専攻開設式

専攻主任挨拶

2008(平成20)年4月8日(火)午前11時
専攻主任 教授 安藤正人

挨拶に立つ安藤主任

 本日ここに、学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻がスタートを切ることになりました。まずは、皆さんとともに、新専攻の船出を祝いたいと思います。

 第一期生としてお迎えするのは、博士前期課程8人、博士後期課程4人の合計12人。いずれも、アーカイブズ学の勉学意欲に燃えた優秀な皆さんです。また、嬉しいことに、外国人特別研究員1名が韓国から皆さんの仲間に加わることになり、早くも初年度から国際的な研究環境が芽生えることになりました。一方、教員の方は、5人の専任教員と9人の非常勤講師の合計14人。これに3人の事務室スタッフを加え、アーカイブズ学専攻研究室は、総勢ちょうど30人という規模で出発いたします。

  さて、アーカイブズ学の大学院課程を設置することは、日本のアーカイブズ界の長年の夢でした。早くは1969年に、日本学術会議が「歴史資料保存法」の制定を政府に勧告する中で、文書館専門職を養成する大学院の必要性を指摘していますが、私たちが本格的にこの問題に取り組むきっかけとなったのは、1986年にICA(国際アーカイブズ評議会) から派遣されて来日したマイケル・ローパー氏の日本に対する勧告でした。この中でローパー氏は、アーカイブズの整備とともに専門職としてのアーキビストの養成が急務であることを強く訴えたのでした。以来20年。多くの人々がアーカイブズ学大学院の設置に向けて努力を積み重ねてきましたが、本日ようやく、本専攻の設置という形で、その夢が実現したわけであります。早い時期からこの運動に携わってきた者の一人として、私は、これまで尽力されてきたすべての関係者の皆さん、とりわけ本専攻の設置に向けて苦労を重ねてこられた高埜先生をはじめとする学習院大学の方々に心よりの敬意と感謝の気持ちを表したいと思います。

 私たちのアーカイブズ学専攻は、学習院大学東1号館8階のこの小さな部屋で、いわばひっそりと小さな産声をあげたわけですが、私は、日本のアーカイブズの歩みにおいて、いや、それにとどまらず日本社会の歴史において、たいへん大きな意味を持つ出来事だろうと思っています。あらためて言うまでもありませんが、アーキビストには、「記録を守り、記憶を伝える」ことを通じて、平和で豊かな市民社会の構築と発展に寄与する、という崇高な使命があります。そのような重要な役割を担う21世紀の新しいプロフェッションが、これから、ここから育っていく。今日は、その第一歩なのであります。そういう意味で、私は、この歴史的なイベントに参画することができた幸運を皆さんとともに喜びたいと思うと同時に、私たちが社会に対して負っている責任の重さを痛感し、改めて身の引き締まる思いがいたします。

自己紹介する院生

 本専攻に対する期待は、日本国内だけのものではありません。ご承知のように、近年、韓国や中国などの近隣諸国と日本との間には、歴史認識の問題などをめぐって摩擦が起きています。私は、この問題を通じて、日本のアーカイブズ制度の不備が直接、間接に批判されているように感じています。東南アジアからも、日本占領時代におけるアーカイブズの破壊や流出を問題視する声があがっています。これらの問題を解決するには、アジアと世界に開かれたアーカイブズ・サービスの向上を図っていく以外に手はありません。そして、それはアーキビストの仕事です。そのような仕事を通じて国際理解の橋渡し役となっていく。これも、アーキビストに期待される重要な任務であろうと思います。

 本専攻に在籍される数年間の間に、皆さんに勉強していただきたいことはたくさんあります。アーカイブズ学は、あらゆる学問の基礎に関わるのみならず、人間が行うすべての創造的活動の土台をつくるもの、と言っても過言ではありません。アーカイブズあるいはアーカイブズ学の世界は限りなく広いのです。皆さんひとりひとりが最終的に選ぶ研究テーマや、実際に仕事で携わる分野は、比較的狭いものにならざるを得ないかもしれませんが、せっかく大学院に来ているのですから、本専攻で学ぶ数年間は、できるだけアーカイブズあるいはアーカイブズ学の無限世界の一端に触れていただきたいと思います。そのためには、ある程度、研究上の冒険をやってもいいのではないでしょうか?研究テーマや研究のフィールドをこれまでのテーマやフィールドから一歩進めてみる、あるいは少し別のところに置いてみる。もしそれが難しければ、これまでのテーマやフィールドを続けながらも、できるだけ別の観点や分野から見直してみる、といった試みをぜひやっていただきたいと思います。そういうことが可能なのも、大学院という学問の場の特権です。

 本専攻は、日本で初めてのアーカイブズ学専攻ですから、学生の皆さんだけでなく、教員もみんな1期生です。つまり、カリキュラムの構成も、ひとつひとつの授業も、いわばすべてが試行錯誤の第1歩だということです。したがって、私は、本専攻の授業はすべて、学生の皆さんと教員とが一体になってアーカイブズ学を研究していく、そして、アーカイブズ学の学問体系を共に構築していく、そのための研究会であろう、というふうに考えています。そもそも、大学院の授業というものは、アーカイブズ学に限らず、すべて研究会的性格を持つべきものではないかと私などは信じ込んでいるのですが、本専攻の場合は、日本のアーカイブズ学がまだまだ揺籃期にあるだけに、余計そういうことがいえるのではないかと思っています。そういう意味で、私は本日ここに、日本のアーカイブズ学研究やアーキビスト教育の中核となるべき、新しい、活力に満ちた30人の研究グループが誕生した、と考えています。

  何はともあれ、楽しくやりましょう。学問は楽しくなければなりません。さいわい、アーカイブズ学ほど楽しい学問はありません。楽しくなくなったら私はやめるつもりです。何はともあれ、皆さんの今後のご努力とご協力に心より期待し、アーカイブズ学専攻開設のご挨拶といたします。

出席者の集合写真
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