科学に「ぜったい」ということはないはずなのに、「水からの伝言」が本当でないと言い切れるの?

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左の美しい雪の結晶の写真は、「水からの伝言」とは関係ありません。 空から降ってきた本当の雪の結晶の顕微鏡写真です。 雪の結晶を研究している物理学者 リブレクト教授のホームページから許可を得てお借りしました。 クリックすれば、拡大します。 リブレクト教授の、雪の結晶のフォトギャラリーはすばらしいですから、ぜひ、ご覧ください。 また、美しい写真をたくさんのせた彼の本「スノーフレーク」も出版されています(雪の結晶の研究については、「科学者は、水のつくる結晶を見て美しいと思わないのですか?」についての詳しい説明のページをご覧ください)。

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[button] 万が一・・・

科学の中の「よくわかっている部分」

みなさん、よくご存知のように、私たち人類の科学というのは、まだまだ未完成で、科学では解明できないことは、この世の中に、たくさん、あります。 宇宙の始まりとか、究極の素粒子とか、生命の起源などといういかにも「未解決の科学」っぽい問題だけでなく、たとえば、「私たちの心とはいったいどういうものか?」といった、いっけん身近なことも、科学ではまったく解明できない問題です。

一方、現代の科学が未完成だとはいっても、かなりよくわかっている部分もあります。 生命の本質が何かといった問題はむずかしいですが、生物の体の中のさまざまな仕組みについては、かなり色々なことがわかるようになってきました。 そして、何と言っても、二十世紀に大きく理解が進んだのは、「物の世界」の仕組みについての科学です。

今では、ほとんどの人がもっている携帯電話が、どうやって働くか考えてみて下さい。 あの小さな携帯の中に、人間の声を電気信号に変える装置があり、さらに、その電気信号を電波に乗せて空中にとばすための回路と仕掛けがあります。 それだけでなく、インターネットに接続して、情報を得て、それを液晶画面に表示したり、レンズで集めた光を電気信号に変換することで、写真撮影をしたりと、信じがたいほどの機能がつめこまれていますが、これらは、すべて物質と電気についての物理法則にもとづいています。 電波をとばす仕組み、IC の回路の中でおきる電気信号の変換などは、すべて、とてもよくわかっている物理学の法則に従っているのです。 これらの法則についての理解がいいかげんだったら、携帯電話のような複雑きわまりな装置が、どこにいってもきちんと働くなどということは、あり得ないでしょう。

他にもたくさんの例をあげることができますが、このように、「物の世界」の法則や仕組みについての理解は、とてもよく進んでいるのです(もちろん、それでもわからないことはあります。実は、私も「物の世界」についての、未解決の問題は研究しているのです)。 それくらい科学の理解が進むと、個別の事実が一つずつわかっているという状況ではなくなって、基本的な法則をもとに、非常に広い範囲の現象を、まとめて、理解できるようになります。 実際、現代の物理学では、原子・分子といった小さなスケールから、天体や銀河といった大きなスケールまでの、「物の世界」での出来事を、いくつかの基本的な法則にもとづいて、ほぼ完全に理解できるようになりつつあります(それでも、「人間の心」は、わからない!)。 そうなると、これまでにみつかった現象だけではなく、まだ実験をしたことのない、新たな状況で、何がおきるかについても、かなり正確な予言ができるようになるのです。 (関連する内容が、「「水からの伝言」が事実でないというためには、実験で確かめなくてはいけないのでは?」につての詳しい説明のページにもあります。)

そのような、「物の世界」についての進んだ科学に照らし合わせてみると、「水からの伝言」の物語は、まったく、もう、どうしようもないくらい、ものすごい話です。 ワープロに印刷された文字、容器の中の水、空気中の水蒸気、などなど、この物語の登場人物は、みな、「物の世界」の住人たちです。 これこそ、現代の科学がとくいとする分野です。 ところが、「言葉の意味が、水の結晶の形を変える」という「水からの伝言」の結論は、現代の科学とは、まったく相容(あいい)れません。 「物の世界」の科学を詳しく知らない人に、どのくらい「相容れないか」をわかってもらうのはむずかしいですが、たとえば、人工衛星をとばせるくらい科学が進歩した時代に、「大地というのは平らな板で大きな亀の背中に乗っているんだ」という話がでてくるのと、同じくらい、相容れないのです。

「相容れないだけで、事実でないと断言するのは、身勝手だ」という意見があるかもしれませんが、そうではないと思います。 これまで、人類が「物の世界」の科学を発展させてくる中で、「物の世界」で何がおきるかについて、多くの人が、ありとあらゆる可能性を一生懸命に考えました。 おまじないや魔法の言葉や強い意志によって、「物の世界」に影響をおよぼせるのではないかということも、徹底的に試されたのです。 そういった、さまざまな経験をもとにして、長い長い年月をかけて、現実の世界をかなり上手に表すことのできる「『物の世界』についての法則」が明らかになってきたのです。 科学者のいう「『物の世界』についての法則」というのは、別に科学者が勝手につくったものではなくて、人類が長い長い時間をかけた経験を蓄積したものを、まとめあげたものなのです。 「『物の世界』についての法則」とまったく相容れない物語というのは、単に科学と折り合いが悪いというようなものではなく、数多くの人たちの経験の蓄積に、反しているのです。

先ほどのたとえ話に戻りますが、長い年月をかけて、宇宙の謎をとき、ロケットを開発し、ついには、気象衛星や通信衛星が実用化される時代になって、「大地は亀の背中に乗っている」と言われたたら、どう思うか、ということを考えてみて下さい。


「水からの伝言」を守りたい人たちは、ときどき、「これは、現代の科学では、まだわからないことなのだ」という言い方をします。

それは、まったく違います。 このお話は、現代の科学がわからない部分に入り込んでいくようなデリケートなものでは、ありません。 「水からの伝言」は、科学がとてもよく進んでいる「物の世界」での物語であり、長年の経験に支えられた基本的な法則にまっこうから反しているのです。 つまり、「現代の科学に照らしたとき、まちがっていると断言できるもの」なのです。

科学でわからないことがまだまだあるからといって、好き勝手な部分に、新しい物語をくっつけてしまうわけにはいかないのです。

万が一・・・

万が一、いや、兆が一(でも、大きすぎると思うけど)、「水からの伝言」の物語が真実だったとしたら、どうなるでしょう?

今まで科学が蓄積してきた「物の世界」の法則の横に、新たに、「水は言葉の影響を受ける」という法則が付け加えられることになるのでしょうか?

とんでもない!!

もし、これが本当だったら、それは、新しい法則の発見だとかノーベル賞が何個などという、ちっぽけな話ではありません。 おそらく、人類が始まって以来、もっとも大きな、科学と人間の思考の革命になるはずです。 これまで、地道に積み重ねられてきた「物の世界」についての科学は、そもそもの出発点からして、まったく間違っていて、勘違いしていたということになるでしょう。 「物は原子からできている」とか「力が働くと物体が加速する」といった、ごく初歩的なところに戻って、すべてを考え直す必要がでてくるでしょう。 携帯電話が通じる理由なんて、いよいよ、謎の中の謎ということになるでしょう。 携帯をつくるために今までで使ってきた理屈が、実は、ダメダメだったのに、でも、ちゃんと通話はできているのですから!

そんな時代が、万が一(いや、兆が一、いや・・・)やってきたら、私たち科学者は、どうなるでしょう?  科学がダメになったので、がっくりして、失業して、オロオロするでしょうか?  まあ、そういう人もいるでしょうが、私を含む多くの科学者は、びっくりしながらも、大喜びすることでしょう。 なにしろ、今までに正しいと思っていた科学がまったくもってダメだったということになるのですから、世界を理解する新しい方法や法則をゼロから探す必要があるわけです。 いったい、今までのやり方の何がダメだったのか、GPS は設計したとおりに使えるのに、一方では水が言葉を理解するというような世界で、どうやって物事を考えていけばいいのか、必死になって研究しはじめることだろうと思います。 正直言って、ものごとを考えるのが好きな、私たち科学者にとっては、本当に夢のような時代になるでしょう。

残念ながら(と言っていいのかどうか、わかりませんが)、そんな「超革命」は、おきないでしょう。 「水からの伝言」の実験は、ほとんど信頼できない(「ちゃんと実験をして結晶の写真をとっているのだから、本当なんじゃないの?」についての詳しい説明のページを参照)のですから、それをもとに、科学全体をひっくり返すほどの結論を出すことなど、どうがんばっても、できないのです。


このページの執筆者:田崎晴明

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公開:2006 年 11 月 9 日、最終更新日:2007 年 6 月 19 日、 ページ管理者:田崎晴明
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