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進化的次元縮減:適応と進化のマクロ現象論

金子邦彦

生命システム、具体的には細胞は、膨大な成分を有し、その状態空間はきわめて高次元になる。しかし、熱力学にならって、安定した状態、ただし平衡ではなく定常的に成長する細胞状態に対象を限ることでマクロな現象論が探れないだろうか。その試みの中で、適応と進化に関して、以下のような普遍法則が見出された。

(1)様々な外界の環境変化に対し、細胞内の膨大な成分の変化は互いに比例していて、その比例係数は細胞成長速度というマクロ変数で表される。
(2)以上は短期的適応変化であるが、これと、長期的進化による成分(表現型)変化の間にも共通比例変化則が成り立つ。
(3)各成分の揺らぎに関しても、ノイズによる短時間変化での分散と遺伝子変異による長時間スケールでの分散の間に全成分にわたって比例関係が成り立つ。

これらの法則を「進化的安定性により状態変化が低次元へと圧縮される」という仮説で導く。その妥当性を大腸菌進化実験、細胞モデルの計算機シミュレーション、現象論的理論で確証するとともに、関連するいくつかの話題を議論する。

参考文献:金子邦彦、古澤力、日本物理学会誌74(2019)137;金子邦彦、普遍生物学(東大出版会)2019