日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


9/1/2001(土)

やれやれ、九月か。 今月も大変そうだ。

これで三度目だが、月初めに、telnet で自分のアカウントに login してシンボリックリンクを変更する。 (7/4 参照) 日常的には圧倒的にマック的なマックの使い方しかしていないぼくとしては、こうやって本格的にコンピューターを使うと消耗してしまうので、今日はもう終わり。 (のつもりだったが、夜に書き足し。)


昨日思ったほど見通しはよくない。 単純な driven lattice gas でいい加減な低次の見積もりをしても、非平衡性の効果は見えないか。 正負の電荷をもった二種の粒子がいて、電場から逆向きの力を受けるというモデルなら、非平衡効果は露骨に見える。 神秘性はないが、とっかかりにはなるか・・
夏の終わり、ということで、近所の子供たち+かつて近所にいて引っ越した子供たちで花火をしている。 川遊び好き+火遊びもまあまあ好きなおじさんとしても、少し顔を出す。

そこで、娘より、新たな「日々の雑感」読者情報: 嘘か誠か冗談か、去年までご近所にいた○○ちゃんも、時々これを覗いてくれているという。 ど、どうも。

○○ちゃんは娘より若い中学一年だから、モー娘。的にいっても最年少メンバー的年齢 どう考えても最年少読者であろう。 (もっと若い人がいらっしゃったら、ご連絡ください。)

別に、若者が読んで害になるようなことは書いていないつもりだけれど、でも、あんまり面白くないよね・・


以前に(8/21)話題にした
理論物理学者の 100 パーセントは川の流れを変える遊びが好き

実験物理学者の 100 パーセントは焚き火が好き

という統計調査だが、その後、思わぬ波紋を呼び、広がりを見せている。

そもそも、ぼく自身、焚き火は嫌いではなく、特に実家にいた頃は、庭で集めた葉っぱや芝を燃やしたりして火を見つめて瞑想にふけって時間を過ごしたものだ。 芝が湿っていたりすると、一筋縄では萌えない、じゃない、燃えない(注:今、娘が多用している自宅の iMac で打っているので、こんな風に変換されるのである。さすがに大学の Mac では「萌え」は出てこない(と思う))ので、色々と通気に工夫したりと、経験と腕が必要になる。 ぼくも、それなりに熟練していたと思うのだが、しかし、父親には圧倒的にかなわなかった。 ぼくが燃やせないようなものでも父は燃やしてみせたし、さらには、自分でドラム缶に穴をあけて火燃し用の炉を作ったりするほど火燃しに情熱をもやす人なのである。

で、ぼくの父は実験物理学者である。

また、夏休みなどに、弟の一家とぼくの一家でいっしょになってバーベキューをやるとき、計画を立てて火をおこすのは、弟の仕事である。 好きだし、文句なく、うまい。 ぼくは、主として、子供といっしょに食料を運んだりする。

で、ぼくの弟はかつて実験物理を専攻し、今は企業の研究所にいる。

さいごになるが、十数年連れ添ったぼくの妻は、「私は川の流れを変える遊びはそれほど好きではない」と夫を冷たく突き放す。 「焚き火の方がずっとおもしろい」と公言する彼女も、また、かつて実験物理を専攻していたのであった。

実は、両方好きだ、という人もいる。 先日メールをくださった M さんである。

大学院時代に、理論物理を専攻していた M さんは、グループの集まりで焚き火をしたとき、彼は目を輝かせて火の世話を楽しんでいたのに、他のメンバーは火に関心を示さなかったのを不思議に思ったそうだ。 それがきっかけで、というわけではないが、川の流れ遊びと焚き火の両方の喜びを知る M さんは、その後、クロスオーバーして、生物関係の実験をてがけているそうだ。

というわけで、ぼくと H さん(夫)のお気楽発言から生まれた

理論物理学者の 100 パーセントは川の流れを変える遊びが好き

実験物理学者の 100 パーセントは焚き火が好き

という経験則は、(両方をてがけた人の場合も含めて)着実に検証されつつあるのであった!

○○ちゃんのお父さんは、どうか、聞いてみてね。


花火から戻って、ソファーで考える。 ええと、難しいモデルを扱う前に、なるべく自明なところから。 自由な格子気体に電場をかけて driven lattice gas みたいにしたら? 以下三行、10時から二時間ほど書いてあったことは完璧に嘘でした。 何もでません、もちろん。
9/3/2001(月)

慢性的な肩こり。 今日は、さらに、なぜかエネルギー不足。

家で佐々さんのエントロピー生成最小原理についてのノートを検討し、疲れて、ソファで寝る。 寝ていると、いろいろなことについて、少し手を動かせばいい結果が出るぞという気が無性にするのだが、起きると、集中がとぎれる。 いかんですな。 早寝して回復せねば。


おっと。

夏休みの宿題を一つ完全に失念していたことを事務からのメールで知る。

「忘れました。立っています。」というわけにもいかず、あわてて作業し、自ら教務課に配達。


以下、変な色の部分は、やや趣味的ですので、同時代の少女漫画など知らぬという、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。

先月の「雑感」(8/24)で、SST 論文についての長い感想を述べた文章の末尾で、家族に出されていた(上のとはもちろん別の)「宿題」について言及した。 それを書いたときは、よもやこれに反応する人がいるとは思わなかったのだが、しかし、反応した人はいた。 しかも、意外に身近なところ(佐々さん「日々の研究」9/2)に。

ううむ。 非平衡物理は言うに及ばず、このジャンルでもぼくの遙か先を行っていたとは、佐々さん恐るべし。 がんばって、今夜は フルバの二巻を読むぞ 佐々さんの書いた測度の表式をあからさまに非平衡パラメターで展開し、時間発展の作用を計算してみようかな。


○○大学理工学部物理学科二年生の S 君からのお便り。
私事ですが、先日友人たちとバーベキューをしに行きました。火をおこすのに夢中になりました。 あと川の流れも変えようと試みましたが、人間一人の力は自然の力にはかなわないと実感しました。
時間がないので、一言だけアドバイス。
川を選びなさい

9/4/2001(火)

けっきょく、昨夜は、家族からの課題である「フルーツバスケット」も「ハレグゥ(←おもしろいよね。また、アニメの出来が素晴らしい。日本アニメ円熟の境地(←笑うところ)といえよう)」も読まず、また、エントロピー生成最小から決まる測度についての計算もせず、ビールも飲まず、早めに寝床に入ったけれど、眠れなかったので、確率過程の時空間での展開の形式について、前から考えればできると思っていたことを整理整頓。 目覚める寸前に見ていた夢のなかでも、なにやら遷移確率を設定していたので、一晩中確率過程で遊んでいたのかも。 でも、ほんとに、整理されているみたいなので、今、無難な結果を書き出し中。


さて、九月に入ると、これまで閑散としていた大学のキャンパスにもどんどん学生さんたちが戻ってくる。 中央の事務のある建物まで少し歩くだけの間にも、何か小道具を作っている人たちの作業するざわめきとか、そこいらで踊っている人たちがならしているビートのきいた(←なんか表現がかっこわるい)音楽とか、女の子たちの嬌声(←これってセクハラ発言になるのかな?)とか、ブラスのグループの和音とか、が混然と入り交じって聞こえてきて、まったくもって、神聖なる学問の場 ディズニーランドとかにいる気分にさせてくれるのであった。

物理の学生さんたちも戻ってきたようで、前期試験の答案を受け取りにやってくる人たちもちらほらいる。 答案を返してもらった学生さんたちは、それぞれの結果に、悲喜こもごもの反応を示しながら思い思いにぼくの部屋を後にしていました。 (NHK ニュース風)


昨日も、そんなわけで、何人かの皆さんが答案を受け取りにぼくの部屋を訪れた。

その中に、三年生の△△さんもいた。 ちゃんと答案を受け取り「じゃ、これからも、がんばってね」というぼくの言葉に送られて部屋を出ようとした彼女だったが、どうしたわけか、ドアの手前で意を決したように立ち止まった。 そして、こちらを振り返ると、

「せ、先生・・」
と改まってぼくに話しかけた。 (お父様お母様へ:中学一年生の女の子が読んでもなんの問題もない内容であることを事前にお約束しておきます。)

なんか言い忘れたのかな?

「あの、K 君のことなんですが・・」
ふむふむ。K 君ならよく知ってるぞ。 何日か前に答案取りに来たし。 それに、彼は、過去の「雑感」にも、なかなかいい質問をしにきたということで登場しているのだ(1/24)。
「K 君が、先生に×××××××××××てほしいって言ってるんですよ。」
ほお。 (注:しつこいですが、アブナイ内容ではありません。)

さて、△△さんが去ってしばらくして、今度は、やはり三年生の◇◇君が答案を受け取りに来た。 彼も、ひとしきり話したあと、

「先生、あの、K が×××××××××××」
と、同じ願いを伝える。 そして、さらに
「先生、K は、ほんとに頼り甲斐のあるいい奴なんですよ。 俺が三年に進級できたのだって、あいつのお陰みたいな物で・・」
と厚い友情にかられ、友人たる K 君の願いをかなえるべく、熱弁をふるう◇◇君であった。

わかりました。

K 君、

君が、物理に対して猛烈に気合いを入れていることは、前からよく知っていました。 加えて、君がよい友人たちにめぐまれ、信頼されていることも、今回、痛感しました。 その情熱をこれからも維持して、クラスをリードしていってほしいしと願います。 また、大学時代の友人というのは、何よりも貴重なものです。 これまで育んできた友情と信頼を、ますます深めて欲しいと願っています。

しかし、ひとつだけ、些細な感想を述べさせてもらえれば、

せっかくの友人たちなのですから、彼らの助けを借りるのは、もっと、なにか、人生にとって大切な局面まで待てばよかったのではないでしょうか?

「(わざわざ)柔道着を着て試験答案を取りに行ったことを『雑感』に書いてほしい」などという願いをぼくに伝えるためではなく・・

9/5/2001(水)

朝から夕方まで、オフィスにこもって、雑用のメールを書いたりする以外は、ほとんどずっと正負電荷の driven lattice gas model の展開について考えていた。 いろいろなアイディアを使っていろいろ考えたから能率のいい一日だったともいえるけれど、けっきょく、書き殴りばかりたまって、なにも整理されていないから能率が悪かったともいえる。 物理としては大した話ではない、「やらせ」寸前のモデルなのだけれど、ともかく信頼できる閉じた結果がほしいので、やる。 時空間での定常分布を厳密な展開で評価できる(物理的にはほぼ自明。粒子の確率的生成消滅を許した時点で、はるかに根性のないモデルに成り下がっているから。これによって物理が大きく変わっていたとしたら苦しいなあ。不安)ことを押さえるため、懐かしいクラスター展開の復習。 収束証明など、大丈夫そうなので、再び有限の項の評価。 何度も何度も何度も間違える。 やれやれ。 後は、落ち着いて机に向かい、記号を整理し、最初からきちんと書いていけばいいだけのはずなのだが。 (それとも、まだ間違えてるかな?) そうなると、なんか落ち着かない。 がさがさと別の事を考え始める。 いかんな。 まず机の整理をした方がいいかも。


さて、全国の読者の話題をよんだ(かどうかは知らないが、少なくとも、うちの子供たちには大いに受けていた)昨日の K 君だが、一昨日、△△さんに聞いたところでは、彼は、試験を受け取りに来る前から、「柔道着姿で行けば、『雑感』に載せてもらえるに違いない」と皆に話していたそうである。 計画的奇行であった。 で、ぼくのところに、もう一人の柔道着男といっしょに現れ、「気合いを見せようと思って」とか調子のいいことを言っていたわけだが、それだけで「雑感」に取りあげられようとは考えが甘いぞ。K 君。 柔道着では、せいぜいが突飛系のオチ(「でも、なんで柔道着なんだよ」とかね)になるくらいで、ネタにはならないのだよ。

加えて、アメリカ在住の学習院大物理学科+柔道部の大先輩(←ぼくと同世代の人だから、やっぱ大先輩なんだろうな・・) F さんからも、彼の時代には柔道着のまま理学部近辺をうろつくなどという不作法な事はしなかった、とのメールをいただいてしまった。 柔道部的にも考えが甘かったようだぞ。K 君。

しかし、考えてみると、前(1/24)に登場したときは、立派な物理ネタで、しかも

K 君というのは、もちろん Kelvin 君である。
という、超もったいないオチ(ミニ解説:Kelvin 卿は経験温度の使用を徹底的に拒否し、絶対温度を発展させた、という科学史上の事実を踏まえた高級なオチなのですよ)までつけてもらったのに、今回は不発柔道着ネタで登場という、ギャップの大きさは好きですね。 個人的には。

二学期も、その調子で、 がんばってください。(K 君だけじゃなくて、みんなもね。(あ、ぼくもか。)


9/6/2001(木)

昨日、夜中にビールを飲みつつ計算していて、ようやく粒子がランダムに跳んだ効果を systematic に足しあげるお利口な計算法に気付いた。 実は、夕方くらいに、ホワイトボードの前あたりに移動して(←自分の部屋にこもって仕事していても、悩むとぶつぶつ言いながら部屋のなかを移動するのです)悩んでいるときに気付いた時間反転の非対称性をそのまま使うだけだったのだが。 というわけで、ホッピングの 4 次くらいまでは楽に計算できるだろうし、一般の次数の項のおおまかな評価もできるにちがいない。 でも、今の問題(正負の電荷のある粒子の driven gas、ただし、粒子の生成消滅のある「グランドカノニカル」版)では、二次まで見れば、非平衡効果はみえる。 (要するに、一つの粒子がさまよっていたのの、すぐ側にもう一つの粒子が生成され、二回ホップする間に両者が出会う、というような効果だけを見ているのだ。 なんか、情けないが、これで定常状態の特徴はある程度みえるのだ。 (ぼくが間違っていなければ。)) おもしろいことに、粒子が一種類しかない通常の driven lattice gas では、二粒子のホッピングを何次まで取り入れても、非平衡効果はあからさまには見えないことが示せる。 この場合、少なくとも三つ以上の粒子の絡み合いを調べなくては、非平衡定常状態の性質は見えてこない、ということか。 本当なら、(この方がずっと)おもしろい。


なんか、茶色ばかりなので、何か違う話題を。

透君の物理への言及(佐々さん「日々の研究」9/2)で思い出したのだが、セーラームーンの原作の設定では、セーラープルート(←セーラー戦士のなかでは、一番好きです)は、大学一年生(にしては、妙に大人っぽいけど)で、しかも、なんと物理学科に在籍しているであった。 おまけに、どういうわけか、一年生なのにある教授にくっついていて、研究室に出入りしているのだ。 「あ、あの教授、この間フィジカルレビューレターズに論文出てたぜ」などという名もなき一般学生の台詞までも出てくるからちょっとすごい。 (どうすごいかと突っ込まれると説明に困るのではあるが。)


しまった。 普通の色の部分がほとんどなかった。

ま、そういう日もあらあな。


9/7/2001(金)

昨夜もビールを飲みつつ、計算法の整理。 非常に能率化して、これで、(モデルがちゃちなことや、しょせん、二粒子のやりとりしか見ていない範囲である、という根本的な不満を除けば)ほとんど不満のない解析ができそう。

それを受けて、今日はずっとこもって計算。 午前中はぐちゃぐちゃとやるだけで結果が整理されない。 (あ、それに教務の用事もやっていたんだ。今は夜の8時過ぎだけど、遠い昔のような気がする。) 重要なのは机の整理よりも、真新しい計算用紙を用意することだった。 前に計算して間違えた横に、ぐちゃぐちゃ書いていたのでは駄目だね。明らかに。

というわけで、ついに、午後は新しい紙を使って快調にずっと計算。 直感的にこうあるべしと見ている結果が、きちんと出てくるので、快感。 大した量の計算ではないが、こうやって、シャーペンと紙の束を使って、手作りのおもちゃを動かすのは大好き。 こういうささやかな喜びを味わうのは、久しぶりだなあ。

けっきょく、有限次元のモデル(正負の電荷をもった driven lattice gas、グランドカノニカル版)については、exp(βμ) について二次までとり、さらに ξ = (粒子の寿命)/(ホッピングの待ち時間)について展開。 ξについての一般の次数を形式的に書くことができるが、面倒。 さしあたって、ξの二次までを計算。 定常状態(←ホッピングが実質二回で、定常かねえ??)での統計的重みについてのきれいな結果。 FIO の符号も SST の予言と一致。

少し疲れたので、お気楽に、安易な無限次元の極限の計算。 もちろんξの級数は足せて、思ったよりずっときれいな形になった。 exp(βμ) について二次の範囲で正確に計算したわけだが、実は、無限次元では二粒子以上の絡み合いは効かないはずだから、これで、一つの平均場的な答になっていると思われる。 (詳細はつめていない。)

(以上、自己診断による信頼度70パーセント)


通常の driven lattice gas についての昨日の悩みは、佐々日記(←今思ったけど、土佐日記みたいだね)とも絶妙に呼応。 (「日々の研究」9/6

安易に非平衡秩序がみえる荷電粒子系とちがって、 driven lattice gas の非平衡秩序は神秘。 ぼくには、手でやっても、(今のところ)何も見えないので、こういうときは数値実験の結果を見たくなるものだ。 期待しています。


ひゃあ。 オチもネタも何にもないけれど、もう食事の時間だから帰らないといけないのだ。 ごめん。
9/11/2001(火)

すでに台風は東京を去った。 これ以上の被害が出ないことを祈るばかり。

さて、台風のたびに天気予報につっこみを入れるのも、どうも不謹慎だし、それ以上に、なんか科学馬鹿みたいでいやだなと思うのだけど、まるでつっこんでくれと言わんばかりのことを言うから・・

台風が、上陸する少し前にやたら速度を落としたことに関連し、なぜ台風が減速したかの説明があった。 どうやら、台風を駆動している風の種類がかわり、台風が大きく向きをかえるときに速度が大幅に落ちたらしい。 昨日やっていた説明では、

自動車でもカーブするとき速度が落ちますね。 あれと同じ原理です。
ということだったが、どうも
自動車がコーナーで減速するのは手前でブレーキ踏んでるからだじょ〜
という教習第二段階の人でもできるつっこみをした人はいないらしく、今日も、同じ説明をしていた。 (天気予報の人はいつも人に運転してもらってるのかな?)

まじめな話、摩擦も駆動力もなければ、自動車の場合は(水平な)コーナーを回ってもスピードは落ちない。 現実の自動車では、つねにエンジンをまわしているから話はややこしいけれど、摩擦は相当小さいので、何も考えずに無理矢理コーナーを曲がれば(危険だけど)ほとんど減速しないと思う。

いずれにせよ、空気の流れの渦である台風が、まわりの空気の流れの影響を受けておこなう運動を、エンジンを積んで人が運転する自動車の運動にたとえて理解させようというのは、いかんですなあ。 人を馬鹿にしている。

こんだけ説明がいい加減だと、

台風は進路を大きく変える際に必ず減速するものなのか?
というより重要で面白い問を問い忘れそうになったりしてしまうではないか。
週末は charged driven gas の自由エネルギーが非平衡駆動力 F について上に凸になるかどうかを検討。 そうでないと SST が(ストレートには)出てこないことになるので、こりは勝負どころ。

ξの二次までの展開結果からだした自由エネルギーは(符号のミスさえなければ)初等計算により凸と知れる。 ふう。

無限次元極限で、ξの無限次まで足した結果を見ると、ちっとも凸っぽく見えない。 二階微分は到底、手動ではできない。 最初、出先で計算していたので、F が大きいところとゼロの近辺での凸性のみを確認。 一般の F では凸にはならに、という悪い予感。 家に戻って、めんどうな微分を MATHEMATICA にやらせて、さらに //Simplify のおまじないをかければ、あなうれしや、すべて正係数の項の和になった。 計算の内容をみると、ここで凸性が保証される理由はないようだから、これはよい徴候。

一般の次元で、ξの級数を形式的に足しあげて(って、しょせん、二粒子問題なので、できて当然)凸性を一般に示すことを延々と模索するが、敗退。


昨晩+今日の午前中は、 佐々さんが書いた基研研究会の研究会報告の原稿を手直し。 瞬間で終わるはずだったのだが・・

ま、SST が大成した場合、これは初期のわれわれの心境を伝える貴重な歴史的資料になるのだからして、少し時間をかけても、いいのであーる。


9/12/2001(水)

昨夜、めずらしく十時のニュースの冒頭を見ると、燃え上がる WTC のビルの映像。

アナウンサーと現地特派員の情報のないやりとりが続くなか、視界の右側に飛行機が見える。 機影がビル陰に消えたと思ったとたん、反対側に巨大な炎の爆発。

近くを飛んでいた飛行機に火の粉が飛んで二次災害? まさか?

裏側のビルが燃え始めていると家族がいう。 二機が偶然にビルに衝突することは、ほぼあり得ないから、これはテロ? テレビからは何も情報が出てこない間に、想像ばかりが駆けめぐる。


炎と煙の圧倒的な質感と存在感。 映画などはしょせん作り物ということを強く実感させてくれる。

それが、また、馴染みのある街の光景であるだけに、絶望感と恐怖が増す。 朝の臨時ニュースで燃える神戸の街並みを見た日のどうしようもないショックを思い出す。

子供たちもこれが未曾有の大惨事だとわかる年齢である。 「君たちが大人になっても、この事件のことは語り継がれるだろう。 それほどに、悲惨なことだ」と言いつつも、ともかく寝かせる。 アメリカにいる知り合いたちの顔を思い浮かべつつ、深夜遅くまで妻とテレビを見守る。 (なんか知らないが、いつの間にか頭が英語モードになって、 Hey, this is awful. Is Annie ok? とかぶつぶつ言っている。)


ぼくの叔母の勤め先は Washington D. C. の中心部にある。 飛行機が落ちたと報道された(誤報であったが)Maryland 州には、祖父母、叔父・叔母、従姉妹が暮らしている。 事故に巻き込まれる確率など、ごく小さなものだと思いつつも、つい気がかりで、深夜にコンピューターを起動し、久々のメールを書く。

事件が進行し、情報が集まるにつれ、Newark 空港(←Princeton 時代に使った)、Pennsylvania 州(←子供の頃住んでいた)、など、さらに馴染みの地名。


「人の力ではどうしようもない災厄」という言葉が浮かびそうになるが、これが、まさに人の力で引き起こされた事だという恐怖。 少しでも被害が小さくてすむことを、そして、人類がもう少しまともになってくれることを(何にだか知らないが)祈る。
クラスター展開による確率過程の定常測度の構成。 やればできると思っていた初歩編の規格化のところで思わず混乱。 思わぬ時間のロス。 まだ混乱中。
夜の東京の街を車で走る。

平和に立ち並ぶビルの姿に、頭にこびりついたニューヨークの映像がかぶり、不気味な非現実感。


9/13/2001(木)

当然ながら、アメリカの親戚はみな無事との返事。

ただし会議のため California にいた叔父はそこで足止め。 次の会議のある New Mexico には、飛行機が飛ばないため、車で向かうという。


クラスター展開での規格化係数の問題は、午前中に家で計算して、ようやく納得。

大ざっぱにあたりをつける段階を過ぎて、係数の正確な値を問題にするレベルになったら、細かいところを省略せず、真面目に計算しなければ --- と、学生に諭すようなことを今さら自分に言い聞かせる。

さて、学会(忘れていた)に行かないとはいえ、数理物理 2001 の準備ができていないのは、困った。

自分を追い込むべく、講義のプランを発表。

  1. 熱力学・統計力学再入門
  2. 量子論から第二法則へ
  3. 非平衡定常状態への構成的アプローチ
3 の後半は、今やっている話。 前にどっかで話したような内容だけだと、トークに緊張感がでないしね。 (寸前になって中身を作っているから、ちょっと緊張感ありすぎ。)
お。

届いたばかりの物理学会誌 9 月号に、「座談会『物理学の明日』」(3/53/6 を参照)が掲載されているではないか。

原稿段階で何度か読んだ物をまたゆっくり読む暇もないし、やることもいっぱいあるから、そのうち時間ができたらコメントでも書こう・・・

と悠長に構えていたが、ページをめくって愕然とした。 なんとしても早急にコメントせねば。

緊急アピール: 651 ページの田崎の写真は、実物とはかなり異なっております。
少なくとも、ぼくは、いつも、こんな風に細い三日月を横にした型の目をして白目ばっかしの横目になった、なんかちび丸子ちゃんにでてくるキャラみたいな顔をしているわけではありませぬぞ(と本人は思っている)。 座談会に遅刻して行ったばちか? (お。よく見ると、米谷さんは寝てるし、金子さんは妙に解像度悪いぞ。 仲良くしよう。)
9/15/2001(土)

今回のテロ事件が、いやあああな時代の象徴的な幕開けとして末永く記憶される、なんてことだけにはなってほしくない。


ところで、物理学会誌座談会「物理学の明日」。

呼ばれたときにも思ったけれど、たしかに、メンバーが(よって、必然的に、座談の内容も)偏っています。 ほとんど理論家だし。

はじめから、物理の分野を網羅しよう、というような趣旨ではなかったのだろうと思います。

座談会当日にも、企画した細谷さんが、多くの人に、この座談会の記録に文句をつけたり批判してもらったりすることで、様々な意見がでればそれでよいのだ、といった感じのことをおっしゃっていた気がします。 ちょっと、記憶曖昧につき不正確ですが。 で、ぼくが、

なるほど。われわれは叩かれ台ですね。
と答えて複雑な笑いをとったことについては記憶明瞭。 (注:「叩かれ台」は、ぼくのオリジナルではない。)

物理学会誌が手近にないという読者もいらっしゃるでしょうから(例:紙魚の写真にリンクしたとき、「ぎゃー!!!クリックするんじゃなかった。」というメールをくださった主婦の O さん)、ぼくが読んでほしいと思う部分を、手短に抜粋しましょう。

座談会の最後のぼくと金子さんの発言。

田崎 途中で何度か、物理は大きくなりすぎた、細分化している、些末なところをやり過ぎだというような話が出ましたが、ひょっとすると、われわれは真剣に危機感を抱くべきなのかもしれないと思います。さっき、物理というのは世界と真剣に向き合って本気で理解しようとする学問のはずだと言いましたが、これだけ細分化してくると職人的に重箱の隅をつつくような仕事が増えてくる。学部の頃は物理にワクワクしていても、大学院くらいであきらめてさっさと悪い意味での大人になってしまう。その一部がプロになって残っていて、自分と同じような夢のない職人を育てる。そういうことを続けていくと、本当に壊死をおこして、普遍性もへったくれもない、ただの堕落した学問分野になってしまいます。

金子 さっき高校生って言ってましたが、別に一般高校生じゃなくて、高校生だった自分に今自分がやっていることを、正直に話して恥じることがないかという問題ですね。 それが最低限のモラルで、それを失っては絶対いけない。

このあとに、司会の結びの一言があって、おわり、という記事になっています。

じつは、ぼくはこういう発言はこの前にもしているのですが、けっきょく、最終バージョンでは削られてしまいました。(分量に限りがあるので、しかたがない。) せっかくですので、ぼくの話した部分だけここに公開してしまいましょう。

他の人 略

田崎 そうやって「大人」になっちゃだめなんですよ。

他の人 略

田崎 初心を失ったらだめですよ。学生のときにはワクワクしていても、研究室に入る頃には職人主義にならされて、自分はこの程度だからワクワクは捨てて何も夢見ず職人をやろう。そういう人ばかりになったら、物理は終わり。

金子さんの発言にしろ、ぼくの(一連の)発言にしろ、この手の座談会にありがちな、
誰もが無難に「うんうん」とうなづきながら読める
タイプの甘ったるい物言いとは一線を画していると思っていますが、どうでしょう?

こういった点についてもっと書こうとも思うのですが、取りあえず今は時間切れ。 ここまでで更新しておこう。


9/16/2001(日)

ふうむ。Count Down TV の投票「無人島に持っていきたいアルバム一枚」(ま、再生装置はあるってことだろうね)。

やはり、グールドの弾いたゴールドベルグ変奏曲、と答えよう。 何年も何年も日々聞いていれば、ついには、絡み合う声部を聴き分けることができるようになるかもしれない。 問題は、デビューアルバムの方にするか、晩年のデジタル録音にするかだよな・・・

なぬ。モー娘。のベスト。

そりも、また一つの正解かも知れぬ。


無人島に本を一冊、というとまた難しいけど、妙にリアリティがあって真面目に考えてしまうぞ。

ぼくの母の友人は、絶対にジョイスのユリシーズだと日頃から語っていたそうだ。 たしかに、ぼくは二度読んだけど(もちろん翻訳で、念のため)、一回目はまったく面白くなくスノビズムだけを頼りにがまんして読み、二回目はなかなか愉快痛快に面白かった気がする(でも、parallax 以外は忘れた)ので、よい候補かも。 でも、やっぱ読みかけだし、五感をより楽しませてくれるという意味で、プルースト(もち翻訳ですけど)にしよう。 (一つの小説で、何巻もあるのは違反、といわれると困るなあ。 個人全集でよければ漱石もよい。)

無人島に行っても、物理や数学は趣味で続けるだろうから、そっち関連の本を持っていくという可能性もある。 でも、一冊に絞ろうとすると、必ず書いてないこととかがあって他の文献を見たくなるからかえってフラストレートするような気がする。 (紙魚のいない島なら数学辞典かな?)

それに、無人島に行っても、自然という書物は、ぼくの眼前に広げられているはずだからね、などと無責任に言ってみましょう。


数理物理 2001 の準備がいよいよ危機なので、こんなことを書いている場合ではなかった。

昨日の「職人」問題についても、ちょっと待ってね。


9/17/2001(月)

ううう。

またしても自分を追い込んでしまった。 苦しいわい。

金曜は今学期最初の講義とゼミがあり、いつもどおりリポ D に頼って、生き延びる予定の日なのだ。 で、土曜はばてて余分に寝るべきなのだが、数理物理 2001 は土曜から始まる。 大丈夫かのお。 リポD よりも強いクスリに手をだすか・・・

ともかく、そういう日程だから、数理物理の講演の準備は木曜のうちに済ませておく必要がある。 個人的にも忙しくなってしまったりして、なんとも厳しい。

もちろん、せっかくのチャンスなので、全力で準備せねば、というわけで、朝は早起き、夜は夜なべで、眠い、ばてた。 こんなの書いてないで寝よう。

ともかく、日付が変わる寸前に、一日目の熱力学再入門を書き終わった。 すべて書き下ろし、というだけでなく、前からやってみようと思っていた、断熱系をベースにした Lieb-Yngvason の普及版のような熱力学の定式化。 漠然とした姿は前から見ていたが、今回(って、一昨日と昨日だけどさ)はじめて細部を真面目に考えた初公開版。 これは、きれいだよ。 一度、習っている人には、ぼくの本の定式化よりも取っつきやすいだろうなあ。(初心者には苦しいと思う。) 統計力学の本の冒頭に使う、というのもよいアイディアじゃ。

一日目最後の4分の1くらいの統計力学のところは、ibis の OHP を使い回せば、ともかく、なんとかなるか。

うぐ。 眠くてアクビをしたら涙が出て、目にしみて辛い。

めたぼろな文章だけど、このまま公開して、帰って寝よ。

風呂上がりにビール飲むと、また活性化して、物理をはじめて夜更かしするから、危険なんだよなあ。 でも、疲れてると飲みたいし。

悩む。


9/18/2001(火)

けっきょく、夜はビールを飲んだし、さらに、今朝も早起きして準備をしています。

が、疲労もたまっていて、能率悪し。困ったね。


アメリカの友人経由で、パキスタンの物理学者が今回の惨劇と今の状況について書いた文章を受け取りました。

「両方の世界」に精通した人の目から書かれていて、 (ぼくが思うに)きわめて中立な視点から、冷静に、しかし強い危機感をもって、状況を分析しています。 そして、アフガニスタンの民衆を苦しめる報復が決して解決にならないこと、真の解決は、米国とイスラム世界ともっと健全な関係を築くことであることを、主張しています。

なるべく多くの人に見ていただきたいと思い、いましがたご本人の許可をもらって、web で公開できるようにしました。

BLACK TUESDAY: THE VIEW FROM ISLAMABAD
by Pervez Hoodbhoy
どうか、ご覧ください。 また、上のページへのリンクや、ページのご紹介は、もちろん、お断りなくどんどんやってください。

読みやすい英語ですが、やはり、日本語訳はあった方がいいですね。

・・・・

ぼくは、今は、無理です。(どなたか・・・?)


と、書いたところ、なんと日付も改まらないうちに、東北大物理の廣田さんが、BLACK TUESDAY の全訳をおくって下さいました。 なんという素早さ。

あらためて、

ありがとうございました。
今、ぼくが微修正を加えていますので(講演の準備はどうなったよ?)、明日の午前中には、翻訳の暫定公開版(←改訂する気らしいねえ)を公開する予定です。 しばし、お待ちを。
9/19/2001(水)

ふう。眠い。

ともかく暫定版を公開。 じっくり読む価値があると思います。

暗黒の火曜日:イスラマバードから
by Pervez Hoodbhoy
廣田和馬、田崎晴明訳
来週になって時間ができたら、改訂訳を作るつもりでいます。

今、時間がないのであわてて書きますが、これを日本の新聞に掲載してもらうというのはいい考えではないでしょうか?

ぼくも、夕方になって時間ができたら知り合い(二人しかいない)にコンタクトしてみますが、これを読まれた方で、共感してくださって、なおかつ新聞社にパイプのある方がいらっしゃったら、話をもちかけていただけませんか? お願いします。


9/20/2001(木)

「雑感」をかく余裕がないので、重要な連絡だけ。

「暗黒の火曜日」を新聞へ、とみなさまに呼びかけ、実際に(少なくとも)一名の方には紹介の労をとっていただいているのですが、私の知人を通じて、ある新聞に要約を掲載するという方向で話が進み始めました。 まだ掲載が決定したわけではありませんが、もし新聞社へ働きかけをおこなってくださっている方がいらっしゃったら、申し訳ありませんが、いったん話を止めて、様子をみてくださるようお願いします。

わがままを申し上げますが、どうかご理解ください。


9/21/2001(金)

いくつか書きかけましたが、どうも空気が制御できなくなったので、やめます。

Pervez Hoodbhoy 氏の周辺が気がかり。


9/22/2001(土)

数理物理 2001 の当日です。

期間中も、講演会が終わった後は、次の講演の準備、最終日の後にある会議の下準備、などをしながら過ごすハードな日々になりますので、おそらくここには書かないでしょう。 もし書いていたら、逃避してると思ってやってください。 (今も。)


9/23/2001(日)

あー。ねぶい。

明日の OHP を書いてますが、もう、何日も、休憩って事をしてない気がする。 (ただでも準備を先延ばしにして新しい結果をためてたところに、例のものが舞い込んで、研究会の寸前にばたばたと翻訳だの、新聞用の要約だのをやってたからね。おまけに個人的にも忙しいと北門だ、じゃなくて、来たもんだ。)

「雑感」も随分書いてないなあ。

って、昨日書いてたんだ。 ははははは。 (←こういうときって何でもおかしいんだよね。 ご容赦ください。)


9/26/2001(水)

ついに逃避する余裕もなくなった日々でした。

昨日、まさに自転車操業的に三つの講義を行ない全ての講義と発表に全力で参加した四日間の数理物理 2001 が無事終了。 なかなか得るところはあったし、ぼくもがんばったつもりだが、そういう感想を述べる間もなく、夜の会議。 十時頃だったか、会議がおわり、精も魂も尽き果てて部屋に戻ると、朝日新聞からのメール。 Pervez の論考は、さらに半分(もとの四分の一)に縮める必要があるらしい。 むこうで作ってきた案もあるが、大幅に手を入れる必要がある。 最終の締め切りは翌日(26 日だから、今日)の夕方の六時。 十日間以上、限界をこえた無茶な暮らしをしていてエネルギーはほとんどないが、しかし、原理的には、作業は可能。

生かさぬよう、殺さぬよう《否定の連続》(←ATOK うるさすぎ。慣用表現くらい知っとけ)
という言葉が頭をよぎる。

共訳者の廣田さんに原稿を送って、帰宅。 何もできないかと思ったが、風呂から出てやけでビールを飲むと復活し、原稿に赤を入れまくりながら、廣田さんに深夜のメール。

翌朝(つまり今朝)、完全に疲労が蓄積し、肩と首が病的に痛み、貧血気味。 各種のクスリ(←リポ D とかアリナミン A とかバッファリンであり、危ないものではない)を飲んで、大学に行ってメールを開くと、またしても靴屋とコビト現象! 廣田さんの深夜の作業が届いている。 ありがてえことだ。 おらもがんばらねばと、廣田さんをはじめ、何人かの友人たちにメールで判断を仰ぎつつ、原稿を修正。 いろいろやったが、ともかく、締め切り前の5時半には朝日新聞に原稿を送付。 その後、少しだけ電話で詳細を議論。 8時前には、きれいに組まれた紙面の見本が自宅の電話機にファックスされる。 そして、明朝には、(公称)八百万部が日本全国のお茶の間(←懐かしい表現)に配られるのだから、何たる素早さ。 物理学会誌の待ち時間と比べると、すごい比になるぞ。 (ぼくの熱力学の本と部数を比べてもすごい比になるけど。)

というわけで、27 日の朝日新聞の朝刊には、 Pervez の論考を本人の意思に基づいて四分の一に凝縮したものが掲載されます。 新聞の一般読者にとっては、きわめて堅い、堅すぎる論考であるのは確かです。 しかし、パキスタンの知識人が、深い思いを発信したわけですから、凝縮されて密度の濃いものになったのは必然と思っています。 受け入れる用意のある人に、彼のメッセージが届けば、お手伝いしたわれわれにとってはこの上のない喜びです。 加えて、もし、彼の文章が、世界を悲惨な戦争へと向かわせる動きを少しでも食い止める力になれば、それはもう至高の喜びというものです。

相変わらず肩が猛烈に痛く、ふらついているのですが、つい酔った勢いで書いています。

また時間ができたら、これに関連したことも書くでしょう。 ともかくお休みなさい。 (書いている間に日付が改まってしまったぞ。)


9/29/2001(土)

久保シンポジウム。

「理科大神楽坂校舎に行くのに神楽坂駅で降りてはいけない飯田橋まで行け」という貴重な情報を昨年の日記(10/5/2000)を見て確認。 日記をつけていて、はじめて実用的な役に立った。

とはいえ、飯田橋の地下鉄の出口がとんでもなく広範囲に及んでいることまでは知らなかったので、けっきょく、(ちょっとだけですが)迷う。 さまよった挙げ句、見慣れた路地をみつけて、ここだ、ここだ、と思ったら、看板が出ていて

成人映画三本立て
こんな理科大はいやだ。
講演のなかでは、秋光さんの話が圧巻。

いや、別に、立て続けのヒットで勢いに乗っている、とか、そういうのじゃなくて、もっと本質的な、科学者としての生命エネルギーみたいな感じ? とてもよい。

講演より抜粋

人間、ambitious 過ぎると不幸になるし、志が低すぎると馬鹿になりますからね
ぱちぱちぱち。 そのとおりです。

そして、不幸になるかならないか、ぎりぎりの線をこそ目指すべきなのであーる。

前者を恐れて、後者の道を行く人が多すぎます。 国内で「一流」とみなされている人たちがそうだから困るのだ。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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