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写真:秋山隆彦 教授(化学科)
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第3回 「挑戦し、極める」

秋山 隆彦 教授
秋山 隆彦 教授(化学科)
化学の新領域を開拓し、体系化する

平成22年度に理学部の教育・研究施設として建設された地下1階、地上9階の南7号館は、学習院大学キャンパス南側の緑の多い、落ち着いた一角に位置する。先輩達が築いた伝統の上に、 更なる可能性をここから構築する思いで秋山隆彦研究室は、朝早くから夜遅くまで研究を行っている。飯高先生に続いて、化学科の秋山先生の研究室を訪問した。 秋山先生は、国内外の有機化学で最も注目されている研究分野の一つ “有機触媒”を開拓し、その研究に日夜取り組んでいらっしゃる日本で最も期待される研究者の一人である。
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「化学の新領域を開拓し、体系化する」

Q. 秋山先生、はじめまして。この南7号館、私が在籍していた時は当然ありませんでした。 外の光がたっぷり差し込んで、自習している学生の皆さんの声も聞こえてきて、とても明るい雰囲気ですね。
A. はい、神田さんが在籍されていた当時に比べると研究環境も格段に良くなりました。また、緑も多く、公園の中の勉強施設といったら大げさでしょうか。すばらしい研究環境ですよ。

Q. 在籍中に化学科にも友達が出来ましたが、彼らが見たら羨ましがります。
それでは、秋山先生の研究について教えて頂きたいのですが、 先生の研究テーマは簡単に説明して頂くとどんな内容なのでしょうか?
A. 一言でいうと「有機触媒化学」「合成化学」の研究です。

Q. 「有機触媒化学」・・・。初めてお聞きした言葉です。
A. 平成22年度ノーベル化学賞は、「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」でした。触媒を用いると、非常に穏やかな反応条件で、一見不可能な反応が起きます。 鈴木、根岸、Heck先生方は、パラジウム触媒を用いて、これまで合成が難しいとされていた炭素同士を自在に結びつける画期的な技術(クロスカップリング)を開発し、 創薬やハイテク関連物質合成で大変重要な研究をされました。しかし、これまでの触媒反応は、パラジウム触媒でも分かるように、パラジウムという金属錯体が必ず関与します。 従って反応後の金属錯体の処理など注意を払わなければなりません。場合により、金属錯体は害になることもあります。金属錯体を用いずに触媒反応が出来れば、これまでと違う触媒反応を開拓できます。

Q. 新しい反応をさせる事ができるなんて、夢のようですね。その新しい触媒を発見したきっかけは、何だったでしょうか。 ノーベル賞受賞の鈴木先生が言われる「セレンディピティー(重要なものを偶然に発見する能力・才能)」でしょうか?
A. 多少そういう要素もあるかもしれませんが、私の場合必ずしも突発的に見つかったわけではないですね。 私が学習院に赴任した際、今後の研究の方向性として「シンプルだけれど有用な研究を行いたい」ということを考えていました。 そこで注目したのが「プロトン(H+)の化学です」。先ほど言ったように、いろいろな反応を行うにあたり金属を用いるのが“定番”でしたが、金属触媒は取扱いに注意を要するものが多い。 また、反応の後に残る金属が問題になることがあります。もし、取扱いやすく、安価なプロトン酸でいろいろな反応が進行すれば、より良い手法になり得るのではないかと考えたわけです。 それを進めていく過程で、非常にいい触媒に出会えたのは、自分としても幸運でした。

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Q. ただ、そういった発想が実際に考え通りうまくいくかどうか確かめるのは、本当に大変な作業だったのではありませんか?
A. 新しい考えに基づき、化合物を合成するわけですから、実際に実験を行う学生も大変ですし、またその実験を指導する私ども教員も大変でした。 朝早くから、夜遅くまで、鬼気迫る、そういう形容がぴったりの意気込みで実験・研究を行ってくれました。

2010年度の研究室メンバー
2010秋山研メンバー
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Q. 学生の皆さんも一生懸命だったんですね。目的の化合物が合成出来た時、学生さんたちも嬉しかったでしょうね。
A. 朝、学校に行くと、学生が私の部屋の前に待ってくれて、先生、ついに目的化合物を合成出来ました、と真っ先に報告してくれました。私も嬉しくなり、その日は、合成した学生と祝杯をあげました。

Q. きっとその学生さんたちにとっても、一生の自信と思い出になりますね!その後、その研究に関して何かありましたか?
A. 新しい研究を行うと、同じような事を考え付く人がいるとよく聞きます。私達の研究を外国の雑誌に発表した1カ月後に、同じような研究が発表されました。非常に驚きました。

Q. では、その先生の新しい有機触媒を用いた研究成果を、分かりやすく説明して頂けますか?
A. 私が開発した触媒は、金属を含まない、有機化合物だけから合成した「キラルリン酸触媒」というものです。医薬・農薬等の医薬品の多くは、右手と左手のように似ているけども異なる、いわゆる、鏡合わせの関係にあるものがある。 実はこの違いが、薬として使う際に大きな問題になることがあります。極端な話をすれば、“右手”は薬として作用するが、“左手”は逆に毒性を示す、といいたことがたまに出てくるわけです。 そうなってくると化学的に薬として働く“右手”のみ作れないかと思い立つ。そこで活躍するのが、我々の開発した「キラルリン酸触媒」です。これを使う事で、いろいろな反応において“右手”のみを上手く選択的に作る事が出来るようになりました。

Q. なるほど、大学の研究室で薬を作ることが出来るなんて、素晴らしいですね。将来的に学習院発の薬剤を作ることも出来たりして!?
A. そうなればいいですね、ただ、研究室で合成したものがそのまま薬剤として使用できるわけではないので、すぐという訳にはいきませんが…。

Q. 楽しみです!新しい発見に果敢に挑戦される秋山先生が、学生さんたちにのぞむ事は何でしょうか?
A. 「夢」を持って、持続的に努力する事でしょうか。私ども化学に携わる者は、よく先輩から教えられたことですが、先輩の実験技術を盗めとか、先生の後ろ姿をよく見て学びなさい、と言われました。

Q. 職人さんが、ひたすら先輩のあとについて伝統の技を自力で受け継いでいこうとする姿を想像します。
A. そうかもしれませんね。

Q. 今日はどうもありがとうございました。先生の今後のより一層の研究の発展を、お祈りいたします。
A. こちらこそ、ありがとうございました。
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関連リンク集

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秋山教授の略歴

略歴
1980年 東京大学理学部卒業(化学科)
1982年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(化学専攻)
1985年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(化学専攻)
1985年 塩野義製薬葛ホ務
1988年 愛媛大学理学部化学科助手
1994年 学習院大学理学部助教授(化学科)
1997年〜 学習院大学理学部教授(化学科)

日本化学会学術賞、有機合成化学協会第一三共・創薬有機科学賞を受賞。
日本プロセス化学会理事。