日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


6/1/2008(日)

さて、5/29 の日記に書いた学会誌の記事の(フォーマルな)締切は「5月末日」となっていた。

29 日にほぼ一日作業したものの、30 日は講義とゼミがたっぷりとあり、その後も予期せぬ用事で遅くまで大学で作業を続けるはめに。 残るは、31 日だけとなってしまった!!

というわけで、昨日(31 日)もほぼずっと家にこもって原稿を書く。 相変わらず驚異の集中力は得られなかったがピントはシャープになったので、仕事は能率的に進む。 とちゅう、Komatsu-Nakagawa-Sasa-Tasaki の論文の校正に関する作業をし、また、夕方にはプールに行った(55 分間プールの中にいて、たくさん歩き、クロールで 1000 メートル泳いだ)が、だいたいずっと解説記事に取り組んで、深夜には第一稿が完成!

やった、これで締切が守れたぞ!! というわけではないか・・

しかし、これを書いていてつらかったのは分量の目安が分からないことだった。

ぼくらの世界では、テクニカルな文書は LaTeX を使って書く。 雑誌や論文集などフォーマットが決まっている媒体については、ほとんどの場合、それに対応する LaTeX のスタイルファイルというものが用意されている。 スタイルファイルを文書ファイルの冒頭で読み込んで文書を整形すると、自動的に雑誌なり論文集なりとほぼ同じスタイルで版組され、自分の文書を最終的に印刷されるものに近い形で検討することができるのだ。 特に、全体のページ数がどれくらいになるか、数式が長すぎないか、などなど普通では確かめにくいことも簡単にわかる。

当然、物理学会誌からもスタイルファイルが提供されているのだろうと思ったら、それが、ないらしい!  まあ、そこで愚痴ってもしょうがないけれど、物理の世界はもっとも LaTeX の普及率が高い社会のはずで、物理学会がちゃんと TeX に対応していないのは、実に困ったことだ(とはいっても、きちんと対応するためには、誰かがボランティアでがんばるしかないのだろうけど・・・)。

スタイルファイルを使って完成版の長さをつねにモニターしながら文書を書き進めるのに慣れてしまっているぼくらにとっては、スタイルファイルなしでの文書作成は実に苦痛。 目をつぶって走るような不安感がある。 仕方がないので、大昔に物理学会誌に書いた解説のファイルを発掘し、A4 でフォーマットしたときに同じくらいのページ数になることを目指して書いたのだ。


さて、今朝になって佐々さんの日記を読んでみると、なんと「渡辺さんが物理学会誌の解説のスタイルファイルをつくった」と書いてあるではないか! なんというタイミングのよさ!  さっそく利用しなくては!!

しかし、渡辺さんって誰だ?? 下安請みたいな変わった苗字だったらともかく(←なんか、気に入ってしまった)、渡辺っていう名前の人はたくさんいるぞ。 ぱっと思いつくだけでも、ええと、ええと、7人くらいは軽いぞ(数を増やそうと思って、ホフディランのワタナベイビーも数えてしまったけど)

佐々さん、どうせ情報を出すならリンクをはってほしいなあ。 ともかく、速攻で佐々さんに質問のメールだ!

と思った瞬間にわかった。 そりゃそうだ。 そもそもスタイルファイルを作るだけの腕があり、かつ、皆が使えるスタイルファイルを作り公開することで多くの人のためになるなら自分の時間を割いて作業する価値があると考える渡辺さんなら、きっと彼だ。 かの「統計戦隊ボルツマン(画像です)」などの名作で知られる、渡辺宙志さんに違いあるまいて。

さっそく渡辺さんのページをみてみると、あった、あった。ちゃんとありました。 リンクをはっておこう。

日本物理学会誌・解説用スタイルファイル(渡辺宙志さん)
さっそくダウンロードして、解説の文書ファイルに読み込んでみる。

すばらしい!!  たちまちのうちに物理学会の解説のフォーマットできれいに組版される。 ページ数は・・・・、7ページ半。 8 ページを目指して書いていたわけだから、(過去の解説と比較したとはいえ)驚くべき精度で目標通り。 実は長すぎたかと思っていたので、ほっとした。 これで、安心して、全体の分量を見ながら図を増やしたり内容を加減したりできる。 ようやく原稿が書ける体制になった気がする。すごく気分がいい。

それにしても、絶妙のタイミングでスタイルファイルを作って公開してくださった渡辺さんには感謝してもしきれない。 ありがとうございました。 名古屋の方角(どっちだ??)を向いて二拝、三拝しております。また、学会のときにビールでも飲みましょう。


やることがたまっていて、一時間ほど一人で散歩した以外はひたすら家で働いていた。

月曜の駒場の講義のネタの蓄積が不足してきたので、時間をかけて準備する必要がある。 まずは、大ボケで計算すべき写像を間違えていた U-Tube chaos の数値計算のやりなおし(正しい絵はこんな風になる4/19 の雑感の絵の方がかっこいいけど、間違えていたので、かっこよくでもダメ)。 それから中心極限定理関連の材料を用意し、レポートにしようと思った問題を自分で解いてみて解けないのでダメだと確認し、とやっていると、あれまもう夜だ。 これくらい材料があれば明日は十分だと思うが、もう少し。べき分布の導入として、一次元ランダムウォークの再帰時間の分布を議論するので、その準備を。 再帰時間の分布を reflection principle でかっこよく出す方法を復習しようと紙の前にすわって絵を描き始める。 思えば、すでに22年くらい前、アメリカに行ったばかりの頃に Michael Aizenman と話しているときに、再帰時間の分布の話になり、彼が「こうやると出るよ」とその場で黒板で教えてくれたのだ(Feller とかにも書いてある話らしいけど)。 Aizenman が好きな論法だから、当然、ぼくも大好きになった。ヘー面白いと思い、その場で完璧に頭に入った。だから、これについては教科書を見なくても(というか、見たことない)、いつでも再導出できるのである。

導出できるのである。できるはずなのだ、と思いながら絵を描く。描くのだが、何かおかしい。 こういう感じで出るはずなのに、ひっくり返したウォークとの対応関係がおかしい・・・

やっぱり、何も見ないで準備できるというのがおごりだったのか? カオスの写像も間違えてたし最近ミスが多いかもよ。明日の朝、早起きして大学によって勉強してから駒場に向かうべき? それとも、ここまで進む可能性は低いから、この部分の準備は後でもいいかな? いや、グデグデ言っている暇があったら考えろ。絶対にできるはずだから。ともかくトイレに行こう。

と、例によって、トイレから戻って落ち着いたらできました。 できてみれば、これしかないくらい自然な論法。よかったよかった。

それから、再び自分に鞭打って学会誌の原稿を直し、論文の校正についてのメールを送り・・・・

ともかく、寝ます。


6/28/2008(土)

1日の日曜日に日記を書いたけれど、いや、まあそれに続く一週間の忙しかったこと。 月曜から土曜までばっちり毎日予定が入っている。新一年生との懇談会とパーティーで Switch Pitch を分解して盛り上がったり、某財団の助成金授与式に教室メンバーの代理で出るためネクタイを締めて経団連か何かにでかけたり、高校の先生向けのオープンキャンパスで説明や案内をしたりといった非日常的なイベントも。

しかし、この予定びっしりの6月第一週目をこなせば、かなり楽になる。 定期的な会議と講義を除けば時間が取れるはず。日記ももっと書けるかも。


と思っていたのだが、気付いたら 28 日でした。

いや、実際、二週目からは比較的時間に余裕ができたのは事実。 で、まあ、本当によく働いた。というか、今も働き続けていますぞ。 とにもかくにも、「統計力学」の教科書をちゃんと世に送り出すべく、必死で作業しています。なにせ分量が分量だから、一時期は永遠にできないのではないかという絶望感さえ感じたけど、黙々と課題を一つ一つこなしていった結果、かなり先が見えてきた。

公開版に書き足したり、書き直したり、書き直したのをやっぱり書き戻したり、問題を差し替えて解答を作ったり、まあ、いくらでもやることがあるのだ。

でも、まあがんばるのだ。

この週末は2日間ぶっとおしで研究室の卒業研究生の集中セミナーなので、明日も早起き。 日記に中身はないけど、もう寝ましょう。


6/30/2008(月)

今年の理論物理学研究室は卒業研究生が多いので集中ゼミも長かった。 面白いのもあったし、一つは猛烈に勉強になりためになった(ということはみんなには難しかったわけだが)。

昨夜は久々にみんなとずっとビールを飲んでだべった。 学生さんとゆっくりと色々な話をしたのも久しぶりな気がする。実に楽しかった。四年生といっても自分の娘と同い年なのだから複雑で楽しい気分である。 家に帰るのが12時過ぎになったのも実に久しぶり。 明けて今朝は駒場の講義だったが、二日酔いにもならず、まあ、ちゃんとやったつもり。


それはそうと、実に今さらながら、Perfume である。

ご存知の方はご存知なのだが、ぼくの古くからの友人である中野さんは、ブレークよりずっと前から一貫して Perfume に注目し、彼女らの活動を web 日記上でレポートし続けてきたのだ(学術用語集 Perfume 編というのもつくっているぞ!)。 ぼくは中野日記は欠かさず読んでいるので、この何年間かで、Perfume のライヴの客層が変化していった様子、マスコミへの登場が増えて次第にブレークしていく過程などをリアルタイムに知ることができたのであった。

だから、なんとなく Perfume をよく知っているような気にもなるんだけど、でも、Perfume の音楽を本気で聴いたことはなかった。で、はっと気付いたら完璧にブレークしてアルバム GAME は馬鹿売れしていたという次第。

こうなったら聞こうかなと思うのだが、今さら出遅れた感もあるし、いささか不安もある。 中野さんとは、お互いに椎名林檎様の永遠の虜となった身だし、他にも諸々と趣味の合うところがある。 その中野さんが心酔している Perfume である。 いい歳をしてアイドルグループに(しかも、大ブレークした後で)はまってしまうのも、ちと怖い。

と、まあ、怖いと思いつつ、そっと手を出して、ともかく GAME を一通り聴いてみた。

ポリリズムは体験ずみなので大丈夫。 二曲目の plastic smile がきわどく急所のすぐそばを通過。 うん。一瞬ひやっとしたけど、大丈夫。こちとら大人だし、それなりの場数を踏んでいるので、アイドルにはまってしまうときの感覚というのは、よくよくわかっているのじゃ。 理屈じゃなく、ダメなときは一発目でツボを直撃されてときめいてしまったら、それが年貢の納め時。あとは、ひたすら頭の中で音楽が鳴り続けることになる。

でも、今回は大丈夫のようだ。 かなりツボに近いような気のするのもあったけど、ほぼ客観的に処理できるレベル。 確かに曲の作りはうまいし、構成も完璧に近いと思うけど、でも,アイドルは理屈じゃないんで、急所をはずれている限りは大丈夫なんですよ。 駒場の行き帰りの電車でも iPod で Perfume を聴いたけど、まあ、気楽に楽しめるって感じかな?





だ が し か し、

しばらくすると頭の中で何かがなっていることに気付く私であった。 アルバムの最後の Puppy love という曲だ。 それを追い出すと、やっぱり plastic smile が鳴り出す。それも止めると、ついには(これは大人としてはパスでいいやと思った)チョコレートディスコまでもが・・・  完璧に中田ヤスタカ氏の策術にはまったようだ。

Perfume は、遅れて、じわじわと来るので、みなさんもご用心ください。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp