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熱力学における幾何学: 情報幾何学と最適輸送理論

伊藤 創祐

本講演では主に確率過程における熱力学(stochastic thermodynamics)での, 二種類の幾何学的な描像を紹介する. 一つは情報幾何学[1]による方法であり, 時間に関するFisher情報量によって確率的なダイナミクスの速度を測る方法である. もう一つは最適輸送理論[2]による方法であり, 確率分布の最適な輸送の指標であるL^2-Wasserstein距離から分布間の距離を測る方法である. これらの幾何学的な視点により, 近年盛んに議論されている熱力学のトレードオフ関係周りの数理を整理し, さらに新たに緩和のスピードに関する法則性や, エントロピー生成に関する新たな分解を議論することが可能であることを, 論文[3,4]でのFokker-Planck方程式における研究に焦点を絞って紹介する. また本講演で扱わない情報幾何学に関する内容については, [5]の解説で概観を示しているのでここで紹介させていただきたい.

[1] S-I. Amari, Information geometry and its applications. (Springer, 2016).
[2] C. Villani, Optimal transport: old and new. (Springer, 2008)
[3] S. Ito and A. Dechant, Phys. Rev. X 10, 021056 (2020).
[4] M. Nakazato and S. Ito, arXiv:2103.00503. (2021).
[5] 伊藤創祐,物理学と情報幾何学―ゆらぐ系の熱力学の視点から(pdf ファイル),数理科学 2020年11月号: