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教授の一コマの授業、一言のコトバが私を変えた。

会計ルールの背景を知り、もっとアカデミックに掘り下げたくなった。

面白そうと身を乗り出す人と、そうとは思えないと端から敬遠気味な人と。会計学ほど人によって向き合い方が二極化する学問はないのではないか。
一方で、会計学こそ企業の現在と進むべき未来を数値で明示する羅針盤ともいえ、不可欠な学問であること、そしてますますグローバル化するビジネス社会において会計という共通言語を究めることは大きな武器となることに、異を唱える人はほとんどいないであろう。

瀧本裕子さんは、面白いと感じた一人だ。きっかけは大学の財務会計の授業で減価償却について触れたときだったという。減価償却とは、資産の購入費用の認識と計算方法の一つ。建物や設備など長期間にわたって使用される固定資産を取得した場合、要した支出を耐用年数にわたって費用配分できるというものだ。

「個人が買い物をする感覚で、購入した時の費用だと思っていました。でも企業の場合、利益を計算する上では建物の耐用年数にわたって費用を配分したほうが合理的であり、会計情報を開示する目的に合致していることを知り、そんな考え方もあるのかと興味を覚えたのです。高校時代に簿記を少しかじっており、減価償却の計算方法は知ってはいましたが、その根底にある企業会計の基本的な考え方は初耳であり新鮮でもありました。そして授業が進むに連れ、会計のルールを覚えていく一方で、そもそもなぜそのルールは作られたのか? どのような意味を持つのか? 理論的な背景に関心を抱くようになったのです」

瀧本さんは、自身の中高時代を「いつも中途半端な気持ちで過ごしていたため、一生懸命頑張ったと胸を張れるものが一つもなかった」と省みる。そこで「大学に入学したからには目の前のことをコツコツ真面目にやる」と意を決していたのだ。そのコツコツを積み重ねた結果、瀧本さんはさらに努力を重ねれば3年次で大学を早期卒業することも不可能ではなくなっていた。

その時、瀧本さんには大学院に進学して会計学を探究したい気持ちが芽生えていた。一方、平行して公認会計士試験の勉強も続けており、それに専念すべきかの迷いもあった。アドバイスを仰いだのは、会計学に興味を覚えるきっかけとなった減価償却の授業をしてくださった勝尾裕子教授である。どちらに進むべきか? 勝尾教授から返ってきた答えは予想外のものであった。

「どちらかにするのではなく、優先順位をつけて、やるべきことに順番に全力で取り組みなさい。自分で納得のいく取捨選択をし、一つ一つ乗り越えていくことは、これから長い人生の中でとても良い経験になるから」

かなりハードな道のりだったが、瀧本さんは見事にやりとげた。学習院大学経済学部を3年次で早期卒業し、大学院経営学研究科に進学した瀧本さんは、勝尾教授を指導教授として修士への道を歩み始める。そして、その年のうちに公認会計士試験の難関を突破する。だが、本当に大変だったのはそれからだったという。
「勉強と学問の違いでしょうか。大学までは教えてもらったことを疑問も持たず頭に入れるだけでしたが、大学院に進んでからは、なぜ教授はそう考えるのか? もっと他の考え方もあるのではないか? 自分ならどう考えるか? そういうことを絶えず自分の中で問い続ける訓練が必要でした」

徹底して考え抜く力を身に付ける

大学院とは、高度な知識を学ぶだけでなく、それを咀嚼し自分のものとしながら、最終的に修士論文や博士論文という形にして、社会に貢献する新たな知見を産み出すための場所ともいえる。瀧本さんが研究分野として選んだのは、会計学の基礎概念だ。修士論文では、その中でも「配分・対応」という概念を掘り下げて研究することにした。それらは、会計学の主目的である利益情報の開示においてコアとなる考え方である。

「修士論文のテーマとして、当初は先の減価償却など一つのトピックに絞って研究しようと漠然と思っていました。しかし、公認会計士試験に合格し、今後の将来像を見据えた時、あるトピックに特化して研究するよりも会計学全体に共通する基礎概念を掘り下げたほうが重要だと考えたのです。もちろん勝尾教授が会計学の基礎概念における第一人者ということもありました」

しかし、思いのほか苦労したという。
「修士2年目の4月から始めました。まず、勝尾教授に薦められた様々な文献から論文テーマに沿った箇所を調べ、読み、理解したうえで要約していく作業を繰り返しました。同時に、それら資料を読みながら論文をどう構成すべきかを考えました。けれど、インプットが大量に積み上げられていく一方で、考察が上手くまとまらないのです。

一文字も進まず、同じことを延々と考えて時間だけが過ぎていく…。気がつけば、もう9月になっていました。そんな時、勝尾教授から『かのニーチェも散歩中に着想を得ていたようですね』という言葉をいただいたのです」

本「企業会計の基礎概念」
勝尾教授に「修士論文のテーマの中核となるはず」と薦められた一冊。本当に役立ったと感謝する。

それは一人思い悩んでいた彼女に気分転換を勧めるとともに、研究とはもともと楽しいものであることを伝える一言だった。
「それからは、歩いている時、寝る前など何気ない時間にも考えるようにしていきました。とはいえ、簡単に考えがまとまるわけではありません。あるアイデアが良さそうだと思っても否定する考えが出てきて棄却され、これならいけそうだと思っても反対意見が次々と出てくるような感じ。滑稽ですが、一人でディベートをしているようなイメージでしょうか」

考える…。別の立場で考える…。違う角度で考える…。異なる視点から考える…。そうして、一つの考えを鍛え上げ、解を探していく。「徹底して考え抜く」 それは瀧本さんが大学院で学ぶことで得た素晴らしい習慣の一つだ。瀧本さんは続ける。

「それを何回も繰り返していくうちに、自分なりの結論が出てきます。ただ、一生懸命考えたものでも、教授にあっさりと論破されることは何度もありました。まだまだ思考力に磨きをかける必要はありますが、『考える』とはどういうことなのか、少しずつ分かってきたような気がします」
「また、そういう過程を論文に書いてもよいと教授はおっしゃいました。たとえ棄却されたものであっても、自分できちんと検討したものであり、最終的に結論が何かしら出たのであれば全部書いてもいいと」
気持ちが楽になったのか、瀧本さんはそれから3ヵ月で修士論文を書き上げた。

大学院で身に付けた考える習慣が、未来を手元に引き寄せる。

瀧本さんは、会計学の面白さを次のように捉えている。

「企業の実際の活動があって、それを数値に転換するのが会計です。でもすべてを数値で表すことはできないとも思っていて、そこを上手く、差をなるべく少なくしていくのが会計学といえます。実際と数値をどこまで近づけられるか。それを突き詰めていくことに会計学の面白さがあります」

就職活動時には、公認会計士として活躍する勝尾ゼミ門下生の先輩たちが、快く相談に乗ってくれたことも瀧本さんは感謝している。卒業後は、あずさ監査法人で公認会計士として勤務する予定だ。なお正確に記すならその時点では公認会計士ではなく業務補助である。試験に合格したからといって直ちに公認会計士になれるわけではない。業務補助等の期間を2年以上、かつ実務補習の修了が要件とされ、その後の考査に合格して初めて公認会計士を名乗れるのだ。瀧本さんは、まずそこを目指すという。彼女は間違いなく辿り着くだろう。公認会計士にも、その先の夢へも。コツコツと、でも確実に。

「大学院で会計学の基礎概念を学んだこと。そして身に付いた、物事を様々な角度から考える力や大局的な視点に立つ習慣は、将来、会計監査や会計数値の裏側にある様々な企業活動を理解するうえで役立つはずです。会計基準や会計処理などクライアントと膝を交えて議論する機会も多くなると思いますので、そうした時に、表層的ではない、本質を突いた適切で効果的なアドバイスができるのではと考えています。大学院には海外からの留学生もいて、大学院自体が少人数ですのですぐに親しくなれました。それまで海外の方から見た日本や日本という国に対する評価、あるいはそれぞれの国の文化の違いなどを率直に話し合えるような機会は私自身にはありませんでしたので、大変刺激があり、視野を広げられたと思います」

「将来的には、海外駐在をしたいと考えています。外国の公認会計士に交じって、グローバル企業の支援などができたらと思っています。また、勝尾教授のように、仕事と家庭を両立できるような女性になりたいです」

取材:2015年2月17日/インタビュアー・文:遠藤和也事務所/撮影:中川容邦
身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。

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