学習院大学 人文科学研究所 特別共同研究プロジェクト

  ◆活動中のプロジェクト◆

   平成24年度は以下の6件のプロジェクトが活動を行いました。活動の記録・成果などは、
   『学習院大学人文科学研究所報』2012年度版 をご覧ください。


研究題目
中世文化の世界像と古典知―東日本の造形をめぐって―
研究代表者
佐野 みどり/文学部教授(哲学科)
目的・内容・
期待される成果など
 本研究は、東日本の中世造形文化を対象に、@それらがどのように古典を契機、枠組みとしているか、 あるいは古典をどのように読み換え再生させていくのか、古典の規範性をいかなる戦略としてきたかを具体的な作品解析から考察し、 さらにA東日本における様式の展開もしくは選択が、中央の造形の単なる周縁化に位置づけられるのではなく、 東日本の文化圏・政治圏・宗教圏が要請する解釈のかたちであろうことを検証し、それらが形作る世界観を明らかにすることを目指す。 東北在住の研究者との積極的な共同研究は、東日本の造形文化の研究視点を活性化することともなろう。 古典知を諸カテゴリー分析の通時的共時的座標軸に据える考察の枠組み、宗教儀礼の背後にある信仰と呪術的認識の型を考える人材、 世俗美術の受容にみる地域性への照射、古典知と同時代志向の把握など、東日本の造形文化の理解にとどまらず、 広く中世人の心性の解析にも議論は展開する筈である。
研究成果の公表
平成25年7月11日開催特別共同研究プロジェクト成果報告会

研究題目
自己・他者・「世間」に関する心理学的研究
研究代表者
外山 みどり/文学部教授(心理学科)
目的・内容・
期待される成果など
 日常場面において、人は周囲の他者と相互作用を行い、社会的環境から様々な影響を受けながら生活している。個人の側から見るならば、 自己の動機や意図と、他者からの要請あるいは社会的環境の制約とをいかに調整し、適切に行動するかが重要な課題となる。その際には、実在の他者 や集団だけでなく、いわば表象としての他者や集団が大きな心理的意味をもつ。本研究では、「抽象化された他者の集合」に対する表象と考えられる 「世間」の概念を用いて、自己と他者、自己と社会的状況の関係の諸相を明らかにすることを目的とする。現代社会は、人間関係の希薄化、価値観の多様化、 社会的規範の機能低下などの問題をかかえている。集団や他者の意向を考慮して自己制御を行うことは、社会生活を営む上で適応的であるが、 過剰に他者の目を意識することは臨床的な問題にもつながる。「世間」概念を用いた研究は、対人関係を中心とした心理学研究に新たな展開をもたらすと 期待される。
研究成果の公表
『自己・他者・「世間」の心理学』(世間心理学研究会編)

研究題目
東日本大震災の被災をめぐる「語り」の機能に関する学際的検討
研究代表者
吉川 眞理/文学部准教授(心理学科)
目的・内容・
期待される成果など
 本研究の意義と目的:東日本大震災と原子力発電所事故の被災、そして現在も継続中の復興への支援の経験は、私たちのひとりひとりに社会への コミットや連帯の重要性を実感させる継起となっている。今回、東日本大震災の支援として、住民の交流の場の設定の試みが多く行われてきた。 本学臨床心理専攻の大学院生その「場」の運営にボランティアとして参加してきた。そこで営まれた住民相互の「語り」は、どのような機能を有していたのだろうか? この「語り」の機能や意味づけの検討を目的とするこの学際的アプローチは、被災や支援の当事者の経験の共有を可能にする「語り」の意義について、 新たな視野を提供する可能性を持つものである。
 本研究の内容:現地の支援担当者を対象に、「語り」の場がはたしてきた役割や、そこでの支援者としての経験について聴き取り調査を行う。 彼ら自身も被災しているが、彼らは職務上、自身よりも、住民や生徒の支援を優先する1年余を過ごしてきた。住民の「語り」を育み、聴き取ってきた彼ら自身の 「語り」から、被災や支援の体験を共有し、「語り」の機能について考察を深める。

研究題目
近現代の国際(東西)交流から生み出される「日本(人)」のイメージ
研究代表者
中野 春夫/文学部教授(英語英米文化学科、身体表象文化学専攻)
目的・内容・
期待される成果など
 本研究プロジェクトの目的は16世紀以降東西文化の接触から生み出されてきた「日本」あるいは「日本人」のステレオタイプ的なイメージの研究である。 古くはジパングの食人種・黄金伝説から19世紀の「フジヤマ・ハラキリ・ゲイシャ」、1970年代の日本企業と眼鏡をかけた小柄な中年戦士などなど、「日本(人)」に 関してさまざまなストックイメージが生み出され、その中には『ヘタリア』等において今日でも通用しているものがある。この種のステレオタイプ的イメージは 何を契機としてどのように生み出され、何を媒体としてどう流通し、歴史的にどう変化しているのか?本プロジェクトは身体表象文化学専攻の専任教員2名と演劇学、 舞踊史、表象史、ジェンダー研究などそれぞれに異なる専門領域を持つ博士課程大学院生・科目等履修生9名との共同研究であり、「日本(人)」のイメージ生成に 関する総合的な研究を目指す。多様な領域にわたる共同研究であることにより、「日本(人)」のイメージに関する情報が幅広く収集され、共有化されることが期待され、 そのイメージ生成に関して再逆輸入現象など複雑な地域的、ジャンル的相互影響関係が判明する可能性も見こめる。
研究成果の公表
『近現代の国際(東西)交流から生み出される「日本(人)のイメージ』

研究題目
震災原発等による避難生活が言語形成期の児童生徒に及ぼす影響に関する調査研究
研究代表者
安部 清哉/文学部教授(日本語日本文学科)
目的・内容・
期待される成果など
 住民の大規模移動は、周辺も含む地域言語と文化の大規模な変容を生み出す要因となる。古くは応仁の乱による京都消失と東国人流入による京都方言の東国語化、 データがある近年では、東京大空襲による伝統的東京弁の衰退、第2次大戦時白河市への学童疎開による関東児童500名の東京アクセントの消失調査、等の報告がある。東日本 大震災による避難・移動生活が、地域言語(方言)にどのような影響を及ぼすかということは、地域言語研究としても、地域語がその一部を担っている地域文化史の問題としても、 極めて注目される問題である。本研究では、原発事故のために大規模避難を強いられた南相馬市の若年層を対象に、集団・分散などの種々の避難生活状況が、今後の地域語を担う 言語形成期の特に児童・生徒の言語意識と言語行動へ及ぼす影響を、聞き取りやアンケート等によって、言語変容に関する社会言語学的資料として記録することを目的とする。 極めてデリケートな調査対象であるが、当該地域で長年に児童生徒への教育と方言調査に従事してきた共同研究者・小林氏の協力を得ることで、同じ避難生活者という視線からの、 外部者では容易に調査し得ない面や見落しやすい心理的局面も考慮できる有意義で貴重な調査と考える。
研究成果の公表
小林初夫、安部清哉「避難生活(震災原発等)による小中学生の日常言語への影響―福島県南相馬市小高区における言語意識調査―」(『人文』12号、173-225頁)


研究題目
ボランティア活動と社会とのつながり意識
研究代表者
伊藤 忠弘/文学部准教授(心理学科)
目的・内容・
期待される成果など
 東日本大震災以降、「絆」がキーワードとして取り上げられ、人々が人間関係や社会とのつながりを再考するようになったと言われるが、 これは青年期の学生においてより顕著かもしれない。多くの市民ボランティアが被災地に赴いたが、ボランティア経験は自分と社会に対する意識を変える 契機となると言われる。本研究では、ボランティア活動に参加している学生を対象にして、ボランティア経験がもたらす変化を、ボランティアに対する意識 、社会ないし社会問題に対する考え、自己ないし将来の自分に対する意識を中心に明らかにする。またボランティアを行っていない学生に対しても、 日頃から人と人のつながりについてどのように考え感じているかについて、対人的な感情(例えば、感謝や共感)を中心とした主観的な感情と、生活満足度や幸福感、 自己概念や将来の目標(例えば、社会貢献)への意識の関係を検討し、震災以降の大学生の意識について検討したい。