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公開: 2011年8月3日 / 最終更新日: 2012年3月14日
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放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説

ベクレル・グレイ・シーベルト

ある程度の理系の素養のある人(たとえば、J = N m がエネルギーの単位だと知っているレベルの理系の人)を対象に、放射線にかかわる基本単位についてまとめておこう。

このページの目次

ベクレル

グレイ

シーベルト

ベクレル

本文の「シーベルトとかベクレルってなに? 」の「放射性物質の量:ベクレル」で「ベクレルとは放射性物質の量」と書いた。 ただし、量を決めるのに、重さや体積ではなく、放射線がどれくらい出ているかを用いるのだ。 あるいは、ベクレルで測っているのは「放射能」だという言ってもいいだろう。

[Bq vs Bq]

だから、異なった核種でも、ベクレルで測った量が等しければ、そこから出てくる放射線は(ごく大ざっぱには)同程度ということになる(右の図は、ベクレルで測った量が等しい、別種の放射性物質のイメージ)。

以下、正確な定義をみよう。


同種類の不安定な原子核を含む放射性物質があるとする。 本文の「半減期について」で説明したように、不安定な原子核は、純粋に確率的に、一定の割合で崩壊して別の原子核に姿を変えていく。 そこで、短い時間のあいだに何個の原子核が崩壊したかが、放射性物質の「量」の一つの目安になる。 放射性物質を検出する際には、一定の時間のあいだに物質から出てくる放射線を測るわけだから、この目安は実際の測定ともマッチしている。

通常は「短い時間」として 1 秒を選ぶ。 そして、

\(P\) ベクレルの放射性物質があれば、\(1\) 秒間に平均で \(P\) 個の原子核が崩壊する
として、ベクレル(Bq)という単位を定義する。
ベクレルは放射性物質の量を量る単位だから、たとえばモルのような通常の物質量の単位に換算することもできる。 ミニ解説「半減期の数学・ベクレルとモル数」で説明(そして導出)するように、1 Bq に対応するモル数は、 \[ n_\mathrm{B}\simeq2.40\times10^{-24}\times\tau \] と表わされる。ここで \(\tau\) はこの放射性物質の半減期を秒の単位で表わしたものだ。

1 モルの物質の質量をグラムで測ると質量数 \(A\) に等しい。 よって、質量数 \(A\) の放射性の原子核 1 Bq の質量 \(m_\mathrm{B}\) (単位はグラム)は、 \[ m_\mathrm{B}\simeq 2.40\times10^{-24}\times\tau\times A \] となる。

セシウム 137(質量数は \(A=137\) で、半減期は 30 年だから秒で表わすと \(\tau\simeq30\times365\times24\times60^2\simeq9.46\times10^8\))なら、\(m_\mathrm{B}\simeq3.1\times10^{-13}\ \rm g\) である。ピコグラムのオーダーだ。 たとえば、2012 年 3 月以前の牛肉中の放射性セシウムの暫定基準は 1 kg あたり 500 Bq だが、これはわずか \(1.6\times10^{-10}\rm\ g\) に相当することになる(実際はセシウム 134 もあるので、質量はさらに小さい)。 あるいは、福島第一原子力発電所から放出されたセシウム 137 の総量は(まだ確定していないが)\(1.5\times10^{16}\rm\ Bq\) 程度と推測されているが、これも質量にすれば 5 kg 程度である(もちろん、だからと言って影響が小さいと言っているわけではない。放射性物質というのは、ごくごく少量でもきわめて甚大な影響をもつということだ)。

放出量の推測は、Geoff Brumfiel, "Fallout forensics hike radiation toll", Nature 478, 435-436 (2011) (webページ)から引用した。

一方、放射性のカリウム 40 の半減期は 12 億 8 千万年である。 よって \(A=40\), \(\tau\simeq 1.28\times10^9\times365\times24\times60^2\simeq4.0\times10^{16}\) を代入すると、\(m_\mathrm{B}\simeq3.9\times10^{-6}\rm\ g\) となる。 半減期が長いことを反映して、これはマイクログラムのオーダーになる。

これをもとに計算すれば、4000 Bq のセシウム 137 は \(1.2\times10^{-9}\rm\ g\)であり、4000 Bq のカリウム 40 は \(0.015\rm\ g\) であることがわかる。 本文でも述べたように、両者の質量は桁違いだが、出てくる放射線はほぼ同等であることになる。 実は、4000 Bq というのは成人の体内にあるカリウム 40 の総量である。 このようなカリウム 40 とセシウム 137 の(ベクレルで測った)比較は、食品による内部被ばくの問題を考える際に重要な役割を果たす。 詳しくは、解説「食品中のセシウムによる内部被ばくについて考えるために」を見よ。


ベクレルは放射性物質の量をはかる単位だが、物質(正確には核種)を一つに決めたときに正確な意味を持つ量だということに注意しよう。 異なった核種の量を比較する際にもベクレルを使うことができるが、それはあくまで大ざっぱな比較である。

複数の核種があるとき、ベクレルではかった量を単純に合計してもおおよその目安程度の意味しかない(実際にはセシウム 134 とセシウム 137 を合計した量をベクレルで表わすことが多いのだが、まあ、それも目安と思っておけばいいだろう)。


現在では、放射性物質の量はもっぱらベクレルで表わされるが、以前はキュリー(curie, Ci と書く)という単位が用いられた。 有名なキュリー夫妻にちなんでつけられた名前だ。 少し古い文献ではキュリーが用いられているので、(たとえば、この解説を書くにあたっても)キュリーをベクレルに換算することはしばしばある。

キュリーとベクレルは、正確に、 \[ \rm1\ Ci = 3.7\times 10^{10}\ Bq \] で結ばれると定義されている。

たとえば、野菜のキュウリには天然でも 1 kg あたり 6 Bq 程度の放射性カリウムが含まれているそうだが、これをキュリーに換算すると、1 kg あたり約 160 ピコキュリー(160 pCi)ということになる。いや、ただちょっと換算してみたかっただけです。

グレイ

次はグレイ(Gy)。 これは、吸収線量を測る単位だ。

[Gy]

左の図は、空間のある領域に放射線(たとえばガンマ線)の一様な流れのある状況を表わしている。 この放射線の流れのなかに、同じ物質でできた物体がいくつか置かれている。 物体の大きさや形状はまちまちだが、物体の厚み(放射線の進行方向に沿って測った長さ)はどの場合にも十分に小さく、放射線はほとんどスカスカと物体を通り抜けていくと仮定する。

このような状況で、すべての物体が同じ時間だけ放射線にさらされていたとする。 放射線のほとんどは物体を貫通すると仮定したが、一部は物体に吸収されてエネルギーを与える。 このとき、

  物体が吸収したエネルギーの総量は、物体の質量に比例する
ことがわかっている。 物体の形にも、放射線に対してどういう向きに置くかにも関係なく、ただ質量に比例するのである。

[Gy] 「物体の向きに関係ない」ということについては、右の図のように考えるといい。 同じ直方体の物体を二通りの置き方で放射線の流れの中に置いたとする。 物体を貫く放射線の数(実際に通過する粒子(ガンマ線なら光子)の個数と思っていい)は、明らかに、物体を縦に置いたとき(図の上側)の方が多い。 一方、放射線が物体に与えるエネルギーは、放射線が物体の中を通過する距離に比例する。 すると、通過する距離は物体を横に置いたとき(図の下側)の方が長いので、けっきょく二つの効果がちょうど打ち消し合って、どちらの置き方でも物体が吸収するエネルギーは等しいことになる。

「エネルギーが質量に比例する」ことは、まあ、「物体が大きければいっぱい吸収する」と思えば、だいたいなっとくがいくだろう。 もう少し詳しくいうと、放射線が反応する相手(ガンマ線なら電子)の総数が物質の質量に(ほぼ)比例するというのが、その理由だ。

より一般の形状の物体についての考え方、また、質量に比例すると考えるべきより深い理由に興味のある方は、本格的な解説である「ベクレルからシーベルトへ(pdf ファイル)」をご覧いただきたい。


吸収したエネルギーが物体の質量に比例するので、
(吸収線量) = (物体が吸収したエネルギー)÷(物体の質量)
という量は、物体の質量にも形状にも依存しないことになる。

逆の言い方をすれば、この空間で一定の時間の放射線を浴びた際の吸収線量がわかっていれば、

(物体が吸収したエネルギー)=(吸収線量)×(物体の質量)
によって、任意の物体が吸収するエネルギーが求められるということでもある。

吸収線量は放射線の被ばくを考える際に基本となる量である。


通常、エネルギーの単位は J(ジュール)で、質量の単位は kg(キログラム)なので、吸収線量の単位は J/kg (ジュール毎キログラム)となる。 ただし、吸収線量を考える際には、J/kg のことを Gy(グレイ)と書くことになっている。

上で書いたことを単位をはっきりさせて書き直しておこう。 ある場所である時間のあいだ放射線を浴びた際の吸収線量が \( H\rm\ Gy\) だったとする。 すると、質量が \(m\rm\ kg\) の物体が吸収したエネルギーは \( mH\ \rm J\) になる。


空間のある場所で、一定の強さの放射線が持続していたとしよう。 このときには、吸収線量は明らかに時間に比例して大きくなっていく。 そこで、単位時間あたりの吸収線量である吸収線量率を考えることになる。もう少しちゃんと書けば、
(吸収線量率) = (吸収線量)÷(時間)
である。

当然ながら、吸収線量率の単位は Gy/s (グレイ毎秒)や Gy/h (グレイ毎時)である。


最初に書いたように、吸収線量や吸収線量率が定数として厳密に意味をもつのは、放射線が物体を「ほぼスカスカに」通り抜ける場合である。 また、吸収線量や吸収線量率は、単に放射線の強さだけでなく、吸収する物体の種類に依存する(ただし、外部被ばくで重要な 1 MeV 程度のエネルギーのガンマ線の場合、吸収線量や吸収線量率は物質の種類にはあまり依存しないことが知られている)。

よって、人体のように複雑で大きめの物体の被ばくを考える際には、吸収線量は組織や場所に依存することになる。

シーベルト

最後は、お馴染みのシーベルト (Sv) である。 しかし、お馴染みの割には、これがもっともややこしい。 様々な量が同じシーベルトの単位で表されているのだ。

以下では重要な量についてだけ、ごく大ざっぱに見ておこう。


シーベルトで測る量の代表は実効線量 (effective dose) である。

実効線量とは、体が被ばくで受けた(かもしれない)ダメージの総量の目安である。 内部被ばくについても、外部被ばくについても実効線量を用い、両者の合計を最終的な実効線量とする。 実効線量の概念はなかなかややこしいので、詳しく知りたい方のために、解説「実効線量とは何か」を用意した。

ガンマ線による外部被ばくのみを扱う際には、実効線量は、ごく大ざっぱには、吸収線量に等しいと考えてよい。 よって、この場合にはシーベルト (Sv) はグレイ (Gy = J/kg) と同じものである。 ただし、アルファ線や中性子線の被ばくを考えるときには、実効線量と吸収線量は大きく異なり、シーベルトどグレイはまったく別のものになる。


シーベルトで測る量として、何種類かの線量当量 (dose equivalent) がある。 線量当量は、外部被ばくを実測するために用いられる実用量で、定義はかなり面倒である(こういった量の定義を担当しているのは ICRU という ICRP とは別の団体)。 本格的に放射線防護に関わる人以外は、線量当量については「実効線量の目安を与える量」程度に思っていればいいだろう(実は、ぼくの理解もそのレベル)。 普通、(安全を守るため)線量当量は実効線量よりも大きめになるように作られている。 空間の線量についての周辺線量当量、個々人の被ばくについての個人線量当量などが定義されている。

線量計を用いて環境の放射線の「強さ」を測ると μSv/h の単位で表される線量率が得られる。 たとえば、0.03 μSv/h の環境に 2 時間いれば、0.06 μSv の被ばくという具合に、線量率を積算して得られる「被ばく量」がだいたい周辺線量当量だと思っていいようだ(これは線量計の校正にもよるのだろうが)。


これに対して、内部被ばくによる実効線量の評価はずっと難しい。

解説「内部被ばくのリスク評価について」で詳しく説明するが、実効線量係数という換算係数を用いて、体内に取り込んだ放射性物質の量から実効線量を推測する方法がとられている。 体内に取り込んだ放射性物質の量は、食品や飲料中の放射性物質の量を測ったり、あるいは、ホール・ボディー・カウンターという装置で体から出るガンマ線を測ったりすることで推測する。


等価線量 (equivalent dose) という量の単位もシーベルトだ。

等価線量というのは、人間の体のなかの個々の組織や臓器が受けた線量の目安なのだが、なかなか面倒な量だ。 放射線防護の仕組みについてある程度は詳しく知りたいという人以外は、等価線量のことは気にしないのが得策だと思う。

詳しく知りたい方は、 解説「実効線量とは何か」、「内部被ばくのリスク評価について」をご覧ください。


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