公開: 2012年1月5日 / 最終更新日: 2012年2月15日
2011 年 1 月 31 日から 2 月 2 日にかけて、大阪大学で、
非平衡熱・統計力学(というものがありうるとして、そこへ向かう一つのアプローチへの)入門というタイトルの集中講義をおこなった。 このページは、その記録である。
約束通り、手書きの講義ノートをスキャンしたファイルを公開します。 判読が難しい部分もあるし、それ以上に、説明が最低限なので、これだけでしっかりと理解するのは無理だと思います。 あくまで、講義を聴いた人のための参考という位置づけです。
講義の三日目の午前中、カレントの線形応答公式の話をしたところで、間違いがありました。
講義の途中でおかしいと気づき「あれ? よくわからないけれど、ここはきっとゼロだ。違ったらまた後で言います」と宣言して勝手に第一項目をゼロと置いたのは間違いでした。 あの日は考えるのを忘れていて、東京に戻って考えていたら、やっぱりゼロではなかった。 離散時間形式のちょっと面倒なところでした。
ちゃんとやってみると、同時刻の相関の 2 分の 1 が出てくるのですが、これは、全体を時間の和で書くと、実はきれいだということがわかります。 ともかく、こっちの訂正ノートにまとめておきました。講義に出られた方が以外には意味不明だと思います。
詰めが甘くて申し訳ありませんでした。 他にも間違いがあったら、また訂正します。
2月1日の講義時間が変更になりました。
大阪大学で以下のような集中講義をおこないます。
興味をお持ちの方のご参加を歓迎します(と、ぼくが書いていいのかどうかしらないけど、歓迎します)。
講師
田崎晴明
日時
2012 年 1 月 31 日(火)午後 〜 2 月 2 日(木)
1 月 31 日 3, 4限 (13:00-14:30, 14:40-16:10)
2 月 1 日 2, 3, 4 限 (10:30-12:00, 13:00-14:30, 14:40-16:10)
2 月 2 日 2, 3, 4限 (10:30-12:00, 13:00-14:30, 14:40-16:10)
場所
大阪大学理学部 D303 教室
(アクセスについては、こちらの web ページを参照)
講義の内容
平衡系の熱力学はマクロな系の平衡状態の性質・平衡状態間の遷移についての美しい普遍的な法則をまとめた体系であり、平衡系の統計力学はミクロな力学とマクロな熱力学を結びつける方法論だった。
平衡から離れた領域で、熱力学・統計力学に相当する普遍的な理論体系を見出すことは現代物理学の重要な未解決課題である。
普遍的な体系を模索するための一つの方法は、(適度に一般的な)具体的な動力学のモデルから出発して、モデルの特殊性に依存しない(と期待される)構造や関係式を探すことだろう。
ここでは、もっとも簡単な動力学モデルである離散時間・離散状態のマルコフ連鎖を舞台にして、普遍的な関係の導出を詳しく解説する。
平衡環境下で外部から操作される系について、熱力学第二法則、Jarzynski 等式などを導き、非平衡環境の系について、線形応答関係式や「ゆらぎの定理」を導く。さらに、非平衡環境下で外部から操作される系についての非平衡熱力学関係式を議論する。
時間に余裕があれば、これらの議論(の一部)がどのように量子系に拡張されるかも見る(←これは厳しいかも)。
平衡熱力学、平衡統計力学、量子力学、線形代数についての標準的な知識は仮定する。 非平衡物理やマルコフ連鎖についての予備知識は要求せず全て基礎から解説する。
これは、非平衡熱・統計力学の構築という(存在しないかもしれない)ゴールに向かうためのいくつかの試みを丁寧に解説しようという(かなり地味で技術的な)講義である。 なんせマルコフ連鎖の収束定理や断熱定理の証明などもちゃんとやるという感じの講義になる。 学んですぐに「役に立つ」ことが知りたいとか、完成した美しい結果を堪能したいと思う人にはおすすめできないことを断っておく。