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公開: 2011年6月18日 / 最終更新日: 2016年3月3日

放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説

シーベルトとかベクレルってなに?

このページの目次

大ざっぱなこと

放射性物質の量:ベクレル

ダメージの大きさ:シーベルト、ミリシーベルト、マイクロシーベルト

放射線の強さ:シーベルト毎時

グレイ (Gy) というのも見かけるけど

「シーベルト毎時」と「シーベルト」の混乱

普段はどれくらい被ばくしているか?

内部被ばくもシーベルト(でも、ややこしい)

大ざっぱなこと

[punch] 「○○シーベルト」というのは、ざっくり言うと、被ばくによって体全体が受けたかもしれないダメージの合計の目安だ。

被ばくにはいろいろな種類があるのだけれど、いろいろなのを全部ひっくるめて「○○シーベルト」と(受けたかもしれない)ダメージを表わすことになっている。 たとえて言えば、「今までに受けたパンチの総数」みたいな感じだ。 【注意】ただし、これはあくまで説明をわかりやすくするための「たとえ」なので、信じすぎてはいけない。 とくに放射線の体への害を考えるときには、パンチのたとえではわからないことばかりになる(右の写真に深い意味はない。なんとなく wikipedia より転載、Jonny Smeds による)(【理系の人向きの注意】実は、シーベルトは体が単位質量あたり吸収したエネルギーに(だいたい)等しい。そういう意味ではパンチのたとえはかなり不適切。全身の組織(内蔵も含む!)にくまなくパンチを浴びる感じか?)

「○○ベクレル」というのは、放射性物質の量を表わしている。

地面にどれくらい放射性物質がくっついているか、食品にどれくらい放射性物質が混ざっているかなどを話すときにだいじになってくる単位だ。

この解説を 2011 年 6 月に公開したときには「シーベルトが大事で、ベクレルもできればついでに知っておこう」という感じのことは書いたのだけれど、その後、食品による内部被ばくの問題にも大きな関心が集まってきたし、やっぱりベクレルも重要だぞと思うようになった。 なお、ここで説明する放射線の色々な単位についてもっと詳しく知りたい方は、付属の(ちょっと理系向けの)解説「ベクレル・グレイ・シーベルト」をどうぞ。

放射性物質の量:ベクレル

ベクレルは「放射性物質の量」を測るための単位。

ただし、重さや体積でなく「どれくらいの放射線が出てくるか」を用いて測る(なので、「放射能」を測っているという言い方をする人もいる)。 定義は、「○○ベクレルの放射性物質があると、1 秒間に平均で○○回の原子核の崩壊がある」ということなのだが、これは(物理を専門にやった人以外には)なかなかピンと来ないだろう。

種類のちがう放射性物質でも、ベクレルで測った量が同じなら、そこから出てくる放射線はだいたい同じくらいだと考えていい。 これが、ベクレルを使う利点の一つだ。

ベクレルで測った量が等しくても、重さはぜんぜん違うということも多い。 たとえば、4000 ベクレルのカリウム 40 の重さ(質量)はだいたい 0.015 グラムだが、4000 ベクレルのセシウム 137 の重さは 1.2 × 10-9 グラム、つまり、0.0000000012 グラムしかない!(詳しい計算は理系向け解説「ベクレル・グレイ・シーベルト」にあります。) それでも、これらの量のカリウム 40 とセシウム 137 から出てくる放射線はだいたい同じとみなしていいのだ。

(おまけ:このカリウムとセシウムの比較は食品による内部被ばくを考えるときにすごく重要になってくる。詳しいことは、解説「食品中のセシウムによる内部被ばくについて考えるために」をどうぞ。)

「ベクレルが直感的にわかりにくい」という声を聞くけれど、その通りだと思う。 ミクロな世界で原子核の崩壊が何回あったかなんて、ぼくらにはまったくピンと来ないのが当たり前だ。 たぶん、これには徐々に慣れていくしかやり方はなくて、食品中の放射性セシウムの量とか、地面にくっついている放射性セシウムの量なんかを地道に調べ行くのがいいんじゃないだろうか?

ダメージの大きさ:シーベルト、ミリシーベルト、マイクロシーベルト

続いて、(やっぱりもっとも大事な)シーベルト。「体全体へのダメージの合計」の目安をはかる単位だ。

この単位は、外部被ばくのときにも、内部被ばくのときにも用いる。 実はものすごく色々な量が同じ「シーベルト」の単位で表わされていて(深く理解しようとすると)けっこうややこしいのだが、ともかく「ダメージはシーベルトで測る」と思っていればいい(詳しく知りたい人への注意:シーベルトで測っている「体全体へのダメージ」は実効線量と呼ばれる。実効線量については、まさに「実効線量とは何か」という題のちょと難しめの詳しい解説がある)。

実は、1 シーベルト(1 Sv)というのは、体のダメージとしてはかなり大きい。 一気に1 シーベルト(1 Sv)の被ばくをすると、死にはしないけど、病気みたいになって吐いたりする。

そこで、もっと弱いダメージも表わせるように、千分の 1 シーベルト(0.001 Sv)のことを、1 ミリシーベルト(1 mSv)と呼ぶ。 長さの単位で、千分の 1 メートル(0.001 m)のことを 1 ミリメートル(1 mm)と呼ぶのと同じ(普通は「ミリメートル」を略して「ミリ」というけど)。

体へのダメージの合計を考えるときは、ミリシーベルトを単位にするのが普通だ。 ミリシーベルトに親しんでおくのがいい。

もっと小さいダメージを表わす単位もある。 百万分の 1 シーベルト(0.000001 Sv)、つまり、千分の 1 ミリシーベルト(0.001 mSv)のことを、1 マイクロシーベルト(1 μSv)と呼ぶ。

念のため、ちょっと教科書っぽいが、まとめておく。必要なときに思い出せば十分だ。 同じことを次のように書いてもいい。

放射線の強さ:シーベルト毎時

長くなるけれど、ここからも重要。よく耳にする「毎時○○シーベルト」について。

これは、ある場所のある時刻での、放射線の強さを表わしている。 最近、いろいろなところで、サーベイメーターとかガイガーカウンターで計っていて、 「○○では毎時△△マイクロシーベルトという高い線量が観測された」と話題になっているのが、これだ。 これは、外部被ばくだけに関係する。

再びパンチのたとえを使う。 たとえば、(考えたくないことだが)ぼくが 30 秒に一発の割合でパンチを受け続けているとしよう。つまり、1 分間に 2 発。 もしこのままの割合で 1 時間パンチを浴び続ければ、120 発のパンチを受けることになる。 これを「1 時間あたり 120 発」のパンチ、あるいは「毎時 120 発」のパンチと言うことにする。

注意したいのは、「毎時 120 発」といっても、別にちょうど 1 時間パンチを受け続ける必要はないということ。 「毎時 120 発」のを 20 分受ければ、40 発のパンチ。2時間半受ければ 300 発のパンチ(いやな「たとえ」だなあ)といった具合。

放射線のときの考えも同じ。 ある場所のある時刻での放射線の強さが「毎時 1 シーベルト」だというのは、(放射線の強さが変わらないとして)「その場所に 1 時間いれば 1 シーベルトの放射線を被ばくする」という意味(これは、外部被ばく)。 「毎時 1 シーベルト」のことを、「1 時間あたり 1 シーベルト」とか「1 シーベルト毎時」とか「1 シーベルト/時」とか「1 Sv/h」と書く(「/時」というのは「『時』という単位で割る」という意味。最後のは、「1 シーベルト・パー・アワー」と読む。h は hour の頭文字で「時間」のこと)。 あと、理系の人だと「1 Sv h-1」とかも書く(h-1というのが「h で割る」という意味)。 いろいろな言い方があってややこしい。

1 シーベルト(1 Sv)がかなり大きなダメージなのだから、「毎時 1 シーベルト」というのは相当につよい放射線だ。1 時間あびれば 1 シーベルト(1 Sv)のダメージだから病気のようになり、数時間あびれば数シーベルトのダメージで多くの人が死ぬ。

人が住んでいるような場所での放射線の強さをはかるには、「毎時○○マイクロシーベルト」を使うことが多い。

場所によっては、地面が放射性物質で汚染されたために、毎時 3 マイクロシーベルト(3 μSv/時)といった放射線量が観測されていた(「今、話題になっている「高い放射線量」って?」で説明した)。 こういうところに 1 時間いれば 3 マイクロシーベルト(3 μSv)の被ばく。 1 日(つまり、24 時間)いれば、3 × 24 = 72 だから、72 マイクロシーベルト(72 μSv)の被ばくになる。 さらに、この強さの放射線を 1 年間あび続けるとすると、72 マイクロシーベルト(72 μSv)を 365 倍して、約 2 万 6 千マイクロシーベルト (26000 μSv)つまり 26 ミリシーベルト(26 mSv)の被ばくになる。 「放射線って体に悪いの?」で書くけれど、これは(直ちに健康に害はないけれど)けっこう高い。

あと、放射線量を「ナノシーベルト毎時(nSv/h)」という単位で表わすこともある。 「ナノ (n)」というのは、「マイクロ (μ)」のさらに 1000 分の 1 を表わすためのものなので、

という関係がある。

グレイ (Gy) というのも見かけるけど

グレイ (Gy) というのも、ものが浴びた放射線の量を表わす単位だが、(ベータ線とガンマ線については)シーベルト(Sv)と同じものなので、外部被ばくの議論をする際にはシーベルト (Sv) とまったく同じものだと考えていい(中性子線やアルファ線では、グレイとシーベルトは異なる)。

放射線のつよさを表わす、「マイクログレイ毎時(μGy/h)」や「ナノグレイ毎時 (nGy/h)」 などについても同じ。 たとえば、

という具合に「マイクロシーベルト毎時」に換算できる。 放射線量の測定結果を「ナノグレイ毎時」で表わしているページもあるけれど、落ち着いて、
 40 nGy/h = (40 ÷ 1000) μSv/h = 0.04 μSv/h
と換算すればいい。

「シーベルト毎時」と「シーベルト」の混乱

事故がおきてすぐのころ、ほとんどのマスコミが「毎時○○シーベルト」というべきところを単に「○○シーベルト」と言っていた。 これは「科学的に不正確」というだけじゃなくて、本当に混乱する。

つい「パンチのたとえ」に戻ってしまうけど、 「1 時間に 10 発の割合のパンチ」と「10 発のパンチ」では全然ちがう。 「1 時間に 10 発の割合のパンチ」を 30 分うけたなら 5 発だけど、1 日うけていたら 240 発だ!

実際、こういう風に混乱したまま、

今の放射線量は 20 マイクロシーベルト(←本当は「毎時 20 マイクロシーベルト」だ!)です。 胸部レントゲンの放射線量である 100 マイクロシーベルトの 5 分の 1 なので健康に影響ありません。
みたいなことをお役所なんかが書いていた(これは、ぼくが作った例です)。 わかってなかったのかもしれないけれど、こういうのはひどい。 毎時 20 マイクロシーベルトなんだから、5 時間以上浴びていれば 100 マイクロシーベルトは軽く越してしまう!

あと、レントゲンをとるのは病気を発見するためで、これは本人のためになる。 でも、原発から飛んできた放射性物質の放射線をあびても、本人には何の得もない。 だから、事故による被ばくとレントゲン検診を比べて安心させようという考えそのものがちょっとおかしいのだ。

普段はどれくらい被ばくしているか?

[natural exposure] 原子力発電所などとはまったく関係ないところでも、ぼくらは日々、放射線を浴びている。

空からは宇宙線と呼ばれる放射線が降り注いでいるし、地面に天然の放射性物質が混ざっているので地面からも放射線がでている。 これらを浴びるのが、天然の外部被ばくになる。 また、ぼくらが吸い込む空気にも微量の放射性物質が含まれているし、食べ物のなかにも天然の放射性物質がある。 これらを取り込むことで、天然の内部被ばくをすることになる。

このようにして、人が自然に被ばくする放射線の量は、世界全体で平均して 1 年間に 2.4 ミリシーベルト(2.4 mSv)とされている。 ただし、放射線の量は地域によって大きく違う。平均よりもたくさん被ばくする場所もあるし、ちょっとしか被ばくしない場所もある。 日本はどちらかというと少ないほうで、日本にいる人が自然の放射線を被曝する量は、平均で 1 年間に 1.4 ミリシーベルト(1.4 mSv)ということだ。 アメリカのデンバーというところでは自然の放射線だけで 1 年間に 4 ミリシーベルト(4 mSv)も被ばくするというし、世界にはもっと線量の高いところもあるらしい。

さらに、原発事故とは関係なく、人工の放射線を被曝することもちょくちょくある。

レントゲンの検診では、X 線という放射線を浴びるので少し被ばくする。 たとえば、胸の X 線の検診では一回にだいたい 0.1 から 0.3 ミリシーベルト(0.1 〜 0.3 mSv)被ばくするそうだ(と言っても、この場合は全身に被ばくするわけではないので事情は少し違う)。

他には、飛行機に乗ると高いところを飛ぶので、宇宙からの放射線をよぶんに浴びることになる。 フライトの高度とかいろいろな条件にもよるけれど、東京とニューヨークの往復で約 0.2 ミリシーベルト(0.2 mSv)被ばくすると言われている。 ぼくらとは関係ないけれど、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していると、宇宙からの放射線を 1 日に 1 ミリシーベルト(1 mSv)も被ばくするらしい。 一ヶ月滞在すれば 30 ミリシーベルト(30 mSv)だからこれはかなりの量だ。

放射線の被ばくはなるべく少ない方がいい。 自然からの放射線は仕方がないとして、それ以外の人工の放射線による被ばくはなるべく小さくすべきだ(放射線の体への影響は放射線の種類と強さで決まるので、人工の放射線だから特に体に悪いというわけではない。ただ、自然の放射線を異常に大量に被ばくする可能性はほぼないが、事故等があれば、人工の放射線を大量に被ばくする危険がある)。 ICRP(International Commission on Radiological Protection、国際放射線防護委員会)の勧告では、一般人が 1 年間に被ばくする人工の放射線は、1 ミリシーベルト(1 mSv)以下にすることになっている。

内部被ばくもシーベルト(でも、ややこしい)

放射性物質のチリを吸い込んだり、放射性物質の含まれるものを飲み食いして、体の内側から放射線を浴びるのが内部被ばくだ。

内部被ばくの場合には、放射性物質の種類によって被ばくのしかたが大きく変わってくる。 体に取り込まれてもすぐに体の外に出てしまう物質もあれば、体の一部になってずっと体内に残るような物質もある。 放射線の種類(アルファ線とかベータ線とかガンマ線とか)に応じて体への影響もさまざま。 要するに、内部被ばくの影響をしっかりと考えるのはかなり難しいことなのだ。

それでも、被ばくの害を考えやすいように、内部被ばくによって体が受ける可能性のあるダメージも、やはりシーベルトで表わすやり方決められている。 まず、体に取り込んだ放射性物質の量は、ベクレルという単位で表わす。 次に、それぞれの放射性物質について、「○○ベクレルを空気といっしょに吸い込んだら△△シーベルトのダメージ」、また、「○○ベクレルを飲み食いしたら××シーベルトのダメージ」という換算の仕方が(放射性物質の性質や体内でのふるまいに基づいて)決められているので、それをを使って、ダメージをシーベルトで表わす。 最後に、体内に入ってしまったいろいろな放射性物質による内部被ばくの影響と、体の外から浴びた外部被ばくの影響をぜんぶ足し合わせてシーベルトで表わし、被ばくの総量と考えるのだ。

これが、ぼくたちが口にする水や食品の安全基準を考える際にも使われている、内部被ばくの「公式」の取り扱い方なのである。

「公式」の換算のルールは、 ICRP(International Commission on Radiological Protection、国際放射線防護委員会)が「実効線量係数」として公表している。 集大成である ICRP publ. 72(1996 年発行)という出版物には、すべての核種についての年齢別の実効線量係数がまとめられている。

残念ながら ICRP publ. 72 の内容は無償公開されていないようだ(データの性格上、web で無償公開すべきだと思うのだが)。 簡易版ならば、たとえば緊急被ばく医療ポケットブック(web ページ)で見ることができる。

今回の事故でおなじみになったヨウ素とセシウムについて、ICRP publ. 72 のデータを抜粋しておこう(吸入摂取については、物質の形態が三種類想定されているが、係数がもっとも大きい物だけを抜粋する。7.2 × 10-8 のような数の表わし方については、解説「10 のべき乗 --- 大きい数と小さい数の表わし方」をどうぞ)。

【実効線量係数の例(吸入摂取)単位は Sv/Bq 】
核種 半減期 3 ヶ月 1 歳 5 歳 10 歳 15 歳 成人
ヨウ素 131 8.04 日 7.2 × 10-8 7.2 × 10-8 3.7 × 10-8 1.9 × 10-8 1.1 × 10-8 7.4 × 10-9
セシウム 134 2.06 年 1.1 × 10-8 7.3 × 10-9 5.2 × 10-9 5.3 × 10-9 6.3 × 10-9 6.6 × 10-9
セシウム 137 30.0 年 8.8 × 10-9 5.4 × 10-9 3.6 × 10-9 3.7 × 10-9 4.4 × 10-9 4.6 × 10-9

【実効線量係数の例(経口摂取)単位は Sv/Bq 】
核種 半減期 3 ヶ月 1 歳 5 歳 10 歳 15 歳 成人
ヨウ素 131 8.04 日 1.8 × 10-7 1.8 × 10-7 1.0 × 10-7 5.2 × 10-8 3.4 × 10-8 2.2 × 10-8
セシウム 134 2.06 年 2.6 × 10-8 1.6 × 10-8 1.3 × 10-8 1.4 × 10-8 1.9 × 10-8 1.9 × 10-8
セシウム 137 30.0 年 2.1 × 10-8 1.2 × 10-8 9.6 × 10-9 1.0 × 10-8 1.3 × 10-8 1.3 × 10-8

せっかくなので、換算の例をみておこう(こういう計算が嫌いな人はさらりと読み流してくださいね)。

3 月の放射性物質の放出の激しかった時期、場所によっては空気 1 立方メートルあたりにヨウ素 131 が 500 Bq(Bq はベクレルのこと)ほど含まれていたらしい(その後、空気中の放射性物質は格段に少なくなった)。 人は(1 日で平均して)1 時間あたり約 1 立方メートルの空気を呼吸するので、このような場所にいれば、1 時間あたり約 500 Bq のヨウ素 131 を吸入摂取することになる。 これを、上の表を使って Sv になおすと、成人なら
 500 × 7.4 × 10-9 Sv ≒ 3.7 × 10-6 Sv = 3.7 μSv
となる。 これが 1 時間だから、 3.7 μSv/h に相当する被ばくということになる。 これは、ずっと続いてもらっては困る被ばく量だ(続かなかったわけだが)。

さらに、子供ならヨウ素を吸い込んだ影響は大きくなる。 これは心配なところだが、実際の調査の結果、福島でのヨウ素の吸入による被ばくの影響はほとんどないだろうと考えられている。これについて詳しく知りたい方は、ミニ解説「甲状腺等価線量と実効線量について」と、さらに詳しい解説「2011 年 3 月の小児甲状腺被ばく調査について 」をご覧いただきたい。

例題をもう一つ。 2011年3月17日以降の飲料水の暫定基準では、1 リットルの飲料水に含まれる放射性物質の上限は、ヨウ素 131 が 300 Bq、放射性セシウムが 200 Bq である。 基準をぎりぎり満たす水を 1 日に 2 リットル飲むとすると、ヨウ素 131 を 600 Bq、セシウム 134 を 200 Bq 、セシウム 137 を 200 Bq 摂取することになる(セシウム 134 と 137 は半々とした)。 これによる成人の被ばく量は、やはり上の表から、
 600 × 2.2 × 10-8 + 200 × 1.9 × 10-8 + 200 × 1.3 × 10-8 Sv ≒ 20 μSv
と換算できる。

では、この換算の方法はどれくらい信頼していいものなのだろう?  飲料水や食品の安全の基本にかかわることだから(ものすごく)気になるところだ。 それだけに、マスコミやネットでも実にいろいろな意見を表明している人がいる。

まず言っておきたいこと。「公式の考えは放射性物質が体内で複雑にふるまうことを無視している。信じるな!」というような(こわい)批判をたまに目にするけれど、これはただの誤解だと思う。 当然だけど、ICRP だって上の表をつくるのに本気を出している。 実際、一つの放射性物質についての換算の係数を出すために、その物質が体の中をどのように動き、体のどの部分にどれくらいの時間とどまるのか、そして、その際に出てくる放射線が体のそれぞれの部分にどれくらいのダメージを与えるかを、詳しいモデルをつくって徹底的に調べているのだ。 もちろん、人間の体のなかでの物質の動きについての実際のデータも、できる限り使っている。

そういう意味で、上の換算表にもとづいて内部被ばくの「危なさ」を考えるやり方は、だいたいのところは信じていいだろうとぼくは思っている。 実は、ICRP 換算表の数値がどれくらい正確かは、考えている物質によってずいぶん違うだろうと言われている。 そして、ヨウ素やセシウムの場合は、この数値はどちらかというと信頼できるというのが専門家の意見だ。 これからの食品の汚染の「主役」は放射性セシウムになりそうだから、セシウムについての数値が信頼できそうというのはちょとうれしいニュースだ(もちろん、食品が汚染されたのはすごく悲しいけど)。

ただし、いくら詳しいモデルを作ったと言っても、やっぱり、人間の体の中でおきることをきちんと調べるのはものすごく難しい。 だから、「内部被ばくの危険性の評価は、外部被ばくに比べて、より不確かだ」という意見は正しいと思う。 もちろん、ちょっと内部被ばくしただけで、みんながひどいことになってバッタバッタと倒れたりするという可能性はない。 けれど、体のなかでのふるまいがよくわかっていない放射性物質に関して、今まで思っていたよりも大きめの内部被ばくの害がでてくるっていう可能性はいちおう考えておいたほうがいいかもしれない。

内部被ばくの話は、物理学者のぼくには難しくてなかなかよくわからなかった(今でもわからないことばかりだけど)。 それで、いろいろと文献を読んでぼくなりに勉強した。そうやって理解したことを付属の解説「内部被ばくのリスク評価について」にまとめておいたので、もっと詳しいこと(特に、ICRP の表をどうやって作るのか)を知りたい方は覗いてみてください。 また、食品中の放射性セシウムの量がどれくらい「多いか」を判断するための考え方を取り上げた解説「セシウムによる内部被ばくについて考えるために」もあります。

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