熱力学について
このページは99年3月のままで更新していません。
明らかに時代遅れの内容なので、ご注意下さい。
熱力学の定式化や教育法方については、ある種の思考停止が蔓延しているのではないかと感じる。
エントロピーの導入をとってみても、未だにほぼ全ての教科書が Clausius の100年以上前の論文の方法を繰り返し述べているが、はっきり言って、これは極めてわかりにくい論法である。
(加えて、相転移のある系(全ての現実の系!!)では、微分形式をもとにした定義には、本質的な問題がある。)
また、熱力学はわかりにくいとあきらめて、熱力学の定式化に統計力学を用いてしまうという方法さえあり、アメリカなどでは、主流になりつつさえある。
私は、これは思想的にも、また、技術的にも、様々な欠点をもったやり方であると信じている。(ここでは、説明しない。)
さらに、熱力学の教科書は、伝統的に「ハンドブック的な」論理性の低いスタイルで書かれていて、たとえば、力学や電磁気学の教科書と比べると明らかな違和感がある。
このような現状への強い不満と、Lieb-Yngvason の美しい公理的熱力学(preprint sever にリンク)への興奮を出発点にして、私は、自分なりに熱力学を再構成する試みを始めた。
幸い、近い問題意識を持った佐々真一さんが私よりも以前から同じような方向を模索されていた。
佐々さんをはじめとした多くの方から色々なことを学び、また、自分なりにも工夫を重ねて、私の熱力学の再構成のプランも徐々に形を取り始めた。
けっきょく、1997 年末から、これを書いている 1998 年 10 月までは、ほとんど全ての時間と能力を熱力学に費やすことになった。
このページでは、この熱力学の再構成のプロジェクトの進行状況等をおしらせする。
(3/20/99)
勝手ながら、「熱力学講義ノート」の配布を原則として打ち切りたいと思います。
ある意味で失敗作と断定したこと、残り部数が少なくなってきたこと、
また、「熱力学入門」の方の配布版を1、2カ月の内に作るつもりでいることが理由です。
(3/2/99)
先月末の卒業研究発表会の寸前に死にものぐるいで「入門」の草稿を完成させた。
目次を改訂、全体の構成を示したダイアグラムを追加。
そして、はっと気がつくと公私ともに非常に多くのことが一段落しているような気がする。
締め切りを過ぎているものが、(思い出せる範囲ですが)2個3個と数えられるというのは素晴らしいことだ。
(12/29/98)
本当に忙しくて、ほとんど仕事が進まない。
それでも、磁性体の章を追加。
(11/27/98)
このページの更新が止まっていて、申し訳ありません。
(今日、「入門」の方をいじりました。)
さぼっているのではなく、全力で「入門」の方と取り組んでいます。
徐々に一通りの完成が視野に入ってきました。
今日は、物理化学の人のところに押し掛けて、濃淡電池のことを教わりました。
ぼく自身は、化学好きな高校生にも及ばないほど化学には無知ですが、今回の「入門」は化学の人が見てもまともなものにする事にも心がけて書いています。
そういうわけですので、「講義ノート(前半)」からは、完全にピントがずれています。
いくつかの有益なコメントをいただいても、ちゃんとコメントできずにいるのは、そのためです。
訂正個所の更新もさぼっています。
すみません。
(10/27/98)
「講義ノート v. 2.4」に色々なご意見をいただき、とても参考になっています。
どんな事でも e-mail で教えて下さい。
また、「ノート届きました。」というご丁寧なお礼の e-mail をいくつかいただいておりますが、それに対する返事は原則として書いておりません。
(どこかで止めないと、終わりのないやりとりになってしまうので。)
ご丁寧なお礼を下さったみなさんに、失礼は承知の上で、ここで感謝させていただきます。
「入門」はイントロを書き終えて、6章までがほぼ完成。
内容的には、講義ノート(前半)と対応します。
このまま「入門」の方を先に進めて仕上げてしまおうという計画です。
(10/19/98)
宣伝させていただいた熱力学の講義ノートに多くの方に興味を示していただいて、とても喜んでいます。
郵便処理能力が低いので、徐々に送っていきますので、少しお待ち下さい。
先週末までに mail を下さったみなさんには、今週中くらいには発送するつもりでおります。
妹版「熱力学入門」の方も、6章までの最初のバージョンができました。
(週末も夜も働いているとしても、速すぎる。
実は、「講義ノート」の version 1 と version 2.4 から部分を抜き出し、修正を施したものがメインなので、ゼロから書くのとは訳が違うのであった。
もちろん、「入門」用に書き下ろした部分も少なくはない。)
(10/15/98) 講義ノートの前半 version 2.4 が印刷屋さんからどどーんと届きました。
講義を聴かれている方や、興味を持って下さる方にお配りする予定です。
ご希望の方は、e-mail (hal.tasaki@gakushuin.ac.jp) で郵送先を明記して私にご連絡下さい。
ただし、部数がなくなった場合には、ご容赦下さい。
(10/16/98) 調子にのって、姉妹版の「熱力学入門」(コードネーム ThermoDynamicsLite)の目次を公開。
熱力学入門(もっといい題はないかな?)
構想
私の講義にかなり忠実な熱力学の入門書。
元来、こちらを講義ノートと呼ぶべきであった。
Kelvin の原理(熱力学の第二法則)を Joule の原理(熱力学の第一法則)よりも先に導入するという画期的なプランを貫く。
教育的には、かなり有効だと思う。
現代的なエントロピーへの最短距離でもある。
様々なこだわりを捨てて、論理性とスマートさを徹底的に追及する。
絶対温度にもこだわらず、はじめから理想気体温度 T を用いる。
三重点などは扱えない形式だが、(T;V,N) による直感的な状態の表示を採用。
応用もできるだけ論じる。
論理の明解さを保ちながら、化学平衡や電池にまで及ぼうという大胆不敵な企て!
進行状況
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(2/23/99)
ああ、大変だった。
とにかく草稿が完成した。
下の目次も更新。これで最後の更新になってほしい。
索引までいれて、180 ページとちょっと。
若干のコピーを作って、ごく一部の人に送った。
これに修正を施したものを、再びまとまった部数印刷しよう。
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(12/29/98)
色々と雑用が重なって仕事が停滞していたが、一気に、磁性体のところを書いてしまった。
Landau の疑似自由エネルギー(普通は、単に「自由エネルギー」と呼ぶ)についても、あまりにも巷に混乱が多いのできちんと書いた。
さらに、あまりにも魅力的なテーマなので我慢できずにスケーリング仮説について書いた。
従来は統計物理の上級になって登場するテーマだが、もっとも基本的なスケーリング仮説はむしろ熱力学的な精神豊かなものなので、ここに書いた方がしっくり来る。
長い方には、熱力学の範囲での臨界指数の不等式も書こうと思う。
というわけで、磁性体のところが長くなったので、独立した章に格上げ決定。
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(11/27/98) 目次を大幅に更新。
やはり、磁性体の相転移と臨界現象について書こう。
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(11/13/98) Helmoholtz の自由エネルギーと Gibbs の自由エネルギーの部分が終了。
8章までがほぼ完成。
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(10/27/98) イントロも書いて、6章までがほぼ完成。
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(10/16/98) 執筆は快調なので、気をよくして、下で目次を公表。
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(10/10ごろ/98) 本格的執筆開始。
目次
(2/23/99 改訂)
ノート全体の構成の概念図(GIF picture)
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熱力学とはなにか
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気体の熱力学から普遍的な熱力学へ
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熱力学と普遍性
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このノートの内容について
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数学についての約束
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平衡状態の記述
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熱力学的な系の示量変数
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熱力学の視点
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操作について
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平衡状態
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等温操作と Helmoholtz の自由エネルギー
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等温操作
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Kelvin の原理
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力学におけるポテンシャルエネルギー
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二つのブラックボックス
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最大仕事
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Helmoholtz の自由エネルギー
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圧力と Helmoholtz の自由エネルギー
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断熱操作とエネルギー
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断熱操作
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Joule の原理と断熱仕事
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エネルギー
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理想気体
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環境との熱のやりとり
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Carnot の定理
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最大吸熱量の比の普遍性
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Carnot サイクル
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Carnot の定理の証明
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熱機関の効率の上限
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エントロピー
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エントロピーの導入
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エントロピーと可逆性、不可逆性
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いくつかの例
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エントロピー増大則
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複合状態のエントロピーとエントロピー原理
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Helmholtz の自由エネルギーと変分原理
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Helmholtz の自由エネルギーの微分
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微分形式による表現
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Maxwell の関係式
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変分原理と変化の向き
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つり合いの条件
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相転移と相の共存
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相図と Clapeyron の関係
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Gibbs の自由エネルギー
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Gibbs の自由エネルギーの定義
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Gibbs の自由エネルギーの微分といくつかの関係式
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定圧熱容量
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変分原理
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Gibbs の自由エネルギーの性質
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多成分の流体の熱力学
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多成分系の Helmholtz の自由エネルギー
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多成分系の Gibbs の自由エネルギー
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Henry の法則
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希薄溶液における沸点上昇
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化学反応における平衡
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Nernst-Planck の仮説
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水溶液中の化学平衡
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濃淡電池の熱力学
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強磁性体の熱力学
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強磁性体の扱い
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相転移と臨界現象
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Landau の疑似自由エネルギー
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スケーリング仮説
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(付録)Carnot の定理の完全な導出
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簡単な場合
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一般の場合
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(補遺)完全な熱力学関数のまとめ
内容
一通りの熱力学の構築。応用はまだ。
かなり論理的にこだわって書いてあるが、その分、難しいかもしれない。
(入門として読むのはちょっと厳しいかな。
姉妹版(妹)の「熱力学入門(仮題)」に期待。)
興味のある方は、
「はじめに」と「このノートでの熱力学へのアプローチについて」
という部分をご覧下さい。
最新版 (version 2.4) への追加、訂正
みつかり次第どんどん追加していきます。
何かありましたら、e-mail (hal.tasaki@gakushuin.ac.jp) で、私までご連絡ください。
Thanks to 桑原武さん、小波秀雄さん、鷹野芳樹さん、(五十音順)
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「モル数」という言葉は、廃止される方向にあると小波さんに教わりました。
たしかに、「モル」が単位なら、これは質量を「グラム数」、長さを「メートル数」と呼ぶような格好悪いやり方になっているのですね。
「物質量」がよいということなので、そう直すつもりです。
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vi, 黒丸の3つめ(10/22/98)
理想機体温度 → 理想気体温度(って、書かなくてもわかるか)
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p9, 下から7行目(10/22/98)
新しい系のの示量‥
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p15 下から 10 行目 (10/15/98)
これに対して、断熱壁ではない壁を透熱壁 (diathermal wall) と呼ぶ。
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p16 要請 3.2 (10/22/98)
第一文と第二文の間に、「環境は常に一定の温度を持っている。」という文を挿入しよう。
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p18,下から4行目(10/22/98)
完璧にに‥
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p39 (4.13) 式 (10/16/98)
最右辺は、(theta;X3) ではなく、(U3,X3) です。もちろん。
これも、version 1 の亡霊でした。
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p50 注意*のすぐ上。 (10/16/98)
「あまり面白味の少ない」という日本語はない。
「あまり面白味のない」でしょうか。
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p39, (4.13) (10/22/98)
(theta;X3) ではなく、(U3,X3)
すぐ下の本文も同様。
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p77 図 7.3 (10/14/98)
おかしい。ひどく目立つ間違いであった。
図 7.2 を見れば一目瞭然。(b) は断熱膨張で、(d) は断熱圧縮。
図も、図の説明も両方直す必要がある。
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p77, (7.5)
一番最後の S0 は、S1 (10/22/98)
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p92 結果 8.3 (10/14/98)
この結果のタイトルは、「エントロピーのエネルギー依存性」であろう。
version 1 の遺物であった。
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p92, 結果 8.3 のすぐ下。(10/22/98)
theta ではなく、T。文面は少し考えよう。
進行状況
- (10/15/98)
version 2.4 が印刷屋さんからどどーんと届いた。
- (10/6/98)
version 2.4 完成。
本文 117 ページ。目次、索引付き。当日、印刷やさんに取りに来てもらう。
- (10/3/98)
version 2.2
- (5/98)
version 1 完成。
本文 112 ページ。数名の方に無理矢理送りつける。
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(98年初頭)version 1 執筆開始。
構想
完全な熱力学関数の完全な解説。
凸性と Legendre 変換も、一切のごまかしなく、記述。
関連する数学の定理の証明も含む。
進行状況
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(8/98)version 0.5 を二人の方に送った。
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(8/98) Helmoholtz の自由エネルギー、Gibbs の自由エネルギー、さらに、(一変数の)凸関数と Legendre 変換の数学についての完全な解説(私の知る限り普通の解析の教科書には載っていないので、全て証明を与えた)、希薄溶液の浸透圧、希薄溶液の沸点上昇、Henry の法則と湿度などの応用、まで完成。
より高い視点からエネルギーとエントロピーを見ること、そして、エンタルピーを扱うこと、が残された課題。(よって、version は 0.5。)
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(5/98)(本格的)執筆開始。
言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ
hal.tasaki@gakushuin.ac.jp