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自分だけのライフコースを大学院で切り開く。

一人の大学生が未来の研究者に変わった瞬間とは。

人はどのような理由で製品やサービスを購買し、またどのような買い方をするのか? それは人により、あるいは製品やサービスによって、どのように異なっているのか? 市場を構成する消費者の多様な心理や行動を分析する消費者行動論は、その先に広がるマーケティング戦略やブランド戦略にも欠かせない学問であり、大学院で学び直す社会人も多い。

本「ライフコース・マーケティング」
自ら研究者としてのライフコースを切り開くことになる運命の一冊。
芦原万智子さんは、当初「父に強く勧められた」という理由で大学院に進もうと考えていたが、一冊の本と出会い、自らライフコースを切り開くことになる。

「外資系の企業で長くアメリカにいた父は、欧米は日本以上の学歴社会であり、マスターないしドクター取得者がどれほど重宝されるかを話してくれました。私も小さい頃に二度アメリカに住んだ経験があり、将来私が海外に行って独り立ちしても大丈夫なようにとの思いがあったようです」

学習院大学経済学部に入学した芦原さんは、サークルの先輩から青木幸弘教授のことを知り、大学1年生の入門演習で青木ゼミを体験した。以後、教授と芦原さんの師弟関係は今日まで続く。一生をかけて探求したいテーマと巡り会わせてくれたのも青木教授だった。大学3年生の時、教授の部屋を訪ね、大学院に進学したい旨の相談をした日のことだ。

「教授に『大学院でどういう研究がしたいの?』と聞かれ、『未だ何も…』としか答えられませんでした。2年の後期から本格的な授業を受けておりましたが、それまで体系的な本しか読んでおらず、昨今消費者行動やマーケティングでどのような研究がなされているかほとんど知りませんでした。思えば授業をそつなくこなしてきただけだったかもしれないと気づきました。教授は一通り話を聞いた上で、机に平積みされていた著書を一冊手渡してくださったのです」

かつて多くの女性たちは、学校を卒業して何年か仕事をし、結婚して間もなく出産をして専業主婦に収まっていたが、現代は一様ではない。結婚しないで働くことを選ぶ人がいれば、結婚して共働きを続ける人もいる。出産を終えて職場復帰する人がいれば、子育てが一段落してからの復職を考えている人もいる。

その一冊は多様化する現代女性を、従来のライフスタイルやライフステージという分類でなくライフコース〜女性が就職や結婚、出産などのライフイベントにおいてどのような選択をしたかで、その後の人生がたどるコースの変化に着目。それに起因する市場構造の変化や新たな消費動向を読み解くとともに、今後必要とされるマーケティング対応上の方向性について論じた名著だ。

それが出版されたばかりでたまたま教授の手元にあったからなのか、何気ないふりをして芦原さんに合いそうな研究テーマのヒントを指し示してくれたのかは、今となってはわからない。芦原さんは読み進めるほど引きこまれた。多様化する女性のライフコースと消費行動に関する研究は、一人の女性としても興味深かった。自分も大学院で女性を題材にした研究をしてみたいとその時初めて思った。一人の大学生が未来の研究者に変わった瞬間だ。

母娘消費の学術的解明を。自分らしい研究テーマを遂に見つけた。

大学院に進んだ芦原さんは、教授に「研究者にとって研究のテーマや内容は唯一与えられた自由だから」と言われ、幅広い分野から好きなことをやらせていただいていたという。自由は素晴らしい。でもその自由が重くのしかかることもある。芦原さんは研究のテーマをどこに定めるかで迷っていた。一口に女性の消費行動といっても、切り口は無数にある。

「私自身からこういう研究がしたいと伝えないかぎり、教授からアドバイスはいただけない」という。一方で教授は幅広い知識を元に昨今の様々な事象から芦原さんの論文テーマになりそうなことをいくつかテーブルに載せることもあった。団塊世代、ゆとり世代といった生まれた時期を共有する集団の特徴を論じる世代論を知ったのは、論文の研究指導の時であった。

「教授から『女性を研究のテーマにするのであれば世代論ってあるよね。社会学や心理学の考え方だけど、世代ごとに女性の購買を見ていったら面白いじゃないか』と一つの切り口を教わったのです。ちょうどその日は大学院の飲み会があって、その席でも先生を質問攻めにしてしまいました」

芦原さんがテーマを見出したのは、研究のことをしばし忘れ、母と買物をしている時であった。
「修士1年目の後半でした。時折母が私の様子を見に来ていました。そんな日はどこかで待ち合わせをして、二人で美味しいものを食べたり、ショッピングを楽しんだりしました」

「三種の神器」
論文執筆の三種の神器「電子辞書」「研究ノート」「文献資料」。

「あるブティックで気に入った洋服がありましたので、普段なら真っ直ぐレジに向かうのですが、ふとその前に『この服どう思う?』と母に聞いたのです。すると母に『その色よりこっちの色が似合うと思う』って言われたのですね。母と娘のなんでもないような会話ですが、ハッと気づいたのです。私自身の購買意思決定が、母の意見に物凄く影響されているなって」

その時、先の青木教授との世代論の話と重なって「母娘(ハハコ)消費」というテーマが浮かび上がったのだという。母と娘の関係に着目し、消費に結びつけようという動きは1990年代以降からあった。「友達母娘」「M&D(Mother & Daughter)消費」という言葉も生まれ、たとえば「母娘で行く温泉旅行」といったような企画商品になった。だがどれも流行の一つとして表層的に取り上げるばかりで、そのメカニズムを学術的に解明しようとする者は少なかった。

芦原さんは「母娘関係と消費に関する一考察」というタイトルで修士論文をまとめた。さらに論を進め、現在は博士論文を執筆中である。芦原さんはいう。

「母娘消費は、簡単に言えば母と娘が一緒に行う消費行動です。一昔前までの女性の役割は、結婚すれば『妻』、子供が生まれれば『母』でしたが、最近では『妻-母-女』の3役割をこなす女性が増えています。女性のライフコースが多様化する中、女性のあるべき姿も多様化し、そのような現在だからこそ活発に見られる消費行動といえます」

「私の研究のおおまかな部分は『自分探索』みたいなもので成り立っている気がします。それが研究を続けられる原動力であり、魅力でもあります。一方で、この分野の研究蓄積は未だかなり浅く、先行研究が少ないことも事実です。さらに母娘の形も多様で、皆が全て当てはまるものではありません。またある一人の人間の行動や心理を探索するのではなく、母と娘の2人セットでありますので、考えなければならない幅が広がり、その辺りが少し大変です」

インプットした知識を、世の中にどれだけアウトプットできるか。

「大学院は、自分との闘い」だと芦原さんはいう。とくに博士は「地道に研究を続けなくてはならず、自分を甘やかさないで努力し続ける忍耐と根性が必要」だと。しかし決して孤独ではない。たとえば学外の研究者との知的交流がある。

「春と秋にある学会ですと初日の夜に懇親会があり、発表に対してのご意見を伺うだけでなく、時には研究者にしかわからないような悩みを打ち明け合い、時には傷を舐め合うこともあります(笑)。また私の場合は、2ヶ月毎に開催される他大学の一室を借りての若手だけの研究会にも参加しており、自分の研究の発表をして他大の院生さんから意見をいただくこともあります」

また芦原さんは院生幹事を複数年にわたって務めている。「結果が出るか出ないかわからない研究を続けていく中で、幹事の仕事は自分が確かに誰かの役に立っているのだと実感でき、逆にありがたい」と微笑んだ。

そして何よりも教授陣との密接な距離感がある。「他の大学院と比較しても学習院は真の少人数制であり、先生方と密接なコミュニケーションを取りながら研究を進めて行けます」

芦原さんは大学院での学びを通して「筋道を立てて物事を論理的に考えることが自然に身についた」という。「知識をインプットするだけでなく、世の中にどうアウトプットしていくかが重要です。研究して論文を書くことは社会人になればなかなか難しくなります。もし迷っているのであれば修士の二年間を経験するだけでも違うと思います。長い人生の中で短くて濃い二年間になるはずです」

卒業後、芦原さんはどんなライフコースを描いているのだろうか?
「大学で教鞭をとりたいと考えております。青木教授のお手伝いという形で学部のゼミに出させていただき、後輩たちを指導する側、とはいっても、学生より少し知識が多い、ちょっと年上の先輩がアドバイスとして与えますといったレベルなのですが、それを経験して、私も先生のように自分のゼミが持てたらいいなと思うようになりました。一方、行ける機会があれば、海外に行ってあちらの大学院に籍を置くことも視野に入れてはおります。ですが、何をするにしてもまずは目の前の研究を処理しなくては、ということですね」

取材:2015年2月17日/インタビュアー・文:遠藤和也事務所/撮影:中川容邦
身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。

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