研究の現場から

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組織に適応するための新たな要因に迫る
1975年愛知県生まれ。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学後、他大学にて専任助手、専任講師、准教授を経て2011年4月より学習院大学経済学部准教授。2013年4月より現職。
竹内倫和 経済学部経営学科教授 組織行動論、キャリア論、人的資源管理論
膨大な量の質問紙。一つひとつの企業に研究の概要とその必要性を説明して協力を得た結果集まった、研究のベースとなるとても貴重なもの。

就職難が叫ばれる一方で、新卒で入社して1年ともたず辞めてゆく若者たちも後を絶たない。竹内教授が研究しているテーマはまさにこの「新入社員がどのように組織に適応していくか」。つまり、〈組織社会化〉について。

「元々、人間に興味があったんです。たとえばお金やモノなど、企業がマネジメントすべき対象はたくさんありますが、そのなかでやはり人のマネジメントについて考えたいと思ったのがこの道に進んだいちばんの理由です。人のマネジメントというものは、個人の気持ちや心理という部分を理解したうえで行わなければならない。それで組織で働く従業員の気持ちや、どうしたら彼らのモチベーションが上がるかを研究する組織行動論、組織心理学という分野へと興味や関心が移っていきました。それを理解したうえで、どんな企業施策が考えられるか。その大事なテーマの一つが組織社会化についての研究です」

組織社会化についての研究では、これまで二つの方法が用いられてきた。ひとつはプロセスアプローチ。組織に新しく入った人がその組織に適応するためには何が大事か、つまり適応の規定要因を明らかにするもの。一方のコンテントアプローチは新しく入った人が適応するにあたって必要な、具体的な態度や知識の内容を明らかにするものだ。「たとえば私が学習院大学に教員として採用されますよね。そうすると学習院の教員らしい態度、あるいは学習院の教員らしい仕事のやりかたを見つけなくてはならない。それは学習院とほかの大学とでは異なるでしょう。各大学、各会社それぞれでやりかたや求められる行動が違う。ではどういった行動が必要かを追求するのがコンテントアプローチです。たとえば会社の歴史を知ることが大事とか、仕事に必要な知識を獲得することが大事、あるいは会社ごとの独自の隠語を知ることが大事……。それらを獲得させるために教育訓練の制度が設けられているわけです」竹内教授はこれまで別々に行われてきたふたつのアプローチを統合した研究の枠組みをつくり、いくつもの研究結果を世に送り出し、国際学会や国内学会で数々の賞を受賞してきた。

企業と二人三脚で“職場の要因”を探る

(上)研究の成果は報告書として協力した企業や広く一般にフィードバックされる。(下)ゼミ生から送られたとても大切なアルバム。竹内教授のゼミは就職後にも役立つと評判が高い。

そんな竹内教授がいま取り組んでいるのは、会社への適応を決定づける新たな要因について。
「これまでは会社の要因と個人の要因が会社への適応に大きな影響があると考えられてきました。最近はそれに加えて職場の要因が大切だと言われ始めてきている。つまり、上司や同僚との関係性ですね。上司はどのような行動を新入社員に行うべきか、同僚はどんなサポートをすべきか。それが目下のテーマです」

研究の方法は、新入社員に対する質問紙によるアンケートを行い、それを分析して定量的に把握していくというもの。入社後すぐ、1年後、2年後と長期にわたって調査を行う。「そうしないと、どんなふうに適応していったかがわからないので、時系列でデータをとることが大事なんです」。サンプルは3年間で100以上。業種や職種も多岐にわたる3〜40社の社員のデータを集める。「業種や職種、それから時代に左右されない、なるべく普遍的な要因を見出したい。いつの時代においても効果がある基本的な要因を明らかにしたいと考えています」

当然、企業との協力体制がなければこの研究を行うことはできない。「企業様に趣旨と研究成果がもたらす効果をご説明してご協力をお願いし、研究の必要性を理解していただく。それも私の研究の大事な要素です。じっと座って研究について考える時間と、実際にデータをとるために研究を紹介しご協力いただく活動。二つはまったく違う方向の活動ですが、両方ともうまくできないといい研究にはなりません」

いつ、どこでも不変の要因を見つけ出す

竹内教授の研究成果は、論文や報告書、そして講演という形以外でも世に出ている。

「ストレスの度合いやその原因となる要因を測定するツールを開発して、これは実際に発売されました。質問項目がいくつかあって、『そう思う/そう思わない』など、自分の気持ちに合った段階を選んで答えていくものです。こういうアセスメントツールをつくるときには、項目の内容が大事なんです。今までのもののなかには、妥当性がある項目によってきちんと測定されていたか、疑問のあるものもゼロではなかった。研究知見や精緻な分析を踏まえ、妥当性が高く、信頼性ある項目でより正確に一人ひとりの心の状態を把握できるものを目指しています」

現在も、コンサルティングを行う企業と共同でアセスメントツールの開発を行っている。研究を通じて企業とさまざまな形でかかわることは、竹内教授にとって非常に有意義なことなのだという。
「企業の方とお会いして話をしたり、共同で研究をさせていただいたり、グループ研究の講師として考え方を指導させていただく機会もある。それ自体恵まれていると思いますし、そのなかから問題意識を吸い取って、自分の研究に活かすことができる。それが経営学のいいところなんです」

実際の企業と、社会と密接に関わりながら研究を進める竹内教授の展望とは――。
「いま私が携わっている組織社会化というテーマは、残念ながらアメリカやヨーロッパでの研究のほうが進んでいます。そこで日本の研究成果を海外に対して発表していくというチャレンジを微力ながらしたい。日本の特質を明らかにしていくことも重要でしょうし、さらにいえばどこの国でも変わらない、そしていままで明らかになっていない要因を世界に対して報告したい。そして研究成果を社会に還元していけたらと考えています」