近年、世界的に自由貿易に反対する機運が高まってきていることに伴い、貿易政策に対する世論がどのように形成されるのかという長年の学術的論争が、再び活気付いてきている。本セミナーでは、ダートマス大学三井冠教授である堀内勇作氏が、アメリカで行った無作為実験に基づく分析結果を報告した。堀内氏と共同研究者が検証したのは、正しくない情報と、(経済的な)脅威を掻き立てるような情報が、アメリカ人の政策態度に与える影響である。事例として用いたのは、「中国は現在も為替操作を行なっている」という、アメリカ当局が正しくないとしている誤情報(ミス・インフォーメッション)と、「中国との貿易がアメリカ人の雇用を奪っている」という情報である。分析の結果、どちらの情報も自由貿易に対する支持態度に有意な影響を与えてないことが分かった。一方、誤情報を訂正するメッセージは、脅威を掻き立てる情報が伴わない場合においてのみ、自由貿易に対する支持を高めることが分かった。これらの結果は、政治的リーダーが意図的に事実に反する発言をしたり、脅威を掻き立てるような発言をしたりすることは、有権者の政策支持態度に影響を与えてないことを意味する。一方、「フェークニュース」のような誤った情報を正そうとするファクト・チェッカーなどによる努力が、脅威を掻き立てる情報が流布している場合にはあまり有効でないことも示唆している。
政策評価・公会計研究会(報告)
日本政治・政策研究コース
講演者 | 堀内勇作氏 |
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事例報告者 | 福元健太郎 先生 |
開催日 | 2019年1月9日(水) |
主催者 | 福元健太郎 先生 |