけです。具体的には、憲民刑を中心に、今年度以上に答案を「書く」ということに重点を置いた授業を行う予定です。

 なお、来年度の既修者コース入学者からは、3年次に司法試験を受験することが可能になります。そのためには、2年次で司法試験選択科目を履修しておく必要があり、年間履修上限単位数との関係で「法学演習」を履修できません。ただ、3年次に受験しようという学生は、学部時代から司法試験に向けて勉強してきた学生でしょうから、この科目は不要でしょう。

〈法科大学院ガイドVol.16 掲載〉

刑事司法政策論吉野 秀保 教授

 「刑事司法」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 裁判所の法廷を思い浮かべる方が多いでしょうか。警察官や検察官による捜査を思い浮かべる方もいるでしょうか。いずれも正解です。しかし、果たしてそれだけでしょうか?
 次の事例を考えてみましょう。
 被告人は、窃盗前科6犯の50歳男性。年齢だけでも就職が難しいのに、前科のせいで更に就職口がない。当然収入もなく、前刑を仮釈放されたものの、その仮釈放中に、書店で漫画本を万引きし、それを古書店で売却して生活費を捻出するようになった。被告人は、複数の窃盗罪で起訴され、公判期日における被告人質問で、「働く気持ちはあるのに、それを受け入れない社会が悪い」と主張した。
 さて、もしあなたが検察官なら、どのような情状を論告で指摘し、どのような求刑をすべきでしょうか? もしあなたが弁護人なら、どのような弁護活動を行い、どのような弁論をすべきでしょうか? もしあなたが裁判官なら、どのような判決を言い渡すべきでしょうか?
 例えば、被告人は、「働く気持ちはあるのに、それを受け入れない社会が悪い」と主張していますが、この主張をどう評価するか。つまり、被告人が犯行に至った経緯や動機に酌量すべき事情があると評価できるか考えてみましょう。
 本件は仮釈放中の犯行ですが、仮釈放中は保護観察に付されます(更生保護法第40条)。では、保護観察とはどのようなもので、どのような人たちが関わっているのでしょうか?就業支援などはあるのでしょうか?これらのことを知ると、保護観察官や保護司さんに被告人の生活状況や就職活動の状況を確認してみようという、答えを導くためのヒントを見つけることができます。
 確認の結果、被告人は保護観察官や保護司の助言や支援を無視して就職活動を一切せず毎日遊んでいたことが明らかになるかもしれませんし、逆に、必死に就職活動を行っていたけれど、どれもうまくいかなかったことが明らかになるかもしれません。このような事情が判明すると、被告人の犯行に至る経緯や動機に酌量すべき事情があるかどうか、評価がしやすくなりますよね。
 また、被告人には多数の同種前科があり、前刑の仮釈放中の犯行ですから、判決では懲役刑が選択され、実刑判決が言い渡される可能性が高い事案です。
 では、「懲役刑」とは、具体的にどのような刑罰でしょうか?受刑者はどのような生活を送るのでしょうか? どのような問題点が指摘されているのでしょうか?受刑中に資格を取ることはできるのでしょうか?これらのことを知らずに、刑を求めること、それを減じるべき主張をすること、刑を宣告することは妥当ではないでしょう。
 前置きが長くなってしまいましたが、刑事司法政策論においては、このような刑の執行などを含めた、犯罪が発生してから犯罪者が再び社会に戻るまでの一連の事象について、法制度やその効果に加え、実際の犯罪動向・実情を踏まえ、刑事実体法や手続法を中心とする立法論、刑事司法制度の運用の実体・問題点の把握、それに対する今後の課題等を検討します。
 具体的には、①刑事法に関する立法作業の基本知識を習得し、刑事司法制度改革の中心である裁判員制度や被害者保護、矯正や更生保護の運用の実態等についての知識を深めるために講義を行うほか、②履修している学生各自が関心を持った刑事法に関する分野について、発表・討論を行っています。
 ①については、私が講義を行うほか、実際に刑事法の立法作業に関わった法務省刑事局付検事や、保護観察に付された犯罪者等の処遇を担ってきた保護観察官をゲストに招いて、経験談などを交えながら講義をしていただいたりしています。

 ②については、毎年様々なテーマについて学生が発表・討論を行っています。発表テーマは、例を挙げると、裁判員制度、被害者保護制度、刑の一部執行猶予制度、PFI刑務所の拡大とその問題点、死刑制度、取調べの可視化、検死・司法解剖制度、DNA型証拠、検察審査会制度、弁護士偏在、法テラス、暴力団犯罪、国際犯罪・捜査共助、サイバー犯罪、組織的犯罪への効果的対応、家族間の犯罪の防止と対応、交通犯罪の厳罰化、外国人犯罪、少年犯罪とマスコミ報道、矯正処遇と医療、法教育と犯罪防止、薬物犯罪、受刑者の社会復帰促進プログラム、ヘイトスピーチ規制法と罰則、著作権法違反の非親告罪化、拘禁刑の創設など、多岐にわたっています。

〈法科大学院ガイドVol.17 掲載〉